■《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【T】《The Last Holly War》The Pride of the Tyrant ■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
高石英務 |
オープニング |
「彼奴らめ」
名古屋メガテンプルムの執務室を辞し、廊下を歩く途中、大天使・織田信長(w3z029)は自ら顔左半分をなぞり、歯噛みした。足はなんとか間に合って再生したものの、だがその火傷は今だ治らず、焼けただれている。
「あの銅鏡と我が魂‥‥本能寺での呪法をまだ伝え残しておったとは‥‥!」
顔が歪み、拳が握られると、立ち止まった信長は全力で壁を殴りつけた。その一撃に一瞬地響きがしたように、廊下が大きく震える。
「‥‥まあいい」
ふたたび歩き出して、信長は低く、声を絞り出す。
「我らがテンプルムの精鋭にて、影の城もろとも叩きつぶしてくれよう。わしの誇りを砕けるというなら、砕いてみるがいい」
笑いを浮かべると、信長は窓よりすと視線を巡らせ、現世に現れた巨大な城に目に留めた。
「その前に誇りを砕かれ、逃げまどうは、悪鬼羅刹の魔皇どもよ!」
『ついに、この時がやってきてしまいました』
電話の向こう、名古屋は大須の密である博史(ひろし)は、静かに魔皇たちに告げる。
『名古屋メガテンプルムが名古屋より飛び立って後、群馬に到着するまでに数度の交戦がありました。そして長野テンプルムは同族の‥‥烈皇タダイの手によってすでに陥落した模様です。残存兵力のうち従うものは傘下に組み込まれ、彼らはゆっくりと、蒼嵐へと近づいています。
蒼嵐においては、歩美さまがすでに紫の夜の儀式に入っており、間もなく終わるころでしょう』
聞こえる声は少し震えており、それが、この戦いの重要さを物語っていた。
『ここが正念場です。タダイの動きに応じて、西東京や三重でも、神帝軍は動きを見せているようです。負けるわけには、いかないのです‥‥ああ、そんなことは言うまでもありませんでしたね』
男は軽く笑うと、その震える声を止め、大きく深呼吸。
『どうやら、メガテンプルムからは先遣隊が、地元の勢力と協力して影の城に迫っているようです。その数は約100。そしてそれを指揮するのは‥‥大天使・織田信長です。現在、三劔の面々がいないことが、唯一の救いでしょうか。信長配下の100機にこの人数で立ち向かえというのは酷です。でも、やらなければなりません』
博史は短く息をつくと、胸をなで下ろし、そして一言、告げた。
『ぜひ、御武運を』
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シナリオ傾向 |
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参加PC |
吾妻・虎徹
佐藤・弘樹
夜城・将清
シン・クサカベ
ヴァレス・デュノフガリオ
本名不詳・軍曹
御伽・蒼梓桜
緋月・龍
クラウディア・サーカス
響・斑鳩
物部・百樹
シグマ・オルファネル
風間・夏樹
エヴィン・アグリッド
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《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【T】《The Last Holly War》The Pride of the Tyrant |
「いいか、これが最後の戦いじゃない!」
影の城内部。信長襲撃の報に集ったものたちに向け、シン・クサカベ(w3b666)が声を上げる。
「命を賭した戦いなのはいつもの事だ! シャワーを浴びて飯を食い、ベッドに倒れ込んで愛を囁く力は取っておけよ!」
「相変わらずだな」
まだ半年にも満たないだろうか、久々の戦場と戦友の様子に、吾妻・虎徹(w3a050)は苦笑する。
「だが今この時、こいつらと一緒に戦えるのは、光栄、だな」
「ああ」
夜城・将清(w3a966)はくわえていた煙草を消し、魔凱を見つめ男の言葉に同意する。
「俺も、相応の責任を果たさねばならない‥‥この仲間となら、悪くはないがね」
「腕はなまってるかもしれないが、露払いはする。思いっきりやって来い」
「もちろん」
「さあて! 気兼ね無くやれや、なぁ?」
静かな緊張の中、いつもの笑いがこだますると、現れるは緋月・龍(w3g267)と響・斑鳩(w3g454)、逢魔・幹也(w3g267)と逢魔・鶺鴒(w3g454)、STAY FREEの面々。
「まさか俺に魔凱が回ってくるとはね?」
「長い人生、そういうこともあらぁな? ‥‥いくぜみんなぁ!」
影の城の駆け込んだ斥候の、ネフィリム迫るとの報に、龍は大きく拳を振り上げる。
「今日は最高のステージ、最後の舞台だぁな? 響く歌声に耳を傾けなぁ!」
男の声がエマージェンシーを告げ、魔皇たちは臨戦態勢を取り、殲騎を召喚し始める。
「この決戦の為に、レコーディングまでしたんだ‥‥耳を塞がず、聴いていけよ!」
斑鳩と鶺鴒の魂が合わさる時、背に巨大な力を背負った凶鴉が現れると、曇天の空を睨みつけ、魔皇の叫びを反復した。
『STAY FREE! AXDIA 〜Unbreakable Heart〜!!』
「目障りよのう」
霞んで見える東の隠れ家、蒼嵐の影の城を臨み、織田信長は髭をしごいた。
「唾棄すべき魔の象徴。早急に叩きつぶし、荘厳華麗なるテンプルムにて、神の威光を響かせねばならぬ‥‥」
左半身の痛みと痒みに手を伸ばし、その表面を確かめると、腹の底より信長は静かに嗤った。
「この礼もせねばならぬ。魔皇どもめ‥‥本能寺を思い出したぞ」
『さぁて、今日は時間を拡大してお送りしているこの番組』
響く声はラジオのもの。名古屋の状況を確認するべくつけておいたそれからは、グレゴールの一人であるDJマキシムの声。
『ちょっと面白いリクエストが来たんでね。今日はラッキーデー、スペシャルな採用をしよう。では、HN明智光秀さんから』
『ときは今 天が下しる五月哉‥‥風流だね、この人』
「あらら」
林に隠れるように位置取り、ラジオをイヤホンで確認しつつ、当のリクエストの差出人、御伽・蒼梓桜(w3g253)は苦笑した。
「マキシムちゃんもノリがいいわねえ‥‥信長サマ帰ってきたら、どーすんのかしら」
木の上、見渡せばはっきりとではないものの、ネフィリムたちの動向が見える。
動きからすれば信長得意の第六天。その光景とは別に、耳には陽気な声が流れ込む。
『さて、リスナーのみんなはご存じの、殴り込み魔皇バンド、STAY FREE! いやまったくロックな彼らは、ある意味尊敬しちゃうよね。きっとバカ、だけど』
肩口を揺らし、ラジオとあわせるよう、逢魔・染九朗R(w3g253)は笑い、蒼梓桜は肩をすくめて見張りを続ける。
『そんなわけで今日のリクエストは、そのSTAY FREEの新曲。基本インディーズだから知らない人は多いけど、今日はグレゴールとして、これをエンドレスでお送りしよう』
耳に飛び込む聞き慣れた音。それにあわせて蒼梓桜は口ずさみ、静かに時を確認する。
『想いは力にも枷にも、天使にも悪魔にもなる。僕たちはそんな悪い心を消すために戦ってるのだけど、さて、魔皇はどーだろう?』
傷ついて疲れ果てても まだその心は折れないから
『魔皇全部は自分勝手。でも、中には変わった奴もいる‥‥ミュージシャンとして、魂の一曲を』
明けぬ夜の闇に 息を切らし駆け抜けた
『お送りしよう、今日起こる、聖戦に向かうものたちへ。STAY FREE AXDIA 〜Unbreakable Heart〜』
「微かな光 振り払うように 冷たい風まといながら」
その時を待っていたかのように、蒼梓桜は口ずさみ、天とあわせて地で動きを開始した。
「来たぞ、用意はいいか」
「ああ」
『こっちもです』
目の前に整然と来る白き天使の山を見て、本名不詳・軍曹(w3d079)が声を上げれば、夜城は直接、クラウディア・サーカス(w3g378)はインカム越しにそれに応じる。
すでに召喚された二機のレプリカント魔凱殲騎は用意を終え、合図を待つだけとなっていた。
「軍曹、頼めるか」
「もちろんだ‥‥引き剥がしてやるさ」
今だ殲騎を喚んでいないシンに向けて無骨な微笑みを見せると、デスモドゥスがその意気に応えるかのように命を吹き込まれる。
「ここが正念場だ‥‥負ける訳にはいかない」
「守りは、任せたぞ」
「もちろん」
佐藤・弘樹(w3a450)は決意とともに夜城とうなずきあうと、殲騎は、魔凱殲騎は、天空へと吸い込まれるように、地より飛び立った。
「お館、前方‥‥」
「見えておる」
数機、ちらほらと姿を現した殲騎を見つけると、信長は軍配を構え、従うものたちの動きを強化した。それに従い半数は信長を取り囲む動ける砦となり、半数は自ら飛び立つ刃となりて、魔のものたちの動きを牽制する。
「数は少数なれど‥‥」
陣の向こう、現れた巨大な姿に、信長は大天使ノルンのまとめた内容を思い出し、せせら笑う。
「魔凱殲騎にて一掃しようというのであろう‥‥たった一機で、我らが進軍を止められると思うてか!」
檄が飛ぶ。あわせて神輝力が光弾となり、白きネフィリムたちは一つの意志あるもののように飛び立った。
「行くぞ」
「はい‥‥私のことは気になさらずに、どこまでもお供いたしますので」
逢魔・氷霊(w3a966)の言葉に夜城は、自らの仲間と迫るネフィリムの位置を確認した。
何発かの光弾が着弾する間に、その膨れあがった機体の肩が大きく開くと、数十発の光が灯り、白き煙を従えて敵を喰らわんと吐き出される。
「暫時、散開!」
天より見れば扇のごとく広がる煙の束に信長の声が響く中、数機の突出したネフィリムは弾頭に喰らわれ失墜。されど未だ数多の敵が軽微な損害のまま突撃する。
「どけぃっ」
「残念だな」
左腕を失いながらも剣を振るった神機巨兵の一撃を受け止め、軍曹は弾いて上昇する。
「逃げ‥‥っ!?」
その瞬間、最大戦速で突撃したフェノズィーダのドリルランスが相手を抉り、弾き飛ばした。
「敵は?」
「前衛は散開。後衛本陣は影響なしだ」
「‥‥切り込むぞ」
弘樹と言葉を交わし状況を把握した将清は、肩のポッドのチャージを確認し、風に謳う者を乗せて加速した。
「‥‥解せぬな」
「は?」
「これが魔皇か? わしが辛酸を舐めさせられた魔皇か?」
崩れながらも体勢を整え直す前衛を見て、信長は歯を噛み鳴らす。
「ただの魔凱殲騎一機で切り込み、それで終わるつもりではあるまい」
その疑問の中、目端に止まったのは魔皇殻、ワイズマンクロック。未だ前衛にて小競り合いを繰り返す戦況に、信長は叫びを上げる。
「幸若舞、敦盛! 即時!」
「残念ですけど!」
重なるディアの叫びに従い、第六天の陣を囲むように機雷が爆発すると、後方、蛇神の名を冠したケツァルコワトルが、魔凱の鎧を身にまとい、両肩より咆吼をあげた。
「散開、さんかっ」
SFの壁に無数の弾頭がぶつかり爆発し、不可視の壁が砕かれる中、伝令の一機が直撃を受け、火の華の中へと沈んでいく。
「最後の戦いだ‥‥護ってくれよ」
胸ポケットの灰入れに指を滑らせて、虎徹は小さくつぶやいた。
「生きて帰ったら、いい酒をもっていってやるからな」
「始まったぞ!」
エヴィン・アグリッド(w3j418)の叫びに視線を戻せば、ネフィリムを取り囲む火の華が、所狭しと咲き乱れていた。その様子を確認し一角に目をつけると、エヴィンのイヴィルブレイカーとともにパンツァーブレイカーが飛び出す。
「捕らえたっ!」
黒き殲騎より立ち上った光が敵を呪縛すると、切り込んだイヴィルブレイカーは雷を放ち曇天を明るく切り裂いた。
「貴様‥‥っ!」
「逃がすか」
燻る煙を漂わせながら神輝力を集わせるネフィリムの一団に、パンツァーブレイカーよりの真撃破弾が爆発。その着弾点へとパルスマシンガンを撃つ最中、黒煙をたなびかせネフィリムが迫り、槍を光らせて殲騎の肩を穿つ。
「鈍ったか‥‥」
「パンツァーブレイカー‥‥"槍"の仇よっ」
女声が響き、ネフィリムは急速停止、反転。雄叫びとともに槍で突きかかる。
その時、その一機の脇をソニックブームが走り抜けた。
「すまない」
「気にするな」
後退しつつ弾丸で体勢を崩した神機巨兵を倒したあと、通り過ぎた凶鴉からの応えに、男は前を見つめる。
「行くぜ、ライブだ」
「おおよ、観衆はたっぷりだぜぇ」
「清丸さんにちび丸、宿儺に夜刀ちゃん、信司にカンナちゃん、良牙に一刀斎、真澄ちゃんに夢幻、志信に忍さん、ディアルト隊長にエリアル、翔一の兄貴、将門」
「篠原隊長に香月、蒼梓桜さんにR、百樹に敬助、鬼童丸に千早丸、聖に聯慈、レイナにアマルダにメシア」
『そして』
幹也と鶺鴒の叫びをまとめるように、2人の魔皇は声を高らかに、唄を口ずさむ。
『今ここにいる皆に、俺たちの答えを!』
傷ついて疲れ果てても まだその心は折れないから
明けぬ夜の闇に 息を切らし駆け抜けた
微かな光 振り払うように 冷たい風まといながら
凶鴉が吠えた。
吠え声と聞こえる魔凱殲騎の速度は、ひるんだネフィリムを切り裂き、体勢を崩していく。
その天使たちを、イヴィルブレイカーが止め、パンツァーブレイカーがうち、ドラグーンが切り裂いていく。
夢など無くてもいい ただ前を見ていること
走り続けた果てに 例え何も無くても 打ちのめされても
それでも また立ち上がれるのなら
「夢など、なくてもいい、ただ前を見ていること」
「あら」
ワイズマンクロックを召喚し戦場へ近づく途中、後ろで歌を口ずさむ逢魔・敬助(w3g643)に、物部・百樹(w3g643)は耳をすます。
「あの子たち、今日も歌ってるのね‥‥」
「‥‥信長」
感心する魔皇に被せるよう、逢魔はぼそりと声を低くする。
「お前にできたのは今も昔も、餅を搗くことだけだ」
側方より放たれた光弾を氷の壁で無効化し、九曜星は返しに機雷をプレゼント。そのまま爆発の向こうの爆光、ケツァルコワトルを確認する。
「人生、夢幻のごとくでも、どれだけ輝き続けられるかが、一生だろう?」
「そーゆーこと。これで、縁も終わりにしましょ?」
ともにうなずきあうと、新たな機雷をともに連れ、激戦となる魔凱殲騎の元へ、殲騎は集う。
遠く遥かな 月に両手を掲げ 心に秘めた 願いを解き放て
眠りを忘れ 戦いに疲れ それでもまだ走り続ける
何も無いそんな自分に 別れを告げることもできないまま
「そこだ!」
地上にて業龍が叫び、真撃破弾を天空へと打ち上げる。前衛より反転、本陣へと向かおうとしていたネフィリムの一団は魔力に焼かれ、体勢を崩す。
「早く、信長様の元へ!」
「行かせませんよ」
男の叫びに重なるよう、周りに立ちこめる幻魔影。その向こうより現れたイスカリオテが、記憶に刻みつけるがごとく左手の甲の文字を閃かせると、シグマ・オルファネル(w3g740)は真衝雷撃で敵を焼き払った。
「よし、次に行くぞ‥‥挟撃される前に」
「了解しました」
そうして赤と黒の殲騎は、頭上で閃くミサイルポッドの灯りを受けて、戦火の中へ飛び込んでいく。
高い星空 立ち上がる勇気
戦い続けた 証を立てるために
流れる風と 近づく夜明けの時が
心を急かす 力強く 背中押してくれる
「ふざけるなよ」
音速で飛び攪乱する殲騎に、グレゴールは歯噛みする。
「てめえらごときにやられてるようじゃ‥‥名古屋メガテンプルムの、名が廃るんだよ!」
「なに?」
ネフィリムは剣を捨てると、凶鴉の前に立ちはだかった。
魔凱殲騎が通り過ぎる直前、神機巨兵は手を伸ばしてその肩にしがみつく。
「響!」
「‥‥追いつけるか?」
龍と虎徹が向きを変えた瞬間、ネフィリムたちは壁となり、シャイニングショットを乱射した。
「虎徹様‥‥皆を守って!」
光弾に貫かれドラグーンが地に落ちていく横、逢魔・汀(w3a050)の歌声は主の傷を癒し、奮い立つ魔皇は魔力を集わせる。
「早く、突破しませんと」
「‥‥行ってくれ!」
逢魔・クラリス(w3j418)の声と状況報告に舌打ちすると、イヴィルブレイカーは虎徹の前に飛び込み魔光を放った。
反撃の弾丸が殲騎を貫く向こう、パンツァーブレイカーは入れ替わりに捕らえられた敵を真撃破弾で薙ぎ払い、マシンガンを牽制に最速で駆ける。
「振り、落とされるかよ‥‥」
憎々しげにつぶやくグレゴールは、音速に翻弄される機体をねじ伏せ、その手に光を集わせた。
「落ちろっ!」
一撃、光の手刀が殲騎を貫き、その胸に大穴が空く。
だが音速の機体はまだ止まろうとはしない。周りで体勢を崩す仲間を見て、ネフィリムはさらに手刀を振り上げた。
「‥‥させるかよ‥‥!」
二撃目の前、神機巨兵の胴体をドラグーンのバスターライフルが貫いた。
力を失い空気の裂け目に翻弄される機体を虎徹は撃って止めを刺すと、速度を落としつつある魔凱殲騎に近づく。
「大丈夫か?」
「‥‥まだ、いける」
「‥‥無理はするな」
肩を貸すように護衛に入ると、虎徹は自らの魔力の残りを確かめる。
例え全て無くしても まだ立ち上がることはできる
疲れ果てた身体を 奮い立たせて もう一度
走り出そう 宛ては無くても
夢など無くてもいい ただ前を見ていること
走り続けた果てに 例え何も無くても 打ちのめされても
それでも また立ち上がれるのなら
「あの化け物を落とせ!」
混乱する戦局の中、信長の号令一過、ネフィリムの編隊がケツァルコワトルにまとわりついた。
チャージしてすぐ、ミサイルを放って目眩ましにすると、クラウディアは気合い一閃、真六方閃で敵機を焼く。
「そこ、来てる!」
逢魔・エルザ(w3g378)の声と同時、弾着、振動。クローの一つが火を噴くのを見て女はそれを振り回すと、逃げ遅れたネフィリムを薙ぎ払う。
「‥‥まだ、大丈夫。いけるわよね」
「うん‥‥それに!」
「‥‥何?」
逢魔の明るい声の向こう、信長のネフィリムの後方から真凍浸弾。
「はぁい、お待たせ〜」
「突破した、だと?」
「YES!」
九曜星の一撃に氷を振り払いつつネフィリムが振り返った瞬間。影が射すと、上空から高速で迫るデスモドゥスがその爪を発射した。
信長は間髪入れず軍配で弾く。
次の一瞬、二機が交錯すると、ネフィリムの背中は切り裂かれ、殲騎の肩が破砕する。
「ダメージ、問題ありません。信長の反応は‥‥やや遅れています」
「OK‥‥All up with you,Mister?」
逢魔・エルデリカ(w3d079)の報告を聞き軍曹は笑みを浮かべると、地にたどりつく直前で土煙を上げて反転、砕かれた腕にある爪の調子を確かめる。
「フン、魔皇風情が‥‥この大天使、織田上総介信長に挑むというか! 相も変わらず、身の程知らずよ!」
「それならば」
気配に、信長はその場を滑り、放たれたキャノンの着弾より身をかわす。
「俺たちも一緒に相手をしてやろう!」
地上より現れた業龍は跳躍し、飛びかかると、抜き放たれた巨大な刀とネフィリムの軍配が火花を散らした。
「後方、敵機確認」
氷霊の声にあわせてフェノズィーダは旋回すると、パルスマシンガンを解き放った。
近づこうとしていた一機が弾丸の雨に打たれ、崩れ落ちる。しかしそれをくぐり抜けた他のものたちはすれ違いざまに殲騎に弾丸を叩き込んだ。
「敵は一機‥‥囲んで、落とせ」
「ちぃっ」
夜城が真撃破弾の魔力を込めた瞬間、敵は散開。魔力の爆風に機体を削られながらもくるくると周囲を回り、神機巨兵は弾丸を叩き込む。
その時、後方で地上より立ち上る一条の光。
「‥‥なんだ?」
「わかりません‥‥敵、散開しつつ影の城へ移動を開始」
魔凱殲騎の速度を生かし致命傷を防いでいる現状、振り返れば十数機が城へと向かう状況。
「防ぎきれるか‥‥?」
「‥‥間にあったっ!」
ネフィリムがフェノズィーダに迫る中、少女の大声が戦場に響くと、同時に現れた無数の白煙たなびく弾頭が一団を飲み込んだ。
弾頭から逃れようと旋回し、しかし仲間とともにもつれ合って餌食となり爆散する中、一機のネフィリムはその雨をくぐり抜け、現れた風間・夏樹(w3h672)の魔凱殲騎、レッドホットエンプレスへとたどりつく。
「伏兵、だとっ!? どこに、隠れていた?」
「福井からの出張だよ!」
ヴァレス・デュノフガリオ(w3c784)の声にあわせ、巨大な魔凱殲騎の肩向こうより現れたブラッディネストはパルスマシンガンを連射すると、肉薄し、交差しつつ鎌を振るって敵の胴を薙ぐ。
「前に、出過ぎないで‥‥くださいっ」
「わかってる!」
逢魔・シーナ(w3c784)の声に後方、迫る敵の一撃をよければ、ネフィリムは速度を上げた魔凱殲騎のクローに挟まれ、大地に叩きつけられた。
「何ともはや」
氷霊より煙草を受け取り、火をつけた夜城は、現れた騎兵隊に苦笑。
「ごめんね。無理させてさ‥‥でも、もうちょっとだけ付き合って」
「‥‥私は大丈夫です」
優しく微笑む魔皇の声に、逢魔・魔邪(w3h672)は頬を赤らめながら笑みを返す。
「夏樹様こそ、無理なさいませんように」
「‥‥影の城の逢魔達に手出しはさせないよ。一人だって通さないんだから!」
少女の決意に二機の魔凱殲騎は、迫るネフィリムに向けて両肩の全弾を発射した。
「ホサカン、そろそろだよっ」
「‥‥よし」
逢魔・アンジェラ(w3b666)の声に時計を確認すると、シンはつかず離れず、援護を繰り返す。
「どうした、それで全てか!」
光に包まれた軍配を信長が振るうと、紙一重でかわしたデスモドゥスの腕は、傷に耐えかねついに砕け散った。かわすグレートザンバーの一撃を逆腕で受け止めると、刃と掌、力と力が拮抗する。
「その程度の力で、わしに勝とうなどとは、嗤わせるわ!」
突き出された軍配が抉るように殲騎を撃つと、その衝撃と歪んだハッチに軍曹は殲騎とともに突き飛ばされる。
「させるかよ!」
入れ替わるようにイスカリオテが忍び寄り、コクピットに狙いを定めた逢魔・ミハイル(w3g740)が魍魎の矢を放つと、吸い込まれたそれに信長は体を削られる。
だが、大天使は流れた血にひるむことなく殲騎に掴みかかると、その喉を締め上げた。
「さぁて‥‥」
「させん!」
業龍は魔皇の叫びとともに真狼風旋、神速で近づくと、肩を当て、ネフィリムの体勢を崩した。
そのまま逃れたイスカリオテとともに一度距離を取ると、返すキャノンはSFにより弾かれる。
高い星空 立ち上がる勇気
戦い続けた 証を立てるために
流れる風と 近づく夜明けの時が
心を急かす 力強く 背中押してくれる
「さぁて、頃合いよね」
エンドレスで流れるラジオの歌を聞きつつ、森の中、蒼梓桜はANGELERを喚び出した。
その肩に構えた真ブーステッドランチャーに、染九朗Rの笑い声が吸い込まれると、力は集い、高まっていく。
「これくれた蛇神様は元気かしら‥‥大空に君臨する勇敢で聡明な鷹も、いつかは地に堕ちるモノ。信長サマは長居し過ぎよ」
いつもの笑みを浮かべ、その視界に仲間をあしらうネフィリムを捉えると、蒼梓桜の口元から煙草の灰がぽとりと落ちる。
「‥‥信長サマ、蛇に食われる鷹ってどんな気分? 答えが聞けないのが残念だけど、カワイイ蛇ちゃんを守らなくちゃいけないから、ね」
そして、力は解き放たれた。
「さあ、わしを倒せるというなら、倒すがよい! できるならなぁ!」
哄笑とともに信長はスパーキングショットを放ち、業龍を焼き払った。それに腕を片方もがれながらも、シンの瞳は地上を見据える。
「‥‥今だ!」
「りょーかいっ」
「何!」
ANGELERからの光弾がネフィリムの後部を捕らえ、大きく揺らしたのを確認すると、アンジェラは取りだした鏡と玉をあわせ、その力を解き放った。
業龍が風を切り近づくと、同時、後方で集っていた本陣のネフィリムたちに、雨あられと魔凱殲騎の弾頭が降りそそぐ。
「馬鹿な‥‥この期に及んで伏兵だと?」
「甘く見すぎだな、信長!」
鏡の魔力が天使を捕らえる中、シンは魔力にて加速し、グレートザンバーを振り払う。避けられぬ斬撃に無数の刀傷が浮かび、勢いにネフィリムが体勢を崩す。
「貴様を黄泉帰らせた、狂った運命の砕ける音を聞け!」
「ちっ!」
「‥‥鏡様々のようだな」
遥か上空、戦火を抜けてたどりついた弘樹は、眼下の戦いに魔力を込める。
「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり‥‥墜ちろ!」
放たれた風に謳う者の魔弾はそして、コクピットを寸分違わず貫いた。
一瞬、神機巨兵ががくりと動きを止め、大天使の咆哮とともにふたたび起きあがる。
「‥‥本能寺の、二の舞というか? それはあり得ぬ。我が夢は神の御心! 神の命を果たすために、わしはここで墜ちるわけには行かぬのだ!」
そして後方より近づくデスモドゥスの気配に振り返り、信長は神輝力を集わせる。
相打ち覚悟。だがその瞬間、ネフィリムの体を鎖が縛り上げた。
「残念だが、我らは魔の者! 殉教者と同じ場所には逝ってやれん!」
「貴様ぁっ!!」
その一瞬のやりとりの間、軍曹は突撃し、殲騎の全スピードと全質量を乗せて地上へと突進した。
絡んでいた葛藤の鎖が速度に負け、業龍の手を離れた瞬間、爆弾のような土煙が巻き起こり、地上に激突した勢いに二機がそれぞれ、相手の機体をひしゃげさせる。
ややあって、よろめきながら起きあがった殲騎は、乱暴に神機巨兵のハッチを引き剥がした。
「‥‥Good−bye,Nobunaga」
壊れたハッチ越し、睨みつける血塗れの大天使に、軍曹は殲騎のグレートザンバーを叩き込んだ。
「それじゃ、使わせてもらうよ」
「がんばってね」
すでに移動した夜城を追い、ヴァレスはクラウディアより魔凱を受け取ると、シーナとともに戦場へ向かう。
その行く先、離れた空では、すでに交わる戦火と遠く霞んで進み来る名古屋メガテンプルムの姿があった。
「とりあえず、一段落ですね」
「ああ」
「お疲れさまっ」
エルザがディアと軍曹、それぞれに抱きついてキスを浴びせると、男は傷に苦笑を浮かべながらも逢魔を抱き寄せてやる。
「‥‥城は、どうなる?」
「政治の道具になるだろうな」
倒れたアンジェラを背負い、シンは虎徹の疑問に静かに答えた。
士気を高めるためとはいえ、自ら守った影の城に自ら火をかける。もちろん、それは直接自分の手で起こすことではないのだが、一同の心には色々なものが駆けめぐっていた。
「‥‥何もかも終わった。俺は、これからどうするべきかな」
「終わっちゃいない」
灰入れを見て悲しく微笑む虎徹の声に、シンは肩の傷を押さえて苦笑を浮かべる。
「まだ、この戦いも終わってはいない‥‥そして神魔がこの世にいる以上、まだ、終わりは来ないだろうな」
その声に虎徹は、形だけでも影の城を守るべく、改めて殲騎を喚び出した。 |