■【メサイア黙示録〜終章〜】此花、咲き乱れるまでに〜《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオ |
クリエーター名 |
葉月十一 |
オープニング |
●救済、裏切、放逐――
「‥‥今、なんと?」
問い返す有馬慶悟に、大天使・メサイアは無邪気な顔のまま無慈悲に答えた。
「だからさぁ、ノブクンから連絡が来たんだよね〜自分が留守の間、テンプルムの応援を頼むってさ。ほら、空が紫に染まる日があるだろ、それがそろそろ来そうなんだってさぁ」
言葉は軽い口調で。
だが、その実、それは命令でしかなかった。
いかに今まで好き勝手やってきた慶悟とはいえ、大天使の命に逆らう事は許されない。たとえその命に裏があると思われようとも、だ。
「了解致しました。ではさっそく部下を連れてネフェリムで‥‥」
「ああ、言っておくけど。今回動かすのは五体だけだからね。一応、四日市の方も守りを固めないとマズイから。ほら、最近色々あっただろ?」
ニコリと笑む子供の姿が、今の慶悟には空恐ろしく感じられた。
「わ、わかりました」
内心の憤りを必死で隠し、彼はメサイアの前を後にした。その後ろ姿を見送りながら、大天使はチラリとあらぬ方を見た。
光の間に広がる隅――柱の影に身を潜めていた人影が二体、スッと姿を見せた。
一色花子とローズ。
本来、追われていた筈の彼女達がここにいる事を知れば、慶悟はどう動いただろうか。そんなコトを考えるだけで、メサイアは楽しくてしょうがなかった。
「さぁってと、色々と忙しくなりそうだな〜」
薄く歪む口端。
その思惑は果たして――。
●思惑、反目、先導――
‥‥連絡を受けた泉の伝・弥生は暫し考え込んだ後、すぐに魔皇達を呼び集めた。
「彼が、動きます」
天蓋を染めていく紫の夜。遠く蒼嵐の跡地で行われているそれは、ここ三重の地にも届いていた。
先の三重県内での会談。
本来なら、そのまま和平を押し進めていく筈だった。
だが。
「先程、メサイア殿から連絡を受けました。信長からの要請を受けて、彼・有馬慶悟率いるネフェリム五機が名古屋に向けて飛び立つそうです。特に断る事もなく、メサイア殿はそれを引き受け、有馬を向かわせるそうです」
そこで一旦言葉を切り、彼女は静かに目を閉じた。
そして。
「――メサイア殿は、私達にこれらを撃ち落とす事を希望しています。和平を実現するため‥‥そして、花子殿の安全を確保する為、という事ですが‥‥どうやら彼は、有馬を切り捨てるおつもりのようです」
非情な大天使の選択。今までの事情があるとはいえ、さすがに同情もしたくなってくる。
だが、彼が今までやってきた事を考えれば、この機に撃てる事は幸運かもしれない。
「愛知に入ってしまえば、向こう側から援軍が来るかも知れません。ですから、ギリギリでも長島あたりでなんとか迎え撃っていただきたいのです」
そして、もう一つ。
「先日の会談の際、どうやらこの四日市の地に幾つかの爆弾が仕掛けられたようなのです。そちらの解体も平行して要求されています。なにしろ、この爆弾を仕掛けたのは、魔皇様のようですから‥‥」
本当に信じるに足るかどうか。
メサイアの要求は、ある意味至極真っ当なモノ。魔皇の手で仕掛けたモノは、魔皇の手で解体しろ、と。
だが、おそらく。
「‥‥強硬派の魔皇様方が邪魔に入る事でしょう。ですが、これ以上一般市民を危険にさらされる訳にはいきません。爆弾はいつ爆発するのかわからないのですから」
弥生はそこまで語った後、魔皇達の目を見渡しながら一言、促した。
「皆様、どちらに行く事を希望しますか?」
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シナリオ傾向 |
殲騎戦 or 強硬派魔皇 紫の夜 |
参加PC |
彩門・和意
神流・光
鷲尾・天斗
白鐘・剣一郎
ダレン・ジスハート
百地・悠季
橘・沙槻
キラ・リヒテンバイン
桜庭・勇奈
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【メサイア黙示録〜終章〜】此花、咲き乱れるまでに〜《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》 |
●追う者、追われる者
紫の夜空に浮かぶ白い機影。
発見した途端、百地・悠季(w3e396)は逸る気持ちを押さえきれず、正面へと飛び出していた。殲騎『アルスター』――その桃色の機体が、五機のネフィリムの行く手を遮る。
「今日こそ‥‥これで終わらせるわよ」
「悠季様、とうとうこの時が参りましたね。わたくしも精一杯力を尽くしますわ」
仇討ちに燃える悠季の後ろで、逢魔・ヘラルディア(w3e396)がその背を後押すように呟いた。
彼女達に遅れる事数秒ののち、彩門・和意(w3b332)の駆使する殲騎『二重の虹』が後方に付く。そのコクピットの中で、彼は何故か笑みを浮かべていた。
「メサイアさんは、なんて優しい人なのでしょう♪」
「か、和意様?」
「鈴さん、手伝ってくれないと悪魔化しちゃいますよ?」
思わず薄ら寒さを感じる逢魔・鈴(w3b332)。
「‥‥確実になにかが間違ってますわ」
二人とも、互いに感情は最高潮だ。
「行くわよ!!」
敵が構えを取るよりも早く、悠季は速攻でネフィリムの群の中へと突っ込む。射程に入ると同時に、真衝雷撃<バッドライトニング>の閃光が大気を貫いた。他の機体が損傷を負う中、有馬の騎乗するネフィリムだけが咄嗟に張った冠頭衝<サークルブラスト>でその難を逃れた。
直後、真狼風旋<ハウンドヘイスト>で突撃する和意がいた。
その身を護るのは、真魔皇殻の盾と鈴にかけられた『祖霊の衣』のみ。ただ一点だけの特攻の為、とばかりに構えた真ドリルランスが有馬を狙う。
『有馬様!』
庇うように飛び出した別の機体。
が、急所を貫く鋭さを持った刃の前に、そのネフィリムは敢えなく射抜かれてしまった。咄嗟に駆け寄ろうとしたもう一機もまた、背後からの突風に思わず足止めされる形となる。
ハッと振り向いた先に見えたのは。
「いきなり後ろからすいませんねぇ‥‥ククク」
ダレン・ジスハート(w3e306)が駆使する殲騎『カオスワールド』。その機影に気付くより先に、魔鏡より放たれた光がネフィリムの機体を撃つ。
「まず邪魔なあなた達から始末しましょうか‥‥」
同じように真テラーウイングを装備した殲騎『ノーフォーク』を操る桜庭・勇奈(w3i287)。
彼もまた背後からネフィリムに迫る。彼が向かったのは、和意によってすでに損傷著しいネフィリムへのトドメと、そして‥‥。
「お前、なんでそんなヤツを庇うんだ?」
加納耕介が乗るネフィリムの前に、彼は静かに立ちはだかった。
●四日市探索――SIDE:B
爆弾が設置されば場所。
そのおおよその位置を示す地図を密経由で大天使メサイアから入手した魔皇達は、手分けして行動を開始した。
「‥‥なんにせよ、時間がないな。急ぐか」
生活に大きな影響を与える場所を中心に考えていたB班のうち、神流・光(w3b705)と逢魔・リース(w3b705)二人は、市内から少し離れた場所にある変電所へと向かった。
本来、その建物は一般人立ち入り禁止だ。
だが、そんな悠長なことを言っていては間に合わない。
「リース、頼む」
「はい」
主の言葉に、素早く人化を解くリース。ナイトノワールの黒い翼で、紫の夜の空へと飛翔した。
どちらんしろ仕掛けたのは自分達と同じ存在。人間達の手の届かない場所に仕掛ける事は充分考えられる。
光の視界の中、リースの姿が見えなくなった直後。
「貴様、何をしてる!」
警備員か、と思ったのも束の間、問答無用で相手が襲いかかってきた。とっさに攻撃を避け、素早く反撃の構えを取る。
「なるほど、お前らが強硬派の連中か。これ以上、馬鹿な真似はよすんだ」
「黙れ、天使どもと手を組もうとする悪魔の面汚しが!」
説得は、もはや無意味なようだ。
手加減する気も、余裕もないこの状況で、光は一気に力を解放した。真六方閃<ヘキサレイ>の光の筋が、容赦なく敵対する相手の身を貫く。
「テロは許すわけにはいかない!」
一方、鷲尾・天斗(w3d087)と逢魔・サクラ(w3d087)の二人は、密からの連絡を受けてバイクで高架付近へと移動していた。
爆弾はすぐに見つかった。
だが、いざ運ぼうとした段になって、突如現れた強硬派の魔皇によって行く手を阻まれてしまった。
「何故邪魔をする!」
睨み合う二人の魔皇を、少し離れたところでそれぞれの逢魔が心配げに見守っている。
一触即発の空気の中、ゆっくりと拳を向けて天斗は静かに告げた。
「俺は花を植えて人々に希望を与えようとしたグレゴールを知っている。彼女はあくまでも人として活動した。だが、貴様等はなんだ? 爆弾を蒔いて死を与えようとする、人の命を弄ぶだけの心まで外道に落ちた奴らだ」
「黙れ!」
繰り出された拳を右腕で受け止め、横に薙ぎ払う。バランスを崩した相手の腹に、蹴りを叩き込んでその体を吹っ飛ばした。
「俺は護り屋鷲尾天斗。人としての心を持ち、魔皇という外道の力を持って貴様等外道から牙なき人を護る剣!」
堂々と、力強く宣言する天斗。
そして、傍にいるサクラに向かってこう告げた。
「サクラ、傍にいてくれ。お前と一緒ならなんだって出来る」
そのまま戦闘に入った主の後ろ姿を、彼女は少しだけ嬉しそうに見つめる。
「‥‥ようやく闇の中で答えが見つかりましたね、先生。私は傍に居ます。決して離れたりしません!」
●四日市探索――SIDE:A
工事中で人の出入りが多いアムスクエア跡地。
その中でなるべく音を立てないように資材を動かす橘・沙槻(w3f501)。
「そっちはどうだ、キラ」
「いえ、こっちにはないわね」
沙槻の呼び掛けに、同じように捜索していたキラ・リヒテンバイン(w3h614)が首を横に振る。
「ひょっとしたらここではないのかも」
「だが、例の地図では、ここで間違いない筈だ」
半ば諦めかけた気持ちをなんとか奮い立たせ、なおも捜索を続けようとした、その時。
「――沙槻!?」
逢魔・サウスウィンド(w3f501)の悲鳴に近い声。ハッと振り向くよりも早く、彼女の体が沙槻の方に飛ばされてきた。
「おい、大丈夫か?」
「ゴメン‥‥失敗したわ」
そのまま気を失った彼女を背後に庇う。視線を向けた先には、鋭い目でこちらを睨む人影がいた。
「過激派の連中か」
「邪魔はさせん!」
一瞬、逢魔だけに周囲を警戒させていた事を後悔した。
が、今は時間が惜しい。一刻も早く爆弾の場所を突き止める為には、設置した連中に聞く方が早い。
そう考えた沙槻は、突進してくる相手に向かって素早く真幻魔影<ファントムシャドウ>を展開した。
時間にして僅かの差。一瞬動きの鈍ったところへ、キラの爪がその身を拘束しようと放たれる。
だが、ふらつきながらも相手の魔皇は、その攻撃をかろうじてかわしていた。その動きに半ば感心しつつも、沙槻は容赦ない蹴りをその腹に叩き込んだ。倒れた魔皇の首筋に、キラが真フリーズスピアの切っ先を突きつける。
「さて‥‥爆弾の場所を教えてもらいましょうか」
「だ、誰が!」
反論する魔皇の、押し付けられた箇所からうっすらと血が流れる。
「さっさと吐かないと‥‥あなた、死ぬわよ」
「手荒な真似はしたくない。だが、無用の火種や新たな争いの原因、それによって人が巻き込まれ傷付くこと‥‥どれもごめんだ」
グッと髪の毛を掴み、頭を上げさせる。そこには、サウスウィンドを傷つけられた恨みも多少混じっていたかもしれない。
「爆弾は――どこだ?」
市役所を出た白鐘・剣一郎(w3d305)手には、一旦凍結された爆弾が抱えられている。
「ここに狙いを定めて正解だったな。なにせここは、有馬が執務を行っていた場所だしな」
さきほど近鉄駅には沙槻達が向かったと連絡が入った。
襲ってきた連中の話から総合すると、後はJR方面だけだ。時間の余裕もなく、殆ど手加減出来ない状態で返り討ちしてやった奴らを思い返しつつ、彼はJR駅の方へ急いだ。
「剣一郎クン、私と飛んだ方がよくない?」
「いや、それは後に残した方がいいだろう」
逢魔・沙玖弥(w3d305)の言葉を剣一郎はやんわりと断った。彼女の『時空飛翔』は、あくまでも爆弾を投棄する為の手段。今、下手に体力を消耗させるのは、得策ではない。
そんな気遣いをしつつ、二人は駅の方へと向かった。
●慟哭の夜
「ダレン、来るぞ」
逢魔・ヨグルフォス(w3e306)の言葉に、ダレンはなんなくその攻撃をかわす。
「その程度、所詮私の敵ではありませんよ」
放たれた魔弾が、数分の狂いもなくネフィリムに着弾する。既にその機体はボロボロになりつつも、なおも有馬の乗るネフィリムを護ろうとするように、『カオスワールド』の前に立ちふさがろうとする。
「クハハハ、戦場は心地良い‥‥!」
「無駄なことを」
その意志を、彼ら二人はあっさりと切り捨てた。
一方で、勇奈は対峙する加納を相手に動揺を誘っていた。
「こんなヤツと心中する気か? こいつら、切り捨てられたんだぞ? お前もそいつらと一緒くたなのか? 戦士として誇りをもってやってきただろうに、随分情けない結末じゃないか」
『――黙れ!!』
僅かな躊躇の後、その攻撃は明らかな動揺を見せていた。
だが、その刃を引く気配はない。
「勇奈、これ以上は‥‥」
逢魔・ハリエット(w3i287)の声に、勇奈は静かに頷いた。
「ああ、わかった」
真ドリルランスが大きく彼の剣を弾く。バランスを崩したそこへダレンと、そして勇奈の真闇蜘糸<スパイダーズウェーブ>がネフィリムの機体を拘束した。
ゆっくりと切っ先が喉元を狙う。あらゆる装甲を貫くダークフォース。その力のままに一撃が加納操るネフィリムを貫通した。
「‥‥ばっかやろう‥‥」
届かない呟きを、勇奈はポツリと口にする。
その様子を遠目に見ながら、ダレンはゆっくりと振り返った。
「さて、残るは――」
視線の先で行われている戦闘に、彼は冷ややかな笑みを浮かべる。
「残念ですよ‥‥あなたとはお友達になれると思ったんですがね‥‥」
和意の操る『二重の虹』を横目に、悠季が向かった相手は秘書である岬静江が乗ったネフィリムだった。
「あれの追従者は邪魔、だから死になさいよ!」
『あの方の邪魔はさせません!』
二人の女の、強い意志のぶつかり合い。繰り出した刃の鍔迫り合いに始まり、お互い一歩も引く気はない。その動きを拘束しようとした力も、彼女が作った光の膜の前に打ち消される。
一旦、距離を置く二機。
その時、悠季の背後から放たれた『魍魎の矢』が、ネフィリムのコクピット目がけて打ち込まれた。
「鈴さん‥‥ありがと」
彼女は素早く懐へ入る。
そして、相手が構えるよりも先に、真燕貫閃<スワローピアッシング>を纏った四本の鋭い爪を同じ場所へ繰り出した。
「仇の共同責任者と一緒に地獄へ堕ちなさい」
落ちていく機体を見届けることなく、彼女は和意と合流した。些か苦戦を強いられつつある有馬相手に、その気を引くべく真魂吸邪<ライフセイザー>を何度も撃ち放つ。
「悠季さん」
援護に来た彼女の、その意図を読み取った和意は、素早くそこを後にしようとする。
「和意さん、ここはあたしが‥‥キャッ!?」
有馬機から放たれた烈光破弾<スパーキングショット>が僅かに機体を掠める。
それでも必死で逃げようとする彼女を、ネフィリムが執拗に追う。どこかムキになった彼女を追い詰めようと。
『貴様ら、全員生かして帰さん!』
――が、それらが全て彼女の演技である事を、その背後から和意の一撃が貫くまで彼は判らなかった。
驚愕の瞳で振り向く男を、悠季は嘲笑うかのように告げた。
「‥‥ざまあないわね。貴方の死地は、ここで決まりよ!」
動きの止まったネフィリムに、『アルスター』が振り被った刃が挟み込むような袈裟懸け斬りを繰り出した。
真っ二つに破壊された機体は、そのまま地上へと落下していく。その光景を見送りながら、悠季はただ泣き続けるだけだった。
●終わり
背後で大きな爆音が轟く。沙玖弥は、剣一郎のコアヴィークルに乗ったままでそれを聞いた。
「‥‥なんとか間に合ったな」
「ええ、なんとかね」
「後は、向こうの方がなんとかなれば、だな」
海上から見上げた先は、名古屋方面の空。そこで起きている戦闘を、今は伺い知る事は出来ない。後は、集まった仲間を信じるだけだ。
「どうやら大丈夫のようだな」
「ええ、すいません。足手まといになって」
意識を取り戻したサウスウィンドを、沙槻はやんわりと気遣う。
「大した怪我じゃなくてよかったわ」
心配そうに覗き込むキラに、彼女はうっすらと微笑み返した。
「じゃあ、私はこれで。またね」
そう言うと、彼はバイクに跨り、さっさとその場を後にした。
「‥‥はたして誠意を見せれただろうか」
その後ろ姿を見送りながら、これからの事を考えて彼はポツリと呟いた。
四日市駅前。
花を植える彼女の姿に、天斗は何故かホッとした。こちらに気付いたようで、笑みを浮かべたまま近付いてくる。
「元気そうだな」
「ええ、皆さんのおかげです」
後ろにいた光とリースも、以前と同じ花子の姿にどこかホッとしていた。彼女の姿勢が変わらない限り、この地では神魔はうまくやっていけるのではないか、と思えてならない。
「あのですね、今度皆さんを呼んでお茶会開きましょうね。私、とびっきりの紅茶を用意いたしますから」
サクラの提案に、花子は「ええ」と約束を交わす。
「‥‥また何かあったらここに電話してくれ。ローズとの約束もあるから力になる」
渡されたメモ。そこに書かれた連絡先を、彼女はじっと眺めた後、
「‥‥いいのですか?」
「ああ」
その言葉と共に、二人は静かに握手した。
●あるいは、始まり
‥‥ゆっくりと殲騎から降りた和意と鈴は、ネフィリムの残骸周辺を捜索した。
そして。
「‥‥っ、ぐぅ‥‥」
「ここにいましたか」
へしゃげた装甲に挟まれた有馬の体を、ファンタズマであるリリーが懸命に助け出そうとしていた。近付いてきた彼らに、リリーが必死で毒づく。
「ちょ、ちょっとぉ! なによ、あんた達!?」
「邪魔です、どいて下さい」
無造作に彼女を振り払い、和意はゆっくりと真ドリルランスの切っ先を有馬に向ける。
「鈴さん、しばらく目を閉じておいて下さい♪」
楽しそうな口調とは裏腹に、その声はあくまでも冷ややかで。
「き、貴様ぁ‥‥ッ!」
「あなたが僕を知らなくても、僕はあなたを知っています。だから死んでもらいます♪」
「止めてぇぇ〜!!」
振り下ろした刃。
それは、有馬を庇おうと飛び出したリリーの身をも貫き、彼の身体を串刺した。ビクンと一瞬だけ跳ね上がった後、霧散していく天使とともにその鼓動も弱くなり――やがて、止まった。
「‥‥ようやく落ち着きました。さあ、鈴さん、帰りましょうか」
血の付いた服を気にしながら、彼は己の従者に振り向いた。
「‥‥あなたも残酷なお方ですね、メサイアさん‥‥部下をこうも簡単に切り捨ててしまうなんて‥‥」
「別にぃ。もうあの男には興味なかったしね」
ダレンの言葉に、無邪気な子供は残酷な笑みを浮かべて答える。
ポツリ、ポツリと降り出した雨粒を気にしながら、今命を絶たれたグレゴールを決して振り返る事なく、神の使いたる大天使はその場を後にした。
やがて。
本格的に降り始めた雨は、全てを洗い流すようにその激しさを増していった――。
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