■【銀藍堂小話】Promise 〜絡めた指が誓うコト〜■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 古美冬
オープニング
 東に乗鞍岳、穂高岳、槍ヶ岳。西に白山、南に御岳山――峻嶺を分け入る事暫し。けれど宮峠を越えれば、空は突然大きく広がる。初めて訪れた者は、山中にこんな大きな町がと誰もが驚くという。
 町並みそのものがセピア色の玉手箱――飛騨高山はそんな町。

「‥‥よし、出来上がり」
「どうしたの? おにぃちゃん‥‥わぁ、可愛いのね♪」
 飛騨高山の一角にひっそり佇む銀藍堂は、元々は巧崎冬耶がやっていた骨董屋である。元々、本人は目利きが得意な鑑定士だったが、気が向けば細工の簡単な修理も手掛けるらしい。
 ここ数日も何かやっているようだったが、果たして、テーブルにあるのはアンティークのオルゴール。蔓薔薇の絡んだ白磁の台座に恋人らしき男女が寄り添い、キューピッドがラッパを吹いて祝福している。
 見るからに幸せそうで、ホノボノしてくる逸品だ。
「ねぇねぇ、どんな曲?」
「確か‥‥アヴェ・マリアでしたっけ」
 キリキリとネジを回すと、繊細な調べに合わせてゆっくり台座が回り出す。
「〜〜♪」
 テーブルに両肘突いて顎乗せて。楽しそうにオルゴールを眺めていたシュネーだったが、何を思い付いたのか、クルンとした紅玉の瞳が冬耶を見上げる。
「そう言えば、もうすぐね? ジューン・ブライド」
「‥‥ええ、まあ」
 夢見るようなシュネーに対して、冬耶は何処か苦笑混じり。
 ジューン・ブライド――6月の花嫁は幸せになれるという言い伝えは、余りに有名だけど。それもこの時期の気候が良い欧州での話。梅雨真っ只中に当たる日本では、イマイチそぐわない気がする。下手すれば、土砂降りの結婚式になりかねないのだし。
 それでも、女の子の夢に水を差すのは無粋というもの。ウットリしているシュネーの表情に、冬耶も現実的なコメントは差し控えたようだ。
「花嫁さんかぁ‥‥良いなぁ」

 ――指切りげんまん 嘘吐いたら針千本のーます♪

 約束――それは絆の1つだ。魔皇と逢魔のみならず、ヒトとヒトとの心を繋げるモノ。
 例えばプロポーズなんて、その最たるモノだろうけど、勿論それだけじゃなくて。
 明日も一緒に遊ぼうというたわいない約束から、決戦を前に共に生きて帰ろうという熱い誓いまで‥‥数限りない指切りが、きっとこの世に溢れている。
 守られた約束、破られた約束‥‥約束の数だけ、秘められたドラマがある。

 指切りげんまん 嘘吐いたら針千本のーます――あなたの大事な約束は、何?
シナリオ傾向 ほのぼの、デート系?
参加PC 久遠・章
加苗・エトゥワール
陣内・晶
リョウ・アスカ
ヴィラスト・シャウゼン
成岡・悠真
片桐・沙羅
永連・かなえ
城島・晋一郎
神宮寺・隆司
【銀藍堂小話】Promise 〜絡めた指が誓うコト〜
 ――カランコロンとベルの音。
「いらっしゃいませ」
 穏やかな店主の声音に懐かしさを覚えるのは、きっとゆったりした独特の空気の所為だ。
 京都は京都でも、高山は岐阜の『小京都』。古式ゆかしい佇まいの温かさが、この町の魅力。
 勿論、その一角に建つ銀藍堂が『一見さんお断り』であろう筈もなく、陣内・晶(w3c605)も一安心だ。
「ゆっくり来たつもりだったけど‥‥ちょっと早かったかな?」
 店内には既に客がチラホラ。でも、待ち合わせの彼女はまだらしい。
 今日は朝から好い天気。折角だから日向ぼっこでもと、自然とバルコニーに足が向く。
(「‥‥ふーん、男性の方はここの常連さん、かな?」)
 通りすがり、チラリと一瞥した魔皇同士のカップルは如何にも親密そうで。
(「結婚の約束、とか‥‥?」)
 つい想像も膨らむけれど馬に蹴られるのも野暮なので、晶はそそくさと足を速める事にした。

 ――たった1つ、言えなかった事があった。
「‥‥俺さ。昔、彼女がいたんだ」
「え?」
 思わずハーブティをゴックンと呑み込んで、片桐・沙羅(w3g792)は大きな瞳を更に見開いた。取り敢えず、オーダーが程良く冷えたアイスティーで良かったかも知れない。
「‥‥目の前で死んだんだ。俺なんか庇ってさ‥‥それで、ソイツとの約束を永遠に果たせなくなった」
 最初はたわいないお喋りだった。これまでと、これからの『約束』の事‥‥思い出すのも痛かったのに、どうして今、ここで話す気になったのだろう。
「その時か、ルーチェに会ったのは。俺、何しても反応薄いのに一生懸命でさ」
 ふと、久遠・章(w3a221)の唇の端に笑みが浮かんで消えた。何を思い出したか、目を細めている。
「それから、沙羅に出逢った。俺、ずっと素っ気なかったのに、めげなかったよなぁ。いつも、色々と話し掛けてきただろ」
「だって、沙羅、ずっと気になって仕方なかったの。章さんの事‥‥最初に見た時からずっと」
 だから本当に嬉しかったと少女は言った。キラキラと指に輝くビーズの指輪は、誰あろう章からの贈り物。
「‥‥そのビーズの指輪もアイツにやるつもりで、結局捨てられなかった」
 ピクリと震えた指を引き寄せて、章は大きく頭を振る。
「誤解するなよ。全部バラバラにして、改めて沙羅の為に作ったんだからな」
「‥‥そう、だったんですか」
 刹那、強張った肩の力が抜ける。しげしげと指輪を見つめる沙羅の瞳は心なしか潤んでいて、それでも慈しむような微笑みで。
「これには、そんな思い出があったんですね‥‥それを、沙羅の為に作り直してくれたんですよね‥‥」
「俺は、光を見付けたんだと思う。だから、約束する。これからもずっと一緒に‥‥沙羅と幸せを探したり作ったりしていこう」
「沙羅は、章さんが傍にいてくれるだけでいつも笑顔でいられるよ。章さんが好きって言ってくれた沙羅の笑顔を、ずっとずっとあなたに届けるよ‥‥約束」
 幸せと笑顔――指切りの代わりに口付けを。
「今度は本物の指輪、ちゃんと作ってプレゼントするな」
「うん、楽しみにしてます」

 ――いつも一緒なのが、自然な事だと思っていた。
「ふーん‥‥こういうのが、ユキの趣味なんだな」
「‥‥悪い?」
 アーリーアメリカン調の可愛い内装をグルリと見回して、しみじみ呟く神宮寺・隆司(w3j575)。少しばかりムッとした相手に、しれっと肩を竦めてみせる。
「何か、デートみたいだなって」
「‥‥‥‥」
 一瞬、逢魔・ユキ(w3j575)の頬に朱が差したように見えた。
「‥‥わ、私はただ、隆司とこうした所でゆっくりするのは久し振りだからって」
「あー、確かにそうかもなぁ。昔はよく遊びに行ったけど、魔皇になってからはすっかり御無沙汰だった、かな?」
 図らずこの1年を思い返して、隆司はつい苦笑を浮かべた。
「流石に覚醒の時はビックリしたよな。でも、そんなに戸惑わなかった‥‥ユキがいたから」
 覚醒の前後でも感覚は同じだったと言ったら、きっと説教だよな。自覚が足りないって――先回りして笑い飛ばすと、根が苦労性のパートナーは何とも微妙な表情。
「‥‥でも、アレはきつかったな」
「何が?」
「ユキの『隆司様』」
「‥‥‥‥」
 魔皇と逢魔、その主従関係のケジメを考えての事だったろうけど。一時とは言え、幼馴染みの突然の線引きは、予想以上に堪えたから。
「ユキはユキなんだから、俺は別に構わなかったのに‥‥」
「‥‥ごめん」
 真顔のつい愚痴めいた呟きに、ユキは神妙に頭を下げた。
「‥‥私は、少し嬉しかったよ?」
「うん?」
「覚醒しても、隆司が変わらなかったから」
 2人で積み上げてきた時間が、無に帰さなかった事が。
「あ、でも。隆司がぐうたらで考えなしなのも、甘やかし過ぎた私の所為になるのかなぁ」
「う‥‥」
 何げに心当たり大ありで、思わず言葉に詰まる隆司。ユキは明るい笑い声を上げて、その肩をポポンと叩いた。
「だから。私がきちんと面倒見てあげる。ずっとね」
 これからも何があるかは判らないけれど、何時までも一緒に――それが約束。

 ――君は、彼女ではないけれど‥‥今度こそ、果たしたいと思うから。
「‥‥にゅ? だいやもんどだすと?」
 主共々芸能関係に疎い雪ん子は、BGMのリクエストに首を傾げたようだけど。
 それでも、やがてリョウ・アスカ(w3e053)の耳に心地よい調べが流れてきた。
(「よし!」)
 気合いを入れて、こっそりググッと拳を握る。
「ソフィーティア‥‥!」
「はい、何でしょうか?」
 窓の外の長閑な光景を眺めていた逢魔・ソフィーティア(w3e053)は、主の真剣な声音に小首を傾げた。
「その‥‥」
 面影が、重なる。『あの時』の彼女は、花のように笑ってくれた。
 たとえその面差しが瓜2つであろうと――君は、彼女ではないけれど。
「俺には、もう君しかないんだ‥‥」
 そっと手を重ねる。その温もりが、『今』が現実であると教えてくれる。
「2人でいたい、何時までも‥‥」
「リョウ‥‥?」
 約束――生涯添い遂げる事。よりにもよって肉親に壊された約束を、今度こそ果たしたかった。
「‥‥結婚しよう、ソフィーティア」
「!!」
 忽ち零れ落ちた彼女の涙が、ひどく綺麗だと思った。
「はい‥‥もし、生まれ変わっても。私は迷わずリョウを選びます‥‥」
 抱き合って、キスを交わして‥‥2人だけの世界を初夏の日差しが眩く照らしているようだった。

(「ジューンブライドねぇ‥‥」)
 時折チラチラと中を覗きながら、日向ぼっこの最中も耳はダンボだ。
 ドアを開けっ放しにしていると、存外中の声もよく聞こえたりする。
(「まあ、僕にはまだ早い。というか、第一相手もいないし‥‥あれ?」)
 思わず首を竦めたのは、顔見知りを見掛けたからだ。
(「シャウゼンさんは一緒じゃないのか。ふーん、命短し恋せよ乙女って感じだねぇ‥‥男だけど」)
 何となく面白そうだったので、晶はコッソリ観察する事にした。

 ――一緒にいたいという気持ちにも、幾つもの種類がある。
「ねぇ、アルテスくん。覚えてる?」
 2人の間には、ストロー2本差したアイスクリームてんこ盛りの特大バニラフロート。仲良く一緒に食べながら、逢魔・くるみ(w3h797)は嬉しげに目を細めた。
「昔はボクの方が背があったんだよ‥‥大きくなったよね」
「どうしたの? いきなり」
 怪訝そうな逢魔・アルテス(w3f239)の言葉に、フルフルと頭を振る。
「ううん、何となく‥‥ほら、小さい時、約束してくれたじゃない。『ずっと一緒だよ』って‥‥その後離れ離れになっちゃったけど、こうしてまた会えて‥‥とっても嬉しいなぁって」
「くるみ‥‥」
 大切な大切な幼馴染み。その幸せそうな笑顔に、胸が一杯になる。
「‥‥‥‥うん。僕も嬉しい、よ‥‥」
(「小さい頃の『一緒にいよう』は‥‥本当にただ一緒にいて欲しかっただけだった。でも‥‥今は違うんだ」)
 今は様々な想いを込めて、ただ一筋に。
「きゃっ!?」
 突然手を掴まれ驚くくるみに、少年の思いの丈が迸る。
「これからも、ずっと一緒にいよう。もう離れたくないんだ。たとえ苦しい時でも、悲しい時でも‥‥くるみと一緒にいたい」
 病める時も、健やかなる時も。
「え‥‥」
 富める時も、貧しき時も。
「好きだよ・・・愛してる、くるみ」
 励まし合い助け合い生涯を共に歩む事を、ここに誓います――ずっとずっと言いたかった言葉。
「‥‥ありがとう、アルテスくん」
 抱き締められた腕の中で、ポロポロとくるみの涙が止まらない。
 尻尾を重ねながらの長いキスは、これからの『約束』の証。

 ――他人に関心なんて無かったのに。あの子との指切りが、どうしてこんなにも愛おしいのだろう‥‥。
 レースカーテン越しの穏やかな日差し。光を弾いて焦げ茶の髪に輝く天使の輪が、城島・晋一郎(w3i808)には眩しい。
「‥‥? どうしたの? 晋一郎」
「‥‥別に」
 口調は素っ気ない。でも、ほっぺにクリームを付けたまま、美味しそうにケーキを食べる逢魔・瑞佳(w3i808)を見る眼差しは、ひどく柔らかい。
「‥‥?」
 ハッキリ答えてくれないその様子にコクンと首を傾げて。だけど、こうして彼とお喋りするのはとても愉しいから、瑞佳はずっと上機嫌。
 そんな少女につられて、晋一郎にも微笑みが浮かぶ。尤も、端から見てもそうとは判らない程度だけど。
「‥‥なあ、瑞佳」
 今更改めて、という気はある。でも、約束の言葉は、幾つ重ねても足りないと思うから。
「これだけは変わらず約束する。これからもずっとお前と一緒に居るからな‥‥何があっても」
「うんっ! 瑞佳も! 瑞佳も晋一郎とずっと一緒にいるっ」
 即答だった。犬耳をピョコピョコ動かして、少女は満面の笑顔でハイッと小指を差し出してくる。
「約束、ね?」
「ああ」
 ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら針千本のーます♪
「ゆーび切った♪ ‥‥‥‥あ、あれ?」
 元気よく指切りしようとして、瑞佳は少しビックリ眼。
「‥‥‥」
 絡めた指を離さない。ふと、悪戯めいた色が晋一郎の瞳に過ぎったのは気の所為だろうか?
「‥‥え、えっとぉ‥‥」
 静かに見つめてくる晋一郎に戸惑いながらも、瑞佳は引き寄せられるようにチョコンと彼の肩に頭を乗せた。
 指切りしたままの小指のように、寄り添う2人の髪を初夏の風が優しく撫でた。

「‥‥うーん、眠くなってきた」
 約束の時間はとっくの昔に過ぎ去って。でも未だ待ち人来たらず。
(「ま、信じて待ちますか」)
 待たないですれ違うより、待ちぼうけの方が寧ろスッキリするし。
「‥‥‥‥ぐぅ」

 ――如何なる存在にもけして冒されない。それが、絶対不可侵の聖なる盟約なのです。
 聞き覚えのある曲だった。確か‥‥有名なクラシックだ。
 オルゴールの音色に耳を傾けながら。独特の空気が沈殿した骨董スペースと対照的に、窓から覗く空は何処までも広々と蒼くて‥‥何故か切なくなった。
「‥‥神魔の戦いが佳境の今、これ程ゆっくり寛げられるのは最後かもしれぬな」
「加苗様?」
 心の呟きの筈が、思わず口が滑ったらしい。逢魔・ムンムー(w3c256)の気遣わしげな表情に、加苗・エトゥワール(w3c256)は苦笑を禁じ得なかった。
「全てはこの世に生を賜った瞬間より常に死と隣り合わせている。大事なのは、生きた時間の長さではなく一瞬一瞬の内容に在るのだ」
 繊細な硝子細工のラインをなぞりながら、加苗は静かに本音を語る。
「‥‥我が人生を充実させるのに、確認したい事がある。幾ら親しい間柄でも、大事な事はきちんと伝えねば、相手に理解されないからな」
「何でしょう?」
 神妙な面持ちのムンムーに劣らず、加苗は真剣な眼差し。
「余は軍閥の出である所為か、最後まで戦い続けなければ後悔する性質だ。ムンムー、『余に付いて行ける条件』を知っておきたい」
 最後‥‥最期の時まで。15歳の少女の横顔は、歳に似合わぬ凛とした決意に満ちている。
 対する、逢魔の返答は。
「加苗様が、戦いに死の覚悟で挑む事は存じています。僕は、冥府までもお供させて戴くつもりです」
 まだ少年の域を出ない幼い瞳は、けれど魔皇と逢魔の絆の強さを誇らかに謳っているようだった。
「スピリットリンクは、たとえ身体が滅びようともけして離れる事はありません」
「フフ‥‥」
 笑顔には笑顔で。約束は小指を絡めた指切りで。
「最良の逢魔たる汝が我が生涯の誇りであり続ける事、保証する‥‥契約成立、だな」
 歴史の証人たるアンティークに囲まれて。今、命をも賭けた約束が交わされた。

 ――ボク達に『偶然』なんてあり得ないから。
(「1年、か‥‥」)
 骨董品を眺める時間は、格好の思索の時間でもある。
 成岡・悠真(w3f958)は、この1年を思い返していた。
 出会いは去年の春、大学のサークルだった。谷澤・エチカ(w3f958)とは哲学を討論する仲であり、今では恋人同士でもあるけれど‥‥魔皇と逢魔という、非対等な関係も変わりない。それからの脱却と平和の奪回を目指して戦い続けてきた悠真だが、完全決着はまだ遠い。
(「結婚、か‥‥夢ではあるけど」)
 だから未来がハッキリ見えない現状で、生涯を共にする約束なんて到底出来そうに思えなかった。
 鬱々と悲観的なのは悠真の悪い癖だ。エチカも、そんな彼に慣れてしまったけれど。
「‥‥うん?」
 ふと耳に流れてきたのはオルゴールの調べ。繊細な音色の軽やかな彩り。
「えっと‥‥確かサティの『ジュ・トゥ・ヴ』だっけ?」
「知らない。でも、明るいメロディだから‥‥」
 そう言えばエチカの誕生日だったと、悠真は思い出した。
「気に入ったのなら、プレゼントしようか?」
「あ、うん‥‥だったら、約束」
 今日、誕生日プレゼントを貰う代わりに、半年後の悠真の誕生日にプレゼントを贈る事を。
「‥‥え? それは‥‥?」
「この約束を半年毎に繰り返せば‥‥何時までも一緒にいられるでしょ?」
「!」
 正に目から鱗が落ちた気がした。
 小難しく考えるだけでは、状況が好転する訳もない。
 大切なのは今この瞬間、愛し合っているという想いを継続する為の約束。
「‥‥悠真?」
「判った‥‥約束、だな」
 こんなにも自分に平穏をもたらしてくれるエチカを、悠真は改めて愛しいと思った。

「‥‥寝ながら待つなんて」
 昼も大きく下がって、そろそろ夕暮れ間近。
 文字通り銀藍堂に飛び込んできた逢魔・リアンナ(w3c605)は、晶の寝顔を呆れた面持ちで見下ろした。
 彼女自身、遅刻の理由が寝坊というのも締まらないけれど。バスもタクシーも捕まらない中、やっとの思いで駆け付けてみれば太平楽な寝顔との御対面。
 ちょっと、否かなり脱力ものだ。
(「でも、今日は私が悪いのだし」)
 大遅刻なのに待っていてくれたのは、やっぱりとても嬉しかったから。
(「優しく起こして差し上げましょうか‥‥恋人のように」)
 遅ればせながらのデートの始まり。リアンナはそっと晶の肩に手を伸ばした。