■函館神殿威力偵察――函館■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 三浦SAN昌弥
オープニング
 函館市
 北海道南西部、渡島半島の南端にある都市である。北海道第3の人口をもつ道南の中心都市で、渡島支庁所在地でもある。市街地は津軽海峡に面する陸繋島(りくけいとう)にできた砂州上に発達し、1922年市制施行。面積は346.90平方キロメートルで、人口は約29万人。
 中世から昆布の交易港であった函館は、江戸時代には松前藩の役所や幕府の奉行所がおかれ、北海道の首都的役割をになってきた。1854年に日米和親条約によって下田とともに薪と水の供給港になり、59年には日米修好通商条約によって貿易港として開港する。
 これにより外国の文物がはいっていちはやく文明開化をむかえ、昭和初期までは東北地方および北海道で最大の都市だった。1869年函館と改称。99年に自治制の函館区となり、1922年に函館市となった。第2次世界大戦前はたびたび大火にみまわれ、函館大火では市街地の大部分が焼失した。
 現在は見違えるほど復興し、夜景で有名な観光地として知られている。

    *

「函館テンプルムが戦闘準備を始めています」
 逢魔の『伝』が言った。
「函館は今まで、あまり要衝としての重要性はありませんでした。しかし我々が悉くテンプルムを落とした結果、彼らが最前線に立つことになった模様です。問題はここからです」
 伝が、言葉を切る。
「札幌に『楽園』という神輝装置があるのに、なぜか札幌は動こうとはしません。フィリポがいまさら臆するとも思えません。何かがあるのではないかと思います」
「つまり――」
 魔皇の一人が言った。
「俺たちは函館を突っついて、札幌の出方を伺おうってのか」
「ありていに言えばそうです」
 伝が言った。
「いつもの威力偵察とは違い、今回は後背を遮断される可能性もあります。札幌が動くことは、そのまま魔皇様たちの壊滅につながりかねません。本当はこんな依頼をしたくは無いのですが……」
 伝が、昏く表情に陰りをみせた。
「まあ、任せろ。やってやる」
 魔皇が、力強く言った。
シナリオ傾向 威力偵察・絶対不可侵領域・夜景とイカの街函館・殲騎使用不可
参加PC ゼスター・ヴァルログ
ジェフト・イルクマー
リョウ・アスカ
真田・一
タクマ・リュウサキ
天宮・要
エルスフィア・五月雨
火宮・ケンジ
加藤・琴
神薙・碧
函館神殿威力偵察――函館
函館神殿威力偵察――函館


●函館神殿
 函館テンプルムは、ノーマルクラスのテンプルムではほぼ順当な成長進化を遂げているテンプルムである。外見は中央の城に8枚の羽根を下向きの三角錐状に組んだ外見で、その基本構想は効率良く広範囲の感情エネルギーを吸収することにある。
 この神帝軍では、過去に開発された神殿戦闘装備『CDC』『聖鍾』『楽園』といったものの存在は認められなかった。ただ江別テンプルムによる雪花奇襲の件もあり、特にCDCに対しては強く警戒がされていたが、函館テンプルムにはその兆候は見て取れなかった。
 しかし油断はならない。函館テンプルムは夜陰に乗じて旭川近郊の神楽山へと足を伸ばし、そこに無傷で残っていた『聖鍾』を確保・奪取しようとしていたのだ。これは明らかな戦闘準備であり、函館神殿に動きがあることの証左となった。
 ただこの神帝軍の目論見は、旭川の状況不穏とそれを警戒した魔皇たち、そして旭川自衛隊の働きによって打ち砕かれている。それどころか手痛いしっぺ返しを食らい、函館神殿は本体に大穴をあけて帰ってきた。
 エレベーターチューブの数は3本。いずれも厳重な警戒が成されている。

●作戦会議
「神殿の偵察は、二つの班で行う。陽動班と、潜入班だ」
 魔皇・ゼスター・ヴァルログ(w3c305)が言った。その側には彼の逢魔・ソフィア(w3c305)居る。
 ゼスターの提示した班分けは次のとおり。

【陽動班】
 魔皇・ゼスター・ヴァルログと逢魔・ナイトノワールのソフィア。
 魔皇・タクマ・リュウサキ(w3e982)と逢魔・セイレーンのセシリア(w3e982)。
 魔皇・天宮・要(w3g157)と逢魔・凶骨のラウディ(w3g157)。
 魔皇・火宮・ケンジ(w3h739)と逢魔・ナイトノワールの透華(w3h739)。
 魔皇・加藤・琴(w3h831)。
 魔皇・神薙・碧(w3i216)と逢魔・凶骨のミリフィヲ(w3i216)。

【潜入班】
 魔皇・ジェフト・イルクマー(w3c686)と逢魔・ナイトノワールのセラティス(w3c686)。
 魔皇・リョウ・アスカ(w3e053)とナイトノワールのソフィーティア(w3e053)。
 魔皇・真田・一(w3e178)と逢魔・ナイトノワールのシェリル(w3e178)。
 魔皇・エルスフィア・五月雨(w3g753)と逢魔・レプリカントのアメジスト(w3g753)。

 以上18名。希望を取り作戦を練った上での配置だ。
「『密』の報告によると、目標はかなりのダメージを受けているらしい。そのせいか警戒も厳重だ。潜入班の脱出路としてはその破口も選択肢に入ると思うが、潜入班は出来るだけ穏便に脱出してくれ。我々の目的は戦闘ではない。あくまで偵察だ。乱暴なやり方ではあるがな」
 そこで、ゼスターはにやりと笑った。
「敵は先日の『聖鍾』奪取作戦の失敗でピリピリしているだろう。札幌を動かす条件としては十分な状態だ。これで札幌が動かなかったら……」
「札幌は、『動けない』というわけだな」
 ジェフトが、遮るように口を挟んだ。
「そういうことになる。それはきっと、『楽園』の弱点に直結しているに違いあるまい」
 一同に、緊張した雰囲気が走った。神輝装置『楽園』は、現在の魔皇勢力にとってはまさに難攻不落のシステムである。それに弱点があるのならば、暴き立てなければならない。
 だが逆に、函館神殿の救援に札幌神殿が動くようなことがあれば、それはこのメンバー全員の死を意味する。後背を『楽園』に遮断されれば、このチームは函館と札幌の間に挟まれ、圧倒的な物量の前に横死することになるだろう。はっきり言って、笑えない。
「やりましょう」
 リョウが言った。
「結局我々は、前に進むしかないんです。たとえ敵が『楽園』であろうが『神帝』であろうが、叩くしか選択肢はありません。敵を、叩く。事はシンプルです」
 逢魔のソフィーティアが、気遣うようにリョウによりそう。
「でも無駄死にはヤだな……」
 魔皇・天宮・要が言う。
「札幌が動いたら、みんな死んじゃうの? そんなのヤだよ……」
 双子の片割れがいないためか、要はいまいちノリが良くない。過酷な任務は実際のところ、要の心にプレッシャーを与えていた。直感的に事態のヤバさを感じ取っているのだ。
 生か死か。結局、それしか無い。
「エルスフィアは、死ぬのは嫌……」
「大丈夫。魔皇様はわたしが守ります」
 魔皇・エルスフィア・五月雨と逢魔・レプリカントのアメジストのやりとりである。
 このところ、戦いが激化しているせいか、神帝軍と魔皇軍双方にかなりの犠牲者が出ている。実際問題、この作戦も『藪をつついて蛇を出す』結果になりかねない。誰もが『命冥加な奴』というわけではないのだ。
「四の五の言ってねぇで、やろうぜ! それが散っていった戦友に対する供養ってもんだ!」
 火宮・ケンジが、こぶしを握りながら言った。そうなのだ。四の五の言わずやるしかない。戦力評価を誤れば、旭川にいる『雪花』の住人達は殲滅される。大丈夫と、信じるしか無かった。
 魔皇たちが、一人、また一人と立ち上がる。
 胆(はら)は、決まった。

●襲撃
 翌日、払暁。
「さて、何人食いついてくるか……」
 魔皇・ゼスター・ヴァルログが、つぶやくように言った。函館市内をコアヴィークルで走り回り、思う所でワイズマンクロックを激発させる。侵攻戦力を多く見せるためだ。一般人には申し訳ないが、背に腹は変えられない。彼の逢魔・ソフィアは渡島の中ほどで札幌の偵察を行っている。
 やがて、神殿の各所からサーバントとネフィリム、そしてグレゴールが出てきた。対応は早い。
「急造の前線基地ならばそれ程兵の練度も高くはないとは思うが……少々相手をしてみるか」
 ゼスターはそうつぶやくと、ヴィークルを敵戦列に飛び込ませた。
 一方こちらは魔皇・タクマ・リュウサキ。真テラーウイングをはためかせて神殿外周に取り付き、真ドラゴンヘッドスマッシャーで下層の羽根部分を狙う。そこは発泡スチロールのようなもろさで、印象としてはCDCのような感じがした。
「CDCか……? ならば、このテンプルムは『隠れ家』攻略用なのか?」
 血中の白血球のように殺到するサーバントをいなしながら、タクマは思った。このテンプルムは、あるいは江別テンプルムのサブプラン用なのかもしれない。
『魔皇様、お怪我は?』
 彼の逢魔・セシリアが無線で問う。彼女は市街に控えて、負傷者の救出の準備をしていた。
「大丈夫だ。すぐ戻る」
『お待ちしています』
 無線が切れた。
 魔皇・天宮・要と逢魔・ラウディは、市街で派手に戦っていた。真マルチプルミサイルと真パルスマシンガンを撃ち放ち、敵を寄せ付けない。死兵であるサーバントの屍ばかりが築かれてゆく。
「魔皇様、今日は勝つよ!」
「もちろん!」
 天使の笑顔を浮かべて、要が言った。
「ここで死ぬ訳にはいかない……もう独り身じゃ無いんだからな」
『魔皇様、それはノロケですわ』
 魔皇・火宮・ケンジと逢魔・透華のやりとりである。透華は札幌の隣の都市小樽に陣取り、札幌神殿の動向を探っている。
「札幌に動きはあるか?」
 ケンジの問いに透華は『否』と答えた。
『テレビで魔皇様たちのご活躍は中継されていますが……神殿の方には動きがありません』
 札幌は動かない。その情報は魔皇達の意気を上昇させた。札幌には動けない理由がある。それが判明すれば、『楽園』も攻略可能かもしれない。
「うわわわ、逃げるモン!」
 魔皇・加藤・琴はネフィリムに追い回されていた。『安全第一』が今回の作戦の基本方針だったが、敵の布陣の厚い場所に突っ込んでしまいにっちもさっちもいかなくなってしまったのである。予定外であった。だがそのおかげでずいぶん多くの敵をひきつけたことには違いない。たいした貢献度である。
「何か有ったの?いつもの碧クンの戦い方と違うし、それに何だかイライラしてるみたいに見えるよ?」
「苛立ちもしますよ、SMGに爆弾と言う嫌いな武器一位二位を使っているんですから。知っているでしょう? 関係のない者まで傷つけてしまいかねない流れ弾を、私が嫌っている事は」
「だったら使わなければいいのに」
「今回はこの装備が有効だと判断したんですよ、もしかしたらこの作戦を成功させればエデンの攻略法が分かるかも知れないでしょう? そうすれば悪魔化の必要は無くなるし、何より札幌の市民が生気を吸われる事も無くて済む。その為なら嫌いな魔皇殻だって使いますよ。魔皇が悪魔化して死んでいくのは勝手にすればいい、だけどそれに一般市民を巻き込むのだけは認めたくないんです」
 せわしく外周部で戦いながら、魔皇・神薙・碧と逢魔・ミリフィヲは言い合っていた。
 思うところはそれぞれあるだろうが、現実の戦いは甘く無い。デアボライズもデアボリカも、必要となれば使わざるをえまい。それが、どのような結果になるかは、当事者たちにしか決められないのだから。
「必殺! ファン・バイユ!!」
 魔皇・リョウ・アスカが奮迅していた。ダークフォースを組み合わせた攻撃で、敵をなで斬りにする。
「さあ、次はどいつだ!」
 意気軒昂。いい調子であった。

●潜入
「今回の威力偵察は今までと訳が違うか……背後にエデンがあるんだからな」
 魔皇・ジェフト・イルクマーと逢魔・セラティスは、騒ぎにまぎれての潜入に成功していた。一緒に魔皇・真田・一も居る。一の逢魔・シェリルは、外部で陽動を行っているはずである。
「20分後に合流して脱出だ」
「オーケィ」
 ジェフトの言葉に、一が応じる。ジェフトは上層へ、一は下層へと進路を取った。
 ジェフトたちは、神殿の伽藍にたどりついた。そこには戦闘装備のネフィリムが数多く駐機されていた。ざっと50体。予備兵力なのか、今は使う者がいない。後で外に居た者から聞いた情報を総合すると、ネフィリムはこれも含めて160騎ぐらいはありそうであった。
「うへ、こりゃすげぇ」
 下層に行った真田は、こんどは待機しているサーバントの群れを見つけた。数は、多いとしか表現できない。5000ぐらい居るのではないだろうか? まだ命令は受けていないらしい。彫像のようにたたずむ異形の軍団。それが動き出すとき、数の暴力という旋風が吹き荒れる。ドラゴンクラスも多数おり、自衛隊の援護があっても苦戦が予想された。
 心構えが出来るぶんだけ、ましだろうと真田は思いなおし、探索を続けた。

●撤退
「……連絡……来た……」
 魔皇・エルスフィア・五月雨が、インカムに手を添えながらぽつりと言った。逢魔・アメジストはその意図を汲んで、全周波に向かって叫んだ。
「作戦終了です! 皆さん、撤退を!」
 どかん!
 テンプルムの中腹の壁が、内部から破裂した。予定ではジェフトと一が脱出にかかっているはずである。多少派手だが、まあいいだろう。
 しつこいサーバントの追撃を受けながら、魔皇達は函館を脱出した。相変わらず、神帝軍は不可侵領域から出ようとしない。殲騎の強さを知っているからだ。
 作戦の成果は、上々だった。函館テンプルムの大まかな内部図解と敵の秘匿戦力。そして『何も仕掛けが無い』こと。敵は、正攻法で攻めてくると思われる。あとは札幌の動向しだいだ。
「札幌は、結局動かなかったか……」
 ジェフトが言う。これである程度はっきりした。札幌はおそらく、『動けない』のだ。理由は、これから調べればいいだろう。

 戦果を手に、一同は帰還した。次の戦いが迫っていた。

【おわり】