■【蒼嵐紫夜神魔乱戦】東京物語最後の事件■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
松原祥一 |
オープニング |
●東京物語 最後の事件『或いは始まり』
5月中旬。東京に現存する神殿近郊の住民の避難は一応の目処がついていた。
首都圏は既に許容一杯で、避難先には関東近郊も数えられた。
長野で戦いが起きた時には大いに困ったが、早急に片がついて長野にも避難民は送られた。15日までに、おおよそテンプルムの半径5キロ以内の住民を避難させることは出来そうだった。
しかし、予想される紫の夜では戦闘区域の外で都民の防衛を主張する東京都環境改善課(リユニティ)に対し、東京都と神帝軍の両方が難色を示した。
一番大きな理由は、魔皇軍と戦わない事への不信感だった。
都民にとっては魔皇軍の攻撃は侵略行為以外のなにものでもない。東京に魔皇軍が攻めてくるから避難するというなら、当然リユニティは魔皇軍と戦うものと都民は思っていた。
「我々は人間を守るために戦うが、魔皇軍と神帝軍の戦いには関与しない。戦闘区域から出た者は全て排除する」
「戦闘区域など、仮想の物に過ぎないではないか! 状況次第で、どこでも戦場になるんだ。あんた達は案山子か!!」
また数百人のリユニティで守れる範囲は限られていたから、戦闘区域外(各神殿の半径5キロ圏外)全てを守ることは困難で、その計画自体が非現実的という意見もあった。
更に言えば、それで神帝軍もしくは魔皇軍が勝利した時に、リユニティの立場が良くなるかと言えば寧ろ逆だという意見があった。悪魔化が大量に発生でもしない限り、日和見の案山子扱いは間違いない。
今回の紫の夜には色々と問題があった。
リユニティはまだ明かしていないが、実は紫の夜が神帝軍や東京都が想定している15日に行われるかどうか、GWが過ぎた段階でまだはっきりとしていない。蒼嵐の儀式の間の復旧が間に合うか微妙だったのだ。
もう一つは攻撃目標だ。関東魔皇軍の第一目標は名古屋大神殿とされたが、これは移動しており、魔皇側は戦場が選べない。また喉元に剣が突きつけられたも同然の西東京神殿群は紫の夜になればタダイに呼応するのは必定だったから、背後から教われないために東京神殿群への攻撃も予定通りに行われる。東京神帝軍と名古屋神帝軍の合流だけは絶対に避けたかった。
リユニティは東京神帝軍に市街地での戦闘を避けるために海上へテンプルムを移動させてはどうかと提案したが、これは東京都が猛反対した。
結局、10日頃には戦い自体は避けられない事が誰の目にも明らかになる。神帝軍も魔皇軍も、ある意味で人間さえも、避戦派よりも主戦派の方が力を持っていた。
そして不信感を募らせた東京神帝軍はリユニティに対し、西東京の防衛を拒否するなら、紫の夜の前にリユニティを攻撃すると最後通告をした。
それを知った関東魔皇軍は、戦後の講和を視野に入れているだけに妥協案を提示する。
「中野を除く西東京神殿の一つを防衛し、これを孤立化させてください。そうすれば、魔皇軍はその神殿は攻撃しません」
関東魔皇軍には、此処で大勝すると共にリユニティに手柄を立てさせて、一気に日本政府との交渉へと繋げたい目論見があった。
だが、それ自体が簡単な話ではない。
間違えば、リユニティがその神殿と戦う事になり、本末転倒する。
この戦場を自由に支配できるものはおらず、紫の夜で何が起きるかは分からなかった。
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シナリオ傾向 |
東京防衛戦、人間主導、政治系 |
参加PC |
軍鶏鍋・伍鉄
速水・連夜
ミサ・スニーク
柴田・こま
ティクラス・ウィンディ
久我弥・愁二
巽・楽朱
電我・閃
巳杜・黎
相寺・ユウ
シウ・ソーマ
岸谷・哀
森守・瑠音亜
斬煌・昴
早瀬・理奈
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【蒼嵐紫夜神魔乱戦】東京物語最後の事件 |
●蒼嵐紫夜 〜東京戦〜
17日の紫の夜にて、西東京を襲った関東魔皇軍は魔皇千六百余。
対する西東京神殿群は主力の聖鍵戦士の数こそ八百強と魔皇軍の約半分だが、大天使7人は健在で軍としての錬度は高く、それにサーバントの数を合算すれば勝負は分からない。
そして東京都環境改善課――リユニティの約三百の魔皇達は、東京都を攻撃する者を排除すると宣言し、神殿の守りについていた。
話は数日前に遡る。
「――時間切れまでこうしてる訳にもいかない。決を取ろう」
それまで殆ど発言しなかった相寺・ユウ(w3g520)は痺れを切らしたように決議を促した。
神帝軍から最後通牒を突きつけられ、リユニティは正念場で幹部会議を開いていた。
最初の二時間半は怒声も混じる騒がしさだったが、やがて皆押し黙り、そして時計の針の音だけが重苦しく室内に響いていた。
「俺達だけで、決めていいのか‥‥」
巳杜・黎(w3g506)は仲間達の顔を見回す。この場には小隊長格以上の者しかいない。結成一ヶ月ながらリユニティには神魔人合わせて四百名強の意思がある。
「全員の意思確認は、正直に言うがやりたくない。混乱するのは目に見えてるからな」
相寺は言い難い事をズバっと言って、右側の席に座る少女を見た。
「――私は、構いません。言うべき事は全てご説明したつもりです」
ミサ・スニーク(w3a864)に視線が集まる。ミサは森守・瑠音亜(w3h773)と逢魔・ライハ(w3h773)が練ったリユニティの行動表明案を託されていた。
「よし。他に代替案が無いなら、先にこいつの決議を取る。みんな最後に一言話してくれ。その後に挙手。反対多数なら、最初からだ」
森守案は例によって明治五郎の厳しい駄目出しを受けていた。
以下はその原文。
【総括】
リユニティの全構成要員は、本日を以って明治氏の指定したテンプルムの統制下に入る。
行動目的は『東京を戦火に巻き込む』要因となる、都内のテンプルムに対する攻撃の阻止。
これに伴い、東京都はリユニティの配属されている神殿およびその周辺での戦闘行為・破壊活動を行う勢力を『東京の治安を騒乱する存在=危険分子』と認識、リユニティの排除対象とすると宣言。
【補足】
1.各小隊の現場での指揮権と責任は、該当する小隊長に帰属する。
2.緊急避難的行動として共同作業を行う場合に限り、リユニティは排除対象との一時休戦を申請、または承認する場合がある。
3.状況に対応する為、逢魔の身柄の扱いは、各統制テンプルムの判断に委ねるものとする。
4.危険分子の排除方法に於いては、各小隊長作成の資料を参照。
簡潔に言えばテンプルムを守るために戦うという事だ。迂遠な文言は対外的に見た場合、気休めでしかない。
戦う意思を既に決していた速水・連夜(w3a635)、鈴木和夫、巳杜黎、電我・閃(w3g357)、弓塚七恵が賛成に回り、巽・楽朱(w3g171)は明治に一任、ティクラス・ウィンディ(w3e066)と逢魔・レルム(w3e066)は態度を保留した。
「こんな建前論より、やるべき事は沢山ある。だから僕は賛成に一票を入れさせてもらうよ」
とは電我の弁だ。
「では、決まったな」
明治や隊長の北畠が敢えて会議を割って否決を取る理由はなく、相寺にしても同じだ。魔皇軍と戦う事や神帝軍に従う事には約過半数が割り切れないものを抱えていたが、見た目には順当に神殿防衛はリユニティの総意として決定される。
決議は出たが、ここからが本番である。
神帝軍に意思を伝えに行く明治にはグレゴール数名とミサが同行した。彼らはまず八王子神殿を訪れる。
「これが私達の答えです」
大天使サラクエルはミサが差し出した文書を無表情で読み進め、暫し眉根を寄せて沈黙。
「貴様らの真価――この一戦で明らかになるな」
「では烏山への攻撃は中止して頂けるのですね」
サラクエルは椅子から立ち上がり、リユニティの面々に近づいた。
「良かろう。魔皇軍侵攻の際には我が旗下に入れ」
西東京神殿群はリユニティの参戦意思を認め、烏山への攻撃は寸での所で回避される。
さてとりあえずの危機は脱したものの、まだ全隊員に参戦の決定を伝える難事が残っていた。
「中立を貫くのでは無かったんですか!」
「我が隊は今回のみは魔皇軍との交戦も已む無し。信義ある者のみ参加せよ」
速水は部下に詰め寄られても凄然としていた。
「‥‥隊長さんよ、俺達は神帝軍の犬になるためにリユニティに入ったんじゃないぜ」
「変節漢はこの戦いにいらない」
速水の台詞は誰に向けての言葉だったか。
反発が起きたのは第1小隊だけではない。各小隊長達は動揺する隊員を掌握するのに手間取った。決定を粛々と受け入れたのは巳杜隊、鈴木隊くらいのものだ。どちらも魔皇軍に拘らない隊員を選んでいたし、第10小隊について言えば草案を出した森守がこの隊の所属であり、他にも案に賛同した斬煌・昴(w3i628)や早瀬・理奈(w3j512)といった依頼参加者達が隊員の動揺を鎮めていた。
「ユウ、隣の部屋が騒がしくて‥‥隊長が消えたとか話してたのですよ」
隊長室に各神殿の資料を貰いに行った逢魔・リリアクー(w3g520)は第3小隊の異変に気づく。
「第3が? 早いなティクラス、もう動いたか」
相寺は眉間に皺を寄せる。ティクラスが単独行動を取る事を小隊長達は知っていた。だが具体的に何をするかまでは分からない。
「あとで‥‥そうだな、速水さんと一緒に様子を見に行く。真似する者が出ないといいが」
意外にもこの時、孤高の相寺や速水が部隊内の折衝に手を尽くしていた。
「亀の甲より年の功なのですよ」
「なっ、失敬な」
相寺は若年者の多いリユニティでは年長の部類だ。三十路が気になる29歳。
●エンハンス
世田谷区砧公園少年サッカー場。
「今度の夜に大量虐殺計画があるの、知ってます?」
軍鶏鍋・伍鉄(w3a444)はベンチに座っていた。隣には弓塚七恵。成り行きで彼は第15小隊に編入されていた。
「噂は聞きました。本当にそんな事が?」
弓塚は半信半疑だ。リユニティは紫の夜を前にして、都内に潜伏する魔皇軍の尖兵達の動向を調べているが、大量虐殺については噂のみで確証は得られていない。
「逢魔達が狙われるって話ですよ。人質を解放することはできませんか?」
「‥‥難しいと思います」
「でしょうねぇ」
完全に信用されている訳ではない。また選択肢としては誘拐等もあり得るから保護の意味もある。
伍鉄は思案しながら、手でサッカーボールを玩ぶ。
「もう一つ、魔皇軍の陽動でテンプルム以外で狙われる場所に心当たりはありませんか? 神帝軍にとって攻撃されたくない場所とか」
神帝軍撹乱の破壊工作には今の所完全な対処法は見つからなかった。
「襲われていい所なんてありません!」
弓塚は怒った。
「落ち着いて。例えば新宿のたバベルズタワーのような、そういった施設はありませんかね?」
ちょっと考えてから、弓塚は首を横に振る。グレゴール達が個人で使う施設等は無い事も無いが、軍事的に重要ではない。
「となれば避難所を襲うくらいですかねぇ」
避難所は必然的に絶対不可侵領域の外に多い。紫の夜の前だろうと殲騎召喚が可能。直前に避難所を襲って動揺を誘う事は有り得なくはない。
「出来れば起きて欲しくはないですが、避難所が襲われた時は私達で対処した方がいいでしょうね」
第15小隊を中心に、第9、第11、第12の合わせて四個小隊は烏山基地にて対破壊工作の備えとする事が決まった。但し交戦中を除いて杉並神殿から応援を求められた場合はこれを優先する。
「魔皇様達の出入りについてですが、一考が必要かと存じます」
逢魔・影月(w3a635)はセキュリティの強化をミサに進言した。現状で武装解除の方法として魔皇殻三つを手放す事が奨励されているが、それは悪魔化の危険があるというのだ。
「でも悪魔化にはダークフォースの使用が必要だから、大丈夫だと思いますよ」
魔皇殻を装備から外せばDFは使用出来ないから悪魔化のプロセスは途切れる。暴走は起こり得るがそれはどこであろうと起きる。
「投降者が増えていますから、不安を感じるのは分かります‥‥」
ミサの第8小隊は事務方に属し、烏山基地での仕事が多い。隊員達の個人情報の整理や出入時の身分証の確認、投降魔皇の管理等々。
この頃には柴田・こま(w3b515)ら穏健派の説得が功を奏して投降者の数が倍増していた。全員に行き渡る量の神聖なる鎖が確保できず、警備に問題が生じていた。
「色々と考えてみたのだが、やはり避難してもらうのが一番いいと思う」
岸谷・哀(w3h560)は明治や北畠、他の人間隊員達に当日は東京都の外の安全地帯へ退去するよう直談判した。
「トップが死んだら、統率するものが居なくなる。ヘタをすれば内部に混じった過激派がクーデターを起こしてリユニティが一人歩きして、暴走するかもしれない」
「心遣いは在り難いが、今は君達は私の部下だ。部下を見捨てて上司が逃げ出す訳にはいかない。そうですな」
北畠はそう言って明治を見た。明治は一瞬、複雑な表情を見せた。
「‥‥ええ、北畠さんの言う通りです。それから、君達は誰かの私兵ではなく公務員‥‥公僕なんですから上司の一人や二人居なくなっても職務を全うするものと信じていますよ」
「公僕か‥‥肝に銘じておこう」
岸谷は当日には弓塚隊が烏山基地に残ると聞いて、一緒に基地防衛任務を望んだ。
「みゃあこ、人質になんない。覚悟きめたから。明治のおじさんも死んだりしないでね。絶対だからね!」
岸谷達の話を聞いていた逢魔・都(w3g506)は部屋から出てきた明治と鉢合わせした。小指を立てて指切りを強要する。
「嘘ついたらハリセンボンのーますっ。あ。みゃあこの言ったの、魚のハリセンボンだから☆」
余談だがハリセンボンはフグの仲間。無毒で美味だとか。
「生き残ったら食べさせて貰えないんですか?」
「食べたい? んとね、それなら考えてあげてもいーよ」
良く分からない約束である。
都のホノボノとした雰囲気と対照的なのは相棒の巳杜の行動だ。彼は第10小隊を工兵隊にして、侵攻が予想される神殿付近を地雷原に変えていた。対魔皇軍用の備えでその中の幾つかはネフィリムの破片等が入っている。また必要な爆薬類の調達には速水の第1小隊が役に立った。
「3月のように、今回も自衛隊が魔皇軍に協力するかもしれない。1人1人は脅威ではないが組織力は厄介だ。紫の夜までに東京に残る自衛隊を武装解除させよう」
3・15後、決起した自衛隊の部隊は逃走したり捕まって処刑されたりしてあらかた消滅している。だが速水は念を入れて神帝軍と協力し、東京近辺に残っていた自衛隊を一掃した。そこで押収された武器弾薬の一部は巳杜が使っている。
東京が臨戦態勢を整える頃、柴田こまは隠れ家に戻っていた。
「東京の神殿攻撃を止めて下さい。東京の神帝軍には話を聞いてくれる人がいて、交渉の余地はあると思うですから」
この期に及んでも柴田は逢魔達の説得を続ける。
「魔皇様、それはどういう事でしょうか。今から作戦を中止することなど‥」
不可能だ。既に関東四方の魔皇達に紫の夜の呼びかけは行った後。
「東京は攻めずに、タダイ軍を倒すことに集中してもらえないですか。東京を破壊するなら、リユニティが相手になります」
これには逢魔も色を無くした。柴田はせめて東京は牽制だけに留めるように頼んだ。
「私には分かりません」
願いは聞き入れられなかった。
「おや?」
こまに付いてきた逢魔・カーラ(w3b515)は、待つ間にティクラスとレルムの姿を発見する。柴田が気にかかる彼女はすぐこの事を忘れたが、彼女達が東京に戻った時に入れ違いで第3、14小隊は烏山から姿を消していた。
「捕まえろ」
電我は17日まで、最も忙しく動いた小隊長の1人だ。毎日のように他の小隊を訪れている。
「説明をしてくれ」
「スパイ容疑だ」
彼の第13小隊は過激派と通じている内通者の摘発に力を入れた。偽情報まで流して不審な魔皇を見つけては捕縛したので、その説明の為に頻繁に他の小隊長の所に足を運んだ。
「やりすぎだと言う声もある。電我、少し疲れてるんじゃないか?」
仲裁に入ったのは巳杜。巳杜隊以外の小隊の大半が電我隊に隊員を引っ張られていた。電我自身も認めているがこの時期には魔皇軍と過激派に明確な境界がなく、隊員の中には魔皇軍の為に情報を流そうとする者は少なくない。
「‥‥分かっている。それでも僕は無益な人が死ぬのは堪えられないんだ」
僅かな間に電我の顔は凄みが増した。巳杜は不安になる。
「分かっているなら、休め。戦いはこれで終わる訳じゃないんだからな」
「駄目だ。過激派を抑えるまでは、な。心配はいらない、‥‥僕がおかしくなった時には、欄に僕を殺すよう命じてある。なんなら巳杜、君でも構わないさ」
閃の台詞に逢魔・欄(w3g357)は身体を震わせた。
「電我! 今の言葉を北畠隊長に報告すれば、お前を解任する事も出来るんだぞ」
「僕は最後までやり遂げる‥‥止めたら死ぬ‥‥」
この話が北畠の耳に入る事は無かった。
そして運命の17日を迎える。
「愁二さんっ」
出撃前、烏山を出ようとした久我弥・愁二(w3f169)を呼び止める声が聞こえた。
「ん?」
振り返った久我弥の胸に早瀬理奈が飛び込む。面食らった彼が抗議の声を出す前に、顔をあげた少女が2人の唇を重ねた。背後から部下達の冷かしの声が響く。
「‥‥続きは帰ってきてからね」
数秒後、顔を離した理奈の瞳は潤んでいた。そのまま走り去ろうとした少女の腕を掴み、愁二は強引に抱き寄せた。
「私にも‥人を愛する事ができるなら、その時には君を愛したいよ‥理奈」
二回目のキス。
生きて戻れるとは限らない戦場を前に、別れを惜しむ姿はそこかしこに見られた。
●蒼嵐紫夜 〜魔皇対魔皇〜
紫の夜が始まった時点でのリユニティの配置は次の通り。
八王子神殿前:第1、5、8、10、13小隊(約100名)
烏山基地前(リユニティ本部):第9、12、15小隊(約60名)
入間町基地前(リユニティ投降者用施設):第11小隊(約20名)
練馬神殿前:第2、4、6、7小隊(約80名)
名前が抜けている小隊が2つある。
先に彼らの活躍について記そう。彼らは群馬にいた。
「『影の城』が落ちれば、東京を攻めている魔皇軍の士気にも影響が出る。可能なら歩美の首もとってこよう。これなら、わずかな戦力と短い時間で大きな戦果が見込める。越権行為と言われるかもしれないが、俺達だからこそできる作戦だ」
ティクラスは神帝軍を説得し、単独で影の城を攻略しようとしていた。
「行くぞ!」
影の城に潜入した第3、14小隊は紫の夜の儀式が終わると同時に決起し、城に火を放った。
城に立て篭もっていた魔皇軍はこの強襲になすすべもなく後退する。尖塔の一つが破壊され、煙は魔皇軍を包囲していたタダイ軍からも見えた。
「影の城はこのリユニティ第3小隊が制圧した!」
この緒戦での大戦果は紫の夜の間に東京にも伝わり、両軍の士気を与えている。
その後の顛末は後に語る事として、開戦直後の東京に視点を戻そう。
「どうしてココに殲騎がいる!?」
関東魔皇軍は部隊を大きく2つに分けていた。主力は練馬神殿を攻める約一千、そして別働隊は府中神殿を約六百で迫った。リユニティが八王子神殿を守ると知った上でそれを回避した布陣だ。
所が、練馬神殿に殺到した魔皇軍を約80体の殲騎が阻む。
「それがどんな結果を生むか、分かってるの?」
『このテンプルムはリユニティが守っています。攻撃するなら他を当たって下さい』
停止した魔皇軍の先鋒に、逢魔・水雅流(w3g171)が伝達の歌声でリユニティだと名乗る。
「なんだとっ」
騙されたと知った魔皇達は激昂した。第6小隊の巽の策だ。電我隊のスパイ狩りの影響もあり、この情報は魔皇軍に殆ど伝わらなかった。
「くっ‥‥杉並に向うぞ」
先鋒の殲騎達は機首を返して杉並に移動しかける。
しかし、リユニティの裏切り行為に怒りが収まらない魔皇も多い。
「ふざけるなよ!」
後方にいた殲騎達が魔皇軍の前列を押し上げる。
「楽朱、来ますよ」
「撃っちゃ駄目なの。最初の攻撃は相手から‥‥!」
遠距離系のDFが束になって巽の小隊を襲う。わずか一瞬で4機の殲騎が墜落。
ここに初めての魔皇同士の大規模戦闘が始まった。
練馬を攻撃した魔皇軍本隊はリユニティの出現に動揺して練馬と杉並に分裂する。
同時にリユニティが神帝軍側という情報は瞬く間に戦場を走った。
府中の別働隊もその知らせに動く。府中軍と八王子神殿から出撃した部隊の連合軍と対峙していた別働隊はリユニティの造反を聞くと、府中神殿には僅かな兵を残して主力を大きく西に動かして八王子神殿に迫ろうとした。
●蒼嵐紫夜 〜激戦〜
八王子神殿上空。
殲騎落陽の鎖鎌が魔皇軍のディアブロの胸を貫く。
「手加減は、しない」
速水が指揮する第1小隊は八王子神殿の前で魔皇軍と激突。
八王子でも魔皇軍を最初に迎え撃ったのはネフィリムではなく殲騎だった。神帝軍にはリユニティと魔皇軍の区別がつき難く、一緒に戦うためにはリユニティ部隊は前に出ざるを得ない。
「突破して魔皇軍の背後につく。遅れるな!」
漆黒の機体を操り、速水は魔皇軍の殲騎の群れに飛び込む。速水隊は仲間の機体を覚える事で同士討ちを避ける事が出来た。殲騎戦に不慣れな魔皇軍は浮き足立つが、一点突破は危険が大きい。
「いまさら色々言っても始まりませんから!!」
殲騎ナンディン食い詰め浪人のコックピットでカーラは叫ぶ。
眼前には殲騎の大部隊。僚機は次々と落とされていく。
「殲騎の制御は地味なので好きではありませんし、わたくしには東京の未来よりこまの方が大事ですけど、こまが生きる事は死なない事だけではないなーんて分かったような事を言うから、こまが生きれるようにするだけですわ!」
「‥‥」
柴田の志願した鈴木小隊は第1小隊と共に真正面から魔皇軍の先陣とぶつかり、早々と崩壊した。彼女が名前と顔を覚えたばかりの仲間達は散り散りだ。
「‥‥生きます。全力で、生きます」
「分かってますわ、最後まで一緒です」
カーラは殲騎が好きでは無かったが、弱くはない。百mの間合いを一瞬で詰めたナンディンのビーストホーンに刺し貫かれ、魔皇軍のガンスリンガーは迎撃する間もなく絶命した。
「‥‥馬鹿な‥‥エース級の魔皇が何故同胞を裏切る?」
リユニティの事を戦いが嫌いな反戦主義者の集団と思っていた魔皇達は己の不明に気づいた。リユニティ部隊は寡兵ながら各地で善戦した。それは何度も大作戦を生き延びた精兵が加わっている何よりの証拠だ。
「正面からの攻撃は受け流せ、敵は包囲して叩け」
相寺は殲騎グラースハーミットに乗ると強かった。府中から八王子へ魔皇軍が動いたのを見た相寺隊は殲騎を召喚せずに地上を走って魔皇軍をやり過ごし、後ろから攻撃を仕掛けた。一撃を加えた後は深追いせずに離れ、彼の小隊は魔皇軍の弱い箇所を見つけては攻撃と離脱を繰り返した。
「いいか、決して自分より強い奴とは戦うな」
「‥‥ユウ、美しくないのですよ」
「な、何を言うんだリリア。戦力不足は知恵でカバーしないと負けてしまうんだ。だから、仕方がないんだ」
相寺は幾度の戦場で培った撃墜王の戦闘知識を最大限、この小隊に叩き込んでいた。DFは極力温存、集中投入が基本。真幻魔影や真闇蜘糸は高い魔力を持つ殲騎には効果が期待できないので使わない。下手な追い込みは悪魔化の元なので避ける‥などなど。
上空の戦いと同じく地上戦も始まった。神殿からかなり前に出ていた第10小隊に魔皇軍の分隊が襲い掛かる。
「神帝軍の犬が!」
横合いから巳杜の乗る殲騎ラグナログに突っ込んできたビーストソウルの足元で地雷が爆発する。ダメージ自体は軽微だが爆音と煙で殲騎は一瞬標的を見失った。
「ひ、卑怯なっ」
「使えるものは何でも使う主義なんだ」
ラグナログの構えた真ショットオブイリミネートが火を吹いた。
「‥‥それに、俺たちが守るのは神帝軍じゃない。都民の心のよりどころだ」
殲騎が倒れる。
「点での攻撃は無意味だ。確実に面で攻撃しろ。同じ魔皇だからと容赦はするな!」
巳杜からの指示に、離れた場所で魔皇軍の殲騎と斬り合っていた早瀬は毒づく。
「無茶言ってくれるわ、こっちは白兵戦仕様なのよ」
大作戦を経験していない早瀬の空色の殲騎ブレイブは魔皇軍の殲騎にパワー負けした。大振りの真両断剣は外され、早くも息が上がっていた。真テラーウイングで全力で後方に下がる。
「何故それまでして魔皇軍と戦うのですか? 貴方も魔皇なのですよ?」
見兼ねたように逢魔・カルロス(w3j512)が聞いた。
「こんな時に五月蝿い。私は自分の信念で戦ってるの。魔皇だとか何だとか、そんなのは関係ない」
注意が僅かに逸れた。
「危ないっ!」
巳杜隊の罠に苦戦した魔皇部隊は銃砲系装備の殲騎で陣地を一斉射した。ミサイルの大群が降り注いだ所にちょうど立っていたブレイブは誰かに突き飛ばされた。
「瑠音亜っ!」
森守の殲騎ウインドブレードだった。装備した真ディフレクトウォールは木っ端微塵、それだけでなく機体も大きく損傷した。
「なんて愚かな事を‥‥貴女は生きろと他の方達にも言われたのを忘れたのか!」
ライハは時空飛翔を使い、雨あられと降り注ぐ弾幕から機体を脱出させる。
「るねあも戦う。これで最後にしたの!」
「こればかりは聞けない。後退します」
泣いて嫌がる主人を宥め賺してライハは烏山に後退する事を仲間に連絡した。
しかし、八王子の戦いは徐々に激しさを増していて後退自体が容易ではない。
「俺が送ろう」
烏山の様子が気になっていた斬煌は護衛を志願する。彼の炎の翼をもった漆黒の殲騎フレアルディアスは、瑠音亜と他の負傷者を守って八王子から脱出した。
「助かりました」
「お礼は早いですよ。‥‥結果的に、貴方達を地獄へ案内する事になるかもしれませんし」
逢魔・クリストファ(w3i628)は不吉な予言をした。
「敵が崩れても追いかけてはいけません、押されたら頑張らず退いて下さい」
前線に立つリユニティ部隊は死力を尽くして戦っていたが、ミサの第2小隊は少し事情が違った。ミサは隊員達に程々の戦闘を言い含め、傍目にも消極的な戦い方をしていた。
「戦いは長いですから、余力は残しておかないと」
第2小隊が簡単に後退するので、戦線が維持できないと再三に渡って八王子神殿から警告を受けるが、ミサは頑として突撃命令を無視し続けた。
「小隊の指揮権は小隊長に帰属するはずです。‥‥え、なんです‥‥電我さんが?」
ミサは第13小隊が突然戦場から離脱したと聞いて硬直する。魔皇軍は八王子神殿に戦力を集中してきていた。電我隊の行為は敵前逃亡に等しい。
「見つけたぞ!」
魔皇軍が入間町基地を攻撃、その知らせを聞いた電我は部隊を入間に向けた。
「殲滅派も過激派も、東京の争いを絶つには好戦主義者はいらないんだ!」
電我は過激派の作戦を潰す事しか考えていなかった。第13小隊が抜けた直後、リユニティ部隊に動揺が走った。その虚を逃さず、攻めたてた魔皇軍は八王子神殿に取り付く。
それは戦力的な低下だけではなく、ある戦慄が走った事が原因だった。
「さあ教えて下さい。君達は、どうやって大量虐殺を起そうとしているのか?」
伍鉄は避難所を襲った過激派魔皇を捕まえていた。
「‥‥」
シウ・ソーマ(w3h001)である。シウは紫の夜が起きると避難所を襲うフリをして神帝軍を撹乱しようとした。それに対応した第15小隊に捕捉され、捕まった。
「一体、それは何の事ですかな。大量虐殺など、私には見に覚えの無いこと」
黙秘する主人の代わりに逢魔・フェイ(w3h001)が答える。
「本当に知らないというんですね」
伍鉄は質問しておいて仲間のインプを見た。インプは首を振る、本当にシウ達は大量虐殺の事は知らないようだ。シウは陽動に益少なしと見て設楽九鬼に相談を持ちかけていた。自分が単独で陽動をかけるから設楽達は神殿攻撃に参加してほしいと。
「‥それは困った事をしてくれたもんですねぇ」
少年の行動は成功した。彼一人の為にリユニティの小隊が迷走したのだから。
●蒼嵐紫夜 〜決着〜
入間町インファントテンプルム前。
「哀!」
フレアルディアスは両腕のロケットガントレッドを発射して『戦場』に穴を開け、鬼神の如き咆哮をあげた。
「無事かっ」
「‥‥なんとか」
岸谷と逢魔・N(w3h560)が乗る殲騎エントゥクターは魔皇軍の攻撃からインファントテンプルムを守る為に傷ついていたがNが回復させたのか深手では無い。二体の漆黒の殲騎は互いを守るように背中を押し付けた。
「こいつらは?」
「投降者を‥‥解放するつもりだ」
インファントテンプルムの中には、リユニティの呼びかけに応じた魔皇とその逢魔達がいる。戦闘の中盤、魔皇軍の分隊約五十がこの基地を襲った。
「戦いを拒んで自ら投降した人達を、戦場に引き出して、どうなると言うんだ!」
神殿正面は久我弥の殲騎デトネイターが数機の僚機と死守していた。
「愁二様! 4時の方角にデアボライズです。‥‥武装はデヴァステイター、バスター、角笛‥」
「ガンスリンガーか‥‥足を止めれば」
逢魔・フレイラ(w3f169)の報告に、久我弥は真ラミナデルハルバードを腰だめに構えた。
「一斉に攻撃すれば悪魔とて‥‥声が聞こえてる者は私に続け。突撃!」
デトネイターは悪魔に向けて突進し、真狼風旋から真燕貫閃を放った。悪魔は長砲身のエネルギー砲を彼でなく、神殿に向ける。アレを食らってはインファントはただでは済まない。
「貴様は命を捨てた死人だ、命無きモノによって命ある者の未来が脅かされる事など‥」
久我弥はデヴァステイターの魔弾を避けようともせず悪魔に肉薄した。
「あってはならん!!」
至近距離でバスターライフルの直撃、デトネイターの下半身は消失した。
戦線は膠着し、戦場のあちこちで追い詰められて悪魔化する者が出始めていた。魔力を使い果す者も続出した。そして入間町では投降者解放を求める魔皇軍とリユニティの交渉と戦闘が同時に行われていた。
「あれはバハムート、電我隊か!」
八王子から急行した13小隊は入間町基地に肉薄していた魔皇軍の部隊を一旦は押し返した。
「また攻撃されたら持ち応えられない。ここは捨てる‥‥」
「いや最後まで守るべきだ」
電我は基地放棄を主張し、岸谷は反対した。守り抜く事が出来たか否かは分からない。だが電我は基地が破壊されて魔皇達が悪魔化する事を恐れていた。
「避難させるなら私達が誘導しませんと、修羅場にいきなり放り出す訳にもいきませんし」
軍鶏鍋は基地を捨てる事に賛同した。但し、その場合は中に収監されている魔皇達の説得が必要だった。
「早く決めた方がいいと思うけど‥‥」
シウは神聖なる鎖に縛られて連行されていた。
「まだ居たんですか。危ないですから、こんな所からは早く逃げないと」
思い出したように伍鉄はシウを連れ出して拘束を解いた。
「いいの?」
「どうでしょうねぇ」
最終的にリユニティは入間基地の放棄と収監されている投降者の解放を決める。だがそれは少しばかり遅かった。何者かが基地の近くで真衝雷撃を放った。
「え?」
伍鉄は基地内で雷撃を浴びた。基地は攻撃で亀裂が生じていたが、伍鉄にはDFは内部で使われたように思えた。
「‥‥最悪だ。‥‥でも不思議だな、体が軽い」
真衝雷撃は基地内の逢魔をも焼き殺したのか、内部で一部の魔皇が暴走を引き起こしていた。電我はこの事態に最も早く対応する。彼は被害を食い止めるため、第13小隊に基地の鎮圧を命じた。
「閃、正気ですか?」
「自信はない」
電我は不意をつき、手刀で欄を気絶させる。
「欄を頼む。少なくともこれで僕の悪魔化はない」
「任せて下さい。無事に安全な場所まで運びます」
気を失った欄をライハが受け取る。森守は残って戦うと主張したが皆の反対を受け、彼女達は負傷者と共に後方に下がる事になった。
第13小隊は異変を聞きつけた府中神殿のグレゴール達と共に負傷者の救出と悪魔殲滅の為に入間町基地に突入する。結果は‥‥語るまでもない。
「私達も行くか」
岸谷はNから最後の回復を受け、基地の奥から溢れ出そうとする悪魔に狙いを定めた。
「哀や私たちに相応しい場所は、今は辛いけど‥きっと、この戦いの先にあると‥信じたい‥」
Nは祈りを込めて呟いた。
東京の戦いは終わった。入間町基地から悪魔と暴走魔皇が飛び出すと魔皇軍は撤退を開始した。部隊レベルでは一時休戦してリユニティや神帝軍と悪魔退治に協力する者達もいた。
この戦いで神帝軍は練馬神殿を落とされた。激戦区となった八王子神殿は大天使サラクエルが戦死するも半壊に留まった。しかし、悪魔化魔皇による被害は深刻だ。
リユニティの戦死者は103名。
最前線で勇敢に戦い、東京を魔皇軍から守った彼らには賛辞がおくられた。国民感情を鑑みて、それは控え目なものだったが大きな一歩と言えるだろう。
「よくやってくれた」
総理大臣が激戦の後の烏山基地を訪れ、何とか生き残っていた北畠と握手した写真が新聞に載った。
余談になるが、第3小隊が影の城を落とした事には裏がある。歩美との間に密約があり、影の城で魔皇軍はわざと退いたのだった。
「真の平和が‥子供の笑顔の溢れる世界でありますように‥」
欄は廃墟となった入間町基地の前で祈りを捧げた。
ここで命を落とした己の主人と、戦いの多くの犠牲者達の為に。
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