■大天使の輝き■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 黒蝿
オープニング
 寝苦しい夜が続く那覇市。
 その港である那覇港には、水中に存在しているテンプルムへの入り口がある。
 そこへ、深夜派手なプロペラ音を響かせながら、ヘリが一機降り立った。
 テンプルムから出迎えに現れたグレゴールたちが整列する中、ヘリのドアから一人の天使が降り立った。
 明らかにファンダズマとは違う神々しさをもった天使。その背には鳥のごとき白き翼が生えている。
 グレゴールの中の一人が、その天使に恭しくお辞儀をしながら尋ねた。
「お疲れ様です。サマエル様。会議の方はいかがだったでしょうか?」
「‥‥特に、これといって変わった事はありませんでした。滞りなく観艦式は催されるとのことです。‥‥それよりも」
 天使はグレゴールから視線を逸らして、荷物が置かれている物陰に目を向け、声をかけた。
「そこに隠れている者。大人しく姿を見せなさい‥‥。既に正体は分かっていますよ」
 この言葉に、物陰に潜んでいた逢魔の密はビクリと反応した。
 何やらテンプルムの方の様子がいつもと違ってあわただしいので、物陰に潜んで調べていたのだが正体が見破られてしまったようだ。
 急いで背中の石の翼をはためかせて逃亡を図るが、それを許してくれるほど天使は甘くなかった。
 逢魔に向けてさし伸ばした掌から、夜の闇を切り裂く閃光が走り石の翼を打ち砕いたのである。
 片翼を失って空が飛べなくなった逢魔は、何とかバランスを保ちながら大地に降り立ち、那覇の町の闇に逃れた。
 その姿を見て、天使はその場に居合わせたグレゴールたちに命ずる。
「‥‥行きなさい。逃してはなりません。必要とあればサーバントの使用も許可します。生かしてつれてくるのです」
 
 この情報を得た伝は、急ぎ魔皇たちに密の救出を依頼する事にした。
「このまま、この逢魔が敵に捕らわれるような事があれば大変です。何とかグレゴールたちの追撃をふりきって、この逢魔を救出してください」
 ただ、ナイトノワールの石の翼を一撃で砕いた神輝力といい、その力はかなり強力である。
 もしかすると、テンプルムを治めるアークエンジェル級かもしれないので、問題の天使にだけは十分に気をつけるように、伝は魔皇たちに注意を促すのだった。
「くれぐれも気をつけてください。密の者さえ無事であれば、後はかまいません。とにかく無事に逃げ切ってください」
シナリオ傾向 戦闘、護衛、脱出
参加PC 蒼龍・熾音
ハジメ・ナガツキ
天野・由
夏目・草一郎
有賀・神六
降野・風真
殺女・ヴァルキュリア
誉羽・燐
星見・キア
ファリアン・エメラーダ
青空・彼方
双真・勇気
ジェイド・アース
雷津・綾広
本庄・樹斗
ニコライ・カミンスキー
桜井・安奈
泉・透
佐原・乃亜
遠野・緋芽
大天使の輝き
●逢魔救出
 真夜中の那覇市は騒然とした空気に包まれていた。
 神帝軍の情報を探っていた密を捜索するグレゴールが、サーバントと共に町中を走り回っているためだ。
 もはや一刻の猶予も無いこの状況下、急いで密を救助するためジェイド・アース(w3e663)はパソコンで那覇市周辺の状況を把握することに努めた。
「逢魔の密さんを必ず助けるぞ! でも‥‥あんまり強いのとは戦いたくないな〜」
「‥‥う〜ん、都市情報は簡単に探れたけど、流石に神帝軍の方の情報はセキュリティーが硬いな。ちょっとやそっとじゃ突破できそうにないね」
 とても楽しそうにハッキングをかけていた本庄・樹斗(w3f798)であったが、神帝軍の機密情報などに関しては全て強力なセキュリティーがかけられているようで、まったく情報を引き出すことはできなかった。
 だが、今必要な街の情報については十分に引き出すことができたので、今はこれで良しとすべきだろう。
 ついでに泉・透(w3g358)は、下水道の方の地図も用意しておいた。
「市内は敵で溢れているから、万が一取り囲まれるような事態に陥っても、下水道を利用できれば脱出も楽だろう」
 こうして魔皇たちは準備を整え、コアヴィークルも召喚し、いよいよ夜の那覇市に向かうこととなったが、有賀・神六(w3c499)がふと疑問に感じていた事を口にした。
「何で、密を大天使は、捕まえようとしているのだろう? 普通なら殺してしまったほうが楽なのに‥‥」
 確かにおかしな話ではある。
 神帝軍にとって逢魔など、排除してしかるべき邪悪な存在であるはずなのに、伝の話によれば指揮官の天使は逢魔を生け捕りにするように命令したという。
 だが、今は悠長にそんなことを考えている暇は無いと、雷津・綾広(w3f082)もコアヴィークルに乗り込んだ。
「‥‥とにかく今は急ぎましょう。誰かが死んでいくのを見るのはもう嫌です‥‥。必ず全員で‥‥」
「とにかく密を助け出すのが最優先だな。行くぞ!」
 伝の話にもあったとおり、この依頼で最も重要なことは神帝軍に追われている密を無事に救出することであり、そのためならば蒼龍・熾音(w3a549)も協力を惜しむつもりは無かった。
 かくしてコアヴィークルにまたがった魔皇たちは、深夜の那覇市に向けて走り出す。

 一口に那覇市と言っても、不可侵領域一つとってもその範囲は広く、ただコアヴィークルを走らせて闇雲に走り回っても手がかりを見つけることは難しい。
 そこで、幾人かの魔皇たちはかつて那覇タワーと呼ばれた建造物に向かうことにした。
ここは那覇市の中でもかなり高い建造物なので、ここの展望台から眺めれば那覇市を一望することができる。
 早速コアヴィークルを降りて、展望台に到着したニコライ・カミンスキー(w3g238)は双眼鏡をもって那覇市全域を見下ろした。
 すると、恐らくはグレゴールが使用しているであろう輝光球<シャインライト>による明かりが市内のあちこちから確認できた。
「どうやら、町中に散って散り散りになって捜索しているようだが‥‥。むっ、あれは‥‥」
 彼の視線に止まったもの。
 それは、複数の光が一つの方向に向かって動き続けているという光景であった。
 光がグレゴールだとして、それが複数にまとまって動いている。
 それが意味するものはすなわち‥‥。
「見つけたぞ! 場所は‥‥」

 ニコライから情報を得た魔皇たちは、コアヴィークルを駆って指摘された場所へと急ぐ。
 もはや場所さえ分かればこっちのものと道を急ぐ魔皇たちの中で、夏目・草一郎(w3c137)は暢気な笑い声を上げていた。
「いや〜まいったなぁ〜。のっけから大天使さんの相手とはねぇ ま〜三十六計逃げるに如かずってところでやってみますかぁ。密君さえ救出できればそれで構わないのですから」
 要は密をコアヴィークルに乗せて、さっさと不可侵領域外に出られればこちらの勝ちなのである。
 外ならば殲騎が使えるし、隠れ家に帰還するのも難しい事ではない。
 だが、市内を巡回するグレゴールの数は多く、それらが脱出の妨げとなる可能性は十分にある。
 そこで、皆と別行動をとっていた桜井・安奈(w3g272)はあえて普通の通行人のフリをしながらグレゴールに接近することにした。
 複数のグレゴールがサーバントを伴って警戒する町に通行人がいるはずも無く、彼女はすぐさまグレゴールに呼び止められた。
「おい、待て! お前、どこへ行く?」
「どこへ行く? 決まっているじゃない。 仲間の逢魔を助けに行くのよ!」
「逢魔だと!? 貴様はまさか‥‥」
 グレゴールの言葉が終わるか終わらないかの内に、桜井は素早く身を翻すとこの場から全速力で逃げ出した。
 そして、それを見たグレゴールも急いでその後を追うのだった。


 このようにして、陽動作戦なども入り混じって、密の救出を担当した魔皇たちは目的の場所へと素早く向かう事ができた。
 そして、前方の道の彼方から眩い光が見えてきたかと思うと、それに追われるように一つの人影がこちらに向かって走ってきている。
 その人影の背中に片方だけ翼のようなものが生えていることを見つけた殺女・ヴァルキュリア(w3c900)は、無線を用いて密を見つけたことを仲間たちに伝えた。
「多分、片翼を破壊された密とおぼしき人物を見つけたわ。これから救出するから援護の方をよろしく頼むわね」
 ナイトノワールと思われるその人影の周りには、サーバントと思しきものたちが多数存在しており、取り囲もうとしている。
 まずはそれを撃退しなければ始まらないと、ハジメ・ナガツキ(w3b384)は少し離れた場所からそれらを狙撃し始めた。
「‥‥邪魔だな。まずは奴らを排除する!」
「この位置からなら、確実に狙えるわね。こっちからも援護するわ!」
 更に那覇タワーに登っていた天野・由(w3b887)も、高所よりサーバントたちを狙撃して援護射撃を行った。
 結果、周りにいたサーバントたちはひとまず後退し、グレゴールも上からの攻撃を警戒して動きが止まった。
 その間に逃げている逢魔の元に駆けつけたファリアン・エメラーダ(w3e183)は、素早くその傷の応急手当を始める。
「よく頑張ってね。後はあたしたちに任せておきな」
「あ、貴方がたは魔皇様! このような場所になぜ!?」
「密お兄ちゃんをたすけにきたの! お兄ちゃんは燐ちゃん達が守ってあげるから安心して」
 魔皇たちの援護に驚く逢魔に対して、誉羽・燐(w3d804)が助けに来たことを伝えて、安心させようした。
 双真・勇気(w3e521)も、自分たちがこの逢魔を護る気持ちで一杯で、神帝軍に対して怒りをつのらせている。
「安心して。わたしは困っている人がいるとほおっておけない性質だから。 あんな大勢でよってたかっていじめるなんて、最低な奴らだわ!」
 とにかく負傷している逢魔をコアヴィークルに乗せて、佐原・乃亜(w3g359)も逢魔を励ますことにした。
「密さんお怪我は痛みますか? 一人の時もこのように空気が張り詰めていたのでしょ?安心してください。私達は貴方の味方で決して裏切ったりしません。貴方を守る気がなければこんな所にきたりはしません。 一度諦めかけ、繋いだその命‥‥。私達に一時ゆだねてはいただけませんか? 貴方の信じる力が私達には欲しい‥‥」
「魔皇様‥‥」
「感動の対面もいいですが、ひとまずはここから離れましょう。援護に頼るにも限界があります」
 すぐ近くには逢魔を追撃していたグレゴールたちがおり、今は仲間たちの援護によって動きが止まっているが、いつまでも持つわけでは無い。
 道順や目印になる建物の場所を頭に叩き込んでおいた星見・キア(w3d976)が、先頭に立ち、魔皇たちはコアヴィークルを発進させてその場を後にした。

●脅威の大天使
 グレゴールたちに追撃を振り切り、コアヴィークルによって夜の街を疾走する魔皇たち。
 グレゴールたちには特に騎乗するものは無いようで、コアヴィークルに追いつけるとすればネフィリムだけであるが、立ち上げるのに若干時間がかかるため、このまま行けば無事に不可侵領域から無事に逃げ出せると思われた。
仲間のコアヴィークルに乗せられている傷ついた逢魔を見て、ファリアンはまだ何とかなると脱出に気合を入れる
「何とか持ちこたえられそうだね。逃げきりゃ、こっちの勝ちさね。地味だけど‥‥やって見せてやるよ」
「よし、もう少しで不可侵領域から脱出できるはずだ。気をぬかずに‥‥、ん、あれは何だ?」
 途中で仲間たちと合流して、コアヴィークルに乗っていたニコライは、あと少しで不可侵領域から抜けられるその直前の道路で、真ん中に立ち尽くす人影のようなものを見て声を上げた。
 それは華奢な女性のような姿をしていたが、背中には鳥のような白い翼を生やし前進から神々しいまでの威厳を漂わせている天使のような存在だった。
 明らかにファンタズマやグレゴールとは格の違うその者に脅威を感じ、本庄は皆に止まるように連絡する。
「皆、コアヴィークルを止めるんだ! あれはもしかすると‥‥」
 だが、その言葉言い終わらないうちにそれはシャイニングフォースを用いてきた。
 聖障壁<ホーリーフィールド>によって聖なる結界がしかれ、魔皇たち邪悪なるものたちの進入が拒まれる。
 コアヴィークルも結界に触れると動きがとまり、それ以上前にはいけなくなってしまった。
「ち、ちょっと、これ一体何なのよ! まぁ、止まる手間が省けたけど‥‥」
 本庄の指示でコアヴィークルを止めようとした桜井は、その前に動きが止まって戸惑いを顕わにする。
 聖障壁によって作り出された結界は、破壊しない限り突破することはできない。 
なるべく戦闘せずに撤退したかった雷津も、諦めてコアヴィークルから降りて輪生体勢を整えた。
「‥‥どうやら、すんなりとは逃がしてくれそうに無さそうですね‥‥。やるしかないか‥‥」
「密のお兄ちゃん、心配しないで。必ず皆が護ってくれるから‥‥!」
傷ついた逢魔の傍らに寄った誉羽は、必死に泣くまいとしながら目の前に立ちふさがった天使と対峙する。
しかし、密はその姿を見て愕然と呟いた。
「那覇テンプルム指揮官アークエンジェル・サマエル‥‥。まさか、先回りしてなんて‥‥」
 いきなりの指揮官登場に、魔皇たちの間に緊張が走った。
その天使からは、穏やかな態度ながら相当のプレッシャーを感じさせられる。やはりただのエンジェルであるファンタズマとは比べ物にならないほどの力の持ち主のようだ。
 ここで気おされては負けだと、サマエルに対峙した殺女は必死に気持ちを奮い立たせる。
「私の名前は殺女・ヴァルキュリア! あなた達のボスの神帝が死んだ後、新しくこの世界の支配者となる運命を持つものよ。覚えておくと良いわ。さてこの私の天才的な才能と周囲に控えた私の僕達を使えば、あなた達を倒す事も容易いけど、今はまだ雌雄を決するには早過ぎるわ。ここは一つ引いてくれないかしら?」
「‥‥邪悪なるものが愚劣な事を言う。神無くして人の子が救われることなどないというのに‥‥」
 複数の魔皇と対峙しながらも、まったく動じる気配の無い大天使に対して、夏目が気になっていた事をたずねてみる事にした。
「古の戦いからだいぶ経ったけど、今更、何をしに起きてきたんだい? 獣じゃないんだから言葉で分かり合えないかなぁ、それとも互いに滅ぼし合うしかないのかい?」
「神の世が訪れたというに、神より離反した邪悪なるものと言葉で渡り合えることなどないでしょう‥‥。神の支配を受け入れぬ者に待っている末路は、即ち死のみ‥‥」
 もはや問答無用と、大天使は魔皇たちに手をかざし攻撃を仕掛け来た。
 烈光破弾<スパーキングショット>による眩き閃光が大天使の手から放たれ、二重のディフレクトウォールによって防御した天野だったが、その威力は強大で、あっさりと二枚のディフレクトウォールを粉砕して見せた。
「なんて威力なの‥‥! 洒落になっていないわ!!」
「‥‥まともに戦って勝てる相手ではなさそうですね。逃げるとしましょう!」
 だが、魔皇たちの進路にはサマエルによる聖障壁が展開しており、そのままでは突破することはできない。
 そこで佐原が援護攻撃を加えながら、星見がクロムブレードを叩きつけて結界の破壊にとりかかった。
「中々壊れませんね。もう少し時間がかかりそうです‥‥」
 その間にもサマエルの烈光破弾による攻撃は魔皇たちに次々と放たれ、遠野・緋芽(w3g360)、青空・彼方(w3e499)、降野・風真(w3c870)などが、密の盾になりながら次々と倒れていく。
 自身のディフクトウォールが粉砕されたニコライも、第二波を防ぐ自信は無かった。
「もう限界だぞ! まだ結界を粉砕できないのか!?」
「くそ‥‥! これでどうだ!!」
 その時、泉が放った一撃が遂に結界を破壊し、魔皇たちの道は開かれた。
そして、ジェイドは素早く幻魔影を使用してサマエルの回りを幻影で包み込むとコアヴィークルに乗り込む。
「よし、今のうちだよ! 早く逃げて!!」
 幻魔影による幻影の効果は絶対ではないし、敵が大天使である以上いつまでも効果を発揮してくれるとは限らない。
 有賀が密をコアヴィークルの後部座席に乗せて、一気に道路を駆け抜けた。
「密の方は任せておけ! 援護を頼むぞ!!」
 そうして、ようやく大天使を振り切った魔皇たちであるが、ふと背後を見てみれば、テンプルムより発進したネフィリムたちがこちらに迫っているではないか。
 蒼龍がそれらに攻撃を加えながら、仲間たちに脱出を急ぐように促した。
「ここでネフィリムとドンパチするのは危険すぎる! 目に付かない場所まで逃げ切るぞ!」
 もう不可侵領域を抜け出してはいるが、追撃するネフィリムとテンプルム近くでやりあうのは危険すぎる。
 幸いコアヴィークルは小回りが効くので、何とか魔皇たちは追撃の手を振り切り、隠れ家に逃げ込むことに成功した。
安全な場所にやっと到着して、夏目は安堵の息をつきながら笑顔を見せるのだった。
「伝の話にあった観艦式ってのも少し気になるけど、また今度だねぇ。いやいや〜、本当にまいったなぁ〜」
 
 その頃、サマエルは常衝閃<アンチフォース>によって幻魔影を解除すると、魔皇たちが逃げ去っていった方角に視線を向けていた。
「やはり魔皇という存在は、神帝に仇なす存在‥‥。今のうちに粛清する準備を整えておくことにしましょう」