■rakuen 〜- beginning and last tale -〜■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオ |
クリエーター名 |
月海歩人 |
オープニング |
東京、新宿――。
荒廃した都市は、再生を迎えていた。生きる、という、人々の想いは決して誰もが止められるわけでもなく。自然に、活気が街を包む。
だが、それでも、人訪れぬ場所があった。
――新宿に座す、バベルズ・タワー。
言い伝えられた物語のように、隆盛を誇った過去を見せぬ。崩れ果て、神帝軍の拠点の一つとしての機能も失い、ただの廃墟となってしまっている。
「ラクエンなんて、何処にもないんだよ――」
神威という名を持つ少年は、疲れ果てたかのように、ただ、呟く。
突然のギガテンプルム墜落、そして、デアボライズ魔皇の出現――‥‥。
その事に希望を失くした人々の前に、彼は『楽園』を共に探し出そう、と、誘った。
だが、彼は楽園なんて信じてなかった。信じているものを探せる訳がない。
希望を見出そうとしている人々の最後に、ただ、絶望を突きつけようとしていた。
心の片隅に、何処かにあればいいのかと思っていたのかも知れない。だからこそ、この企み事を謀ったのかもしれない。
しかし――最後の詰めの段階で、しくじってしまった。
企みに気づいた魔皇達に追われ、ただ逃げるのみ。
そして、逃げ込んだ先は、朽ち果てる先しかない、廃墟となりし、バベルズ・タワー。
ただの偶然か、運命という皮肉か。
「もう、お終いだな」
短く、彼は断念したかのように、呟く。このビルに逃げ込んだものの、間もなく追手――魔皇がやってくる頃だろう。
「何言ってやがる。最後まで足掻きもしねぇのに、あきらめるんじゃねぇよ」
殺と言う名の巨漢の男が、苦笑いを浮かべて彼に言った。
暫し考え込む様子を見せた少年だったが、「そうだな」と、短く言うと、立ち上がった。
「これで終わりとは限らない。これから、という、始まりなのかもしれないから――‥‥」
慎重に足を進める、魔皇達。少しでも無闇な動きをしてしまえば、この今となっては見る影もない、超高層ビルの崩壊を進めてしまう。
「いい? このビル、思ったよりも微妙なバランスで保っているみたい」
派手な格好をした女性の魔皇――伊志嶺リンダが、注意の言葉を皆にかけた。
頑丈のように見えても、衝撃を少しでも加えては、一気に崩れ落ちるかもしれない。それとも、まだ、耐える力を残しているのかもしれない。
だが、その事恐れ、敵を逃してしまっては、元も子もない。逃れたグレゴールは、何時しか何処かで、敵対してしまうかもしれぬ。
ここで退く訳にはいかぬのだ。
「でもね。ここでグレゴールもろとも、崩壊に巻き込まれるのは嫌よ」
待っている人がいるんだから、と、彼女は誰となく呟いた。
今、物語は終わるか――それとも、始まるか――。行末は、誰も知らない――‥‥。
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シナリオ傾向 |
終焉を告げる時 |
参加PC |
柊・日月
軍部・鬼童丸
アンブローズ・フェルマー
堂島・志倫
鈴科・有為
功刀・湊
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rakuen 〜- beginning and last tale -〜 |
●戦戟の響きの中で
真シルバーエッジに真魔炎剣<フレイムパニッシュメント>の焔纏わせ、柊・日月(w3a201)が身構える。背には、禍々しき蝙蝠のような翼――テラーウィング。翼が、風を巻き起こし瓦礫を飛ばす。
吹き飛ぶ瓦礫に身を隠すようにし、真狼風旋<ハウンドヘイスト>を使いし堂島・志倫(w3c846)が、真グレートザンバーを突き刺すように構え、突進する。
「はっ! かかって来いよっ!」
殺という名の男が、吠えるように声を張り上げた。
「いっくよー!」
神威との間合いを詰めた、功刀・湊(w3e420)が、手数で押し切ろうと、真狼風旋<ハウンドヘイスト>の力にて、鋭き爪の刃を舞わせる。
「‥‥お前達も、戦いの先にしか、自らの求める『答え』を探しえないのか?」
振るわれた刃を真ロケットガントレッドにて受け止め、鈴科・有為(w3d105)は言葉放った。
「ちっ――そこを退け!」
神威は、外への通路と逃れでようとするが、その前を阻む影があった。
「一体何処へ行こうとしているんだぃ?」
現れたのは、アンブローズ・フェルマー(w3b996)。グレゴールが外へ逃れないよう、その身体を以って道を阻む。
「退け」
短く神威が言葉発するも、アンブローズは表情一つ変えない。
「そんなに『ラクエン』に向かいたいのなら――行かせてやろうか?」
真幻魔影<ファントムシャドウ>――現の幻が、グレゴールを取り囲んだ。
そして――。
●廃墟の塔
今までの栄華は何処かと。
昼夜問わず訪れていた人の気配は何処にもなく、視界に入る光景は、まさしく、天からの雷に打たれしバベルの塔。
「ま、驕る天津の神々の象徴だな」
崩壊寸前のバベルズ・タワーを見上げ、軍部・鬼童丸(w3a770)は呟く。
形在るものは、いつしか崩れる。永久に続く繁栄は‥‥ない。
(「世の理だな」)
そう思うが、哀れなものだと思う。
「崩れゆく塔‥‥か」
天まで登りつめようとした、愚かな人々の軌跡にも思える、ビル。有為は夕陽に照らされたバベルズ・タワーを眩しそうに見上げる。
人々の欲望も願いも限りないもの。
「それでも、足りない者には‥‥其の先に何あるを知るも、知らずも、手を伸ばし続ける事しかできない」
そっと、手をビルの陰に隠れようとしている夕陽に手を伸ばす。
「行こうか」
短く、志倫が皆に言うと、魔皇達はビルの中へと慎重に侵入した。
(「こうも変わるものですか‥‥」)
バベルズ・タワー内の地図――以前、このビルを訪れた折に入手した、観光客向けのパンフレット――を片手に、日月は感慨深そうに辺りを見回す。このパンフレットは既に皆に配布しているので、そうそう迷い込む事はないだろう。
「そこの階段が使えそうですね」
先を注意深く観察していた逢魔・ぺトルーシュカ(w3a201)が、何とか形を保っている階段を見つけた。
「やれやれ――文明の利器がないと、こんなに不便だとはね」
アンブローズが、やや疲れたような口調で、とっくに瓦礫の下となっている、エレベーターホールを振り返り見た。
エレベータやエスカレータなどはとっくに使いものにならない――いや、電子機器が全滅している段階で使用できない。よって、侵入当初から無事に使える階段を探す事に時間を費やされている。
(「翼があれば、便利なのだが、ね」)
ふと思うは、己の逢魔・カデンツァ(w3b996)――。
彼は今、ビルの外――その黒き翼を以って、高所から様子を窺っているはず。何か異変があれば、連絡があろう。
(「そういえば、死者の黙示録に関わっていた者が――」)
このバベルズタワーに逃げ込んだと、ガデンツァの連絡があったのが、遠い昔のように思える。
騒乱と混乱の最中、遂に陥落したギガテンプルム。そして、崩れ落ちた天罰の塔。一体その者は何処へいるのか、やぶさかではない。
感慨半ばに立ち寄り半分。今は、その者を追及する気持ちはない。ただ、目前の敵を倒すのみ、だ。
「まだもう少しかかりそうだな‥‥あー、疲れた」
マップ片手に、逢魔・ヴァルハート(w3e420)が、くたびれたような声を出した。
ビルの崩壊に気をつけつつ、周囲を警戒している。何気なくうろついているように見えるが、何時でも対処できるように気を配っている。
「そっちはどう?」
尋ねる湊の言葉に、ヴァルハートは首を横に振る。
そっかぁ、と、湊はぼやきつつ、内心では少しだけほっとする。
(「こんな狭いところだと、思うように動けないもんね」)
事前に洗い出した、戦闘を行えそうな場所は、もう少し上――空中回廊を見下ろす、ビルの中腹のテラスなのだから。
「恐らく、彼らはそこにいるだろうな」
彼女の心の中を読み取るかのように、有為が呟いた。
驚いた表情を向ける湊に、彼はすました顔で説明する。
「皆の知識や記憶、そして、現況を考えれば、そこにいるとしか、考えられないだろ?」
「有為サン、わざわざそういう言い方しないの」
むぅ、と、膨れ上がった顔を見せる湊と、有為の間に逢魔・リーンティア(w3d105)が入り、彼に咎めるような視線を向ける。
「まぁ、まぁ。とにかく、気を引き締めて行こう」
苦笑しつつ、志倫が三人に向けて言葉かけた。
そう、間もなくこの塔は――戦場になるのだから。
逢魔・アルティオーネ(w3c846)は、心配そうな瞳で、己が魔皇の背を見つめる。その瞳の中の祈りは、無事、帰れるようにと。
●r a k u e n 楽園 ラクエン ――『螺』旋に連なる『苦』しみの『園』――
「楽園? やれやれ、神の徒とは理想郷がお好きなようだ」
鬼童丸が、苦しみ悶えている神威の背に向けて言葉発す。
「救いだの、楽園だの。そんなものは人によって幾らでも‥‥存在する」
其れを決めるのは、自分自身の心だ。その事を、この少年はわかっているのだろうか。
それにしても、縁とは奇しなるもの。再び、神威に殺、この二人のグレゴールと会い見えようとは。
「――何故、神帝死した今、尚も生き長える?」
その鬼童丸の言葉に、神威は鋭い眼差しを向けた。
深く、そして冥い、瞳の中の光。
「神帝なんて、関係ない!」
立ち上がり、刃を向ける神威。
「戦う、と言うのであれば容赦せん」
この鬼が冥府へと送ってやろう。そう一言言い放つと、鬼童丸は真クロムブレイドにて示す。
「行くぞ」
短く呟いた志倫の言葉。
そして、続く刃の煌き。
「おやおや。俺の相手はニィちゃん‥‥あんた、一人かよ」
殺という名の大男が、日月に向けて小馬鹿にしたような言葉をかけた。
「一人ではありませんよ。――ペトラ」
散開する、日月とペトラ。
「ちょこまかと動くんじゃねぇ、よ!」
光刃を、大剣から放つ、殺。
迎え撃つように、日月は真獣刃斬<ハウリングスラッシュ>を撃ち放つ。
ぶつかり合う、力と力。
衝撃が周囲を轟かせた。
「やべっ!」
震動で揺らめく床に、殺は慌てて周囲を見渡す。
その隙逃さず、テラーウィングにて宙空から背後に回りこんだ日月は、真燕貫閃<スワローピアッシング>の一撃をグレゴールの身体に突き立てた。
「‥‥てめぇ‥‥」
「まだ、動けるのですか!?」
唇の端から血を流しつつ、剣呑な視線で睨む殺に、彼は驚きを隠しきれない。そして、反撃の刃が――。
「させません」
「ペトラ!」
こんな事もあろうかと――レプリカントの力。隠し持った狩猟用の網を投げ、グレゴールの身体を拘束する。
息絶え絶えな殺を見下ろしつつ、日月は不安そうな眼差しを仲間――神威と戦っている仲間の方へと向けた。
「少々、派手にやらかしてしまいましたか。決着がつくまで、もってくれるといいのですが」
●己が見る楽園の姿とは――
刃と刃が鬩ぎあい、剣光が眩く煌く。
「その程度なのか!?」
神威の刃から放たれる光を避け、次第に間を詰める、志倫。
(「戦いを為そうという者、戦いによって何かを得ようとする者――」)
このグレゴール達も、己も、結局は同じなのかも知れない。
有為は真ロケットガントレッドを巧みに操り、刃をその腕で防ぎつつ思う。
(「‥‥互いに敵として相見えたのならば、その存在をかけて‥‥ヤりあうしかあるまい」)
迷いなど、決して、ない。
一気に間合いを詰めた次の瞬間、重心を低く、肩から体当たりをする。突きつけられた槍を、流れに逆らわぬように払い、半身を回転するかのように、真両斬剣<ギガプレイクス>の一撃を叩きつける。
「いい加減に――っ」
湊が、真シューティングクローを、グレゴールの身体の上から振り下ろす。
「倒れてよね!」
噴き上がる、鮮血。
瓦礫散らばる床に、膝をつく、神威。
「楽園‥‥探していると言う事は、結局あの本を――求めている輩達と同じで、心の拠り所が欲しかっただけだろう」
冷徹に、鬼童丸は刃を向け、言葉放った。
――死者の黙示録。
失いし命が戻るという虚言に惑わされ、錯綜していた人々。結局は同じなのだ。
「貴様にとっての楽園が何かは知らん」
探すのも結構。
「生も死も‥‥楽園も地獄も選ぶのは貴様らの心だ」
「違うさ‥‥」
細く、だが力強い響きで、神威は声を出す。
「楽園なんて、結局何処にもないんだ‥‥いや、もう、どうでもいい‥‥あの人がもういないのならば」
そして、言葉が途絶えた。
●終焉の、そして始りを告げる、『物語』
真クロムブレイドの刃の先が、神威の胸から突き出ていた。
「だから、もう、諦めるのか?」
刃を突き立てたのは、アンブローズ。背後からの一撃は、このグレゴールの命の灯火を、か細く揺らめかせる。
(「全く。いらつくような戸惑うような‥‥複雑な気分だ」)
意地っ張りのようであり、見栄っ張り。自分自身を鏡に映しているようで、気になる。
「本当に欲しいものなら、素直にならないと、結局手にする事なく、失ってしまうというのに‥‥まぁ、死んだところで治らんだろうな、この性分は」
己に言っているのか、彼に言っているのか。
真クロムブレイドの刃を引き抜くと、アンブローズは神威の身体を地に押さえつけ、右手を彼の胸へと翳す。
真魂吸邪<ライフセイザー>。
その生命を奪うダークフォースを行使しようとしていると、聞きなれた声が彼の耳に届いた。
「旦那様」
カデンツァ。
己が逢魔の姿を目にし、神威を放り捨て立ち上がる、アンブローズ。
「どうした?」
「ビルが‥‥間もなく崩壊しそうです」
その報告を耳にし、驚く一行。
「リーンティア、行くぞ!」
逢魔の手を取り、ビルから脱出すべく走り出す、有為。
「志倫、早く出ましょう!」
アルティオーネが急かすが、グレゴール達が気になるか、ちらちらと背後を振り返る、志倫。
「二人とも、放り捨てても問題はないだろう」
止めを刺さずとも、命が尽きるのは時間の問題だ。
鬼童丸は最後に一言、二人に言葉かける。
「やはり、おぬし達は愚か者だ」
己の生きる道を彷徨い求め、手に入れる事なく終焉を迎えようとしている者達。
この塔が、彼らの墓標となろう。
空中回廊。
震動が、次第に大きくなる。
「このままでは、このビルと運命を共にしてしまいます」
ぺトルーシュカの言葉に、笑みで答える、日月。
最初であり、最後の舞台となったバベルズ・タワー。
もう、ここからの景色を眺める事はないだろう。眼下に、復興しつつある街の光が、眩く見える。
「‥‥さぁ、行こうか。ペトラ」
テラーウィングの翼広げ、魔皇と逢魔は夜空へと舞った。
物語は終わらない。
一つの物語が終わり、紡ぎ手が居らずとも。
己が道がある限り――新しい物語が始まる。 |