■MG戦記異人伝【第3ターン 〜爛〜】■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオEX |
クリエーター名 |
松原祥一 |
オープニング |
幻想郵便局のマスター諸氏に突然、怪文書が送られてきた。
『無貌の系譜』が次回で打ち切りというのだ。
「そんな馬鹿な!?」
「やっぱり‥」
「ローンが」
「別にいいけどね」
反応は様々であるが、マスター達には最後の仕事が残っている。
そう、『いきなり最終回』のシナリオを書くという仕事が。
魔皇軍の命運を決する大戦の横で、非常にニッチな世界の最終戦争の火蓋がきって落とされた。
「本当はかなりどうでもいいんですが‥‥依頼出さないと戦わないぞとのたまわる人がいらっしゃいまして‥‥不成立だと思いますが、一応依頼にしておきます」
逢魔がかなり投げ遣りだ。
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シナリオ傾向 |
PBM系、虚構系 |
参加PC |
南青山・春生
逢薄花・奈留
ディラス・ディアス
護国・英霊
正体不明・オルステッド
長月・蒼野
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MG戦記異人伝【第3ターン 〜爛〜】 |
●白紙のロンド
昼間からカーテンを閉め切ったマンションの一室から始める。
芯の抜けた案山子のような虚脱状態で、長月・蒼野(w3j556)は何時間もボンヤリと壁の一点を見つめていた。
(「会社いかなくちゃ‥‥アレ、もういいんだっけ‥‥」)
時間的にはMG戦記の終章が奏でられる数日前のことだ。その事件発生の時には、或る場所で無残な死に様を見せる長月の命もこの時はまだ正常に機能していた。
「ああ、昼間っから寝転がってられるのって幸せだぁ」
正常でも何の役にも立ちそうに無いが。
勤めていた会社を解雇された長月は、最初のうちは実に幸福そうだった。ある種の躁状態だったと言っても良いかもしれない。だが一週間も過ぎると時間を持て余すようになり、苛立ちを覚えるようになった。小人閑居して不善をなすというが、その通りであると思う。
「あ、そうだ。リプレイ書かなきゃ」
思い出して起き上がり、長月はゴミをかき分け始めた。whooo?!事務所で受け取ったプレイングの束を探す。
「無いなぁ」
彼の一室は、知らない人が見れば部屋全体がゴミ溜めかと思う程に汚い。秘蔵のコレクション以外は長月自身でさえ、どこに何が置いてあるか分からないから始末が悪い。
「まあ、そのうち出てくるだろうけど」
結局、見つけ出す事を断念してその日は久しぶりに外出する事にした。プライベが開かれていた事を思い出したからだ。取材と称して行く事にする。
「まだプライベやってるなんて驚きだよね。そういえば、前は毎週のように何処かで集まってたよなぁ」
「ほぉ、意外だな。貴様の事だから、生まれた時から引き篭もりかと思っていたが」
さり気なく酷い事を言う逢魔・神無月(w3j556)。神無月は主人の事をチリ紙ほども敬わない。
「それじゃ僕がまるでバカみたいじゃないか」
「‥‥バカだよな?」
真顔で問われて長月は少し寂しかった。
「引きこもりオタクだって事は認めますけどねぇ。プライベ行くのも久しぶりかなぁ。昔は本当に、みんなとよく外で相談してたよ。初めてPBMやった頃はさ、面白くて時間が経つのも忘れちゃって、終電までファミレスでゲームの話ししたり、必死で交流ペーパー作ってコンビニでコピーしたりしてたんだ」
語り出すと懐かしさが甦るのか、顔を上気させて長月は喋り続けた。
「その頃はまだモデムどころかパソコンも持ってない奴がまだ多いの。だからリプレイ見せて貰ったり、プレイングの相談したくて何十通も手紙送ったなぁ。へたくそなプライベートリプレイも何本か書いたっけ。たまに思い出したようにそれを話題にするヤナ奴がまだいるよね。いい加減に忘れろっていうのにさ」
「楽しそうだな」
「あ、うん‥‥俺の青春って感じだよね。最近はそんな気持ち、忘れてたけど」
話題はそこから一転して、PBMゲームが如何に凋落したかをクドクドと愚痴り出した。それも周りを憚らない大声で話すので、神無月の前蹴りが容赦なく長月の下腹に突き刺さった。
「こんなときは、逝って良しって言えばいいんだろ‥‥」
「そ、そうでつ」
プライベ会場に着くと、見知った古参ゲーマーが先に来ていたので長月は近寄っていった。ちょうど南青山・春生(w3b001)のPCの白紙プレイングについて論議をしている所だった。
「だから、白紙で出す方が悪いんだから、何をされても仕方が無いだろう?」
「いやいや、白紙も立派なプレイングと見ないと。白紙は旗幟鮮明に無行動を表明しているのであって、それを何でもアリと解釈するのは如何なものか?」
白紙プレイング。
元々の定義はPCの行動記載用のハガキや用紙に、何一つ書かずに白紙のままで提出した剛の者(或いはうっかりさん)に由来する。今ではプレイング未提出者の事も指すようになり、その用法で使われる事の方が多くなった。
「行動しない行動って、何か矛盾してないかい? 何もしない事と白紙は別である筈だ。白紙はPCを使用する権利を放棄している。だからマスターがPCを動かすしかない。白紙でも遅刻でもその場にPCは存在するんだからな」
「僕はマスターがPCを勝手に動かすのは気に入らないな‥‥でもこの話はここでやめよう。昔も同じような事を散々言い合った気がするから。それより珍しい人が来てるから、彼に何か面白い話の一つでも聞かせてもらおう」
にやにや笑みを浮かべて話を聞いていた長月は、視線が集まったので肩をすくめた。
「え、面白い話? 急に言われても無いなぁ」
今度リプレイを書くんだ、とその言葉が喉元まで出かかっていた。しかし、まだどうなるかは分からないのだから、顔見知りに直接話すのは気が引けた。
「へぇ、マスターになるんだ? オメデトウ」
「アリガトウ」
数分後にはリプレイを書いてる事を話していた。
「正直、意外だな。君はプレイヤーを貫くものと思っていたからね。何かあったのかい?」
「何か、ねぇ‥」
魔皇になった事で刹那的になったのか。
だが一回ぐらいはやってみたいと思っていた事も事実だろう。
「タイミングかな。今より他に無い感じがしたんだよ」
「そうか、萌えなリプレイが書きたくなったか」
「うーん‥‥自分の趣味をプレイヤーに押し付けるマスターっていいものじゃないしさ。途中参加マスターだし、今回は大人しくやっておくよ。自分でオープニング書かせて貰えるようになったら、勿論その時は好きにやらせて貰う訳だけど。うへへ」
数日後には血塗れの肉塊に変わる男は、幸せそうに笑った。
「それで、今日の私のステージはどちらですか?」
プライベ会場の隣で和服姿の壮年の男が小学生ぐらいの男の子と話していた。
「無いよ」
演歌歌手の南青山はここに新曲キャンペーン(所謂ドサ回り)で来たのだが、マネージャーの逢魔・イハニー(w3b001)のミスか、公演はキャンセルされていた。
「やれやれ」
「だって、この仕事はハルオが僕に無断で取ってきたんじゃないか。僕のせいじゃないよ」
溜息を吐く南青山の姿に、少年は悔しそうに横を向いた。
「そういう態度は良くありませんよ、君は私の何ですか?」
少年は体を固くした。春生は真面目な顔でイハニーを見ていたが、不意に何か胸騒ぎのようなものを感じて歩き出した。
「あれハルオ、どこ行くんだよー。まさか、この僕を置いてくつもり?」
置いて行かれじとイハニーは後を追いかける。
●終わる世界に至る世界
PBM論を語るのが好きな人がいる。
傍目にはよくも十年一日に似たようなテーマで論じ合うものだと映るのだが、好きな事を語るのはそれだけで愉快な事であるのだろう。
「ストーリーなんて要らんでしょう」
ディラス・ディアス(w3h061)は電話でPBMの元マスターと話をしていた。電話の相手はギャグシナリオを得意としていた。
「ストーリーが何で必要なんですか」
決め付けた感じが小気味良い。
「シナリオ論でいうストーリーの事じゃないですよね。対話的なコンテンツでは物語性を追求する事に限界があるという事ですか?」
「そんな話じゃなくて‥‥何て言うかな、論より証拠というか。ストーリーのための設定とか作るのバカらしくて。面白いものを、ありのまま書けばそれでいいじゃないですか?」
「ふむ」
PBMに金科玉条は無い。マスタリング手法は多々存在し、筋無しくらいは許容範囲内だろう。
「しかし、中には我々にとって『敵』としか映らない者が存在するのは事実だ」
ディラスは批評家である。彼はリプレイやマスターに容赦ない批評をおくっていた。彼の批評が元で辞めたマスターも一人や二人では無いとまで言われている。
「ともすればNPC好きなマスターは、NPCを己のPCのようにプレイする。審判の寵愛を受けたNPCの大活躍は見るに堪えない私小説となる。だがNPCもキャラクターであるなら、マスターの意思を離れて自立するのが自然では無いか。PCのようなNPCなど醜悪でしかない」
彼は今、『無貌の系譜』最終シナリオ群の中でも異色の松原某の特別シナリオに注目していた。ディラスも魔皇だから、このシナリオの生まれた経緯については耳にしている。
「十万超のPCが一つの筋の為に動くとは茶番の窮みだ。ここはやはり、カウンターか。なかなかに、お目にかかれるシチュエーションでは無いからな」
プレイングを捻りながら、ディラスは苦笑した。
このシナリオにある明確なストーリーに挑戦することを決める。
「定まった結末に横槍を入れるのだから、さぞかし危険だろうさ」
批評家は仲間を募らず、単独で『終わる世界』に挑んだ。
「これだけ数が多いと、封筒詰めも楽じゃないですにょ〜」
逢魔・智(w3h061)は古典的な方法で『終わる世界』を傍観する立場のプレイヤー達に揺さ振りをかけていた。彼女は参加しそうなプレイヤーを調べて、交流の手紙を次々に送った。
「ボーッと見ているだけのプレイングなんて、そんなんじゃ面白くないよね。世界を変える手が何かあるかも。ほら、あの二人を倒せば‥‥」
PBMの黎明から、手紙での扇動は非常なセンスが要ると言われた。貰った方にすれば、勧誘や扇動は鬱陶しいだけの場合が多い。無差別な呼びかけでは効果は期待できないと見て良い。
「私は素晴らしい音色を聞きたい」
リプレイ執筆の目的で松原某を拉致した正体不明・オルステッド(w3j545)は、薄闇の中、どこからか持ってきたグランドピアノでリスト編曲の『運命』を弾いていた。
「そのためには、リプレイは心と体を開かなければ書けないよ」
正体不明は昼夜の別なく松原を監視していた。ただの人間である松原は抵抗する気力も失っていたが、トイレから布団の中まで側に付いているので、休まる時が無い。
「怯えなくてもいいんだよ。君は、君が望むままにリプレイを書いてくれさえすれば何も心配は要らないのだから」
その場には松原と正体不明だけでなく、時折、同じような姿をした赤子と老人が現れたり、怪しげなモノリスが動めいていた。
「乱入してくる者がいるようだ」
逢魔・黒いモノリス(w3j545)がその事を告げると、正体不明は薄笑いを浮かべた。
「不思議だね。この戦いに不用意に近づけばどうなるか、理解出来ない訳でもあるまいに。‥‥今は好きにさせておこうよ。どうしたって、結果は変わらないんだから。雑音はカットすればいいさ」
暗闇に、次々とモノリスが浮かび上がる。
●The world finishes
土砂降りの雨にうもれたメトロポリスは人影が無く、まるで巨大な廃墟のようだ。
「何が起きている?」
この『世界』に迷い込んでしまった変身ヒーローは、道路の真ん中で空を見上げる。
厚い雲には一筋の切れ間もなく、その暗黒から無量の雨が地上に降り注いでいた。
「‥‥ここが噂に聞いた世界の中心か?」
当惑が彼にそう言わしめていた。
数ヶ月前から、彼の居た世界はオカシクなった。明らかに神とも悪魔とも違う名状し難き存在が現れ、自分達の世界と良く似た『外』の世界をさえ垣間見た。
――いわゆる、平行世界か。
「ここには入れない筈だが、情報が外に流れたか?」
ヒーローが振り返ると、建物の一つからグラサンに黒いスーツ姿の男が出てきた。量産型エージェントである。名前が示す通りに、同じ格好をした男達はぞろぞろと現れてヒーローを囲む。
「まもなくこの世界は終わる。誰にも止められん‥‥何故無駄な事をしようとする?」
エージェント・ヴラドと彼女の戦いが全てを決する。
それで何もかもが終わる筈であった。
「侵入者だ、警報を鳴らせ。‥‥愚かな、戦力差は圧倒的だというのに今更何を」
量産型エージェントの部隊長は、この『世界』に侵入したPC達を示す光点を冷やかに見つめる。
集結した結社の総数は数十万に達している。
仮に侵入者達が英雄級の怪物だろうと、まともに考えて勝負にすらならない。
暗闇に直立したモノリス群に変化が現れた。
「紫の夜が始まる。世界の始まりと終局の扉が、ついに開いてしまうか」
「‥‥ついに‥われらの‥願いが‥始まる‥‥」
「大丈夫だよ」
晴れ晴れとした顔で中島は言った。
「白紙で死んだマスターはいない」
「嘘だね」
俺は吐き捨てた。
「プレイングのテンションは最悪、大半が白紙か一行! 他のシナリオはこっちの事無視か皮肉ってるし、こんなんでまともなリプレイなんて書けるか!」
逆ギレした俺を、中島は生温かい目で見ている。
「プレイングのせいにしちゃいけない。どんな事があっても白紙でも‥‥そう言ったのは君だろ?」
「そんな昔の事は忘れたよ」
拉致監禁脅迫、相次いだ忌まわしい事件は俺の体から活力を奪い去っていた。最後の最後で気力が無くなった。これがいけなかったのかもしれない。
松原某は、巷で噂の襲撃事件に巻き込まれて、リプレイ執筆半ばで死んだ。
‥‥おや?
じゃあ、このリプレイは誰が完成させる?
数十万のエージェントVS反結社連合PCの戦いは終わる事無く続いた。
反則的なまでの物量を誇る結社側に対して、反結社連合の戦力は数千分の一だ。だけでなく、この『世界』は結社のホームグラウンドも同然。様々な世界から反結社の意思の元に集まった戦士達はアウェーの不利まで受けていた。
「くっ‥‥結局は数の力がモノを言うというのか?」
「商業的には間違ってはいないが‥‥そんなんじゃ面白くない!」
反結社連合は劣勢を覆そうとNPC大好きマスターから強奪してきた超強力NPCを戦線に投入。しかし、マスターの庇護を外れたことで無敵ぶりが喪われた彼らは次々と撃破されていく。
「強力な敵キャラって、どうして仲間になった途端に弱くなるのかなぁ‥」
「こんな事なら、自分達の世界でアイツと結婚式やっときゃよかったぜ」
あちこちで断末魔の叫び声が上がった。
既に反結社連合は半数が戦死。普通ならとっくに全滅と言って不思議は無いのだが、この『世界』にには退路が無い。そして彼らの敵は降伏も投降も認めなかった。
モニターに写される殺戮の光景。それを横目にモノリス群の会話は続いた。
「魔皇型決戦兵器も数が揃ったね☆」
「いささか数が足りぬが、やむを得まい」
「我ら結社に福音をもたらす、真の姿に。等しき死と祈りをもって神と魔を真の姿に」
中央から右側がそう発言すると、全員が唱和した。
「それは、魂の安らぎであ〜る」
「終わる世界は素晴らしい」
境界に立つ人影は他に誰も居ない場所で独白する。
「しかし、現世という舞台には終りない。ただ無貌の出演者が立ち現れ、そして立ち去るのみ」
何を云っているのだろう?
「ならば世界が壊れようとも‥‥それは終わりを迎えるのではなく、世界の一切が無意味になることだ。無意味なまま、世界はありつづける。永遠に、永久に‥‥」
つまりそれが、君の詩という訳か。
「‥‥何?」
何も無い筈の場所で彼は振り返った。
ついに追い詰められた反結社連合は切り札を出した。
世界意思と交感した『異形』と『守護者』を降臨させた。
「力があれば、何でも思い通りになると思ったら、大間違いだよ。‥‥災厄には災厄、立ちはだかるモノ全てを粉砕せよ!」
異形は、世界を直接的に破壊に導く最終兵器。
「俺達の事を野蛮だなんだと散々に否定しておきながら、自ら終末の引き金をひくとは‥‥結局やってる事は変わらないじゃないか」
「壊す事しか出来ない低能がデカイ口を叩く、だからこんな世界は滅びた方がいいんだ」
「‥‥ったく、オリジナリティの無い‥‥ガン●ムモドキは沢山だ!」
反結社側の自爆技で、状況は混沌と化していく。
終焉の近いことを知り、モノリス群は補完計画の最後の詰めに入る。
「では、儀式を始めるのであ〜る」
「‥‥‥総帥、コレって契約外勤務の手当はつくアルか?」
「いや、契約外勤務って‥どうですかね、それは?」
「大事な事アルよ。彼女いない暦ン十年のアナタと違ってワタシはもう所帯持ちアル」
「な、何でそんな事を知ってるんですか?!」
「‥‥をい、いちおー儀式の最中だ。静かにしてくんねーか?」
「ホラ! アナタのせいで怒られたアルよ!」
「‥‥」
大地を割り、空を切り裂くエージェントと彼女の結末は?
それは誰も知らない。
何故ならこのリプレイは未完で終わるからだ。
●全ての終わりの後に
廃ビルの前に佇む老人と少女。
小柄な老人はグレーのハンチング帽をかぶり、杖を持っていたが背筋はピンと真っ直ぐで相当な高齢に見えたが矍鑠として見えた。傍らの和服を着た少女は孫だろう。
「ここが‥whoo?!の跡地か」
護国・英霊(w3j390)は呟いた。
「ぴーべーえむ、とかいう郵便を使って行う遊戯に血道をあげた神魔が、争って滅びた場所だそうじゃ」
老人はそう言って少女に説明した。実際、終幕を下ろす事になった事件は顔を覆いたくなるほどに酸鼻を極めたものだった。関係者の殆どが鬼籍に入ってしまった為に、何故にそこまでの犠牲が必要だったのかすら分からず、その奇怪さだけが強調されていた。
「ぴぃびぃえむ、だそうですよ、魔王様。プレイ・バイ・メールの略だそうです」
逢魔・桜花(w3j390)はやんわりと訂正する。
「神と魔が、郵便で遊び合う、か‥‥ある意味理想郷だったのかもしれぬのう。壊れてしもうたのは、誰のせいか。時勢がそれを許さなかったのかのう」
惜しむように老人が言う。それはどうだろうか。彼らの中に戦いを望んだ者がいたことは事実だ。それが全ての罪であるとは思わないにしても。
「‥‥」
「‥‥」
それきり二人は暫し押し黙った。
「さぁ、旅を続けるぞ」
「はい」
「わしらの旅は‥‥まだ終わらぬ」
歩き出した老人に、少女は躊躇い勝ちに声をかける。
「あ、あの‥魔王様?」
「なんじゃ、桜花や?」
「魔王様‥私達の出番、これだけですか?」
講和の兆しが見えた西日本と異なり、未だ火種が残り、策謀隆々と盛んな関東での依頼と勢い込んで参加した桜花であった。夢の跡を眺めて帰るだけなど拍子抜けも甚だしい。
護国は皺だらけの顔を歪めて破顔一笑。
「リプレイ成立のためじゃ、文句を言うなて」
「は、はぁ‥‥?」
意味不明な言葉を残して二人は退場。
さて、あと少しだけ話は続く。
「おかしいわねぇ。うーん‥‥」
逢薄花・奈留(w3f516)はバツが悪そうに首の後ろに手をあてて唸った。
奈留はどこにでもいるような普通の女子中学生‥‥の筈なのだが、今は背中から白い羽を生やして、身体は白いヒラヒラな布で作った際どい衣装を纏い、思い切りアッチの人の出で立ちだ。
「コスプレ?」
逢魔・緑閃(w3f516)は主人の変貌ぶりについていけずにいる。
「今度の依頼にはこの格好がベストだって教えてもらったのよ」
「誰から?」
「‥‥誰でもいいでしょ、そんなこと」
余程触れられたくないのか、逢魔から視線を外す奈留。
「君はそういう人ではなかったはずなんだが‥‥まあ言っても仕方ないな。それで、我々はここで何をすればいいんだ?」
「えーとね、松原って人を拉致して和歌山まで連れてこいって話らしいわ」
拉致誘拐は犯罪です。
「それは何者なんだ?」
「知らないわ。でもただの人間だって話だから、過って殺しちゃわないように注意しないとね」
それで考えたのが天使のコスプレなのだそうだ。主人の頭の中を思って、緑閃は心中で涙した。
「何よ、これでも台詞もちゃんと考えてきたのよ。えっと、貴方を約束の地に連れて行きます。いいえ遠慮しないで。ほら、忙しいんだからっと。‥‥ここで当て身を食らわして簀巻きにするから、運ぶのは緑閃お願いね」
突っ込み所が満載である。
「明日は明るい日と書くが‥‥私には見えなくなってきたよ」
彼女達が、拉致対象が既に死亡している事を知るのは暫く先のことだ。
「ところで教えてくれない? PBMって何?」
MG戦記異人伝はこれで終りである。
語り尽くしていない部分は多々あるが、それはいずれ別の形で発表する機会もあるだろう。
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