■五月のサクラ■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 小沢田コミアキ
オープニング
同窓会のお誘い

 こんにちわ。皆、元気してる? 大学に通い出してもうじき二ヶ月が経とうとしています。入学したての頃は初めてのことばかりで僕も大変だったけど、GWも終わってようやくいろいろと落ち着いたところだよv 今はめいいっぱいキャンパスライフを楽しんでますvv 受験で一緒に頑張った皆は今頃どうしてるのかなぁ? サークルはもう決まった? やっぱりレポートとかも忙しいのかな? あの時の皆も無事に合格できてそれぞれに大学生になったんだね。泊り込みで佐賀までセンター受験に行ったことや、前期で不合格だったキャロルさん達の勉強合宿したのが懐かしいよー。あと、合格おめでとうパーティーも楽しかったよねv
 それで、今度皆で集まって同窓会がやりたいなって思ったんだ。もし良かったら、忙しいかもしれないけど、ぜひ参加してみて下さい。また皆で楽しくおしゃべり出来たらいいな。お互いに大学の話をするのもいいねv 皆の参加を待ってます。


「なになに、同窓会?」
 今朝方に届いていた封筒を開くと、そこには『同窓会のお誘い』の文字。文面を追う彼女の表情が徐々に明るくなって行く。 読み終えて便箋を畳んで封筒へ仕舞い直すと、浮かんで来るのは懐かしい顔のこと。
「いろいろ大変だったケド‥‥そっかぁ、皆も今頃は大学生してるんだよねー」
 ふと窓の外へ目を移すと、そこには一本の桜の樹が。五月の半ばではもうすっかり花は散ってしまっているけれど、さんさんとお日様を浴びて青葉が目に眩しい。もうすっかり葉桜の季節だ。
「同窓会かぁ、ボクも行ってみたいなー」
 花の桜は綺麗だけれど、どこか夢の中の風景みたいでとっても儚い。もうじき思春期を過ぎて皆どんどん大人へとなって行く。春から夏へ、花の季節は終わっても、夏の日の光を浴びた幹はたくましくて、これから青々とした若葉を茂らせるんだ。あの頃のサクラは散ったけど、やがて来る夏に向かってスクスクと伸びてけ、五月のサクラ。
シナリオ傾向 同窓会、受験
参加PC 橘・朔耶
海風・怜亜
キリカ・アサナギ
中島・栄
結城・心時
木野崎・冥皇
十六夜・さとり
赤霧・連
コウエイ・ハヤカワ
木野崎・千影
五月のサクラ
 海風・怜亜(w3b611)の呼びかけで持ち上がった同窓会。講師陣にも都合をつけてもらい土・日の二日間で行われることになった。そして会を前日に控えた金曜、生徒だけで集まってのパジャマパーティーがキリカ・アサナギ(w3b902)のマンションで始まっていた。
 各地に散らばっていた仲間たちも続々と集まり、夕方には木野崎・冥皇(w3d497)と木野崎・千影(w3j086)の兄妹や長野での依頼を終えて駆けつけた橘・朔耶(w3b248)、そしてキャロルも到着した。
「今までで一番素敵な思い出をこの同窓会で作るんだ♪」
 怜亜は勿論のこと褌での参加。
「記念にね、この褌に皆の寄せ書きをしてもらうのだ♪」
「脱線上等ね。はっちゃけまくりましょう。翌日に差し支えの無い程度でね」
 浮かれ気味の十六夜・さとり(w3e889)がペンを取り端っこに名前を書くとノリでキリカもそれに続く。とそこへ。
「遅くなりました!」
 部活帰りの直行で赤霧・連(w3g631)が合流するとようやく全員が揃ったようだ。
「あー、ちょうどいいぞ。今夕飯ができたとこだ」
 前回に引き続き食事担当の朔耶が料理を運んでくると、ベランダで煙草をふかしていた結城・心時(w3c683)が真っ先にテーブルに着いた。皆で食卓を囲んでいると、話題は自然と学校生活のことになる。順風満帆の高校生活を送っている千影はVサインでテニス部に所属したことを報告した。
「カンニング全身凶器、内職的不正行為の小宇宙の異名は伊達じゃない、これからも多分健在だ」
 東大合格まで達成した心時のカンニング術はいまだ衰えを見せていない様子。だが肝心の講義にはちゃんと出席しているのかと皆が疑惑の眼差しを向ける。
「ギガテンプルムが落ちた騒ぎのおかげで未だに一回も学校行ってないなんて誰が言うか!」
 言っちゃった。
「俺は、まあまあってとこかな。文学部と弓道部を掛け持ちしてるよ」
 冥皇はというと、ナンパをしたいのに女顔のため、何故か男ばかりから言い寄ってこられて困るというのがお悩みのよう。皆、新しい環境への驚きや戸惑いを語り合っていつしか夜は更ける。
「キリカ姉さま、明日も早いしそろそろ休みましょうにゃ」
 いつの間にかネコミミ着用の千影はキリカから語尾「にゃ」を義務付けられつ、キリカ姉さまの言いつけということでけなげに守っている。悪ノリした朔耶も男子の見守る中で千影の胸やお尻へと手を伸ばしたりしてちょっとアブナイことにもなってみたり。当然ながら、ご多分に漏れず連もしっかりキリカの魔手に堕ちている。千影に同じくネコミミ姿で相変わらず皆にいじめられっ子の連、愛されているということなのかな?と内心でちょっと嬉しそうな様子ではあるが、これは遊ばれてるだけかもしれません。(チーン)
「木野崎様、連さん、お揃いですね」
 キャロルはというとネコミミの二人と一緒と言うことでちょっと嬉しそうだったけれど。とまあそんな風に初日の夜は過ぎて行った。途中、怜亜の覗き作戦が発動して女性陣に返り討ちにあったりとかしつつも皆シャワーを済ませ、就寝。勿論、寝る前は壮絶なクッション投げ大会。
「ふっ‥枕投げで俺に勝てると思っているのか?」
 ここぞと張り切った心時にやはり褌で参戦した怜亜、さとり達もおおはしゃぎで迎え撃ち、キリカ宅は最後まで賑やかな夜だったようだ。お目付け役の先生不在ということで存分に羽根を伸ばして初日のパジャマパーティーはこうして終了した。

 翌朝。
「ほら、起きて下さい」
 千影が皆を起こして回る。冥皇は低血圧気味で意外に無口だ。
「みなさん、お久しぶりですね」
「元気にしてたかしら、みなさん‥‥」
 十時を回った頃合になってコウエイ・ハヤカワ(w3i081)と逢魔・ソウキ(w3i081)が部屋を訪れる。講師陣も合流して、最初に向かうのは神月・降魔の墓参り。墓前に手向ける桜は逢魔・アルシオン(w3e889)が苦労して遅咲きのものを用意してきている。支度を整えると一行は揃って出かけて行った。
「降魔さん、円さん、元気ですか? 大学一年生になりました。演劇も続けています。コスプレはやっていませんよ? 私も【日向】の皆も元気です」
 途中に苦笑を交えつつ、連が知人に選んでもらった花束を手向けて語りかける。元気な姿を見せようと、在りし日のように笑顔を絶やさずに。
「先生のお陰で怜亜は夢にまた一歩近づきました。どうか僕達を見守っていて下さい」
 怜亜が、そして千影がそれに習う。
「神月さん。みなさん合格できたのはあなたの暴走っぷりがあっての事です。誇って下さい」
「安らかに‥‥」
「降魔先生‥先生の教えは、俺が受け継ぎます‥‥」
 心時も小さく拳を握り、故人へ思いを馳せる。朔耶が朝方キリカの台所を借りて作った和菓子を冥皇と共に備える。
「ほとけには 桜の花を
 たてまつれ 我が後の世を 人とぶらはば‥‥降魔先生、私たちは今も何とかやっていますよ」
 さとりがにこりと微笑を向け、皆を見回した。それに応えてキリカが頷いた。
「降魔先生‥‥ボク、がんばってるよ‥心配しないでね♪」
 昼までは時間があったのでその後は少し近くの寺社仏閣を散策して過ごし、それから「定食なかじま」へ。センター試験の時に縁のあった中島・栄(w3c016)が同窓会の話を耳にし、昼食に実家の定食屋を快く使わせてくれることになっていたのだ。
「私、支度をお手伝いします」
「あ、俺も」
 千影と朔耶がお手伝いに名乗りを上げ台所へ向かう。
「なんなら料理も手伝うわよ」
「ゴメン頼むからそれだけは止めてくれ。本気で」
 それに続こうとした逢魔・マーリン(w3c016)だったが、そちらは同じく申し出た連共々丁重にお断りされたのだとか。そうして支度が整い、栄も交えて皆は食卓を囲んだ。店の奥はこの日のために貸切になっていて、世間話をしながらみんなで昼食を取る。
「うーん、みんな楽しそうだな。俺も大学いけばよかったかも」
「それは不可能だと思うわ。だって栄、頭悪いもの」
「んだとコラ!」
 ふと漏らした栄の呟きも聞き逃さずマーリンが突っ込みを入れる。と、今度は厨房からご両親も顔を出した。
「お前がバカなのは事実だろ。バカはバカらしく黙って働け!」
「うるさいクソ親父!てめー、それが実の娘に言うセリフか!」
「ていうか、学費なんか支払ったらウチの店潰れちゃうし〜」
「えっ、マジで? ウチってそんなに苦しいの?」
 悪態をつきながらではあるが仲のよさそうな家族である。
「『定食なかじま』の料理、初めて食べましたが絶品でしたね」
 こうして賑やかなランチタイムが終わり。
「えー、万国の労働者が待ちに待った瞬間がやってまいりました。今日は楽しい給料日であります。‥って、あれ?」
 栄が開けた封筒から出てきたのは十円玉が数枚。
「ありがとうございます、マスター」
「ちょっと待て、なんで俺の分がないんだ! しかも時給八百円て、いつもの倍じゃねーか!」
 みんなよく働いてくれたということで、どうも栄の分を削って朔耶たちにバイト代が支給されることになったらしい。
「まぁ、これも資本主義の摂理ね。恨むのなら自由競争主義経済を恨みなさい」
「そんなのってあるか!納得いかねぇー!!」

 そして土曜の夜。兼ねてからの企画で、コウエイとソウキが車を出してこの夜は「出る」と噂の某所廃ラブホテルへ肝試しへ出かけることになる。
「アクセルを全開だッ!スポット地まで最速の走りを見せてくれるぞッ!」
 コウエイの車はというと件のスポットまでをブチ飛ばして、何だか違う意味で皆の背筋を寒くさせたのだとか。
「みんなこれを聞いて気分を盛り上げてね‥‥フフフ‥」
 一方のソウキの方も車内で『稲川淳○の怖い話』CDをかけ十分に怖い夜のドライブを相成ったようである。おかげでついた頃には皆恐々だったのだとか。
「千影、折角だ、一曲やろう」
 いつのまにか和服に着替えた冥皇が千影を誘って二人で守り人形を操り、肝試し前の余興にと舞を披露する。それで何とか落ち着いた所へ、再び今度は心時が怪談話で盛り上げたり。かくして遂に結構の時間と相成った。
「誰となるのでしょう?」
 ドキドキのペア決めくじ引きが行われ、トップバッターを引いたのは怜亜。彼はさとりと二人でコスプレコンビを組むこととなったようだ。
「それじゃ行こっか、さとりさん」
 内心では震えながらも、男らしく先頭に立ってエスコート。浮かべた笑顔とは裏腹に足はガクガクだ。対するはさとりはというと今回は私はカリスマ幽霊をイメージしたコスプレだ。
「出るといいわね‥‥足の無い人とか‥」
 二人を送り出すソウキに真顔で言われてすっかりビクついている怜亜と、以外に平気そうなコスプレさとりがホテルへ向かって行った。
 こちらは脅かし役。
「てめぇら‥‥準備は良いか? 手加減は無用、思いっきり脅かして来い‥」
「WOOOOKYAAAAAHH!」
 隊長(といっても脅かし役は二人しかいないのだが)を買って出た心時の号令に応え、心時とお揃いの屍生人(ゾンビ)のコスプレをしたコウエイ先生は既にノリノリのご様子。二人とも事前にさとりからの演技指導も受け、心時もキリカの家で細々とこさえていた小道具を持ち寄って下調べその他準備も万端。
 ゴゴゴゴゴ‥
『喰ってくれるぜェッ!軟骨がうめーんだよ軟骨がァ〜〜〜〜ッ!!』
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
「キャアー!」
 最初の餌食となった怜亜達。コウエイ先生の迫真の演技にはさとりも堪えきれず、二人の叫び声が木霊した。
(「僕は生きて帰れるのかな‥‥」)
 とまあ怜亜はギリギリの所で涙を堪えつつも、その後何度となく心時に脅かされることとなった。
『脅かし役の鬼と言われたこの俺の演技力に‥ビビるなよ?』
 女の子と一緒と言うことでイロイロと淡い期待を抱いていたお年頃の怜亜くんでしたが、敢え無く心時に撃沈させられたのでありました。
 一方、二番手の連・キャロル組。
『うお〜〜〜』
 行き成り物陰から飛び出したゾンビ心時。
「ぬ、面妖な!」
「ばあぁァぁ‥っ!」
『ひ、ひぃぃ!』
 部活で鍛えてパワーアップした演技で連が逆に追い返しちゃったり。
「イケイケGOGOです! 逆に驚かせちゃいますよ♪」
 霊感ゼロの連と肝試しというより妖怪退治といったノリのキャロルは、二人して逞しく隅々まで観察して帰ってきたのだとか。そしてこちらはアルシオンと逢魔・ナナ(w3b902)。連戦続きだったキリカが楽しんでるので仕方なくつきあったと見せかけておいて実はナナ、『魔法でも科学でも説明がつかないモノ』が大の苦手。更に悪いことには、ペアを組んだアルシオンが伝達の歌声による亡者の演出を手助けしちゃったりしたもんだから‥‥。
「キリカ〜こわいよ〜、はやくきてよぉ‥うえ〜ん!」
 遂には腰が抜けて動けなくなったかと思うと探索半ばで泣き出してしまった。その頃キリカはどうしていたかというと。
 ホッケーマスクッ!ナタッ!血まみれの服ッ!! どこかで見たような出で立ちでコーホー‥と殺人鬼的吐息を漏らしてナナの元へ駆けつけたキリカが全米大ヒットなホラーの世界へご招待。これにトドメを刺されてナナはちょっとだけ、お漏らししてしまいアルシオンを大層困らせたようだ。
「キリカ姉さま〜」
 そのキリカと組んだ千影は幽霊の類が大の苦手で、キリカの服の裾を強く握って既に涙目になっている。その千影を頼もしくエスコートしつつキリカ、ナナがいないのをいいこと空き部屋で千影を押したしたりしたのは内緒の話だ。
 千影とは反対に、冥皇はこういったモノには強いらしい。
「これで幽霊写ったらおもしれーよな♪」
 インスタントカメラ片手に足取りも軽く散策している。ペアを組んだ朔耶もこれなら気が楽だったのか終始余裕の態度で、冥皇ともども、逆に心時やコウエイ先生を脅かすためにこっそりと人魂の仕掛けを施したりして脅かし役に逆襲したりもしていた。
 こうして5組が戻って来た所で時刻はとうに深夜になり、この日はこれでお開き、コウエイとソウキの車でそのままキリカ宅へと直行となった。叫び倒しただった怜亜を始め、何人かは帰りの車でそのままダウン。いつもならここで悪戯タイムと相成る所だろうが、さすがに二日連続で遊び倒した皆にはその気力もなかったようだとか。

 明くる日曜日は街で遊びまくり。
「やるからには勝つ!ボーリングだろうが、カラオケだろうがなァ!」
「カラオケに勝ち負けがあるのかしら‥‥」
 タフなコウエイ先生は今日も全開で飛ばしてるご様子。
「千影、折角だ、一曲やろう」
「はーい、兄さま♪ そうね、じゃあ、一曲」
 木野崎兄妹もここぞとばかりにラストスパートをかけ、アルシオンが「さくら」を歌い上げれば、負けじとキリカもアニソン大熱唄。
「踊りますよー脱ぎますよー」
 十分に睡眠を取った怜亜も復活し、一行は精一杯に遊び倒したのだった。そうしてあっという間に楽しい時が過ぎ、最終日の夜がやってくる。
「ミルクで乾杯です☆ お酒は二十歳になってからですよ♪」
 最後の夜をバーベキューで締めることにした一行は河原まで出かけて行った。
「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアアハハハハハハハハハハーッ」
「また飲みすぎたわね、コウエイ‥‥」
 浴びるように酒を胃へ流し込むコウエイ先生、その横では心時が何だか必死で肉をよそっている。この仲間でわいわい食事をできるのもこれで最後、けれどそんな寂しさは表に出さず誰もが明るく振舞う。
「また離れ離れになっちゃうわね。そうだ。これから皆はどうするの?」
 不意にさとりがそんなことを口にする。
「私は今機械知能システム学科を目指して勉強中、これからは誰か他人のためになるモノを創れるようになりたいな‥‥」
 さとりの通う東工大では二年次以降に学科配属が行われる。入試は終わったといえ、彼女の苦難はもう暫く続きそうだ。心理学部に通うキリカはというと「児童心理カウンセラーになって、ちっちゃいコハーレム♪」というのが夢なのだそうだ。
「俺はやっぱり教師だな、文Tの教育学部だし‥‥降魔先生みたいに偉大な教育者になってやるさ‥‥必ずな」
 その心時の言葉には思わず皆『何を教える気だよ』と心中で突っ込みをいれたとか入れなかったとか。力を合わせ助け合い、志を共にし勝ち取った今の幸せ。その時を噛み締めるように。中でもキリカはいつも以上に一番はしゃいでいるが、時折ふと寂しそうな表情を覗かせるのに気づいて連は心配そうな視線を送っている。
 キリカが連を呼び出したのは夜も更けてからだった。トイレに立った帰りの連の手を引いて強引に物影へ連れ出すとキリカは連を押し倒した。
「あわわ‥‥キリカちゃん‥」
 面食らっている連へキリカはそっと口付けてキスマークを残す。
「これが消える前に、また逢ってね‥‥?」
 いつになく真剣な様子にどぎまぎする連を残して、キリカは足早に皆の下へ駆けて行った。
 連が戻ると、もう皆食事を終え、くべたままの火を囲んで話し込んでいる。
「俺は、この戦いが一段落したら旦那をおいて海外に留学を決めてるからな、自分の夢を叶えるために」
 朔耶は以前の勉強合宿の後で栄養士の資格試験を受けてその結果待ち、6月上旬発表される試験結果を待っている状況だそうだ。
「キャロルちゃんはどうするの?」
 千影に聞かれ、キャロルは少しだけ考え込んでみせる。
「私は‥‥まだ暫くこの地で密として活動します! 敏腕密として責に応えねばなりませぬから。でも‥」
 珍しく少しだけ口篭ると彼女は続けた。
「でも、もしも役目を無事に果たせましたら、その時は翡翠を暫く離れ、日本を飛び出す所存です!」
 キャロルもまたこの一年で少しは成長していたらしい。
「僕はね。多くの人を助けるこの仕事、必ず資格を取って皆の笑顔を見るんだ。10年後僕は立派な検査技師になってるよ。これからも皆でずっとこうして集まりたいな、何年経っても」
「まぁ、これが最後って訳でもないと思うし、また逢える事を願って、笑顔で、ね?」
「また集まって遊ぼうね‥‥約束だよ♪」
 沈みかけた空気を振り払うようにさとりとキリカが微笑む。
「そだ」
 そう言って怜亜が取り出したのは、桜をあしらった指輪。
「これがサクラ仲間の印。先生も生徒もね。いつまでも皆と一緒にすごした事、忘れないよ!」
 皆に一つずつそれを手渡し、怜亜は思わず目尻に滲んだ涙を拭うと、ふと怜亜は指輪を月明かりにかざす。釣られて皆が首を起すとそこには、月明かりを受けて透き通る桜の若葉。
「そうです! 折角ですし、この指輪をつけて皆で記念撮影をしませんか?」
 連の提案に満場一致で賛成すると、冥皇持参のカメラを前に思い思いのポーズで。勿論真ん中にはコウエイ先生を始め、お世話になった先生方を囲んで。
「私は、君達を教え子に持つ事ができて誇りに思いますよ」
「皆のこと、大好きよ‥‥」
 こうして三日間の同窓会は幕を閉じた。


 そして今日。季節が変わって夏の日。
 郵便受けに封筒の落ちる音で玄関へ走る。逸る心抑えて封を切ると、出て来るのはあの記念写真。サクラの仲間達と、いつの間にか幽霊さんもご一緒に。五月のサクラは緑の葉を広げてすっかり大きく育っています。皆も変わりなく元気でやっています。大切な写真は思い出のアルバムへ。またいつか、皆で囲んで見れる日が来るといい。