■クレセントムーンを探して・5■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオ |
クリエーター名 |
マレーア |
オープニング |
「んふふ〜☆ いやぁ、月食見ながらの放送、楽しかったわぁ♪」
‥‥ああ、そこ、気味が悪いとか言わない。
先日の仲間にも知らせずに行われたゲリラ放送、ダウンロードも上々で。ちょっとばかりご機嫌な三日月聖良さん永遠の十八歳。鼻歌交じりに会議室の扉を開ける。
『一人で危険なことして』と恨めしげなスタッフの視線も何のそのだ。
「おはよ〜☆ みんな来てるわね? はてさて、今度の放送だけど〜」
「その前に、訊きたい事があるんだが」
一人のスタッフの挙手。言葉を止めた聖良が彼の方へ顔を向ける。男性スタッフは、少しばかり口ごもりながら。
「‥‥これから、この『部隊』はどうするつもりなんだ?」
きょとんとする聖良。一瞬静まり返ったブリーフィングルームに、ざわざわと声の波が寄せる。
「そうだよな、特に戦うわけでもなくのんびりラジオだなんて」
「情報戦って大切よ、この間だってほら、出会い系サイトの」
「今のこの山口で? 『垂れ流し』は『情報戦』とは言わねぇぞ」
既に私語とは言えない程の音量に達した瞬間。パン、と聖良の両手が合わせられた。
「ストップ。ぐだぐだ言ってても仕方ない事でしょ? ‥‥そうね、じゃあ今日の会議の前に少しその辺の話もしておきましょっか」
茶金の髪を翻して。
海賊放送のキャプテンが、ホワイトボードに向かって立ち上がった。マジックでくきくきと、あまり綺麗ではない文字で書き綴る。
『クレセントムーン 今後の展開戦略について』
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シナリオ傾向 |
シリアス、ビジョン決定 |
参加PC |
ツルギノ・ユウト
月島・日和
音羽・聖歌
ジェフト・イルクマー
司馬・礼二
北原・亜依
ケヴァリム・ガルゥ
リュード・シグ
御剣・神無
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クレセントムーンを探して・5 |
●会議は巡る
「さてさて。意見、出して頂戴?」
ホワイトボード用のペンを握ったまま、聖良は腕を組む。一言一言を逃すまいと、逢魔・フレイ(w3f053)がキーボードに乗せた指を緊張させる。しばらく息苦しくなるような沈黙が続いていたが、その沈黙を破るように、手が上げられた。ツルギノ・ユウト(w3b519)である。
「俺はこのクレセントムーンに関り、神と魔‥‥そして人が同じ目線で生きて行けるのか‥‥それを見出したいと思っている」
考えながら言葉にしつつも、その思いは以前からのものらしく。はっきりとした意思は真っ直ぐな視線に表れていた。ユウトの言葉に次々と手が上がる。
「そうだな。はじめは『人の意識を変える一石になれば』って思ってたんだ。そしてその思いは今も変わらない」
「『神・人・魔』の三者の理解を深める、三者共存の指標となり得る様な方向性を打ち出せれば、と思うのですが‥‥」
音羽・聖歌(w3c387)に月島・日和(w3c348)、それぞれの意見もまた同じように。くるくるとペンを回しながら、聖良はほんの少し困った顔を見せた。
「‥‥うーんと、ね。確かにそういう事も大事。正しい意見だと思うよ。でも、そう堅苦しく考える必要って‥‥あるのかなあ?」
皆の視線を集めたまま、アクビを一つ。くるりとホワイトボードの方を向き、相も変らぬ個性的な文字で何事かを書き込んでいく。
「アタシが元々この組織でもって為そうとしてた事は」
文字の羅列を書き終えると、ペンに蓋をしながら皆の方を向き直る。
「この二つ」
ホワイトボードにでかでかと書かれた二行。
『・魔皇側の活動を宣伝(音楽・美術・芸能など)
・神帝軍の動きをキャッチして放送、避難や増援の勧告』
指先でほっぺたを掻きながら、言葉を選ぶ。あまりにも皆の考えていた事が大きすぎて、自分の意見が恥ずかしくなっているのだろうか。
「要するに。以前誰だかにも言ったんだけど、クレセントムーンってのは山口県の密にとって宣伝塔兼非常サイレンの役割だったのよ、元々は。どこどこでこんな事がありました、神帝軍の誰それがどこどこで暴れてます、って言う緊急連絡。‥‥だから、あんなに立派な放送機材積んだ車を用意出来たの」
椅子を引き、体重を預けるようにして腰を下ろす。大きく溜息をつく聖良にジェフト・イルクマー(w3c686)が慌てて立ち上がる。
「そ、それじゃ、『情報漏洩部隊』ってのは‥‥?」
その慌てぶりに、聖良もきょとんとどんぐりまなこ。簡単に頭の中身を整理すると、該当事項を思い出してけらけらと笑った。
「やあだ、どっからその話聞いたのォ?! そんなその場の勢いで言った名前、良く覚えてたわねえ」
呆然とするジェフト。けらけら声をあげて笑っていたかと思うと、すっと顔が引き締まる。
「じゃ、皆に聞くけど。あたし達が今までやった事で何が『情報漏洩』に当る?」
すっと、場が静まった。ネコ耳病の冗談CM。神帝軍を茶化した替え歌。ラジオドラマ。ホームページ‥‥何を思い出しても『情報漏洩である』といわれる筋合いは全くない。
「一番の情報漏洩は高瀬ちゃんがこっち側って言っちゃった事ぐらい。それだって、今は大分収まってるわ。‥‥どうやらあれも神帝軍の仕業だったらしいけど。お生憎様、いい宣伝に為って、HPのダウンロード販売は一日10万円超えた時もあった位よ」
手を組み、頭の上でぐっと伸ばす。首をぐるりと回しながら、皆の反応をうかがう。何か言いたげなケヴァリム・ガルゥ(w3d147)に目を向けると、教師が生徒を指名するように指をさした。
「んーと‥‥えへへ☆ ホントはね、俺も最初は純粋に、猫耳病調査の補助として偽情報を流そうとしか思ってなかったんだケド‥‥なんて言うのかなぁ。敵を退けることだけを考えていた筈が、『ぶつかりあうだけの日々に何かが生まれちゃった☆』って感じ?」
恥かしげに、ネコ耳の取れた頭を掻きながら。自分の意見を述べていくガルゥ。
「一生懸命俺たちのこと探してたり毎回毎回ドジやってるグレゴールさんとかを、遠目に見てたらさぁ‥‥なんとか少しでも歩み寄れないかなって、そう思えてきたんだ。だって、立ってる位置が違うだけで俺たち似たもの同士なんだもん。せめてラジオの中にだけでも、共存した世界を創りたいな‥‥な〜んてね☆」
照れ隠しを入れながら。その眼はやはり、真剣そのもので。皆の頷く姿を確認すると、聖良は小さく安堵の溜息をついた。
「‥‥参ったわね。皆アタシよりずっと先を見て進んでる。アタシももうそろそろ引退かしらねぇ?」
「馬鹿言わないで下さいよ。三日月がいなくなったら、『クレセントムーン』の名前変えなきゃ」
見事なタイミングの司馬・礼二(w3c851)の突っ込みに、全員の緊張の糸が切れた。明るいざわめきが会議室に広がる。
「皆さん、そろそろ休憩してはどうですか? お茶とサンドイッチ、用意してみました」
逢魔・フィアナ(w3b519)と逢魔・セラティス(w3c686)がドアを開けた。この後は司馬の局増設案やジェフト、御剣・神無(w3f465)の提案する情報収集班設立についての話し合いが待っている。夜はまだこれからだ。
●らじおの時間。
「ふう。予想外に話が大きくなってきちゃったわね」
運転席で伸びる聖良。眼を閉じた彼女には、ドアに隠れて窓からにゅっと現れた缶コーヒーに気が付かない。肌に触れたひんやりとした感触に、思わず声を上げた。コーヒーを持つ手は‥‥司馬のものだ。
「あはは。差し入れですよ〜。聖良さん、時間あります?」
あいよ、と気さくに返事をし、先ほど自分を驚かした缶コーヒーのプルタブを開ける。司馬は遠慮無く反対側に回り込み、助手席に乗り込む。彼の手の缶はどうやらホットのお茶であるらしい。
「この間の打ち合せじゃ、言いたい事殆ど皆に全部言われちゃいましたんでね。何となく、言っておきたい事あったんですけど、引っ込めちゃったんですよ」
笑いながら、お茶を一口。聖良はコーヒーを啜りながら、何も言わずに司馬の話に耳を傾けている。
「僕は‥‥正直、神も魔も関係ないと思うんですよ。どんなに感情が希薄になってるって言われても、それを覆すような放送をやれば‥‥皆聞いてくれるんです」
意見と言うより、彼自身の決意。普段の口数は少ないものの、ラジオと言う舞台の先輩として皆を影で引っ張っていく頼もしい存在。横に座っている男を、聖良はそのように認識していた。
「リスナーの望む情報を、そのときの時代背景を見る事の出来る情報を、鋭い感性と斬新なセンスで、両手からあふれるユーモアの中に一握りの真実とちょっぴりの皮肉をスパイスにしてこれからも放送を続けたい。‥‥例え聖良さんにやめろと言われても、ね」
年下の男の言葉に苦笑する女。
「誰が止めるもんですか。司馬ちゃんが『やめるんだー』って叫んでも、後ろから煽りまくってあげるわよ☆」
狭い車内に、二人の笑い声が響いた。
「カグヤちゃん、準備いいわねー? じゃ、テイクワンいきますー。五秒前」
金魚鉢の中の逢魔・カグヤ(w3f465)に声をかけ、カウントダウン。
「キュー」
の声を確認して、カグヤは原稿を読み始めた。運びも軽快。コーナーそのものは短いものの可愛らしい声とキャラクターで、最近では聖良と並ぶ人気者である。
●また、明日
♪‥‥我さえ愛し給う神は愛なり♪
(真奈美の歌う賛美歌第二編184番が静かに終わる)
真奈美「神に背き逆らうものさえ、神はなお愛すと。サタンの語源は『背く者』では無く『訴える者』。世の不正な裁き司さえ、何度も訴えるやもめの事を顧みます。ですから、神が愛である以上、たとえそれが何者であっても、救いを求め訴える者を、どうして救わずにおられるでしょうか?」
割れるような拍手。
真奈美「‥‥みんな! どうもありがとう!!」
高志「ふわあ〜。」
少女「何してんの? 高志? みんな拍手してんのに。」
高志「わりぃ。俺ちょっと抜けるわ。外でタバコ吸ってくる。」
少女「ちょっと、高志ぃ!」
真奈美「じゃあ、次の曲行くよ!」
ライターの音。ため息にも似た一服。
高志「ふうっ〜。なんだか、もうどうでもいいよな。ま、とりあえず、俺達の周りが平和なら、それで‥‥ん? なんだ!!」
キーン! ガシッ! バシュッ!
高志「裏の‥‥方? コンサート中に?」
ドスン! ガラガラガラ‥‥。
高志「な、なにやってんだ? あいつらは!」
勇太「数馬! 今のお前は神の操り人形にしかすぎない。自分の夢や、思いを忘れたのか! 俺は、おまえが分からん!」
ズドドドーン!
数馬「なら、お前は自分の目的の為なら人を、傷つけてもいいというのか? 悪魔化で、死んだ何万の人々の屍にそう誓えるのか?」
高志「な、なんだ? あいつら。そうだ、あのドラム缶の横なら見えるかも‥‥」
ウィィィィン! カチャン! キィィィーン! ガッ! ボン! ザザッ!
勇太「動く心、感動する意志、持ち続けていたい夢。そんなものの無い凍った世界で‥‥生きている意味なんて‥‥無い!」
数馬「‥‥本気で!本気でそう思っているのかあ!!!」
数馬の指に光が集まる、そして渾身の力で、光は放たれた。
勇太「くそっ、だが‥‥避けて‥‥ん!」
ドオン!(激しい爆発音)
群集1「きゃぁーー」
群集2「なんだ、何が起ったんだぁ?」
リリス「な、なに? まさか、魔皇が‥‥? 数馬様」
真奈美「みんな! 大丈夫だから、ここから動かないでね! お願い!!」
(次第に小さくなる群集の声)
数馬「ゆ、勇太‥‥お前‥‥」
高志「な、何が、あったんだ?」
数馬(「俺の攻撃を、あいつは‥‥避けた。避けられたはずなのに、なぜ、こいつは‥‥避けなかったんだ。まるで‥‥」)
高志「まさか‥‥俺を‥‥?」
数馬(「そうだ、あいつは光の先に人間がいることに気がついた。だから‥‥庇ったのか?」)
カッカッカッ(足音が近づいて来る)。
リリス「数馬様、ご無事で‥‥? こいつは魔皇! 数馬様、早くとどめを!」
真奈美「止めて! ここで、死の感情や恐怖を生み出さないで」
数馬「真奈美さん‥‥」
真奈美「私は、できるなら人の感情を奪いたくないの。それは‥‥人のもつ輝きを奪う事にも等しいから。どうしても必要なら‥‥せめて喜びや労りのような、健やかな思いを集めたいの。だから‥‥歌っているのよ」
数馬「何を言って‥‥! 勇太、勇太は‥‥。」
高志「う‥‥いったい?」
バサっ(身体を振るって立ち上がる)。
カッカッカッカッ!
由香「勇太君!」
数馬「由香さん」
リリス「女の魔皇と男のナイトノワール! 数馬様! ご注意を!」
由香「‥‥数馬君、あなたは勇太くんを殺すの? 私達を殺すの?」
真奈美「大丈夫。彼は、まだ生きているわ。今、傷をふさぎます。連れて帰って‥‥」
リリス「真奈美様!」
数馬「‥‥頼む。由香さん。俺は‥‥あいつを失いたくない。そして、この世界も失いたくないんだ」
逢魔「由香様。私が担ぎます」
由香「お願い」
リリス「数馬様? 真奈美様? 見逃すんですか!」
由香「今、私達はいくつかのテムプルムの攻略を計画しているわ。その前にあなたとどうしても話したいと彼はここに来た。私達は、もう判かり合えないのかな。‥‥さようなら、今度遇う時は敵ね」
数馬「‥‥待ってくれ。」
由香「何か?」
数馬「俺達は、間違っているのかもしれない。でも、君達も間違っているのかもしれない。本当の正義なんて、きっとどちらにも無いんだ」
由香「‥‥そうかもね」
数馬「でも、俺は自分の意志でこちらに立つと決めた。勇太も‥‥きっとそうだろう。だから、また会おう。‥‥たとえそれが、戦いの場だとしても‥‥」
勇太「数馬‥‥。横浜で‥‥会おう」
逢魔「数馬様。無理をなさらずに」
数馬「ああ‥‥。」
バサッ、バサバサッ!
高志「一体、何が、何が起きているんだ? え? 何をするんだ」
リリス「数馬様‥‥。彼には魔の因子はありません。魔皇になることは無いでしょう。グレゴールの素質も見られません」
数馬「君‥‥巻き込んですまなかった。このことは忘れることだ」
高志「忘れろって言うのか? こんなことを。こんなことが現実に起きているってことを忘れて‥‥生きろっていうのか? 少なくとも‥‥あいつの手は暖かかった。」
ナレーター「始めて間近で見た神魔の戦い。だが、それは唯の人と人と、友と友の戦いにも見えた。自分も、子供だった頃、いやホンの少し前までやっていた分かり合うための戦い。何時の間に自分達は、それを忘れてしまったのだろうか? 高志は、自分の心に、何かが生まれたのが解った。この感情もいつか『奪われて』しまうのだろうか?」
高志「忘れた方がいいのかも、しれない。だが‥‥まだ終わりじゃない、何かが起きる。変わる。これからも‥‥」
(賛美歌298番、フィンランディアのメロディーが流れる)
ナレーター「世界と僕は戦っている。きっと世界が勝つだろう。重苦しい神魔の法(さだめ)は、数馬を、親友(とも)を、恋人達を、倶に天を戴けぬ仇と言う立場に追い込んで行く。世界は今日もまた少し、残酷に為って行く」
連続ラジオドラマ『また、明日』
脚本‥‥‥‥‥‥鷹村・夢
原案・構成‥‥‥北原・亜依(w3c968)
数馬‥‥‥‥‥‥リュード・シグ(w3f053)
リリス‥‥‥‥‥逢魔・神無(w3c387)
勇太‥‥‥‥‥‥ツルギノ・ユウト
由香‥‥‥‥‥‥逢魔・フィアナ
真奈美‥‥‥‥‥月島・日和
逢魔‥‥‥‥‥‥逢魔・悠宇(w3c348)
高志‥‥‥‥‥‥御剣・神無
ナレーター‥‥‥ジェフト・イルクマー
エンディングテーマは、すっかり定番に為った高瀬の声によるものだ。そして、最後の締めくくりはカグヤの占いコーナー。ネタ‥‥もとい原案提供はガルゥ、原稿作成は逢魔・リゥ(w3d147)である。
「今日の一番ラッキーさんは、悩める全ての人♪ 隣人を愛し、敵も愛せ☆…とまでは言いません。が、今と逆の視点に立ってみれば、意外な未来を手に入れられるでしょう。幸運アイテムはシャケ弁当、幸運カラーはサーモンピンク、幸運フラワーはニャンダラケです♪」
「‥‥おっけーっ!! お疲れ様ーっ!!」
山口に彼らがいる限り。ラジオの時間は、終わらない。
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