■【火の島鳴動・外伝】【翡翠・紫の夜】炎の神殿■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 シーダ
オープニング
「四国や北部九州は対処療法で行くしかないな‥‥ 問題は主戦派のそろった南部九州だ。今では緋の焔の勢力圏として地盤を固めつつある。それぞれのテンプルムの意見調整のために各神殿が呼応して部隊を動かすところまで入っていないようだが、セフィロトの樹に代わる組織が現れるのは時間の問題‥‥」
 紫の夜の根回しと実施のために鼎抜きではあったが、その場での全権を委ねるという形で行われた翡翠の密たちによる会議。結果、それは情報交換とそれぞれの地区の神帝軍のスタンスの確認に終始して大した進展は見られなかった。それは実質それぞれの地域で対処するしかないということだ。結局、北部九州、沖縄を含む南部九州、四国と大きく区域を分け、それぞれを天神の密・黒木、鹿児島の密・十文字隼人、パルステラの3人が受け持って各自対処するという方向性で決着した。
 しかし、穏健派テンプルムとの和平交渉、その話し合いの過程で問題になるとわかりつつも鹿児島テンプルムは捨て置けない。特に翡翠の森を徹底的に焼いた緋の焔だけは‥‥ それが翡翠の総意であった。これを無視するわけにはいかず鹿児島テンプルムの攻略は実施されることとなった。作戦としての意義を見い出すなら、ペトロのときと同じく頭を潰すことで主戦派に状況が傾かないようにしようというものである。
「他の地域での交渉への影響を無視しても、緋の焔と鹿児島テンプルムだけは落とす」
 隼人の発言を最後に、5月15日の紫の夜での魔凱の割り振りを決め、会議は終了した。

 鹿児島テンプルムの攻略に当たって、要塞化しているあの地を攻めるのは非常に困難だった。多数のサーバントたち、オルガユニットを中核とするネフィリム部隊、そして精強で知られるマグマイト部隊、鋼のジム・スミス、鹿児島テンプルムのコマンダーであり圧倒的な強さを示した緋の焔‥‥ テンプルムを攻略するとなると、さらにマザーとの対決も残っている。前途多難ではあったが、やるしかない。そんな逢魔たちの決意を支えるように多くの魔皇たちが攻略戦に参加してくれることになった。

 神幸祭。九州では福岡県あたりで行われる祇園会の流れを汲む祭りである。神様が降臨するときの目印となる美しい山車を引き回し、野を翔け、川を練り渡って緋色の幟を揺らす。悪疫退散の祭りとして始まったこの壮烈な水合戦は、穢れをはらう儀式として知られている。日本の神は、山車を乱暴に引き回したり、神輿や山笠の喧嘩が好きである。勇猛果敢、血沸き肉踊る祭りで大いに遊ぶのだ。神帝がそうであるかはわからないが、桜島を山車、マグマイトを幟に見立てた洒落者がいた。
「桜島神幸祭の始まりだ!! 全騎、突撃せよ!!」

 5月15日、翡翠の司・鼎は古の隠れ家の黒城を訪れていた。
「歩美の留守というのにすまぬな」
 鼎は翡翠の密たちを連れて黒曜石の間で何かを待っている風である。
「いえ‥‥ あぁ、どうやらこちらの用意が整ったようです」
 蒼嵐の密が席を立つと鼎たちはその後に続いた。そして案内された場所、それは儀式の間であった。この時期に行うといえば、当然ながら紫の夜の儀式。ペトロとの決戦で翡翠を失い、緑城は当面は再建不能となっており、紫の夜を実施する術を持たない鼎は瑠璃か蒼嵐を頼るしかなかった。そんな折、隠れ家同士が近いこともあって早速行われた歩美との会談で互いの状況を確認していくうちに、翡翠には儀式の間、蒼嵐にはある作戦でレギオンが必要だという結論に至った。利害が一致すれば交渉は容易く成立する。歩美の好意もあり、翡翠への黒城の儀式の間の間借りと全面的な支援を引き換えに蒼嵐へのレギオン貸与が行われた。

 かくして翡翠の紫の夜は発動し、桜島へ着実にかなりの数の殲騎の一団が押し寄せている。
「奴らなど蹴散らしてやるわ」
 美しい少女の顔に残虐な笑みを浮かべた鹿児島テンプルムコマンダーの緋の焔はマグマイト・ヴァーチャーの格納庫へ向かおうと立ち上がった。
「お待ちください。新たなるセフィロトの樹を建てるためには焔様は欠かせぬ存在。よもや魔皇ごときに引けをとるとは毛頭考えてはおりませぬが、敢えて危険を冒す必要はありますまい。我らマグマイト部隊に汚名返上の機会をお与えください」
「‥‥ わかった。しかし、いつまでも失敗に付き合ってはおれぬ、そのときはお前たちの命で償ってもらう。それでも良いのだな」
 相変わらずの断定口調の質問‥‥ グレゴールたちに肯定の返事しか残されてはいない。
「では、全部隊はマグマイト隊の指揮下に入り、出撃せよ」
 焔の命が下り、鹿児島テンプルムは戦闘態勢に入った。しかし、鋼のジム・スミスだけはその場を離れようとしなかった。
「ジム、お前は行かないのね」
「ハッ、テンプルム内部を守る手錬も1人くらいはいたほうが良いかと‥‥」
「嘘ばかり。聖鎖や白銀のトーガは広いところでは戦いにくい‥‥ということですね。いいでしょう。あなたにはマザールームを中心とした重要区画の防衛を命じます。好きにしなさい」
 ようやくジムは焔の側らを離れた。ホールに1人残った緋の焔は玉座に座り、いくつものスクリーンに映し出された戦況を楽しそうに眺め始めた。
「フフ、楽しませてほしいわね」

「さて‥‥ 戦況からいくと流れは魔皇にある‥‥ 焔様の動向次第では一気に神帝軍有利に傾くが‥‥」
「今のところ魔皇有利には違いない‥‥と?」
 鋼のジム・スミスと彼のファンタズマは大回廊を歩いてマザールームを目指していた。
「本当は戦いたくはない‥‥が、焔様のギアスには逆らえん。魔皇たちと交渉の場を持ち、和平へ向けて動いているテンプルムもあるというのにな」
 2人の表情はどこかしら冴えない。
「インファントテンプルムとの接触以来、私たち2人も魔皇たちと対決せねばならないという強迫観念にも近い考えから開放されつつあります。ガイザック様たちも今の私たちと同じ気持ちだったのかもしれませんね‥‥」
「あぁ、あいつがあんなに簡単に敗れるわけがない。心に迷いがあったということだろうな‥‥」
「ですが‥‥」
「わかっている。俺たちは死なない。必ずこの戦いを生き延びてやる‥‥ 神魔のために俺の技術力が必要になるはずだ。今はギアスが解けるのを待つしかない」
 2人はマザールームの扉を開いた。そこにはマザーは美しい女性の上半身に、ぶよぶよと醜く膨らんだ女王アリを思わせる下半身を持った天使が鎮座していた。

「翡翠の興亡はこの一戦にあり!!」
 隼人の通信を機に、桜島南岳の上空では指宿組とマグマイト部隊が戦闘を開始した。残り少ない魔皇側残存兵力は、その隙に鹿児島テンプルムを直接攻撃を敢行する。中腹の穴から突入する者、ドリルで地中を進みテンプルムを目指すもの、方法は様々だが確実にテンプルムへと迫っていた。緋の焔の動向が気になるが、残った戦力で戦うにはそれしか手は残されていない。紫の夜の時間があまり残されていないからだ。

 なんとか10騎ほどの殲騎がマザールームと思われる一角にたどり着いていた。
「ここを落とさなきゃ、どうにもならない。いくわ!!」
 扉を目指して走り出そうとした殲騎の胸を鎖が貫いて、ドゥと倒れた。
『この先へは魔皇たちは行けないことになっているんだ。無駄な戦いはしたくない。引いてくれると、こちらとしては楽でいいんだがな』
 開かれた扉の向こうから真紅の騎体に白銀の鎖とトーガを纏ったネフィリムが現れた。その先にはマザーらしき影が見える。
「そうも言ってられないわ!! 両断剣!!」
 胸を貫かれた殲騎を引き起こすと迷わず突っ込む。
『チェーンストリーム!!』
 神輝力を付与された鎖が魔皇の攻撃を打ち消し、近くにいた魔の者たちにも星雲の煌きを焼き付ける。
『さて、どうする? 引くなら見逃してもいいが』
 激戦の決着が神魔のどちらに傾くのか、それはまだわからない‥‥
シナリオ傾向
参加PC 葛葉・刹那
ミシュラ・デバンド
神楽・蒼
彩門・和意
御堂・陣
クリス・アンドウ
獅瞳・雪嶺
刀根・要
琥龍・蒼羅
天狼寺・瑛斗
【火の島鳴動・外伝】【翡翠・紫の夜】炎の神殿
●【火の島鳴動・外伝】【翡翠・紫の夜】炎の神殿
●ガラスの綱渡り
 マグマイトの相手をする主戦力を割いてでも、まずは鹿児島テンプルムを落とす‥‥ それが鹿児島テンプルム攻略部隊がギリギリの状況で選択した作戦だった。圧倒的な強さを誇る緋の焔を倒すにはエネルギーの供給を絶たなければ話にならない‥‥ そう判断したのである。しかし、それは魔皇たちの思惑通りに進めばこその作戦であり‥‥、分の悪い賭けだった。彼らの運命が導くは希望の勝利か。それとも絶望の果ての死か。

「九州を平和にできれば、私の護る大分の地も安全ですからね。なんとしても戦闘を続けたがる者を落としておかないと安心できない。そのために鹿児島テンプルムはあってはならないんです」
「そうだね、要さん。アラストルとは戦い方がだいぶ違うけど、やってみせる」
  刀根・要(w3g295)や獅瞳・雪嶺(w3g113)をはじめとして、長崎や福岡の戦いの目処が立ったと判断した魔皇たちや九州に拠点を持つ魔皇たちが鹿児島テンプルム攻略に多く参加していた。壁を壊し、回廊を進み、たどり着いたのは‥‥
「あれは‥‥ マザールーム? それにマグマイト‥‥」
 神楽・蒼(w3a615)は、念のために真魔炎剣<フレイムパニッシュメント>を次の囮番である自分と御堂・陣(w3c324)、刀根にかけることにした。

「後は‥‥頼む」
 血気にはやった殲騎が鎖に貫かれ、SFをくらって撃破された。
(「少しでも早くマザーを倒して、指宿組の負担を減らします。でないと、なんのために指宿組を離れてまでこっちに来たのか」)
「みんな、さっきのは白羽陣衝でしょう。魔の攻撃の無効化に加え、魔力によるカウンター攻撃を行う攻防一体のシャイニングフォースです。気をつけて」
『さすが指宿組ですね。ですが、銀鎖陣衝は攻防一体の私の騎体を補助するだけのものでしかありません。便利だから使っているだけ‥‥』
 ジムが喋る間にも彩門・和意(w3b332)はマザールームに凶骨魔凱殲騎・二重の虹を近づけようとしたが、鎖がそれを遮る。
『そちらには行けないと言ったはずですが』
「右に二歩! 頭を下げて、そのまま前進ですわ!」
 逢魔・鈴(w3b332)の叫びに反応して、マグマイトの攻撃を間一髪でかわす。
「任せろって、師範代に言っちまったからな。俺なりにやるさ」
 敵に出会ったら最低限の戦力を残して他のメンバーを先へ進ませる。その順番が御堂たちに回ってきた。なんとしても魔凱殲騎2騎をマザールームへとたどり着かせなければならない。
「いくら剣一郎さんたちでも厳しいでしょうから、私たちが道を開かないといけませんね」
 逢魔・ハルナ(w3c324)は合鎚を入れて、御堂を落ち着かせようとする。よりによってこんな強敵で自分たちの番が来るとは‥‥ 真狼風旋<ハウンドヘイスト>を発動させ殲騎・Jブレイカーをマグマイトに接近させる。
「さてジムさんよ。仲間の邪魔をするってんなら、俺の一撃があんたを貫くぜ。この瑠璃戦線のエース御堂陣様とJブレイカーを見くびるなよ!」
 得意のハッタリである。それがわかっているだけにハルナも覚悟を決めるしかなかった。
『あなたがスピードに自信があるのはわかりました。でも、それでは私は倒せませんし、ここは通れませんよ』
 真ドリルランスを握る手がギリリと鳴り、挑発とも思えるジムの言葉に御堂が身を硬くしたのが殲騎越しに伝わる。
「じゃあ、ここは何があっても通さないって言うんだな?」
『そう言いました』
 魔皇たちに緊張が走る。
「あの人に側にいると誓ったから‥‥ 必ずあの人の側に帰ります‥‥」
 やはり、戦いは避けられない‥‥ 神楽は、射撃のための好位置を確保するために少し後退した。

「御堂、いくぞ」
 刀根の殲騎・嵐狼の動きにあわせてJブレイカーがマグマイトを挟み込む。
『無駄だと言っているのに』
 マグマイトから2本の鎖が伸びる。嵐狼は回避機動をとりながら真ブレードローラーで床を削る。鎖は岩を砕きながら嵐狼に迫るが、寸での所で届かない。
「今だ!!」
 魔炎を帯びた真グレートザンバーを鎖に打ち下ろす。パキィィン!! 鎖には魔の力を弾く力がある。それは魔皇殻であろうがDFであろうが関係なかった。
「鎖、来ます」
 ハルナの言葉に反応するように御堂はJブレイカーの真ロケットガントレッドを射出し、持っていた真ドリルランスの回転で絡め取った。
「角は飾りじゃねーんだよ!」
 一気に間合いを詰めて真燕貫閃<スワローピアッシング>を付与した真ビーストホーンを叩き込む。しかし、それは白銀のトーガによって弾かれた。
『だから無駄だと言ったのに』
 マグマイトは鎖を振るって絡まりをとると、すぐに構えなおした。
(「倒すべきはマザー。皆わかってることだろうからね」)
 ジムの注意を引くこと‥‥ 御堂たちは、とりあえず充分に役目を果たしていた。だが‥‥
「硬てぇ‥‥ 倒せるのかよ」
 あまりの実力差に御堂得意のハッタリすら出てこない。
「付け入る隙があるのか?‥‥」
「要、香奈が心配でも無茶はするな。ジムはアイテムの能力もあるが一筋ではいかない。でも、なにか突破口があるはずだ」
 気弱になる刀根に逢魔・羽生(w3g295)が発破をかけた。
 神楽の殲騎・リーゼが天井に向け真ブレストミサイルを撃った。その瓦礫はマグマイトの頭上に降りかかる。真狼風旋<ハウンドヘイスト>を発動させた魔凱殲騎の二重の虹と蓮姫を先頭に、扉の辺りの外壁へ突進した。
『させません』
「それはこっちのセリフだ!!」
「そうですわねぇ」
 ミシュラ・デバンド(w3a361)と逢魔・ミレニス(w3a361)が叫ぶと同時に、殲騎・ガイススリンガーの真戦いの角笛が鳴り響く。
『フッ』
 衝撃波を受け、マグマイトが踏ん張る。
「人と戦うのは‥‥もう、嫌だけど‥‥ 知り合いの人が傷付くのは、もっと嫌!!」
 マグマイトの足元へ向け、神楽は真ブレストミサイルを打ち込んだ。
「一瞬だけでも、止まってっ!」
 砕ける床に一瞬グラつくが、素早く飛び退いて火炎を放った。嵐狼が真旋風弾<スケイルシュート>を放ち、炎を散らす。
「止まれよ!!」
 ミシュラが放った真凍浸弾<コールドシュート>は、宙を舞う鎖で弾かれた。リーゼが真ブレストミサイルを連射する中、ガイススリンガーが真バスターライフルを発射した。魔力の閃光がマグマイトを包み、マザールームの壁を崩す。
「行け!!」
 ミシュラが叫ぶより早く、彩門たちは穴へと飛び込んでいた。

 部屋に真っ先に飛び込んだ二重の虹と蓮姫をSFの光弾が襲う。内部には多数のファンタズマが飛び交っている。
「あるていど予測してましたが、これほどとは」
 あらかじめかけておいた二重の虹の祖霊の衣が破られ、鈴がすぐに張りなおしたが、それも破られてダメージが騎体を軋ませる。やはり、SFは厄介だ。無論、SFを無効化する蓮姫は無傷なのだが‥‥
「‥‥あまり時間をかける訳にはいかんな‥‥」
 マザーへ真狙撃弾<スナイピングシュート>を放つと、琥龍・蒼羅(w3h554)は殲騎・アブソリュート・ゼロ・ストームを突入させた。
「えぇ、一気に押切りますよ」
 葛葉・刹那(w3a213)も殲騎・ファイアクレストを飛び込ませると真デヴァステイターを乱射した。
「後は頼むで」
 天狼寺・瑛斗(w3i745)も殲騎・ガンウルフで後を追う。部屋に残る爆炎を割って、次々と殲騎がマザールームに侵入した。

「僕が先に行く。その方が戦いやすいからね」
 マザーとファンタズマたちの光弾が、脇目もふらずに突進するウインターフォーク魔凱殲騎・蓮姫を襲うが、そのことごとくが弾かれ、マザーやファンタズマに恐怖の表情が浮かぶ。
「僕達は生残る! そして短くても戦いの無い日を作るために! 消えろ、マザー!!」
 獅瞳・雪嶺(w3g113)が吼える。群がってでも止めようと必死に纏わりつこうとするファンタズマを爪で引き裂き、口にくわえた真生贄の短剣で両断した。サイドステップを織り交ぜながら、まるで忍犬のごとくマザーに迫る。格闘能力をほとんど持たないマザーやファンタズマにとってSFを無効化するウインターフォーク魔凱殲騎は天敵以外の何者でもなかった。
「僕の役目は!!」
 ズガァァン!! ファンタズマを振り切った蓮姫は、背中に装備した真ランスシューターの槍をマザーに突き立てた。
「雪嶺!!」
「わかってるアル」
 逢魔・羽鈴(w3g113)の発動させた吹雪の空間により幻覚の吹雪がマザーを襲い、目に見えてその動きが鈍くなる。

「瑛斗、スピンムーブからストライドストップ!」
 逢魔・深華(w3i745)の指示で、ガンウルフは軽やかに、しかし急激に回転を伴ったステップを踏み、マザーに肉薄する。
「ペネトレイト!! いっけ〜!!」
 踏み込んで必中の距離から真ルシファーズフィストを投げた。無数の棘を持つ巨大鉄球がマザーに激突し、ブシッと体液が飛び散る。反動で投げた鉄球は間に割って入ったファンタズマの冠頭衝<サークルブラスト>で無効化された。
「なら、こうや」
 速射された真パルスマシンガンの魔弾がファンタズマたちを吹き飛ばし、そのまま距離をとって巨大鉄球の間合いギリギリまで下がる。速射された魔弾を天使たちの光が打ち消したが、それも一瞬のことでしかない。真六方閃<ヘキサレイ>をマザーを撃ち、再び放った真ルシファーズフィストがファンタズマを潰しながらマザーへと食い込んだ。
「キャー!!」
 マザーが悲鳴をあげ、ガンウルフに天使たちの注意がいく。
「まずは一撃!!」
 その隙に二重の虹の大鎌がマザーの胴を横薙ぎにする。見せ球の鈴の魍魎の矢をSFで打ち消したために、マザーは大鎌を打ち消すことができない。
「こちらも忘れないほしくないな」
 ファイアクレストが真両斬剣<ギガプレイクス>を付与した真クロムブレイドで肥大化した腹を割き、今度はこちらへと注意が向いた。そこへ、引き戻した大鎌の一撃がマザーに直撃する。
「ファンタズマは予想外だったが、作戦を変更するほどではない‥‥ ゼフィ、いくぞ」
「マザーの周囲以外に敵の姿はない! 撃て!!」
「狙いは‥‥外さん」
 アブソリュート・ゼロ・ストームが真ショットオブイリミネ−トで牽制して、逢魔・ゼフィリス(w3h554)の指示でスラスターライフルの連射をくらわせる。
「大鎌での一撃を確実に決めるための詰めを邪魔させない!」
 クリス・アンドウ(w3e363)の殲騎・ブリッツァーが展開した2基のフォビドゥンガンナーとマザーを狙うスラスターライフルが次々と火を噴き、十字砲火をくらわせる。
「ファンタズマ、来ますわ」
 逢魔・アミレント(w3e363)がクリスに注意を促す。
「母様をお護りするのよ」
 数十体ものファンタズマが後衛の殲騎へSFを放とうとしていた。照準をファンタズマに合わせようとして一瞬の隙が生じる。
「間に合わない‥‥」
 しかし、クリスへ光弾が届くことはなかった。
「氷の壁を展開したよ!! 止めを!!」
 真シューティングクローを打ち込んで、完全にマザーに取り付いた獅瞳から一斉攻撃の合図が出た。氷の壁を通してはSFだけでなくDFも効果を発揮しない。しかし、有効な攻撃方法がSFしかないマザーやファンタズマと魔皇殻を持つ殲騎では圧倒的に立場が違うのだ。
「ファンタズマは任せて!!」
 クリス、琥龍、天狼寺が1体、また1体とファンタズマを屠っていく。ファンタズマはその身を挺してマザーへの攻撃を受け、その数が見る間に減っていく。
「チェックメイト‥‥だ」
 床を壊しながら大鎌を振り降ろした二重の虹を見て、琥龍が呟く。
「九州での和平のため主戦派鹿児島テンプルムの生命線、ここで滅ぼさせていただきます」
 葛葉と天狼寺は、大鎌に巻き込まれないように殲騎を後退させる。二重の虹は大鎌を引き上げるようにして巨大な胴体と上半身を切断し、転がった上半身を真燕貫閃<スワローピアッシング>で潰した。

「あとはお願いします。僕は次の予定がありまして」
 彩門は一言残すと、送還される二重の虹と共に鈴とマザールームから掻き消えた。

●ジム
「マザーを倒しテンプルム攻略は実質的に終了です。早く別のマザーとパスを通さないとファンタズマが消滅しますよ」
 葛葉はマグマイトに殲騎を近づけた。
『フゥ‥‥ 抜かれてしまいましたか』
 ジムの溜息が聞こえたとき、刀根はふと思った‥‥
(「ジムは戦いを望んではいないのではないか‥‥」)
「ジムさん、今翡翠は和平に向っています。貴方達は何故まだ戦いの火を広げようとするのです。剣を引く気はありませんか? 貴方にも解っている筈です」
『各地のテンプルムと和平交渉を試みている瑠璃より先に翡翠が和平を物にするとは‥‥皮肉なものだな。どちらにしろ、どこかのテンプルムでマザーとの繋がりを持たなくちゃならない。それに‥‥』
 闘いの傷をアミレントが癒しの歌声で回復し、火傷を羽鈴が効能の泉で癒していると‥‥ ズズム‥‥ 鹿児島テンプルムが震えた。
「こりゃヤバイわ。逃げるで」
 天狼寺は仲間に撤退を促した。殲騎に混じってジムのマグマイトも鹿児島テンプルムを脱出した。
『お前たちにはどこかで会うかもしれないな。そのとき敵でないことを祈るよ』
 マグマイトはマグマの中に消えていった。

 直後、桜島が吼えた。この数年噴火らしい噴火をしていなかった南岳から巨大な噴煙が上がっている。それは桜島神殿の崩壊を意味していた。

●援軍
 桜島上空へ時空飛翔した彩門と鈴は、空中で二重の虹を再召喚しながら大鎌を振りかぶった。
「マザーは倒しました!」
 眼下に迫るマグマイト・ヴァーチャーに、躊躇なく自由落下の加速も加えた一撃を振り下ろす。
『なにっ!? 新手なの?』
 攻撃を受け流そうとした戦篭手ごとヴァーチャーの左腕が吹き飛ぶ。
「遅れた分は挽回します」
 ディフレクトウォールを正面に構えた二重の虹がヴァーチャーに突っ込む。真燕貫閃<スワローピアッシング>を付与した真ドリルランスで自分の盾ごと貫こうとしたが、逆に閃神輝掌<スパーキングフィンガー>を付与された火炎剣がディフレクトウォールを砕いて二重の虹の頭部を吹き飛ばした。再召喚時に張りなおした祖霊の衣がなければ危なかっただろう。
「これ以上はもちません。和意様、引いてください!!」
 鈴は無理矢理に時空飛翔した。