■FIRE DESIRE■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオ |
クリエーター名 |
高石英務 |
オープニング |
「声が、聞こえます」
流伝の泉にその身を浸しながら、泉の守人たる逢魔の伝(つて)は、魔皇たちを見回して、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「福井の地にて、人々の怒りが高まっている様子‥‥高まっているのは、その、煙草が手に入らないというヘビースモーカーたちの怒りのようです。その裏にはグレゴールの影が見え隠れします」
そう一言つぶやくと、伝は魔皇たちを見つめ、あらましを語り始めた。
「福井市の町中、その店先から、煙草という煙草が姿を消しているのです。この状況に、近年の政策によりただでさえ高くなった煙草、それであっても心待ちにしている愛煙家たちの怒りはすさまじく、各店に暴動のように押しかけかねない状況です。
ですが、福井の密(ひそか)からの報告によりますと、おそらくグレゴールが命令を下し、店に卸されるはずの煙草を集めているのだとか。そうして煙草を独占し、愛煙家の煙草を愛する気持ち、自分ではどうすることもできない理由で煙草を吸えなくなっていることへの怒りを吸収するための計画に違いありません」
そこまで告げてふと、ため息をついて伝はうつむいた。
「煙草は人に害を与えるでしょうが、節度を守ればそれを吸うことは自由でしょう。それを、自らの目的のために利用しねじ曲げるグレゴール。これを許しておいてもよいのでしょうか? またこの怒りの感情は非常に大きく激しく、グレゴールの力を増強し高めてしまうに違いありません。煙草はお嫌いかもしれませんが、是非福井に向かい、この事件を解決してくださいませ」
そうして伝は水に浸したその身をゆっくりとかがめて、頭を下げた
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シナリオ傾向 |
調査・戦闘 |
参加PC |
遠野・春樹
佐伯・アスカ
霧山・葉月
斎乃宮・里王
聖・武威
中門・和志
桐島・煉
津久・名
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FIRE DESIRE |
「温度、湿度‥‥ならこのあたりかしら、ね」
キーを叩き、ネット上の地図とにらめっこしながら、佐伯・アスカ(w3a327)はつぶやいた。
そして該当する倉庫の位置をプリントし、後ろの斎乃宮・里王(w3a823)と霧山・葉月(w3a748)、舞華に渡す。
「うわ、はやーい」
「1、2、‥‥これならばすぐに見つかるのでは?」
「あくまで可能性が高いだけ」
地図を見て目を丸くする少女たちに、苦笑混じりで女は微笑む。
「そそ。港の倉庫の可能性もあるしネ。ちょっとした郊外に何軒か、てのも怪しいかな」
桐島・煉(w3e329)が橘をともない扉を開きながら、結果に肩をすくめて息をつく。
「煉。それで、ちゃんと車は借りてきたの?」
「もちろん。お嬢ちゃんたちの好きなの借りてこれたか、不安だけどね〜。せっかくのドライブなのに、サ」
そうして葉月と里王にウィンクする煉。
瞬間、足にねじ込まれるアスカのヒール。
「バカやってないで、行くわよ?」
足を抱えてうずくまる男を尻目に、アスカはさっさと扉を押した。
「おっちゃん、ありがとう」
「おう、ちゃんと学校の勉強するんやで?」
津久・名(w3g183)は店主に手を振るつつ角を曲がった。その先には車とともに待つ仲間たち。
「どうだった?」
「どうも、卸業者のあたりからみてえ。まんま、横に流れてるってよ」
名の答えに中門・和志(w3d137)はミヤとともに、アスカからもらった地図を見てうなる。
「あー、わかんねえ! どう思うっすよ?」
「手がかりがな。ま、俺はトラックの方をチェックしてみるか」
和志の情けない顔に苦笑しながら聖・武威(w3d077)は答えると、停めてある車の方を見た。
「じゃあこっちで先に、倉庫の方あたっておくよ」
「だな、そうしてくれると助かるぜ」
遠野・春樹(w3a106)の申し出に一同はうなずくと、別れて車に乗車する。
「ほら、急ぐんだからちゃんと運転しなさいよ」
「わかってる」
助手席からのアスカの叱咤に、煉は苦笑混じりでアクセルをふかした。車の少ない公道にボックスワゴンがひた走る。
「ゼル、道はこのままでいいのね‥‥そう」
自らの逢魔に尋ねかけながら、女は車内を見回した。
「ああ〜、もうやってらんない!」
その視線の先、換気扇の羽根を前に、大声を上げ葉月は倒れ込んだ。
その横では霧散が賢明に羽根をいじっているが、やはり技術のないものには加工は無理であったらしい。
「これでプロペラ作って、煙対策にしようと思ったのになあ」
「あ、でもォ」
煉がにこやかに応えを上げる。
「敵の煙はシャイニングフォースだからねー。そういうの、関係ないかもしれないヨ」
「ええ〜、なら、早く言ってよー!」
「だって、面白かったんだもんねえ」
煉の忍び笑いを呼び水に、緊張した車内の中に笑いが漏れる。
時をさかのぼること少し。
「ビンゴ?」「みたいだな」
離れたところに車を止めて、遠野と和志は声を掛け合う。
目の前の倉庫にトラックとともに入った男が一人。その風格は明らかに、神の気配を放っていた。
「‥‥あ、名か? ああ、そのナンバーのトラックは、倉庫に入っていったぜ。うん、そう、今見張ってる。早く来いよ。無理はしねえって。じゃあな」
そうして和志は携帯を切ると、遠野を見た。
「あっちに動きはないよ」
「ならいいけどよ」
ぎしりとシートを鳴らし、和志は天井を見た。
「なーんか、やな予感がするなあ」
「直感って奴か?」
「そんなとこ」
春樹の苦笑に、和志も苦笑で答えた瞬間、少年の顔つきが変わった。
「春樹!」
声に4人は、車に迫る炎を見た。とっさにドアを開け、車外に飛び出す。
着弾。
そしてガソリンに引火したのか、車は爆発し炎上した。
「はずしたか」
「てめえ!」
とっさに抜いた少年のイリミネートが火を噴くと、それに体を焼かれながらも男は飛び退いた。
「ひどい歓迎だな」
「そっちが言うか」
盾を浮かせて遠野がにらみつけると、忍び笑いとともにグレゴールは大きく息を吐く。
「失礼。俺はスモークと呼ばれている。ごらんの通りの、ヘビースモーカーでね」
そうして懐より煙草を取り出すと、火をつけ、大きく燻らせる。
「吸いたい奴に吸わせないなんて、何考えてんだよ」
「俺は皆の健康を気遣っているだけだ」
春樹の言葉にスモークは失笑し、大きく煙を吐き出した。
「体はともかく、心はひどいことになってるじゃねえかよ!」
叫ぶと和志は魔力を込め、冷えた弾丸を撃ち出した。だがそれは男に届くより先に霧散する。
「フレアケージ」
焦る一行に向けた声とともに、スモークから漏れた煙が停滞する。
「俺のシャイニングフォースを込めた煙の空間だ‥‥さらばだよ、魔皇くん」
「あれか!」
車を走らせる聖の目に、よどんだ煙の固まりが入ると、その中で数度、火線が走るのが見える。
「行くぞ」「おう」
用意をうながす男の声に応えて、名の腕が、醜い爪の腕に変化した。
そのまま聖はアクセルをふかし、一気にハンドルを切ってタイヤを滑らせる。土煙を上げながら車が横滑りし、煙をすべて薙ぎ払うように、空間に突っ込んだ。
「新手だと!」
スモークが車をかわし苦々しげにつぶやくなか、ドアを半開きにし盾にすると、ガトリングを回転させて聖が弾をばらまく。
その弾幕を横切るように、名の爪風がスモークを襲い、背広をざくりと引き裂いた。
「ち。ピース!」
「だから、お体に触ると申しましたのに」
グレゴールの声に応えてふわりと後ろから飛び現れた女がにらみつけると、爪を振るわせ、少年の体が彫像のように固まる。
「大丈夫か」
「何とか」
車の影に駆け込んだ春樹が、長大な魔皇殻を取り出し肩に抱える。あわせて和志も後ろにつく。
「火にさえ気をつければ、大丈夫だ」
「煙さえとっぱらっちまえば、戦闘力は高くない」
体にいくらかの傷を負った少年たちは、強い口調で口々に、相手の力を言い立てる。
「そうか‥‥鈴音!」
自らの逢魔が突っ込むのにあわせ、聖と遠野は車の影より弾幕を張った。
動かぬ名をコオリが引き寄せるのを確認すると、和志も霧を喚び出し、スモークが投げつける煙草の火を惑わせる。
「スモーク、そろそろ引き時では?」
「仕方ない。魔皇たちがこれほど集まるとは思わなかった」
苦くつぶやくと、グレゴールは振り返り、全力で走り始める。
「逃がすかよ!」
魔皇たちから網が、冷気が飛んで男と女を縛ろうとするなか、春樹が風の魔力をショルダーキャノンから撃ち出した。
避けることに集中したがゆえの一瞬の遅れが、スモークの左腕を吹き飛ばし、風の中で切り刻む。
「く、そう」
大きく吐き出した煙がスモークの体にまとわりつく。
そして煙をまとうとグレゴールは走り、道路へと飛び出した。向かうはその先にある駐車場のトラック。
「おっと、させないよっと」
小さなつぶやきとともにワゴンがグレゴールとトラックの間に入り、急ブレーキをかける。
車の勢いが止まるよりも早くドアが開くと、アスカの手から呪縛の光が飛んだ。それは煙だけを縛り、戦士を縛ることなく相殺される。
にと笑うグレゴール。
冷たく微笑む女。
「はい、残念、ご苦労様」
言葉とともに日がかげると、車の上から二人の少女が宙に舞う。
「いっけえ!」
「煙草ごと、燃やして差し上げます」
葉月の巨大な剣が全力を持って叩き込まれる。
里王の刃が炎を帯びて振るわれる。
その二つの斬撃がグレゴールで交差すると、男は惚けたまま、最後の煙草を取り落とした。
「スモーク!」
「残念だね美人さん、でもさよなら、ダヨ♪」
タロットに口づけし、煉は魔力を込めてそれを放った。逃げようとするファンタズマにアスカは闇を叩き込み、ひるんだところでタロットが四散すると、死の欠片が天使の全身を貫く。
命を止めて、天使は戦士の上にどさりと倒れ込む。
「何とかと煙は高いところが好きらしいわね。天までいけて、よかったじゃない」
女はつぶやくと、肩をすくめてその場をあとにした。
「はい、ええ、こちらに煙草があります。え、誰だっていいじゃないですか」
そうして春樹は携帯を切ると、倉庫の奥を見やった。
「いいの、ないわねえ」
「どうやら国産だけしか抑えてなかったようだダネ」
レアな煙草を探しながら、アスカと煉はしょうがないとため息をつくと、手近な煙草を懐へ入れた。
「では、俺も一つ」
「少しくらいパクったって、ばれねーよな」
聖と和志は苦笑しあうと、やはり手近なそれを手土産にする。
「ほんとは、このまんま燃やしてえんだがな」
「まったくですわ、煙草なんて‥‥」
名と里王は仇を見るような瞳で山と積まれた倉庫をにらんだ。
「ま、吸い過ぎ注意、ポイ捨てはだめだってのを守れば、俺はいいよ」
「あたしも、そう思うなー」
「確かに吸う吸わないは個人の自由ですけど‥‥」
遠野と葉月の言葉に、里王は言っても無駄とのように声を潜める。
「さ、早く帰りましょ。業者と鉢合わせになったら大変」
アスカの言葉に一同はうなずくと、それぞれ車に乗車して、倉庫をあとにした。 |