■《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》《The Last Holly War》Tears Of A Dying Angel■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオ |
クリエーター名 |
高石英務 |
オープニング |
「タダイ様」
厳粛に進む名古屋メガテンプルムの執務室。その場には大天使・織田信長(w3z029)、グレゴールのリーダー、ジョン・スミス(w3z030)と、名古屋メガテンプルムの名だたる面々が揃っていた。
その中で声を上げた副官たる大天使・ノルンは、届けられた書状を権天使・烈皇タダイ(w3z016)に差し出した。
「シモン様からの、書状です」
少女の声に視線を向けてそれを受け取ると、男はそれに両手を添えて。
一気に引き裂いた。
「!」
「なんと」
「あのじじいの言葉だ。どうせ」
ジョンの口笛が響く中、さらに重ねてもう一千切り、一千切りと、ばらばらになった手紙は紙吹雪として、辺りに吹き散らされる。
「平和を掲げる魔皇どもに、手出しはならんの一点張り、だろう?」
「ですが‥‥」
「猶予の時間はもう過ぎた」
椅子に腰を下ろし、肘をついて、タダイは厳粛に告げる。冷えた言葉を広げるように。
「長野テンプルムを見ただろう。平和という言葉に惑わされ、神が魔に堕ちる。汚らわしき堕天の時、来たれりだ」
そうしてタダイは改めて、力を込めた号令を発した。
「聞け! 真なる平和とは安息の日々である‥‥それは、心安らかに、なににも煩わされることなき、平らかな世だ。そのためには! 我ら神の使徒として、世にはびこる害虫どもを全て排除し! 人の心にすくう魔の因子‥‥感情なき静かなる世を作り上げねばならぬのだ!」
「さて、どうするでござるかな」
福井県、聖美山学院の襲撃より数日。近くに陣を張り、山田半蔵(やまだ・はんぞう)は悩みをつぶやいた。
「過日の戦いにおいて、撃破は5、半壊が12‥‥なんとか修復はしたものの、まだガタが残っているでござる。それに」
「わかっている」
時計を確認した男に向けて、リチャード・G・ウィリスは鬱陶しいと返事の声。
「まもなく、タダイが関東に着くころだ。魔皇どもの抵抗もあるだろう‥‥それに」
男は苦くつぶやくと、背に羽根を生やした異形のネフィリムを、その中で静かに膝を抱える少女を睨みつける。
「‥‥半蔵、あんたは信長の援護に回れ」
「大丈夫でござるか?」
その問い返しにリチャードは答えず、恵の乗るネフィリムに近づく。
「恵」
「‥‥はい」
弱い返事に舌打ち、男はコクピットをのぞくと、その襟首をつかんで睨みつける。
「お前はサーバントを集めてこい‥‥自分が傷つかず、相手も傷つけず。それならいいんだろう」
「‥‥」
「‥‥いけ。集まり次第、あらためて襲撃をかける」
「優しいのでござるな」
「バカ言え」
無言で出ていく恵と半蔵の苦笑に、リチャードは吐き捨てる。
「戦場に女子供が出るのは嫌いだ。あのガキ一人で、どれだけ予定が狂ったと思っている? しかしガキのお守りはゴメンだが、使えるものはなんでも使わんとな‥‥」
「素晴らしいご高説ですこと」
「‥‥スナッチャーか」
手を叩いて現れたのは、紅いドレスの女。変装の達人であり、ノルンの腹心として動くグレゴールであり、仲間であっても心を許すものはほとんどいない。
「何しに来た?」
「ご挨拶、ね」
リチャードの疑惑の瞳に、スナッチャーは肩を竦めて艶美に微笑む。
「ノルン様からの命令よ。まりぃの代わりとして、どちらかが帰ってきなさいって。そして私が」
男の顎を軽く持って、女は男を下から見つめた。
「代わりにお手伝いするの」
「‥‥それは頼もしい」
半蔵は学院の方を透かし見て、低く笑いをあげた。
「これで、学院もおさらば、というところでござろう、なあ‥‥」
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シナリオ傾向 |
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参加PC |
錦織・長郎
ヴァレス・デュノフガリオ
ヴラド・ツェペシュ
ウィルハルト・ハイアット
護部・清丸
ミルゥ・エザイル
風間・夏樹
レンブラント・デューラー
蒼月院・荒忌
発条・枢
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《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》《The Last Holly War》Tears Of A Dying Angel |
「今のところ、何もなし、か」
「そのようですのう」
見回りから戻りつつ、ウィルハルト・ハイアット(w3g492)は護部・清丸(w3g816)の差し出したコーヒーを手に取った。
「そちらも、どうですかや」
「攻めてくると思っていたのだがね」
女が握り飯を渡す相手は錦織・長郎(w3a288)。肩をすくめそれを口にし、男はため息をつく。
「余裕がないのだろう、あちらも」
「こちらとしては」
ウィルハルトの返しに長郎は眼鏡を直すと、薄く微笑む。
「頼まれた依頼‥‥山田半蔵を倒すことができればよいわけでね。討って出ることになる。学院の守りは任せておくよ」
男の笑いと白み始めた東の空に、ウィルハルトは目を閉じた。
「返事はない、か‥‥」
レンブラント・デューラー(w3i313)は携帯をしまうと、夜の明けた学院の外に視線を移す。
「まりぃの死‥‥彼女が戦う理由はもう、ないのに‥‥ね」
「恵さん‥‥また握手とかして、笑ったり、したかったのに」
「しょうがないよ」
ミルゥ・エザイル(w3h431)がぽつりと漏らした言葉に、後ろから風間・夏樹(w3h672)はつぶやくと、その顔を微笑ませる。
「戦うのをやめる気はあたしにも、向こうにもなくて‥‥それで、ここを守りたいんだからさ」
「それが彼女の選択ならね」
「‥‥はい」
デューラーの言葉に少女は眉根を寄せてうなずいた。
「もう、迷いません。傷つくことも、傷つけることも‥‥それが、他の人を守るためなら」
「由香里嬢」
「はい?」
振り返った蒼楓院由香里の前、ウィルハルトはかしずき、少女の手に口づけをする。
「必ず戻りたまえ‥‥これは、誓いだ」
「まあ‥‥わかりました」
「いいかい、行くぜ」
「我が君」
頬を染め、礼をしてヴァレス・デュノフガリオ(w3c784)とともに去る姿を見つめる主に、逢魔・マリナ(w3g492)は声をかける。
「教え子に手を出すようでは教師失格‥‥まあ、それも悪くないとは思うが」
「さすがに、教師はわし一人では、荷が重いですじゃよ」
「手厳しい」
清丸は苦笑をともに浮かべると、一同は踵を返し、戦いの場へと赴く。
「そういえば、このようなものを預かっておった‥‥お聞きになるかえ?」
「たまには、いいだろう」
そうして男は一枚のCDを‥‥『AXDIA〜Unbreakable Heart〜』を受け取った。
「お願いしますね」
「ああ、任せなさい」
神崎五色のネフィリムの横、力の指輪をはめてミルゥはつぶやくと、山中に白い機影が見え始める。
「サーバントはいないのかしら‥‥ジャッジマンさんたちは」
「ミルゥ」
魔皇の頭をかき回しながら、逢魔・スィフト(w3h431)は静かに言葉を紡いだ。
「お前は、当てることだけに集中しろ。他は、気にするな」
「‥‥はい」
強きうなずき。そして目の前に空中から撒かれた石灰の白霧がかかる時‥‥二人は心を合わせ巨大なる魔凱殲騎を喚び出した。
「学校か‥‥なかなかやる」
空中から散布される石灰を見て、リチャード・G・ウィリスはつぶやいた。
「だが、煙幕だけで戦力差がうま‥‥まさか!?」
脳裏のいやな感触にリチャードは全体に叫びながら後退。その瞬間、白き煙幕の向こうから無数の弾頭が現れる。
「な、なにっ」
一機が悲痛な叫びとともに爆砕し、続けて火の華が無数に花弁を広げ出した。
「あれが魔凱殲騎というやつか‥‥なんでこんな辺境に!」
吐き捨て、リチャードは牽制にライフルを乱射すると、煙から逃れようと大地を滑り空を切る。
「いっけぇ!」
レッドホットエンプレスが叫びをあげると、翼を広げDFで加速した機体は目の前のネフィリムを切り倒し上昇。
「いた、あれ!」
「無理は‥‥しないでくださいませ?」
「‥‥また、変なこと考えてるー」
「‥‥」
とぼける逢魔・魔邪(w3h672)に苦笑すると、夏樹は深呼吸、リチャードへと急降下した。
「いた!」
学院から離れた所に群がるサーバントに、ヴァレスは殲騎を降ろし、異形のネフィリムと相対する。
「止まれよ!」
言ってサーバントを一掃しようと向けたパルスマシンガンの正面、鉄の鳥は容赦なく殲騎のコクピットを狙っていた。
光弾の後、無言の前進命令。殲騎が惑う間に二機の鳥は辺りを自在に飛び回る。
「おい!」
「‥‥姉さんは」
ヴァレスの問いかけに静かに恵は言葉を返す。
「憧れだった。強くて、きれいで、優秀で‥‥だから、あたしは姉さんになりたかった!」
睨んだ瞳は力となり、鳥に光を生み出させる。恵のネフィリムからも光弾が飛び、ブラッディネストを容赦なく焦がす。
「傷つくのはいや、傷つけるのもいや‥‥でも! できていれば姉さんは死ななかった!」
「それは違う!」
「違わない! 想いで、人は強くなる‥‥あたしは、強くなるんだからぁっ」
泣き声が混ざった叫び。ネフィリムの後ろより影色の竜が翼を広げ、飛び上がると、数体の竜が応じるように空に地に舞い降りる。
「‥‥私の名前は斑鳩恵。大切なものの死に、心を決めたグレゴール‥‥おいでサーバントたち‥‥戦おう!」
「ここは任せたまえ」
山本山の撃ち抜いた敵機をヘルタースケイルで組み伏せ、無法貴族の中、ウィルハルトは微笑む。
「機先は制した。気になることがあるのなら、な」
「‥‥すまない」
「逃がすか」
男の声に飛び出したデューラーに向けてリチャードがライフルを構えた瞬間、上空から六発の光がネフィリムを撃ち抜いた。
「おっさん、そっちに援軍行くでっ!」
「小僧!」
蒼月院・荒忌(w3j302)が凶鴉の中、インカム越しに言葉を告げれば、同時にリチャードからのシャイニングショット。
「調子に乗りすぎないでください。せっかくの共存の場を‥‥」
「理想に死ぬなら、本望だろっ」
衝撃に焦る逢魔・鈴奈(w3j302)の言葉に被せるよう、ネフィリムが煙から飛び出し、構えた斧を振るう。
「甘い理想だから、賭ける価値があるんや!」
「そのとおり!」
連撃を紙一重でかわし、距離を取る間、荒忌は睨んで言葉を告げ、後方から近づいた発条・枢(w3j562)の玻璃軒木の葉木菟が鏡を構え、ネフィリムを光にて焼き払った。
「さあて、次は」
「油断だけはしないでください」
逢魔・麻鬼乃篳篥(w3j562)の忠告の通り、未だ敵機は数多あった。
「数が多すぎる!」
嘉鈴黄二は声を上げると、そのまま敵を蹴り上げる足ごと振り回される。
小粒なれど群がる敵に、炎烈火は仲間を確認。目を回している仲間が多い気もする。
「このままでは抑えきれんぞ‥‥!」
「モウ、何体か抜けてるデース!」
口元を抑える紫暮哲之助やミオナ・スノーホワイトの声も気にせず、ゴブリンたちは間合いを測り飛びかかった。肩から神輝力を纏わせた手裏剣を放ち黒川半蔵が牽制するも、だがロボの表面には無数の傷が浮かんでいた。
「このままじゃ‥‥!」
揺らぐロボを立て直し、仲間の悲鳴とともにサーバントを殴りつけると、烈火は視界の向こうで舞う白と青の二機を睨みつける。
その隙、オーグラの巨大な棍棒が機体を揺らし、ロボはもんどりうって倒れる。
が、続く一撃の直前、衝撃波が敵を弾き飛ばした。
「‥‥苦戦しておるようじゃのう」
「‥‥お前は!」
巨大な刀を手に、肩に角つきの旗をはためかせて現れたのは、荘厳なる機体、ロートバルド。それを駆るはヴラド・ツェペシュ(w3f420)。
殲騎はネフィリムを助け起こし、サーバントと相対する。
「ジャッジマンよ、貴様らを倒すのは我ら怪人。ここで雑魚ごときに倒されては困るのじゃよ!」
「言ってくれるでござるな」
「ふふふ‥‥さあ、ふたたび出向、秘密結社友の会、串刺し怪人バーベQ!」
告げたロートバルドの前に闇が集い、構えたジャッジロボに光が浮かび上がる。
「友よ見てくれ、余はやるぞよ!」
「今こそ見せろ、正義と!」
「友情の!」
『ツープラトンアタックっ!』
叫びとともに放たれた闇が大地とサーバントを抉り、残る敵も数多の光弾に撃ち抜かれて屍を晒す。
「さあ、いくがよい!」
「ここは、俺たちに任せるんだ!」
「すまない」
DFで敵を絡め、剣で敵を薙ぎ払う二機の上空、山本山はダンスの場へと駆け抜けた。
「刻でござるな」
予定であれば学院の制圧は終了している。だが、なにか胸騒ぎがする。
その時、放たれた爪がネフィリムを捕らえると、飛び込んだ殲騎が周囲に雷撃を放った。
「は、はんぞっ‥‥」
過負荷に耐えられず爆発する僚機に舌打ち、山田半蔵は小太刀を抜いてヨルムンガルドと相対する。
「予測通り、関東に向かうというのだね」
万全ではない二機を見回し、長郎は静かに告げる。
「彼女の想いを果たしに来た‥‥裏切り者の報いを受け取りたまえ」
「ほう、小娘のことか‥‥ぬかせ!」
叫びとともに放たれた光弾は、しかし逢魔・幾行(w3a288)の生み出した氷の壁に阻まれた。
「この前もあわせて、貧乏くじは送り返してあげます」
「その意気だよ」
高速で動く三機の中、長郎は一機のネフィリムに密着すると、魔力を集わせた爪を射出し、コクピットを貫いた。
「ば、かな!」
「ゲヘナの錦織長郎を、甘く見ないでほしいね」
「なるほどな」
仲間の機体を貫いての輝刀が、殲騎の肩を音を立てて抉る。
「恥もなく」
「勝てばよいのよ‥‥それが、忍びの定め!」
離れた長郎に向けてもう一刀、斬り上げる一撃に体が削られる。が、同時に殲騎は腕を掴み、機体を捻りあげる。
「!」
「機体が万全なら、よかっただろうにね」
額の血を拭いながら哀れみの視線を向け、長郎は爪をあてがう。
「他の方々もすでに葬られているはずだ‥‥神の御許で、再会したまえ」
「!」
爪と、神輝を込めた刃がネフィリムにて交錯。
そして、斬撃に潰された自らの半身を押さえながら、長郎は大穴の空いた神輝巨兵を見つめた。
「‥‥いける」
ヴァルキリーズウィングを操り、こみ上げる吐き気を抑え、恵は殲騎を睨みつける。
「あたしだって殺せる!」
鳥の光弾にひるんだ隙にシャイニングショット。すぐさまドラゴンを呼んで視界の盾とすると、鳥を意志だけで感じて、少女は殲騎を撃ち抜いた。
「後ろ、気をつけて‥‥」
「ちっ!」
光弾を避け、逢魔・シーナ(w3c784)の声に竜の一撃を避けると、ヴァレスは下方のサーバントたちに声を上げる。
「なぜ、戦う?」
「望みだから」
冷たい返答。
「必ず守ると、約束したの、だけれど」
寂しき声とともに飛び込んだ山本山からの光柱は、恵のネフィリムの半身を焦がす。
「‥‥嘘つき」
叫び、光弾を放って、そして鳥と竜と天使が敵へと向かう。
「あなたたちに害のないものしか、守らないのでしょう? 姉さんを、心を返してよ‥‥できないでしょっ!?」
そうして神輝巨兵は自らの分も無視し、一気にブラッディネストへと肉薄。竜を避けつつ振るわれた鎌がその黒き片腕を宙に舞わせると、今片方の腕が殲騎の肩を貫いた。
「力を振りかざし、従う弱いものだけ守って正しいと感じたいだけ‥‥あなたたちの『敵』と、どこが違うのよ」
続けて高速でデューラーに近づき、目端に光るものを浮かべ少女は怒りを叫ぶ。
「違うなら‥‥全てを、守りなさいよ! 敵も、味方も、あたしも、姉さんも、世界の全てを!」
「‥‥すまない」
男は答えを氷の弾丸として、少女の機体を捕らえた。
「その悲しき歌声に、応えることができなくて」
男は落下を始めるネフィリムに、二本の矢を備える弓を向ける。
「ならば、せめて姉姫の元へ」
「‥‥ううん、いい‥‥また、ね」
矢がコクピットを貫く瞬間、微笑みが見えた、気がした。
「くらえっ!」
夏樹のかけ声とともに逢魔の幻影の篭手が、ネフィリムの胸部を砕いた。続くヘルタースケイルで、無法貴族はリチャードを抑える。
「チェックメイトだ」
「‥‥まったく、残念だ」
砕けた自らのライフルと動けぬ状況に、男は自嘲で応える。
「あんたとは組んでみたかったな。その時はあんたも、自分を抑える戦い方をしなくてすむ」
「戦いでは」
答えに鎌を捻り、ウィルハルトは刃を敵の機体にあてがう。
「心の優雅さを。気高き心を失った者が敗者となるのだ」
「そうかな?」
斬撃にて体が断ち切られる一瞬、リチャードは哄笑を上げた。光る手刀が殲騎を抉り、砕けさせると、その瞬間、一つの声が響く。
「どうした?」
「知らない痛みが」
鬼哭丸の中、逢魔・清丸(w3g816)は目を閉じ、声をあげる。
「きゅ〜となったのですじゃ‥‥」
「まさか、のう」
その声にウィルハルトと瞳を交わすと、女は反転し、後方へと駆ける。
赤い服の女は校舎の影よりほくそ笑む。
巨大な殲騎と、その回りの神輝巨兵たち。こちらには気づいていない。
スナッチャーは神輝力で隠した剣を取り出すと、ブレスを一言、そして数拍おいた。
次瞬、殲騎の巨大な肩にシャイニングショット。駆け出し、時間を稼ぎ剣を光らせる。
その剣は一直線に回頭を始める殲騎のコクピットを狙っていた。
直前、白き機体が割り込んで斬撃をかわりに受ける。
「理事長っ!?」
中島一正の叫びに、血のないはずの機甲の天使が血を流すと、戸惑う女を大地に叩きつけた。
「きさ、まぁっ」
「残念だが。学園の中で無法は、許さん」
体勢を整えた女はネフィリムへ光弾を撃つと、それと交錯するよう、6柱の魔法光が女を包む。
「ヒ」
「大丈夫かや!」
影も残さず消えたグレゴールの横、清丸は殲騎より降りると、ミルゥや一正とともに、ネフィリムに近づく。
「もう少し早く気づいておれば」
「夢のためだ‥‥君たちが‥‥気に病むことはない」
紺のスーツが朱に染まり、男の息はかすむ。一同はその体を機体の外に横たえる。
「ありがとう、ございます」
「子供を守るのは」
涙を浮かべる少女の頭をなで、男は血の咳を吐く。
「教育者としての務めだよ‥‥学院を、頼む」
そうして目を閉じた男の姿に、一同は声を漏らすことさえも惜しかった。
学院の外に立てられた簡素な墓。その前で、魔皇たちは声を押し殺す。
「‥‥恵さん‥‥安らか、に‥‥」
ミルゥのつぶやきにデューラーは目を伏せ、少女の肩を叩いた。
「理事長‥‥」
「これから、この学院がどうなるか‥‥悲しんでいる暇はない、か」
「‥‥はい」
涙を拭う由香里に厳しく告げると、ウィルハルトは清丸に支えられながら校舎へ向かった。
「よし」
その中、まだ本調子ではない魔邪を背中にくくりつけて、夏樹はコアヴィークルにまたがる。
「いくのかね」
「うん‥‥まだ、戦いは終わっちゃいないから」
「半蔵の動きからすれば」
血止めを終えた長郎は夏樹の瞳に静かに告げる。
「今向かえば、開戦には間に合うはずだ。急ぎたまえ」
「これを」
涙を拭いつつミルゥはスィフトとともに、その指にはめた魔凱を少女に手渡す。
「必要でしょう?」
「ありがと」
「それじゃあ、行くとしますか?」
ヴァレスの呼びかけに夏樹はうなずくと、戦火の燻る学院をあとにし、一路、東へと向かった。 |