■【翡翠・紫の夜】厄介な落とし物■ |
商品名 |
流伝の泉・ショートシナリオ |
クリエーター名 |
菊池五郎 |
オープニング |
5月15日――。
福岡メガテンプルムの残骸を調査していた魔皇が発見した、キメラ型サーバントを輸送する為のコンテナは、徳島県の密の手によって徳島市の隠れ家へ運ばれていた。
キメラ型サーバントを封印したコンテナを積んだトラックは徳島自動車道を走り、徳島県と愛媛県の県境に程近い、池田パーキングエリアで休憩を取っていた。
徳島市の隠れ家にいる、インプの密・パルステラに定時連絡を入れ、休憩に入ろうとした密が見たものは――自らの力で封印を破ったキメラ型サーバントだった。
キメラ型サーバントは密を、パーキングエリアにまたまた居合わせてしまった者達を襲うと、徳島自動車道の本線へ出て徳島市へ向けて爆走を開始した。
『高速道路をトカゲの様な化け物が数匹、疾走している』
――その通報はすぐに徳島テンプルムへ伝わった。
徳島テンプルムはすぐさま徳島自動車道を封鎖する措置を取った。
「魔皇様、至急、徳島自動車道へ向かって戴けませんか?」
時を同じく、パルステラは魔皇達を呼び寄せていた。
このままではキメラ型サーバント達が徳島市に来てしまうからだ。
キメラ型サーバントは神帝軍が造ったものだが、徳島市街地へ入る前に食い止めなければ大惨事になってしまうだろう。
同時にパルステラは音沙汰のない輸送していた密の安否が気掛かりだった。
今回はその為にパルステラも同行するという。
「‥‥来たのですな」
徳島自動車道へ来た魔皇達とパルステラを、意外な人物が待ち構えていた。
バイク型ネフィリム“オファニム”を駆る、プロフェッサー・ビックディッパーだった。
「キメラ型サーバントは我が神帝軍の厄介な落とし物のようですし、徳島市を守るという意味で、利害が一致しているのですな。不本意ながら、今回だけは手を組むべきですな」
意外な人物は、意外な提案をしてきた。
今は紫の夜が発生しており、殲騎も召喚できる。
もちろん、受ける、受けないは魔皇の自由だ。
「まったく、本当に厄介な落とし物ですわね‥‥」
パルステラは一人溜息を付いていた。
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シナリオ傾向 |
紫の夜 殲騎使用可 キメラ型サーバント 高速バトル? |
参加PC |
柊・日月
月島・日和
音羽・聖歌
結城・心時
ライル・ウォーデン
クリス・アンドウ
アーク・ブルーリバー
天草・渉
斬煌・昴
蒼月院・荒忌
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【翡翠・紫の夜】厄介な落とし物 |
●ニュース速報
『徳島テンプルムの特例措置により、徳島自動車道の徳島インターから川之江東ジャンクションの区間で、上下線共に全面通行止めになりました』
徳島市の隠れ家にいた音羽・聖歌(w3c387)と逢魔・神無(w3c387)、柊・日月(w3a201)と逢魔・ペトラ――ペトルーシュカ(w3a201)――は、インプの密・パルステラとテレビから流れてきたニュース速報を耳にした。
「‥‥密の一人が徳島自動車道を、こちらに向かっていましたよね‥‥?」
神無が切り出すと同時に、無線機から徳島県の密専用周波数で連絡が入った。それは徳島テンプルムの動向を探っていた凶骨の密からの連絡だった。
「『高速道路をトカゲの様な化け物が数匹、疾走している』という目撃情報があったそうですわ」
「何らかの理由で、キメラ型サーバントの封印が解けた可能性が大きいな。パルステラや徳島の密には、俺も悪友も弟も色々世話になってるし、神無の回復能力も役に立つ筈だ」
その後、パルステラはナイトノワールの密に連絡を入れたが音信不通だった。パルステラの言葉の続きを引き継ぎながら、聖歌は出掛ける準備を始めた。
「‥‥アレを拾ってきた者として、きっちり後始末をしておかないとな」
「パルステラ様、以下の物のご用意はできているでございましょうか?」
日月と聖歌が隠れ家にいたのは、キメラ型サーバントのコンテナを解放した際、最悪の事態に備えていたからだ。ペトラは出掛けに、パルステラに予め用意してもらっていた物を受け取った。
逢魔・リーザ(w3f100)と一緒に徳島市へ買い物に出掛ける途中だったアーク・ブルーリバー(w3f100)の携帯電話から、伝からのホットライン用の着メロが鳴った。
「仕事だ。徳島市に向かっているキメラ型サーバントを迎撃しろだとさ」
「久しぶりに買い物に行こうとしていたのに‥‥残念ですね」
「仕方ないだろう? こっちだって今日発売のソフトを諦めないとならないんだ。限定版、予約しておけばよかった‥‥」
「まぁ、こんな日ですから、依頼があってもおかしくないとは思っていましたけど、ね」
リーザが空を見上げると、晴れ渡った空は紫色に染まっていた。
「さっさと仕事を片付けて、それから‥‥うん、ディナーにでも付き合ってもらいましょうか」
「分かった。それじゃ気合い入れて行くぞ!」
リーザのご機嫌が直り、胸を撫で下ろしたアークはコアヴィークルを召喚すると、徳島ICへ向けて疾駆した。
●昨日の敵は今日の友?
徳島ICの入口は警察車両によって封鎖されていた。
パルステラと合流した結城・心時(w3c683)と天草・渉(w3h296)は、その陣頭指揮を執っている見覚えのある白衣姿の男を見付けると、魔皇の姿のままで近付いていった。
「‥‥来たのですな」
心時と渉の姿を認めると、プロフェッサー・ビックディッパーは警官隊に道を開けるよう指示した。まるで来る事が分かっていたかのようだ。
日本政府が神帝軍の支配下に置かれて以来、魔皇はグレゴールや警察に追われる身だった。その警察が道を譲り、グレゴールから協力を申し出てくる事に、クリス・アンドウ(w3e363)は意外な、そして新鮮な感じを覚えた。
「偽殲騎で暴れていた貴様と一緒に戦うとはな‥‥複雑な気持ちだ‥‥」
「逆にあなた達の実力は私もよく知っていますから、安心して任せられるのですな」
「それは僕達の台詞だよ。教授の強さはこの身体で充分喰らってるから心強いよ!」
ビックディッパーに言い捨てる心時と握手を求める渉は、魔皇とグレゴールとの共闘に対する、実に対照的な反応だった。
「状況をできるだけ詳細に説明して欲しいんだが?」
「キメラ型サーバントの正確な数と、今、どの辺りにいるのかが分からないと、対策の立てようがないですからね」
斬煌・昴(w3i628)と逢魔・クリストファ(w3i628)がビックディッパーを促すと、徳島ICの事務所へ案内された。
「ドラゴンの形をしたキメラ型サーバントが3匹、上り車線を徳島ICへ向けて疾走しているのね? コアヴィークルで下り車線を走っていれば、巧くやり過ごせるかも知れないよね」
「途中の太刀野トンネルの出入口を爆破するとは、思い切った足止めをしたものだな」
「復旧を考えての爆破ですが、時間稼ぎになればいいのですな」
月島・日和(w3c348)とライル・ウォーデン(w3d411)が、ビックディッパーから聞いた現状をまとめた。
キメラ型サーバントは現在、グレゴール達が太刀野トンネルの出入口を爆破して塞ぎ、足止めをしていた。ただ、攻撃力が高いドラゴン型だけに、突破されるのは時間の問題だった。
「徳島市から十分離れた場所に殲騎による防衛ラインを布き、コアヴィークルによる防衛ラインへの誘導と殲騎との挟撃で、徳島市街に入る前に確実に撃破する策がいいでしょう」
「問題はどこに防衛ラインを布くかだね」
「俺とアーク、ライルと荒忌の4機の殲騎が配備できる場所となると‥‥」
「距離的には阿波パーキングエリアが理想だけど、殲騎4機とキメラ型サーバント3体が戦うには狭すぎるのよね。上板SAしかないよ」
「徳島市に入る以上、そこが最終防衛ラインっちゅう訳やな。こりゃ、コアヴィークルに後ろから蓋してもらわへんとな」
日月が作戦を告げると、クリスと昴、日和が内容を詰め、蒼月院・荒忌(w3j302)が締め括った。すると不意に荒忌の中に疑問が芽生えた。
「なぁ、何でキメラ型サーバントは、律儀に徳島市に向かって走ってきとるんや?」
「これはわたくしの推測ですが、帰巣本能だと思いますわ。キメラ型サーバントは熊本テンプルムで造られていましたから、テンプルムを巣と思っているのでしょう。一番近い徳島テンプルムを目指している、と考えられますの」
逢魔・アミレント(w3e363)が、今までに入手した情報を元に荒忌の疑問に答えた。
「厄介な本能だぜ。それで初上陸で大立ち回りってさ‥‥しかも注文厳しいし」
「全くや。徳島には目の保養で来る筈だったんやけどなぁ‥‥」
「‥‥二人とも、真面目にやって下さいね?」
「三つ巴の制服聖戦なら、この件を片付けた後でもたっぷり拝めるだっちゅ」
逢魔・悠宇(w3c348)が苦笑を浮かべると荒忌も何度も頷いた。逢魔・鈴奈(w3j302)が拳を鳴らして冷ややかに注意をする傍らで、面白い事好きの逢魔・パッチー(w3h296)が火に油を注いでいた。
●高速バトルチェイス!
「それでは聖歌様、神無様、護衛の方、よろしくお願いしますわ」
「コアヴィークルに乗らなくても大丈夫なのか?」
ナイトノワールの密の安否を確かめる為に、先行して池田PAへ向かうパルステラには、聖歌が護衛に就く事になった。
パルステラは「ご心配には及びませんわ」と鋭き翼を発動させ、鋭く大きな蝙蝠の翼を背に宿した。時速200km飛行でき、海抜5000mまで上昇可能と、最大速度こそコアヴィークルに及ばないが、十分、付いていけるだろう。
「おお! デビルウィン‥‥痛いな〜、ライ様何するんだよぅ」
退屈していた逢魔・ミオ(w3d411)は鋭き翼を見て思わず禁句を口走り、ライルに突っ込まれた。
コアヴィークル班は右翼前衛が日和、後衛が渉、左翼前衛が日月、後衛がクリス、その後方に心時とバイク型ネフィリム“オファニム”を駆るビックディッパーという隊列を組んでいた。
「じゃぁ、行こうか!」
「俺のドライビングテクニックに‥‥付いてこれるか?」
渉が気合いを入れてゴーグルを着け、コアヴィークルに跨ると、それが合図となって心時達は出発した。
全線通行止めだけあって、当然、車両は一台も走っていない。コアヴィークルで大っぴらにドライブができる事は、そうそうないだろう。
また、オファニムはコアヴィークルと同等の性能を持っており、ビックディッパーはしっかりと付いてきていた。
丁度、脇町ICを過ぎた辺りで、日和が反対車線を疾駆しているキメラ型サーバントを発見した。日月達はその場で中央分離帯を飛び越えて上り車線へ入り、聖歌とパルステラはそのまま下り車線を進んだ。
3本のドラゴンの首を持つヒドラのようなキメラ型サーバントが渉達に気付くと、溶岩のように赤い首が火炎弾を発射した。
「後ろを振り向いても走るスピードが変わらないなんてズルイぞ!」
クリスは破撃弾<ブレイクショット>で火炎弾を撃ち落とすと、即座に2門のフォビドゥンガンナーを召喚した。
クリス達がキメラ型サーバントの気を引く結果となり、聖歌達とパルステラは交戦せずにやり過ごす事ができた。
「ブレスの射程距離は30mってとこか‥‥日和、威力よりも命中重視でいけよ」
「足や翼を狙うにはそれしかないわね」
悠宇が比較的ブレスの死角になりやすい、キメラ型サーバントの右斜め後方にコアヴィークルを付けると、日和は真魔力弾<マジックボム>を放った。前を行くキメラ型サーバントは足に直撃を受け、低空で滑空すると、身体を左右に振って残りの真魔力弾をかわしながら青白い首から稲妻を束ねたブレスを吐き出した。
「渉は無茶し過ぎだっちゅ‥‥一緒にいるとこっちが怖いだっちゅ」
いち早く稲妻の息に気付いたパッチーが渉にかわすよう指示し、ギリギリで回避した。
「苦戦しているようですな」
「ありがとう教授! 神魔超越! 真パルスマシンガン・ダブルシュート!!」
低空飛行に入ったキメラ型サーバントに、渉の真パルスマシンガンはなかなか当たらなかった。そこでビックディッパーが祈神皇名<メガブレス>を渉に付与したのだ。
多分、魔皇で初めてシャイニングフォースの恩恵を受けたのではいだろうか。
神の祝福を受けた渉の真パルスマシンガンは見事にキメラ型サーバントの翼を貫き、右側のキメラ型サーバントの機動力を大幅に削いだ。
「確か上坂SAの前には、小さなトンネルが4つありましたわ」
「‥‥一度閉じ込められているので、敬遠する可能性もございます」
「空を飛んで越えられたら厄介ですね。確実に翼を潰しておく必要があります」
「僕が牽制するから、日月が翼を狙ってね」
コアヴィークルの運転に集中しているクリスに、徳島自動車道のマップを覚えたアミレントが思い付いた事を告げると、それを聞いたペトラの中に一つの危惧が生じた。
真空刃のブレスをフォビドゥンガンナーで撃ち落としつつ、余波を回避していたクリスは2門のフォビドゥンガンナーを同時にキメラ型サーバントの左右をかすめるように撃って逃げ場を無くすと、日月が真デヴァステイターで翼を破壊した。
「来な‥‥ハーディス‥‥」
心時はキメラ型サーバントに近付いて、某戦闘メカよろしく道路を砕きながら殲騎・ハーディスを召喚した。
『死にたくなければ去れ! チッ‥‥向こうの方が速い事は分かっていたが‥‥納得いかねぇ‥‥』
『殲騎の方が移動速度が遅いからね』
逢魔・ミレイユ(w3c683)の言うように、真グレートザンバーの初太刀で翼を斬り裂いたまではよかったが、以降、どんどん引き離され、真シューティングクローや真音速剣<ソニックブレイズ>の攻撃へ切り替えていた。
「‥‥これは酷いな‥‥」
「‥‥どなたか、いますか?」
池田PAに着いた聖歌は、キメラ型サーバントによって車が潰され、売店が破壊された無残な光景に言葉を失った。
神無が声を掛けると、朽ち掛けたトイレから何人か顔を覗かせた。トイレに避難していたようだ。
一般人はみんな軽傷で、聖歌が事情を話すとパルステラから借りた救急箱で手当てをした。
ナイトノワールの密は重傷を負っていた。一般人がいた為に忍び寄る闇を使えず、自らキメラ型サーバントを引き付ける囮となったのだ。
パルステラが応急処置を施すと、神無が癒しの歌声を使い、傷を癒した。
●決着と後処理
『上坂SAまで、残り2kmだよう』
「了解よ。荒忌さん、人への被害は絶対イヤです‥‥けど、無茶はよして下さい、ね?」
『視認した。いいな! 何としても、ここで止めるぞ!!』
ミレイユから上坂SAに待機している魔皇達のインカムへ連絡が入ると、鈴奈は荒忌を気遣って念を押した。同時にライルが全員に発破を掛けた。
日月がキメラ型サーバントを追い抜いて前に出ると、ペトラがこんな事もあろうかとで、パルステラから渡された漁業用の網と目眩まし用のタバスコを取り出し、タイミングよく投げ付けてSA内へ誘導した。
その後、日和と渉、クリスと日月は殲騎を召喚し、キメラ型サーバントの後方を塞いだ。
『上手く固まって入ってきたで! おっと、そいつは無しやで!!』
『このノヴァフェニックスに込められた想い‥‥決して無駄にはしない!』
荒忌の駆る殲騎・凶鴉がブレスを吐こうとするキメラ型サーバントに向けて真幻魔影<フゥントムシャドウ>を放ち、後退しながら真マルチプルミサイルを叩き込んだ。
同時に上空に待機していたアークの殲騎・ノヴァフェニックスが、2挺の真バスターライフルを発射して1匹を撃ち抜いた。
「ライ様〜、見て見て消し炭だよう〜」
「何考えてるんだお前は。集中しろ」
ミオの余裕とも取れる発言に釘を刺しつつ、ライルの駆る殲騎・ブリアレオスは毒ガスのブレスを真ディフレクトウォールで防ぎ、晴れると同時に真音速剣を付与した真グレートザンバーで、もう1匹に斬り付けた。
『昴さん、荒忌さん、左前方です!』
『これで‥‥おしまいや!』
『隠れたつもりだろうが‥‥残念だったな!』
最後の1匹が暗黒のブレスを吐き、凶鴉と昴の殲騎・鬼神将・羅刹の視界を奪うが、クリストファが祖霊招来で位置を割り出すと、凶鴉がありったけの真ワイズマンクロックと真マルチプルミサイルを撃ち込み、続けて鬼神将・羅刹が真獣牙突<ビーストビート>を付与した両手の真ロケットガントレッドを発射して止めを刺した。
回収したキメラ型サーバントの輸送コンテナを調べた結果、亀裂が見付かった。福岡メガテンプルム部隊が落とした時に付いたもののようで、ここをキメラ型サーバントが破って自力で封印を解いたようだ。
そのキメラ型サーバントのうち、消し炭になった2匹はビックディッパー達が処理する事になり、真っ二つになった1匹を協力した報酬としてパルステラ達密が研究用に引き取る事になった。
その代わりという訳ではないが、聖歌と日和が徳島自動車道の復旧作業の手伝いを申し出た。トンネルの入口爆破は神帝軍の判断だが、上坂SA内の被害の他にも、心時がハーディスで車道を走った約20kmの区間に渡って足跡が残り、また、どうしても外してしまったダークフォースや魔皇殻の着弾痕など、全面的に再舗装が必要となっていた。
なお、ナイトノワールの密は鳴門市の隠れ家で静養中である。 |