■温泉につかるサーバント■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 OZ
オープニング
 大分県と言えば、日本一温泉が湧き出る場所である。
 その中で特に有名な温泉地としては、別府温泉が上げられる。
 全国にもその名が知られたこの温泉地に、逢魔と共に疲れを癒してきてはどうかと伝は魔皇たちに提案してきた。
「別府温泉に昔からある老舗の温泉旅館の宿泊券をご用意しました。日ごろのお疲れを癒す意味で、ゆっくりと保養されてきてはと思いまして‥‥」
 普段のような神帝軍の依頼とは無関係なものなのか。
 そう考えて気楽に依頼を引き受けた魔皇たちであったが、やはりそれだけでは無いようで、伝は付け加えるようにこう述べた。
「ただ、その旅館の温泉には、サスカッチと呼ばれる猿人のようなサーバントが多数温泉につかっていまして、宿泊客に迷惑をかけているんです。幾らグレゴールの支配下に置かれているからと言っても、サーバントが入っている温泉などには入りたくないですからね。それで宿泊客も激減してしまって女将も困り果てているようです」
 魔皇追撃の任をおったグレゴールの一人が、配下のサーバントの疲れを癒すためとしょうして何日も旅館に逗留しているのだ。
 このままでは旅館の経営悪化につながり、地域にとっても決して有難くない状況が続くこととなる。
 それを阻止するために、温泉旅館に宿泊しながら、グレゴールとサーバントを撃退してもらいたいというのが今回依頼内容だったのだ。
「というわけですので、よろしくお願いします。あ、それとくれぐれも旅館の設備を破壊しないようにお願いしますね。旅館の人の機嫌を損ねて追い出さられるような事になっても、私は責任が取れませんので」
シナリオ傾向 戦闘、観光、温泉
参加PC 伊月・藤生
若槻・圭織
緋ノ宮・七希
響・いつみ
ムトト・ネアルコ
橘・鳴魅
星名・計都
津縞・未来
小夜・真珠
冴闇・竜子
本名不詳・軍曹
ネフェリム・ゆきと
花見小路・菊千代
影守・壱与
花見小路・斎
温泉につかるサーバント
●温泉旅館
 伝が魔皇たちのために用意した温泉旅館は、大分県でも割合に古い、由緒あるりょかんだった。
 だが、この宿には現在グレゴールが猿人のサーバント「サスカッチ」を大勢引き連れて伊温泉を占拠しているという。
「グレゴールも温泉で疲れを癒す気持ちは分かるよ。でも温泉は“みんなの憩いの場”であって、それを神帝軍が独り占めするのは許せない。女将さんも困ってる事だし、ここはビシッとグレゴール達を追い出して、みんなと老舗の温泉を満喫するよ!」
 まずはそれを排除しないことには安心して温泉に入る事はできないと、響・いつみ(w3a681)は主張し、一応有名人なため変装をした小夜・真珠(w3c314)も同じ考えだった。
「そうだね。温泉温泉〜楽しみよね〜☆ こんな素敵な温泉に不利益をもたらしてるグレゴールとサーバントは許せないわよね!そんなものは撃退してしまいましょ☆」
 そして、旅館に到着して荷物を置いた魔皇たちであったが、影守・壱与(w3f666)はここまで来るだけで疲れてきってしまったらしく、到着後すぐに寝息を立て始める。
「いよ、つかれちゃったみたい‥‥」
 ひとまず影守の代わりは逢魔がつとめることにして、魔皇たちは行動を開始した。
 まずは旅館に泊まっているグレゴールを、宿の中で倒すのは危険すぎるという事で、それをおびき出すための行動を伊月・藤生(w3a123)は行う。
「何だか、この辺で傷ついた人がいたみたいだよ。ニ、三人くらいかな。普通の人間みたいには見えなかったけど、あれがもしかして魔皇なのかなぁ?」
 部屋に来た従業員にわざとこのようなことを話してに話し、噂話からグレゴールを引付けるつもりなのだ。
 更にロビーでは、若槻・圭織(w3a274)がムトト・ネアルコ(w3a958)が魔皇に関する会話を行う。
「ねねね、魔皇がここに来てるらしいね。なんか怪我も負ってるのが2〜3人とか? どんなもんだろ、ちょっと見てみたいね☆」
「魔皇が2〜3人この宿に潜んでて、温泉に入ってるらしいよ〜。それに、どうやら怪我してるって話だよっっ」
 このような話を旅館の様々な場所で行ったため、旅館の従業員たちの間で、この旅館には魔皇たちが宿泊しているという噂話で持ちきりになった。
 ネフェリム・ゆきと(w3d226)はこの結果に十分に満足して、グレゴールに動きが現れるのを待つ。
「手負いの魔皇、しかもニ、三人くらいならばグレゴールも今の戦力で倒せると思うはず。後は噂を信じ込んだグレゴールを上手く引付けるだけですね」
 そして、その間になるべく一般客に現場を見られないよう、涼しげで小菊の模様も愛らしい浴衣姿になった花見小路・菊千代(w3f236)は、兄の花見小路・斎(w3g021)の逢魔と一緒に芸者と鳴り物師として潜入できないか頼む事にした。
「どうやろ、斎兄はん? うちの頼み、聞いてもらえますえ?」
「‥‥いいだろう。俺は例の場所へと向かう事にする。ただ、菊千代、お前その格好は罪だぞ」
 男でありながら、女の芸者としか見えない弟の格好に、斎は深々と溜息をつくのだった。
 仲間たちがこのようにグレゴールを引付けるための行動を行っている中で、冴闇・竜子(w3d010)はかなり大胆な行動に出ていた。
 何と、彼女はグレゴールの部屋を従業員から聞きだすとそこに向かい、グレゴールに対して自分が魔皇であり、一般客が迷惑しているから何とかするように要望したのだ。
 そして、グレゴールが剣を構えると冴闇はその行動に怒りを見せた。
「愚か者め! ここでの戦いは旅館に被害が出るではないか! 貴様らも神の使いを名乗るならそこを考えよ!」
「黙れ! 貴様ら魔皇さえいなければこんなところに駐留する必要など無いのだ。丁度いい。飛んで火にいる夏の虫。この場で捕らえてくれよう。者どもであえ、であえ!!」
 元々他人の事など大して考えない自分勝手なグレゴールの事、冴闇の言う事など効くはずも無く配下のサスカッチたちを呼び出すと、周りを取り囲み拘束させるのだった。
「さて、確かこの旅館に来た魔皇は、後は数人いるのだったな。全て捕らえてテンプルムへの土産としてくれる!」

 その頃、魔皇たちの内の一部は、おびき出されたグレゴールとサーバントが来るであろう場所へと待機していた。
 だが、津縞・未来(w3b953)はグレゴールとサーバントを倒す事を余り快く思っていないようだった。
「俺、動物大好きだぞ。動物の心が分かるって言うか‥‥。なんか感じとれるんだよな。だからって訳でも無いんだが、一方的にいきなり攻撃したりするんじゃなくって攻撃したり傷つけたら駄目だぞ! って沢山の気持ちを込めてグレゴールに言おうと思うんだ」
「‥‥甘いな。戦場ではそんなことを言っている奴は真っ先に殺される。敵はこっちを明確に殺そうとしているんだぞ」
 生贄の短剣によって自分の体を傷つけた本名不詳・軍曹(w3d079)は、そこから出た血を自分の体につけてわざと負傷しているように見せかけるようにした。
 戦場では僅かな油断が死に繋がることが往々にしてあるため、念には念を入れての細工である。
 そして、橘・鳴魅(w3b178)もまた、グレゴールたちの到着を今か今かと待ち構えていた。
「さぁ、後は連中が上手く引っかかってくれるのを待つだけね」
 
●陽動作戦
 一日経って、宿の中は魔皇がいるという噂で持ちきりになっていた。
 グレゴールは、残りの魔皇を探すべく宿の女将に魔皇の居場所を問い詰めている。
「おい! ここの旅館のどこに魔皇がいるんだ! 確か手負いとか言っていたから怪我をしているはずだ。昨日俺の部屋にも魔皇が一匹やってきたから、奴らがいることは確実だ。答えろ!」
「そ、そうは言われましても‥‥」
 女将にはまったく思い当たることが無いので、まったく応えることができないが、その態度がグレゴールをじらせての苛立ちを増す。
 そんな時、若槻と一緒に談笑しながら近くを通った小夜は、わざとグレゴールに聞こえるようにこう語った。
「ねぇねぇ、宿の中居さん達が話してるのを聞いちゃったんだけど〜、魔皇たちが近くの海岸線付近にいるみたいだね〜。そんな話でここ、昨日から持ちきりだよ」
「何だと!? それは本当か、女!!」
 当然、この話にグレゴールが飛びつかないはずもなく、まんまと罠にかかったグレゴールは、小夜の話を信じて、サスカッチの群れと共に海岸線へと向かう。
 その後姿を見ながら、若槻は携帯電話を取り出して仲間たちに連絡をとった。
「‥‥グレゴールたちがそっちに向かったわ。後はお願いね」

 グレゴールが海岸線付近にまで到着すると、確かにそこには傷を負って血まみれの魔皇が膝をついて休んでいた。
「いたな! 奴が魔皇のはずだ。捕らえろ!!」
 既にけが人=魔皇という図式が頭の中で出来上がっているグレゴールは、それが軍曹の演技であることなどつゆほども疑わずにサスカッチたちに捕縛するよう命じる。
(「かかったな‥‥。意外に単純な奴だな」)
 そして怪我を負って身動きがとれないように振舞っている軍曹に対して、十体以上ものサスカッチが一斉に襲い掛かってきた。
 だが、その時横合いから現れた伊月が、それらに対して獣刃斬による攻撃で援護を行った。
「そうそう、そっちの好き勝手に物事が進むかよ!」
「何!? 仲間がいたのか。ならばそいつも捕らえろ!」
「‥‥残念だが、それ以外にも隠れている奴はいるものでな」 
 海岸は岩陰など姿を隠すのに適している所が多い。
 グレゴールたちに見つからないように岩陰に隠れていた斎は、こちらの存在に気づかれる前に倒すそうと、狙撃弾によってサスカッチたちに援護射撃を行い、それを受けて菊千代も両断剣をもってサスカッチたちに攻撃を仕掛けていった。
「生憎やけど、罠にはまったのはそっちどすえ。ほな、さいなら」
 サスカッチは棍棒をもった猿人のごときサーバントで、一般人に対しては十分な脅威となる戦闘力をもつが、所詮はサーバント、魔皇の敵では無い。
 次々とサスカッチが打ち倒され数が減っていく中、津縞は一人奇妙な攻撃を仕掛けて逢魔のため息を誘っていた。
「杜南、俺には剣で斬ったり撃ち殺したりできないぞ。 これならどうだ? たんこぶできちゃうけど‥‥。ほら、自然回復でたんこぶって治るんだろ?」
 そういって彼がサスカッチの頭を殴るのに用いている武器とは、ハリセンと木刀である。
 確かにこれならば一撃でサーバントを殺す事もないし、魔皇の力で振るえば十分な威力を発揮するが、随分と悠長な戦闘法であり逢魔としてはこれからの事を考えて頭痛が起きるような事だった。
 とにかく、こうして魔皇たちはあっという間にサスカッチの群れを撃滅し、残るのはグレゴールのみとなっていた。
「どうやら、たいした事なかったようね。後は貴方だけよ!」
「お、おのれぇぇ!! 謀ったな魔皇とも!」
 後方から魔皇殻(まおうかく)を構えるネフェリムの言葉に激怒したグレゴールは、腰に帯びた剣を抜き放ち魔皇たちに攻撃を仕掛けてきた。
 それに対して、狼風旋によって速度を増した橘もまた突っ込んでいく。
「これ以上、あんたと遊ぶつもりは無いのよ! これで決着をつけさせてもらうわ!」

 一方その頃、旅館のほうでは穏やかな寝息を立てて眠っている壱与の寝室の隣で、芋虫のように体を銀の鎖で絡め取られた冴闇が呻いていた。
「むぐむぐむぐむぐ、むぐー(おのれ、グレゴール、覚えていろ)!!」
 そして、戦闘から逃げ出したサーバントやグレゴールがこちらに逃げてくるのではと考えて、一人別行動をとって南部の山の入り口に向かっていたムトトの方は、グレゴールが残り一人となったことを携帯で聞いて、旅館に戻る事にする。
「なんだ〜。こんなにあっさり決着がついちゃったのかぁ〜。さっさと温泉に帰ろうっと」

●温泉満喫
 逆上して捨て身の攻撃を仕掛けてくるグレゴールに魔皇たちは苦戦を強いられたが、やはり数の上で圧倒していることもあって、段々と打撃を与えて追い詰めていった。
 そして、緋ノ宮・七希(w3a316)と星名・計都(w3b801)の援護を受けて、狼風旋によって速度を上昇させた軍曹は、一気にグレゴールとの間合いをつめて、腹部にサベイジクローの一撃を叩き込んだ。
「ば、馬鹿な‥‥。この俺が魔皇ごときに‥‥」
「‥‥そのおごりが命取りだったな」
 腹を貫かれたグレゴールは、ごふりと吐血して砂浜に崩れ落ちるのだった。 

 かくして温泉旅館はグレゴールより開放された。
 一足先に旅館に戻っていたムトトは影守を起こして、その後にグレゴールのいた部屋に転がされていた冴闇を発見してその戒めを解いた。
「あれぇ、冴闇さん、こんなところでどうしたの〜」
「ええい! グレゴールはどこだ! よくもこの私をこんな目に合わせて‥‥。ただではすまさん!!」
 だが、グレゴールは既に他の仲間たちの手によって倒されており、復讐する相手がいなくなった冴闇は怒り狂うのだった。
 その間に目を覚ました影守は、代理の逢魔から事情を聞いて温泉にのんびりとつかることにする。
「おわっちゃったんなら、いよ、おんせんはいるー」
 湯量としては、湯布院に次ぐ日本第二位を誇る別府の温泉。豊富に湧き出る温泉は素晴らしいの一言に尽きる。
「これで安心してちゃいけないんだけどね‥‥。でもまぁ今日はまったりさせてもらいましょ」
 思い考えることはやまほどあれど、温泉の温度は少し熱いくらいだったが、戦いが終わって疲れていた体には丁度良い感じだった。
 温泉の中で体を伸ばす若槻に、響も逢魔や他の魔皇たちと嬉しそうに湯につかる。
「そうだねぇ。今日くらいはのんびりしたってバチは当たらないよね」
「ゆっくり温泉を楽しんで帰ろうね☆ あ、そうそうお土産に温泉饅頭とか買って帰ろうかな☆」
 既にお土産のことを考えている小夜であったが、確かに温泉旅館といえばお土産も重要なポイントである。
 外すことはできないだろう。
 男湯の伊月もそのことは忘れていなかった。
「いやー、やっぱ温泉はいいねえ♪ 逢魔に温泉饅頭でも買ってってやらないと。‥‥あ、後観光もしなくちゃな。折角デジカメもってきたんだし」
 短い時間ではあるが、やる事はかなりあるようだ。お土産は温泉饅頭と決めている津縞もその言葉にうんうんと頷く。
「そうそう、温泉饅頭楽しみだよな。俺も温泉饅頭を皆に買ってかえることを約束してて、それが一番の目的なんだ。でも、あの人の分は違う包みにしてもらおうっと」
 そして、彼方では女性としか思えない顔つきをした菊千代が、艶やかな笑顔を兄に向けていた。
「斎兄はん、ええ御湯どすなぁ。うち、温泉なんて久しぶりやわぁ」
「菊千代、何度もいうが、お前のその格好罪だぞ。‥‥それにしても、本当にいい湯だな」
 温泉はただ昼間に入ればいいというものではない。
 やはりその醍醐味は、夜に露天風呂で月を眺めながら傾ける一杯の酒に尽きるだろう。
「やっぱりこれが風流で一番よね」
月見酒としゃれ込む橘に、杯を傾けながらネフェリムも笑顔で頷いた。
「温泉大好き〜やっぱ、温泉に浸かりながらの一杯が格別だよね〜」
 こうして、魔皇たちのつかの間の休息の時間は過ぎていくのだった。