■【伊勢物語異聞】終幕 〜 その先は、知らず 〜《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオ |
クリエーター名 |
葉月十一 |
オープニング |
●決裂
「いったいどういうつもり? 勝手に動いて鏡を奪ってくるなんて。しかも感情摂取を更に促進させて」
「何を言ってやがる! 元々、そのつもりだったんじゃねえのか?」
ツクヨミの怒声を、はるかに上回る荒げた声で応じるスサノオ。
「だけど、今回の会談で」
「はっ、くだらねえ。連中がどんな提案をしてこようと、所詮ヤツラの本性は魔だ。いつ寝首をかかれるか、わかったもんじゃねえ!」
「そ、それは‥‥」
吐き捨てるようなスサノオの勢いに、ツクヨミも言い淀む。
確かに彼女自身、「声」に感化されているとはいえ、魔王達を信じているかといえば甚だ疑問だ。今はただ、人間達への被害を最優先しているに過ぎず、そのための和平交渉だ。
だが、ここで感情を大量に摂取する手段を取れば、彼らの反発を食らうのは間違いないだろう。
脳裏をよぎる原初の恐怖。
廃墟と化す大地を憂い、その危惧を懸命に訴えようとするツクヨミの言葉を彼はたやすく一蹴した。声はもう――届かないことを彼女は知る。
「そんなに嫌なのなら、貴様は大人しく見ているがいい。感情を得、より強固となったこの地から悪魔が殲滅する様をな!」
哄笑とともにスサノオは部屋を出ていく。出口で待っていた大宮司の大和武流を引き連れて。彼の目が復讐に燃えていたことを、ツクヨミはただ悲しげな眼差しで見送った。
「‥‥どうすれば」
振り向いた先。
今は眠りの内にあるマザー・アマテラスを見上げながら、彼女は苦しげに呟いた。
●取引
「よお、どうした? こんな所に呼び出すなんてな」
「‥‥もう分かってるでしょ? 先に連絡してた通りよ」
「なるほど。もう形振り構っちゃいられないってトコか」
「あんた達を信用した訳じゃない。でも、これ以上泥沼になるのだけは絶対に避けたいのよ。‥‥人間達の為にも」
「お互い根っこの所は一緒って事だな。こっちはそれで問題ないぜ」
「テンプルムの中は私が案内するわ。だから」
「了解だ。こっちも人を集めてみるさ。二手に分かれる形でいいんだな?」
「ええ。どうせ近い内に例の夜が来るんでしょ? それに合わせて内宮とテンプルム、両方に来ればいいわ」
「わかった」
それは、とある場所での密の長・八咫と大天使・ツクヨミの間で交わされた会話。
互いの利権、和平への望み。複雑に絡み合った駆け引きの結末。
そして――。
●攻防
「‥‥と、言うわけだ。今度来る紫の夜、その日に伊勢の地へ総攻勢をかけて欲しい」
八咫の言葉に魔皇達はざわついた。和平を求める道を模索している三重で何故、という顔をだ。
苦笑を浮かべつつ、彼は続けた。
「ここ、伊勢テンプルムには大天使が二人だ。そして、お互いの意見が完全に食い違ったらしい。先日、奪われてしまった『鏡』を使って、どうやら一気に感情を摂取しようと目論んでいるようだ。そうなったら‥‥もう勢いは止まらねえ。どちらかの殲滅ってトコだ」
その隣で、鞍馬少年が悔しげに唇を噛んでいる。
奪われた鏡。それを食い止められなかった自分に腹を立てているのだろう。
その様子を見ている内に、魔皇達の腹は決まった。
「内宮へ向かう連中は『鏡』の奪還、テンプルムへの攻撃は大天使・スサノオを止める事だ。どっちも危険な事には変わりないがな」
どちらに行くにしても、死地に送り出す事には変わりない。
苦渋の選択を、密である彼は魔皇達へと提言した。
「なんとか‥‥生きて還ってきてくれ」
八咫は、その大きな体で勢いよく頭を下げた。
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シナリオ傾向 |
殲騎戦 伊勢神宮 |
参加PC |
二神・麗那
メレリル・ファイザー
桐生・龍広
北条・竜美
蘭桜院・竜胆
クリス・アンドウ
御剣・彼方
小田・かおり
木月・たえ
雪切・トウヤ
アマルダ・フェイシス
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【伊勢物語異聞】終幕 〜 その先は、知らず 〜《蒼嵐紫夜・神魔乱戦》 |
●参戦
空を染める紫の中を行く五つの機影。
「久し振りの殲騎戦だから、ちょっぴり張り切っちゃうな〜♪」
その中にあって、努めて明るく振る舞おうとするメレリル・ファイザー(w3a789)。その後部座席で逢魔・モーヴィエル(w3a789)が見守るような視線を送る。
「メル、少しは周囲の警戒を‥‥」
「大丈夫。ツクヨミさんが手を回してくれてるんだから、襲ってくるのはスサノオ派のヤツラだけでしょう?」
「それはそうだけど」
楽観的な主に対し、改めて警戒を強めるモーヴィエル。
一方で、御剣・彼方(w3f759)は殲騎『焔龍』のコクピットの中で、深刻な表情を崩せずにいた。
「スサノオ派は精鋭のみ、か」
密の長である八咫からの事前情報に、彼は一抹の不安を覚える。彼らに対し、自分達はたった五機のみ。
その上、仲間の凶骨である逢魔・クロウド(w3g314)による『祖霊招来』でも、敵の位置と数は判ったものの‥‥それは危険に対する警告でしかなかった。いくらアイテムを身に着けているとはいえ、それが勝利への確証となる保証はどこにもない。
「‥‥まあ、悲観してても始まらないか。カレン、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、彼方。あたしも力を貸すから頑張って」
心配そうに後部座席を覗く彼方に、逢魔・カレン(w3f759)は元気よく答える。
と、同時に通信機から小田・かおり(w3g314)の声が届いた。
『必ずこの作戦成功させようね! 終わったら皆でパーティーでもしよう♪』
他の仲間の元にもその声は伝わり、僅かながらだが魔皇達の活力になったようだ。
飛行を続けて数分。そろそろ不可侵領域の境へと差し掛かる。
「そろそろツクヨミさんとの待ち合わせ場所なんだけど‥‥」
メレリルが周囲を見回しかけた、途端。
「おい、あれを見ろ!」
雪切・トウヤ(w3g680)の声に全員の視線が一点を向く。
そこには、追われるネフィリムと追うネフィリムという二つの機体がいた。どちらも通常のネネフィリムに比べ放つ輝きが段違いに強い。更に付け加えるならば、追うネフィリムの周囲に十数機のノーマルタイプのネフィリムが待機しているのが見える。
何が起きているのかは、一目瞭然だ。
「さて、どうする?」
「そんなの、決まってるやろ!」
トウヤの問いに、蘭桜院・竜胆(w3d484)が真テラーウィングを備えた殲騎『皇狼』で、間髪入れずに宙を駆る。
「ま、当然だな」
ほぼ同時に、トウヤも後を追う形で殲騎を走らせ、残り三体も各々の考えるままに行動を開始した。
●内宮
その歴史が始まって以来、初めての事だろう。
内宮と呼ばれる聖域が、これほどまでに騒然となったのは。
「こっちでいいのかしら?」
「ああ。喚びだした『祖霊』はそちらの方を指した」
主である二神・麗那(w3a289)の問いかけに、逢魔・ディルロード(w3a289)は確信を持って指を差す。
そのまま進もうとして、二人は思わず足を止める。群れるサラマンダーが敵意を剥き出しにして向かって来たからだ。
「任せろ!」
脇から飛び出したのは、桐生・龍広(w3b275)。先陣を切った彼の真ショルダーキャノンの砲撃が、群の中心に叩き込まれる。
その一撃は、着弾と同時に周囲へ炸裂した。ほぼ同時に、麗那の放った真闇影圧<シャドウグラビティ>がサラマンダー達を衰弱させていく。そして、彼女が真衝雷撃<バッドライトニング>を放つより早く、龍広の掲げる真グレートザンバーが神速でもって、彼らの活動を停止させた。
「さすがね」
「‥‥まあな。それにしても‥‥遂に内宮突入か‥‥」
麗那の言葉に、龍広は感慨深げに呟く。そのまま彼は、背後を守ろうとする逢魔・可那(w3b275)を振り返った。
「わたくしでも、多少は戦えますわ」
「ああ」
本心から言えば、戦いに巻き込みたくない。
だが、それでは彼女が納得しないだろう。だからこそここまで同行させたのだが。
その時、不意に大気が揺れた。
「上だ!」
後方からの声。
同時に発射されたフォビドゥンガンナーの一撃が、空中から近付こうとしたワイバーンの翼を撃ち落とした。そのまま麗那と龍広の真グレートザンバーの刃が、彼のサーバントにトドメを刺す。
「まったく、油断しないでよね」
子供っぽい口調でクリス・アンドウ(w3e363)が呟けば、年上である彼らは苦笑するだけだ。
「助かったぜ」
(「そうだ、今は余裕なんかないんだ」)
龍広は余計な事を考えた自分を諫め、改めて今回の目的を意識した。
「とにかく鏡はこっちの方でいいんだよな?」
「ああ。『祖霊』が示したのはこの先――」
指を差そうとしたディルロードの、言葉が途切れる。
刹那、光が宙を埋め尽くした。技の名を認識する間もなく、彼の体が衝撃に崩れ落ちる。魔皇達が身構えた先に、眩い光を携えた大和武流が、復讐の眼差しを持って彼らを睨んでいた。
「アミレント、急げ!」
「はい」
主の言葉に、逢魔・アミレント(w3e363)が『癒しの歌声』をディルロードへ施す。その二人を庇う形で前に出る麗那。その身は『祖霊の衣』を纏っている。
「よくも、やってくれたわね」
従者である逢魔を傷つけられ、麗那は少なからず怒りに燃える。
真テラーウィングの突風にもビクともしない相手を見据え、彼女はただそれだけを口にした。相手の反応はない。彼もまた、ただこちらを睨み付けるだけ。
怒り。
それだけが今の彼から伝わってくる。その怒りは、聖域を侵された宮司としてか、それとも愛する者を殺された感情なのか。
「‥‥お前のそうした直情の性格、俺は嫌いじゃないけどな。だがな、神器の鏡は一つで充分だろ? 返させてもらうぜ」
目配せした合図を、クリスは正確に読み取った。この場を二人の魔皇に任せ、彼は鏡の元へ向かうべく姿を消した。
彼を追おうとした武流の視線を、龍広の差し出した刃が遮る。
「――お前の相手は、ここだろう?」
‥‥その血がざわめくと同時に、本能が二人の魔皇を突き動かした。
●激突
真テラーウィングの機動力を用いて一気に敵のど真ん中に突っ込んだ竜胆は、敵機が群がるよりも先に真衝雷撃を放った。殲滅までいかずとも、戦力が削れれば上等だ。
「竜胆、傷は?」
「いらんわ。ダークフォースで回復出来るんやし。他の仲間に使おてや」
心配そうに聞いた逢魔・菖蒲(w3d484)の言葉を、彼はそっけなく返す。
ネフィリムの破片が飛び散る中、真ディフレクトウォールを構えたメレリルの殲騎『ポゥ』がツクヨミの操るネフィリムへ近付く。
「ツクヨミさん、大丈夫?」
『‥‥あ、あなた方』
『フッ、裏切り者を助けにのこのこ現れたか、魔皇ども!』
突如飛び込んだ悪意ある声。
スサノオ、と叫ぶツクヨミを無視し、構えた刀を容赦なく振り下ろした。ネフィリムを庇う殲騎もろともに。
「きゃぁっ!?」
受け止めたものの、二つの機体はその勢いに弾き飛ばされる。
「なんやこいつ!」
真サルベイジクローを放とうとした竜胆も、烈光破弾<スパーキングショット>の前に思わず視界を焼かれた。
「‥‥単機で挑むからだ」
呟くトウヤは、真蛇縛呪<スネークバインド>で身動き出来ない目の前のネフィリムを一撃の下に斬り捨てた。揺らめく炎を纏う刃がそれを可能にする。
彼の言うとおり、対峙しているのは仮にも大天使――伊勢テンプルムを統括するコマンダーの一人なのだ。単身で挑んで歯が立つ相手ではない。仲間と連携してこそ正気が見出せるというものだ。
だが、事前の打ち合わせでは軽い指針を示しただけで、具体的な事は何一つ話せていない。
後衛では、彼方の殲騎『焔龍』とかおりの殲騎『ダークネスキーパー』が真ショルダーキャノンからの砲撃を続けている。カレンの放った『忍び寄る闇』がネフィリムの動きを牽制したおかげで、辛うじてダメージを与えられているというのが現状だ。
「お前達に伊賀の惨劇を繰り返させるわけにはいかない!!」
「クロウド、力を貸してねv」
真狼風旋<ハウンドヘイスト>をかけた二人。
その動きに翻弄され、ネフィリム群が困惑し始めた、その時――スサノオの駆るネフィリムが一気に聖なる力場を展開した。
聖光翼陣<メガフレアケージ>――直径100メートルの球状の力場で、魔皇はその力を半減させる。
竜胆の繰り出した鋭い爪も、寸前でかわされて逆に薙ぎ払われ。
トウヤの振り下ろした刃も、烈光破弾の前に相打ちとなった。
「じゃあ、これならどうよ!」
ふらつく機体でなおも前に出ようとするメレリル。菖蒲の歌声で多少癒されたとはいえ、まだ回復が完全ではない。
それでも彼女は、『ポゥ』を駆使してダークフォースを全力で放つ。
六方からの光の集約――だがそれは、スサノオを守ろうと数体の残されたネフィリムによって、辛くも阻まれてしまった。
「そんな‥‥」
攻撃の後の僅かな隙。
それを見逃す事なく閃神輝掌<スパーキングフィンガー>を纏った剣が、その機体をモーヴィエルがかけた『獣の鎧』ごとざっくりと斬り捨てた。
『――所詮、神の使いに敵うわけがない!』
それは、絶望の瞬間。
スサノオの笑い声が、いつまでもこだましていく。
●天照
闇の間。
一切の光が射さぬ場所。
「本当にこんなところにあるのかしら?」
「さあねぇ。でも、聞いた場所はここなんだろ?」
その場所を前にした木月・たえ(w3g648)の言葉に、北条・竜美(w3c607)は気のない返事で答えた。
助っ人に頼まれて来たはいいが、なんとも心許ない人数だ。
(「まあいいさ。どうせ死線は何度も潜ってきたんだ」)
「どうだ? 怪しい奴らはいるって?」
隣にいる逢魔・骸牙(w3c607)に尋ねれば、彼女はスッと指を更に奥へ差す。
「この向こうに捜し物があるようです。そして、同時に危険も」
「そうね、わたしの感覚でもかなりきてるわ」
ニードルアンテナで鋭敏になった感覚が、この先を危険と告げる。
だが、躊躇う時間はない。人数の少ない分、電撃戦で相手の対応スピードより速めにいかなくては。
「待て!」
「そこから先、行かせはせん!!」
突如踏み込んできた、神服姿の男達――グレゴールとなった彼らは、問答無用で彼女たちに襲いかかる。
「人という名の羊を飼い慣らす羊飼いども。ついでに盗人か。反省しないなら、礼儀を教えて修正してやるよ」
構えた真クロムブレードを振り翳す。
直後、たえの仕掛けた真幻魔影<ファントムシャドウ>が周囲を一気に白い霧で包み込む。幻覚に溺れる彼らを、竜美は真狼風旋で手にした神速をもって切り倒した。
「よ、せ‥‥そこを開ける、な‥‥」
事切れる寸前。僅かな言葉が耳に届くも、急ぐ彼女達には関係なく。
「さあて、さっさと片付けるよ」
扉を破るべく、その刃に纏うダークフォース。元々、鏡を二つに割るつもりで来ていたからちょうどいい、と思ったのか。たえもそれを止める事なく――彼女も鏡を潰す事を考えていて。
「――あ、ちょっと待って!」
遅れて辿り着いたクリスの言葉よりも早く、放たれた『力』が扉を破り、そして――奥に鎮座していた鏡に届いた。
直後。
「たえさん!!」
逢魔・れぅ(w3g648)が気付いて主を庇おうとして。
――凄まじい熱閃が、その場を一気に火の海に変えた。
●封印
「貴方の恋人を奪ったのは、この私。復讐するなら、私の方からじゃない?」
後方に控えていたアマルダ・フェイシス(w3i347)は、デアボリングコレダーを装備した腕を見せてこう告げた。
「彼女、耶麻緋美子さんの命を奪った技、それで貴方の戦いにも幕を降ろしてあげるわ」
「よせ、アマルダ!」
仕掛けようとした彼女より早く、それまで何度も斬り結んできた龍広が制止の声を上げる。
だが、それすら無視して放たれたワイズマンクロックを、武流は白羽陣衝<サークルスプラッシュ>で平然と受け止めた。巻き散る羽毛があらゆる攻撃を一切無効にしていく。そして、背後に回ろうとした彼女を、目眩ましされることなく一刀の元に斬り捨てた。
武流の意識が一瞬自分から逸れた事を、龍広は見逃さない。
仲間も心配だが、この好機を逃せばおそらくチャンスは二度とないと判断し、彼は一気に駆けた。真ワイルドファングを付けたまま、真獣牙突を繰り出して――それは正に獣のように。
ほぼ同時に、麗那の何度目かの真闇影圧が、動きを止めた武流を襲う。
そして。
互いに傷だらけのまま、彼らはその場に踞る。もはや戦意はなく‥‥あるのはなんとも言えない寂寥感だけ。
その直後。
轟音と同時に奥の院の方で火の手が上がった。その場の誰もがハッと立ち上がり、その方向を見る。
何が起きたのか分からない魔皇達に対し、グレゴールであり大宮司である武流には、およその想像は出来ているようだ。特に慌てる様子もなく、傷付いた体を引きずっていく。
「お、おい! いったい何が‥‥」
「お前らの誰かが、不用意に鏡を晒したのさ。あるいは『力』を与えたんだ」
「どういう‥‥」
ことだ、と尋ねようとした龍広の言葉を遮り、武流はただ強い視線で魔皇達を見た。
「いいか、今は見逃してやる。だが、次に目の前に現れたら‥‥その時は容赦はしねえ」
それだけを言い残し、彼はそのまま燃え盛る社の方へと歩いていった。
その後ろ姿を見送った後、魔皇達もその場を急いで撤退した。
●月影
誰もが敗北を感じ取っていた、その時。
「な、なにぃ?!」
いきなりの大音響。
同時に天を貫く赤い光。
伊勢神宮の奥から放たれたそれは、奇しくも今にもトドメを刺そうとしていたスサノオが駆るネフィリムを僅かに掠めた。ただそれだけにも関わらず、機体の損傷は彼を驚かせるのに充分すぎるものだった。
そして、上がる火の手。
「一体何が?!」
彼方の声に答える者は誰もいない。
「貴様等、いったい何をした!」
スサノオの言葉も、ただ無情に鳴り響く。
だが、その合間に形勢は、いつの間にか逆転していた。気が付けば、周囲を囲むようにして数十のネフィリムがやって来ていた。それらを指揮するのは、もう一人の大天使ツクヨミ。
「‥‥マザー・アマテラスも、あなたに賛同しかねるようよ。これだけのネフィリムを私の側に用意してくれたわ」
傷付きつつも、戦意を失わない殲騎。そして数十のネフィリム。
それらを前にして、スサノオはようやく刃を収めようとした。
だが。
「魔皇と手を組もうとする貴様が、どこまでこの地を収められるものか‥‥見物だな」
それだけを言い残し、彼はそのまま何処へと消えていった。彼に追従する数体のネフィリムを連れて。
「これで、よかったのかな」
決死の状況の中、なんとか死者が出なかった事にかおりはホッとする。ツクヨミの立場を気にしていたメレリルも、重傷ながらなんとか生きていたようだ。
そうして総ては、ひとまずの幕を閉じた。
――後日。
発生した火の手の中、本物の鏡はいつの間にか姿を消し、その行方は杳として知れなかった。
再びそれは、歴史の闇に埋もれていったのかもしれない。
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