■seek for legendary tail■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 月海歩人
オープニング
 ざわめきが、古の隠れ家――魔に属する者達が集う、黒き古城に波紋のように広がっていた。‥‥但し、一部の者達だけであったが。
「それ、本当の話なのかな?」
 虎縞尻尾のシャンブロウの少年が、瞳を大きく見開かせ、知人の少年――これまたシャンブロウ――に、尋ねた。
「そうだぜ! この古の隠れ家のどっかに、『アレ』が眠ってるという噂だ」
「じゃぁ、じゃぁっ。もう、尻尾の毛を刈り取られたり、剃られたり、握り締められる事はないんだよね!」
 相手の少年は、一体今までどんな事をされたのだろう、と、哀れみとジト目が混じった視線で、逢魔・ルオを見る。
 早速『アレ』を探そうと、ルオは血気逸って駆け出そうとするが、少年が止めた。
「おぃおぃ、待てよ。まだ、『アレ』が何処にあるかはわからないんだぜ?」
 古の隠れ家は広い。一説によれば、ユーラシア大陸程の広さがあるという。
 少年は、もしかすると、やや離れたところにあるという、遺跡の奥に眠っている、と、ルオに伝えた。
「色々と凶悪なトラップが仕掛けられている、という噂だから、気をつけな」
「うん、ありがとねっ♪」
 他のシャンブロウの者に一緒に行かないかと声かけるルオを、遠くで生暖かい目で見守りながら、少年は悪戯そうに笑った。
「『アレ』――『伝説の尻尾』があったって、俺達シャンブロウの尻尾は交換できないのになぁ‥‥」
 伝説の尻尾――。
 黄金色に輝く、最高のふさふさ感と、どんなに凶悪な刈り鋏でも刈り取れない強靭な毛並みを持った、尻尾。
 それが、ルオが求めているものであった。但し、やはりというか、常識的に考えて、既に備わっている尻尾を替える事はできない。ただの愛玩用の『つけ尻尾』というのが通説であった――。
シナリオ傾向 逢魔限定,シャンブロウ種族限定
参加PC 桂木・珠希
リョウコ・デバンド
城ヶ崎・海斗
サイオンジ・タケル
名園・枝梨
seek for legendary tail
●dreamer
 古の隠れ家――。
 広大なこの隠れ家にある、古き遺跡を探索する者達がいた。
 総勢六人。全て、シャンブロウ。尻尾が揺れていた。
「伝説の尻尾‥‥」
 夢見る瞳で、虚空を見つめるは、逢魔・山吹(w3g720)。
「これさえつければ、海斗様も立派なシャンブロウになりますよねぇ‥‥」
 愛しの主がシャンブロウになれば、きっと――。
「結婚も子供もできますよねぇ‥‥って、何を言わせるんですかぁ! 恥ずかしいですぅ!」
 独り純(?)な想いをつい口に出してしまっている事に気づき、山吹は照れるように手近な逢魔・ルオをビシバシとど突き倒した。
「伝説の尻尾を持つ、バンキュッボンッな美人のねーちゃんかぁ」
 こちらも同じく夢見る瞳の、逢魔・イーリ(w3j617)。ちなみに、上からの視覚効果な擬音らしい。
 大した期待はしていないが、やはり、浪漫だからこそ夢見るものだ。
 ふと、イーリは周囲を見渡す。
(「二十歳超えたねーちゃんがいねぇ‥‥」)
 もしかすると、もしかしないでも、自分が一番年上らしい。その事に気づき、少し落ち込みつつ。
「彼女募集中の身としてはちっと残念だが、必ず守ってやるからよ?」
 但し、女性限定だ、と、言い足そうとしたところで、視界が九十度ひっくり返った。
「バナナの皮だな。こんなところにあるとは、珍しい」
 滑りこけたイーリよりも、その原因のバナナの皮を物珍しそうにしげしげと眺める、紋付袴を着込んだ、逢魔・ウルスラグナス(w3i411)。お尻の部分の切込みが特徴的というか、シャンブロウ専用だからか。
「いや、その前に存在自体に疑問を感じろよ‥‥」
 疲れたような声を出す、イーリの傍らを、逢魔・亜澄(w3c617)が楽しそうにしていた。
「おしっぽおしっぽっ♪ 伝説のおしっぽ見つけてげっとしたら、みんなにごちそうしてもらえるんですぅ〜♪」
 スキップしながら遺跡の奥へと進もうとすると、ツルッと足を滑らせる亜澄。やはり、バナナの皮が他にも転がっていたらしい。
「ひょいひょいっとなのですぅ」
 身軽に姿勢を取り直す。
「このいせきって、あしばがわるいから、ボクたちみたいにおしっぽついてる人しか入れないのかなぁ?」
 巧みに尻尾をふりふりしてバナナの脅威を回避する亜澄を、イーリは悔しそうに見ていた。
「あ」
 主から借り受けた魔皇殻――短剣の刃にて、壁に目印となる傷をつけていた、逢魔・モフ(w3e379)が、突然、声を上げた。
 どうしたのかと注目する仲間に向け、モフはただ一言を言うのみ。
「えーっと‥‥ごめんね☆」
 次の瞬間、皆の足元から床が消え去った。
「落とし穴なのですぅ〜」と、亜澄。
「なんか怪しそうな凹みがあったから、つい好奇心で押しちゃった」と、モフ。
「きゃぁぁぁーっ」と、唯一、悲鳴を上げている、山吹。
「ふむ。これが落とし穴か」と、冷静なのは、ウルスラグナス。
「落ちるぐらいならどうって事ねぇよ――って、深すぎっ!」と、イーリ。
 ルオは早々と気絶しているようだった。
 そして、声が掠れて聞こえなくなると、床は元通り現れ、落とし穴を閉じた。

●and ... inside of darkness
 深い深い闇の中。
 ふさふさとした周囲の様子に、山吹は意識を取り戻す。
「は‥‥っ。こんなにも尻尾がたくさん! この中に伝説の尻尾が!」
 おもわず、むんずと手近な尻尾を握り締める。
「いっ、いったーぃっ!」
 可愛らしいリス尻尾が叫び声を出した。どうやら、モフの尻尾だったらしい。
「まっくらですぅ‥‥なにも見え‥‥あ、かいちゅーでんとーもっていました♪」
 亜澄がガサゴソと取り出すと、明るい光が部屋の中を照らした。
「どうやら、ただの部屋のようだな‥‥俺達はあそこから落ちてきたのか」
 ウルスラグナスが見上げた天井はかなり高く、微かに漏れ入る光が、落とし穴の入り口を示していた。
「そういえば、イーリのおじちゃんがいないみたいだけど‥‥」
 ルオが、姿見えないイーリを心配し、不安そうに辺りをきょろきょろ見回すが、彼の姿は見当たらない。
「おや? もしかして――」
 注意深く観察していたウルスラグナスが、ふと、足元に視線を向けた。
 懐中電灯の明かりに照らされ、気を失ったイーリの、のびた顔が見えた。どうやら、皆の下敷きになっていたようだ。

 それはさておき。いや、皆の尻に踏まれた彼を放っていいのか、とかという細かな事も置いといて。

「罠が‥‥他にあるかも知れないですよねぇ」
 落とし穴のあった部屋の奥に通路があったので、皆で入る事にした。先頭を歩く山吹が、注意深く周囲を見渡しながら進む。
 様々な罠が待ち構えているというこの遺跡は、さすが伝説の尻尾が隠されているという事か。
「その割には、ちんけな罠が多かったがな」
 ウルスラグナスが機嫌悪そうに呟いた。
 しんがりを歩く彼は、仲間が危険な目に遭えば、庇うように身を挺していた。とはいっても、天井から何故かたらいが落ちてきたりとか、足首に荒縄がくくられ、逆さ吊りになったとか、etc、etc....。
「そのうち、映画でよくあるように、大きな球に後ろからか迫られてくるかもしれませんねぇ」
 と、山吹が言ってる傍から。
 ゴロゴロと低く、重ッ苦しい音と共に、小さな揺れを身に感じる一行。次第にその音は大きく、響きは強く。
「に、にげ、にげなきゃですーっ!」
 わたわたと亜澄が叫び逃げると、一斉に駆け出す一行。
 そこの分かれ道を曲がれば何とかやり過ごせる。もうすぐその地点へと辿り着こうとした矢先、モフが崩れかけた通路の石に躓き、こけた。
「あ‥‥」
 地響きたてて迫り来る巨石を前に、小さく声を漏らす、モフ。だが次の瞬間、力強い腕がモフの身体を抱え込んだ。
「大丈夫か?」
 素早くモフの身体を抱えたのは、ウルスラグナス。駆ける途中、おたおたと走っている山吹を空いている左腕で掻っ攫うように掴むと、身軽に駆けた。
「あ、ありがとう‥‥」
 分かれ道に退避し終えたところで、目の前を球が、ゴロゴロと転がり行くのを見送ると、モフはウルスラグナスに声かけた。
 やっと落ち着いたか、と、思えども、騒動は終わる気配は見えない。
「そんな簡単な罠にはひっかかりませんよぉ!」
 そう叫んでいるのは、山吹。目の前には、ザルにつっかえ棒を仕掛けた、誰にもわかる簡単な罠がある。そして、そのザルの下には、お揚げが落ちていた。
「ねぇ‥‥だったら、さっさと無視しちゃえばいいんじゃないかな?」
 ルオが苦笑いを浮かべながらそう言うと、彼女は辛そうな表情で答える。
「でも、でも、お揚げがぁー」
 好物と罠との、心の中の天秤に大きく揺れ動いているようだ。涙目になりそうになりながらも、ふと、何か気づいたか、ルオの腕を強く掴む。
「男の子ですから、身体を張って頑張ってくださぁぃー!」
「え?」
 次の瞬間、大きく前に身体を引っ張られてしまう、ルオ。その行き先はザル。
 ルオの足がザルのつっかえ棒を倒したかと思うと、凄まじい勢いで天井から檻が落ちてきた。
「お揚げですー♪」
 ころころと転がってきたお揚げを手に取り、嬉しそうに小踊る、山吹。その傍らにてイーリは、賞味期限は大丈夫なのだろーかと、違う意味で心配していた――。

●tailes,last tailes. and next tailes...
 様々な苦難を乗り越え――苦難というには、なかなかの微妙具合なものも含まれていたが――とうとう、一行は遺跡の最奥へと足踏み入れた。
「ここに‥‥伝説の尻尾が‥‥」
 感慨深そうにしているルオを無視し、亜澄がダッシュで部屋の中央に鎮座している宝箱へと向かう。
「おしっぽは、はやいものがちですー。うーにゅ、負けないですぅ〜!」
 洗面器などが天井から落ちてくるかもしれないから、と、持って来た中華鍋を頭から被って、亜澄が宝箱に駆け寄ろうとする。だが、最後の最後で何もないはずがなく。
「また、おとしあなですぅ〜‥‥す〜‥‥ぅ〜――」
 ぽっかりと開いた床へと、姿が消える。そして声が次第に小さくなり、やがて、聞こえなくなった。
「上ばっか気にしてるからだ」
 しょーがねーなー、と、呟きながら、イーリが亜澄を助けるべく穴に近づくと、小刻みに天井が揺れ動いた。
「ん?」
 不審そうに辺りを見回すが、震動の原因たるものが見つからない。ふと、何か気になって上を見上げると、訝しそうな表情が、驚愕へと変わる。
「――! て、天井から棘が!」
 イーリの言葉通り、天井から鋭い棘が突き出されている。それどころか、次第に下降しているようだ。
「これは‥‥ウルスラグナスの奴を盾にして、逃げるか」
 ぼそっと、身長的に見ても、真っ先に刺さるだろうし、と、言い加える、イーリ。
「いや、止めればいいだろうが」
 そうやって、男二人がやりあってる傍ら、モフがこっそりそろそろっと、移動する。小さな石に、ちょこんと乗せた足をどけたところで、ゆっくりと天井が元の位置へと戻ろうとした。


 ちょっとひととき――落とし穴に落ちた人の救出中。


「今度こそは、尻尾をこの手に!」
 山吹が拳を握り締め、天に突き上げるように腕をまっすぐにのばす。
「男の人たちが、身体を張って罠にひっかかってくれたから、もう、大丈夫ですよねぇ!」
 よーするに、罠を避けるのではなく、ひっかかって潰してくれたというか。
 それでも、罠は幾つか潜んでいたらしく、一歩進むごとに天井から色々なものが落ちてくる。
「サーバント‥‥犬みたいな」
 モフが、転がってきた小さな犬の形をしたサーバントを拾い上げ、呟いた。
「わたしはぁ、海斗様との未来が掛かっているのですからぁ‥‥」
 きゃーきゃーと中華鍋で頭をカバーしている亜澄の横を通り抜け、山吹は一歩、一歩、力強く前に進む。
「ぜぇったいに譲れませんよぉっ!」
 がしっ、と、山吹は宝箱を掴むと、期待に溢れる眼差しで、蓋を開けた中身を覗き込んだ。

●as time goes by
「ふむ‥‥伝説の尻尾とは、こういうものであったか」
 ウルスラグナスが考え込むようにして、まじまじとソレを見つめる。
 既に遺跡を抜け、帰途の途中。
「ばんっきゅっぼんっ、な、ねーちゃんはいなかったが‥‥」
 複雑そうな心境で、イーリが呟いた。
「どうみても、バニーさんのコスプレだよね、これ」
 モフは、こんなの持ち帰って、主の魔皇に何と言われるか、気が気でない。何せ、「あんた、実験材料にするから持って帰って来ないと酷い事になるわよ?」と脅され、この遺跡を訪れた理由があるからだ。
「うわぁぁぁんっ、こんなんだと、海斗様との明るい家族計画が〜」
 泣き止まない山吹に、亜澄が慰めるが、その彼女は既に装備中。白くてもこもこっとした尻尾が、ふりふりしている。
「‥‥結局、尻尾刈りから逃れられないんだ‥‥」
 溜息を吐きながら呟いたルオの言葉に、山吹はきっ、と、険しい眼差しで睨みつけた。
「しっぽを剃られた位で、ぐちぐち言うんじゃありませぇん!」
 男なら、全身五分刈りにするぐらいの度胸でいなさぁぃ、と、叫ぶと、山吹はルオを追い掛け回し始めた。どうやら、単に怒りの捌け口を求めているだけのようだ。
「やれやれ‥‥くたびれ損だったかもしれねぇが、楽しかったから、いっか」
 そう、苦笑いを浮かべ、言葉呟いたイーリーの姿は、全裸に危ない箇所を小さな尻尾で隠しているという姿であった――。
※落とし穴に落ちた亜澄を拾う為、獣化して穴を昇り降りした為。