■【それゆけ?にゃんにゃん探索隊☆】幕末?大江戸絵巻■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオEX |
クリエーター名 |
瑞保れん |
オープニング |
梅雨も間近に控えた高知県。
そんな中、高知城にて賑々しく祭りが繰り広げられていた。
『高知城土佐之國時代絵巻』――。
例年は4月上旬に行われていたのだが、神帝軍の都合で何故かこんな時期に開催される事になったのである。
さてこのお祭りは、高知城の各広場で沢山の催し物が開催され、中でも江戸時代を高知城下を再現し、侍、街娘、職人、忍者などが街を行き交い、いきなり果し合いや歌が始まったりと、当時の光景(?)を再現というのが目玉なのである。‥‥ちょっとした、コスプレイベントというとこであろうか?
古き時代にタイムスリップ気分を味わおうと、多数の人々が高知城に集っていた。
そんな中――。
「楽しいのにゃあ〜♪」
こいつもいた。
「お団子も美味しいのにゃあ〜♪」
赤い振袖の姫様装束に身を包み、みたらし団子片手に超ご機嫌な、我らがシャンブロウ、にゃんにゃんである‥‥ってにゃんにゃん!耳でてる! 耳!!
「‥‥ん?ファッションにゃ〜♪」
いや、人の目が‥‥。
「大丈夫〜大丈夫〜。誰も気にしないにゃあ〜」
って、本当かよ?
しかし、確かにこのコスプレ群集の中で妙にマッチングしている‥‥。不思議だ。
「あ、次はたこ焼き食べるのにゃ〜。鰹節たっぷりにゃ〜♪」
あのね、食べすぎです‥‥にゃんにゃん。ふとる‥‥。
「それ以上言うと、引っかくにゃ」
にゃんにゃんの目がキランと光った、その時だ!
「おんしぃ〜逢魔やなあ〜!」
突然響き渡る声。
「にょ?」
屋台の前できょとんと周りを見回すにゃんにゃんに、赤い縄が襲う。
「にゃああああああ!!!」
グシャリ。
地面に落ちるたこ焼き‥‥
「た、たこ焼きがぁぁぁぁ!!!」
いやいやいやいやいや、たこ焼きの前に自分の身が‥‥。
たこ焼きの恨みに顔を赤くし、頬をぷっくり膨らませたにゃんにゃんの身体はは、あっという間に赤い縄でグルグル巻きにされていた。
「この逢魔は預かったぜよ!」
「魔皇もここにいるですネー!」
「隠れてないで出てこんかい!」
風のごとく、3人にグレゴールがにゃんにゃんを取り囲む。紋付袴に身を包み、不敵に笑みを浮かべながら周囲を見得を切る。
「土佐が生んだ幕末の志士、武市半平太とはこのワシじゃあ」
「黒潮に揉まれて三千里ぃ? ミーは国際派先駆者ジョン万次郎でぇ〜す!」
「ワシは山内容堂や。土佐はワシの国じゃ‥‥酒もってこい!」
‥‥勿論、コスプレ。完全になりきってますね。
「ハンペンとマンボウとヨーヨーが何の用にゃあ! たこ焼き返すにゃあ!」
縛られたままジタバタと暴れて悪態をつくにゃんにゃん。いや何の用って、そりゃ神帝軍だからね。耳出して歩いてたら捕まえますよ‥‥ええ。
「威勢の良い娘やのぉ〜」
容堂(自称)はニヤリと笑うと、にゃんにゃんの頬を閉じた扇でペシペシと突く。
「むううううう‥‥助けてにゃあ! 魔皇さまあ!」
逃げられないと感じたにゃんにゃんの、叫びはお城下中に響き渡る。
駆けつけた魔皇達に半平太(自称)を見るなりフンと鼻で笑った。
「来たか、魔皇らぁよ。おんしらにチャンスをあたえちゃろ」
身構えた魔皇達に、投げつけられる‥‥‥‥赤い箸。
「コレで勝負ですネーーー!」
これって‥‥いったい? と箸を拾い上げながら魔皇達は首をかしげた。
「土佐の酒の席にはこれがかかせん‥‥土佐名物『はし拳』じゃあ!」
容堂は『鯨海酔侯』と大きく書かれた扇をパシリと広げて、声高々宣言する。
「は‥‥はし拳?!」
あっけにとられる魔皇達。
「ミーたちは追手門、二の丸、天守閣にいますネ〜。順番に巡って、私達と勝負してくだサ〜イ!」
万次郎(自称)は高知城マップに赤印をいれ、自分らがいるという場所を指し示した。
「1人3回勝負で勝ったら、この娘を返しちゃら〜え。‥‥信じんがかや? 土佐の男に嘘はないぜよ。ま、ワシらが負ける事はありえんけどな」
腕組みをしてそう言った半平太は、かなり自信満々だ。
「と、いうわけで、この猫逢魔はそれまで此方が預かっちょくきに‥‥。天守閣でまっとるぜよ」
3人はヒョイとにゃんにゃんを抱えると、すたこらさっさとその場から駆け去っていく。
「にゃあああああ!!!!!」
にゃんにゃんの叫び声と共に、グレゴールたちは姿をくらましていった。
「なあ‥‥」
「何?」
「‥‥‥‥はし拳勝負なんて何でわざわざ‥‥」
「祭り‥‥だからか?」
やや呆然と呆れ気味に会話を交わす魔皇達。
その通り。
祭りだから――。
とにかく、にゃんにゃんの運命は君に『箸』にかかっている!
がんばれ! 魔皇様!
*はし拳とは?
はし拳は土佐の酒宴での遊び。江戸時代末期、宿毛の船宿・大黒屋丑松が九州の子供の遊び「なんこ」を改良して考案したといわれる。2名の者が各3本ずつの箸を持ち、相手に見られないように箸を出しあって、両者合計の箸の数を当てあう遊び。
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シナリオ傾向 |
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参加PC |
二神・麗那
メレリル・ファイザー
柳原・我斬
加苗・エトゥワール
藤城・仲辰
波邑・輔莉
水無川・夏樹
功刀・港
榊原・信也
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【それゆけ?にゃんにゃん探索隊☆】幕末?大江戸絵巻 |
●この勝負もイベントですか?!
まさに天晴れ五月晴れ!
『高知城土佐之國時代絵巻』が賑々しく開かれるこの高知城下で、一大イベントが行われようとしていた。
ぴんぽんぱんぽ〜ん♪
「只今よりぃ〜『にゃんにゃん姫争奪! 魔皇VS聖鍵戦士 はし拳大会』が行われますぅ〜。追手門、二の丸、天守閣で行われますのでご自由にご観覧くださいませぇ」
‥‥って何で放送が! 後それから、姫って何だよ姫って!
そんな突っ込みを心でいれつつ、時代劇コスプレに身を包んだ魔皇&逢魔ご一行は、にゃんにゃん囚われる天守閣を目指しグッと赤箸を握り締めるのであった。
●決戦は追手門! ぶつかるプライド‥‥そして可杯?
高知城の追手門の前には、通常だと土佐犬の横綱が観光客の為にぬっしと立っていたりする。夏場は暑さにやられて、すっかりヘバっていたりするのだが‥‥。
今日ここで待つ者は‥‥羽織袴を身にまとい腕組みをしてキリリと佇んでいた。
武市半平太。土佐郷士に生まれ、江戸で学び尊皇攘夷を志し、土佐勤王党を結成した。土佐藩の吉田東洋を暗殺し、藩論を尊攘に統一。京都では岡田以蔵らを使い過激な尊攘活動を展開。天誅の黒幕。しかしその後、尊攘派弾圧がはじまり投獄されたのち切腹を命じられた。
ここにいる彼は勿論聖鍵戦士による仮装である。しかし、心までなりきっており、その自信ありげなオーラは半平太そのもの‥‥といってもいいだろう。
「そいたらいくぜよ。いらっしゃい!」
構えた半平太が、つっとその腕を差し出した。
勝負開始! である。
「さあ。余が相手するぞ」
半平太の前にでてきたのは1人の武士‥‥の仮装をした加苗・エトゥワール(w3c256)であった。
「むむ‥‥おんしその格好は‥‥」
「そう、お前に卑怯にも暗殺された吉田東洋だ!」
フッと小さく笑みを浮かべながら半平太に言い放った加苗を睨み、半平太が額に汗を浮かべてうなった。
幕末の土佐藩の改革に活躍し、土佐長浜の鶴田で開いた小林塾では、板垣退助・後藤象二郎・岩崎弥太郎らを育てた。
しかしその後、公武合体の思想を持った東洋は尊皇攘夷の志をあげる土佐勤王党と対立。半平太の仕向けた刺客により暗殺されたのだ。
己の政治思想を曲げずに貫いたその『いごっそう』的オーラが、加苗の体からもバシバシと発せられていた。いや、まあ女の子ですから、『いごっそう』ではないですが。
「‥‥加苗様‥‥下着までも」
東洋の愛弟子でもある後藤正二郎に扮した逢魔・ムンムー(w3c256)は、ほろりと涙を流した。どうやら‥‥下着まで『武士』になりきっていたらしい。‥‥その心意気、見事です。
「ではいくぞ」
「いらっしゃい!」
後手となる半平太が手を差し出し、それに応えるように先手の加苗も箸を隠し手を差し出した。
「3本!!」
はし拳のルールにより先手はここで『3本』と宣言しなくてはならない。この時、先手は2人の出した箸の合計が『3本』になるように考えて箸を出すのである。
「ぬぬ‥‥はい! 5本!」
半平太は野太い声で加苗に向かい叫びつけた。
後手はここで先手が出した箸の本数を予想し、『1本』か『5本』どちらかの本数を宣言しなくてはならないのだ。偶数と『3』を言ってはいけないのである。
一瞬緊張が走った。
2人が同時に箸を隠した腕をひっくり返した。加苗は『3本』、半平太も『3本』、合計6本。引き分け‥‥である。
「まだまだ! いらっしゃい!」
続けざまに半平太が勝負を挑んできた。‥‥その後、引き分けはさみ2連敗とリーチををかけられ、最後の1本も結局とられてしまい‥‥。
「む‥‥負けたか」
無念そうに加苗は顔をしかめた。
「くっくっく‥‥やはりさすがの吉田東洋も‥‥私には勝てないのだな」
フッと自慢げに笑みを浮かべた半平太の言葉に、加苗の額に青筋が浮かんだのは言うまでもない。
続けて挑んだムンムーも途中までイーブンで戦っていたが、最後の1本をむこうにとられてしまう。
「次は俺の番だ!」
登場するは見事な鎧兜を装備した、藤城・仲辰(w3c261)。土佐藩初代藩主山内一豊公の装束で登場である。天下分け目の関ヶ原の戦いにて徳川に認められた一豊は、遠江掛川6万石から400%アップの土佐24万石を領土としてもらうのである。
その横には彼の出世の要因ともいえる『駿馬』のコスプレ(着ぐるみ)を着た、逢魔・萓草(w3c261)が控える。本当は獣化で馬に‥‥と思ったが、それは仲辰にとめられたらしい。
「そっちが15代藩主とくるなら、こっちは初代藩主だ! と、思ったのだが、こんなに早くに出番とはね」
しかし、まあいい‥‥。俺はこの救出劇を真面目に取り組むことだ。
仲辰はフッとニヒルな笑みを浮かべ、心で呟く。
これで、俺のロリ●ン疑惑も!!
胸の中で小さく握り拳を固めた仲辰の背後から、その時彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
「なかさぁ〜ん♪」
甘えるようなその声は‥‥。
「げげっ! 輔莉! その格好は妻役かよ!」
美しき緋袴に袿を着た少女が、満面の笑みで仲辰に飛びつくように抱きついた。
「一足早く夫婦姿ですねぇ〜〜! ウフッ♪」
その姿は山内一豊の妻千代である。嫁入りの時より隠しておいた資金で夫に名馬を与えるなど『内助の鏡』といえる女性である。今の彼女の心境には、これほどバッチグー(死語)なコスプレはない。
「なぁに、なかさぁん? 照れてるんですか?」
仲辰の腕をとり見上げるように甘える波邑・輔莉(w3c275)。
「‥‥おんし、幼女趣味かよ! 人の趣向はそれぞれとはいうけんど‥‥」
仲辰には半平太の突き刺さるような視線が、普通の戦闘攻撃より痛みを感じてしまうのは何故だろう?
「ああ‥‥俺のロ●コン払拭計画が‥‥」
小さく嘆く声は、妙に盛り上がる周囲に届く事はなかった。
「さあて! なかさんが感激で咽び泣いているので、まずはわたしからいきますぅ〜♪」
「おお! そうじゃった、そうじゃった。忘れるところやったよ」
忘れるなよ半平太。
「では、いらっしゃい!」
輔莉が持ってきたお茶を一口飲み、半平太はすっぱそうな表情をうかべる。高知の山間部特産の碁石茶なのだが、可杯(べくはい・底がとがっていたり穴があって杯を置けなくなっている)に入れられているために一気に飲み干すしかなかった。
「調子がくるうぜよ‥‥」
「はいはい。いくわよ〜! 3本!」
勝負再開。
お茶の効果だろうか? 半平太はさっき見せた計算した勝負強さを見せることはできなかった。しかし、残念ながら輔莉も決定打にかけ、この勝負ドローとなる。土佐藩の名政治家野中兼山に扮した逢魔・黒皇(w3c275)との対戦では、少し調子を取り戻しギリギリ何とか勝負を決めた。
「むう‥‥なかぁ〜ん!」
勝負をつけてよ! と言わんばかりの輔莉の訴えに、仲辰はなんとか立ち直る。
「いかん‥‥冷静にならなくては‥‥」
「やるかよ、幼女趣味」
「それを言うな!!!」
取り乱した心をコホンと咳払いをして、落ち着かせる。
「では、いくぞ! 半平太! 3本!」
冷静になった仲辰は強かった。初っ端見事に先手を取る。
「よし!」
好調な出足に、小さくガッツポーズを決める仲辰。
「ぬぬぬ!」
出鼻を挫かれた半平太は、己の頬をペチリと叩き気合をいれた。
そして‥‥。
「よし、五本じゃ! ‥‥‥うん!」
次の手は見事半平太に軍配があがった。これで一対一。
2人の勝負は次第にヒートアップしていく。ジリジリと刺す日差しの下で、この一区画は尚一層暑さを増していた。
「なかさぁ〜ん♪ がんばって〜♪」
横では愛妻(?)輔莉が三味線でよさこい節』を奏で勝負を盛り上げていた。
その応援の効果か、引き分け続きの流れが一気に仲辰に流れていった。
「よっしゃ!」
2勝目をあげリーチを決め、今度は大きくガッツポーズ。
「うぬぬぬぬぬ!!!!!!」
焦る半平太は、思わず間違えて輔莉の用意したお茶をまた飲んでしまったり‥‥。
「ぶほっ!」
‥‥噴出したようです。
「半平太‥‥これで勝負は決まりだ!」
拳を突き出して仲辰は、半平太にプレッシャーをかけるように言い放つ。
噴出したお茶を拭いながら、半平太は顔を紅潮させて仲辰を睨みつける‥‥。
「お、おのれぇ‥‥いい気になりおって‥‥」
追い詰められた半平太は、すっかり冷静さをなくしていた。今にも腰に下げた刀を抜きそうな形相である。
「‥‥お前ここで刀を抜くか? 公衆の面前だぞ。己の恥をさらすようなもんだな」
勝負を終え後ろでギャラリーに回っていた加苗は、冷たくきっぱりと言い放った。その言葉に半平太はぐぐっと口ごもり、何も言い返すこともできなかった。
「‥‥‥‥おのれ‥‥‥‥こいや!」
「これが最後だ! 3本!」
そして‥‥‥‥。最後2人が腕を反して箸を同時に見せた。数は‥‥3本。
「うっし!! やったぜ〜〜!」
「なかさぁ〜〜〜ん、格好いい〜〜〜♪」
両手をあげて勝利の歓喜に酔う仲辰。ここで半平太の頭に一発<真スラストインファン>! と格好良く決めようとした時、輔莉がジャンプで抱きついてきた。
「うわあ! 輔莉‥‥!!!」
「さすが私のだんなさまぁ〜〜〜〜〜〜♪♪」
祭りで賑わう公衆の面前で、大ラブシーン(?)を演じる2人。
仲辰の当初の構想は、全く逆の方向に進んだようである。
そして‥‥。
「う、うそじゃ‥‥。うそじゃ、うそじゃ。わしが負けるやなんて‥‥うそに決まちゅう!!!」
勝負に負け、がくりと膝を土につける。まだ負けたことが信じれないようだ。
「情けないですね‥‥旦那様」
「‥‥んじゃと! そんな口たたくがは誰じゃ‥‥!! うっ!」
顔を上げた半平太が見上げた先には武家息女の服に身を包んだ女性であった。
「私、乾様の元へ参りますので」
にっこりと笑みを浮かべた女性は、半平太の妻、富‥‥‥‥のコスプレをした逢魔・サヤカ(w3h956)であった。サヤカは乾(板垣)退助に扮した榊原・信也(w3h956)の腕に、そっと手を絡めた。
「ま、まってくれや〜!」
2人仲良く次の会場へ向かう後を半平太は慌てて追いかけようとするが、『暗殺の恨み』とばかりに<真闇蜘糸>で縛り付ける。ムンムーが前もって『神魔の停戦にむけた交流会』と観客に言い広めていた事もあり、周りも一種の演出と思ってこの夫婦の悲劇(喜劇?)に大盛り上がりだ。
「富ぃぃぃぃ〜〜〜〜」
武市半平太、ここに撃沈。
●その頃のお姫様
「なにぃ! 半平太がやられたとぉ!」
報告を受け、怒りまかせに杯をふすまに投げつける山内容堂。
しかし全く反対に、ジョン万次郎は余裕綽々といった様子だ。
「大丈夫デース! これから先にはミーにおまかせネー! アッメリカ仕込みのはし拳捌きぃ、お見せしまショウっネー!」
HAHAHAと高らかと笑い、容堂の方をポムポムとフレンドリー叩いた。
が、その時‥‥。
「‥‥アメリカではし拳はやらないと思うにゃ‥」
腹を空かして幾分不機嫌にゃんにゃんは、やや座った視線で万次郎を見つめながらボソリとつっこむ。
天守閣が一瞬凍った。
●どんと来い! 太平洋を越えてゆけ――! 熱闘? 二の丸跡
「さっき、信也さんの銅像があったわね」
「‥‥銅像? ああ、板垣退助のな。明治になって自由民権運動を行っていた頃の姿だな」
「百円札にもなってたわね」
「うむ‥‥つか‥‥」
追手門から城の石段を進み、信也とサヤカは二の丸に到着した。砂利を踏みしめた信也は、思わずぽつりと呟いた。
「‥‥なんで俺はこんな事をしてるんだろう」
遠い目をする信也に、サヤカは笑みを浮かべて肩をポンと叩く。
「はいはい、細かいことは気にしない」
高知城二の丸跡は桜の木が多数植えられている。ここでは花のシーズンになると沢山の茣蓙が並べられ、ほのかな提灯の明りの元で花見が行われる。酒好き高知人にとってはこの場所は、そんな楽しい場所なのだ。
「でも私たちしか来ていないのかしら?」
他の魔皇達の姿がないのに気づき、サヤカは周りを伺う。
その時だ。
「待たせたな」
コアヴィークル‥‥に船の模型を被せた物に乗り登場したのは、水無川・夏樹(w3c325)と逢魔・名夜(w3c325)である。
「何だそれは?」
奇奇怪怪な物体を指を差し、思わず尋ねる。
「ああ、『開陽丸』だ」
フランス式の司令官の装束に身を包んだ夏樹は真顔でそう答えた。夏樹が扮するは榎本武揚。江戸の生まれ、伝習所にて勝海舟の教えを受け、築地の海軍操練所教授方出役となる。オランダ留学ののち海軍副総裁となるが、戊辰戦争が勃発後、新政府軍に反抗し抵抗を続けた。最後は函館五稜郭にて蝦夷共和国を設立し、初代総裁となるものの、半年で新政府軍に破れた。そして開陽丸は、榎本を新天地蝦夷へと運んだ軍艦である。
「立派でしょう? 総裁と昨日がんばって作ったんですよぉ」
にっこりと微笑む逢魔・名夜(w3c325)は、ご存知新撰組副長土方歳三である。土方は新政府軍に抵抗を続け最後に蝦夷共和国で榎本と組み、陸軍奉行並として活躍した。名夜は新撰組装束とフランス式軍服を、相互に早着替えできる特注の服まで用意していた。
「準備万端だな‥‥」
そう返すしかない信也は、もう一度心で呟くのであった。
「なんでこんな所に‥‥」
そうしていると、二の丸の石壁の上から高笑いを浮かべる男1人‥‥。
「HAHAHA〜♪ 御待たせしましたネー♪」
燕尾服に身を包んだ男1人。ヒラリと飛び降り魔皇達の前に立ちふさがる。
「ミーがジョン万次郎デェース!」
土佐・中ノ浜に生まれた漁師万次郎は、14歳の時出漁中に嵐に逢い無人島へと漂流している時にアメリカの捕鯨船に助けられ、その後アメリカに渡り生活し土佐に戻る。そのアメリカで生活し勉強した知識は、幕末そして明治の日本に大きな影響を与えていったのである。
ま、本当のジョン万次郎がこんなエセアメリカ人であったとは思えないが‥‥。
「ほわい? 魔皇たち少ないですネェー。どこですカァ?」
「ああ。さっき戦った奴はまだ追手門で半平太と大騒ぎしてるよ。後は‥‥祭り見物かな? まあ、後から来るだろう」
「なぁるほどネー。では、先にやりますかぁ〜?」
ニヤリと笑みを浮かべると、万次郎はチャキっと箸を懐から取り出した。
「ああ、望むところです!」
司令官姿で凛々しく背筋を伸ばし、夏樹も箸を取り出しキリリと構えた。
「カモーン」
「いくぞ」
先ほどの熱い戦いとは対照的に、夏樹は冷静に勝負をすすめていく。万次郎は『のぉ〜!』やら『がっでむ!』などと、ちょっと派手なボディアクションはあるものの、拳捌きは冷静沈着。以外と知性派のようだ。
2人の戦いは一進一退。結局五分の引き分けとなった。
「中々やりますネー」
「お前もな‥‥」
続いての名夜は先手を取られた事でペースを崩し、結局一手をあげることもなく負けてしまった。
「次は俺か‥‥」
見物していた信也が重い腰が上がる。面倒くさそうに前にでて、勝負にむかう。
「オー、板垣さんですネー」
板垣(旧姓乾)退助。土佐藩士として幕政で活躍、新政府設立後は自由民権運動に力を尽くし、暴漢に襲われた時の『板垣死すとも自由は死せず』という言葉はあまりに有名である。
「では行きますネー」
「ま、気楽にやるさ‥‥」
と、言った言葉とは裏腹に信也は次第に勝負に熱くなっていく。
「最初か‥‥これか?」
「次は‥‥‥‥これだ」
「よし!これで勝負だ!!!」
言葉のボルテージは次第にあがっていく。しかし、万次郎は冷静に対処していく。スラリスラリと信也をかわし引き分ける。サヤカも一手もあげることなく負けてしまう。
負けたとはいえ楽しそうに勝負をしていたサヤカとは対照的に、信也は悔しさを滲ませる。
「くそお‥‥」
箸を握り締める信也にむかい、ふふりと笑みを見せる。
「魔皇サーンはもういないですカー? もうタイムリミット! 私の勝ちは決まりですネー」
声たからかに宣言する万次郎。もしここで仲間が来なければ‥‥万事休すだ。
と、その時だ。
「次の相手は俺だぜ!」
「OH? 誰デースカ?!」
突然の声に、万次郎は周囲を見回す。その頭にヒラリヒラリと、何かが舞い落ちる。
「これは‥‥花びら?」
空から舞い散る花吹雪‥‥二の丸に春の桜が蘇った。その吹雪の中から、<サムライブレード>を翳した1人の素浪人。
「またせたな‥‥。あとは俺にまかせな」
ニッと笑みを浮かべた浪人は、功刀・港(w3h700)であった。
「紙吹雪とは、派手な登場だな」
夏樹は自分の肩に落ちた紙片をササっとはらった。派手な登場‥‥という点では、夏樹もかなりの物だと思うのだが。
「遅れ来た分、格好よく登場しねえとな‥‥」
言えない‥‥。
懐から覗く高知城ガイドマップ。
まさか迷って来るのが遅れたなんて、口が裂けても言えない――そう、心で呟く港。
「いくぞ! 万次郎!」
その話題を逸らすように万次郎に向かい叫ぶと、赤箸をとりだした。
「待たせたな! 万次郎!」
宮本武蔵を思わせるような一言。
「OH! いくらかかってきても、ミーにはかないませ〜ん!」
フッと髪をかきあげた万次郎は、箸をかまえた。
「カモ〜ンデース!」
そして、1本目。
「どりゃあああ!!! 勝った!」
「OH〜! 油断しましたネー!」
港、いきなり気合の1勝目。
それから、2本目。
「てりゃあああああ!!! うっし!」
「ジーザス! ま、まぐれですネー!」
港、またまた根性の2勝目。
とうとう、3本目。
「うぉりゃあっ! やった〜〜〜!」
「オ〜マイガァ〜〜〜〜!!!」
港、結局楽々の3勝目。
「お? 案外あっさり勝ったな〜」
拍子抜けしたように、港は高笑いをあげる。
知能派万次郎に考える隙を与えぬまま勝ち続けてしまった所が、勝因であったのだろうか?
「ミーが‥‥ミーが負けるなんてぇ〜〜〜〜〜。ノオオオオオオ〜〜〜!!」
万次郎が箸をポキリとへし折ると、泣きながら高知城の石段を駆け下りていった。
そんな泣きダッシュの万次郎と石段ですれ違ったのは、今までのんびりと町並みを見て周り祭りを満喫していた、お忍び姫様風の二神・麗那(w3a289)と姫護衛の侍姿の逢魔・ディルロード(w3a289)。途中まで本気ににゃんにゃんの事を忘れかかっていたらしい。
「ちょっと、そんなに走ってるとこけるわよ」
「‥‥こけたな」
2人は悲しき背中を、生暖かい目で見送った。
その後万次郎が高知の浜辺で泣き崩れていたとか、アメリカに修行に渡ったとか、真か嘘かわからない噂が広まったとか広まらなかったとか‥‥。
●その頃のお姫様 その2
「なにいいいい〜! 半平太まで負けたじゃと!」
報告に容堂の顔が茹蛸のように赤くなる。今度は酒の入った徳利を壁になげつけた。
「むむむ‥‥。こうなったらワシが相手しちゃらぁや。みちょれよ、魔皇らぁよ」
1人扇子をはためかせ高笑いをあげる容堂を尻目に、
「‥‥ハイテンションなおっさんの相手も大変なのにゃ‥‥」
遠い目でその光景を見るにゃんにゃん。
「‥‥退屈だにゃ」
出番の少なさに思わず溜息をついてしまう、にゃんにゃん姫でありました。
●最終決戦天守閣! これぞ土佐の熱き血なり
「とうとう天守閣ね」
麗那は高知城内部の階段を上りながら、後ろに続く町娘姿のメレリル・ファイザー(w3a789)にむかって言った。
「それにしても‥‥狭いわね」
メレリルの言葉に柳原・我斬(w3b888)も、うむと頷いた。
高知城の天守閣‥‥つまり本丸は日本で唯一、江戸時代のものがそのままに残されている。昔のままの姿が太い柱や梁とともにそのままで大変貴重で珍しいのであるが、いかんせん昔のままなのでとにかく狭い。急な階段、低い天井。何も知らずに入った観光客が天守に登った時には、ヘトヘトに疲れ、翌日は筋肉痛に‥‥なんて事もあるらしい。
そんなこんなで、天守に登った魔皇達を待ち構えていたのは‥‥。
「にゃんにゃん!!!」
「魔皇様にゃ〜! 助けにくれたのにゃ〜!」
最上階の奥の床の間に縛られたにゃんにゃんの姿が目に飛び込んだ。
そして、その前に座るのは‥‥。
「よおここまできたにゃ。褒めちゃらぁ〜」
肘掛に手をつき、赤い杯の酒を煽る‥‥山内容堂である。後ろには腰元役のファンタズマが御銚子を構えて控えている。
容堂こと山内豊信は、若くして15代藩主となった山内容堂は、吉田東洋を参政に起用し藩政改革推進した。安政の大獄で謹慎を命じられるが大老の井伊が暗殺された後、復権して公武合体論で幕政に参加し、尊王激派である土佐勤王党を弾圧を行った。その後後藤象二郎の進言で大政奉還を慶喜に建白し、長きに渡った江戸幕府は幕を閉じるのである。酒と詩をこよなく愛した容堂公は、明治政府設立後も政治に参加する事無く放蕩三昧な日々を暮らしたという。‥‥土佐の血とでも言うべきだろうか。
そんな容堂公ごとく、この聖鍵戦士も‥‥かなり呑んでいるようである。
「酒臭いわよ‥‥」
メレリルとお揃いの町娘姿の逢魔・モーヴィエル(w3a789)の言葉に、容堂はフンと鼻息荒く反論する。
「土佐の男は呑んでなんぼ。小娘にはわかりゃーせん」
そう言い放ち、容堂は杯の酒を全部飲み干した。
「ほいたらやるかよ。おんしら‥‥覚悟しときや‥‥」
ファンタズマが差し出した赤箸を受け取り、容堂はゆらりと腕をだした。
「さあ!最初は誰ぜよ!」
その言葉に前にでたのは麗那。着物の裾を捲り上げ、麗那は勝負に挑む。
が‥‥容堂は強かった。最初一本だけ勝ちをあげたが、続けて点をとられ負けてしまう。八百長が行っていないか、見学のディルロードも見張っていたが、その気配は全くなかった。
「ふふん、大したことないにゃあ」
悔しげな麗那を尻目に、勝利の美酒を味わう容堂。
「次は誰がくるがかよ?」
前にでるは、メルリルにモーヴィエルである。負けた時の紅茶持参での戦いである。
結果‥‥お茶を沢山呑む羽目になる。
「まだまだやのぉ〜。お茶もええが、酒飲めるようになってから、また来いや」
『鯨海酔侯(げいかいすいこう)』と書かれた扇子をヒラヒラとさせて、メルリルを嘲笑する。
モーヴィエルも同じような結果であった。
「おーの、退屈ちや。次は誰がくるがよ」
「次は俺だ‥‥じゃない、俺ぜよ」
黒い羽織に『組合せ角に桔梗』の紋。懐にはモデルガンを改造した当時風のピストル。
「ニッポンの夜明けぜよ!」
我斬はご存知坂本龍馬の扮装であった。
龍馬についてはあまり説明はいらないだろう。土佐藩士で脱藩後薩長同盟の立役者となり、『海援隊』を率いて幕末の動乱を駆け抜けた、あまりに有名な幕末の志士である。彼の独創的で自由奔放であり、それでいて信念を貫いた彼の姿に尊敬し、今だ心酔している人々は多い。
「ほお〜、龍馬か‥‥。ちっとは手ごたえある戦いをしてくれそうやのぉ」
「‥‥さあ、勝負ぜよ‥‥これで如何かね? よし、まずは1本貰ったぜよ」
1本目はいきなり我斬が先手をとる。容堂は少し眉をひそめると、クイと杯を煽った。
しかしその後は‥‥。
「くう! 負けた!」
2対2のイーブンであったのだが、最後に容堂が点をあげ我斬が負けてしまった。
「ちょっとは手ごたえあったけんど、やっぱりワシには叶わんかったのぉ」
にゃんにゃん姫奪還の為と挑んだ勝負だけに、無念の表情の我斬。
その後ろから、のんびりとした表情で忍者姿の逢魔・レイル(w3b888)が現れた。
「私もやってみていいかしら?」
そう言いながらトコトコと容堂の前に腰を下ろした。そして「あら、お酒」と嬉しそうに言うと、注がれた杯をとり一口飲んでニコリと笑った。
「さて、よろしくお願いします」
今までと違うペースに、容堂はかすかに怯んだ。しかし、負けてはならぬと自分も赤い杯に酒を注ぎ飲み干す。
「いくぜよ!」
レイルは『ハイ』と言うとコクリと頷いた。
まずは引き分け。2人仲良く1杯飲む。
で、2回戦。
「勝ちました!」
喜ぶレイル。ムムと唸り杯一つの容堂。
続けて‥‥。
「またまた勝っちゃました〜!」
容堂の額に青筋が浮かぶ。赤ら顔は今にも噴火しそうなくらいで‥‥。
次は、引き分け。
「やっと呑めますね」
余裕のレイルの言葉に、容堂の体が小刻みに揺れる。
そして‥‥‥‥。
「‥‥はい‥‥3本。私の勝ち‥‥ですね」
ニッコリと微笑んだレイル。
容堂の体のどこかで、ぷちりという音がした。手にもった杯をコトリと落とし、容堂は立ち上がるとよろよろと歩きだす。
「ま、まさか‥‥まけ‥‥負けながかよぉぉぉぉぉ!!!!」
容堂は咆哮を上げながら、天守の外へと飛び出そうと‥‥‥‥ってここ最上階じゃ?!
「ぬぉぉぉ〜〜〜!!!」
「容堂さまああ〜〜〜〜〜」
天守ダイブを決めた容堂を慌ててファンタズマが追いかける。そして、ファンタズマに抱えられた容堂は、高知の空へと小さく消えていった‥‥。
「覚えちょけよ〜〜〜! 魔皇らぁ!」
遠くから響く声に、天守から眺めていた麗那は、
「あんまり覚えておきたくないな‥‥」
とボソリと呟いた。
●エピローグ 姫様のお気に召すまま‥‥
「にゃあ〜〜〜。きつかったのにょ〜。疲れたにゃ〜」
縛られていた縄を外してもらい、にゃんにゃんは手足を大きく伸ばした。
「お疲れだったな。お腹すいているだろう?」
夏樹は用意していた、オニギリとお茶をとりだす。
「天守から高知城下を眺めながら食べるのも一興だろう? あと饅頭も用意してるからな」
にゃんにゃんは大喜びでオニギリをとると、「オカカだにゃ〜」と満面の笑みで頬張った。
「とにかく無事でなによりだった。神帝軍も大恥をかいたと慌てて撤退したぞ」
加苗たちは半平太と遊んだ(?)後、きっちりと周辺の捜査をしていたらしい。容堂敗北の後神帝軍は姿を消し、ギャラリー達も『面白い余興だった』と満足気に祭り見物に戻って行ったらしい。
「加苗ちゃん、ありがとにゃ〜♪ って、なんで仲辰ちゃんは猫耳つけてるにゃ?」
「‥‥気にするな‥‥にゃんにゃん」
「気になるにゃ‥‥」
猫耳姿の仲辰の側にはハートマーク出しまくりの輔莉に、何故か仲辰の飼い猫たちが‥‥。ここでは説明できないが、色々とあったようだ。
「そういう趣味なのかにゃ?」などと思いながら、2個目のオニギリに手を伸ばすにゃんにゃんであった。
「ほら、たこ焼きだ。食い損ねたんだろう?」
信也は熱々のたこ焼きにお好み焼きもおまけしてもってくる。
これにもにゃんにゃん大喜び。猫舌なのに慌てて食べてしまうという、ご愛嬌までみせる。
「そこまで食ったら、もう腹いっぱいだろう? 俺も奢ってやろうかと思ってたんだが‥‥」
苦笑を浮かべる我斬に、にゃんにゃんは笑顔で答えた。
「平気にゃ。まだ腹八分だにゃ。にゃんにゃん育ち盛りにゃ〜♪ イカ焼きに〜、じゃこ天に〜、焼きとうもろこしにぃ〜、後は‥‥‥‥」
「では、後は我斬クンの奢りって事で‥‥」
ニッコリと微笑み、麗那は我斬の肩をポンポンと叩く。我斬がしまったと思った時には、もうすでに遅し‥‥である。
今日彼の財布の中身は‥‥かなり軽くなった。
「とにかく‥‥」
にゃんにゃんはスクリと立ち上がると、元気良く手を上げる。
「これからがお祭りにゃあ〜〜! 皆で満喫するにゃあ!!!」
その姿に、皆がコクリと頷いたのであった。
南国土佐。
今日も天真爛漫日本晴れ!
そんな、1日。
●おまけ
「ねえ、にゃんにゃん。ずっと気になってたんだけど‥‥」
天守を降り露店を巡っているにゃんにゃんに、メレリルが首を傾げながら話しかける。
「にゃんにゃんはシャンブロウなんだから、 『獣化』して逃げればよかったんじゃないの?」
おでんを咥えたままのにゃんにゃんは、きょとんとメレリルの顔を見返す。そして、沈黙が続き‥‥。
「えーと‥‥まったく、忘れてたにゃ」
にゃんにゃんは恥ずかしそうに、『てへ』と笑って誤魔化したのでした。
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