■宵闇幻想華【終焉】2■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオEX クリエーター名 姫野里美
オープニング
●乱を導く天使
「安い‥‥プライドか‥‥。だが、死者となった天使には‥‥そんなものが相応しい‥‥」
 自嘲気味な呟きを残して、彼は再び仮面をつけた。
「だがそれでも私は‥‥。あの都に帰らねばならぬだろうな‥‥」
 それでもいいと呟いて。
「レミエル。居るのだろう。出て来い」
「ふふふ。バレてしまいましたわねー」
 と、その直後、柱の影から姿を見せる、赤いドレスの女性グレゴール。
「お前の主に告げておけ。高みの見物をするなら、最高のステージを用意してやるとな」
「流石は元・雷の皇。我らの企みなど、御存知でしたか」
 彼の言葉に、レミエルはまったく気にして居ない様子でそう言った。
「私が気付いていないとでも思ったか。この世界を乱したいと言うのなら、それでも構わん。ならば、それ相応の働きをして見せろ。敵なら、掃いて捨てるほどいる」
「ふふ‥‥よりどりみどり。そうですわね。何だか、大きな船も出てきますし」
 舌なめずりをするレミエル。そして、忠告するようにこう告げる。
「でも、お気をつけあそばせ。ドミニオン回収の時点‥‥いえ、あなたが姿を見せたその時から、あなたの憎むべき密たちには、その真なる姿は、バレております。秘蔵の兵器を出してくる事は、充分に考えられますことよ」
「そんな事は、お前に言われずとも、わかっている‥‥」
 仮面の騎士の歩みが止まる。その眼前には、今は愛機と化した機体が、冷たい姿をさらしている。
「だが、どんな敵が出て来たとしても、主の残したこの機体で‥‥撃ち貫くのみ‥‥!」
 それを見上げ、彼はそう告げるのだった。

●終末を招く船
 その頃、レギオンの奥座敷では‥‥。
「はいはーい。御報告に伺いましたわー」
 相変わらず軽い口調で、そう言うサラの姿があった。
「お嬢様‥‥。アスモデウス様は、お身体の加減が余りよくないのですから、御無理を言わないで下さい」
 NOAHが、心配した口調で、そう答えている。
「それは‥‥?」
「言ったでしょう。加減がよくないと」
 その彼のすそに、自分のものではない血糊がこびりついているのを見て、心配そうな表情を浮かべる彼女。と、そんなサラに、アスモデウスはこう言った。
『この間の【出張】で、少し負担をかけてしまってな‥‥』
「ふぅん。ま、でも。愛しの黒騎士様に会えるんだから、無茶しちゃっても文句言われないと思うよん」
 あたし、そう言う時無茶する野郎の方が、好意持てるから。と、その時だけシリアスな表情を浮かべる彼女。
『お嬢様の好みのタイプはどうでも良いです。それよりも、歩美様は何と仰ってたんですか?」
 NOAHが咎めるような口調で問うてきたのを聞いて、サラは『ああ、いけない』と、口を押さえる。そして直後、まるで天使達がそうするように、忠誠の片膝をつく。
「歩美様から、許可が下りました。アクス各種5機、及びレギオンは、大ヤコブ‥‥いえ、黒騎士ドミニオンの迎撃に使用してよいとの事です」
 そう‥‥あの時‥‥。とある魔皇の手によって、仮面の黒騎士とまみえたアスモデウスは、それが好敵手・大ヤコブだと、同じ様に確信した。そして‥‥彼が回収して行った機体を、新たな『脅威』として、歩美に報告したのだ。
「奴の事だ。さんざん煮え湯を飲まされた我ら密を、放っておくわけには行かないだろうな‥‥」
 たとえ、安っぽい復讐行為だとわかっていても、彼の性格を考えれば、殲滅にかかる事は、目に見えて居る。故にアスモデウスは、それを迎撃する為に、虎の子の『アクスディア』を使わせてもらうよう、申請したのだ。
『わかった。急ぎパイロットを選定し、いつでも出撃できる様にしておけ』
「よろしいのですか?」
 NOAHが、気遣う様にそう尋ねてくる。と、アスモデウスは静かな口調で、答えた。
「例え‥‥長い付き合いの相手でも、いずれは決着をつけなければならない。手を取り合う事が不可能なのは、お前も知って居るだろう‥‥?」
 戦と言うのは、譲れない思いがある時の、最後の手段だ‥‥と、アスモデウスは、どこか寂しげな表情を浮かべている。
 だが、それも一瞬の事。すぐにまた、上に立つ者の顔を取り戻し、こう続けた。
「強敵(とも)の屍を踏み越えて、後の世に、戦いの真実を届ける。それが‥‥戦をする意義と言うものだ」
 世の中の行為には、全て『理由』がある。
 理由なき戦いは‥‥ただの動物的行為に過ぎないと、アスモデウスは思うのだった‥‥。
シナリオ傾向 ライバルとの決着120% 謀略20% 所により耽美? 15%
参加PC 一ノ瀬・亮
ヒシウ・ツィクス
東雲・辰巳
司馬・礼二
那智神・神
真田・一
御名方・兇爾
楠田・利人
九条・勠
ファング・キルス
宵闇幻想華【終焉】2
●終焉への序曲
 その日、魔皇達は、姿を消した東雲・辰巳(w3c749)を探し、秋葉原の街中へと現れていた。
「ここですか‥‥。奴らが目撃された場所は‥‥」
「ああ。レミエルと、仲良さそうにデートをしていたそうだ」
 九条・勠(w3g867)の言葉に、そう答えるティルヒローゼ(w3g867)。周囲が瓦礫の山でも、何故かここだけは、街の機能を残している。その為か、あちこちにレミエルと東雲好みの店が、無表情でお宝を集める一般ピーを相手に、たくましく商売をしている。そこで話を聞いて回った所、ジーンズ姿のレミエルと、いつもの格好の東雲が、あちこちの店を、心底楽しそうに覗いて回っていたと言う。
「何を考えてるんでしょうか‥‥。東雲さん‥‥」
「いずれにしても、奴が現れれば、わかるだろう‥‥」
 そんな所で、彼女と一体何をしていたのか。気になっている様子の司馬・礼二(w3c851)に、ステア(w3b715)から連絡を受けたヒシウ・ツィクス(w3b715)が、こう言った。
「東京の空を翔けるのは、これで何度目だったか‥‥。ともあれ、これで一つの区切りがつくか」
「けど‥‥、その前に彼らをどけないと」
 周囲を見回して、困惑した表情を浮かべるセフィリア(w3f933)。その彼女が視線を向けた先には、まだまだたくさんの人々が、己のお宝を無表情にかき集めている。
「くっそー。何でこんなに大勢いるんだよっ」
「皆さーん。ここはもうすぐ戦場になりますー。早く避難してくださーい」
 皆、自分の事が大切なのか、彼女の言葉に耳を貸そうとはしない。その様子を見て、礼二が頭を抱えている。
「これだけ人数がいて、感情を奪われたら、動くに動けない。街を1つ人質に取ったようなものですね‥‥」
 おまけに、陽動は使えない。奇襲は通用しない。決して、戦闘のプロではないヒシウにとっては、打つ手がないようにさえ思えていた。
「‥‥仕掛けるしかないな」
 と、彼らとは逆に、長く裏社会で生きてきた御名方・兇爾(w3f933)が、しばしの沈黙の後、そう言う。
「けど、この人では‥‥」
「うちの澪にも手伝いをさせよう。忍び寄る闇で、一般人は大人しくなる。その間に、何とか奴を倒せれば‥‥」
 セフィリアの言葉に、今度は一ノ瀬・亮(w3b693)がそう言った。彼女の逢魔・澪(w3b693)を始め、ナイトノワールは数名いる。その数名で重ねがけをすれば、ここにいる一般市民程度は、大人しくなるだろうと。
「倒す‥‥のか‥‥」
「だめなのか?」
 と、それを聞いた御名方、あまり気の進まない様子で、煙草に火をつけた。
「いや。出来れば、女を手にかけるのは、ごめんだと思ってな‥‥」
「そんな悠長な事を言っていられる相手かな」
 ファング・キルス(w3i539)が、そう答えている。レミエルに、思いを抱くものは少なくない。それは、サラ達から、話を聞いてはいる。だが、自分達の力量では、120%のパワーを出し切ったとしても、勝てる確率は少ないだろう。それでも信条としては、この決戦をなんとしてでも勝利に導きたいと考えていた。
「出来れば拘束する。出来ないようなら倒す。‥‥それでいいですよね?」
 那智神・神(w3e134)が作戦を締めくくる。
「今後の事を考えると、倒しておいた方が無難なんだがな‥‥」
 そんな彼に、ヒシウがそう言った。
「文句は作戦が成功してからだ。まずは‥‥あいつ!」
 礼二が指した先。そこには、資材を運び込んできたイーグルドラゴンの姿がある。
「貫け! 我が拳!」
 そう言うや否や、真ショルダーキャノンを打ちまくるファング。その激しい打ち込みに押され、動きを鈍らせるサーバントに、真ビーストホーンを叩きこむ。その一撃は、サーバントの装甲の薄い所を貫く。
「俺をブロックするのは、30年早ぇぜっ!」
 直後、その3倍量のサーバントが、ファングへと襲い掛かる。と、彼はそれをハウンドヘイストで加速して、バスケの要領ですり抜けながら、攻撃を回避していた。
「おかしいですね‥‥。奴が居ない‥‥」
 そんなファングの言葉に、礼二はそう言った。
「奴? ああ、レミエルか」
「ああ。何故こっちに来ないんだ‥‥」
 先ほどから、彼ら魔皇の相手をしているのは、サーバントばかりだ。しかも、散発的な攻撃ばかりしてくる。まるで、やる気のないその行動に、後ろから不審な動きをするサーバントを監視していた彼は、何かをひらめいたように、こう叫ぶ。
「まさか! これだけのサーバントを捨て駒にすると言うのですか‥‥!?」
「いや、ちがうな‥‥」
 ヒシウの言葉に、礼二は首を横に振る。
「サーバントの数が、いつもと比べたら、少なすぎる‥‥。まさか!」
「何か、気付いた事でも?」
 直感の白らしく、何かに気付いた様子の礼二に、ファングがそう言った。と、彼は周囲の状況を見回しながら、こう続ける。
「あいつ。出てくる気‥‥ないんじゃないかと思うんです。今までも、俺達の半歩先を行っていたあいつだ。サラも、あいつが高みの見物を決め込むつもりだと、そう言ってたし‥‥」
 たぶん、ここのサーバントをいくら倒しても、彼女は出てこないだろう。そう続ける礼二。
「とにかく、この周りの奴を追っ払おう。一気に決めるぞ!」
 ヒシウがそう言って、相手の距離を詰めていく。しかし、よく訓練されたサーバントだ。むやみやたらに白兵戦をしかけても、かえって力を消耗するばかり。
「く‥‥ッ。さすがに手ごわいか‥‥」
「諦めるな! まだ連中にしてみれば、雑魚なんだから!」
 おまけに、それだけパワーのある連中とは言え、レミエルの配下では、数の内に入らぬ面々だ。
 だが。
「逃げていく‥‥?」
「考えたな。奴らにとっては、偵察にも値しない囮と言うわけか‥‥」
 数を半数ほどに減らした所で、イーグルドラゴンの群は、徐々に散り始めた。
「だが、あれを追いかければ、おのずと案内してくれる筈! 行くぞ」
 飛んでいくイーグルドラゴンを追いかければ、レミエルのもとまで、つれて行ってくれるはずだと。
「どこまで行くのかしら‥‥」
「この方向は‥‥小岩テンプルムですかね‥‥」
 コアヴィークルの後ろで、シィーナ(w3c851)がそう呟いた。
「ちょうど良いです。乗り込んでぶっ叩きましょう!」
 目的地がわかってるのなら、たどり着くのは容易い。ヒシウがそう言って、魔皇達を先導する。
 蔵前橋通りを法定速度オーバーで爆走した結果、現れたのは。
「しまった! 先回りか!」
「く‥‥。僕達の策なんて、みえみえだったって言いたいようですね‥‥」
 臍を噛む一ノ瀬。礼二の言葉に、空を見上げれば、そこにいたのは、イーグルドラゴンよりも、かなりレベルの高いドラゴン族の姿だった。
「レミエルはまだ近くにいるはずだ! 探そう!」
 それは即ち、レミエルがすぐ近くにいる事を意味する。目を凝らす魔皇達の遥か先に‥‥漆黒のイーグルドラゴンの姿があった。
「ブラックイーグルドラゴン‥‥あれだ!」
 その背に、小さく人影が映っている。
「く‥‥ここからじゃ遠いな‥‥」
「任せろ。引きずり降ろしてやる‥‥ッ!」
 ヒシウがそう言って、コールドシュートを放つ。それは、ブラックイーグルドラゴンの翼ギリギリをかすめ、魔皇達の方へと注意を向かせる。
「ヒシウ、来るよっ!」
「望む所ですっ!」
 ステアの警告に、ヒシウが、ソニックブレイズをを放った。刀身から放たれた真空は、その背にまたがる人影へと、襲いかかる。
 だが。
「効かない?」
「いや! もう1人いる!」
 その一撃は、レミエルと共にブラックイーグルドラゴンに乗っていたもう1つの人影によって弾かれていた。
「レミエルを庇っただと? グレゴールか!」
「いや‥‥あれは‥‥」
 ブラックイーグルドラゴンが、ゆっくりと魔皇達の元に舞い降りてくる。
 そこにいたのは。
「お前は‥‥‥‥!!」
「悪いが、彼女を傷付けさせるわけには行かない‥‥」
 純白の‥‥グレゴールによく似た鎧を着けた東雲の姿だった‥‥。

●哀しきフルアクション・ドール
 まるで魔皇をやめ、神帝軍のグレゴールになったような姿で、他の魔皇達の前に現れた東雲。
「何やってるんだ、お前!」
 事情を知らない楠田が、そう言って彼に詰め寄った。だが、東雲はそんな彼らに対し、表情をかえずにこう告げた。
「見れば判るだろう。ボディーガードだ」
 そして、まるで背後のレミエルを守るかのように、その手には真クロムライフルが握られている。
「てめぇ‥‥。どう言うつもりだ。説明しやがれ!」
「お前たちに語る舌など持たん。俺は、彼女の盾になると決めた。それだけだ」
 切っ先は、迷わず目の前の楠田に向けられていた。既に、人化をしていない。身体に現れた紋章が、それを物語っている。
「まさか‥‥操られていると言うのか!?」
 その様子を見たヒシウが、礼二に小さな声で尋ねている。
「いや、ちがう‥‥。その割には、生気が失われていない‥‥」
 しかし、彼はそう言って首を横に振った。もし、何らかのシャイニングフォースによって操られているのなら、その兆候が現れる筈だと。
「く‥‥。東雲、そこをどけっ!」
「断る」
 よどみのない声で、東雲はきっぱりとそう言った。
「ならば、力ずくで押し通るまで!」
 楠田が、躊躇いながらも、その敵意に応えようとしたその時である。
「やめろ!」
 凛とした声が響いた。
「一!?」
 見れば、真田・一(w3e178)がその間に割って入っている。後ろには、あて身を食らわされ、起きたばかりの一花(w3c749)が、シェリル(w3e178)に支えられるようにして、哀しげな表情を浮かべていた。
「東雲、もう芝居は充分だ」
 そんな中、静かに告げる一。
「‥‥何の話だ?」
 怪訝そうに楠田が聞き返す。と、彼は『奴の、作戦だったんだよ』と小さく答え、こう続ける。
「レミエルを引っ張り出す役目なら、もう済んだだろう! 何故、そいつに味方をする?」
「言っただろう。ボディガードだと。その身のみならず、その心を守るもの‥‥と言えば、格好良いかな‥‥」
 自嘲気味な笑み。
「貴様‥‥っ‥‥」
「わかった」
 噛み付こうとする楠田・利人(w3g294)を制し、一は覚悟を決めたようにそう言った。
「利人さん‥‥」
 心配そうにその様子を見るグレイス(w3g294)。
「そんなに言うのなら、俺が引導を渡してやる‥‥」
「でも‥‥」
 一花は、納得していない。己の主を信じているのだ。
 それでも、一は愛刀‥‥昴を、正眼に構える。
「我が五輝の力、その錆となってもらうぞ!」
「‥‥望む所だ」
 一騎打ちが始まった。テラーウィングで機動性と最高速を伸ばし、その機動性を生かして相手の攻撃を威嚇と本命を見極めて避ける。避けきれぬものは最小限の動きでウォールで構えて防ぎつつ後ろに流す。その直後、ブレイドで斬りつける一。東雲も、応えるようにライフルで応戦するものの、元々の技量に差があるためか、徐々に押されていく‥‥。
「ぐぁ‥‥っ」
 ついに弾き飛ばされる東雲。鎧は見る影もなく傷だらけ‥‥そして、僅かに露出した肌からは、血が流れ出ている。
「やはり、力の差はあるか‥‥」
 そんな‥‥片膝を付き、満身創痍となった彼の頭上に、一の刀が振り上げられた。
「これで‥‥終わりだ!!」
 防ぎきれない‥‥と、東雲が覚悟を決めた直後。
「レミエル‥‥。どうして‥‥」
 がきんっと金属のぶつかる音がして、その刀を逆に弾き飛ばしたのは、槍をぬいたレミエルだった。
「そこまでにしておきなさい。余興は済んだわ」
 既に、笑みが消えている。まるで、気に入らないものを見せ付けられたときと同じ表情で。
「まさか‥‥東雲を庇ったのか‥‥?」
 礼二がそう言った。だが、彼女はそれには答えず、こう続ける。
「まったく。背中から刺すなんて、あなたたちも卑怯者ね。戦の事しか考えて居ない、頭の悪い子供はキライよ」
「俺のどこが、頭悪いって言うんだ!」
 一が、真ジャンクブレイドを召喚しながら、反論する。と、レミエルはそんな彼等を見下すような視線で、こう告げた。
「陽動と力押ししか出来ないんじゃ、お話にならないって事よ。違って?」
「それは‥‥」
 考えてみれば、魔皇達の策は、大まかに分けるとその二つに分類される。
「つまらないのよ。そんな戦いわねっ!」
「うわぁっ!!」
 吹っ飛ばされる一。駆け寄るシェリル。そんな魔皇達に、レミエルは告げる。
「あたしは、最初から言っていた筈よ。戦の事しか考えて居ない人間も、魔皇も、いつか滅ぶと。その力量を知らず、ただ剣を振り回すだけなど、愚かしい行為に過ぎないとね!」
 東雲とて、けっして弱い方ではない。それを上回る一と、互角にやりあうレミエルの姿に、魔皇達は畏怖さえ感じていた。
「つ、強い‥‥」
「これが‥‥レミエルの真の力だと言うのか‥‥。くそっ‥‥。ここまで来て‥‥」
 焦る一。さらに間の悪い事に、レミエルの背後には、騒ぎを聞きつけたサーバントが、徐々に集まってきている。
「向こうではドミニオンと交戦中です。こちらも頑張りましょう」
 シェリルが励ますようにそう言った。直後、まるでレミエルの静かな怒りを受けるかのように、サーバントの群が、加速する。
「来ます!」
 澪が、警戒の叫びを上げる。
「まずは数を落とすぞ! シェリル! 闇の力を!」
「はいっ!」
 間髪いれず、シェリルが忍び寄る闇を発動させた。いや、彼女ばかりではない。澪とセフィリアが、彼女を中心に、低空で6角形を描き、隙間を埋めるよう中空で3点を置く。まるで、八面体をなすように展開していくそれに、レベルの低いサーバントたちは、その動きを止めていく。
 それでも、高レベルともなると、勢いは止まらない。
「ここで死ぬわけにはいかねぇんだよぉ!!」
「これでも食らって止まってやがれ!!」
 その闇の八面体が完成すると同時に、一ノ瀬がギガプレイクスを叩きつける。そして、衝撃を食らったレミエルに、楠田がスパイダーウェーブを浴びせていた。
「‥‥決める!!」
 外しても当てても構わない。せめて一太刀なれと、その力を削れれば、それでいい。
「く‥‥このままでは、らちがあかない。搦め手で攻めるぞ!」
 那智神が、そう言うや否や、「何をするつもりかしら?」と言った風情のレミエルに、真葛藤の鎖を絡みつかせていた。
「今だ!」
 動きさえ封じてしまえば、こちらのもの。そう踏んだ御名方が、レミエルの前に出て真グレートザンバーを一振りさせる。真魔炎剣の炎が纏わり付き、刀身を青く染め上げる。
「レミエル、地獄の閻魔がお前を呼んでる‥‥。迎えだ」
「‥‥愚か者」
 それでも、レミエルは慌てなかった。鎖如きで、自分を捉えられると思うなとばかりに、その鎖に手をかける。
「思い上がっているのは、あなた達よ。力押しでは通用しないと、私は何度も警告した筈。ただ剣をふりおろすだけでは、通用しないと。何故判らないの!?」
「うるさい! 冥府魔道に‥‥堕ちて彷徨えッ!!!」
 至近距離から、放たれるソニックブレイズ。それを、踊るように避けながら、彼女は自らの手首に絡みついた鎖を、力いっぱい引き寄せた。
「人の話を聞かない子は、キライよ!!!」
「うわぁっ!」
 天使のパワーで振り回されたそれは、御名方を地面へと叩きつけていた。
「あなた達は、何も判っていない‥‥。戦の事しか考えていない。あたしはそんな人、大嫌いよ‥‥」
 連携だのコンボだの。勝つだの負けたくないだけだの。勝負の行方も剣を振り下ろす方法も、そんなものは、副次的な産物に過ぎない。全部‥‥『戦う・攻撃する』の一言で済まされる行為だと、彼女は告げる。
「言いたい事は、それだけですか? お姉様」
 そんなレミエルの前に進み出る九条・勠。
「あんたは?」
「九条の弟です。一曲お願いしてもよろしいでしょうか?」
 彼女へのラブコールを仕掛けてきた者達が、消耗したと見計らってか、そう言って優雅に一礼する九条。
「私に敵うとでも?」
「ええ。兄との約束ですから」
 その一言に、レミエルの口元に、微かに笑みが浮かぶ。
「そう‥‥。あの子は?」
「重傷なのに想い人に逢いに行こうとしてたので、四肢の関節を外して、鎖で縛ってから東京都某所に開いていた大穴に放り込んできました。という訳で、想い人のレミエルさんには、ご不満かもしれませんが、兄の代理人として、不肖の弟である僕が、愚兄の分までお相手します!」
 九条のダークフォースが、周囲に真魔力弾として浮かび上がる。
「さあ!楽しませてあげますよ!兄様の分まで!」
「あなたに、あの子ほどの力があるとは、思えないけど!」
 確かに、自分は兄ほどのパワーはない。しかし、小さな頃から次期党首に恥じぬ教育を施された自分には、それを補って余りある頭脳がある。
「止めろ! 殺すんじゃない!」
「今更、止められませんよ!」
 東雲が危険を感じてそう叫ぶ。だが、九条に止める気はない。ここで、仕留める。そう思い、真魔力弾をぶつける。狙うは、彼女の持つハルバードだ。
「その指、落とさせて頂きます!」
「きゃあっ!」
 接戦闘を挑み、攻撃は手刀と貫手を、防御は敵の攻撃を腕を円を描くようにして捌く事を中心に戦闘し、眼が合ったら真蛇縛呪を放ち動きを止めて、ハルバートを握る指へと、集中攻撃をかける。
「レミエルッ!」
 駆け寄る東雲。だが、レミエルは、ハルバードを持つ手の痛みを堪えるように、顔をしかめ、言葉を搾り出していた。
「負けない‥‥ッ!!!」
 そんな思いと共に、彼女の手から、シャイニングフォースが放たれる。直接打ち込まれたのにも等しい距離。九条の小さな身体が、鞠の様に地面に跳ねた。
「九条!」
「だ、大丈夫‥‥です‥‥っ」
 頭がふらふらする。立ち上がるのがやっとだ。どうやら、今の一撃で、体力を半分持っていかれたらしい。
「まだやる気?」
「当たり前‥‥ですよ。兄様の分は‥‥これから‥‥です‥‥からっ!」
 たたっと走りだす九条。兄の好きそうな全力突撃。その掌に、魔力の雷が宿る。
「一緒に空中散歩に参りますよ! お姉様!」
「よせっ! 九条!」
 タックルの要領で、レミエルを空中へと案内する九条。そして、抱きついた格好のまま、バッドライトニングを食らわせる。雷に包まれたまま、地面へと激突する2人。
「やったか!?」
 土煙が上がる中、先に立ち上がったのは。
「私は負けない‥‥。こんな何もわかっていない‥‥力押しと陽動しか出来ないお子様達に、たかり殺されるわけには、行かないのよ‥‥」
 レミエルだった。穿たれたクレーターの底では、九条が気を失って倒れている。微かに胸の辺りが上下している辺り、生きてはいるようだ。
(「普通なら、死んでいるはずだ‥‥。レミエル、やはり好敵手の弟を、殺すつもりはないと言った所か‥‥」)
 もっとも‥‥彼女の左腕が、役に立たない状態になっているのに気付いたのは、おそらくすぐ側にいた東雲だけだろう。
「なら、俺でよければ輪舞の続きのお相手をしましょう。もっとも、鎖付きですが!」
「あたしを殺していいのは、あたしが許した人か、20を越えたイケメンだけよっ!」
 どうやら、彼女とは歩み寄れそうにない。そう思った那智神は、鎖ではなく、真ショットオブイリミネートへと切り替える。
「では、死出へと、旅立ってください!」 放たれる弾丸。
「うぐ‥‥っ!」
 だが、それを受けたのは、レミエルを庇った東雲。
「東雲‥‥!? 何故、私を‥‥」
「言っただろう。ボディーガードだと‥‥。約束も‥‥したしな‥‥」
 崩れ落ちる。レミエルの掌に広がる血。それを彼女の視界が認識した時、レミエルの掌に、再び輝きが宿る。
「‥‥おのれ‥‥おのれ魔皇ども‥‥。よくも私の‥‥を‥‥!!!」
「何!?」
 踏み込んだと同時に、襟首を掴まれる。みぞおちに、手のひらを当て、彼女は叫ぶ。
「死ね!」
 輝く聖なる気が、その身体にぶつけられる。邪悪なものを浄化する力を持ったそれは、至近距離から放てば、立派な攻撃魔法だ。
「うわぁぁぁっ!」
 崩れ落ちる那智神。刹那(w3e134)が駆け寄るのを尻目に、レミエルは地に転がったままの東雲へと、かがみこんだ。
「レミエル‥‥?」
 傷口に掌を当てられ、戸惑った様に彼女を見上げる東雲。
「バカな、男。私を庇ったって、何にもならないのに‥‥」
 ゆっくりとシャイニングフォースが注がれる。それは、彼の傷を塞ぎ、完全に回復した訳ではないが、動けるようにしてくれていた。
「お前‥‥」
「勘違いしないで。あなたを助けたわけじゃない。ただ、壊れた盾を修復しただけ」
 念を押すように、そう言うレミエル。だが、東雲には、それが、言葉を変えた『仲間を死なせるわけには行かない』と言う思いの現れに聞こえていた‥‥。
「そうか‥‥。そう言う事か‥‥」
「え‥‥?」
 様子を見ていた礼二に、そう聞き返すシィーナ。
「あいつが、なぜ1人で動いているのか、今わかった気がする‥‥」
「仲間を失いたくないから‥‥か」
 一がそう返すと、彼は黙って頷く。思い当たる節が山ほどある一は、納得したように、こう続けた。
「そうだな。デコイを使うくらいなら、最初からグレゴールを使えば良かった話だろ。落ちたテンプルムだって、空だったんだし。それを、わざわざサーバントを使って‥‥」
 面倒な真似をしていた全ての理由。それは‥‥何も知らずに働かされているグレゴールを失いたくなかったから。
「そう言う‥‥事だ‥‥」
 立ち上がれるようになった東雲が、全てを明かすかのように、こう告げる。
「本当は、お前をだますつもりだった。そうしないと、勝てないと思ったからな」
 思い描いていたのは、別の構図。一度死んだふりをして身を潜め、レミエルに隙が出来たら、最後の一撃を打ち込む‥‥。だがレミエルは、そんな彼の思惑を知っていても、何も言わなかった。
「だが、お前は俺がその為に近付いた事に気付いていて、黙って見過ごしていた。違うか?」
「魔皇と天使は‥‥しょせん手を取り合うなんて出来ない‥‥。最初から、信用なんてしてないわ」
 いつも、反対のセリフを言って。自分の心をどこかに置いて。
「それでもお前は、俺が側に侍るのを許したじゃないか。俺は、そのおかげで、お前の本心を知った。本当は、傷付けたくなんてなかった事も。だから、裏切るのを止めた。仲間には、悪いと思ったがな‥‥」
 助けたい。どうすれば良いのか、とっさには思いつかなかったが、せめて、側に居る事で、何か希望を見出せれば‥‥と。そう、思っていたのだと。
「‥‥‥‥」
 レミエルは応えなかった。ただ、気を失った者達を見つめていた。そこに、かつて魔皇達によって倒された、仲間の影を見ていたのだろうか。
「‥‥魔皇と戦う意味をなくしたグレゴールに、行き場所なんて、ないのにね‥‥」
 長い沈黙の後、彼女はそう言った。そして、魔皇達に背を向け、その場を立ち去ろうとする。
「ならば、私が切ってやろう」
「きゃあっ!!」
 その直後、見知らぬ男の声がして、レミエルはばっさりと切れていた。
「レミエル!」
「ふん。魔皇と情を通じたグレゴールなど、切り捨てるのが定め」
 剣をしまったその目の前には、羽持つ天使の姿。
「貴様は‥‥!!!」
 東雲が、そう叫ぶ。一が「知っているのか?」と問うと、彼は今までの同情が敵対心に代わったような声で、こう搾り出す。
「彼女をこんな姿にした張本人だ‥‥!」
 衝撃が走った。レミエルの主。それは‥‥すなわちアークエンジェルクラスの天使だ。
「レミエルを篭絡した魔皇‥‥か」
 東雲を、そう評すザラキエル。と、彼はその口元に笑みを浮かべたまま、こう言った。
「いい事を思いついたぞ。その女、このまま殺すよりも、余興とやらをやらせた方が、面白い‥‥」
「辰巳くん! どいて!」
 そのセリフが終わるか終わらないかの内に、レミエルが残る力で東雲を突き飛ばした。
「戦え。その命尽きるまで」
「あぁぁぁ‥‥っ!」
 その彼女が悲鳴を上げる。前身に、激痛が走る。抗う事の出来ない制約と言う名のシャイニングフォースに、彼女は涙を流しながら、その膝をつく。
「お前の愛機は、そこにある‥‥」
「か、かしこまりました」
 震えながら、ハルバードを手にするレミエル。
「させるか!」
「ショーの邪魔をするものではないぞ!」
 ネフェリムに乗らせまいとしたヒシウは、そう言った天使の手刀で、地に転がされた。
「レミエル! やめろ! 俺がわからないのか!?」
「魔皇は‥‥殺す。それが‥‥私にかけられた‥‥制約」
 うつろな目。せっかく抱きかけた、魔皇と歩み寄ろうとする心が、その制約により、かき消されてしまう。残ったのは、再び蘇る赤き死の天使の姿。
「くそぉっ! どうすれば‥‥!」
「こうなったら、仕方がない。俺達も、殲騎を呼ぶぞ」
 幸いにも、今は紫の夜。殲騎を呼び出すのに、何の支障もない。
「一花」
 仲間達の何人かが、次々と愛機を呼び出す中、東雲は覚悟を決めたように、己の逢魔の名を呼んだ。
「頼む。力を貸してくれ」
「わかりました」
 呼び出される、東雲の殲騎。手を抜ける相手ではないのだ。その事は、重々承知している。たとえ‥‥救いたくとも。こうなってしまったら、全力で相手をするしかない。
 そして。
「兇爾様ッ!! やらせてはなりません!!」
 セフィリアが、御名方の側でそう叫ぶ。4機がかりの連携に、さしもの赤いネフェリムも、その装甲をはがされて行く。彼と一ノ瀬機が至近距離で忍び寄る闇を発動し、その間に東雲がレミエルの頭上へと、舞い上がる。
「東雲! 後は頼むぞッ!」
 本来、その役目は、那智神が負うはずだった。だが、彼は自分のせいで、倒された。それに対する後悔と、彼女に対する想いが、東雲にスナイピングシュートの引き金を引かせてしまう。
「敵わぬのなら‥‥、せめて‥‥俺の手で‥‥」
 真ショットオブイリミネートの銃口が、魔力で輝いて。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 ネフェリムのコクピットを、レミエルの悲鳴が貫いて行った‥‥。

●葬送曲
「レミエル‥‥!」
 その生死を確認するため、落ちた真紅の残骸に駆け寄る東雲。魔皇のパワーにものを言わせ、コクピットのカバーを強引に剥ぎ取る。操縦席で、血まみれのまま、ぐったりしていたレミエルを抱え上げ、彼は、一刻も早くその場から離す。
「やられ‥‥ちゃったね‥‥」
 震えた声は、街でデートをしていた時の、年相応の女性らしくなっていた。
「まだ‥‥死にたくなかったなー‥‥。もっとも‥‥本当なら、去年の秋終わり位に‥‥死んでるんだけど‥‥ね‥‥」
 だが、その顔色は、既に死者の物。まるで、何ヶ月も外に出歩いていない、重病人のそれに酷似している。
「ふふ‥‥。最後‥‥もう一回‥‥だけでも、遊びに行きたかったな‥‥」
 魔皇とか‥‥そんなの抜きで。と、レミエルは寂しげに笑う。直後、その口の端から、鮮血をがあふれ出た。
「レミ‥‥。気をしっかり持て。それくらいでやられるお前じゃないだろ?」
 東雲が、その手を握り締めながら、そう言った。だが、レミエルは弱々しく首を横に振る。
「無茶言わないでよー‥‥。供給源、切られちゃったもん‥‥。ギアスのせいで、体‥‥ぼろぼろだし‥‥。病人に、戦闘こなせる体力なんて‥‥」
 シャイニングフォースがなかったら、ベッドから、動けないくらいなのよ? と、そう言いたげな彼女。
「あなたは‥‥、本当は‥‥」
「九条弟。キミン家の兄キによろしくね‥‥」
 ようやく起き上がってきた九条に、レミエルは『痛い思いさせてごめんねー』と、素直に謝っている。
「あー‥‥もうタイムリミットかな。意識‥‥落ちそう‥‥」
 本当は、怖くて仕方はないのだろう。東雲が顔に当てた掌が、カタカタと小刻みに震えていた。それでも、怖いとか辛いとか、否定的な言葉だけは口にしない。それが、レミエルの強さなのだろうと、東雲は今更ながらに、思い知らされる。
「ばいばい‥‥皆‥‥」
 まるで、皆と別れて、家に帰る時のような口調で。その手から、生命が失われていく。
「レミエル‥‥ッ‥‥」
 抜け落ちた力。急速に冷えていく身体。それを抱きしめながら、東雲は彼女の名を呼ぶ。抱いた想いを、その一言にだけ込めて。
「‥‥終わったか。あんなヤツでも女を斬った後の気分ってのは‥‥嫌なもんだな。もうこれ以上の女殺しは‥‥御免だ」
 沈黙を破ったのは、御名方のセリフだった。やるせない思いを打ち消すかのように、煙草に火をつける彼の横で、一がたった一つ解けなかった謎を、東雲に問いかける。
「結局‥‥レミエルは、何を悲しんでいたんだろうな」
「グレゴールは、選択の余地は無いと聞く。彼女は‥‥その自由のなさを悲しんでいたんだろうな‥‥」
 執着の強い者の元に現れ、本人の意思とは余り関わりなく、あなたは選ばれた人間だから‥‥と、半ば強制的に洗礼を施す。気付いた時には、既に天使の策謀の中。
「付き合ってみて、よくわかったさ。見てみろ」
 東雲が、レミエルがかけていたペンダントを見せる。少し大降りのそれには、東雲と一緒にとったシール型写真が、何枚も貼り付けられていた。それに映るレミエルは、年相応の女性らしい笑顔を浮かべてる。それを見つめていた東雲は、悔しそうに言葉を紡ぐ。
「もっと、彼女の心を知るべきだった‥‥。それが、一番の解決方法だと気付いてやれなかった‥‥。俺たちの‥‥負けだな‥‥」
「今考えてみれば、彼女が秋葉原に資材を集めていたのは、バベルの塔を建設する為でも、自分が女王になるためでもなく‥‥ただ、遊び場を遊び場たらんとしたかっただけなのかもしれませんね」
 グレイスがそう言った。
「‥‥帰ろう。俺達には、まだ帰る場所があるのだから」
 応急手当をこなし、重傷者の背中で眠りこけると言う行為をやらかしている刹那を、やれやれ‥‥と言った表情で見つめながら、那智神がそう告げた。
(「レミエル。お前の想いは、確かに受け止めた。いつか、あの男を倒し、お前の愛した街を元の状態に戻すまで‥‥、俺達を見守っていてくれ‥‥」)
 東雲は遥か天空の、テンプルムを見上げ、心の中で呟く。
 その言葉に偽りはなく、数ヵ月後‥‥。密・東京支部主導による、小岩テンプルム陥落作戦が実行されたのだった‥‥。