■First Contact■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 葉月十一
オープニング
 集められた魔皇達の前で、伝の一人が泉に浸かったまま静かに告げた。
「――声が聞こえました。身を引き裂かれるような逢魔の悲痛の叫びが‥‥」
 三重県津市。
 蒼嵐の西の端に位置するその街で、今まさに一人の魔皇がグレゴールの手で追い詰められようとしていた。
「逢魔の言によれば、出会った直後にグレゴールの操るサーバントの群れに襲われたそうです。幸いなんとか振り切ったものの、途中で魔皇とはぐれてしまったようなのです」
 その間に逢魔自身、かなり手傷を負ったらしく、自ら助けに行く事は難しい。そうこうしている間に、すっかり日が暮れてしまった。残された気配を辿った結果、どうやら駅前に広がる津偕楽公園に続いているとのこと。
「その公園は木々が多く生い茂り、身を隠すには十分なのですが、そう長くもいられないでしょう。彼を追っているのは、ブルードッグと呼ばれる犬型のサーバントが十数匹とそれを統率するリーダーです。グレゴール自身は、どうやら公園には居ず、隣の県庁舎の屋上から高みの見物を決め込んでいるようです」
 どうか皆さん、彼の二人をよろしくお願いします。伝はそう言い残して、泉へと姿を消した。
シナリオ傾向 シリアス 夜間戦闘
参加PC アレキ・博士
軍部・鬼童丸
山田・ヨネ
リスカ・ラジベル
桧月・悠雪
桜・秋斗
望月・梁
葵・純
First Contact
●Midnight Calling
 駅を出た時、周囲はすっかり日が暮れていた。
 駅へと向かう人々の中、逆行して公園へと進む集団。ある意味、目立つ存在でありながら周りは特に気にした風もなく、誰一人注意を向ける者は居ない。
「成る程、すっかりヤツラの支配下という事じゃの」
 呟いたのは白衣に身を包んだ小太りな老人。
 名をアレキ・博士(w3a475)という。
「特にここはテンプルムの直下だから、用心しないとね」
 桧月・悠雪(w3c692)がクールに言い放つ。なんとか用意できた無線機を他の魔皇達に配っている。
 それを受け取った桜・秋斗(w3d279)は、もう一度今回の行動を確認する。
「まず公園に着いたら、陽動班と救出班に別れて行動します。その時、陽動班はともかく救出班はなるべく灯りを見せない方がいいでしょう。サーバントならともかく、探している少年にも警戒されますから」
 生憎と暗視スコープを借りるつもりだった友人の都合がつかず、彼自身も他の仲間と同様に小さな懐中電灯を手にしていた。
「それで少年を発見した後は――」
「アタシが待ってる博物館裏手に連れて来るんだねぇ」
 ヒョ〜ヒョッヒョと笑いながら、山田・ヨネ(w3b260)が秋斗の言葉を続ける。
「まあ、その後はとっととトンズラさ。だからアンタもアタシらを信じてここを動くんじゃないよ」
「あ‥はい‥皆さん、お‥お願いします‥」
 ヨネが視線を投げかけた先で、シャンブロウの逢魔が傷ついた身体で申し訳なさそうに頭を下げる。どことなく心細げな瞳に、博士はとても他人事とは思えないでいた。それはその場に居る誰もが思った事。
「ふむ。それで、その少年の名はなんと言うんじゃ?」
 博士の問いに、彼は小さく首を振った。よくよく聞けば、出逢った直後にサーバントに襲われ、そのままはぐれてしまった為、一切言葉をかわしていないのだという。
「ふむ‥だが、容貌ぐらいは憶えているだろう?」
 脇から軍部・鬼童丸(w3a770)に尋ねられ、彼はコクリと頷いた。
 その説明を仲間達が聞いている間、葵・純(w3e098)は作ったチラシを仲間達に配る。そこには、集合場所である公園脇の博物館までの地図が記されていた。
 更に残ったのを傍らに控える逢魔に手渡す。
「それじゃ、セリス任せたよ!」
 主の言葉に頷き、飛んでいく姿が夜の空に消えていく。
 それを見送った後。
「さて、と。それじゃあアタシらも行くとするかい」
 最年長であるヨネの言葉を合図に、彼らは公園へと足を進めた。自分達の仲間を助けるために。

●a walk in the park
 外灯のみを光源とする深夜の公園。
 そこへ一台のバイクに似た乗り物が派手に侵入する。コアヴィークル――魔皇の操る殲機のコクピット部分が独立したものだ。
 軍部・鬼童丸(w3a770)は、魔皇であるのを隠す事なくコアヴィークルを駆る。小柄な少女の外見に似合わず、その行動は大胆不敵。今も陽動の為に移動しながら、受け取ったビラを撒き散らしていく。
 案の定、姿を見せた敵。蒼い体毛の犬型のサーバントが、一匹、二匹と彼女の行く手を遮るように。
「‥現れた、か‥」
 一言呟き、彼女は素早くクロム・ブレイドを構える。
 同時に敵の一匹が躍り掛かった。
 炎を纏った刃――『魔炎剣』の一閃。そして、動きが鈍ったところを『両断剣』が止めの一撃。
 一体を倒した事で、敵の殺気を集める事に成功する。唸り声を上げながら、徐々に集まってくる狂犬達。
「片っ端から潰してやってもいいが」
 無理をするわけにもいかない。
「追ってこい!」
 一声上げて、彼女は駆ける。チラリと後ろを見て、敵が追ってくるのを確認しながら。


 公園の北西側を動き回るリスカ・ラジベル(w3c625)の前に十数体の蒼い体毛の狂犬達。
 が、彼は別段慌てた風もなく。
「雑魚が‥」
 事も無げに呟き、次の瞬間には近接していた。手にしたワイドの衝撃波で何体ものブルードッグを蹴散らす。
 無論、それぐらいで退く敵ではない。闘争本能のみの狂った獣は、構わずリスカへと飛びかかる。その動きを彼は当然読んでいて。
「所詮は獣‥‥吠えな、負け犬」
 あくまでも余裕の姿勢。
 背後からの獣も、実は気付いていたのだが敢えて手を出さず、秋斗の放った『旋風弾』に任せていた。
「リスカさん、危ないですよ」
 広場に辿り着いた彼に、リスカはヘラヘラとした笑みを返け。その態度にやれやれと、秋斗は溜息を吐いた。
「あなた方に恨みは無いのですが‥‥」
 彼の繰り出した攻撃に、ブルードッグ達は悲痛の叫びを上げた。その声を聞きつけ、更に敵が集まってくる。
 さすがにここまで多くなってくると、雑魚とはいえそれなりに力を浪費する。ちょうどそこへ、北側の探索を終えた悠雪と純が合流してきた。
「どうやらこの辺りにはいないようね」
「北の方はあらかた探しましたから、後は南の方に向かった人達に期待、ですね」
「成る程。ならば、それまでに此処の雑魚どもを片付けるとするか」
 言うが早いが、リスカの放つ『魔力弾』が獣の群を一蹴する。残った敵を、彼らは迅速に殲滅していった。

●Secret Sign
 自前で用意した警備員風の服を着込み、博士は公園警備の振りをしながら南側を徘徊していた。幸いにも一般人の姿はいない。
「むっ!」
 突如、飛びかかってきた一匹の蒼い犬。咄嗟に薙ぎ払った彼だったが、ふと目についたのは一塊りの集団。
「‥‥成る程、お主がボスということじゃな」
 十数匹の犬の集団の中、一際大きな体格を持つブルードッグ。どうやらヤツがこのサーバント達を統率しているのだろう。
 折しも公園の南区域は、県庁の真正面。いくら木々に囲まれているとはいえ、グレゴールにとっては最もサーバントを操り易い場所。そして、リーダーであるサーバントが動いていないということは。
(「この辺りに少年が隠れている可能性があるな‥」)
 ならば早急に彼らをここから動かさなければ。
 そう考えた博士は、素早く人化の術を解くと、一気に『魔力弾』を放った。傷付けられた獣達は、唸り声を上げながら博士に近付いていく。統率の取れた動きは、リーダーの支持によるものだろう。
 意識を捕らえる事に成功した彼は、そのまま一気にその場から逃亡した。
 途中。
 視線の合った相手に後を頼む、という合図を送って。


 ――再び訪れた静寂。それを待って姿を見せた人物。
「さて、孤軍の救援に向かうとしようか」
 それまで暗闇にしっかり身を潜めていた望月・梁(w3d510)は、手元の懐中電灯を用心深く翳しながら慎重に行動した。南の探索は自分一人、先程博士の陽動でサーバントがついていったとはいえ、油断は禁物だ。
 ちらりと道路側を見れば、そびえ立つのは県庁のビル。あそこにグレゴールがいるのならば、用心深くなるに越したことはない。
 梁は丹念に木々の間を探している内に、ふと奇妙に揺れる草むらに気付く。
「そこに‥いるのか?」
 声をかけるが返事はない。
 当然か。
 苦笑にも似た息を吐き、自らの魔皇核を具現化しようとした時。もう一つの気配にハッと振り向いた彼の眼には、今まさに飛びかかろうしているサーバントの姿が見えた。
「くっ!」
 素早く構えたショットオブイリミネート。常人を遙かに越える身体能力が、その反射速度を可能にした。放たれた『撃破弾』が襲いかかる敵を一瞬で撃破する。
 改めて周囲の様子を窺う。どうやら此処にいるのは一匹だったようだ。梁は後ろにいるだろう相手に向かって話しかけた。
「解っただろ、俺はおまえの味方だ。ちょっとは信用して‥出てこいよ。お前のパートナーが待ってるぜ」
 そして、ガサッという音と共に、藪の中から少年が姿を現した。怯えた雰囲気ながらも、生意気そうで勝ち気な目がこっちを見る。
「あ、あのさ‥」
「おっと、挨拶は後だ。早いところ、ここから出る方が先決だ」
 取り出した無線機で仲間に連絡し、彼は少年の手を取ってコアヴィークルの出せる場所まで出る。
 そして。
「それじゃあ、待ち合わせの場所まで行くぞ」
 言うなり、彼はマシンを使ってあっという間にその場から脱出した。

●After Work
 博物館裏手の駐車場。
 待機していたヨネは、見つかった少年の頭をしきりに掻き回していた。どうやら不安そうな顔をしていた彼を、安心させようとしているらしい。
「そんな顔するんじゃないよ。安心おし、アタシ達はアンタの連れの友達みたいなもんさ。あの子もアンタが来るのを待ってたよ」
「魔皇さま〜!」
 どうやら待ちきれなかった逢魔が、息せき切って走ってくる。その姿を見た途端、少年はビクッと体を奮わせた。
「ん? どうしたんだい?」
「い、犬は苦手なんだよ!?」
「え〜ちょっと魔皇さま〜」
「なんだい坊主、アンタ犬が苦手なのかい? ‥それなのに犬のパートナーねぇ〜」
 思わぬ展開にヨネはしきりに笑いを堪えている。追い掛ける逢魔に逃げる魔皇。そんなどたばた劇が繰り広げられていたが。
「そろそろ脱出しませんか」
 悠雪の言葉に、誰もが自らのコアヴィークルに乗る。そして各々の住処への帰路へとついた。
「やれやれ、後で肩でも揉んで貰うよ?」
 同乗させた少年に向かい、ヨネは軽くウィンクした。

「さて‥事件も終わりましたし、隠れ屋に戻った後は鳥羽水族館でも行きますか?」
 同乗する逢魔に向かって、秋斗は軽く声をかけた。驚く相手ににっこりと微笑みかけ。
「以前、行きたいと言っていたでしょう? ああ、伊勢名物の赤福も食べましょうね」
 幼い逢魔は、彼の言葉にすっかり上機嫌だ。その様子を見ながら、秋斗はますます笑みを深くしていった。

「終わったな。では帰ろうか」
 そう言った純に、逢魔が観光しようと駄々を捏ねる。
 折角の遠征。確かにこのまま帰ったのでは、すこし物足りない。
「だがここは奴らの領域だ。‥‥鈴鹿辺りでもいいか?」
 妥協案を出した彼に、彼の従者は満面の笑みで頷いた。

 殿を務めた鬼童丸は、最後に一つ。
 県庁のビルを見上げながら名乗りを上げた。
「我が名は軍部鬼童丸。この名、覚えておけ。何れ其方らを殲する鬼の名だ」
 声は、夜の闇に溶けて消えた。