■《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》《The Last Holly War》Eternal glory■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 高石英務
オープニング
 ‥‥数日前。
 名古屋メガテンプルムは、その歩を止めることはなかった。
 魔皇の有志によるゲリラ戦も嘲笑い、飛びかかる魔狼の牙も一蹴し、巨大なる、絶対正義を標榜する神殿は、歓喜の中長野を通り過ぎようとしている。
 その前面に立つは異形のネフィリム。普通のものより明らかに大きなそれは、マントのような装甲を持ち、威風堂々と飛んでいた。
 それこそはタダイが、福井で研究されていたサーバント能力付与型ネフィリム・アザゼルの思想を取り込んで作らせた機体であった。
「なかなかに、いい」
 コクピットでふんぞり返り、タダイはつぶやく。
「急造のわりには、俺の思う通りに動く‥‥あとは、コストがかかりすぎる、か。まあ、そんなものは魔皇が滅びれば、関係ねえ」
 そして眼前を見れば、そこには浮かぶ長野テンプルムがあった。その1kmほど手前で異形のネフィリムは手を振ると、全軍を停止させる。
「長野テンプルム、コマンダー・レミエル。貴様の返事を聞きに来た」
 厳粛なタダイの声が響き渡るが、しかし当のテンプルムは沈黙を保ったままだった。
「‥‥レミエル!」
「御前に参上できない非礼をお許し下さい」
 ややあって、コマンダーの大天使・レミエルはその姿を現すと、静かに声を響かせる。
「あらためて問う。長野は、どうするつもりだ」
「‥‥私たちは」
 痺れを切らした烈皇の大声に、返事は対比的に、波が立つようなものではない。
「長野神殿は戦いを放棄しました。そして、私は長野神殿の代表として長野県の統治権を放棄し、これを段階的に長野県民に返還するつもりです」
「‥‥そうか」
 自嘲の笑い、そしてそれは大音声となり、二つのテンプルムを揺らすかと思われた。
「タダイ、様?」
「ここまでだったとはな」
 タダイのネフィリムがふたたび腕を上げれば、その後ろに控えるネフィリムが一気に展開し、行軍を再開する。
「踏みつぶせ」
「な、何を? これが平和のためには一番の道だと‥‥」
「ほう」
 ネフィリムの金属質のマントが分かれ、そして広がると、鋼の羽根が8枚、舞い踊った。
「戦いを続ければ、双方に被害は広がるばかりです。民も疲弊をしています。どうか今回のご遠征、中止してください」
「魔に属するものたちがはびこる限り、世界に平和は訪れんのだ‥‥永遠に続く平らかなる世界は」
 悲鳴に近い訴えを完全に無視し、ネフィリムが腕を振り上げれば、燃えさかる巨大な炎が剣となり、長野テンプルムを指し示す。
「てめえが近畿にでもいれば、助かっただろうにな。顔も見ることができないのは、残念だ」
「タダイさま!」
 その悲鳴が、戦い‥‥いや、殲滅戦の火蓋を切った。

『もしもし? やっとつながった? 留守電になんかしないでよねー』
 その電話は唐突に始まった。相手は蔵谷祥子(くらや・しょうこ)。名古屋で密をやっている逢魔の少女である。
『聞こえてる話だとちょっと状況は不利、よね。長野テンプルムと長野の魔狼隊だっけ? その戦いで戦力は減ってるようだけど、でもせいぜい一割減。つまりまだ400機以上のネフィリムが残ってるってわけ。各地で戦いや交渉が起こってるみたいでさ、こっちに手が回ってくるのかな‥‥』
 受話器の向こうでは軽いため息。やや沈黙の後、少女は一転明るく声を上げる。
『まあ、そう考えててもしょうがないか。やるしかないんだもんね。なんとか、魔皇様たちをかき集めて、ボスを倒せば終わりだよ、うん終わり! アハハ!』
 空元気気味の声と乾いた笑いに、やっぱり自分でも白々しいと思ったのか、祥子は笑いを止めると、真剣につぶやいた。
『逃げてもいいんだよ。どっかの隠れ家に引っ込んじゃってさ、そこから出てこないって選択もあるんだし。‥‥だけど、さ』
 ややはにかんだようにも聞こえるその声は、涙がまぶされていたのだろうか。小さな声で少女はつぶやく。
『やるって言うからには、絶対に負けないでよ? 色々つるんだりした人が死ぬってのは‥‥見たくない』
シナリオ傾向
参加PC 御神楽・真澄
鳴海・北斗
レーグ・ケセド
斑鳩・八雲
イトウ・トシキ
源氏・将門
篠原・良牙
番場・長太郎
遠坂・秋
黒牙・狼
《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》《The Last Holly War》Eternal glory
「さて、どうなりますことやら」
 各地より集まりつつある魔皇たちとすれ違い、斑鳩・八雲(w3d939)は部屋に入ると、密より集めたインカムを皆に渡す。
「俺たちの役目は道を切り開くこと」
 それを受け取り、机の上の城周囲の地図と、それに書き込まれたメガテンプルムの予想進路を見て、鳴海・北斗(w3a149)は声を高く掲げる。
「ジョン・スミス、そして烈皇タダイ‥‥奴らを倒すのは他の魔皇がやってくれる。だけど、俺たちが失敗したら、彼らは辿り着く事ができない‥‥これは、俺たちにしかできないことなんだ」
「その通り」
 少年の決意に逢魔・一刀斎(w3g493)は大きくうなずくと、話に聞き入る主、篠原・良牙(w3g493)に視線を向けつつ声を返した。
「我らに託されし魔凱はもっとも多く、それこそが、我らにかけられた期待の大きさを現しておる」
「こうなったら、やるだけさ」
 逢魔の決意に応じてイトウ・トシキ(w3e193)は魔凱を一つ取ると、後ろで微笑む逢魔・スクネ(w3e193)の左手を取り、その薬指へと指輪を滑らせる。
「絶対、この戦いに勝って‥‥生きて戻ろうや」
「はい‥‥私、トシキさんとずっと一緒に生きていきたいです」
 魔皇に応じた逢魔の心は、この場にいる全てのものの願いでもあった。

「そろそろ、来ると思いますよ」
 ガンスリンガー零式の中、八雲は地図をのぞき、密の集めた情報を再確認した。
 北方からは時折響く戦いの音が地響きとして伝わり、世界を揺るがしている。
「石川は動けぬか、動かぬ、か? 彼奴らも漢としての道を選んだのだろうか」
「そういうものなんですか?」
 尊の中で北をのぞき、噂の褌ブラザーズを思う源氏・将門(w3e681)に、良牙は苦笑混じりで答える。
「‥‥しかし、だ」
「はい?」
 会話の途中、手ぬぐいを取り出し鼻元を抑えつつ、将門は前方の御神楽・真澄(w3a125)の白き幻影ヴァイスより視線を外した。
「白の殲騎というのは、なんともアレだ‥‥め、目のやり場がな‥‥殲騎用の下着でも付けてはくれぬか?」
「‥‥パンツは無理ですけど、褌なら布だけですからねえ」
「あ、あの、殲騎は裸ってわけじゃないですから、下着だけの方が、なんか‥‥」
「良牙ぁ、男ならNO−PANに決まってンだろ!!」
「‥‥バカなこと言わないの」
 後方で下品に笑う逢魔・夢幻(w3a125)と、おそらくは赤となった源氏の白の手ぬぐいを思い、真澄は顔を真っ赤にうつむいた。
「戦いの前だというのにな」
 巨大なる魔凱殲騎と化したリヴァレイトの中、レーグ・ケセド(w3b612)は聞こえる会話に思わず苦笑を漏らす。
「死ぬ覚悟なら出来ている‥‥が、死なす覚悟は出来てない。だからこそ、最後まで足掻く、汚くても、見苦しくても、誰も死なぬように‥‥」
 そして、いつもは悪運の象徴であるキーホルダーに、男はふと、指を滑らせた。

 目の前の空にそびえるは名古屋メガテンプルム。その中央に小さく映るは権天使のネフィリム。
 大音声と共に溢れ出した機甲の天使たちは、整然と白き群れとなり、波の様に蠢きだした。
「行くぞ‥‥!」
 即座に散開、配置につき、仲間の雄叫びと耳にしつつ、レーグは殲騎のその巨大なる肩を広げる。
「誰も傷付けたくない‥‥でも! ここで負ければ、全てが無駄になってしまいます」
「その通り」
 殲騎たちの動きに一個の生き物のように動きを整えるネフィリムを見据え、神斬は巨大な鎌を振り上げ、尊は二刀を抜き放った。
「僕達に、皆の命が掛かっています‥‥死力を尽くして頑張らなきゃ!」
「いざ参る‥‥我は将門、東方の守護なり!」
「照準、セット!」
 デスエンドレスに黒牙・狼(w3j343)はミサイルポッドを用意させると、二機のレプリカント魔凱からの無数のクロスファイアー。弾着の華は用意された不可視の壁に弾かれるものの、雄叫びと共に切り込んだ良牙の鎌がそれを破砕、飛び込む将門が機体を貫き通し、そして切り倒す。
 水滴が落ち跳ね起こした王冠のように、神機巨兵は散開すると、飛び込んだ二機の周囲を囲んだ。
 その後方よりエリアスはスラスターライフルを乱射し、隙に向けて真撃破弾を撃ち放つ。
「第2射だ」
 パルスマシンガンを対空砲火としつつレーグが警告し、新たなるミサイルがせり出すに合わせ、蝕むように戦火が広がる。
 その中、真澄は意志をつぶやいた。
「誰も殺したくない‥‥けど、私だけが甘えてちゃ、ダメよね。何もしないでいるのはもっと嫌だから。きっと、後悔するから」
「ま、思いつめずにいこうや‥‥気負ってたらつまんねぇだろ。どんなときでも楽しんでこそ、粋ってもんだぜ」
「そういうことだ‥‥やると決めたからには、やってやるぜ!」
 元気づけるかのように夢幻がせせら笑い、トシキが雄叫びをあげる。
 テラーウィングが天空を収めるように大きく広がると、数多の火花を背に背負い、六芒三閃、黒き逢魔の力持つ魔凱殲騎は白き神機巨兵の群れへと切り込んだ。

「くらえ!」
 まとわる様に切り込んだ殲騎の向こう、ネフィリムに向けて黒牙はバスターライフルを解き放った。一条の光条が空を貫き、ネフィリムを散開させると、白き機甲の天使たちは敵を見定め、一斉に動き始める。
「来るぞ」
「わかっている」
 狼の声にレーグはディフレクトウォールを持ち上げると、下部のクローを展開。整然と列を整えるネフィリムに向けて速度をあげた。
 迫る巨大な物体より逃げ遅れた一機が、無謀にも剣を振り上げるものの、それが殲騎に届く前に巨大なクローが叩きつけられ、ひしゃげて吹き飛ばされる。
 初撃を避けた敵機は後方に展開、ライフルを構える。
「鬱陶しい!」
 被弾を盾と機体で弾きつつ急速転回、黒牙の三方閃により体勢を崩した敵を男のクロムライフルとパルスマシンガンが射抜いていく。
「やはりそう簡単には‥‥あれでいくよ!」
「でしょうねえ」
 魔凱殲騎二機を護衛、移動しながら遠坂・秋(w3h009)が叫び、八雲は黒牙と確認を取ると魔力を集わせると、一時引いた攻撃の波にあわせて三機の殲騎より放たれた幻魔影が、一時的に魔力の壁となり、ネフィリムを惑わせた。
「主力部隊、随時対応してください!」
「‥‥!?」
「もらったぁっ!」
 突然の女の声と目の前の殲騎の幻影に惑う中、そのグレゴールが最期に見たのは『漢』の文字だった。番場・長太郎(w3g784)はショットオブイリミネートを突きつけネフィリムの頭部を吹き飛ばすと、ドリルでそのコクピットを削り取る。
「どうじゃ見たかぁ!」
「おっし、その意気‥‥敵はどんどん集まってくるから!」
「気合い入れていくぞぉ!」
「伝声の歌声で、どこまで攪乱できるのかわかりませんが」
 逢魔・ユマ(w3g784)と気合いを入れ、長太郎が反転させるムラクモと、その向こうより遠巻きに様子を確認するネフィリムを見て、逢魔・ティスホーン(w3d939)は静かにつぶやいた。
「‥‥やるしかありません」
「ええ、がんばりましょう」
 八雲の決意に、殲騎は魔皇殻を構え、翼を広げ戦速をあげた。

「行きます」
「おう!」
 スクネの声にあわせ、赤い彗星と化したハバキリが地上へと突進する。
 飛び立とうとするドラゴン種と戦う、義勇の殲騎の元へ逢魔は忍び寄る闇を展開すると、統制されたサーバントの動きに乱れが生じた。
 地上で急転回、殲騎が地上スレスレに疾れば、殲騎と竜の剣戟の中、ネフィリムよりライフルの雨が降り注ぐ。
「落とせっ‥‥ジョン氏と、タダイ様の露払いだ!」
「させません!」
「なんだと!」
 全速で近づいたヴァイスが真澄の叫びにあわせ、無数の魔弾を解き放った。
 神機巨兵が振り返りライフルを構え直すあいだに離脱、その後ろから上昇したハバキリが、その背を両断しつつ、高空にて二機は合流する。
「くっそ、全然減らねえ」
 トシキは息を整えつつ、未だ眼下を埋め尽くす白き軍団に悪態をつく。
「‥‥声が」
「?」
「声が、聞こえる。力強い歌声‥‥」
「‥‥ああ」
 どこから聞こえるのだろうか。それは託された心を示すMDか、共鳴したものが続けるラジオの音か。戦場が応じているのか、ただの心の幻影か。
 だが、その歌声は確かに響いていた。
 4人は誰からともなくうなずくと、メガテンプルムより出でた赤いネフィリムを見て、ふたたび突入する。
「走り続けた果てに 例え何も無くても 打ちのめされても」
 女の唇がつぶやき、迫るネフィリムへと幻影を見せつける。
「それでも また立ち上がれるのなら」
「遠く遥かな 月に両手を掲げ 心に秘めた 願いを解き放て」
 逢魔と共に男二人が叫び放てば、交錯した殲騎の刃は、肩と引き替えにグレゴールの命を絶った。
「眠りを忘れ 戦いに疲れ それでもまだ走り続ける」
 女の思いの中、ハバキリとヴァイスはシャイニングショットを身に受けながらも散開し、左右から交錯、空気を切り裂いた渦で敵を翻弄する。
『何も無いそんな自分に 別れを告げることもできないまま』

「後ろだよっ」
「わかってる!」
 逢魔・クリスマス(w3h009)の注意にフツノミタマが反転すると、ドリルランスを突き出した。だが敵機は一撃を見切り、神輝力の力にて追撃、胸部の『雪風』の文字をへこませる。
「消え去れ」
「させるかよ!」
「‥‥なっ!?」
 鳴海が叫び投げつけた黒ヤギのぬいぐるみがネフィリムの視界を覆うと、その一瞬の隙に尊が刃を振るい、チョンマゲよりの一撃で止めを刺す。
「大丈夫か」
「‥‥援護、くらいなら」
 混濁する意識と視界を覆う赤の血に、秋は逢魔の無事を確かめてつぶやいた。
「どうします?」
 魔凱殲騎の援護も合わせ、良牙が後退、一同は集結する。
「本来なら、撤退だろうが‥‥」
 臍を噛み、レーグは低くつぶやくと、周囲に群がるネフィリムを見回した。
 すでに囮の役目は果たしたと言える。だが、未だタダイとの戦いの決着は報されてはいない。
「‥‥僕が、道を切り開きます」
「よっしゃあっ!」
 神斬が決意と共に鎌を構えると、長太郎は大笑い、ドリルを回転させた。
「その意気じゃあ小僧! わしも、行かせてもらうぞい!」
「せいぜい、引きつけるとしよう」
 脱出と囮を兼ねての特攻に皆が決意を固める時、将門は小さく少年にささやいた。
「良牙‥‥出逢った頃はドングリだけが友達だったのにな。友も、この同じ空の下で闘っている‥‥さぁ、お前達の漢を見せてみろ!」
「はい!」

例え全て無くしても まだ立ち上がることはできる

 聞こえる歌に、一同は一丸となる。魔凱殲騎よりのミサイルの雨に答えるように、ネフィリムからは光弾の雨が降り注ぐ。

疲れ果てた身体を 奮い立たせて もう一度

「まだ、やられはしませんよ」
 零式の羽が起こした突風が道を切り開く。
「悪あがきをっ!」
「‥‥まさかっ?」
 くるくると落ちるネフィリムからの返しの光弾を受け、紫の殲騎は体勢を崩し、それを狙えとばかり、神機巨兵は攻撃を集中する。
「八雲さん!」
「‥‥大丈夫ですよ」

走り出そう 宛ては無くても

「うおおおおぉぉっ!」
 苦しき声と体勢を崩したままの仲間を横目に、良牙は神斬の鎌を振るい、道をこじ開けた。
「隙だらけなんだよ!」
「そうかな!」
 鎌を振りきった殲騎へと、光弾とともにネフィリムが斬りかかる時、尊は割って入り、斬撃を受けて頭部より弾丸の雨を浴びせた。
「見切った!」
「不覚! ‥‥だが!」
 斬撃にSFを重ね、神機巨兵の刃が尊を貫くと同時、殲騎の刃は敵を断ち割り、墜落させる。
「‥‥仕留めることを優先だ‥‥5人で1人なら問題ない!」
「ふざけるなよ!」
 巨大な魔凱殲騎に誇りもなく取りつくネフィリムに、エリアスはスラスターライフルで牽制。その動きに追いつき取りついて、後方からネフィリムは殲騎の胸を貫いた。
「‥‥まだ、息があるか?」
「やらせはせん!」

夢など無くてもいい ただ前を見ていること

 追撃、止めを刺そうとする敵機にレーグは機体を振ると、そのクローで叩きつぶし、パルスマシンガンで牽制。
 だが両肩に同時に集中する光弾がついにミサイルに火をつけ、殲騎が茜色の爆発に包まれた。

走り続けた果てに 例え何も無くても 打ちのめされても

「みんな!」
「余裕だな‥‥」
 冷酷なつぶやきが光り輝く刃と共に突き出された。
 肩を貫かれつつ良牙が鎧の針を発射すると、吹き飛ばされた敵にムラクモのショットオブイリミネートが火を噴く。

それでも また立ち上がれるのなら

「まったく、ヤバイな‥‥」
 リヴァレイトをかばうデスエンドレスの中、黒牙がつぶやいたその時、一瞬敵に動揺が走る。
「‥‥?」
「若、あれを!」
 一刀斎の言葉の先、その先に見えるは名古屋メガテンプルム。そして今、その巨大な神殿が揺れ、煙を上げていた。

「きゃっ!」
 幾度目かの砲撃。ナイトノワールの魔凱殲騎の如く戦場を自由に飛び回るヴァルキリーズウィングの光弾を受け、ヴァイスは衝撃に揺れた。
「落ち着いて、よく狙え!」
「‥‥ええ!」
 速度を緩めず体のみ一瞬反転、少女の意志が六つの光を呼び出すと、光弾は交錯し、それぞれを撃ち抜いて大きく揺らす。
「‥‥間に合わねえ?」
「させるかよ!」
 ネフィリムたちを突破し戻ったトシキが叫び、止めを刺そうと蠢く羽根を切り倒すと、そのまま肩を貸すようにハバキリはヴァイスに寄り添った。
「‥‥戦況は?」
「‥‥撤退だ」
「タダイはどうなったんだよ」
「まだだよ!」
 真澄を助け起こしつつ尋ねる夢幻にトシキは怒りを叫び、そして速度を上げる。
『こちらもかなりの痛手を負いました』
 インカム越し、先に撤退を終えた八雲が横で逢魔を労りつつ状況を説明する。
『敵も、撤退の素振りを見せています。‥‥退き時です』
『道は切り開いた‥‥後は奴らに頼むしか、ない』
 影の城は制圧されたころだろう。回復を見込めない今の状況では、鳴海の苦渋に満ちた声に魔皇たちは従わざるを得なかった。
 二体の魔凱殲騎は寄り添うように、未だ戦の火の上がる戦場を後にした。