■伝説の魔皇を探せ・8■ |
商品名 |
流伝の泉・キャンペーンシナリオEX |
クリエーター名 |
マレーア |
オープニング |
伝説に続く遺跡に高笑いが響き渡る。
「はははは、この毛利様に恐れを成したか。無駄な抵抗は止めておとなしく縛につけ。うわっ」
一人が、毛利を殴りつける。簡単に吹っ飛んだ。人化中であっても、というよりもわざと吹っ飛んだように。
「こんな程度の奴にかき回されたわけ? え!」
毛利は吹っ飛んだにも係わらず、何事も無かったかのように立ち上がった。余裕から驚愕に。
「警察官への暴行の現行犯として逮捕する」
と言って、手近な一人の腕を軽く捻って、押さえ込む。人化を解いて抵抗しても一向に状況は変わらない。
「折れる!」
万力で挟まれたように全く抵抗できず、関節が悲鳴をあげる。
「通常の武器では魔皇にも逢魔にも通じないが、サブミッションなら傷つけるのは自分自身の肉体‥‥」
腕が折れる寸前、毛利の力が緩んだ。
「熱血? どうしてここに。気絶させたのか」
「どうにかな。尋問できる場所に連れていった方がいい」
贋さくら荘に向かう。
贋さくら荘でグレゴールを引っかけようとした魔皇たち。しかし、彼らが目的として狙った人物は、案外簡単に捕まえることができた。
「熱血。あんた本当に魔皇なのか」
「信用できないなら、行動をともにすることはできない」
熱血は別れを告げるが、簡単に帰すつもりはない。二重スパイの可能性だってある。あるいは裏切っているのかも。
「言っただろう。男に見せるつもりはない。俺はホ〜じゃないから。どうしても見たいのなら、綺麗どころを一緒にベッドにこさせるんだな。あの子、彼氏いそうだけど、彼氏合意の上ならいいぜ」
熱血の視線の先に居たのは?
そんなふざけた会話をしつつも、破局に向かっての進行は止まらない。
そしてグレゴールとの最終決戦は始まろうとしていた。
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シナリオ傾向 |
シリアス・コメディー・謎解き |
参加PC |
二神・麗那
暁・夜光
メレリル・ファイザー
水神・操
鷹村・夢
月島・日和
円斐・ほむら
山崎・健二
蘭桜院・竜胆
タクマ・リュウサキ
篠崎・公司
桜庭・勇奈
雁田・霧
ヘルバート・ヒューズレッド
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伝説の魔皇を探せ・8 |
●贋さくら荘周辺
「操‥‥気をつけていけ」
毛利を運んで、遺跡に引き返す一行。結局遺跡の調査は中断されており、あの遺跡から伝説の魔皇の事が調べていない。再調査には危険もあったが、それを考えていたのでは先に進めない。
「健二さん‥‥」
健二と操の別れのシーン。距離をおいてクノイチ姿の二人がじっと見ている。
「ちょっとやけるわね」
「まぁまぁ」
逢魔・ベルティア(w3d139)の不満を霧が抑えるが、霧の心中もあまり穏やかとは言えない。
「密でも分からないって」
日和は熱血の事を密に確認した。熱血に該当する魔皇がどこの所属で、警察潜入の任務があったかどうか。しかし、密でも全ての魔皇の動向を知っているわけではないし、警察潜入は極秘中の極秘事項。公開されるものではない。まして山口にはまだまだ密の力が入って間もない。もともと山口にいた魔皇たちがどのような行動を行っていたのか。渡りを付けられていない組織もある。密の動きがもっと早ければ密を中心に組織化できたかもしれないが、覚醒した魔皇同士が自然発生的に作られた組織を全て把握するにはまだまだ時間が少ない。その割に魔皇の捕縛や被害の数が魔皇がらみと思われる事件の発生と比較して少ないのは、なんらかの組織が活動してと思われる。
「熱血はその組織の一員かもな。まぁ確証ないから篠崎さんには密には該当者なしと答えとくしかないだろ」
逢魔・悠宇(w3c348)は熱血とはどうも気に食わない。熱血の言った奇麗どころを云々というのは、絶対に却下したいと強く主張したい。
「でも、そんな事言ったら熱血さんに不利になるんじゃない?」
「いいよ。あんな奴」
遺跡調査団一行が出発して間もなく、贋さくら荘の回りには、予定したとおりの状況になってきた。
「毛利をおびき寄せる必要もなくなったけど」
タクマ・リュウサキ(w3e982)は警官隊を使って贋さくら荘を包囲している。神凪・明日斗の携帯電話の位置を調べたのだが、それ以外にも怪しげなクノイチコスプレ女が出るという通報もあったらしい。それを狙ってすでにその付近にはカメラを構えたオタクらしいものとか、投稿狙いのものどもとかが陣地争いをしているらしい。これも神帝軍の陰謀なら大したものだが、これを行っているのが魔皇(霧とティア)だと分かっている。
因みに、神帝軍から警察に対する情報によると、『見かけたら直ちに避難せよ。彼女のSFである、死の接吻や滅びの抱擁を受けてはならぬ』と厳命された。彼女は、常軌を逸する数多のコスプレグレゴールを統率するクロイゼルでも、完全に持て余す大変物騒な存在らしい。
「クノイチコスプレ女は露出狂の類だと思いますが」
(「ティアや霧は聞いたら何て言うだろうか」)
と思いつつ
「後はこちらで引き継ぐ」
タクマ・リュウサキが頭痛を感じたのは言うまでもない。
「内部はどうなっているか」
(「セシリア、無理するなよ」)
彼女は遺跡に向かっている。遺跡には警察が出動していない。誰も内部の遺体の事を通報していないのだろう。魔皇たちは通報していないから、誰も知らないんかも知れない。とすると、そこに来るのは一般警察という巻き添えの気にしない神帝軍かも知れない。
「御用提灯が十重二十重って奴?」
「指揮してんのはタクマ・リュウサキと蘭桜院・竜胆だろ。巧くいければいいけど。なんせ警察内部に潜入しての日にち浅いから巧くいくかどうか」
「だからあたしらが待機しているんだろう。それにヘルバート・ヒューズレッドも。でも何故アルマに知らせるなって口止めするんだ?」
「こちら霧です。今のところ警官隊だけのようです。でも誰かに見られているような気がします」
もちろん、霧はクノイチ(霧影というそうだ)の姿をしている。都会の真ん中では十分に目立つ恰好である。周辺警戒でも逢魔・アルマ(w3c688)達が頼んで別行動を取ったのはもちろんだった。
「その恰好、一般人に見られているんじゃない?」
「‥‥恥ずかしいです」
「なんか真面目に警戒しているのが馬鹿らしくなって来るな」
アルマはそう言うけど、たぶんこれから修羅場になるんじゃないかって予感がする。
「私達は敵の全容を知らない」
「贋さくら荘内部で何かを感じないか?」
ヘルバート・ヒューズレッド(w3j414)の切羽詰まったような声がした。
「毛利か? いや、グレゴールの感じじゃない。魔皇同士。仲間割れって事でもなかろうに」
●最悪の敵対に
「へぇ。で、得物突きつけておいて証明しろってか?」
熱血は日頃(刑事)とはかなり違うキャラを出していた。こっちが本物の「彼」なのであろう。
「この状況で受け容れ難い要求をするのは『敵です』と宣言しているのと同じです」
篠崎・公司(w3g804)のPマシンガンは熱血の腹部にポイントしてある。
「じゃ今自分のやっている事はどうなんだよ? 得物突きつけて、証明させなきゃ信用できないって、信用ってなんだよ? 助けてやった奴に礼も言われずに、得物突きつけられるなんてな。最近の魔皇ってのは義理とか恩返しとかって考えないのかね。こんな奴らとはともに大事は計れないな」
熱血は心底失望したように、篠崎を、その場にいた全員を見下していた。おちゃらけた口調が一気にトーンダウンする。
「ちょっと待て、尋問しているのはこっちだぞ」
桜庭・勇奈(w3i287)が、熱血の次の行動を警戒して近づく。
「味方でないなら敵だ。まして、こっちの立場を知られた以上、生かしてはおけない。いつ神帝軍にばれるか分からないからな」
熱血の声は、今までよりも低く変わっていく。
(「本気か!!」)
篠崎の背後で逢魔・美影(w3g804)が熱血の言葉に嘘が無い事を伝える。それが伝わらなくとも凶悪なほどの力を感じる。
「どうした?」
山崎・健二(w3d139)が逢魔・菖蒲(w3d484)に回復させている僅かな間に、こんな状態になっていた。
「魔皇だったじゃないか」
敵対したって事実を聞いていなかった健二は、安心したようにいったが、敵対して証拠封じのために始末されると言われた方は、そんなどころじゃない。
篠崎も桜庭も。
味方でいたはずが、信用しなかったばかりに敵に回した。警察に潜入しているだけに、その正体は味方にさえも知らせない。
「動けば撃つ」
篠崎にその言葉を言わせてしまったのは、恐怖からだろう。しかし、いるだけでこれだけの威圧感を持つ相手に、どれだけの抵抗ができるだろうか。健二もようやく事態を把握した。
「なんだか分からないが、熱血は敵だって事か」
正確には敵にしてしまったのだが、この際同じだろう。
「ティア。逃げろ! こんな化け物相手に勝てないぞ」
「ちょっと、中はどうなっているのよ」
メレリル・ファイザー(w3a789)は上空にいるはずの逢魔・モーヴィエル(w3a789)を呼び出す。周辺の動物は全くいない。動物の本能で、この場所が危険だと判断してすでに逃げ出しているのだろう。
「鼠すらいないよ。ゴキブリまでは分からないけど」
「逃げる準備しておいた方がいいかも」
(「絶対に中には入らないわよ」)
獣の本能が危険を知らせつづけている。
篠崎の行動が引き金になって、熱血が敵になった。そして、敵になった以上秘密を知っている者を全員始末する。熱血にとって救うべきは、ともに神帝軍を破滅させるべき大事をともになし遂げられる仲間であって、それ以外は敵でしかない。ある意味すごく過激であるが、それだけに信頼関係を重んじていた。山口県での魔皇事件の空振りが多かったのは、熱血とすでに熱血に救われた魔皇によって、ハグレ魔皇のかなり多くが、捕縛あるいは消去されずに、逃げ延びていたからだった。そのため、魔皇特捜班が設置された。熱血は魔皇特捜班に潜入し、半年近く検挙件数がほとんど無かったという事実をつくり出していた。
●遺跡
二神・麗那(w3a289)と逢魔・ディルロード(w3a289)は贋さくら荘に行っていなかったため、遺跡に早くついた。遺跡の場所はたぶん、誰からか聞いたのだろう。
そして待つ事1時間。暁・夜光(w3a516)が到着、重傷の身体はコートで覆っていても痛々しさが見える。鷹村・夢(w3c018)、逢魔・デューシンス(w3c018)が順次に到着。タクマに命じられたこっちに参加したセイリアが傷の回復を行っている間に、贋さくら荘から来た水神・操(w3b295)、逢魔・白紋(w3b295)、月島・日和(w3c348)、悠宇が到着した。
月島・日和と悠宇が先頭になって、あの場所に入った。
「遺体は片付けられていないわね」
二神・麗那は、遺体の事を聞いていたからそう言ったが、ここが他に誰も入らなかった事を意味する。一般人が入れば警察に通報するだろうし、神帝軍の手先ならすでに何らかの行動を取っているだろう。それに季節のせいか、遺体の腐食が進んでいない。というよりも生生しさが残っている。
「なんか不気味ね」
日和はちょっと気分が悪くなりそうだった。
「まぁ死体なんて気味のいい物じゃないけど」
悠宇は日和の状態を気を配りながら、死体に仕掛けがないか近づいて調べる。
「陶さん、生きているわけないよね」
陶の遺体は確実に、これ以上ない位に死んでいた。
「陶って本当に魔皇だったの?」
操が疑問に思っていた事を口にした。
遺体だけじゃ簡単には判断つかないが、たぶん間違えはないだろう。
「祖霊招来をやってみる」
ディルロードは、祖霊招来を駆使した。
『力を欲する同士討ちだ。ただ一人が生き残った』
「ひょっとして‥‥これのせいかしら?」
日和がそれらしい石碑を発見すると、その表面には何らかの文字が光っていた。学者の家で奪い取ったファイルで解読すると
『七人の魔皇よ同時に触れよ、七つの力を汝らに与えん。猛き者よ心せよ。全ての力を求むるならば、宿りし力の顕れる前、余人を殺し血を啜れ。汝は全き魔皇とならぬ』
随分と物騒な内容である。
「ここに魔皇は5人しかいないぜ」
白紋は周囲を見渡した。贋さくら荘に残してきたから、7人いれば試せたのに。
そういえば遺体は陶以外に6体あった。もし、この遺体が全て魔皇だとしたら7人で来て伝説の能力を取得した後、誰かが独り占めしようとして殺し合った。と考えるのが妥当だろうか。いや、そもそも石碑の文言は正しいのだろうか? あの、学者グレゴールが、魔皇達を同士討ちさせるために仕組んだトラップの可能性も否定できない。石の正確な年代測定など科学的には不可能なのだから。
「殺し合いか。能力を独り占めしたくて? でもまだ新しそう」
夜光が、遺体を見ながら言う。
「って事は陶でも熱血でもないて事だろ? その一人って」
デューシンスは警戒を強めた。もしかしたら、その残りの一人が今にも攻撃を仕掛けて来るような感じに思えた。
「たぶん、伝説の魔皇を探せってイベントに誘われてきた魔皇じゃないか。表の看板は確実に魔皇をここにおびき寄せるためのものってか。しかし、この遺跡は俺たちだってけっこう来ていたはずだけどな」
悠宇は不思議そうに首を傾げた。
「でも襲撃事件のあとはほとんど来ていない。その後作られたのかも」
日和にしても、あの事件以降は石碑の解読作業に没頭していた。
「この他にもいたのかも‥‥。この遺体埋葬してあげた方がいいんじゃない?」
二神は遺体を気の毒そうに見た。もしかしたら一緒に戦えたかも知れないのに。夜光はあちこち探ったが、床下にも、壁にも仕掛けはなかった。人工的に間取りしたわけじゃないから、マッピングしても別の部屋は見つけられなかった。
ただ、魔皇の死体が抱えていた、血まみれの石版の欠片を見つけた。古代逢魔文字らしきものが微かに刻まれている。石の材質は、今迄の石版とは明らかに違っていた。
「どこで手に入れたものでしょうか?」
鷹村・夢は、丁寧に拾い上げる。
「可能かどうか解りませんが、念のために写しておきますね」
デジカメでも撮影する。長さから見て、文章と言うよりは単語の一部と思われた。
「もっと、何かあると思ったんだけど」
「結局、伝説のままなのかな。でも先人たちのものを伝えて、新しい伝説を作っていくのは私達自身よね」
鷹村・夢は生きていく覚悟をして、みんなにもそう思って欲しいと思った。
重傷者の多かった遺跡探索組は逢魔・セシリア(w3e982)のみでは完全回復は無理だったが、幸いにもグレゴールの攻撃はなく、無事に遺跡を出る事ができた。そして放置されたままの遺体も埋葬するために運び出した。
●殺戮
「遺書を書く時間はやらん。念仏ぐらいは唱えてもよいが」
「あんたが魔皇だってのは分かった。だから」
「勘違いするな。信用しなかったのは、お前らだ。言っただろう。お前らがこれを招いた。地獄で閻魔にあったら味方を信じられなかったから死んだと言うんだな」
熱血(だったもの)が瞬時に攻撃を繰り出す。DFではない、ただの拳。しかし、その速度は構える余裕すらない。Pマシンガンで狙っていた篠崎が攻撃する間もなく、壁際に吹き飛ばされ、壁を突き破って隣の部屋に上半身を突き出した形で止まった。
桜庭が割って入る余裕は全くなかった。
「聞こえてる? 遺跡の石碑には伝説の魔皇をつくり出す能力があるらしくって‥‥」
遺跡探索班の鷹村から連絡が入る。
「熱血の能力は遺跡で得たものか? って事は伝説の魔皇って事か。冗談じゃない。味方に付けようと探していた魔皇を敵にしちまってどうするんだよ」
健二は菖蒲に回復させて貰ったとは言え、無茶できる状態じゃない。牽制しようにも相手が強すぎる。
「なんでこうなってしまったんだ」
とはいえ、健二自身も熱血を疑っていた。たぶん、桜庭もそうだろう。ティアは逃げたはずだし、とりあえず、篠崎を背負って逃げるか。でも逃がしてくれそうもないな。
健二がそう思った瞬間。衝撃を感じた。身体が吹っ飛ぶ。痛みを感じる余裕もなく、壁の中に背中から突っ込むのを感じた。呼吸ができない。たぶん、熱血の拳が腹にあたったのだろう。息を吸い込むだけの事すらできない。衝撃で痛みを伝える神経までもやられちまったらしい。魔皇の身体でもこれだ。拳が腹を突き破っていた。
「操‥‥」
力なく呟いた。
●別れ?
「健二さん?」
遺跡から戻る途中、水神・操はふと健二が呼んだような気がした。
「どうした?」
振り返った操に白紋が気づいた。遺跡での戦闘を予想していたが、何もなくちょっと不満気味。
「ううん、なんか今健二さんが呼んだような気がしたの」
●死闘
「ご主人様しっかりして」
美影は、壁に埋まった公司のもとに走る。背後の事など考えずに、絶好の的。
「させるか」
桜庭が走る。護衛を買って出て、守る相手を負傷させられるはおろか、その逢魔まで怪我させられたんじゃ‥‥。
「死角から攻撃すれば! 居ない。がはっ」
こっちに注意を向けさせつつ。死角を回り込んで攻撃しようとしたところ。逆に背後から殴られて床に叩きつけられて跳ね上がったところをさらに蹴り飛ばされて壁に叩きつけられる。
「この程度で俺を倒せるって思ってんのかよ」
(「思いっきり殴りやがって。足に来ている」)
桜庭はどうにか立ち上がる。
「ほう、ちょっとは見直した。どうやら中途半端だったようだな。今度は全力でいこう」
「くっ」
真狼風旋で速度を上げる。これでどうにか攻撃を見切れるはず。それでも奴の方が速い。奴は真狼風旋を使わずにもっと速い。篠崎よりも戦闘的なだけに相手との差を本能的に感じてしまう。とはいえ、威圧されて動けなくならないは、激情に染まっているからだろう。
「まさか、こいつが伝説の魔皇?」
さもなくば余程の高レベルに違いない。
(「やっべぇー、本当に居たのか」)
桜庭の背筋は凍りついた。
●伝説の魔皇って
「仲間を信頼して、仲間とともに歩んで行けばって意味かな?」
日和は遺体を埋葬する穴を掘りながら、遺体の状況を考えた。
「仲間6人を殺してその分の能力を奪い取るって魅力あるのかも‥‥」
「でもそれって寂しいよ」
「魔皇はそれでも、逢魔にとってはたまったものじゃないよな」
パートナーを殺されれば、どうなるか。逢魔は知っている。それに、それが真実であると言う確信も無い。
「そういえば、逢魔の遺体は無かったようね」
魔皇を殺されて異常を来した逢魔はどこに行ったのか。
「まさかとは思うけど。あの遺跡って逢魔を生贄にするとか」
「ありえない。それじゃ、魔皇って根源的に変わってしまう」
いずれにしても、確証はなく憶測だけ。逢魔のサポートを必要としないだけかも知れない。魔皇のみが強大化したら、もとのままの力しかない逢魔は弱点になりうる。
「伝説の魔皇になった魔皇に聞いてみればいいんじゃない?」
「ねぇ、贋さくら荘との連絡はうまくいかないの!」
鷹村はさきほどから贋さくら荘との連絡が却ってこない事を伝える。
「電池切れとか圏外って事はないよね」
『まさか、こいつが伝説の魔皇?』
桜庭の声が飛び込んできた。
「時空飛翔を使うか?」
白紋が操に尋ねた。操の不安そうな顔を見たからだ。しかし距離が足りないし、不確実だ。
「みんなで急ごう。伝説の魔皇にこの遺跡の事を聞きたいし」
もし贋さくら荘の状況を知っていたら、遺跡を事を教えてもらえる状況では無い事が分かったのだが。
●デッドエンド?
「これで全員か」
熱血だったものは、贋さくら荘の中を見渡した。篠崎、山崎はとっくに瀕死の重傷に陥っている。桜庭も同様。美影と逢魔・ハリエット(w3i287)は、かろうじて動く事ができる程度。内部の異常に気づいて入ってきた円斐・ほむら(w3c688)とアルマ、それに雁田・霧(w3i823)とヘルバート・ヒューズレッドも仲良く倒れていた。アルマはほむらを連れて時空飛翔で逃れようとしたが、ほむらに触れるための僅かの隙に、意識を飛ばされてしまった。メレリル・ファイザーとモーヴィエルは無理せずに、外にいたままだった。一度に押し寄せれば、あるいは。しかし、順次突入したために、各個撃破されてしまった。
絶望が全てを包んでいた。
「そろそろ潮時か。班長が目を覚ます前に、こいつら始末して、班長を救い出した事にしておけばいいな」
もちろん、謎のグレゴールが助けを借りて、今回の『伝説の魔皇を探せ!』作戦で魔皇を一網打尽にしたようにすればいい。
熱血は人化して、毛利が捕らえられている部屋に入った。
「班長、しっかりしてください」
「‥‥ぐうぐう」
「もしかして寝てる。爆睡中? じゃ試しに一発殴ってやるか」
もちろん、拳は空を切る。
「今までの聞いていました?」
できるだけお茶目な口調になる熱血。しかし‥‥。
「騙されていたよ。確かに今まで魔皇取り逃がした場合、必ずお前がいたものな。いつどこで入れ代わった?」
「知られちゃしかたありません。最初からです。神帝軍が出現してからずっと。幸い覚醒が早かったので。あの遺跡の事も知っていましたし」
「本物の俺の部下の熱血は?」
「悪いとは思ったんですが、神帝軍の中でも通常に動ける人間って少ないんですよ。あの人なら入れ代わってもまともに動けていますから丁度良かったんです。ちゃんと遺体は埋葬まですませましたからご安心ください。でも残念です。班長とはずっといい関係を続けていけると思っていました。いいコンビだったでしょう? 班長みたいな人、けっこう好きですよ。別の班長さがさなくちゃ」
熱血は毛利を始末するつもりでいた。熱血は毛利を人間だと思っている。
「そうか。実は俺も黙っていた事があって。実はグレゴールなんだ。神々しいのはあまり趣味じゃないんで、警官のままだったけどな。始めるか。それとも、少し休んでからにするか」
「情けはいりません。でも本当に気づきませんでした。‥‥始めましょう」
●大団円になったか?
「おいみんな」
遺跡から帰ってきてみたら、贋さくら荘内部は目茶苦茶でだった。
「台風でも中で発生したの?」
二神・麗那の呑気そうな声は、一同に僅かに安らぎをもたらした。
「突入命令はまだ出さないのか?」
贋さくら荘を取り囲む警官隊は、指示を出さないタクマ・リュウサキに焦れていた。
「何を考えているあれだけの騒動があったのに」
(「今突入したら、いくら人化を解いても脱出はできない」)
「蘭桜院」
「なんや?」
(「陽動作戦をしてくれ」)
「了解。2、3人来てくれ」
竜胆は警官を連れて贋さくら荘から距離を取る。別の魔皇事件を起こして、陽動を謀る。
「言っておくが、俺はホ〜じゃない。ちゃんと彼女がいる」
もちろん、疑惑の目を向けられる。否定すればするほど。一ノ瀬の写真を見せたが。
「わかりました。ホ〜じゃなく、バ〜だったんですね」
余計状況を悪化させただけだったようだ。ともあれ、蘭桜院・竜胆(w3d484)と警官たちの偶然目撃した魔皇事件により、贋さくら荘の包囲網は解除されて、傷ついた魔皇一行の撤退はできた。もっとも瀕死の重傷を負った二人(篠崎と山崎)は、絶対安静となった。篠崎には美影が一人で献身的に看護していたが、健二には操、ティア、それを霧が取り巻きながら女同士の争奪戦が密かに行われていた。時として、取り合って手を滑らせた盆栽が健二の頭の上に落っこちてきてあわや止めを刺すところだったり、竜胆から菊の花が届いたりしていた。彼の苦労はまだまだ終わらない。
先に回復した魔皇たちは件の遺跡に向かったが、すでに遺跡は落盤が起こって出入りできなくなっていた。たぶん、中も破壊されているだろう。
「毛利は殉職扱いらしい。そう通知がきた。それに熱血も行方不明だ」
タクマ・リュウサキは人事のコンピュータミスという事で、リゾート署を出る事にした。魔皇特捜班は取り敢えず解散になるという。結局グレゴールの毛利と本物の熱血を始末してすりかわった魔皇熱血が互いの正体を知らずに魔皇を追いつめ、救助していたというだけらしい。
「伝説の魔皇については、誰かがあの遺跡で能力を得ていたというのは確かだろう。敵になったとはいえ熱血も魔皇特捜班という表の顔を失っては正体を知った魔皇を一人ずつ殺しに来る必要はない」
「味方に出来たら、変わった展開になっていたでしょうね」
「篠崎はしょげているらしいぞ」
「誰も追求はしませんけど、健二に大怪我負わせた原因って事で不人気ですからね」
「それじゃ出発や」
蘭桜院・竜胆は結局『ホ〜疑惑』は払拭されたものの『バ〜確定』にされ、魔皇特捜班を後にした。
後日談だが、件の石版の欠片に記された文字は、切り拓く者・打ち砕きし者・とらわれぬ者・純粋なる者・惑わぬ者。と、古代逢魔文字で記されていた。
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