■【悪の秘密結社】有終の美を飾ろう!■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオEX クリエーター名 菊池五郎
オープニング
 徳島テンプルム――徳島県徳島市の県庁の上に浮かぶ、徳島県を担当するノーマルテンプルムである。
 去る3月15日、東京ギガテンプルムが魔皇達の総攻撃によって陥落し、更に【翡翠決戦】に於いて、“巌皇”ペトロが死亡した事で、徳島テンプルムはどの13使徒にも従わず、今までと変わらない、徳島県民から感情を搾取し続ける方針を貫いていた。

 徳島市の治安を担当するグレゴール美少女四人組“クルセイド☆フォース”の一人、覇王・摩瑠子(はおう・まるこ)は、悪の秘密結社『ハングドクロス』のメンバーによって撃破され、重傷を負った。
「マル! しっかりしてよ、マル!!」
「‥‥そんなに、騒がなくても聞こえてるよ、千弥‥‥」
 徳島テンプルムに収容された摩瑠子は担架に乗せられ、感情エネルギー集積所へ運ばれていた。その際、親友の奈瑚・千弥(なこ・ちひろ)は片時も離れずに付いていた。
「‥‥マルが倒されるとは‥‥」
「魔皇‥‥いえ、ハングドクロスが力を付けてきた証拠よね」
 静かに摩瑠子を見送る真鏡名・桃香(まじきな・ももか)に、リーダーの服部・舞(はっとり・まい)は、そう認めざるを得なかった。
「次にしゃしゃり出てきた時は、あたしがマルの仇を取るよ」
「‥‥そのような心構えでは‥‥マルの二の舞になるだけですよ‥‥」
「なんですって!?」
「モモの言う通りよ。ハングドクロスは今までみたいな散発的な、魔皇達の単なる烏合の衆じゃないって事よ」
 桃香に喰って掛かろうとする千弥を、舞が割って入って止めた。
「少なくとも系統だった組織で、分別のある主義主張を持って活動し、ボク達神帝軍に挑んでいるよ。ボク達も本腰にならないと、マルの様に返り討ちに遭うのがオチだよ」
「‥‥少なくとも‥‥わたし達の徳島支配に‥‥見過ごせない存在ではありますね‥‥」
 舞はハングドクロスのメンバーと直に話し、実際に相対して、そう肌で感じていた。舞の言い分はいちいちもっともだと、桃香も同意した。
 ハングドクロスは今や、徳島市民の2人に1人はその名を知らぬ者はいない組織にまで成長していた。
 更にハングドクロスのシンパがいる(=支配)地域も少なくなく、今までのようにおいそれと事を構えられなくなっているようだ。
「じゃぁ、どうするの?」
「1つは徹底的に潰す。コマンダー・アールマティの許可は得たから、出撃の際はヴァーチャーを使うのよ」
「‥‥もう1つは‥‥話し合いですね‥‥わたし達が無視できないと分かっているでしょうから‥‥接触してくる可能性もあります‥‥」
 千弥の質問に、舞が強攻路線を、桃香が融和路線を告げた。
 果たして、この2つの道しか残されていないのだろうか?
 それとも3つ目の道を見出せるだろうか?

 ちなみに以下が第4話の時点でのハングドクロスの組織図と、提案されている作戦である。

 悪の総統:“斬聖大帝”ヘルブーケ(大轟寺・麗子)
 └諜報参謀:みすみん(小鳥遊・美澄)
  └諜報員:“動かざる”嫋娜
  └秘書:ユーティス
 └教育係:黒いXの人
 └参謀:“裏切り参謀”ヘルバート
 └幹部:戦姫レナ
      “遊撃隊長”殲嵐のシン
      優雅なる刹那
      “人形使い”翠玉
      “錬鉄の”碧
      “斬り込み翁”悠然なる凍希
      “悪の総参謀長”シャオ
  └怪人頭:せんべい怪人ガチガッチー
        モノアイ怪人ドクガンリュー
   └怪人:サポート怪人骨っ娘ダンサーズV3(ぶいすりゃあ)
        たらし怪人らぶげっちゅー
        板前怪人サバキング
        お気楽上等ハンマーナース
        人造人間クロス01
        騎甲兵長メタルクルセイダー
        闇の騎士ダークナイト (ヴァーサーカーモード)
        従者怪人黒天使ブラックフェザー
        怪人夢幻
        “青の死神”黎明の黎&“やぎさいず”みゃあこ
        謎の美少女覆面レスラー・ハリケーン・ナッキー
        演奏怪人ギタリオン
    └戦闘員:“旋風のジョー”戦闘員A
          戦闘員
          イカサマ怪人骨っ娘ダンサーズX(ぺけ)
          工作戦闘員1
          諜報工作員(臨時)マッドコレクター
          巫女装束戦闘員G(ゴスロリ)
 ※便宜的にPC番号順に上下関係になっていますが、本来の関係は対等です。

・中作戦
 ├後ろ暗い事は無いのかな?
 └フィギュア作成講習会を開こう

・大作戦
 ├悪の映画製作だ!
 └美少女コンテスト勝負

・S作戦
 └コマンダー・アールマティとの和平会談

【現支配率:48%】
シナリオ傾向 悪の秘密結社 PC主導シナリオ アットホーム 戦闘の可能性あり
参加PC ミスター・X
雷駆・クレメンツ
宮城・潤子
クルハシ・ミコト
礼野・智美
柳原・我斬
風羽・シン
風祭・烈
青柳・竜也
月村・心
神崎・雛
弥生月・龍河
鹿堂・威
神薙・碧
汐倉・凍希
【悪の秘密結社】有終の美を飾ろう!
 
●徳島神魔条約7カ条
 “魔皇の、魔皇による、魔皇の為の”悪の秘密結社『ハングドクロス』は、今や徳島市民の過半数にその名を知らしめていた。
 今までの作戦傾向――同人誌即売会やゲリラライブ――から、若者を中心とした知名度ではあったが、“クルセイド☆フォース”からすれば、最早、見過ごす事のできない組織へと成長していた。

 そのハングドクロスの秘密基地が、閑静な住宅街の一角に店舗を構え、安くて早く、丁寧なサービスで地域住民に親しまれ、常連客を確実に増やしているクリーニング店『真っ白やぎクリーニング』の地下にある事は、未だ知られていなかった。

 店舗の地下一階にある会議室には長テーブルが□状に並べられ、その上座に重厚で禍々しい玉座と、その後ろにホワイトボードが置かれていた。
 玉座にはハングドクロスの総統、“斬聖大帝”ヘルブーケ――大轟寺・麗子――が座していた。その傍らには諜報参謀みすみん――麗子の逢魔・美澄――が控え、ホワイトボードに作戦概要を書き込んでいた。
 残りの席には幹部や怪人、戦闘員が一堂に会していた。
「今日、益荒男達に集まってもらったのは他でもない。儂は期は熟したと思うのじゃ!」
(「マント捌きはなかなか堂に入っているのであ〜る!」)
「S作戦‥‥アールマティに和平会談を申し込むのか?」
 ヘルブーケがすっくと立ち上がると、マントを翻して一同を見渡した。自ら教授したマント捌きをきちんと自分のものとしている事に、黒いXの人――ミスター・X(w3a348)――はしみじみと頷いた。
 騎甲兵長メタルクルセイダー――青柳・竜也(w3c865)――は、ヘルブーケの言わんとしている事を察し、続く言葉を引き取った。
 ヘルブーケは小さい体躯でも分かるように大きく頷いた。
「儂はここにS作戦の実行を宣言するのじゃ。そこでそなた達に和平会談に臨む際の、こちらの要求をまとめて欲しいのじゃ」
 会談の場に相手を着かせるには、少なくともこちらが相手にとって脅威、もしくは排除すべき存在でなければならない。ヘルブーケはそれが今だと確信していた。
「市民に迷惑は掛けられないし、掛けたくないから制服聖戦は止めてもらいたい。それに付随した感情搾取も止めて欲しいな」
「一般人の感情が神帝軍のエネルギーである以上、感情搾取の停止は無理だ。せいぜい、感情搾取をしているという情報公開が妥当な線だな」
「私も無理だと思います。感情搾取を認める代わりに、感情搾取の為に市民に被害が及ぶような事件や事故を故意に起こさない、という約束を取り付けたいですね」
「それに制服聖戦って市民を巻き込んでるけど、感情搾取が目的じゃないんだよう。千弥さんが言ってたけど、徳島市の活性化が目的なんだもん」
 戦姫レナ――礼野・智美(w3b872)――が、一般人の感情搾取に言及すると、殲嵐のシン――風羽・シン(w3c350)――と“錬鉄の”碧――神薙・碧(w3i216)――から横槍が入った。
 また、制服聖戦に参戦した事のある巫女装束戦闘員G(ゴスロリ)――逢魔・ミリフィヲ(w3i216)――が、奈瑚・千弥から聞いた本来の目的を語った。
 制服聖戦を感情搾取に利用しているのは覇王・摩瑠子くらいであり、話題性で徳島県に観光客を呼び、活性化させるのが目的だと、千弥は巫女装束戦闘員Gや碧に話していた。
「制服聖戦が勃発すれば、制服を着た女性見たさに徳島市に人が集まる。人が集まればその分、地元に金を落とす。手段はどうあれ、結果として徳島市が潤う事には変わりはないし、利に適っていると俺は思うが?」
「威様も珍しく、楽しまれていたですぅ〜♪」
 工作戦闘員1――鹿堂・威(w3h214)――も服部・舞に協力し、逢魔・ブリーゼ(w3h214)にアン○ミラーズの制服を着せた事があった。ブリーゼはあの時の威は生き生きと楽しんでいるように見えて嬉しかったのだ。
「結果はどうあれ、感情を過剰に搾取している事は否めない。でも、徳島テンプルムは市民から愛されているみたいだから‥‥人の為に私達と協力できればいいのだがな」
「感情搾取停止は無理でも、削減は要請したいぜ。相手にも和平した方が得だと思えるような事がねぇとダメだろうし、ある程度は妥協しないとな」
「それは俺も賛成だ。俺は元々、神帝軍が感情を搾取し、平和な世界へ導こうっていう思い上がりが嫌で戦っていた訳だしな」
「その点については俺に考えがあるから任せてくれないか?」
 レナにせんべい怪人ガチガッチー――雷駆・クレメンツ(w3a676)――とメタルクルセイダーが妥協案を提示した。レナやメタルクルセイダーがこだわるように、神帝軍の感情搾取を止める為に戦っている魔皇も少なくなかった。
 シンに策があるようで、この件は彼に一任された。
「和平会談ですか‥‥人と神と魔がお互い認め合い、手を取り合って生きていけるような社会になればいいな‥‥なんてね」
「そうですね。わたくしもミコト様と一緒にそんな未来を見てみたいです」
 やり取りを聞いていたクルハシ・ミコト(w3b555)が、自分に言い聞かせるように言うと、隣に座る逢魔・テクタイト(w3b555)はミコトの手を取って、紅玉のような赤い瞳を輝かせながら嬉しそうに賛同した。
 ミコトとテクタイトはハングドクロスの噂を聞き付けて、遥々仙台からやってきた、悪のオカマに天誅を下す正義の魔法少女でーもん★らびーと、彼女(?)に付き従うロマンス怪人ダイアナさんなのだ。
 平和の為なら必要悪も良しと考え、ハングドクロスに身を寄せていた。
 ミコトの意見こそ、この和平会談の目的であり、求める結果だった。

 人造人間クロス01――風祭・烈(w3c831)――と闇の騎士ダークナイト――月村・心(w3d123)――を中心に、以下の『徳島神魔条約7カ条』がまとめられた。

1.徳島での神魔の戦いを禁止する。
 ・魔皇と徳島テンプルムの協力または不可侵。
2.神魔の力を悪用した犯罪行為は、神魔両方が人員を派遣して取り締まる。
 ・ハンドクロスがスライドする形でクルセイド☆フォース同様の自警団となり、神魔による犯罪が起きた際は協力してこれに対処する。
3.一般人に迷惑をかけるような感情搾取は止める。
 ・感情搾取の削減、及び感情搾取の事実を人間側に公開。感情を搾取する場合は、徳島市を興す事を目的としたイベントを開催する事。
4.徳島テンプルムが感情集積システムコントロールの研究に参加する。
5.徳島において神・魔・人は同等の権利を有する。
6.魔皇側は神帝軍のイベントに協力する事を条件に、徳島での市民権を得る。
7.条約見直しの為の会談を定期的に開催する。

 なお、徳島県の神魔に関わる事なので、メタルクルセイダーが徳島県の密と伝を統べるインプの密・パルステラを呼び、特別にこの場に出席してもらっていた。
「魔皇様達が決められた事ですもの、あたくし達密に異論はございませんわ」
 パルステラから特に注文はなかった。
「この条約が締結されれば‥‥徳島での神魔の争いはなくなる‥‥会談は正念場ですね」
「潤子の一言が切っ掛けとなったこのハングドクロスが、多くの益荒男の助力のお陰で遂にここまで来たのじゃ。会談も宜しく頼むぞ」
「ええ、今まで作戦に来られなかった分、総統を護ります」
 完成した条約を見ながら、“旋風のジョー”こと戦闘員A――宮城・潤子(w3b084)――は和平会談へ向けて気合いを入れていた。
 潤子と麗子はメンバーの中でも古い付き合いで、姉のように思っていた。

●徳島神魔和平会談
『徳島市の今後について、徳島テンプルムを統べる大天使を始めとする神帝軍に、徳島の魔皇を代表して和平会談を申し込みたい』
 レナは礼儀作法に則った直筆の手紙で、コマンダー・アールマティ宛に結社の名前で和平会談を申し入れた。
 返事は翌日には真っ白やぎクリーニングに届いた。
 和平会談は一週間後、場所はクルセイド☆フォースが本部として接収している徳島プリンスホテルの主宴会場プリンスホールで行われる事になった。
 レナは返事を受け取ったその日の内にプリンスホテルを訪問し、クルセイド☆フォースのメンバーに面会を申し入れた。
 応対に当たったのはリーダーの舞だった。既にアールマティから会談を承諾した連絡を受けており、当日の場所と参加予定メンバーを確認し合った。
 その際、同行した“動かざる”嫋娜――逢魔・ユフィラス(w3b872)――がハングドクロスの公式HP上で、会談の様子を後日インターネットラジオで流したいと提案すると、舞は徳島テンプルムも公式HPを持っており、こちらでも同時発信する事を条件に許可した。
 嫋娜は続いてテレビ中継も提案したが、あくまで徳島県内に限っての事なので、四国放送に限定して中継が許可された。

 レナが帰った後、威が工作戦闘員1としてではなく、一人の魔皇として舞をデートに誘った。しかし、都合が付かないとの事で、ホテルのロビーで話をする事になった。
「今回の神魔の和平で戦犯みたいなのが必要なら、全員分の罪を俺が肩代わりしてもいいぜ」
 威は本題を切り出した。
「全て俺が変装してやった事にすればいいし、ハングドクロスの事も資金力のあった総統を俺が唆したって事にすれば大丈夫だ。神帝軍としてもそれで体面は保てるよな?」
「つまり、スケープゴートになりたいって事でしょ? でも、キミの逢魔はどうなるのさ?」
「ブリーゼの事は知り合いに頼んであるから問題ないぜ‥‥俺達、いや少なくとも俺は、神帝軍が憎くて刃を交えた事は一度もない。それどころか、舞達に死なれたら悲しいんでな」
「ホント、魔皇には物好きが多いよね」
 デートは話し合いの時間を取りたい名目だけではなかった。威は舞達に対してそれなりの好意を抱いていたからだ。
 威の話を聞き終えた舞は艶やかな髪の毛を掻きながらウインクした。すると、千弥に付き添われて碧がやってきた。
「考えている事は一緒ですね」
 碧は威よりも早く、レナ達と入れ違いになるようタイミングを見計らって舞に面会を申し込んでいたのだ。
『先ずは、覇王さんに重傷を負わせてしまった事を謝罪させて戴きます』
 碧は摩瑠子に重傷を負わせた事を謝罪し、お見舞いの品を渡した。
『信じて戴けないかも知れませんが、私は誰も傷付く事なく、笑ってこの諍いを終わらせられれば良いと願っています。これは、私の偽らざる本心です。たとえどんな結果に終わっても、『あなた方と出会えた事は幸運だった』と私は胸を張って言えます』
『マルが怪我をしたのはキミ達を侮っていたからだし、『魔皇だから』という理由だけで攻撃したマルにも非はあるよ。少なくともボクやモモは気にしてないけど、親友のナコはちょっとご機嫌斜めだけどね』
 重傷を理由に攻撃されるのなら、敢えて受けてもいいと考えていた碧は、舞の返答に拍子抜けしてしまった。その後、千弥を宥めていたのだ。
 少なくとも威や碧が思っている程、舞は強硬派ではないようだ。

 秘密基地に戻ったレナと嫋娜は和平会談の内容をチラシにし、それから選挙日前日まで、モノアイ怪人ドクガンリュー――弥生月・龍河(w3f688)――と怪人夢幻――逢魔・ルミナス(w3f688)――が中心となって徳島市民の家に配り、会談の事実を知らせた。
『正々堂々と話し合う事を市民の皆様に誓います』
『会談の模様を傍聴されたい方は、当日、徳島プリンスホテルに来て下さい。後日、ハングドクロス公式HPでもインターネットラジオでお聞きになれます』
 以上二点を明記したが、徳島テンプルムの市民への広報も特に事実を改竄した様子はなかった。
「ザコとは配り方が違うのだよ、ザコとは」
「‥‥戴けないわね。本人は念を入れているつもりかもしれないけど、これじゃぁ私達が正義だと、自分から宣伝していると捉えられてもおかしくないわよ」
 気合いを入れてチラシを配るドクガンリューの傍らで、夢幻はレナと嫋娜のやり方に行き過ぎ感を覚え、危惧していた。
 その危惧は和平会談の席で現実のものとなるが、この時の夢幻はそれを知る由もなかった。

 そして迎えた和平会談当日。
「今回の『黒いXの人プレゼンツ・ドキドキ☆秘密結社総帥講座』は……『散り際』について教えよう!」
 ヘルブーケは出陣前に黒いXの人から手ほどきを受けていた。
「悪の総統たる者、散り際はクール&ニヒルに決めなければならない! 総統はどっしり構え、いつでも己の最高の最期を演出できるようにしているものなのであ〜る! 『基地ごと自爆』が最もポピュラーであろう! 崩壊する基地と共に、復活の呪詛を紡ぎながら眠りにつく……うむ! 悪はこうでなくては!! まぁ今回に限っては我々が負ける訳ではないので、自爆はあり得ないであるがな!!!」
「このスイッチは‥‥いったい何時の間に‥‥」
 黒いXの人はヘルブーケに秘密基地の自爆ボタンを渡した。しかし、それが気負っていたヘルブーケをリラックスさせる事になった。

「総統はー、何にもしなくても可愛いから、あんまり手を加えないでー、ちょとだけ艶やかにっと〜♪ うん、美人になった。自信持って行っておいで〜」
 たらし怪人らぶげっちゅー――逢魔・炎火(w3b084)――が、和平会談に臨むヘルブーケにメイクを施すと、発破を掛けて送り出した。
 真っ白やぎクリーニングでは、らぶげっちゅーの他にも嫋娜とブリーゼが、四国放送の中継を見ていた。
 シンが愛車の助手席に刹那を、後部座席にヘルブーケとみすみんを乗せ、その後にガチガッチーとジョー、レナとクロス01、ダークナイトと碧、“斬り込み翁”悠然なる凍希――汐倉・凍希(w3i219)――の乗ったコアヴィークルが続いた。
 徳島プリンスホテルの前にはネフィリム・ヴァーチャーが立っていた。既にアールマティは、徳島テンプルムから到着しているようだ。
 また、多くの市民達が詰め掛け、ホテル前の道路は封鎖されて歩行者天国となっていた。
 ただ、和平会談を傍聴できる席は限りがある為、整理券が配られていた。
 ヘルブーケとみすみんの横を白コートにサングラス姿のシンと“優雅なる”刹那――逢魔・刹那(w3c350)――が固め、前にガチガッチーとジョーが、後ろにレナとクロス01が付いてプリンスホールへと入った。
 ダークナイトと凍希はプリンスホール自体の警備に就いていた。
「さて、和平会談か‥‥無事に済めばよいがな‥‥」
 昼行灯よろしく、キセルを吹かしながらまったりと警備している凍希は、早々神帝軍も手出しはしないと思っていた。
 碧はテレビ中継のカメラクルーを手伝いながら、改竄等が行われていないかをチェックするつもりだった。
 プリンスホールには、コマンダー・アールマティと、摩瑠子を除くクルセイド☆フォースの面々――舞、真鏡名・桃香、千弥――、プロフェッサー・ビックディッパーの姿があった。
 アールマティの本来の姿はケンタウロスだが、テレビ中継されるとあってか、聖人変化<メタモルフォーゼ>で人化していた。
 ヘルブーケとみすみんが席に着くと、ジョー達も倣って席に着いた。
「これから腹を割って話すのに、顔を見せず、正体も現さないのは失礼ですね」
 ジョーは戦闘員Aのゴーグルを取った。クロス01は変身前だったが、ガチガッチーもマスクを外し、シンと刹那はコートの下に着込んだ本来の姿に戻った。しかし、レナは戦姫の装束のまま通すつもりだった。
「今回は、こうして魔皇と話す切っ掛けを持ちかけて下さり、嬉しく思います」
「こちらこそ、話をする機会を貰えた事に感謝してるぜ」
 アールマティから話を切り出すと、雷駆がそれに答えて礼を述べた。
 その後、お互い本名で自己紹介し合い、和平会談が始まった。
「先ず、こちらが願う条件じゃ‥‥」
 麗子は徳島神魔条約7カ条が書かれたファイルをアールマティへ差し出した。
「1、2、5、6、7に関しては、こちらも無条件で認めてもよいでしょう。6に関しては、私達の方から条件を出そうと思っていたくらいですから」
「‥‥制服聖戦は‥‥外せないから‥‥」
「そもそもお前等の言う“制服”とは“何の服”だ? 定義を広く取って欲しい。市民に選択の自由を与えるべきだ」
「制服の定義は、ある集団に属する者が着る服です。では一般人にとっての制服とは何なんでしょう? 私が思いますに、一般人にとっての制服とは、その人に似合う服・着ると気が引き締まる服なのでは無いでしょうか?」
 アールマティと桃香の意見に智美と碧が反論した。
「ボク達も四六時中付き合えとは言わないよ? 制服聖戦の時だけ、ボク達の“萌え”に賛成か反対を表明して欲しいだけだから」
「それに魔皇や逢魔に市民権を与えるのだから、悪い話じゃないわよね? 徳島県内に限るけど、法的に結婚だって認められるわよ」
 舞の後の千弥の“結婚”という言葉に雷駆の心は動いた。雷駆と逢魔・ティレイノア(w3a676)を始め、多くの魔皇達が結婚しているが、それは法的に何ら効力を持たない事実婚だったからだ。
「しかし、3と4に関しては、この条件を飲む事はできません」
「気づかせねぇのはフェアじゃねぇ。せめて事実の公開を求めるぜ!」
「まぁ待て、雷駆。実はこういう資料があるんだが‥‥」
 やはり感情搾取については決裂してしまった。喰らい付こうとする雷駆を制すと、シンは別のファイルをビックディッパーに渡した。
 それは九州北部で活動中に知った、佐賀テンプルムの停止した感情集積装置を元に、調節の利かない集積システムをコントロールする研究が動き出しているという内容の資料だった。
「急に止めろ……とは、とてもじゃないけど言えません。それはあなた達に死ねと言っているのと同じですから。でも‥‥やはり強制的に奪う事は‥‥してはいけない事でしょう。できる限りあなた達にそれを控えて戴きたい。私達はビックディッパーさんに、この研究参加をお願いしたいんです。彼の‥‥天才的頭脳なら、その研究を大きく前進させれるかもしれない」
「実に興味深い資料ですな‥‥しかし、これを徳島テンプルムだけで行うのは、容易ではないですな」
「どういう事だ? その研究に徳島テンプルムも参加すれば‥‥」
「徳島テンプルムは現在、どのプリンシパリティ様にも従っていないのです」
 資料に一通り目を通したビックディッパーは、潤子の後押しもあって研究意欲に火が着いたようだった。しかし、シンが期待していた、この研究への徳島テンプルムの参加は叶わなかった。
 福岡メガテンプルムが陥落した今、翡翠の神帝軍は北九州と南九州、四国の三つに分裂しており、徳島テンプルムは何処にも属さない路線を貫くつもりだとアールマティは説明した。
 故にこの和平会談が設けられたと言っても過言ではなかった。

 和平会談は3と4項目を除いて調印され、ここに先ず『徳島神魔条約5カ条』が締結された。
 感情搾取は当面、最低限に留める事で折り合いが付いた。
「今後とも対話を続けていきたいですね」
「その為には先ず、あなた達が私達を信用する事から始めるべきですね」
 麗子とアールマティが握手を交わして和平会談が閉幕すると、潤子は和平会談の継続を申し入れた。アールマティは智美と碧を垣間見てから微笑んだ。智美と碧の行為は、アールマティ達を信用していない現れだと取られたのだ。
「和平の成立記念に、明日、『美女コンテスト』を開催するが、クルセイド☆フォースのメンバーとアールマティも是非参加して欲しい! 美女は多い方が盛り上がるだろう!!」
 早速、親睦を深めようと、烈は和平会談と並行して準備していた美女コンテストに、クルセイド☆フォースのメンバーとアールマティを誘った。

 後日分かった事だが、麗子の実家である大轟寺グループは、徳島テンプルムに脅されて協力していたのではなく、進んで協力していたのだった。勘当したとはいえ、やはり娘を想う親心がそうさせてしまったのだ。

●親睦を深める美女コンテスト
 美女コンテストの準備は、板前怪人サバキング――柳原・我斬(w3b888)――を中心に、和平会談と並行して進められていた。
 既にハングドクロスの女性ユニット『魔街閃姫(アクスディア)』とクルセイド☆フォースとの対決はお約束であり、サバキングが『公平を期す為に中立の場所』として選んだ会場は、選抜阿波おどりの開催場所にもなっている徳島市立文化センターだった。
「照明はこの辺だよね?」
「ああ。それに合わせて、同じ列にもう3、4個着けてくれ」
「了解だよ!」
「う〜ん、いい響きですねぃ♪ スピーカーはこのくらいのエコーが丁度いいですねぃ」
「音響は本業のギタリオンに任せるよ」
「審査員は当日、一般人から10人無造作に選出だったな? 1人1点計算だな」
「それに持ち点10点の特別審査員の教授とみすみんが加わって、100点になるんだ」
 本の魔人ジ・ントー――逢魔・ジント(w3d751)――がサバキングの指示で照明類を設置し、演奏怪人ギタリオン――逢魔・蒼燐(w3i219)――が音響機器を調整していた。
 そのサバキングは舞台セットと楽器の用意に追われていた。後半はドクガンリューと夢幻、らぶげっちゅーも応援に駆け付け、審査員の選出と舞台衣装の用意を肩代わりした。
「ま、こういうのは嫌いじゃないけどね‥‥学生の頃の文化祭を思い出すなぁ‥‥そうそう、レイルにハンマーの改造を頼まれてたっけ。これを仕上げたら取り掛かるか‥‥木製のハンマーにマイクを埋め込むのって大変なんだけどな‥‥」
 木槌を振るっていたサバキングは、お気楽上等ハンマーナース――逢魔・レイル(w3b888)――からレイルンハンマーの改造を頼まれていた事を思い出し、ペースを上げた。
 なお、ジ・ントーはどっかの本から出てきた妖精(らしい)で、巨大な本を背負っていた。基本的に誰の命令も聞くが、唯一、ダークナイトの命令だけは絶対に聞かなかった。

 美女コンテストの開催は、和平会談の最後にクロス01が話しただけだったが、メディアの力は強く、会場は開演と同時に250席が満席となった。
『みんな〜、今日は集まってくれてどうもありがとう〜☆』
『徳島の明日を賭けた女の戦い! ハングドクロスvsクルセイド☆フォース‥‥究極の美女は誰だ! そして徳島の明日はどっちだ!! 美女コンテスト‥‥開幕だぁ〜!!!』
 司会はゲリラライブ同様、ロングヘアのかつらと縁なしの伊達眼鏡で女装した竜也だった。今回はインカムマイクに女性声のボイスチェンジャーを仕込んでおく念の入れ様である。
 相棒は、ダークナイトからは想像も付かない程ノリノリの心である。
『優勝賞品は何と、俺と一日デート権! しかももれなく熱いチューも付いてくるぜ〜!』
『そんなの要らないよ〜☆』
「心とデートですか!? しかもキスまで貰える!? ‥‥絶対に優勝します」
 お約束のギャグをかます心に竜也が突っ込む中、説明を聞いていた電脳魔人デリーティア――神崎・雛(w3d751)――は一人静かに闘志を燃やした。
 デリーティアは心の恋人――本人はそのつもり――であり、心とキスできる絶好の機会だった。ジ・ントーが心に従わない理由は、パートナーのデリーティアにあった。
 デリーティアは普段は黒い服とコートに身を包み、顔の右半分をピエロマスクで覆っていた。コンピュータを使用した電脳戦を得意としていた。 
 この後、“人形使い”翠玉――逢魔・エメラルダ(w3c831)――が操る――ように見える――クロス01から美女コンテストの説明が行われた。
 陣営ごとに個人演目を交互に行い、最後に団体演目で締め、審査員の得票数が多い陣営が勝ちとルールだった。
『但し、神魔は全ての能力の使用を禁止し、人化して演目に臨むように!』
 クルセイド☆フォースが神聖なオーラを出して勝負しないように釘を差した。

『ハングドクロス一番手は、サポート怪人骨っ娘ダンサーズV3で〜す☆』
 ダンサーズV3はローラーブレードで軽快にステージ上へやってくると、フィギュアスケートよろしく、アクセルスピンを披露した。
『見えそうで見えない胸がワンポイントだな』
「雷駆以外にはそう簡単には見せないから☆」
 ダンサーズV3は超ミニの上下カットジーンズと胸の下半分をザックリ切ったへそ出しノースリーブランニングシャツで、野性的な色香を振り蒔いていった。

 クルセイド☆フォースの一番手はいきなりアールマティだった。
 アールマティは体操服に希少種の緑ブルマという出で立ちで、跳び箱を飛び、ブルマ萌えを十二分にアピールした。

『ハングドクロス二番手は、ノルンで〜す☆』
「精一杯頑張るので、皆さん、応援よろしくお願いしまぁ〜す♪ 心君、アシスタントお願いします〜」
 逢魔・ノルン(w3d123)は魔街閃姫の為に練習したダンスや尺八でアピールしたが、緊張して心のサポートがなければ途中で何度か間違えていただろう。

 クルセイド☆フォースの二番手は舞だった。
 籠○屋の制服を身を纏い、忍者刀で剣舞を披露した。メイド服と刀は意外と萌える組み合わせだったりするのだ。

『ハングドクロス三番手は、翠玉で〜す☆』
「わたくしは人形使い。あの人造人間を動かしているのはわたくしですの。何かさせたい事はございます?」
 翠玉が観客に聞くと、バック転をして欲しいといわれた。翠玉が竪琴を奏でると、クロス01はステージの端から端までバック転をしていった。
『翠玉、見事な人形捌きだぜ!』

 クルセイド☆フォースの三番手は桃香だった。
 肌も露なボンテージ姿で登場し、舞の投げるナイフを一本一本矢で射落としていった。

『ハングドクロスの四番手は、イカサマ怪人骨っ娘ダンサーズX――逢魔・リアレス(w3c865)――だ〜よ☆』
「それじゃ、サクサクっと行くよ!」
 ダンサーズXは赤龍飛龍棍を取り出すと、流れるように棒術の型を決めたり、バトンのような使い方をしてみたりと、多彩な演舞を披露した。
『赤いミニスカチャイナドレスにぽにーテールが映えるぜ』
 このスタイルは竜也のたっての要望だという。

 クルセイド☆フォースの四番手は千弥だった。
 巫女装束姿の千弥は日本舞踊を披露し、先程のダンサーズXの演舞を“動”をするなら、“静”の舞を魅せた。

『ハングドクロス五番手は、雛で〜す☆』
「心君をアシスタントにしたいんですけど?」
 本日二度目のお呼びが掛かり、心はミニスカセーラー服に眼鏡という組み合わせの雛と歌を唄った。

「ねぇテクタ、本当にコンテストに出なくてよかったの?」
「はい、わたくしはミコト様にさえ見ていて戴ければ幸せですから、コンテストに出なくったっていいんですv」
 でーもん★らびーは、美女コンテストを盛り上げる音楽を奏で続けているギタリオンの指示で音響の調節をしながら、傍らにいるメイド服の上からでーもん★らびーのネームが入った法被を着て、額に『らびー命』と書かれた鉢巻きをしているダイアナさんに聞いた。
「‥‥うん、可愛いよ、とっても!」
 ダイアナさんからすれば、250人の観客よりも、ただ一人、でーもん★らびーに今の一言がもらえればそれで至福の思いだった。

『ハングドクロス六番手は、ハンマーナースでっす☆』
「(この歳で歌うのはちょっと恥ずかしいけど‥‥やるからには全力よ!)『恋する10tハンマー』、聞いて下さい」
 ハンマーナースは、サバキングにマイクを埋め込んでもらったレイルンハンマーでポーズを決めながら唄った。恋する10tハンマーは明るい感じのポップな歌で、着ているナース服にはピッタリだが‥‥。
「ハンマーナースの歳を考えると、この歌は厳しいよなぁ」
 この感想を漏らした心は後程、ハンマーナースにレイルンハンマーでボコボコにされたのはいうまでもなかった。

 この後、とりを務めるヘルブーケが琴の演奏をして個人演目が終わり、団体演目へと移った。
 雛を加えた魔街閃姫と、クルセイド☆フォースは歌を披露した。
 その結果は――。
『ハングドクロス50点! クルセイド☆フォース50点! 見事に引き分けに終わったよ〜☆』
『じゃぁ、俺のデートは全員で山分けって事で』
 もちろん、心のデートとキスは雛が独占したのは想像に難くないだろう。
「俺達、神魔の力は困ってる人を助け、共に喜びを分かち合う為にあるんじゃないか? この美女コンを見ていたらそう思えたよ。記念として全員で写真を撮らないか?」
 烈の提案で、この場に来ていたハングドクロスのメンバーとクルセイド☆フォースで集合写真が撮られ、美女コンテストは幕を閉じた。

「‥‥未来‥‥それは誰にも分からぬ。しかし、徳島の未来は、決して暗くないんじゃろうな‥‥少なくとも、我々とお主等が居る間はのぅ」
 観客が帰った後、参加者全員で祝杯を上げた。アールマティをナンパし、あっさりフラれたギタリオンを見ながら、凍希は杯を傾けて平和に浸ったのだった。
 今まで、敵対してきた神帝軍と笑顔で酒が酌み交わせる‥‥少なくともそこに、過去の遺恨を持ち出す者はいなかった。
 あるのはこれから、神魔の未来の一つの形だった――。

【終焉:ナレーション→ギタリオン】
 こうしてハングドクロスは、念願の徳島支配を果たしたのであった。
 【悪の秘密結社】、これにて終幕! ここからの続きは、皆さんが作っていくんですねぃ♪

●活動報告(現支配率:50%→100%)
 ・コマンダー・アールマティとの和平会談:成功!
 ・美女コンテスト勝負:成功!(支配率計+50%)