■宵闇幻想華【終焉】1■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオEX |
クリエーター名 |
姫野里美 |
オープニング |
●死者の挨拶
宿命と言うものは、言うは容易いが、それを成就するのは、並たいていの行為ではない。
けれど、人も神も魔も、時にはその宿命を成す為、自らの全てをかけねばならないのもまた、事実だった‥‥。
「マティア様」
その玉座の前で、かつて‥‥最強と歌われた天使は、静かに片膝を着く。
「私のわがままをお聞き届けくださり、ありがとうございます」
うつむいた顔は、定かではない。だが、揺れる金糸の髪は、数多くの天使たちにとって、憧れの的でもあった証だ。
「裏切り者を討つは、そなたが役目。例え、堕天とそしられようとも、存分に思いを果たしてくるが良い‥‥」
マティアの言葉に、彼は僅かに頭を垂れた。
「この身に変えましても、東の都に潜みし魔皇ども、討ち滅ぼしてご覧に入れます」
「期待しています。その為に、ドミニオンを回収させたのですから」
わかっております。と、『彼』はそう呟いた。
「お行きなさい。そなたの思いを届けるために」
「は‥‥」
マティアに言われて、彼はくるりと踵を返し、玉座を後にするのだった‥‥。
●終末を招く船
その頃、レギオンの奥座敷では‥‥。
「はいはーい。御報告に伺いましたわー」
相変わらず軽い口調で、そう言うサラの姿があった。
「お嬢様‥‥。アスモデウス様は、お身体の加減が余りよくないのですから、御無理を言わないで下さい」
NOAHが、心配した口調で、そう答えている。
「それは‥‥?」
「言ったでしょう。加減がよくないと」
その彼のすそに、自分のものではない血糊がこびりついているのを見て、心配そうな表情を浮かべる彼女。と、そんなサラに、アスモデウスはこう言った。
『この間の【出張】で、少し負担をかけてしまってな‥‥』
「ふぅん。ま、でも。愛しの黒騎士様に会えるんだから、無茶しちゃっても文句言われないと思うよん」
あたし、そう言う時無茶する野郎の方が、好意持てるから。と、その時だけシリアスな表情を浮かべる彼女。
『お嬢様の好みのタイプはどうでも良いです。それよりも、歩美様は何と仰ってたんですか?」
NOAHが咎めるような口調で問うてきたのを聞いて、サラは『ああ、いけない』と、口を押さえる。そして直後、まるで天使達がそうするように、忠誠の片膝をつく。
「歩美様から、許可が下りました。アクス各種5機、及びレギオンは、大ヤコブ‥‥いえ、黒騎士ドミニオンの迎撃に使用してよいとの事です」
そう‥‥あの時‥‥。とある魔皇の手によって、仮面の黒騎士とまみえたアスモデウスは、それが好敵手・大ヤコブだと、同じ様に確信した。そして‥‥彼が回収して行った機体を、新たな『脅威』として、歩美に報告したのだ。
「奴の事だ。さんざん煮え湯を飲まされた我ら密を、放っておくわけには行かないだろうな‥‥」
たとえ、安っぽい復讐行為だとわかっていても、彼の性格を考えれば、殲滅にかかる事は、目に見えて居る。故にアスモデウスは、それを迎撃する為に、虎の子の『アクスディア』を使わせてもらうよう、申請したのだ。
『わかった。急ぎパイロットを選定し、いつでも出撃できる様にしておけ』
「よろしいのですか?」
NOAHが、気遣う様にそう尋ねてくる。と、アスモデウスは静かな口調で、答えた。
「例え‥‥長い付き合いの相手でも、いずれは決着をつけなければならない。手を取り合う事が不可能なのは、お前も知って居るだろう‥‥?」
戦と言うのは、譲れない思いがある時の、最後の手段だ‥‥と、アスモデウスは、どこか寂しげな表情を浮かべている。
だが、それも一瞬の事。すぐにまた、上に立つ者の顔を取り戻し、こう続けた。
「強敵(とも)の屍を踏み越えて、後の世に、戦いの真実を届ける。それが‥‥戦をする意義と言うものだ」
世の中の行為には、全て『理由』がある。
理由なき戦いは‥‥ただの動物的行為に過ぎないと、アスモデウスは思うのだった‥‥。
|
シナリオ傾向 |
ライバルとの決着120% 謀略20% 所により耽美? 15% |
参加PC |
八神・武斗
日迎・隼人
キツァ・カーマイン
川西・光矢
鷹見・仁
黒江・開裡
北原・亜依
上月・刹那
ゼシュト・ユラファス
金剛寺・隼斗
|
宵闇幻想華【終焉】1 |
●嘆きのロザリオ
川西・光矢(w3b595)は、自身の殲騎を呼び出す前に、雪夢(w3b595)と、ある『約束』を交わしていた。
「悪いな雪夢。こんなのにつき合わせちまってよ」
「いいえ」
そう答えるものの、雪夢の表情は複雑そうである。
「今度の相手は、マジで洒落になんねぇな。ミコト、光矢に雪夢、んでもって隼人にひばりも他の連中も全員、生きて帰るぞ。絶対だ」
その横で、八神・武斗(w3a036)もまた、ミコト(w3a036)と、生還の約束を交わしている。
「それに関しては、言われるまでもありません。誰かさんの方こそ、と返させて頂きます。生きて、帰りましょう」
己の主でもあり、愛する者にそう返すミコト。と、それを見ていたひばり(w3a780)。相変わらずぽけーっとした表情で、小首をかしげていたかと思うと、日迎・隼人(w3a780)の下に駆け寄って、じぃぃっとその顔を見つめた。
「ん? どうした、ひばり」
俺の顔になんかついてるのか? と、彼が聞き返そうとした時。ひばりは、おもむろに彼の頬をぐぅで殴りつける。
「何すんだよ!」
「気合なの☆」
何か勘違いしているようだが、怒る気にもなれず、隼人は苦笑しながら「アホか」と呟く。その口元には、困った妹を見る笑み。
「ちょっとぉ! そーゆーのは、出てからにしてよぉ!」
モニターの向こうで、1人蚊帳の外になったサラが、ぶーぶーと文句を言っている。そんな中、武斗がミコト共に、己の愛機を呼ぶ。
「こいつにも今まで散々世話になったな来いよ―閃烈―」
現れる金色の機体。パートナーと共に乗り込んだ武斗は、真ショルダーキャノンを、敵の群へと向ける。
「遠慮は要らねぇ、全砲門開けなんてな!?」
その声と共に、サラの攻撃の隙間を埋めるように、援護の砲撃を開始する武斗。隼人に、通信用念話の向こう側から、「お前が命令すんじゃねー!」とツッコまれていたが、気してはいられない。
「ひばり、その辺にしっかり捕まってろよ!」
「おおー? おおー?」
揺れる船内、隼人は己の逢魔にそう言った。だが、戦闘の衝撃で、ひばりは、あちこちと転がっている。
「痛いの」
「やらかしやがった」
頭を抱える隼人。見れば、大きく揺れた衝撃で、頭に大きなたんこぶを作って、泣きそうになっているひばりがいる。
「よぉし、行くぜ! てめぇら、振り落とされたり、舌噛んだりすんじゃねーぞッ!」
「あいあいさーなの」
コネクターをリンクさせる隼人に、海賊めいた敬礼で答えるひばり。
「レギオン、出撃!」
浮上する殲騎船。だが、その身に降り注いだのは、待ち構えていたかのように、加えられる総攻撃。だが、少々被弾したくらいでは、レギオンは止まらない。
「おい、ちゃんと弾幕張れっつってるだろうがッ!!」
動き続けるレギオンの上で、激を飛ばされてサラは弾をばら撒きながら、「やってるわよぉっ!」と、反論してくる。
「奴め。手加減はなしかよッ」
「そりゃそーでしょ!」
向こうさんだって、想いを通すのに必死なんだから! と、武斗に叫び返す彼女。
「あーもー! サーバント邪魔ッ!」
「くそっ、近寄るンじゃねぇっ!」
そこへ襲いかかるサーバント。今の魔皇達にとって、敵でも何でもないのだが、数が多くて、手を休める暇がない。おまけに、ある程度の強さを持っているのか、忍び寄る闇は効きそうにない。
「く、やはり強いな」
「だからって、このまま黙ってられっかよ! サラ! 手ェ貸せ! 光矢、てめーもだ!」
防ぐ事は出来ても、攻める事は余り得意ではない。そんな彼等を見かねて、隼人がそう言った。
「なにすんのよ!」
サラの問いに、彼はにやりと笑って、天空の一画を示す。
「ゼシュト達が来るまで、アイツの体力を少しでも多く削る! それだけだ!」
そうそこにいたのは、レギオンを見下ろす黒き騎士。
「りょーかい! こっからどう転ぶなんざ分かんねぇが、足掻いてやろうじゃねぇか!」
武斗が、そう言って天空に真・ショルダーキャノンで、狙いを定める。打ち出された魔力の砲弾は、光の軌跡を描きながら、その騎士へ向かって飛んで行った筈だった。
「温いな」
あさっての方向へとそらされるダークフォース。
「バラバラにやっていてもダメだ。攻撃を集中させるんだ!」
光矢がそう言って、サラに自分とあわせるよう指示を飛ばす。だがサラは、それを拒否するかのように、弾道をずらしてしまう。
「バカ、何やってんだ!」
いい加減にしろ! と、怒鳴りつける武斗。と、彼女はそんな彼に、目線を合わせないように顔を伏せ、こう告げる。
「だって、気が進まないじゃないのよ! ゼシュトくんが、あいつの事好きなの、わかってるのに。本当は、抱きしめたいって思ってるのに! そんな相手に拳を振り下ろすなんて、あたしには出来ないわよ!!」
「サラ、お前‥‥」
普段、バカップルを攻撃してばかりのサラも、本当はそんなカップルを否定してはいないのだと、武斗は知る。刹那、サラがはっと顔を上げ、クロムライフルの銃口を向けた。
「なに!?」
「八神くん! 避けてッ!」
振り返ったそこに、サーバントの姿。サラの銃では、パワーが足らない。かと言って、武斗の攻撃も間に合わない。
「あぶねぇっ!」
その刹那、自身の期待を滑り込ませて、攻撃を受け止める光矢。
「お前!?」
「死なせたくないって思った。だから庇った。意地があんだよぉ、これでもな」
2人の間に、何があったのか、サラにはわからない。だが、そうしなければならない思いが、そこから迸る。
「死ぬのも殺すのも怖いさ。けどその向こうにダチと笑いあえる日が、紅葉と寄り添える明日があるんなら、この手で掴んでやるさ血で汚れた手だとしても!」
だから、引き下がるわけにはいかない。たとえ、待ち受ける結末が、悲劇でしかないとしても。
「そう言うこった。さってケリつけに行くぜ、ミコト制御の方しっかり頼まぁッ!」
「本当に世話が焼けます。ですが、私もそんな所が好きなのかもしれませんね」
頑張って下さいね。終わったら、デートでも何でも付き合いますから。想いを込めた左の薬指には、武斗とそろいのシルバーリングが煌く。
「光矢さん」
魔皇と逢魔が、スピリットリンクの枠を超えて、惹かれあうのは、珍しくはない。だが、その反面、上手く行かない魔皇達もいる。
「んー、どうした? 怖いなら、しっかり捕まってろよ」
「ええ。判ってます」
光矢の言葉に、雪夢はそう言って、ぎゅっとしがみつく。
「貴方が好きでした」
「え?」
搾り出すような小さな声。突然の逢魔の告白に、光矢は戸惑ったように目をぱちくりさせていたが、背中に抱きついた逢魔の気持ちが、真実だと悟ると、その届かぬ想いと、報われぬ声に、一筋の光を与えるかのように、こう答える。
「雪夢、お前の気持ちは嬉しい。お前は俺の自慢の『妹』だよ」
「ううんわたしは、貴方の逢魔だから最後まで一緒」
それでもいい。その命の尽きるまで、側に入れれば。
「今よ! アサミ!」
「はいっ!」
激しい攻撃から守るように、北原・亜依(w3c968)が、アサミ(w3c968)に、妖精のつむじ風を発動させる。
「この隙に、一時離脱を!」
「どこへ逃げろって言うのよ!」
前後左右上下敵だらけなのよ! と、反論するサラに、亜衣はこう叫び返した。
「ギガテン墜落跡よ! ガードは、私が何とかする!」
その為に、防御をがちがちに固めたのだから。
「OK! レギオン、全速前進!! ぶっちぎりで行くぜェェ!」
隼人が、かなり無茶な動きをレギオンに課した。急降下するレギオンの甲板で、光矢がこう叫ぶ。
「終わったら泣いてやる。だから、本気で行くぜええ!!」
「貫け! この手で掴むんだあああああ!!」
全ては想いを届ける為に。想いを、死なせない為に。
決戦は、始まったばかり。
●心よ原始に戻れ
「ちょっとサラ! どう言う事よ!」
戦場を一時離脱し、移動するレギオンの中で、サラは他の魔皇につめよられていた。
「何がよ」
当の彼女は、まったく悪びれていない。
「さっきのアレ、どう説明するつもり? あそこで、サラがきちんと川西くんに合わせてれば、危険に陥る事もなかったのに」
その1人、亜衣にそう言われ、彼女は少しむっとした表情で答える。
「敵が出てきました、コマンド:戦うじゃ、何も変わらないし、何も変えられないわ。理由なき戦いは、ただの動物的行為だって、アスくんも言ってたでしょ」
力にばかり頼りすぎる。レミエルにだって、言われた筈よ。と、彼女はその時だけ、真摯な表情を浮かべていた。
「私が大ヤコブと戦う理由なんて、レギオンと仲間を守るため以外無いんだし。どっちも失うにはまだ早いわ」
「その通りだ。私が戦う理由自分自身と仲間の為だな。魔皇の立場を強化し、地位を向上させる。魔皇が神帝軍と対等の条約を結ぶ立場になったのは皆の努力の賜物だしな」
そんな彼女に、上月・刹那(w3d374)はそう言った。確かに、そう言う動きもある。だが、彼女が言いたいのは、そんな事ではないようだ。
「何もわかってないわね」
「どうしたんだよ、いつものお前らしくもない」
武斗が、気遣うようにそう言った。サラの背中は、何かを押さえ込むかのように、震えている。
「うるさいわねっ。わかんないのっ!?」
ぽんっと肩に触れた瞬間、彼女は押さえつけていた感情を爆発させるように、一気にまくし立てていた。
「魔皇の立場向上? そんなもの、要らない。神帝軍と仲良く? 『神帝軍』が瓦解したって、『天使』が止まるわけじゃない。感情吸収しなきゃ、死んじゃうんだから。 『神帝軍』と和平やったからって、『天使』と和平を結んだわけじゃないのよ。天使と魔皇は相容れない。それが、古き時代からの宿命。その宿命を無視して、魔皇だけが幸せになるなんて、あたしは認めない。認めちゃいけない!」
自分達だけが幸せになるなんて。たくさんの不幸な天使達の上に成り立った平和なら、いらない。そんな平和なら、むしろ戦乱の中で生きていた方がマシ。そう彼女は訴える。
「そうやねぇ。『感情守った』と言ったところで、上からの押し付けじゃ、神帝軍と変わらんしね。寧ろ守りたいのは『選択の自由』といったところ。お行儀いいのが性に合ってる奴もいるだろうし、そういう生き方もあるやね」
キツァ・カーマイン(w3b147)が、壁によりかかりながら、そう言った。
「個人的な意見を言わせて貰えば。あの男と戦うのも、宿命とか因縁などでは、断じて無い。あの男は、生きている限り、仲間を害し続けるだろう。その禍根を断つため、あの男と決着を付ける。なにも私はあの男を倒さないと、一歩も前に進めない男に成った覚えは無い」
そんな彼女に、刹那はそう言った。諭すように。
「そんな事、最初っからわかってるよ!」
「サラ、落ち着いて」
アサミが、暴れかけたサラを押さえようとする。それでも彼女は止まらない。
「あいつ、知ってんのよ! 全部! アスが動けないのも、ゼシュトがここにいるのも、レミ子が死んだ真相も、その裏で、誰が糸を引いているかも、全部!」
黒幕の存在も。それが自分の破滅を呼び込む事も。全て、それが災いである事を知った上で、あえて剣を振るっているのだと。
「じゃあ、なんで」
「潰せば、終わるからよ。あたし達を潰せば、そんなもの、関係なくなる。レミ子と対極なのよ」
レミエルは、その状況を打破しようと、策謀をめぐらせる事で、魔皇達に声無き訴えをしていた。だが、黒騎士いや、大ヤコブは、声を聞く術も、それを口に出せる性格も持たず、ただ剣によってのみ、その想いを形にしようとしている。
と、そこまで話が進んだ時だった。レギオンが、盛大に揺さぶられ、廊下に警戒警報が鳴り響く。みれば、後方にドミニオンの姿。
「まーた、えらく大げさな代物、引っ張り出してきやがったもんだねぇ」
キツァが呆れたようにそう言った。相方の逢魔・カーディナル(w3b147)が、「追撃の手を緩める気は、ないと言った所か」と呟いている。
「もはや、悠長な事を言ってはいられんな」
刹那もそう言った。と、その脇で、サラが羽織っていた邪魔な上着を脱ぎ捨て、動きやすい格好となっている。
「想いと、戦いは別ものよ。ただ、私がそう考えている事を、皆にも知っていて欲しかっただけ」
最後の決戦前くらい、機嫌損ねても良いから、自分の考えを知らせておきたかったと。
そして。
「出て来い、魔皇ども。そこにいるのは、判っている。決着をつけようではないか」
「黒騎士! てめぇ!」
ゆらりと浮かんだドミニオンから聞こえる黒騎士いや、大ヤコブの挑発。
「そうだ。戦え。全てを滅ぼせば、私が抱いた禁忌の想いも、これ以上奴に利用される事もない!」
「うわぁっ!」
自らを無理やり納得させるかのように、剣を振るう彼。距離を詰められ、真ショットオブイリミネートを放つものの、武斗1人ではパワーが足りず、銃身を切り捨てられる。
「感傷に浸っている場合ではないだろう。アクスの方は、どうなっている?」
「八神殿たちが、時間を稼いでくれましたからな。いつにでも」
刹那の問いに、NOAHがそう言って頭を垂れた。彼らの『犠牲』は無駄ではなかった。
「よし」
そう知った刹那は、愛用していたサングラスを外し、その鎧たる殲騎を、小夜(w3d374)と共に召喚する。
「上月・刹那、ヴィジンブル、魔凱仕様、銘”有翼の狼”出る!」
天空より舞い降りる、紫の光。
「与葉、ルー俺達を見守ってくれ」
その光に、金剛寺・隼斗(w3g186)が、戦で亡くした共に思いをはせ、黙祷を捧げていた。
「今度は誰一人欠くことなく、生きて帰ろ。ね、隼斗ちゃん?」
そんな彼を励ましながら、ナディ(w3g186)が魔凱を指にはめる。
「ああ、そうだな!」
紅の光が、金剛寺を包み込む。そして召喚される赤き殲騎。
「ほぅ。アクスを引っ張り出して来たか。我が相手には、相応しいッ!!」
「きゃあっ!」
ちょうど目の前にいたサラの機体が、その剣に振り払われて、崩れ落ちた。
「サラ、北原機に回復してもらえ! レギオンから動けない事を忘れるなよ!」
「こっちに!」
刹那の指示の元、亜衣が、真バスターライフルで、その剣を退けながら、近寄った。機体を密着させるようにして、抱き起こす。通信用念話装置越しに、これから回復する事を伝えると、サラは血まみれの手で、その助力を振り払う様に叫んだ。
「大丈夫。まだいける! ヒーローは、重傷負ったって、不敵な笑みで敵に向かうものでしょ」
「サラ、無理をしないの。あなた、そんな器じゃないんだから」
10歳の少女にそう言われ、彼女は渋々ながらも、後ろに下がる。そこへ、アサミが癒しの歌声が鳴り響いた。
「回復などさせるか!」
「亜衣ちゃん!」
攻撃力よりも、防御力を重視した彼女の機体は、ドミニオンの集中攻撃に防戦一方になってしまう。
「く! 北原! いったん格納庫へ戻れ! 狙い撃ちされるぞ!」
刹那の忠告に、彼女はサラの機体に手を貸すようにして、立ち上がる。
「ちっ、仕方がないわね。アサミ! 戻るよ!」
「邪魔です! どいてくださいっ!」
行く手を塞ぐサーバントを、妖精のつむじ風と、真バスターライフルで除去し、格納庫へと戻っていく。
「おかしいな」
その中で、刹那がこう呟いた。
「どうしたのですか?」
「あいつの戦い方だ。なにがどうと言うわけではないし、私も数えるほどしか、戦った事はないが。こんな荒れた戦い方をするような奴では、なかったはずだ」
小夜の問いに、彼はそう答える。復讐の炎に凝り固まっているとしても、大ヤコブの今までの戦い方、そしてその口ぶり、性格を考えれば、いかに都合の悪い回復役としても、そんな卑怯な攻撃をしてくるような者ではなかったはずだと。
「何かあるのかしら」
その言葉に、小夜も引っかかるものを感じたのか、不安げな表情になってしまう。
「余所見をしている暇があるのかな!」
「しまった!」
しかし、今の彼らに、そんな迷いの中で戦えるほどの余力はない。
「落ちろ!」
ドミニオンが、小夜の張り巡らせた氷の壁ごと、真クロムライフルを砕こうとしたその時だった。
「ゼシュト」
遠距離から、支援射撃をしていたゼシュトの機体が、コールドシュートでその動きを封じ、ドミニオンから刹那を守る。
「刹那。貴様の考え、間違いではないかも知れぬ。もしあれが、ドミニオンとリンクする為の物だとしたら反撃の時は必ず、来る」
念話ごしに、ゼシュトはそう言った。大ヤコブが黒騎士と呼ばれるゆえんその仮面は、もしかしたら、彼の身体に負担をかけ、無茶な戦いをさせている可能性があると。
「反撃か。待っている時間はないな。ならば、作り出すまで!」
刹那が、そう言って背中から真テラーウィングを生やす。真クロムライフルを右胴に配置したその機体は、額に真深淵の魔鏡を配備し、雨の様に降り注ぐサーバントの攻撃や、シャイニングフォースにも、恐れを見せない。
「刹那さん1人じゃ、奴の弱点を引き出すなんて、無茶すぎますって!」
武斗がそう言って止めようとした。だが、彼は念話ごしに、こう呟く。
「あの男は仮面を被っていた。なら顔に傷を負っている筈。もし片目が潰れているなら視野に欠損が有る。やってやれない事はない!」
右か左か。そこまでは判らない。だが、賭けてみる価値はある。クロムライフルの射程内で、上下左右に殲騎を動かしながら、その『死角』を探す刹那。
「行けるか?」
「心配しなさんなって」
光矢の言葉に、キツァがそう答えた。そして、共に殲騎を操る逢魔・カーディナルに、こう言った。
「今更ではあるけど、いつも無茶につき合わせて悪いね、相方」
「ふん。好きにしろ」
止めたって聞かない事は、相棒である自分が、一番良く知っている。だから、背中の守りと安全確保に集中する。言葉などなくても、その思いは、しっかりと流れ込んできていた。
「どけ! 私の邪魔をするものは斬る!」
「させるか!」
ドミニオンの剣が、刹那の額の魔鏡を叩き割る。
「きゃあっ」
衝撃で、小夜が悲鳴を上げた。連動しているわけではないが、どこかで額を切ったらしく、一筋の血が、彼女の巫女服を、赤く染める。
「負けない」
だが、彼女は、その額の血を拭った。痛みをこらえ、涙を拭うかのように。
「刹那様と私には、帰る場所が有るんだからっ!」
約束したのだ。必ず生きて帰ると。
「刹那。無理はするな。この先は、俺に任せろ」
今まで、生身のまま、ドミニオン以外の敵を掃討して回っていた黒江・開裡(w3c896)が、そう言って、刹那を後ろに下がらせようとする。
「しかし」
「やり残して行くのは嫌いでね。今度こそ、片を付けてやる。それに、俺には策もあるんでな」
ニヤリと笑って、その後ろにいる鷹見・仁(w3c165)を指した。クレイメーア(w3c896)に良い所でも見せようと言うのか、やたらとこちらをちらちらと意識している彼は、今回の黒江の懐刀の用だった。
「ご主人様、お供いたします」
ゼシュト・ユラファス(w3f877)を見れば、その前で、リンクコネクターをつけたイスファル(w3f877)が、膝を突き、深々と頭を垂れている。直後、何も言わずに優しげな微笑を返すゼシュト。
そんな主従の光景を見ていた黒江は、傍らのクレイメーアに合図を送った。と、彼女は持っていた魔凱の指輪を高々と掲げ、こう叫ぶ。
「魔なる者、その魂魄太古の制約と新たなる契りに拠り、魔の鎧・夜の翼とその身を成せ。汝が名、其は≪シュヴァルツリヒター=シュヴァルベ≫!」
降り注ぐ、黄金の光。それは、2人の愛機である殲騎を、より強い力へと生まれ変わらせていく。
「さて、始めようか? 黒騎士サンよ」
一歩、前に進み出た仁が、コクピットの中でそう言う。その後ろには、咲耶(w3c165)がその背を守るかのように、逢魔の短剣を携えている。あわせた着物からは、龍のような祖霊の骨鎧が、垣間見えていた。その彼女に「名前、それでいいのか?」と問われ、仁はにっと笑って、真デヴァステイターにフレイムパニッシュメントを纏わせながら、こう答えていた。
「ん? 正体を知ってるからってわざわざそれを言うのは野暮ってもんさ、だろ?」
同じ事を考えていたらしい武斗、真ショットオブイリミネートを突きつけながら、こう言った。
「そうだな。大ヤコブ、いや、今は黒騎士とか言ってたか?てめぇにゃ言いたい事は山ほどあったがいい加減出遅れ気味な上、今のお前にそれを言う必要は感じねぇな。よって、割愛だ」
黒騎士は答えない。
「じゃ、行くぜ!」
沈黙を破るようにして、金剛寺が飛び出していく。
「その程度、我が鎧に傷を付ける事さえ出来んわ!」
しかし、彼の操る結界は強力だ。それが、ドミニオンの力によるものなのか、彼の力によるものなのかは定かではないが。
「アンタには誰一人としてやらせるもんか!」
そのまま、真グレートザンバーで小競り合いを始める2人。
「隼斗ちゃん右にゃッ!!右に避けるのにゃ!」
「わぁってる!」
本来なら、小競り合いで済む相手ではない。それを、なんとかまともに相手できているのは、ナディの動物的勘とやらの賜物だ。
「くそ、らちがあかない!」
その金剛寺は、このまま小競り合いを続けていても、相手にダメージを与えられないと悟り、真テラーウィングで、空中へと上昇を始める。
「悪いな! 動かないでくれよ!」
上空から、スパイダーズウェーブを放つ金剛寺。
「その程度で、私を捉えられると思うてか!」
「ああ、思ってないさ!」
ドミニオンが、それを払いのけた瞬間、黒江がソニックブレイズを放つ。
「その程度!」
「おっと! もう一体いるんだぜ!」
最後に、仁が真デヴァステイターにスワローピアッシングを付与し、鎌の刃先端を彼へと突き刺す。
「大ヤコブ! 使えるべき主の下へ、帰るが良いッ!」
その効果が切れる前に、黒江がハウンドヘイストで、ドミニオンへと肉薄する。
「同じ技が、通用すると思うなよ!!!」
それを避け切れないほど、彼の技量が低い訳ではない。剣が触れた刹那、ドミニオンを中心に、白い光がサークル状に迸る。それは、敵味方を問わず、まばゆい光を与え、その視界を奪っていた。
「今までと同じと思うな! 仁さん!」
「わぁってる!!」
視界の奪われた今こそ好機。ダメージは食らっていたが、痛みを堪え、仁と金剛寺は、大鎌を横なぎにフルスイングし、真グレートザンバーを振り下ろす。
「その程度、この私に!!!」
武器のクロスした一点。そこに、ドミニオンのギガフォーリーサイトが発動する。
「やらせねぇ!!」
金剛寺を庇う仁。
「仁さん!?」
「大丈夫だ。何とか生きてる」
だが、その機体はボロボロで、もう動けそうにない。
「それで終わりか?」
「冗談じゃないよ! あたしもいる事を、忘れていないかい!?」
シャイニングフォースを使った今なら、絶好の機会。そう思ったキツァが、スワローピアースを叩きこむ。
「釣りはいらねぇッ! レシートも不要だッ!!」
武斗が、真ショットオブイリミネートばかりではなく、真バスターライフルをも叩きこむ。
そう、彼らが狙っていたのは。
「その顔、拝ませて貰うッ!!」
黒騎士がその面に付けていた仮面。さすがのドミニオンとて、連激には、耐え切れなかったらしい。方膝をついたそのコクピットの隙間から、中の様子が垣間見える。
「仮面が!」
ぴしりと、彼の付けていた面が割れ、中の素顔が露わになる。かつて最強と呼ばれた天使の右半面には、戦でついたと思しき、深い傷跡が刻まれていた。
「いいぜ、勝負は付いた。別に逃げても構わないぜ?」
「勝負か‥‥。相変わらず、甘い事を言う奴らだ」
これ以上、やりあう必要ないだろ? と、そう言う仁に、黒騎士いや、大ヤコブはそう答える。
「まだ、やる気かい」
「逃亡など、似合わん」
キツァの言葉に、彼はそう言った。そして、開きかけたコクピットを再び閉じる。まるで、魔皇の説得を拒絶するかのように。
「もう良いだろ!? 何の為の復讐だよ! アンタが何を失ったって言うんだ!」
神帝は倒れてるんだ! 残った天使と魔皇が手を携えて、何が悪いって言うんだよ! と、そう訴える金剛寺に、彼は哀しい声で告げる。
「魔皇達に、私の失ったものの重さは、わからんさ」
誇り、部下、愛機、主。そして自分の居場所。魔皇達にとっては、取るに足らぬものでも、彼にとっては、それが世界の全て。生まれた時から、魔皇と戦うことを宿命付けられた大ヤコブにとって、それを奪われると言う事は、世界の崩壊に等しかった。
「俺は知ってるアンタの仮面の裏に隠された優しさもそうだろ! だからあの時だってあえて止めを刺さなかったんだ!」
それでも、金剛寺はそう叫ばずにいられなかった。どう考えても、殺される筈だった場面など、思い返せばキリがない。
「お前を生き延びさせたのは、斬るべき存在ではなかったからだ。優しさなど感情。そして、我ら天使は、感情に左右されるべき存在ではない」
大ヤコブは、認めなかった。認めてしまえば、戦う理由を失うとでも思っているのだろうか。本当は、誰よりも激しい感情を抱いている筈の彼。だが、それを認めてしまう事は、高すぎる天使のプライドが、許さない。
「くッ。何を言っても無駄かよ。なら、アンタを倒す!」
己の言葉が届かないと判った金剛寺、首を左右に振り、躊躇いを捨てる。
「どけ、隼斗」
そんな彼を押しのけたのは、ゼシュトだった。
「司令」
何かを訴える様な視線を送る彼。
「そいつは、私の獲物だ」
だが、その横顔に、決意が満ちているのを見て取り、大人しく引き下がる。
「大ヤコブ、私だ。ゼシュト・ユラファスだ。聞こえているか?」
皆の見守る中、彼はそう切り出した。
「ああ。聞こえている。お前の声を忘れるわけがなかろう」
再会を待っていたようなその声に、ゼシュトは真へルタースケイルを手に、こう宣言していた。
「待ち望んだ決戦の時だ今度こそ沈めてやる。我が宿星、魔凶星の名の下にな!」
禍々しさをその姿に秘める黒き大鎌。血よりも赤いその刀身が、大ヤコブの血を求め、ゼシュトの腕の中で脈打っている。
「よかろう。お前ならば、最後を飾るに相応しい。我が愛機と共に、全力で相手をしてくれる!!」
大ヤコブが剣を抜いた。
「さぁ! 語り合おうではないか!!」
仕掛けたのは、大ヤコブの方だった。接近戦を強いられたゼシュトの殲騎は、ヘルタースケイルで防戦する一方になっている。
「ゼシュトさん!」
「手を出すな!! こいつは、我が手で決着をつける!」
援護をしようとした武斗は、彼自身の声で阻まれる。
「悪しき魂よ! 深遠なる悪夢へと誘え!!」
直後、ゼシュトは手元で真ワイズマンクロックを起爆、右腕のヘルタースケイルを水平に振るう。受け止める大ヤコブ。
「どうした! 期待外れも良い所だな!」
この距離ならば、貴様の体力、全て削る事が出来るぞ? と、そう言わんばかりに、大ヤコブの剣が輝く。
「ふん! ならば、その期待にこたえてやろうじゃないか!」
彼の要求に答えるように、ゼシュトが叫び、そして、殲騎の肩に現れるミサイルラック。
「その程度で、私を落とすつもりか! 甘い! 甘すぎるぞ! ゼシュト!」
輝いたままの剣が、ゼシュトの刃を押しきるように、振り下ろされる。
「甘いのはそっちだ!」
その攻撃が自身に当たる刹那。
「御主人様! 今です」
彼は、魔凱を指から外す。瞬時に彼の殲騎が通常状態に戻ると同時に、ダークフォースとシャイニングフォースが反応し、爆音をとどろかせていた。
「何!?」
視界が、完全に隠れる。
(「受け取れ! この想い!!」)
真ヘルタースケイルが、投げつけられる。コクピットを深々とえぐったそれは、カバーを外し、大ヤコブ自身を露出させる。そこへ、その身を明け渡すかのように、身体1つで飛び込んでいくゼシュト。
「ゼシュトッ!」
ただ一言、その名を呼ばれた。それで、充分だった。
「これで‥‥。全て終わらせてやる!」
その身に直接、真クロムライフルの銃口を押し付ける。
「ふ。そうだ。それでいい」
その刹那、間近で見ていたゼシュトは、大ヤコブの口元に、満足そうな笑みが浮かんだのを、確かに見ていた。
「大ヤコブ?」
見上げた刹那、ゼシュトは腹に焼け付くような痛みを感じた。みれば、自分の腹に、刃が生えている。
「これで、おあいこ‥‥だな」
ニヤリと笑って、そう言う大ヤコブ。
「大ヤコブ! 貴様ぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、押し付けた銃口が、大ヤコブの身体を貫く。零距離で放たれたブレイクシュートは、大ヤコブの身に、致命傷を穿っていた。
「ぐはッ」
激しく吐血する大ヤコブ。コクピットの内部で、シャイニングフォースが暴走を始めたのか、あちこちでスパークが起きている。
「見事だ。ゼシュト」
その彼に、大ヤコブはそう言って、笑みを浮かべた。見間違いなどではない。自ら討たれる事を望んだ様な笑みを浮かべ、彼は残り少ない力で、ゼシュトを突き飛ばす。
まるでゼシュトを、ドミニオンの爆発に巻き込ませないかのように。
「お前っ!!」
気付いた時には、遅かった。
「魔皇に屍をさらすなど、死んでもごめんだ!!」
己の死に様を隠すかのように、コクピットが閉じられる。ゆっくりと倒れていくドミニオン。その隙間からは、光の粉が零れていく。
「嫌だ。やめろ」
愛機のコクピットで、ゼシュトは嫌々をするように首を横に振った。無意識のうちに、飛び出していこうとする。
「連れて行け。私を‥‥、私をおいて逝くなッ」
せめて、共に。まるで、愛する者を失うかのような顔で、彼は傷だらけの腕を伸ばす。後を追おうと。
「駄目です! ご主人様!」
それを引き止めたのは、他でもないイスファルだった。
「逝かせない! 絶対に!」
たとえ、永遠に届かない想いだとしても。それでも愛する者を、みすみす死なすわけには行かない。それで、彼の心が、自分から離れてしまうとしても、それでも彼を失うわけにはいかない。
「‥‥‥‥‥ッ‥‥‥‥‥!!!」
倒れたドミニオンから吹き上がる盛大な水飛沫。周囲に響く爆音に、ゼシュトの叫んだ名は、かき消されるのだった‥‥。
|