■《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【A】《The Last Holly War》Knightrider of Doom ■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
高石英務 |
オープニング |
それは、名古屋メガテンプルムの正面だった。
そこに据え付けられているのはコアディメンジョンキャンセラーと呼ばれる力。隠れ家に存在する結界を破壊し、現世へと引き出す聖なる力。
いま眼前、武尊山にそびえる影の城‥‥蒼嵐の隠れ家に対し、それは意味を成さないが、あの屈辱と恐怖を思い起こさせるには十分な偉容を、名古屋メガテンプルムは備えていた。
「魔に属するものどもよ」
その直前に異形のネフィリムが立っていた。
大きさは普通のものより一回り、いや二回りは大きいだろうか。巨大な足と、細長く巨大な腕を備えたそれは、ただ厳粛に影の城を睨みつけていた。
「いまこそ滅びの時だ。この俺と、アザゼル=アシュタロスが一つとなれば、造作もない‥‥」
タダイは機体の肩、その場で腕組み立ち、大声で笑いをあげる。
「まずは蒼嵐‥‥テメエらの心の象徴だ。それが砕けてなお、抗うというなら全て平らげてやる雪花も、瑠璃も、翡翠も! 貴様らに安寧の血は与えねえ」
男は笑いを止め、そして腰に履いた剣を一閃、抜きはなった。
「神の望む平和は、苦も何もなき平らかなる世‥‥貴様らノイズは全て、消してやる」
『さてと、だ』
電話の向こうの男は、福井の密、神宮慶四郎(w3z042)。苦い声の向こうでは息を吸う音‥‥おそらくは煙草だろう‥‥の音が数度、聞こえる。
『タダイの野郎はついに蒼嵐、群馬県は武尊山に到着した。平和を唱えた長野テンプルムは攻撃され、大天使レミエルは処断されたらしい。現在、長野の武闘派はタダイに合流したうえで、一部が残りがテンプルムを守っている状態だ。
先走った魔狼隊も半壊、壊滅。三重や福井、西東京といった周辺でも、このタダイの動きに応じて活動が活発になってやがる』
吐き捨てるような逢魔の言葉は、そのまま静かな響きをもって魔皇たちに語られる。
『だが裏を返せば、この周囲の動きはタダイの強さ、行動力に呼応しての動きというわけだ。つまり、タダイが倒れれば拠り所をなくした武闘派は、今回ほどの力を持つには至らなくなる、はず。そのためにもいかにしてタダイと戦うかという所だ‥‥』
電話の向こうでレポートを繰り、現在の苦しい状況に慶四郎は苦く言葉を紡いでいた。
『長野での情報と某氏からの情報提供に寄れば、タダイのネフィリムは福井で見られたアザゼル‥‥サーバント能力付与型ネフィリムらしい。
構成要素はスルトスとヴァルキューレ。
ヴァルキューレの翼はアクスディア・フェアリーテイルのような自動砲撃砲台を備えている。これは威力は弱いものの、行動にペナルティを負わないらしい。
そしてスルトスの魔剣は炎の魔剣‥‥おそらくは、今までであったどのネフィリムのものよりも強力な一撃だろう。炎で構成されたそれに、長野の魔狼隊は焼き焦がされ、敗北を喫したという。
それにだ』
この男の声は重く静かで、そのために悪い言葉はさらに悪いように聞こえるのだろうか。
『タダイの前には当然、名古屋メガテンプルムの精鋭が残っている。魔狼隊や魔皇たちの襲撃を受けたものの、長野での戦力補強を考えれば、それほど数は減っていない。これをいかに突破して、タダイと戦うか‥‥そこが悩みどころだ』
全ての状況報告を終え、そうして探偵は、最後に一言、付け加えた。
『この戦い、どう戦うかはお前さんたちの自由だ‥‥ただ、悔いのないようにな』
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シナリオ傾向 |
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参加PC |
篠原・和樹
神威・空
神薙・陣
紅・焔雷
軍部・鬼童丸
夜城・将清
トール・キリマ
凪刃・凍夜
紬・玄也
紅・紗那
路方・夏輝
桜井・信司
ディアルト・クライス
佐伯・宿儺
水無月・清二
高瀬・涼哉
五色・空羅
結城・こずえ
クラウド・クレイドル
火宮・ケンジ
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《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》【A】《The Last Holly War》Knightrider of Doom |
「情報収集、お疲れ様だ」
戦いの前、相談が各所で起こる中、敵進路の予測へのねぎらいの電話をかけるは軍部・鬼童丸(w3a770)。
影の城に集い攻撃に転じるものたちは、100にも満たず、対する敵は500と聞こえる。
「それで‥‥この人数はちと、きついだろうが、今回もお前一人ではない」
「おい」
電話から漏れる声に、桜井・信司(w3d126)はじとりと見ると、耳元でしっかりとつぶやいた。
「俺は、財布じゃないぞ!」
「慶四郎だけに任せる気か?」
『気にするなよ』
二人のやりとりに電話の相手、神宮慶四郎は苦笑しつつ煙草に火をつける。
『ちょっとあってな、金は十分に、ある』
「無理はするな」
『あんたらの方が無理してるだろう。関東はタダイ侵軍以前の予定通り、関東各地に襲撃をかけるつもりだろうしな‥‥じゃあ、待ってるからな、がんばれよ』
「さてと、今回は主役を譲ってやる。あのヤンキーに一発、きついのをぶつけてきて」
紬・玄也(w3b375)は話し終えた鬼童丸の頭を、口調も強く、大きくかき混ぜた。
「お前のかっこいいところを慶四郎に見せてやれ」
「‥‥当たり前だ」
そして鬼童丸はポケットの中のライターに手を滑らせた。
「もう、大人の言い訳はやめたわけか」
『手厳しいな』
城のどこか、暗い部屋。そこで篠原・和樹(w3a061)は電話越しの慶四郎の声に苦笑する。
「その方がいい。共通の友人として忠告するが、あいつの気持ちを受け止めてやれ」
『そちらもな‥‥九州で色々あったんだろ。泣かすなよ?』
「‥‥お節介を」
そうして男二人は改めて苦笑を浮かべあった。
「さて、と」
電話を切り、ディアルト・クライス(w3d349)と共に紫煙をくゆらせると、和樹はこの場にいる今一人に冷たい視線を向ける。
「抵抗はしても構わん、苦しみが増すだけだがな」
言葉を刺されたクラウド・クレイドル(w3g548)は返答せず、ただ視線を歪めるのみ。目の前には、これまで男が行っていた、神帝軍への連絡に関するレポートがあった。
「気がつかれていたか」
「当然だ」
和樹はつぶやき、その手に魔皇殻を喚び出すと、ゆっくりと男に突きつける。
「選べ。野良犬として最後まで足掻くか、道化らしく幕を引くか」
「断罪の時間だ、どちらでも構わん」
「‥‥俺の命はくれてやっていい。あの剣は俺の罪だ。‥‥だが」
ディアルトの手に浮かんだ白刃を見て、クラウドは口端を歪める。
「もう少し、時間をくれないか?」
「冗談を」
「いいだろう」
凛とした声は、入口にいる一人の女から。鬼童丸は部屋に入り、呆れたように声を上げる。
「其処は何をしている?」
「裏切り者だ」
だがディアルトのばつの悪そうな瞳を、少女は鼻で笑った。
「何を以って裏切りとする‥‥勝手に期待して勝手に裏切られたとして、殺すとは下らん」
「しかしだ」
「それに!」
和樹の反論を潰して鬼童丸はクラウドの襟を掴み、引きつける。
「それで殺して、何が得られる? ‥‥裏切りなど無かった、違うか?」
「‥‥拾いものは大切にしろ」
覇気に、男はため息をつくと、だが視線の鋭さは戻さず男に出ていくようにうながした。
「‥‥すまない」
クラウドの去り際のつぶやきに、誰も、答えを持たなかった。
「もし」
主力隊が敵前衛到達前に出撃を行わんと、緊張が走る中。逢魔・燐炎(w3e984)は高瀬・涼哉(w3e984)に問いかける。
「なんだ?」
「もし、神帝軍が死んだら、俺は必要とされなくなるのか! もし涼哉が魔皇でなくなったら、俺はどうなるんだ!」
「何をバカな」
普段なら戯言と一笑する言葉を、魔皇は正面より受け止める。
「そんなことを軽々しく口にするな。己をぞんざいに扱うと嘆き悲しむ者が出るのは確かだが」
「でもな」
「魔皇であろうとなかろうと」
真剣な相棒のまなざしに、男はいつもと変わらぬ声。
「俺で俺である事は変わらない。俺は、そう簡単には死なないしな‥‥」
「まさか使う日が来るとはね」
信司は渡された魔凱を見、廊下の向こうの、魔凱を託され、戦場に向かう仲間を見つめる。
その掌に柔らかい感触。見れば逢魔・カンナ(w3d126)がいつもの陽の笑みで男の手を取り、魔凱を見せる。
「‥‥って、薬指?」
「そそ、薬指。ほんとは、ね‥‥?」
「‥‥そうだな。これじゃなくて」
少女の上目遣いに笑んで、男は軽く髪をすいてやる。
「別な奴、な」
「‥‥うん、待ってる」
「今度さ、4人でダブルデート行かないか?」
一生懸命な二人を見て照れ笑い、火宮・ケンジ(w3h739)は逢魔・透華(w3h739)につぶやいた。
「オレとお前と瞬兵さんと明で、さ」
「て、ことは?」
逢魔の問い返しにケンジは強くうなずき、少女はそれに微笑み返す。
「面白そうねソレ! いいわ、帰ったらどこに行くか決めましょう!」
「神だから、魔だから」
暖かい空気に包まれる場を見て、逢魔・琉璃(w3b167)はふと、目を伏せていた。
「そんな理由で戦うのはもうたくさんです」
「そうだな」
髪をかき、逢魔の言葉にうなずいて、凪刃・凍夜(w3b167)は息を吐く。
「生きていたい、棄て得ぬ想いがある‥‥それだけで十分じゃないですか」
「俺も、そう思う」
「因果だな」
左手の薬指に指輪を光らせ、五色・空羅(w3f843)は言葉を繋ぐと、逢魔・白樹(w3a331)と共に心を休めた。
「正直、俺はタダイに悪感情はない。失うのが残念なほどだ‥‥崇高なる目的へと一心不乱に羽ばたく、気持ちの良い様」
「だが」
凍夜は掌で顔を覆い、その隙間から天井をのぞく。
「魔の完全殲滅を公言する奴に、台頭されては迷惑だ」
「天空しか見えていない。地を這う者たちを考える事もなく、世界は理想と共にあると信じている」
言葉を切り、そして男は白樹に目をやり微笑んだ。
「俺の世界は手の届く処にあれば良い。‥‥仲間達の為に。タダイを倒す」
「始まったか」
偉容を天空に広げる名古屋メガテンプルムの先端。そのコアディメンジョンキャンセラーの直前にて、炎のごとき赤き体を晒す異形のネフィリム、アシュタロスのうち、権天使・烈皇タダイはつぶやいた。
その視線のはるか先、武尊山は影の城のそびえる辺りでは、戦火の火がひらめき戦煙が舞って、戦いの火蓋が切られたことを物語っている。
「ノルン」
「はい」
メガテンプルムの中枢にて権天使に代わり神殿を預かる大天使・ノルンは、呼びかけにうなずいた。
「状況は?」
「この紫の夜に乗じて」
鋭き声に、冷たき声が答えを返す。
「各地のテンプルムに魔皇が群がっている様子。戦力がこの地に集まるのは両軍とも難しいかもしれません」
「‥‥所詮、魔皇は軍ではなく、群でしかねえか?」
せせら笑う権天使。それは地虫どもを嘲笑うとも、孤立した状況を自嘲するようにも聞こえる。
「神殿はてめえに任せた。‥‥我らは退くを望まず、望むは永遠の平和のために‥‥ただ、それだけのために!」
長くいびつな神機巨兵の腕が振り払われると同時、マントのように体を包む8枚の鉄の羽が意志を持って動き出すと、その手に巨大な炎の柱にも見ゆる剣が握られる。
「感情を廃し、永劫の楽園への道を! そしてその扉を閉ざさんとする魔のもの全てに、神の愛と慈悲をもって、滅びを与えん!」
その大音声はメガテンプルムを揺らし、声を合図に飛び出した機甲の天使は、戦を告げて群れ飛び立った。
『静寂を斬り裂き、月夜に響くは孤狼の咆哮』
ディアルトと逢魔・エリアル(w3d349)、二人の声が重なれば、応じるは殲騎が一機。
『其は黒き疾風となり、戦場を駆ける死神とならん。我が呼び掛けに応え疾く降れ、漆黒の月孤狼』
魔凱の力を背に負ったMOONWOLFは、グレートザンバーを抜き放つ。
「この機動性、身にかかる負担は大きくなる。‥‥すまんな、無理をさせる」
「いえ、気にすることは、ありません」
「んじゃ、そろそろ行こうか♪」
結城・こずえ(w3g414)が明るく月白の中で叫ぶ目の前、メガテンプルムからは砂糖をぶちまけたように広がる敵が空を埋め尽くしていた。
「こずえちゃん‥‥」
「数が多くても無限でないのなら、どうにかなるでしょ」
「うん、大丈夫だよっ」
主を心配する逢魔・麗菜(w3g414)に、路方・夏輝(w3c718)がこともなげに答え、逢魔・ほのか(w3c718)も幾度もうなずいた。
「そーいや神宮の野郎がパンチパーマで10円ハゲってのは本当か!」
「俺たちには関係ないだろう‥‥あいつは、知らないけどな」
「‥‥余計なお世話だ」
燐炎と涼哉の含みのある笑いに鬼童丸はむすりとすると、失笑、笑みと、緊張をほぐすように心が広がった。
「それじゃ始めるとしますか‥‥」
水無月・清二(w3e841)が魔力を集わせる中、インカム越しに仲間の秒読みの声。同時に目の前のネフィリムへと明るき滅びが浴びせかけられ、破壊の炎を撒き散らした。
それを目にした紅の魔皇とともに、紅・紗那(w3c291)は大きく吼える。
「さあ、面倒くさいことはこれで終わり! 終幕の鐘を鳴らせぇ!」
「ディンドン!」
応じた逢魔・NN(w3c291)に合わせて魔皇たちは散開すると、真に角笛を握らせて、佐伯・宿儺(w3d846)はいつものように微笑む。
「赤い空の下、天使が吹くべき喇叭を代わりに吹かせてもらいますよ。紫の空の下、悪魔の角笛を」
「死んでもいいことはないですから、生きて帰りましょう」
「ライター‥‥は」
薙ぎ払われる敵機に重なる路方の声を聞き、彩王の中で逢魔・千早丸(w3a770)は主に尋ねる。
「預‥‥けず‥‥に‥‥御守‥‥り‥‥がわり‥‥です‥‥か?」
「千早まで‥‥ええい、気にするな!」
鬼童丸は振り切るように叫び、魔凱殲騎の後を追う。
それを見守る玄也は苦笑、後ろの逢魔・ロンベルディ(w3b375)と視線をかわした。
「ロンド、今回はお前に負担をかける‥‥悪いな」
「ううん、気にしないで」
いつものように、だが異なる会話を交わし、逢魔は魔皇の瞳を見つめてうなずいた。
「帰ったらゆっくりさせてやるから、我慢してくれ」
「いいよ、たまにはボクも役に立たないとね」
心が合わさると、黄金の機体が風を切り、ディアブロが空を駆ける。盾が滑って斬撃を弾き、キャノンが火を噴くと、白体により砕けた欠片が飛び散った。
「それじゃあ行こう、マスター!」
「ああ、黒き哮る虎の出陣だ!」
「では」
横目に僚機のディアブロを眺め、凍夜はツェアライセンシュトゥルムを駆り、戦場を飛ぶ。
殲騎は目の前のネフィリムたちにワイズマンクロックを現出させると、飛ばした後にパルスマシンガン。
「血路のきっかけぐらいは、できるだろうさ!」
男の決意にあわせた小爆発、それをぬって殲騎は高速で近づく。機関銃の弾丸が白き体を削るにあわせ、琉璃は魔力を込めて幻影を広げた。
「な、なんだっ!?」
「いただきっ!」
目の前を包む吹雪を裂いて吐きかけられるは龍の炎。ドラゴンスタッフを振りかざした紗那の殲騎は敵を焼くと、一機に近づいてコクピットを貫いた。
「さあ、次はどいつ?」
「‥‥後ろだ」
NNの静かな声が響くと同時、煙をたなびかせながら斬りかかるネフィリム。
振り返り構える杖の前に敵の刃が煌めいた時、バスターライフルの光をくぐり抜けての斬撃。
くの字に折れてネフィリムは体勢を崩し、地に落ちる。
「一言だけ言うぞ」
斬撃後、駆け抜けたヘイトソングの中で逢魔・セリナ(w3a192)はいらだちを声にする。
「まだ私たちにはやることがある。それを、忘れるな!」
「ああ。どんなことになろうと、頼むぞ、セリナ‥‥」
神薙・陣(w3a192)はただうなずくと、ショルダーキャノン一発、魔凱殲騎の切り開いた道をさらに広げた。
「あがくか」
広がる戦いの炎を見て、タダイはにやりと口端を歪めた。
「そうでなくちゃ面白くねえ‥‥1年前に、俺たちに牙を剥いたからには! そうでなくちゃなあ!」
哄笑が戦場に響き渡ると、赤きネフィリムは咆吼をあげた。染み出した炎の剣は明々と燃え、八つの死の翼が意志に従い、一直線に黒き蝕みを目指して進む。
「死の翼よ、炎の王よ‥‥滅びの処罰に、力を貸せ!」
一個の火の玉となったアシュタロスは、そして戦場へと躍り出た。
「来たな‥‥いつぞやの借りを返してやらぁ!」
迫る炎の天使、それを目に紅・焔雷(w3a331)はタダイと張り合うように哄笑を上げると、黒焔舞の両手で葛藤の鎖を引き絞る。
「行くぞおらぁ!」
「まったく」
飛び出した焔雷に苦笑し、五色の黄を駆り空羅は続くと、周囲のネフィリムを牽制しつつ一気に散開、殲騎はネフィリムを取り囲んだ。
「‥‥遊んでろ」
権天使の冷たい言葉に、矢のように奔る死の翼は、相対する殲騎を無視し、戦場を貫いた。数発の光弾が飛ぶナイトノワールの殲騎を狙い、被弾させる。
「させん‥‥」
下方より大きく回り込みつつ、和樹は照準合わせ。クロムライフルの連打が的確に死の翼を抉ると、追いついたMOONWOLFが燃えるグレートザンバーで両断、砕けた翼は地に舞い落ちた。
「オラオラ、こっちの方がお留守だぜ!」
「ほざけ!」
キャネロードの動きに気を取られた隙、黒焔舞がアシュタロスに肉薄し、鎖を叩きつけた。続く殲騎の爪を拳で払うと、タダイは炎の剣を振るい、牽制する。
炎閃と同時、彩王と五色の黄が二刀で四本、左右同時に斬りかかった。
「来い」
低いつぶやきと同時、一枚の死の翼が空羅を襲い体勢を崩させる。
そして集中、振り向いたアシュタロスと彩王の視線が合う。
「!」
「借りは返すぜ‥‥ギガフォーリサイト」
光をまぶした炎が大上段に叩きつけられると、回避した殲騎の左半身が蒸発した。
「鬼童丸!」
高速、回り込んで空羅を援護、ウィングに向けて連射しつつトール・キリマ(w3b125)は叫ぶ。
「‥‥千早!」
「まだ、大‥‥丈夫で‥‥す」
熱気にやられ息荒く、魔皇と逢魔は状況を確認し一時後退した。
発射されたクローがネフィリムを掴むと、それを引き寄せオメガテンペストは剣を振るった。切りつけられながらも神機巨兵は殲騎にSFの一撃。
「くっそぉ!」
「ああ、耳元で叫ばない! ほら後ろっ」
衝撃に機体を揺らしながらも雄叫びと共にケンジは敵を切り伏せ、透華は文句と共にさらなる敵の接近を告げる。
その敵が一撃を受けて凍りつく。
「あまり離れるなよ」
「わかってる」
「傷は、大丈夫でしょうか?」
真凍浸弾にて凍りついた敵を両断、忠告に答えると、逢魔・セドナ(w3e841)が清水の恵みにて、殲騎の傷を癒した。
「でぇいっ!」
「なんだと!」
紗那の気合いの声、紅の魔皇が葛藤の鎖ごとネフィリムを振り回すと、それと交錯するよう、月白はグレートザンバーを構えた。
「いただき!」
魔力を込め、バットのように振り払った一撃が神機巨兵を両断する。振り返るより先に撃ち込まれた後方からのライフルの弾幕の傷を、麗奈とNNが想いにて癒すと、紗那は獣刃斬にて牽制する。
「やっかいだな」
「そうですね」
ヴァイゼフリューゲルスが死の行軍を行うものたちに楽園の幻影を見せ、惑わすと、共に飛ぶ輝碧がお手玉の如く機雷を操り、突入させる。
起こる小爆発に畳みかけるよう、こずえがブレストミサイル叩きつけ、幻影の篭手がだめ押しと撃ち込まれる。
「もう少し、離れますか?」
「了解」
二機の白き殲騎が幻影と機雷を駆使して敵を引きつければ、それを狙うよう、水無月は牽制のDF。真撃破弾の衝撃を受けつつも飛び出した一体とすれ違いながら、玄也は刃を叩きつける。
「囲まれているな」
「そうだな」
凍夜と背中合わせ、二人の男は静かに笑う。さらに引きつけるよう、ツェアライセンシュトゥルムが吹雪の空間を広げたその時、一枚の角張った鋼が、滑るように現れた。
放たれた光弾が殲騎の肩を穿ち、すぐに視界の端から消え去って、さらなる猛攻を続ける。
「やる気だな!」
「こちらですね」
ニードルアンテナで拡大した感覚で先を捕らえ、真が上空に回り込む。反転して狙う瞬間、生み出された真魔力弾がネフィリムもろともヴァルキリーウィングを捕らえて砕いた。
「これで一つ、ですね」
「スーちゃん、周り周り!」
「おっと」
逢魔・夜刀(w3d846)の警告を聞き弾丸を受けながらも真は急速上昇し、テンプルムをうかがった。
「ノルンは、どう出るのでしょうか?」
「さあな」
戦場より遥か後方にて、逢魔・氷霊(w3a966)の疑問に夜城・将清(w3a966)はうなずくのみ。
「だが、乱戦状態だしな‥‥裏はかけると思う」
「まったく、その策がこれか‥‥」
夜城の護衛にと魔凱殲騎の肩にバハムートを乗せつつ、神威・空(w3a065)は悪態をつく。
「コアディメンジョンキャンセラーでも壊せれば御の字だろう?」
「確かに、な」
男たちの苦笑が響く中、頭上に見えるは偉容を称える名古屋メガテンプルム。警戒に出ているネフィリムの数は少ない。
「‥‥振り落とされるな」
「何を」
憎まれ口を叩き合い、最大戦速でフェノズィーダが上昇を開始する。
「て、敵襲だとっ!」
「サーバントを呼び戻せ、ネフィリムもだ!」
「遅い」
冷静につぶやいた夜城の指が、ミサイルに敵を喰らえと指示を出す。白煙と共に撃ち出されたそれは命令に応じ、数多のネフィリムの姿を喰らい、そしてテンプルムを揺るがした。
「どうしたのです? 報告を!」
メガテンプルムの操舵室。突然襲った衝撃に、ノルンは悲鳴にて確認する。
「‥‥敵襲です。伏兵が‥‥直接、ここに!」
「‥‥まずいわ」
状況を確認するグレゴールの声を聞き、少女は眼前の戦場をのぞく。
サーバントの地上部隊は、幾人かの義勇魔皇により止められており、そして目の前の魔皇たちは、五倍以上の兵力を相手に一進一退の攻防を繰り広げている。
「ジョン・スミス‥‥遊んでいないで、早く片づけなさい!」
飛ばされた思念。しかしファンタズマより返答はない。
「‥‥これだからギアスの異なるグレゴールは! ネフィリムを一部戻しなさい!」
その悲痛な命令が飛んだ直後、二度目の衝撃がテンプルムを襲う。
「行くぞ」
「ああ」
急速反転、フェノズィーダがふたたびテンプルムを目指す時、肩にしがみつきつつ、空は魔力を集わせた。その手のドラゴンヘッドスマッシャーが唸り、竜の咆吼をあげながら、集った魔力が獣の力を喚び起こす。
そしてテンプルムの直下に突撃すると同時、バハムートは肩より飛び込み、力を叩きつけた。
「うおおぉぉっ!」
突進力と魔力が底面を抉り、クレーターを作ると、衝撃にテンプルムが再度、震える。
「では、俺は行く!」
反転、バハムートは戦場へ、そしてフェノズィーダはテンプルムへ。
速度を上げて魔力を集わせると、後方に真撃破弾、そして巨大な壁面とすれ違いながらクローを持ち上げ、底面を削る。
「いい加減にしてもらおうか!」
正面、ネフィリム隊が現れ、一気にシャイニングショット。それとすれ違い、しかし幾体かを弾き飛ばしながら夜城は速度を上げた。
「‥‥大丈夫ですか?」
「‥‥命は、な」
体を焼く衝撃に血を吐きながらも、氷霊の想いを受けつつ、魔凱殲騎は戦場をあとにする。
「‥‥テンプルムに直接、だと?」
ノルンの悲痛な叫びを受け、タダイは舌打ち、サーバントとネフィリム、両者の戦況を見てヴァルキリーズウィングを呼び戻した。
「待っていた」
戻るウィングを追撃、絡みつくようにマイトゥルースは飛び、デヴァステイターを連射。
「後ろっ!」
「わかっている」
目の前で爆発するウィングを確認すると、逢魔・フィー(w3b125)の声にトールは振り向きもせず、フォビドゥンガンナーを放った。放たれた2つの光条は殲騎の腕と羽根、両者を同時に撃ち抜くと、もう一枚が容赦なく機体に連続、光を掠めさせる。
「来るよ!」
「滅びろ!」
タダイの一声、クラッグショットがばらまかれた。その一撃に胴を大きく焦がし高度を下げつつも、トールはウィングに肉薄し、その動きに止めを刺す。
「すまん‥‥!」
「高い星空 立ち上がる勇気」
「エリアル‥‥?」
トールの声と重なる逢魔の声に、ディアルトはつぶやいた。
「死地にあっても、余裕は必要でしょ‥‥?」
そのつぶやきが聞こえたのだろうか、タダイに真狙撃弾を放つキャネロードにて、逢魔・香月(w3a061)は微笑む。
魔弾は直前でSFに無効化され四散。和樹は機体を動かしタイミングを数える。
「戦い続けた 証を立てるために」
「流れる風と 近づく夜明けの時が」
『心を急かす 力強く 背中押してくれる』
「貴様らに、夜明けなどない」
重なるナイトノワールの旋律に、タダイは吐き捨てて炎の剣を振り払い、炎気を周囲に飛ばした。熱気が装甲を焼き、新たな小さな傷を増やすと、権天使は強く言葉を叩きつける。
「地を這うものに星はけしてつかめねえ!」
「どうかな!」
「! 下だと?」
氷淵が紫の殲騎の速度を生かし、森の中から飛び上がった。組み上がる巨大な鎌が振り払われ、そしてアシュタロスはその体勢を崩す。
瞬間、五色の黄と黒焔舞が速度を上げた。
「可哀想なタダイ。天使のくせに、愛の意味を知らないまま生きてきたんだろ?」
「‥‥ほう?」
その手に炎の剣を燃え上がらせようとした時、焔雷の鎖が絡み、動きを止める。ヴァルヴァリウスのDFに合わせ、ディアブロがビーストホーンに魔力を集わせ、その胸を貫いた。
「寂しい奴‥‥導きも、愛がなければ誰も振り向かない‥‥」
速度を上げ、獣のように飛びついた焔雷に、タダイは何も答えない。男のDFがネフィリムを縛ろうとし、五色の黄の腕がアシュタロスのコクピットを引き剥がす。
「俺達は、慈しみという愛のかたちを、その感情を、何よりも尊く思う‥‥判るか? 天使なんだろ! 判れよ、馬鹿野郎!」
「タダイっ!」
「こんなこと、メ、なのぅっ!」
剥がれた装甲の先、鎮座する権天使に向けて、逢魔・みるる(w3f843)は魍魎の矢を放った。それが天使を包み、その体を削り取る。
「‥‥言いたいことは、それだけか?」
「まさか‥‥離れてっ!?」
白樹の忠告よりも早く、権天使は破壊される胴を無視し、黒焔舞を掴み引き剥がした。
「貴様らの言う感情で」
今片方の腕に神輝の光をまぶした巨大な炎の剣が吹き上がる。
「人間たちは愛に生き、誇りで行動し、仲間に怒り、友を嘲る‥‥」
「焔っ!」
空羅が舌打ちし機体を動かす。だが光炎の剣は無情に二機を貫いた。
「空‥‥」
「‥‥雷」
「愛のために死ねたんだ‥‥本望だろう?」
胴に大穴を開けて落ち、消えていく殲騎を見て、タダイは額から流れ落ちる血を舐め取った。
「後二枚!」
夜刀が叫び、交差しながら迫る羽根に吹雪の空間を解き放った。一瞬鈍った動きを確認してケンジがシューティングクローで牽制すると、真の真六方閃がそれを貫く。
「ちっ‥‥」
琉璃の吹雪の空間へ凍夜が叩き込む真撃破弾。その爆発の中から返ってきた数発のシャイニングショットに氷の壁は間に合わず、殲騎が大きく崩れ落ちる。
「だが、最後くらいは!」
「まかせろ!」
墜落しつつ魔皇が放ったワイズマンクロックが、後方より羽根を爆発させた。それに応じて玄也は飛び、ロンドの黒き旋風と共にウィングを一刀両断にする。
突出した殲騎にネフィリムが光弾を放ち腕を吹き飛ばすと、返すショルダーキャノンが白体を撃った。その時後方から天英星がテンタクラードリルを展開すると、貫かれた神機巨兵は動きを止めて大地に落ちる。
「‥‥なんだ?」
風切り音に殲騎が振り向いた瞬間、目の前を巨大な鎌が通り過ぎ、逃げ遅れたネフィリムの命を数体、狩り止めた。
「‥‥撤退?」
「そうみたいだな」
その斬撃を合図にしたように退き始める殲騎とネフィリムに、魔皇たちはお互いを見つめ、そして視線を一つの場に移した。
「志を変えないのは立派だが、貴様はただ頑迷なだけだ」
退くテンプルムと、そこから来る一機の殲騎を視界に収め、半壊した殲騎を操り、荒い息で鬼童丸は隙を探す。
「生まれ出でたものは世界の理だろう。其れすら認められぬ狭量が導くなどとは、笑止」
「ガキにはわからねえだろうよ?」
近づく殲騎をクラッグショットで牽制し、タダイは口端を歪めた。
「子供が危険な場所に向かうのをただ眺めている親が、兄が、どこにいる!」
斬りかかってきたヘイトソングを炎の剣で牽制し、権天使は戦場に声を轟かせた。
「感情が素晴らしいと貴様ら魔皇は言う。だが制御できぬのであれば、ただの火遊びよ‥‥人がこれまで感情に生きて、争わず、悩まず、苦しまず! 生きてこれたと言うのはその口か!」
数発の凍浸弾も、ネフィリムの体を一瞬凍らせるに過ぎなかった。到着したバハムートの一撃ももろともせず、炎の魔剣は嘲笑う。
「全ての、最後の一滴まで引き出され絞り出された感情がグレゴールにより浄化されれば‥‥世界は悩みも苦しみも争いもない、楽園となる!」
「ふざけるなよ!」
ヘイトソングの中、陣が吼えた。
「それで、この戦いが起こったというのか!」
「そうだ!」
キャネロードの牽制をそれと見切り装甲で弾き、DFをSFで無効化しつつ、タダイは意志の力を確かめる。
「貴様らが感情を体現するというのなら‥‥それは神に対する反逆! 世界の、ノイズでしかねえ! かつてのように、絶望と共に滅ぼされるんだよっ!」
「‥‥吼えろ、ヘイトソング!」
加速。ショルダーキャノンを牽制に放ち、陣はジャンクブレイドに魔力を集わせる。
「奴は前に進む事しか知らない炎‥‥それに炎をぶつけても勝ち目はないぞ!」
「お前に未来を託す奴はいるのかっ! いないならオレ達が描く未来に立ちはだかるなぁっ!」
「今です‥‥空!」
逢魔の忠告も聞かず殲騎が突進するなか、逢魔・ブリュンヒルド(w3a065)は黒き旋風にて敵の体を縛りつける。
そのまとわりつく風の遅れが、タダイの剣を止め、ヘイトソングの半身を削るにとどめた。
次瞬、残った腕の真両斬剣がアシュタロスの腕を折り、空の真燕貫閃が腕を抉り、炎の剣を飛び散らせる。
「クソ野郎!」
「タダイッ! これが本当のつよ‥‥」
言葉の最後、砕けたコクピットの隙間から、魔皇の瞳に光り輝く拳が映る。
そして拳は言葉よりも先に、魔皇と逢魔を握りつぶした。
「烈皇は戦場のない世界で生きていく事が出来ない‥‥ヴァルハラに導く事が出来れば魂が救われるだろうが‥‥」
涼哉は満身創痍のネフィリムと権天使につぶやき、魔力弾を放った。
それを着弾させながらも高速でアシュタロスは空を進む。
「今までの俺の行動は無意味だったか?」
鬼童丸を守るように動くクラウドは、その姿を見てふと、自問自答する。
「神帝軍と行動を共にしたとして、何の面白みも無い。短い時間だったがくだらん魔皇と行動していた方がよっぽど面白かった‥‥俺は、ここで負けても悔いは無い‥‥だが」
男の耳に、陣の最後の言葉が反響する。
「‥‥あいつ等にはこれからがある」
「クラウド?」
鬼童丸の疑問と同時、男は弾かれたようにタダイに接近を始めた。
「まだ、剣をやられただけ‥‥貴様らを滅ぼすまではっ!」
「‥‥タダイ!」
その拳の一撃を受け、衝撃で腕をきしませつつ、ディアルトはつぶやく。
「戦士が生きる世は終わりにしよう。貴様の魂を喪って、戦いの終焉を告げる鐘を鳴らしてくれる!」
「くらえっ!」
「ひいいいぃぃっ!」
信司はカンナの悲鳴を聞きながらその鍔迫り合いに、高速、近づいた。唸りをあげて振り下ろされる巨大な鎌にタダイは刃を弾くと、神輝力を込めて対応する。
カウンターの一撃が機体を抉り、頭部と上胸部を吹き飛ばすと同時、ディアルトの斬撃がネフィリムの頭部を斬り飛ばした。
「所詮飾り、こんなものなど‥‥」
その天使の眼前に、黒き殲騎が飛び込んだ。ヴァルヴァリウスは体を当てると同時、葛藤の鎖を転回し、テンタクラードリルを這わせてネフィリムを縛り上げる。
「‥‥何を!」
「神も魔も人も」
引き剥がそうと伸ばされた腕が殲騎の頭部を握りつぶした。コクピットが歪み、衝撃に魔皇に血が走る。
「今、共存の道を進もうとしている。必要無いんだよ、これからの世界には、お前も俺もな」
「貴様に言われる筋合いはねえ」
「さぁ、やれ、俺ごとこいつを!!」
「‥‥タダイ、貴様は哀れだ。貴様は神の捨て駒に過ぎんのだから」
DFも交えて取りつく魔皇の姿を見て、キャネロードはバスターライフルを構えた。
「意思を持つ道具の、なんと哀れな事か‥‥」
「チャージ完了。いけるわ」
「和樹!」
鬼童丸の声も意に介せず、男は静かに魔皇殻を構え、光を集わせる。
「惚れがいのあるヤツだった‥‥このつまらぬ命を賭けるほどに‥‥また逢おう、軍部鬼童丸」
「霧に還り、天から人間達の愛憎劇を眺めるがいい‥‥退場の時間だ」
クラウドの最後の別れが告げられた瞬間、光条が二機を貫き、MOONWOLFが獲物へと、その巨大な刀を構えて突進する。
間髪入れず、その刃が叩きつけられる。
「‥‥在るべき処へ還れ、貴様の戦いの終わりだ‥‥」
体を貫き裂いた刃に、タダイは血を拭きながら笑いをあげる。
「今日の所は、俺の負けだ‥‥滅びてやるよ、おとなしく、な?」
血濡れの拳で天を臨み、そして烈皇は口端を歪めた。
「だが、所詮貴様らはノイズだ。神でもなく、人でもなく、永遠の存在でもない。どうあがこうが、貴様らは感情に振り回され、何も出来ずに滅びるだけだ‥‥」
せせら笑いと共に血の泡が、男の体を濡らし、染め上げていく。
「貴様らが何も出来ずにもがき苦しむ様を、人に追われ、神に罰せられる様を‥‥あの世から、笑って見せてもらうぜ‥‥?」
まるで、それが終わりだと告げるように、戦場に権天使の笑いがいつまでも響いていた。
全てが終わり、夕闇を見せ始めた群馬の地。紫色の夜はすでに終わり、普通の宵闇が広がっている。
その中、鬼童丸は相手もなく、杯を傾けていた。
「酒を、不味くしおってからに‥‥」
後ろから近づいた空はその声にこっそりと杯を取ると、勝手に一口喉に流し、つぶやいた。
「さらばだ‥‥誇り高きものたちよ‥‥」
こうして紫の夜は一つの終わりを迎えた。
名古屋メガテンプルムは首長である権天使・烈皇タダイと武闘派の大天使・織田信長を失い、名古屋へと撤退する。
だがその戦力は半減しただけであり、タダイの参謀であった大天使・ノルンは表向き協調路線を表明していたが、各地への武闘派に秘密裏に呼びかけ、烈皇の意志を継ごうとしていることは明白だった。
そして魔皇たちも問題を抱えていた。
「まとまる必要はない」 それが、魔の意志を体現しているのだから。
「まとまらなければならない」 神魔人が共存するためには、必要なことだ。
だがその動きは大きな流れを持たず、いくつもの小さな流れはぶつかり、いくつもの争いの渦を生み出していた。
混迷と混沌は世界を包み、未だ晴れようとはしていなかった‥‥。 |