■【I wanna be your GOD.】暴走■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオ |
クリエーター名 |
外村賊 |
オープニング |
人工島に辿り着いた魔王達が認めたのは、巨大な一つの黒い岩。そして岩に絡み付く透き通った蔦だった。蔦がまばゆい光を発し、あの光の柱を築いていた。
「これが、壊れたデギアスの力を補っているのか‥‥」
苦々しげに顔をしかめ、波早が唇を噛み締める。
その時、今までにない光が周囲に溢れかえった。
一つは神輝掌、一つは星の雫、一つは蛇呪縛。ネフィリムと魔皇が交錯した光。
そして後一つ。
神魔の力の交錯に感応するかの様に、デギアスの光が膨れ上がり、空へと駆け上ったのだ。
耳をつんざかんばかりの轟音を発して。
それは外から聞こえる、と言うよりも、内側から溢れかえるような感覚だった。心音なのか、それとも別の何かなのか。渦巻き、荒ぶる感情が、ともすれば自身を押し流してしまいそうだ。
――あの光だ、あの光が、自分を狂わせる――
直感的に判じはするものの、動けばそれまで、自分が予期せぬ破壊を引き起こすかもしれない。そんな予感がした。
しかし、彼らは動かざるをえないのだ。
「マルキスサマ‥‥ボクハ、コレヲ‥‥タオシ、デギアスヲ、カンセイ――」
呪縛を打ち破った平太が、不穏な動作でデギアスに近づく。デギアスに飲まれているのは一目瞭然だった。
オオオオオオ‥‥
空を滑空する二機のネフィリムが光につられるようにやってくる。
いつのまにか空は魔力に包まれ、紫色に光っていた。
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シナリオ傾向 |
戦闘 |
参加PC |
キツァ・カーマイン
黒江・開裡
高瀬・由真
不破・彩
八咫・ミサキ
武礼久・甲行
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【I wanna be your GOD.】暴走 |
生理的な恐怖、不安を掻き立てる、遠くから巨大な物が地を這い近づく、そんな音だった。
光が交錯したその瞬間、火山の噴火の如き音と感覚が、その場にいる者全てを包み込んだ。
「‥‥!!」
高瀬・由真(w3e454maoh)は息を飲み込んだ。漠然とだが、言い知れぬ不安を、白の業が感じ取っている。
「とにかく‥‥皆‥‥あれを、何とかしなきゃ‥‥!」
コアヴィークルで乗り付けた不破・彩(w3e650maoh)が、声を限りに叫ぶ。それぞれに、内部の暴走の衝動に驚き途惑う魔皇達は、その声で我に返り、光る蔦とデギアスを睨みつける。
平太のネフィリムはどこか繰り人形めいた異常な動きで、目の前を行き過ぎたコアヴィークルを探す。
(「気を抜けばこいつらと同じ穴の貉か‥‥ぞっとしないな」)
黒江・開裡(w3c896maoh)は内心苦笑して、真ショルダーキャノンを召喚すると、ネフィリムの死角に回りこむ逢魔・クレイメーア(w3c896ouma)に気付かせない為に、その正面から攻撃する。
「正直、こんな不愉快な場所には長居したくない。早々に決着をつける‥‥」
走りながら狙いを付ける開裡が砲撃を行ったのと、ネフィリムが彼に気付くのとは同時だった。見つけた瞬間ネフィリムはその掌に光を宿し、開裡に振り下ろした。
砲撃は振り下ろされる右肩に着弾したが、僅か勢いが緩まっただけで、ネフィリムは攻撃を止めない。
まるで攻撃する事のみしか頭に無いようだ。
咄嗟に距離を取ろうとするが、このままではその巨大な掌から逃れるのは絶望的だ。
「くっ‥‥!」
「開裡!」
デギアスへと向かっていた八咫・ミサキ(w3j046maoh)は、開裡の危機を悟るや、反射的に方向を転換し、ネフィリムに向かって速度を上げる。真グレートザンバーを召喚すると大きく振り上げる。
「貴様、何をする! 止め‥‥」
「駄目ェェェ!!」
「うぉらっ!!」
波早の言葉遮り、由真の叫びがミサキを追う。だが僅か先にミサキは真獣刃斬を放ってしまっていた。
真空の刃がネフィリムの手首に叩き込まれ、神輝掌は開裡の数メートル離れた草むらを穿った。起こった風圧にバランスを崩した身体を受身の要領で持ち直し、開裡はそのままクレイメーアに走り寄る。
「‥‥今だ!」
「魔なる者、その魂魄‥‥太古の誓約によりて我が招きに応じ、その血肉を魔の鎧と成せ。汝が名、其は『シュヴァルツリヒター』!」
好機を見て取った開裡の呼びかけに応じ、クレイメーアが殲騎を呼ぶ。
「‥‥っ‥‥ぐぅ!?」
ダークフォースを放った瞬間、ミサキは後頭部で何かがはじけた感覚を覚える。
『‥‥トキハナテ、オノレヲ‥‥』
気だるく、誘うような女の声。
内に響く轟音が、その瞬間明瞭な言葉となってミサキの神経を駆ける。
「何のつもりだ貴様!」
「触れるな!」
声を荒げた波早に、警告を与えるのがやっとだった。
「触れるな‥‥うっかり殺すかも知れん」
グレートザンバーを握り締める手がともすれば横薙ぎに振るわれそうになるのを必死で抑えつつ、ミサキはデギアスへと足を向ける。
アレを止めれば、こんな狂気は止まる。
齧り付いた理性がそう叫ぶのを聴きながら。
『‥‥トドメルナ、ヒトナラザルチカラ‥‥』
「‥‥五月蝿い。話しかけるな石ころがァ!!」
召喚された殲騎と共にやってきた衝動を、開裡は叫んでねじ伏せて真ジャンクブレイドを喚び出す。足元のミサキ、そしてデギアスから離す様、地を強く蹴り、そのまま体当たり気味に平太へ叩き込んだ。二機はその衝撃のまま、島の枯れ木をなぎ倒して倒れこむ。
「‥‥声が‥‥」
「耳を貸すな、石の戯言だ」
顔をしかめて頭を振るクレイメーアに開裡が声を掛ける。
上空に聞こえたネフィリムの近づく音に、ショルダーキャノンを構えるも、起き上がろうとした途端平太に蹴りを入れられ、再び地に倒れ伏す。
「こっちだよ!」
目標を定めきれぬ様子でフラフラと降りてくる二機のネフィリムの前を、DesmoSediciに搭乗した彩はわざと目立つように動く。
「よし、追ってきたぞ」
「このままデギアスにいる皆の所から、引き離すからね‥‥!」
逢魔・レヴァイン(w3e650ouma)に答え、彩はDesmoSediciを走らせる。
『‥‥ナニモカモ、コワセ‥‥』
(「ボクは仲間を守る‥‥暴走する破壊者になんてなってたまるか‥‥!」)
甘美な男の声が誘おうとする。彩は自分の思いを、心の中で呪文のように呟いて、声を聞かぬようにした。
『グオオオ!!』
ただ強烈なだけの、意味不明な思念をネフィリムが発して光輝弾を放つ。ギリギリで避けてDesmoSediciは水上まで移動すると、防御の構えを見せた。
最早蔦は、黒い巨岩をほとんど多い尽くしていた。
由真は締め付けるように取り巻く蔦を意識して、真戦いの角笛を吹き鳴らす。不可視の音の衝撃がびっしりと巻きつく蔦の隙に入り込み、震わせる。僅かに緩んだそれを、真ドラゴンスタッフの炎が焼き、逢魔・セナ(w3e454ouma)の逢魔の短剣が傷をつける。武礼久・甲行(w3j389maoh)と逢魔・ダイヤモンド(w3j389ouma)も正義の解体工事人のプライドに賭け、苦心惨憺して蔦を除去しようとしていた。
しかし魔法道具の一種である蔦は、由真達の予想以上に頑丈で、何度も攻撃を繰り返さなければならなかった。
由真は背後の殲騎の戦いをちらりと眺めやり、不安げに眉を顰める。炎に当てられたのと焦りとで、由真の頬に一筋の汗が流れる。
「もう少しだから、二人とも、頑張って‥‥」
「その、さっきは‥‥悪かったね」
ドラゴンヘッドスマッシャーで蔦を削りながら、キツァ・カーマイン(w3b147maoh)は、逢魔・カーディナル(w3b147ouma)にそっぽを向きながらではあるが、詫びを入れる。女性として扱われる事に不慣れなキツァは、石化が解けた瞬間にカーディナルの腕に抱かれていた事に、酷く驚いたのだ。少し時間を置いてみて、いきなり殴りつけた事はまりにも礼儀知らずだったと反省している。
「いや、いい」
発言したのはそれだけだった。いつもと変わりない、言葉足らずな返事。カーディナルにとっては彼女の無事が全てであって、心からそう答えた。
「ホントに‥‥」
続けようとしたキツァの言葉を遮ったのは、背後から近づく足音だった。咄嗟に魔皇殻を繰り出せる状態で振り返ると、それはミサキと波早であった。デギアスの影響でコアヴィークルの操縦も危うく、途中で乗り捨てたのだ。
「平気か」
カーディナルが尋ねると、ミサキは首をすくめて苦笑する。その手にはグレートザンバーが握り締められていた。
「どうも‥‥使ったモノの大きさによって‥‥来る力も‥‥違うみたいだな‥‥DEXは失敗だった」
「全くだ。この空気が分からん訳ではないだろう」
「仕方ないだろ‥‥その減らず口何とかしないと、不本意ながら斬るぞ、マジで」
言いあう間にも、波早は率先して蔦に組み付き、引き離そうとする。カーディナルも手を動かしながら尋ねた。
「その事だが‥‥。波早。十年前、何があった‥‥?」
波早は蔦をむしり続けている。
「辛い事があったことは、分かる。だが、お前の経験した事から、今の状況を好転する何かが見つかるかも知れん。それを教えて欲しい」
すぐには波早は答えなかった。しかししばらく待っていると、まるで他人事のような、淡々とした返事が返ってきた。
「天使が一人、先だってこっちに来ていた。それをここで迎え撃った。神魔の感情が暴走し、魔皇一人と多くの逢魔の犠牲によって天使を追い返し、デギアスを破壊した」
なるほど、見れば蔦の中から覗いた黒い石は、ひびが入ったり抉れたりしている。蔦はその補強のようにも見えた。
「この石の力はその時明らかになったのだ‥‥以後、誰も近づかせぬよう緘口令が敷かれてな‥‥」
デギアスの叫びの中、分かりやすいぐらい酷く、波早は感情をこらえていた。
『伏せろ!』
開裡が叫び、シュヴァルツリヒターが魔皇たちのすぐ背後に駆け込んできた。ほぼ同時に、ネフィリムの光破弾がその装甲に着弾する。
そこにいた者達は、後頭部が弾けるような頭痛と、ぐらりと地が揺らぐ錯覚に囚われる。シャイニングフォースの力に反応して、デギアスが不穏な叫びを上げるのだ。
『セナ‥‥波早‥‥!』
インカムからレヴァインの音割れした声が響く。
DesmoSediciがネフィリムの足をすくって、昆陽池に叩き落す。その様を見る暇もなく、襲い掛かってきたもう一体のネフィリムに応対する。
「く、キリがないな‥‥」
苦々しげに彩が呟く。無意識的にダークフォースの使用を恐れた彩は、二機のネフィリム相手に、デギアスの暴走を止めるまでの時間稼ぎとして防戦を貫いていた。
デギアスに飲まれたネフィリムは、目に付いた敵対する者を容赦なく攻撃してきた。デギアスの周囲から引き離す事には成功したが、無茶苦茶なまでの攻撃は確実に二機の殲騎の力を奪っていった。彩が向こうの動きを封じるべく行動しても、無理に動いて自らを壊してまでも、攻撃を止めないのだ。
水中に落としたネフィリムが、光破弾を放つ。それは襲い掛かってきたもう一体のネフィリムの腕ごとDesmoSedediciを穿つ。
「きゃあっ!?」
「彩、前‥‥」
レヴァインの助言に彩は殲騎を後退させる。そのすぐ側を、神輝掌が抜けていく。その間にレヴァインは清水の祈りでわずかに機体を回復させる。
「‥‥っ」
二度ほど使った力の為、レヴァインの判断力はほとんど失われかけている。無意識に彩の首まで伸びた手を引き戻し、レヴァインは言葉を振り絞った。
『回復を‥‥手伝ってくれ。俺だけでは‥‥!』
「回復に向かいます」
セナが由真の表情を窺う。由真は僅かの逡巡の後、頷いた。
「‥‥デギアスを破壊するわ。その間だけ持ちこたえられるように、お願い」
「この状況で殲騎の足元まで近づこうと言うのか?」
「足止めしてくれている仲間を見捨てろと?」
セナは波早に端的に疑問で返すと、由真に軽く一礼してシュバルツリヒターへ駆け出した。口では舌打ちしながらも、波早もセナの後に続いた。
由真の身の丈ほどの不穏な響きを上げる巨岩は今やほとんどむき出しになっている。
「由真、ここだよ! ‥‥はっ!」
キツァがドラゴンヘッドスマッシャーを、脆くなったデギアスに突き入れる。そして一気に飛び退ると、ワイズマンクロックをその中にぶち込んで爆発させた。
黒い破片が飛び散り、人の頭ほどの穴がたちまち口を開ける。由真は真ドラゴンスタッフの先端を穴にゆっくりと向けた。
「止まれ、デギアス!」
真魔力弾が解き放たれ、十の衝撃がキツァの開いた穴に吸い込まれていく。
「!!?」
脳裏に激しい衝撃が宿る。
轟々と唸る内部の音。
フェアリーテイルの歌声が、殲騎の身体を癒していく。
その衝撃はすぐさま殲騎達の戦場にも届いた。
『‥‥‥‥!!!!!!ッッ』
言葉にならぬ、言葉外の叫び。苦痛のような、愉悦のような、幾つもの声ならざる声が精神を駆け抜ける。
ネフィリムは電気ショックを与えられたように震え――
それは、収束した。
由真は、その場の静けさを聞いて、その目を開いた。
外からの音も、内からの声も、全てが無音に帰していた。
恐ろしいほど無音の空間――見渡せばそこは、洞窟の内部のようだった。鍾乳石にも見える白い石が彼女の周囲の空間を覆い、ほのかな明かりの中、白い床に無数の黒い石が、星のように転がっている。
ふと気付いて、足元を見下ろす。そこには黒い星々と同じ材質で出来た黒い石版が埋め込まれ、荒く文字が刻まれていた。
『此は邪悪の全てを封ずるもの也』
「おい――今の」
ミサキの声に、今度こそ由真は我に返る。
そこは昆陽池の人工島で、洞窟ではなかった。ただ、デギアスの破片が黒い星のように草むらに散らばる様だけが既視感を覚えさせた。ミサキも由真と似たような様子で、デギアスの破片を眺めている。
しかしその破片も燐光を発すると、空気に溶け込むように消え去ってしまった。
「‥‥何が、どうしたって‥‥?」
キツァがカーディナルと顔を見合わせる。
「――力を使った者だけが見た、幻‥‥」
『‥‥だろうな』
「何、どうしたの?」
「いや――」
レヴァインの呟きに開裡が同意する。首を傾げる彩に首を振ってから、沈んでいく二機のネフィリムに目を遣った。平太のネフィリムも同様に倒れ、動かなくなった。
「『邪悪の全て』に、魂を喰らわれた‥‥といった所か」
開裡はネフィリムが二度と動く様子がないことを確認すると、殲騎をいずこかへ還した。
かくて魔皇の手により、再度デギアスは破壊された。
デギアスのそびえていたその場所に、僅か隠れ家の入り口に似た歪みが、人知れず揺らいでいる。
誰もが去った後、動かなくなったネフィリムから小さな光の珠が彷徨い出ると、歪みの中に吸い込まれていった。
小さな黒い石が、土を割って現れた。 |