■《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【G】《The Last Holly War》Beyond the gates of infinity■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
高石英務 |
オープニング |
「イヤハヤ、面白くなってキマシたネエ」
自らのネフィリム・パワーのコクピットの中で、ジョン・スミスは鼻歌交じりで笑みを浮かべると、機体がその身に帯びた五本の刀を確認した。
「これを使うノモ久しぶリデス‥‥使う相手ガイレバ、ですケドネ」
格納庫の中で、開けられたハッチの向こう、入ってくる強めの風とともに、目に映るのはこの世界に姿を現している蒼嵐の隠れ家・影の城。
そう、いまそこには最後のあがきを目論む魔皇たちが、雁首揃えて待ち構えているのだ。
「シカシ、残念ナコトです」
「どうしました?」
彼の導天使、ジェーン・ドゥは、グレゴールのつぶやきに静かに問いかける。
「これで魔皇サンタチガ滅びタラ、モウ殺せなイジャないデスカ」
「‥‥?」
「HAHA、気ニシナイデください。独り言ですヨ」
きょとんとした表情のジェーンに、ジョンは肩をすくめつつ帽子を被って視線を隠した。
『まあ、やっかいだというのはわかってらあな』
清洲の密・虎の目(このめ)は、忙しい中突然話がしたいと電話をかけての第一声、魔皇たちにつぶやいた。
『敵は減ったとはいえ400は越えてる。そこに切り込まなくちゃならねえんだ、やっかい千万って奴よ』
欠けた歯を通る息の音が聞こえるほど、男は受話器に接しているのだろうか、その音は耳障りに響くほど、男は熱のこもった喋りをみせていた。
『だが、勝たなくちゃならねえ。最悪でも、やっかいな奴は始末しなくちゃならねえ‥‥命と引き替えになっても、よう』
その一言の後、こちらの沈黙に気がついた男は、その意図が間違って取られたのかと思い、努めて明るく声を出す。
『命を無駄にしろ、ってことじゃねえ。命を賭けに戦えるか、ってことだ。
50年前、戦争の時は帰りたい、帰りたいって叫んでるやつぁたくさんいたが、帰って来れた奴は肝が据わった奴か、運のいいやつだけさ。ただ叫ぶだけじゃなく、目的を違えず、進めるような奴。先を読んで、未来に進める奴』
静かに懐かしむように、逢魔はつぶやくと、真剣な口調に戻り最後に告げる。
『特にてめえらが相対するのは本隊の中核‥‥油断ならないジョンとかいう野郎だ。グレゴールもめちゃくちゃおる。賭け方、間違えんじゃねえぞ? 葬式を出す気は、まだねえんだからな』
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シナリオ傾向 |
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参加PC |
ティエン・レイハート
佐伯・アスカ
暁・夜光
あいだ・黒緒
須藤・明良
匂坂・嵐
プラチナ・ハック
加苗・エトゥワール
御堂・陣
ヴァレス・デュノフガリオ
流堂・音衛
桐島・煉
G・ヘイウッド
楸・翔一
篠崎・公司
橘・聖
神薙威・志信
アマルダ・フェイシス
レイナ・アルスター
メシア・オルレアン
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《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【G】《The Last Holly War》Beyond the gates of infinity |
「間に合った!」
土煙を巻き起こしてバイクを停めると、匂坂・嵐(w3b361)は叫び、影の城へと駆け込んだ。
城は騒然としているものの、未だ殲騎のスクランブルは、ない。
「当分、バイクは乗りたくありませんわ‥‥」
「早かったな」
「おうよ」
逢魔・真珠(w3b361)の青ざめた顔を笑い、壁にもたれた御堂・陣(w3c324)は嵐と視線を交わす。
「ジョン・スミス‥‥奴と直接の面識はないけどよ、関わらせてもらった福井のことがあるからな。事の最後は見届けたい」
「俺も、似たようなものだ」
返答、男は逢魔・ハルナ(w3c324)より手紙を受け取ると、封の破られたその中身を見せつける。
それはジョーカーに乗せられた流暢な『John Smith』の文字。カードを二つに切り分けただけの手紙に、男は不適な笑みを浮かべる。
「今回は知り合いも多い」
慌ただしくなり始めたその場に、プラチナ・ハック(w3b857)は白夜を伴い姿を見せた。
「親しい部類に入る者もタダイ撃破に向かっている。無事に皆で、杯の一つでもかわしたいところだ‥‥長き神魔戦争もここが正念場。一つ、気合を入れていくか」
「そういうこった」
声にうなずき、ため息とともに言葉を差し挟むのは楸・翔一(w3g177)。廊下に、男の声は静かに響き渡る。
「戦うことで平和になるとは思えない。が、そのせいで『ムーちゃんの道』が壊れるのは俺が嫌だ。故に、あのチンピラにはこの辺りでおうちに帰ってもらわないと困るわけ、だ」
「勝手だな」
「‥‥正解かどうかは知らんが――これが俺の道、だな」
「誰にもわからんさ。何が、正解なのかはな」
翔一のおどけた答えを受けて、一同は城の奥へと歩み出した。
「ちょっとしたピクニックみたいでしょう?」
城より南、離れたところの野辺の森。
想いは伝わるのだろうか、茶会とは言い難き木陰の集いにて、メシア・オルレアン(w3i863)はともに戦うものたちに紅茶を配っていた。
「本当はここに、姉さんもいるはずだったんだよね」
魔法瓶よりの紅茶とその湯気を見つめ、橘・聖(w3h368)が口にした言葉に、周囲に緊張が走る。メシアがレイナ・アルスター(w3i841)に渡そうとしたカップが震え、茶の透き通った液体が細波を立てる。
「‥‥大丈夫よ」
そんな少女の手を握り、女は静かに微笑んだ。
「必ず、奴に勝つから」
「そうよ」
決意と口内を潤す暖かい感触を楽しみ、アマルダ・フェイシス(w3i347)はメシアの髪をすく。
「生きて必ず戻りましょう。そして、今度はちゃんとみんなでテーブルを囲むの」
「きっと、姉さんも見ててくれるはずだよ。がんばろうね」
「‥‥はい」
橘と二人、元気づけようとしているアマルダを見ることもできず、メシアは静かに震えていた。
その時、影の城の前にて明るい花がいくつも開き、曇天を切り裂くように明るくする。
「‥‥明けぬ夜の闇に 息を切らし駆け抜けた」
メシアのつぶやきに、一同は視線を向けると、少女ははにかみ、空を見つめる。
「聞こえませんか? 希望の、歌が」
「‥‥そうね」
レイナは気丈な笑みに笑みで応えると、最後の時に向かうため、南へと駆けた。
曇りの空と地に這う森に、天に地に殲騎と魔皇、逢魔は散らばる。
「さあ、来るがよい」
その中、加苗・エトゥワール(w3c256)は静かに告げてはだけた軍服の襟を整えた。
「ジョン・スミス‥‥彼奴が侍魂を持つというなら、余が漢魂、見せてくれん」
「その心意気です」
サラシとその下にある褌のしまりを確かめた女主人に逢魔・ムンムー(w3c256)は応じると、周囲への警戒を強くする。
「5本の剣ね‥‥五色なら、白の剣をもらいたいところだけど」
「‥‥もらってどうするんです。鉄拳がわりですか?」
流堂・音衛(w3d142)のつぶやきに皮肉気味に応える逢魔・ナーサティア(w3d142)の額を、女はむっとしつつ指で弾くと、空を見上げた。
「さて、どーすっかな‥‥」
「戦いにのめり込みすぎるなよ。帰って来れなくなるからな」
舌なめずりをするような須藤・明良(w3b343)に、あいだ・黒緒(w3a918)は紫煙をくゆらせる。
「これが終わったらみんなで温泉に行くんだからね、気をつけなさいよ!」
「わかってる。あれと、俺は違う‥‥あれに、侍の心はねえよ」
逢魔・芽瑠萌(w3a918)の小さな注意に苦笑しつつ、明良は胸の内を吐き出し、心を高ぶらせた。
「アララ〜」
サロメの中、暇つぶしに繰るタロットはふたたび『審判』。苦笑に肩をすくめ、桐島・煉(w3e329)は佐伯・アスカ(w3a327)に声をかける。
「ドウナルかわからないケド、決戦にふさわシイカード、ダヨねえ♪ これであのイケ好かない外人さんともオサラバ、だといいナア」
「どっちがいなくなるのかしらね。借金は払ってから、死になさいよ? 葬式代まで出す義理はないわ」
「ハイハイ」
敵は、まだ現れず。緊張は魔皇たちを縛り、心に影を落とす。
「そろそろ、この宿業も終わりでしょうか?」
「‥‥何時もながら軟弱なことだな」
G・ヘイウッド(w3f107)の漏らしたつぶやきを、なじるように逢魔・フェク(w3f107)は受け止めた。
「‥‥この身は代替であり紛い物。正統に抗って滅ぶなら、それは‥‥私が兄の代わりでなかった証」
「反吐が出る。お前はお前で、それ以外ではない」
「‥‥そうでしょうか?」
その問い返しに応えられる者は、誰もいない。
「そろそろ、時間のようですね」
向こうに見えるレプリカント魔凱殲騎の様子とインカムからの声に、篠崎は皆にうながすと、空を白く埋めるネフィリムと相対する。
「ひ、ヒーローが一緒なら」
神来の中おずおずと、神薙威・志信(w3h475)は陣が駆る殲騎、Jブレイカーを見つめた。
「‥‥ま、負ける、気が、し、しませんね‥‥! じ、ジャッジマンさんの時も、そうでしたから!」
「おだてるなよ」
まんざらでもなさそうに男は笑うと視線を鋭くし、戦いの始まりを見つめた。
無数のミサイルが火の花を咲かせ、同時に動き出した殲騎を見て篠崎・公司(w3g804)はパルスマシンガンを構えると、インカムに向けてゆっくりとつぶやく。
「よろしいですか?」
「OK」
「3、2、1‥‥どうぞ」
冷静なつぶやきの終わり、ガンスリンガーが手にしたパルスマシンガンを放ち、弾幕を張った。
同時に魔凱殲騎の背のブースターに命が宿り、空気を切り裂く叫びを上げる。
「精鋭だと? ラインホールドに比べたら、てめえらなんざ怖くねーんだよ!!」
ネフィリムを囲む6つの力が解き放たれ、音速を越え、白き面は黒き三線に分断された。
陣は真狼風旋で一瞬加速、立ちはだかるネフィリムをやり過ごすと、すれ違いざまにクロムブレイドで切りつける。
「タダイは空達が倒す。俺達はジョンを倒す。‥‥全てを薙ぎ払え、白銀の死神!!」
ティエン・レイハート(w3a102)の意志がアンフィニを動かし、その手にある巨大な鎌を振りかざすと、切り開かれた道が戻る前、死の刃が通り過ぎた。
腕で、盾で受け止めようと構えたネフィリムが、悲鳴を上げる間もなく砕かれ宙に欠片を飛び散らせ、その向こう、反転し戻ってくる魔凱殲騎にあわせて、嵐のエビルアガットが飛び込み咆吼をあげる。
「さあ、戦いの時は来た! 今こそ我らの力、見せてくれん!」
アプスーと共に高らかに宣言し、嵐の真衝雷撃にあわせて加苗は角笛を吹き鳴らすと、その衝撃にネフィリムは体勢を崩す。
「そこ!」
逢魔・白夜(w3b857)が叫ぶ1秒前、ハックは即座に弓を発射、翼で制御し体勢を変えつつ、戦炎の中に見える敵機を順に撃ち抜き、手傷を与えていく。
「‥‥どーせ聞いてくれないんだから」
「遅いんだ」
逢魔の文句に冷たく返答。そんなハックを睨むように、白夜はつぶやく。
「ハク様‥‥私‥‥彼氏いないまま死ぬのやだからねっ」
「‥‥バカ」
言葉に苦笑を漏らし、機体を急制動。ヴァルフォードが空を切り、矢が空を裂き、敵を貫く。
「まあ、そのバカを無事に返すためにも、俺は死ねんな‥‥」
群がりだした敵に向けて男は魔力を集わせると、魔力弾が幾重にも空に刻まれた。
「ジョン」
名古屋メガテンプルムの格納庫、五本の剣を備えたパワーの中で、ジョン・スミスは目を閉じていた。
「‥‥戦況ハ?」
「互角、でしょうか‥‥個々の練度と、連携が違います」
「デショウネ。AXDIAとヤラが出ているのデショ?」
返事も待たずに男は大声で笑うと、帽子を被り直し、パワーを動かして戦場を視界に収める。
パチン。パチン。
指を鳴らし、幾度も鳴らし、そのタイミングを計る。
戦場に光条が走り、幾多の火の花が咲こうとも、男は指を鳴らす。
黒き点が白き面を切り裂く間も、ただ指を鳴らす。
「‥‥Killing time has come! OK,Let’s go!」
指の音を止め、哄笑と共にジョン・スミスは戦場へと滑り降りた。
アスカの放った幻魔影に合わせ、サロメは真撃破弾を叩き込むと、魔力の爆発に追撃、暁・夜光(w3a516)はパルスマシンガンで牽制する。
「まだ、出てきませんね」
「あれが普通に出てくると思う?」
「確かに」
夜光のつぶやきに冷たい答え、アスカの声を聞いて男は苦笑すると、その目を凝らした。五本の剣を備えたネフィリムは今だ、見えない。
「マッタク、早くして欲しいよネエ」
ネフィリムから距離を取りつつ煉は弓を連射し、くすりと笑んだ。
「そうやって油断してると、何があるかわから‥‥」
一度引いた敵の動きに警戒し、嵐が声を上げたその時だった。
下方から投げつけられた何かがエビルアガットの頭部に命中し、一気に爆散させる。
「Bingo!」
「なんじゃ、今のは!」
「石デスヨ‥‥タダの、石」
地上にてその手で岩とも言うべき石を弄ぶと、パワーはそれに光を込めた。
ネフィリムの鮮やかなモーションに続いて高速で投げつけられた石がアプスーの腕を砕くと、ジョンは笑って刃を抜いて、一気に飛び上がる。
「‥‥!」
崩した体勢に追い打ち、アプスーが斬撃を受け止める。だがもう片方の刃がするりと、コクピットを貫いた。
「ちょっとネー‥‥女の子ダヨ♪」
視線を鋭く、サロメが怨讐の弓を放ち、デュランダールのワイズマンクロックが追撃を狙うパワーを遠ざける。
「貴様、侍の魂を‥‥」
「ジョーダン!」
加苗の息荒い叫びを、心底楽しそうにジョン・スミスは嘲った。
「誇りナンテのハ、平和ガ言える戯レ言デス‥‥獲物が持ってるナンテ初めテ聞きましタヨ」
そしてジョンの声にあわせ、整然と、ネフィリムたちが整列した。
「Fight,Knights.The way to paradise is at hand.This war determines all.March! Give the death to Demons!」
「まったく、処置無しですね」
公司は言いぐさに吐き捨てながら、立ちはだかるネフィリムへとパルスマシンガンを乱射した。その弾幕を越えて、逢魔・美影(w3g804)は影の蝙蝠を喚び出して向かわせると、ひるんだ陣形を飛び越えて、4機の殲騎がジョンへと肉薄する。
「オラ、行くぜ!」
「私はできる精一杯で、生きてみせる‥‥姉さん、みんなを守って!」
ストレイブラッドの中、逢魔・聯慈(w3h368)がMDを入れれば、聖の誓いに色を添えるはSTAY FREEの歌声。
走り出そう 宛ては無くても
4方に分かれて空を切り、EDENSHADEがデヴァステイターを乱射。パワーは刀を振り回し、弾丸を弾いて後退する。
夢など無くてもいい ただ前を見ていること
「貴方にプレゼントを用意してるのよ、楽しみにしてて頂戴」
「Great!」
急加速したBLASTERのクロムブレイドを受け止め、後方から入れ替わり斬りかかる聖のグレートザンバーを、ジョンは逆手の刀で受け止める。
火花を散らして弾き空中回転、逆さまで二機を真下に捕らえると、一直線に迫る。
メシアのSEVENTHSIGNが魔力弾を解き放つものの、着弾を意に介せず飛び込んだネフィリムは体を回転、台風のように二機に切りつけ、装甲の欠片を雨と舞わせた。
そのまま鋭角にネフィリムは動くと、後方距離を取るメシアを獲物と狙う。
割り込み、斬撃を機体で受け止めつつ、アマルダがデアボリングコレダーを唸らせて叩き込めば、男の舌打ちと同時、ネフィリムの腕が焦げて白き機体を黒く染める。
「ウットウシイですネエ」
放たれたパルスマシンガンを腕を交差させて防ぎ、ストレイブラッドの斬撃をかわして、天空よりジョン・スミスは魔皇たちを見下ろした。
「もうソロソロ、ダンスハ終わリニしマセンカ?」
「男を焦らすのも女の愉しみだけど」
挑発にゆっくりと距離を確かめ、レイナは吐息と共に微笑んだ。
「そろそろかしら。私たちの奉仕、骨の髄まで味わって頂戴」
四機が動いた。
パワーは二刀を抜き、一発シャイニングショット。それを受けながらも殲騎は魔力を高める。
「さぁ、堕ちなさい、痛みという快楽に身をゆだねて」
四機から同時に放たれたのは真吸魂邪。放たれた魔力はパワーを内部の男を蝕もうとする。
だが、ジョン・スミスの唇は冷酷に言葉を紡いだ。
「メガレジストフォース」
放たれた言葉が膜を作り上げ、DFを遮断する。
即座に神機巨兵が刀を投げつけると、猛禽の如く獲物に向けて飛び降りる。
「お姉様!」
メシアがレイナの前に飛び出し、魔皇殻を交差させて刀を受け止める。だがその一撃は腕を破壊して胸を貫き、殲騎を大地へと吹き飛ばした。
「メシアさん!」
「Hi」
ストレイブラッドの後ろに迫ったジョンは刀で胸を貫き通すと、殲騎を盾に他の二機へと近づく。
「AHAHAHAHA!」
哄笑、ストレイブラッドごと突進し、レイナのバランスを崩すと、そのまま抜刀、二機ごと刃で貫いた。
「ジョン!」
刃を捻り、止めとばかりにもう一刀を抜いた隙、アマルダのデアボリングコレダーが刀持つ手を感電させる。
その腕をだらりとさせ、舌打ちしつつネフィリムは後退。
「待ちなさい!」
「Oh‥‥イインデスカ、Sisterは?」
そしてジョンは嘲り高速でその場を離れた。
「マ、所詮ハ小部隊‥‥囲めバ終わりデス」
ジョン・スミスが冷徹に声を響かせれば、波が広がるようにネフィリムは応じ、動きを封じるように壁を作る。
「なんだよっ!」
「どいてなさい」
ティエンの舌打ちを聞いた女がカルカラオームより真魔力弾を解き放つと、爆発に包まれた神機巨兵に、巨大な鎌が叩きつけられた。
「もらったぁっ!」
「甘いな」
二機を犠牲に、三機目が受け、四機目が槍で突進すると、だが逢魔・リューク(w3a102)の魍魎の矢に神機巨兵は撃ち抜かれ、素早く抜き放ったクロムブレイドに切り裂かれ空から落ちていく。
「Hum」
一つ笑い、そして飛び来る赤き流星に気づき、グレゴールは指を鳴らした。
反応した十機が球状にジョンを取り囲み、全周囲を警戒すると、スミスは刀を構えてにやりと笑う。
「ふざけてやがる」
「どうします」
「‥‥頼めますか?」
距離を取り滞空するJブレイカーに尋ねながら、篠崎は周囲を確認した。
「‥‥OK、行くぜ!」
「はい!」
「では」
返事に一瞬早くガンスリンガーが動き、続けて陣は速度を上げる。
振り回した男のツインブレイドがネフィリムを下がらせた隙をくぐり抜け、殲騎は速度を上げた。
空気の奔流を抜けながら魔皇は両腕に意識を集中し、角に魔力を集わせる。
急速機動、生み出されたソニックブームで敵の列を乱してJブレイカーは下方からパワーへと突進した。
「方向ヲ制限スレバ」
ジョンが流れるように視線を向け、その刀を突きつける。
「対応も楽デス」
「なめるなよ!」
刃を両腕で受け止め、そのまま勢いで殲騎はパワーを押し切る。
高速で駆ける二機に巻き込まれネフィリムが数機吹き飛ばされるのを確認するより早く、角に集った魔力がネフィリムの腕を貫いた。
「ナカナカのパワーですネ!」
「切り札は最後まで取っておくもんさ!」
「ジャ、そっくりオ返しシマスよ」
殺気。
今片方の腕に握られた刃がメガフォーリサイトの力を得て叩きつけられると同時、Jブレイカーは失速し、パワーはがたつく腕を押さえながら上空へと向かう。
「口のワリニハ、大しタことナイデスネ」
「そうでもないさ」
自らの傷よりも血濡れのハルナを心配しつつ、陣は崩れ落ちながら不敵に笑う。
「悪いが、あんたの相手は俺じゃない」
「!」
「もらったぁっ!」
後方より気合い一閃、深紅のロンドのグレートザンバーが、ジョン・スミスのネフィリムの片腕を完膚無きまでに砕いた。
「Shit!」
吐き捨て、ジェーンに牽制のシャイニングショットを撃たせつつ、ネフィリムは空間の有利を取らんと動く。
「落ち着いて、冷静にね!」
「わかってらぁ!」
明良のわかってない返事に芽瑠萌と黒緒はため息をつくと、牽制のDFが空を裂いた。
「ほら、楽だろ?」
「え、ええ、そ、そうですね!」
神来の起こした羽風に体勢を崩した敵を、翔一は輪廻の巨刀で切り裂いた。そのまま動きを止めずに周囲を確認し、二人はジョンの動きを探る。
「奴の、牽制になればいいのだがな」
引きつけるようにつかず離れず、ネフィリムのライフルをかわす間に、逢魔・忍(w3h475)は状況を分析する。
「ほらほら、鬼さんこちら!」
「‥‥その余裕、どこまで持つかな!」
挑発に、突出した一機が剣を振るった。
翔一が受け、志信がクロムブレイドを合わせて振るう。それを盾で受けると、グレゴールは近接距離からのシャイニングショット。
「ちっ」
「畳みかけろ」
魔皇の舌打ちに合わせるよう、ランスを構えた数機のネフィリムが横一列、速度を上げた。
飛び越えるように逃げる二機に先ほどのネフィリムが追撃、剣を振るう。
「あんた、なかなかの腕だね」
「あの男にいいようにされるのは癪だが」
鍔迫り合い、翔一とグレゴールが言葉を交わす。力がずれ、刃が火花を散らして二機が離れる。
「力は本物だ‥‥見るがいい!」
「そ、そんな!」
真闇蜘糸でネフィリムを捉えつつ、哄笑の先に見えたもの。それはジョンと組み合い、そして地に落ちていく魔凱殲騎。
「頼みの魔凱殲騎とやらも、これで終わりというわけだ!」
「そんな訳あるかよ!」
「‥‥新手っ!?」
否定するかのごとき絶叫。
動きを止めたネフィリムが鎌で命を刈り取られれば、現れたのは魔凱殲騎なるブラッディネスト。
「間に合った‥‥これで、最後なんだからな!」
「やれやれ」
突撃するヴァレス・デュノフガリオ(w3c784)を見て苦笑すると、輪廻は刃を構え共に走る。
「レミさんの仇は、俺が取る!」
「できるかしら、坊や」
振り下ろされた魔凱の鎌を避け、その柄にまとわりつくように駆け上る神機巨兵。
「まだ、距離は大丈夫です」
「よっし!」
逢魔・シーナ(w3c784)の声にあわせて放たれるはワイズマンクロック。だがそれを腕一つと交換して、ネフィリムは槍を突き出した。
「残念」
「なっ!?」
その柄を翔一はグレートザンバーで叩き折ると、躊躇した相手に神来がブーステッドランチャーを撃ち込み、沈黙させる。
「ありがとよ」
「まだ、礼は早いかなあ」
群がる敵に翔一とヴァレス、二人は笑みを浮かべる。どちらからともなく一つの歌詞が口をつく。
明けぬ夜の闇に 息を切らし駆け抜けた
「‥‥こ、この戦いが」
「どうした?」
聞こえた歌と戦う二人を見つめ、志信は小さくつぶやいた。
「‥‥い、何時終わるとも知れなくても。し、信じて、進むんです、ね。‥‥そうです、こ、これが、僕の信念、生き様です」
納得し、魔皇は殲騎に呼びかけて、そして二人は三人となる。
微かな光 振り払うように 冷たい風まといながら
「か、隠す事なんか、ない‥‥ですよね、褌のお二人が言いたかった事も」
「‥‥まあ、信じるものができたのだから、よしとしようか」
「行くぜ!」
「おうよ!」
「はい!」
忍のつぶやきの元、援軍に動揺するネフィリムに殲騎は切り込んだ。
「撤退だと?」
下がり出すネフィリムに真凍浸弾を放ちつつ、ハックは疑問を口にした。
「どうやら、テンプルムに誰か切り込んだみたいね」
「アラ、よくやるネエ」
ヴァルフォードの横にファントムとサロメが寄り、アスカと煉はつぶやくと、誰ともなく追撃のために魔力を集わせる。
「HA‥‥今日ノGameは、終ワリですカ」
「させるかよ!」
せせら笑い後退するジョン・スミスに向けて、ティエンが吠える。
大鎌を振りかざすアンフィニの前に立ちふさがるネフィリムを、薙ぎ払いつつ少年は進む。
「逃げるか、ジョン!」
「Yes。Meは、楽しみたいんデスヨ‥‥全テノ果ての果てニアルものヲ、ね」
「‥‥そうですか」
「おい?」
グレゴールの答えを聞き、顔面を抑えながら、ヘイウッドは譫言のようにつぶやいた。
次の瞬間、フェクの制止も聞かずデュランダールは神機巨兵の壁に向かい、ワイズマンクロックを飛び込ませる。
「どうした!?」
「どうしたんでしょうね‥‥全ては混沌だ‥‥私も、兄さんも、全てを蝕んでいる」
「気ヅキマシタか?」
サングラスの向こうの瞳を光らせると、ジョン・スミスの前の道が開けた。狂気と狂気が向かいあい、二人の哄笑が広がっていく。
「嬉シサモ」「悲しさも」「全てハ狂気に通ジル‥‥」
兄弟が笑いあい、言葉を交わす。
「グレゴールモ、魔皇モ、全ては狂気なのデスヨ‥‥人間のネ」
「兄さんっ!」
「‥‥先走るな!」
逢魔の制止の声は届かなかった。ネフィリムにしがみつこうとする殲騎の腕が切り飛ばされ、笑いと共に放たれた真六方閃が敵を灼く。
「だから‥‥私は兄さんに殺されたいのかもしれない」
その声が終わると同時、閃光弾がハッチを破壊した。
「ヘイウッド‥‥」
ゆっくりと迫る巨大な刃を前に、フェクは静かに目を閉じる。
「せめて、永遠を彼らに与えたまえ主よ、絶えざる光が彼らを照らしますよう」
そして、刃は寸分違わず肉を引き裂き、デュランダールの息の根を止めた。
「‥‥ジョン・スミス!」
プロメテウスが男の叫びに応じた。逢魔が止めるのも聞かず、開いたままの口を通り、殲騎はネフィリムに肉薄する。
「約束につきあってもらいましょう‥‥最初で、最後の!」
「‥‥Welcome to the Wonderland! I welcome you‥‥」
襲い来るプロメテウスとその後に続くアンフィニに、周りを動く深紅のロンドに、ジョン・スミスは微笑みかける。
「さて、覚悟を決めるときが来ましたね‥‥頼みますよ!」
「おい、なにすんだよ‥‥!」
ティエンの疑問より早く、その紫の殲騎は疾く駆けた。放たれる光弾を腕でかばい、そして獲物を狙うように夜光は目を細める。
葛藤の鎖が音も高く正確に投げつけられ、絡むと同時に殲騎はタックル、腕を羽交い締めにして相手の動きを封じる。
状況に舌打ちし、ジョンはハッチを開くと、そのまま殲騎へと風に体をなびかせて降りる。
「‥‥Bye」
光り輝く刀がハッチ越しに突き入れられた。確かな肉の感触が、命を仕留めたことを確実に示していた。
だが。
「!」
「これしか‥‥思いつかなかったんですよ」
ハッチ越し、勝ち誇ったような声が血の泡と共に漏れる。そして、プロメテウスに魔力が集う。
「これで、終わりですね」
「‥‥You are my understanding and friend‥‥Hey,Lunatic」
「‥‥さあ、今です!」
「くっそぉっ!」
夜光の叫びと同時、コクピットを中心に真撃破弾が爆裂した。
アンフィニは言葉に従い即座に距離を詰めると、大きく鎌を振りかぶり、殲騎とネフィリムを同時に薙ぎ払う。
爆発と斬撃の中、右半身を削り取られたジョン・スミスは、落下しつつこみ上げる血を手で押さえた。
「Hey、ジェーン!」
半死半生のファンタズマに手を伸ばす男に、殲騎の影が静かに射す。
「この間の宿題の答え」
近づく殲騎にあわせ、逢魔・ナギサ(w3b343)が伝声の歌声で囁きかける。
「私も最初は目を疑い、次に笑った。ねえ、自身も正義も何も信じていない『無為』の死神がどうやって勝つというの? 須藤明良は『正義の味方』よ」
「落ちろ、ジョン・スミス!」
「HAHA!」
理解と共に最後の一撃が交錯した。カウンターの一撃で殲騎のコクピットをひしゃげさせながらも、グレゴールの体は千切られて、大地へと落ちていく。
「‥‥面白カッタですヨ?」
壊れたハッチの向こう、荒い息で睨みつける血塗れの明良に、落ちるサングラスも戻せず、グレゴールだったものはつぶやく。
「デモ、アナタタチも私タチモ人間デス‥‥私の狂気ハ、私だけデハナイ。見タデショウ? ‥‥信念で、ドコマデ抑えられるのデショウネエ。The ugly beast‥‥?」
その一撃は、タダイの元に集うものたちへ。アンフィニが血塗られた大鎌を振るい、そして投げつける。
「あとは君達の仕事だ‥‥頼んだよ。皆‥‥」
薙ぎ払われる敵を見て、その鎌を取りに戻ることなくティエンはつぶやいた。
最後の決着はまもなくだろう。だが、負傷したものたちを放っておくわけにはいかなかった。
「早く、下がれ」
頭部が破壊されたまま戦い続けていたエビルアガットの中、警戒に当たる嵐が叫ぶ。音衛のカルカラオームが負傷者移送の警備につく。
「‥‥あんたの奢りで、ちゃんと飲めるといいわね」
「‥‥そうだネエ‥‥俺の奢りハ、イタイけど」
いつもに比べ静かに、アスカと煉はつぶやくと、魔皇たちは名古屋メガテンプルムと同様に後退を開始した。 |