■【カラフルドロップス】パーティだよ全員集合!〜桃〜■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオ |
クリエーター名 |
幸護 |
オープニング |
天はどこまでも高く、海をうつしたようなターコイズブルーに輝いている。
突き抜けるような青空――。
蜜柑色の光球は暖かな笑顔で大地を照らす。
大きなふわふわの白い雲が一つ、ゆっくりゆっくり金色の風に流れている。
うつくしま、ふくしま。
豊かな自然に囲まれた、東北の“くだもの王国”
特産物の一つは桃。
主力品種は『あかつき』――これは『白桃』と『白鳳』を交配させて誕生した品種で、果汁が多く、果肉には締まりがあり、味は濃厚。
文字通り、ぴちぴちピーチ。
実は福島県は桃の生産量が全国第2位だったりするのである。
いやはや、何とも。
まぁ、だから何だと言われても困るのだが。
そんな福島県で、本日、大々的なイベントが開催される事になっていた。
神魔主催の野外パーティ。
神に属する者、魔に属する者、そして人。
互いの理解と親睦を深めようという目的の、福島では初の試みである。
これを足掛かりに、この地の和平共存への道を踏み出そうという実に重大なイベントだ。
パーティには多くの来場者が訪れると予想される。
「いいお天気‥‥」
「晴れて良かったですね!」
「楽しいパーティになるといいですね」
「いいえ、必ずそういたしましょう!」
「はいっ」
重責に心を引き締めつつも、着々と準備の進む会場で自然に表情が緩む。
パーティが始まろうとしていた――。
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シナリオ傾向 |
パーティ |
参加PC |
綾瀬・さくら
匂坂・嵐
グリス・グリーン
碧月・将
笹山・雛姫
早坂・榮
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【カラフルドロップス】パーティだよ全員集合!〜桃〜 |
●パーティ・パーティ
「やっぱり似合うなーvv もー、かわいーvv みゆきちゃんみたいな子供欲しいなー。産みたいなー」
みゆきとお揃いのメイド服を着た碧月・将(w3f747)は彼女の頭を撫で回し頬擦りする。
彼の望みがどれだけ深かろうと子供を産むのは無理だ。いくらメイド服が似合っていようとも。
「ほんとう? ボク似合ってる? 嬉しいな。将おにーちゃんもとっても可愛いよ!」
「ありがとv」
傍から見れば女の子2人連れ。まるで姉妹のように仲良くパーティの準備を始めた。
「ほんと可愛い♪ 小っちゃいのにお手伝いできて偉いね」
白のワイシャツに黒のパンツでウエイター姿のグリス・グリーン(w3f320)がみゆきを抱き締める。
「わっ。くすぐったい。グリスおねーちゃんはカッコイイね!」
「ありがと、みゆきちゃん♪」
会場はまだ整っていないが料理を運ぶ彼女らの明るい声で十分に華やかだった。
「僕は‥‥あまり‥‥華やかな場所にいるのは‥‥苦手‥‥なので‥‥皆様の料理を用意‥‥します‥‥ね」
逢魔・パープル(w3f320)は黙々と料理の手伝いをしている。
「‥‥何故おからが‥‥こんなに‥‥?」
特設の厨房で首を傾げたパープルにエレアノールがニッコリと答える。
「今日はアヤクス様もいらっしゃるからなのです。アヤクス様はおからが大好物なのですよ。ですから朝からトラックで運んだのです」
自信満々に胸を張るエレアノールだが、もし今日が『おからパーティ』だったとしても明らかに多過ぎである。
「へぇぇ、そうなんだぁぁ。アヤクスさんそんなにオカラ好きなの? 変わってるねぇぇ。ヘルシーだとは思うけど、でもこんなに沢山‥‥」
大量に用意されたおからを指差した将が「一体どうするの?」という視線を向ける。
「んー、パープル。これスイーツにならないかな? 栄養たっぷりで低カロリーだから女の子が喜びそうだよ♪」
「ケーキ‥‥クッキー‥‥ドーナツ‥‥マフィン‥‥プリンも作れます」
「おからでプリンもできるですか? とっても贅沢なのです」
パープルの言葉にエレアノールが瞳を輝かせうっとりとする。
「おからって豆乳搾った後のカスでしょ? 需要が少なくて廃棄処分に困ってるってテレビで見たよ。なんで贅沢なの?」
「福島ではアヤクス様がおからを全部買い占めているので手に入らない貴重品なのです」
「‥‥買い占めてるんだ」
「でも、アヤクス様は素晴しい方なのです。どうしてもおからが欲しいという方にはその熱い想いをレポート用紙50枚以上100枚以内で提出して頂いて分けてさしあげるんですよっ」
「‥‥レポート提出するほどおからに熱意持った人はあんまりいないと思うけどね‥‥」
やっぱり福島は大天使も変わり者なのか、と皆が遠い目をする中でエレアノールだけは何故か誇らしげな笑顔。
何はともあれ会話も弾み準備も大詰め。
●友情2004
「やっほ〜エレちゃん♪ 今日も頑張ってるね! あたしも手伝うよ」
「っと、フラフラしてんじゃん。重いもんは男手に任せておけって。‥‥それにしても見事に晴れたな」
走り回るエレアノールに手を振った早坂・榮(w3h873)と横からサッと料理の乗った重いトレーを持ってやった匂坂・嵐(w3b361)が彼女に笑顔を向ける。
「榮さん、嵐さん、ありがとうですっ。本当に良いお天気になりまして良かったなのです」
3人が見上げる空は文字通りの五月晴れ。
会場に広がる笑顔は、まだ夏の全盛ではないとはいえ降り注ぐ太陽光線にも負けない輝き。
こんな青空を見ていると全世界が晴れなんじゃないかと思ってしまう。
「やっぱ、日頃の行いがいいからでしょ♪ エレちゃんも頑張ってるしね」
「お2人共パーティに遊びに来てくださって嬉しいです。お客様なのですから今日は楽しんでくださいです」
「あー‥‥それなんだけど‥‥さ‥‥」
はちきれんばかりの笑顔を見せるエレアノールにバツが悪い表情を浮かべた2人が顔を見合わせて頭を掻く。
「実は‥‥さ、エレちゃんには悪いんだけど、隠してることがあったんだ」
「俺達、魔皇なんだわ。黙っててゴメンな」
「ごめんね、今まで黙ってて。でももう隠す必要なんてないよね。あたしさ、ホント皆が仲良くなれればなぁって思ってる。今はまだ難しいだろうけど、何時かはきっとできるよね」
「お前がファンタズマだって最初から知ってて‥‥それでもやっぱお前のことイイ奴だと思うし、友達でいたいと思う。‥‥これからも友達でいてくれるか?」
頭を下げて詫びた2人の真摯な瞳に戸惑いパニくったエレアノールが大きな深呼吸を一つ。
「あのあのっ、落ち着いてくださいですっ」
それはお前だ。
「昔の人が言っていたです。ミミズだってオケラだって友達なのです。私も榮さんと嵐さん大好きなのです。どれくらい好きかと言いますと、お星様がキラキラして、お風呂がホカホカするくらい好きなのですっ」
「その例えちょっと分かんねー‥‥」
「えっと‥‥ですから、第一印象から決めてました! 友達でいてくださいですっ」
榮と嵐に向けて手を差し出す。微笑んだ2人はエレアノールの手をしっかりと掴んだ。
「「「あはははは」」」
3人は互いの顔を見て声を上げて笑う。
小さな友情はこうしていくつも結びつき大きな大きな和平へと姿を変えてこの福島を導くのであろう。
「あ、これ俺の携帯の番号とメアドな。‥‥つーか、お前携帯持ってる?」
嵐がポケットから取り出した小さなメモをエレアノールに渡した。
「携帯‥‥あ、はいですっ。持ってますですよ。ポケットベルですよね? 見える範囲でしたら狼煙でも大丈夫なのですっ」
「エレちゃん‥‥。確かに携帯するから間違ってないけどポケベルって‥‥」
「いや、その前に突っ込むなら狼煙だろ」
「違いましたですか?」
「いや、そんなことだろーとは思ってたし」
毎度どこかズレてるエレアノールに溜息を漏らした嵐が苦笑する。
「さ、早く準備終わらせちゃお? 最後は皆で集合写真撮ろうね♪」
「はいですっ」
パーティはこれから。
●大切な時間
すっかり会場も整って高らかに開会宣言されると一斉に色とりどりの風船と鳩が空に舞い上がった。
「嵐さん、見て、見て! 綺麗やな」
綾瀬・さくら(w3b099)はパーティは勿論の事、久しぶりに嵐に会えた事もあってはしゃいでいる。
「パーティー‥‥美味しいご飯♪ 楽しみやな」
「ああ」
そんな彼女を見る嵐の瞳はひどく優しい。
「ちょっとすいませんよー」
ドン☆
「危ね‥‥」
乱暴に横を通り過ぎる清掃員からさくらを抱きとめて庇った嵐が一言文句を言ってやろうと後姿を見ると、清掃員は見慣れた獅子の尻尾を揺らして人込みに消えていった。
「あいつ‥‥」
「嵐さん、おおきに。‥‥どないしたん?」
「いや‥何でもない‥って、悪いっ!」
腕の中で真っ直ぐ見上げるさくらの視線に我に返り慌てて手を離す。
謎の清掃員の思惑とは裏腹にピーチフル増進。木の影から舌打ちが聞こえた。
「中央ステージで野外リサイタルやってんねんな。後で行ってみよ?」
パンフレットに視線を落としたさくらの言葉に嵐が苦笑する。
「あそこは戦場っていうか‥‥近寄らない方がいいと思うけどな」
「どんなリサイタルやの、それ?」
笑うさくらに笑えない嵐。
遠距離恋愛中の恋人達は時間を惜しむようにパーティを楽しむ。
嵐に戦場だと言わしめた中央ステージでは――。
「またレオ様に会える事になって良かったですわ〜♪」
お手製の法被を着て、モールをあしらったレオの顔写真付き団扇を手にした逢魔・真珠(w3b361)。
「あぁ‥‥愛しのレオ様の野外リサイタルvv もう楽しみで仕方ありませんわっ」
大きな花束を抱えた逢魔・奈菜(w3h813)はうっとりと世界に入っている。
「レオ様‥‥今日もお美しいのでしょうね」
ほぅっと吐息を漏らしたレティ子こと逢魔・レティエル(w3h873)は蒼のアオザイに身を包んで頬を染める。
当然ながら最前列に陣取る逢魔3人娘。
一人紛い物が混じっていようとも、見た目には3人娘でいいのだ。いいのだとも!
●戦場のガールズ・ライフ
「レティ子さん、奈菜さん分かってらして?! これもわたくしの愛がルフス様を動かしたからですわ!」
「なにを仰いますの、真珠さん。全て私のレオ様への愛ですわ」
「青いですわ! 真珠さんも奈菜さんもお若いから私のように大人の愛はご存知ないんじゃなくて? 本当に可愛らしいですわ。おほほほ」
「「んまー! レティ子さん、バカにしないで頂きたいですわっ」」
既に火花というよりは打ち上げ花火ドッカン☆
そんな3人の様子を笹山・雛姫(w3h813)は大きな溜息を吐き見ていた。
明るく活発な彼女は、普段なら「野外パーティだ〜! いっぱい楽しむぞぉっ!」と、誰よりも元気にパーティを楽しんでいるはずであるが――。
ツンと唇を尖らせてストローを咥える。
搾りたてのグレープフルーツジュースの苦味と酸味が口に広がる。視線を向けている相手は雛姫の気持ちなど知らず言い争っている。
(「最近レティエルさんレティ子ばっかりで、ひなのお相手全然してくれない。しかもレティ子はレオ様に夢中だし‥‥ひなってなんなんだろう。切ない‥‥」)
極普通の恋する少女の悩みである。
悩みの種である相手の奇癖さえ除けば。
「「「きゃ〜!!! レオ様〜♪」」」
宙吊りで登場したレオに割れんばかりの歓声が響いた。
「げ〜んこ〜つ山のた〜ぬきさん〜」
選曲は相変わらずであるが、他の観客同様‥‥いや最前列で率先して逢魔3人娘も歌い踊っている。
「やぁ、小鳥たち。ボクとの素晴しい時間をその小さなガラスのハートに刻んでくれ給え」
「「「きゃ〜vv」」」
「‥‥‥‥ばっかじゃないの?」
Lサイズの紙コップに入ったポテトを頬張る雛姫の意見は実に尤も。
「レオ様素敵ですわ〜」
「やはりお美しいですわ‥‥」
「レオ様〜! こっち向いてくださいっ」
奈菜とレティ子はうっとりと見入り、小さな真珠はピョンピョンと飛び跳ねて団扇を振っている。
通りかかったさくらは「何やすごいねんな‥‥」と言葉を失い、嵐はげんなりと視線を背ける。
●愛は地球を救う?
「あ〜〜〜っ、なんだかちょっともう我慢の限界! いつまでもレティ子をのさばらせておくわけにはいかないわ! 本妻の意地見せてやるっ!」
暫くお笑いライブ‥‥もとい、レオのリサイタルに夢中になっているレティ子を眺めていた雛姫がとうとうキレた。
観客を掻き分けてレティ子に歩み寄ると無言で服を剥ぐ。
心は乙女(?)身体は暦とした青年の肌やその他諸々が露になるがレオのステージに夢中で誰も気付いていないのをいい事に雛姫はそのまま見事な早業で着替えさせ走り去る。
「あれ? 何だここは? はっ‥‥俺、またレティ子になってたのか‥‥」
女装を剥がされ我に返り、レティ子からレティエルに戻った男が周囲を見渡し、静かに落ち込んだ後で雛姫を追う。
「もうっ! いつまでひなのこと放っておくの? そんなことばっかりしてたら‥‥ひな、浮気してやるんだからっ!」
「ひな‥‥えっと、そのなんだ‥‥さっきは悪かった‥‥じゃない、そんなことを言いたいんじゃなくて‥‥俺と、結婚してくれ!!」
「えっ?」
ステージの見えるカフェスペースで、ぷぅっと頬を膨らまし拗ねている雛姫にそっと近寄ったレティエル。彼の差し出した手の上の小さな箱を開けた雛姫が目を見開いた。
「指輪‥‥。ホントに‥‥? ひな‥‥嬉しいよぉ」
陽の光を受けて深く輝く紫は彼女の誕生石――アメジスト。
抱きついた雛姫の瞳には涙が光っている。
「なんか、めでたい事になってるねー」
レティエルの魔皇である榮も見守っていたようである。もしかしてネタの為? という疑問は持っちゃいけない。
「プロポーズなんて素敵だね。おめでと☆ これはボクから2人にお祝いだよ」
ウインクしたグリスがテーブルに飾られた花で手早く首飾りを作ってかけてやる。
「ありがとう」
周囲に祝福されて少し照れながらも2人は幸せな笑顔だ。
「おめでとう! せっかくだし、このまま結婚式しちゃおvv」
将の提案に皆が賛成した。
即興的ではあるが協力して会場の隅に花を飾り、セッティングを終えるとみゆきが大天使アヤクスの手を引いて走ってきた。
「アヤクスおにーちゃん呼んできたよ!」
「あのな、俺は神父じゃないぞ。‥‥まあ、幸せにな」
咥え煙草のアヤクスが雛姫とレティエルに手をかざすと指先から光の粒がキラキラと2人を包んだ。
「おめでとー」
「お幸せにね♪」
光の中で互いを見詰め、誓いのキスを交わした2人に心からの拍手を送る。
「お疲れ様。ささ、ここはいいからみんなパーティーに参加してきてv」
厨房に戻ったグリスはその場にいた仲間を送り出す。
(「2人っきりになったらパープルといちゃいちゃ‥‥ムフフ♪」)
「パープル、ボクも手伝うね。結婚式すてきだったよ☆」
「丁度いいですね‥‥今‥‥大きなケーキを焼いているので‥‥後で‥‥皆さんのところに‥‥運びましょう」
「それまでは2人っきりだよ☆」
「グリスさま‥‥」
にんまりと笑って少し焦るパープルを抱き締めるグリス達の周囲はデザートの甘い香りが漂っていた。
●想い
パーティも終わり、嵐とさくらはバイクで武尊山に向かった。
「さくら、東京まで送ってやれなくてゴメンな‥‥。まだやり残してる事があるんだ」
「ううん。気にせんといて。嵐さん、今日は誘ってくれて‥‥ホンマおおきに、です。嬉しかったで♪」
にっこりと微笑むさくらに安堵したがチクリと鈍く胸が痛む。
「俺は多分“良い恋人”じゃないよな。なかなか会えなくて、きっとさくらの事不安にさせたりしてるんだろうし、この前も怪我して泣かせちまったし。‥‥今もお前の事、置いていこうとしてる。辛い思いさせてばっかでゴメンな? でも、この戦いが終わったらさ‥‥きっと迎えに行くから‥‥もうちょっとだけ辛抱して待っててくれるか?」
真っ直ぐに向けられた嵐の瞳。
「‥‥あたしね、嵐さんと出会えて良かった。こんな不安定な世界やけど‥‥嵐さんの存在があったからこそ、あたし辛くなかったねんよ。離れてても心は近くに感じてたねんで。‥‥だから、待てるよ。安心してな」
嵐から貰った『toS fromA withLOVE』の文字の刻まれたメッセージリングを指先で愛しそうに撫でる。
「‥‥でも。迎えに来たら、もう絶対あたしから離れんといてね。どこにも行かんといて。お願いやから‥‥ずっと一緒におって?」
「ああ、約束する。さくら‥‥」
2人の唇がそっと重なった。
「大好きやねんで、嵐さん♪」
陽は山に沈みかけ、2人の想いと共に、すべてを唐紅色に染めた。
「このまま終わると思うなよ、ピーチフルめ!」
暗躍するPSS団のリベンジはこっそり続く。――待て次号(ぇ |