■警察に代わる治安維持■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 OZ
オープニング
 現在、世界の犯罪率は低下している。
 神帝軍の力により過度な感情が搾取されているため、犯罪に走る人間が少ないためだ。
 だが、それと同時に警察官の質も落ち、検挙率も上昇していないというのが事実である。
 そこで、この福岡市の一部の地域の担当を任されたグレゴールは、まずは治安の上昇と綱紀の乱れを正すために、警察官に代わってグレイタイガーと呼ばれるサーバントを町の警戒に当たらせる事にした。
 グレイタイガーとは、その名と通り灰色がかった毛をもつ虎型のサーバントであり、都市部ではその色がコンクリートの色に溶け込みやすく、姿を隠して行動しやすい。
 そのサーバントは、グレゴールの命令を受けて治安維持へと乗り出したのであるが、これが危険な事に繋がる事となった。
 怪しい者を探して、攻撃せよと命じられたグレイタイガーは、犯罪者のみならず多少挙動が不審な一般人すらも襲い掛かり始めたのだ。
 獰猛な性格をもつこのサーバントは、爪と牙で容赦なく人を襲い、肉を喰らう。グレゴールも怪しげな態度をとっていたその者が悪いという始末である。
 この脅威に怯えきった人々は、特にサーバントが多く徘徊する夜中には誰もその地区を出歩けなくなってしまった。
 確かに犯罪の発生率は減ったものの、人々の不安と恐怖、それに抑圧された心の感情は高まるばかりである。
 伝はこの状況を危険と見て、魔皇たちに事件の解決を促す事にした。
「このまま人々の行動が抑圧されるようなことがあれば、ますます神帝軍の支配力が高まってしまう事でしょう。それだけは避けるべきだと思われます」
 夜の街中で徘徊するグレイタイガー、そしてそれを取り仕切っているグレゴールを倒す事が今回の依頼内容となるが、夜の市街戦で姿が見つけにくく俊敏な動作を誇るグレイタイガーは油断できない存在である。
 市街地ゆえに回りに被害を与えるような攻撃をするのも避けるべきと考えると、かなり慎重に戦う必要があるようだ。
シナリオ傾向 市街戦、深夜
参加PC 藤野・羽月
南樹・正宗
月代・千沙夜
真行寺・刀摩
太郎丸・由太
トール・キリマ
吉田・こう
プラチナ・ハック
柳原・我斬
水瀬・李杜
ルキーフェ・ノイエ
真澄・神
ブリッツ・ガントレット
朝昼・夕希
タチバナ・シオン
警察に代わる治安維持
●極端な治安維持
 神帝軍の支配の影響で、やる気を失った警察官たちは治安維持の役にはあまり立っていない。
 だが、その代わりにサーバントを用いて住民を恐怖による秩序で治めようとするグレゴールの暴挙を魔皇たちに許すつもりは無かった。
「確信犯なのか、上手くいかなくて開き直っただけなのか‥‥。どっちにしろ最低のグレゴールだな」
 恐怖による感情搾取のことも考えれば、確信犯的行為が強いグレゴールのやり方に南樹・正宗(w3a350)は怒りを見せる。
 そして、それは兄から貰ったお守りを首から提げる 水瀬・李杜(w3c117)にしても同じ事だった。
「犯罪が少ないのは良い事だけど皆にとって住みにくい環境や脅かす環境は よくないよね。 ボク、がんばるよ」
 グレゴールとサーバントであるグレイタイガーは、主に夜の街を重点的に警戒することで犯罪を起こさせないように住民たちを見張っている。
 流石にそれらの敵と、街など人が多い場所で戦うことは危険と判断した魔皇たちは違う場所にグレゴールたちを引付ける事にした。
 その場所、博多埠頭へと到着した真行寺・刀摩(w3a622)は、昼間の内に状況を確認するため辺りを散策しながらぼやく。
「ったく‥‥メンドくせぇよな、色々と。正面から戦えればこんなことしなくてもいいのによ」
「仕方無いだろう。これ以上魔皇が悪者にしたて上げられないようにするには、この手しかないんだからな。周りに被害を与えないことが第一だ」
 街の住人を巻き込んで良いのであれば幾らでも他に手段はあるが、それでは自分たちは神帝軍以下の存在となってしまう。
 藤野・羽月(w3a101)の言うとおり、なるべく人のいないところで待ち伏せ、一気に倒してしまうのがベストだろう。
 そのため、なるべく大勢の魔皇が展開できるように開けた場所を探す千吉田・こう(w3b836)は、丁度手ごろな場所を見つけて、柳原・我斬(w3b888)を呼び出した。
「お〜い、ここが良さそうだ。照明の準備をしてくれ」
「了解。‥‥こういう機材はかさばるからな。車で入ってこられて良かったな。さてと、取り付けるとするか」
 柳原は自分が乗ってきた車のトランクから照明機材を取り出すと、千吉田に指摘された場所に設置を開始した。
 戦闘が開始される夜までには完成させておかなければならないので、急ピッチの作業となりそうだ。

 こうして博多埠頭近辺に向かった魔皇たちが準備を整える中、福岡の町へと残った魔皇たちは、こちらはこちらで囮となるための準備を進めていた。
 そして、夕方になって日がそろそろ西に沈もうとする前に集まった魔皇たちは、最後の調整を行う。 
「‥‥今のところ、グレゴールもファンタズマも、それにグレイタイガーなどのサーバントの姿は見受けられませんね」
 昼間の町の下見に行っていた太郎丸・由太(w3a713)は、特に神帝軍に属する者が見受けられないことを仲間に伝えた。
 やはり夜にならなければ敵は姿を現すつもりがないらしい。
 グレゴールは見晴らしの良い場所にいるということで、ある程度目星をつけたトール・キリマ(w3b125)は、その場所を指を差して示す。
「この福岡市で見晴らしのいい場所とすれば、あの福岡タワーかポートタワーが一番怪しいな。最もビルの屋上という選択肢も外せないが‥‥。しかし、灰虎ね‥‥。誇りも何も無い者が灰色を纏うのは、気に入らないな‥‥」
 灰色に何か思いいれでもあるのか、グレイタイガーに不快感を露わにするトール。
 そのトールが示したタワーの片方には、ルキーフェ・ノイエ(w3c539)が向かっていた。
 福岡市上空に浮かぶメガテンプルムを除けば、福岡市でそれほど高い建築物は存在しない。
 街中を見渡すのに便利な場所はこの二つの場所しかないと、一方に向かってみることにしたのだ。
「肝心のグレゴールを討つことができなければ、事態解決には繋がらないからな。何としてもグレゴールを見つけなくては‥‥」
「さて、後は他の仲間たちの頑張り次第だな。こっちはグレゴールの動きを探るとするか」
 同じく高所から敵の動きを掴もうとしたプラチナ・ハック(w3b857)は、ビルの屋上に上がり、そこから福岡市内を見下ろしている。
 下では、そろそろ日が沈み夜を迎える時刻となり、真澄・神(w3d236)が仲間たちにカラーボールを手渡していた。
「これをグレイタイガーにぶつけることができれば、保護色はそれほど問題なくなると思います。皆さん、気をつけてくださいね」
「‥‥了解。後は上手く敵を引付けるだけね」
 別に街中で敵を倒す必要は無いので、月代・沙夜(w3a548)はディフレクトウォールを展開しながらそれを受け取る。
 しかし、ブリッツ・ガントレット(w3d990)はあえてサーバントとの戦いに加わることは控える事にした。
「今後のことを考えると、あんまり目立ちたくないですからね。サーバントはお任せしますよ」
 上手くグレゴールが出現したその時こそ、ブリッツは自分の出番と考えているようだ。
 そして、博多埠頭にいるタチバナ・シオン(w3f434)から、携帯電話に連絡が入ってきた。
「こちらの準備は整いました。そちらはどうですか?」
「こちらも準備は完了した。これから行動を開始するところだ」
 携帯からの連絡にそう答えて、朝昼・夕希(w3e665)たち囮役の魔皇たちは夜の街へくり出すのだった。

●都市の狩人
 日が沈み、都市が暗闇に包まれると急に通りを歩いている人間はほとんどいなくなった。
 そして、それと同時に街中を走る灰色の影がまばらに見え始めた。虎のような形からしてあれがグレイタイガーだろう。
 早速敵が現れた事で、月代は道の前に出てみることにした。
 すると、月代を不審な人物と思ったのか、グレイタイガーのうちの一体が鋭い牙をちらつかせて飛び掛ってきた。
 しかし、その一撃はディフレクトウォールによってあっさりと防がれる。
「‥‥やはり、それほどの威力があるわけではないのね‥‥」
 動きが止まった事を確認して、デヴァステイターによる反撃の弾丸を撃ち込んだが、グレイタイガーも身のこなしが素早く、銃弾を素早く回避すると街中へと消えていった。
 コンクリートと似ている毛の色で、やはりグレイタイガーを探すのは難しくなったが、朝昼は狼風旋で動きを素早くした上で、上手くサーバントにカラーボールを投げつけ、命中させた。
「よし、これで動きが丸見えだな。狙いもつけやすい」
 灰色の体に赤や黄色の目立つ蛍光塗料が塗られ、保護色は意味が無くなった。
 このようにカラーボールによって色をつけられたグレイタイガーを始末する一方で、南樹は朧明蛍によって手元に明かりを作って敵をおびき寄せ、一匹ずつ仕留めていく。
「この高揚感‥‥。これが俺の魔皇としての性質か」
 魔皇としての本質。戦っている間に心が高揚し充実感に満たされていくことを南樹は感じているようだ。
 だが、ここで全てのグレイタイガーを始末してしまっては意味が無い。
 グレイタイガーと小競り合いを続けていた真行寺は、かなりの数のサーバントが仲間たちに倒されているのを見て。そろそろ頃合だと判断した。
「三十六計逃げるにしかず、ってな! 俺を倒したいのならついてきな!!」
 コアヴィークルを召喚すると、彼はそれにまたがって逃走したように見せかけ、グレイタイガーたちを博多埠頭へとおびき寄せるのだった。
 他の魔皇たちも連絡を取り合いながら撤退していく姿を見て、ブリッツはマルチブルミサイルなどで一気に攻撃すれば簡単なのにと苦笑した。
「まぁ、余波で町が破壊されようと問題ないのですが、まだ皆さんには嫌われたくないですからね。仕方ないでしょう」

 その頃、博多タワーに向かっていたルキーフェは思いがけない敵に出会っていた。
 展望台から仲間たちとグレイターガーの戦いを見ている最中に、急に背後に気配が生じたかと思うと、凄まじい衝撃波を食らって壁に叩きつけられたのだ。
 既に逢魔は完全に気を失っており、彼自身も立ち上がるのがやっとというほどの打撃を受けてしまった。
 そして、自分に攻撃を仕掛けてきた相手の方に視線をやると、そこには白い衣服と杖をもった男、それに翼を生やして空を飛ぶ天使の姿があった。
「フ、ファンタズマ‥‥。ということはお前が‥‥!」
「油断したな、魔皇。まさか一人でこんなところにいるとは‥‥。しかし、このアガレスを一人で止められるなどと思っていたのではあるまいな?」
 再びアガレスと名乗ったグレゴールから衝撃波が放たれ、ルキーフェは倒れ付した。
そこに、騒ぎを聞きつけたプラチナが駆けつけたが、グレゴールから放たれた衝撃波の一撃をディフレクトウォールでは防ぎきれず、後ろに弾き飛ばされる。
「うぉ‥‥! なんて重い一撃だ!」
 この光景を、離れた場所から暗視スコープをつけて見ていたトールは、非常にまずい状況である事を感じとった。
「‥‥いかん! どうやらグレゴールたちは福岡タワーに現れたみたいだぞ!!」
「そ、そんな!? 急いで連絡しないと‥‥! え〜と、えと‥‥」
 自分も福岡タワーの上で、誰か人が弾き飛ばされている姿を見て、太郎丸は慌てながら携帯電話で連絡を取ることにする。

 その頃、まんまと囮班の魔皇に連れられて博多埠頭へとおびき寄せられたグレイタイガーたちに対して、待ち伏せ班の猛攻が行われていた。
 予め用意しておいた照明器具と、タチバナが作り出した朧明蛍に照らし出された開けた場所で、柳原は容赦なく撃破弾を撃ち込む。
「さあて、派手に行くぜ」
 散弾銃のごとく広がる弾丸に、グレイタイガーたちは何とか回避するが、今度はそこに吉田のパルスマシンガンが放たれた。
「結構速いが、俺のやっていたゲームより遅いな」
 魔皇の動体視力さえあれば、サーバントの動きを補足することぐらいはそれほど難しいことでは無い。
 物陰に身を潜める真澄も、グレイタイガーの視界の影から狙撃弾を放ち、着実に止めを刺していく。
「あなた方は、挙動不審というだけで善良な一般の方々まで、その牙にかけました。これは、その報いです‥‥」
「たとえ治安が良くなっても、それで人々の心が抑圧されるようでは何の意味も無い。お前たちは要らない存在だ」
 そして、藤野が放った侵凍弾が最後のグレイタイガーを凍結させて仕留めたとき、皆のサポートにあたっていた水瀬の携帯電話に連絡が入った。
「はい、もしもし‥‥。えっ! グレゴールがそっちに現れたの!! そっちのどこ!?」

●グレゴールの力
 アガレスから再度衝撃波、それも神輝掌<シャイニングフィンガー>によって威力が高められたものがプラチナの体に炸裂した。
 ディフレクトウォールは完全に破壊され、プラチナ自身も衝撃に耐え切れず床に倒れ付す。
「な、なぜ、魔皇であるという正体が‥‥」
「いつも監視に使う場所であるここに来て見れば、見慣れない二人の人影があった。しかもこんな夜中にだ。怪しいと思い魔看破<ディテクトデビル>を使用してみれば案の定、魔皇だったというわけだ」
 グレゴールのもちいるシャイニングフォースには、魔皇や逢魔など邪悪な存在を看破するものがある。
 そして、正体を見破られたルキーフェと逢魔は倒され、そして今また、プラチナも追い詰められている。
 アガレスは止めの一撃を見舞うため、プラチナに向けて杖を構えた
「さて、止めをささせてもらおうか‥‥」

「ここからだと、コアヴィークルでどう急いでも福岡タワーに到着するのに数分はかかるよ!」
 事前に付近の地図などをよく把握していた水瀬は、ここからではとても間に合わない事がはっきりと分かって声を上げた。
 だが、躊躇している暇は無いと、真行寺はすぐさまコアヴィークルに飛び乗る。
「うるせぇ! グダグダ行っている暇があったらお前も急げ! 仲間がピンチなんだぞ!」
「探索班の二人が先に向かっているとは思うが、流石にそれだけだと不安だからな‥‥」
 こちらもコアヴィークルに乗り込みながら、藤野が不安そうに呟いた。
 これで人数的には四人であるが、各個撃破されていると考えればかなり危険な状態のはずである。
 自分たちの作戦が裏目に出た事に、南樹は片方の掌に拳をぶつけて怒りを表した。
「くそっ‥‥! まさか敵をおびき寄せるつもりが、肝心のグレゴールだけが残っていたなんてな。しくじったぜ」
 わざわざグレゴールを倒すためにこちらにやってきていたブリッツなど、笑うしかない。
「いやはや、まったくしてやられましたね‥‥。こんなことになるなら、グレゴールを探していれば良かったですよ」
「‥‥サーバントに気を取られすぎて、グレゴールへの注意が散漫だったかもしれんな‥‥」
 夜の街を徘徊するグレイタイガーの排除はこの依頼の基本的な内容であったが、それを操るグレゴールへの注意と連携には付け入られる隙があったのかもしれない。
 今回の事を思い出して吉田はそんな思いにかられたが、今、後悔しても何も始まらない。
 今はただ、仲間の元に一分一秒でも早く到着すべきと、真澄もコアヴィークルを走らせた。
「とにかく急ぎましょう! 僅かでも可能性があるならそれにかけるしか無いのですから!!」

 プラチナへと放たれようとしていた衝撃波は、だがしかし、グレゴールの杖から放たれることは無かった。
 展望台までかけ上がったトールが、狙撃弾を放って牽制攻撃を仕掛けたのだ。
「間に合ったか‥‥。偽りの灰色‥‥。その元を、討つ‥‥!」
「‥‥仲間か。下らぬな。邪悪なものがいかに群れ集おうとも、我には勝てぬ」
 今度はトールに向けて杖を向けるアガレスであったが、何とか時間稼ぎを行おうと太郎丸がグレゴールに脅しをかけた。
「こんなところで悠長に時間を潰していても構わないんですか? グレイタイガーを倒した仲間たちに連絡を取りました。すぐにここに駆けつけますよ!」
「何だと‥‥?」
 確かにそういわれてみれば、街中で他の魔皇たちと戦っていたはずのグレイタイガーがどこにもいない。
 ファンタズマもこの言葉は嘘ではないと判断して、主に進言した。
「アガレス様‥‥。確かにサーバントがどこにもいないのは本当のようです。これ以上お一人で魔皇と戦い続けるのは危険では‥‥」
「‥‥分かった。では、ひとまず引き上げるとしよう。いずれこの借りは返すぞ」
 グレゴールはファンタズマを伴って非常階段から素早く駆け下りていった。
 やがて他の魔皇たちが到着し、仲間たちを快方した。
 今までの経緯を聞いて朝昼は、憎憎しげに舌打ちする。
「これではサーバントを倒しても意味が無い! 肝心のグレゴールに逃げられるなんてな!」
「正義は勝つんだ! だからきっと、俺たちがそのグレゴールに反撃する機会も生まれるはず。それまで待とう」
 今日の失敗を明日の糧に変えて、今度こそグレゴールを倒すと柳原は決意をかためるのだった。