■Cats!■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 EEE
オープニング
○可愛い可愛い…?


 人と言うのは、何時の時代も愛玩すべきものたちと共に歩んできた。
 時代を越え種類を越え、愛するべきものは多種多様。その中でももっともメジャーであるのは、犬であり猫であることには誰もが納得するべきところだろう。
 それはきっと、魔の者であろうが神の使いであろうが関係ないのだろう。

 でもそれが。もし、人の手にあまるものだったとしたら?





 にゃーん。擬音にすれば、なんと可愛い鳴き声だろうか。
 だがしかし、それは震えていた。いや、地面を震わせていた。
 音が大地を揺らす。それは一体どれほど途方もない鳴き声なのだろうか。

 にゃーん。もう一度聞こえた。そして、その瞳が妖しく光り――。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「実はな。私は猫が大好きなんだ」
 集まった魔皇達を前にして、不意にエデがそんなことを語る。
「あの愛くるしい瞳、ざらざらとした舌、手触りのいい毛並み、ぴんと立ったかと思えばまたゆらゆらと揺れる尻尾…あぁ…」
 悩ましげな吐息が漏れる。何時ものクールな態度は何処へやら、寧ろ色気さえ漂わせる潤んだ瞳は若い魔皇たちにとって少々目に毒だった。
「…こほん。それは兎も角として、だ」
 今しがた晒していた痴態に少し頬を赤らめながら、自ら言葉を続けそれを打ち消していく。
「不思議な依頼が入ってな。猫に悩まされているというものだ。まぁそれだけならなんら問題はないんだが…」
「が?」
 聞き返す魔皇に、しかしエデの口からは言葉ではなく溜息が漏れた。
「巨大な猫らしい。それも一匹ではなく数匹だ。…見てみたいなぁ」
 そして、またあぁっと溜息が漏れる。よほど猫が好きなのか、現場にいけない自分がよほど悔しいようだ。
「おそらくはサーヴァントの一種なんだろう。猫型サーヴァントだなんてなんていいものを…じゃなくて。
 兎も角、あなたたちにはそれをどうにかしてほしい」
 そしてようやくエデは本来の顔を取り戻す。
「猫のサーヴァントとはいえ、元々は肉食だ。狩猟本能だってある。攻撃すれば反撃は必至だ。そのあたりには重々気をつけてほしい。
 まぁ今回は殲騎も使用できるから、殲滅しようと思えば多分簡単だろうが…」
 と、また言葉が途切れる。そして、例の如く溜息が漏れる。
「もしかしたら、殲滅しなくても他の道があるかもしれない。というか、なるべくなら助けてやってほしい。
 だって、可哀想じゃないか。私ならそんな残酷なことは出来ない。あんな可愛い」
「あーはいはい…まぁ出来れば」
 サーチャーとしてそれはどうかと思うほど私情入りまくりなそれは長くなりそうだったので、思わず魔皇の一人がそれを止めた。





「…巨大猫。飼いたいなぁ…」
 誰もいなくなった部屋の中。エデはそんなことを呟いていた。
シナリオ傾向 全てPCの選択次第
参加PC 柳原・我斬
チリュウ・ミカ
音羽・千速
礼野・明日夢
佐嶋・真樹
Cats!
Cats!

○相談しよう!


「猫は殺さないで捕獲する。異論は?」
「「「「「「「「「「「ありませーん」」」」」」」」」」」

 特に相談らしい相談をしていなかった魔皇たちの作戦会議。それはものの数秒で結論が出た。





○猫の捕まえ方、その1


「…殲滅はなしだわな、こりゃ」
 小さな呟きが、柳原我斬の口からぼそっと漏れる。彼が軽く面子を見渡せば、そこには随分と若い…というより、小さなものたちがいた。

「おっきくてもねこさんなの! ころすのなんてかーそーなの!!」
「サーバントとはいっても、きょだいなねこですし」
 そんなことを言うのは、礼野明日夢とその逢魔緑。成は小さくとも孤高の紫とフェアリーテイルとしての力を宿す彼らは御年実に4歳と5歳。まだまだ若いというよりは幼すぎる戦士たち。
 まぁ兎も角、二人はやる気一杯だ。そんな二人を見ながら、音羽千速が溜息を漏らす。
「あの二人になんかあったら先輩と兄貴に殺されるよ…なんだってこの依頼の事知ったんだ」
 それを見ながら、氷華はただ小さく苦笑を浮かべる。気苦労の多い自らの魔皇のことをちょっと哀れんで。
 ちなみに彼らは花も恥らうセブンティーンである。

 そして、一行から少し距離を置き、二人ビルの上で眼下を見下ろす者達。
「…SFで支配できる神属に委託するか、他の人気の無い場所に移すか。どちらにせよ、一匹一匹回収しなければいけませんね。…真樹様は猫がお好きで?」
「…一度。『真樹』が母に飼う事を強請った事があった。だが、母は許さなかった。『守りきれぬような存在を、飼うな』と。
 それでも…私は好きだ。…ふわふわしていて、よい」
 そんな会話は、他の者達には聞こえるはずもない。
 妙にシリアスな空気を纏ってはいるが、赤い少女―佐嶋真樹は先ほどの明日夢と緑よりもさらに小さな3歳児。その随分上に視線がある、逢魔の思兼にしてもまだ16歳だ。
 ちなみにシリアス真樹、もとい現在の魔姫的には、今回猫を攻撃するようなやつがいたら粛清だぞ☆な気分だったようだが、それはどうやら杞憂に終わりそうだ。



 若い。実に若すぎる。彼らを眺めながら、我斬は一人遠くを見ていた。
「…俺も年をとったのか」
 そういう彼は26歳である、まだまだ若いつもりではいる。だがしかし、時間というのは残酷だ。
「…がーくーん…」
「こっちへこーい…」
「えぇい手招きするな!?」
 そんな彼を見守る影。チリョウミカとレイル、女は30歳からだと言って憚らぬ…かどうかは分からない。そんな二人だった。
「あ、ボクはあっちだね」
「おおぃ!?」
 ミカの逢魔クリスクリスが、堂々と若人衆に混ざっていった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そんな一幕はさて置き、彼らの考えはほぼ一致していた。
「猫といえばなぁ…」
「やっぱりこれだよね」
 猫といえば、やはりそれは不文律であるというのだろうか。彼らは揃いも揃ってマタタビを用意してきていた。
 氷華は買えるだけのマタタビを買いあさり、クリスクリスもそれに習う。我斬に至っては一体何処からこれほどの量を用意してきたのかというほど、大量のマタタビを用意していた。どうやら独自のルートがあるようだが、それはさておき。
「えーと、良質のたんぱく質が人間の5倍必要、野菜は基本的に要らないけど腸の為に繊維質はいる…味付けは薄めで良いみたいだな」
 ちなみにその我斬はといえば、ペットフードの本を読み漁りながら調理中だった。どうやらペットフードを自作するようである。
「これだけあれば、流石に不安はないかな…?」
 千速の呟きに、誰からも返事はない。
 なんせ相手は巨大だ。しかも複数だ。どれだけ策を用意しようと、ある程度の不安は付きまとう。
「…それにこの面子だからなぁ」
 我斬の視線は、何時の間にか本から方々へと連絡を入れている明日夢たちへと向いていた。
「がーくーん…」
「こっちへ」
「だから手招きすんな!」
 どうにも不安だ。





○猫の捕まえ方、その2



 何はともあれ、彼らの捕獲作戦が始まった。
 各々思い思いに殲騎を召喚していく。今回の猫ほどの大きさだと、流石に生身では手に余るのだ。
「あ、ボクたちはひきとりさきをさがしていますから」
「エリたちのおうちじゃおっきすぎてかえなくても、ほかのおうちならかえるかもー?」
 捕獲するからには、その後のことも考えなくてはならない。幼い彼らは、しかししっかりとその先を考えていた。
「うしっ、そんじゃそっちは任せた。レイル、さっさと召喚」
「やっぱり私今回も殲騎使う為だけに呼ばれた様な気がするわ…」
 ちょっとした怨叉を聞き流して、我斬たちもその力を体現させる。

「…なんだか操縦席狭い…ミカ姉、太った?」
 そんな声は漆黒の殲騎の中から聞こえた。
「あん? 私は太っていないぞ」
 語尾が幾分か強い。やはり女性にとってその手の話題は禁句らしい。
「でもやっぱり狭い…」
「それはお前が色々成長した所為だ」
「成長って何処がー?」
「私の背中に当たってる膨らみとか色々だよ!」
 わいわいきゃいきゃい。そんな会話が聞こえたせいか、千速や氷華の顔も少し赤い。
『おーい、若いっつーか小さい連中も多いんだから、その手の話題は程々にしておけよー』
 我斬のツッコミで、漸くダークパッションの中から聞こえていた声が止まった。

 真樹の駆る暁が、一行とは少し離れてはいながらもビルの上から猫たちを探すかのように眼下を見下ろしている。
 それをさらに眼下に、千速のフレアソウルが大空へと舞い上がる。
「…大丈夫なのかな、あれ」
 そこには我斬の絶狼とミカのダークパッション。何やら様子がおかしいようにも見えるが?
「…大丈夫、じゃないかな」
 千速の呟きに、氷華は苦笑を返すしかなかった。

 で、その視線の先。
「誘き寄せるのは私たちの役目か…で、その仕掛けは?」
 辺りを見渡してみても、それらしきものはない。何かがおかしい、そう気付いた時には遅かった。
「…ん?」
 何やら、見慣れないものがコクピット周りに備え付けられている。そしてそれは、さっきクリスクリスが用意していたものではなかったか。
「まさか…」
 嫌な汗が滴り落ちる。
「うん、そのまさか」
 後ろから明るい声。見えないが、きっとその顔は満面の笑顔なのだろう。
 そう。そのマタタビは、ほかでもないダークパッションに括り付けられていたのだ。つまりは、
「ダークパッションが巨大疑似餌!?
 …また猫まみれなのか私はー!?」
 しかし、絶叫に誰も答えない。
 ちなみに、彼女は以前依頼で猫まみれになったことがあるらしい。それはそれは大変だったようだ。だがしかし、
「まぁ頑張ろー」
 クリスクリスにはあまり関係ないらしい。

 そんな奇妙は漆黒の殲騎を眺めつつ、我斬の絶狼も後ろへと下がっていく。普通に疑似餌として認識したようだ。
 そして、
「…きた」
 最初に気づいたのは、ビルの上から周辺を警戒していた真樹と思兼。
「…うわっ、本当にデカい…」
「……」
 呟きは千速。氷華にいたってはその大きさに圧倒されていた。
 しかし、そんな彼らの言葉はミカや我斬たちには届かない。



 ミ゛ャァァァァァァァァ……。



 まるで大地が揺れたかのような。だがしかし、聞こえるのは何処か気の抜ける特有の鳴き声。
 地が鳴り、廃墟と化したビル群がつられたように揺れる。
「……」
 まるで空気が凍ったかのように、ミカは凍り付いていた。
 そこに走り現れた、巨大な猫たちの姿に――。



 地響きを伴いながら現れた猫サーヴァントたちは、そのまま一直線に我斬特製マタタビご飯とミカとクリスクリスが駆るダークパッションへと突っ込んでいった。
「アッーーーーーーーーーーーー……!?」
 ガリガリグシャグシャゴロゴロミャーーーーーーーー…。

 もはや、襤褸布だった。
 巨大な猫たちの移動速度は予想以上に速く、さらに一瞬凍りついてしまったミカには咄嗟の反応が出来なかったらしく、クリスクリスの補佐も空しくそのまま猫山へとダークパッションは消えていった。
「……」
 もはや悲鳴もない。どうやらミカもクリスクリスも気を失ってしまったようだ。しかし、猫たちには微塵も関係ない。襤褸としか言いようのないダークパッションを、それでもガジガジと齧る始末。

 また我斬たちの用意したマタタビ入りご飯は、一瞬のうちに食べつくされてしまっていた。流石に体長5mともなると、その食欲もまた凄まじいのだ。
 まさに嵐。そう例える他なかった。

 ただ、やはり猫。サーヴァントといえど猫。そう、猫なのだ。
 つい先ほどまで食事していた、もしくはダークパッションにじゃれついていた猫たちの動きが、眼に見えておかしくなりはじめた。所謂『マタタビに酔った』状態となったのだ。
 フニャー。ゴロゴロ。ニャー。
 大小はあれど、その姿はやはり猫。
「…とりあえず、捕まえようか」
 圧倒されながらも、千速が氷華に呼びかける。そして彼らのフレアソウルの手が猫を抱え上げる。幾ら5mはあろうとも、殲騎の力ならば運べぬ道理もない。
「こうやって見ると、ちょっと可愛いね」
「…そう?」
 少し顔を綻ばせる氷華に、千速はまだ少し顔が引き攣っていた。

「おそくなったのです」
「エリたちもてつだうのー」
 そこに、漸く方々への連絡などが終わった明日夢のナイトブルーが駆けつける。
 彼らの手伝いもありその場にいた猫たちの回収はすぐに終わり、あらかじめ用意してあった巨大な檻の中にまだ酔い続ける猫たちは収容された。
 しかし、
「…はっぴきしかいないのー」
 緑がどう数えても、その場にはそれだけしかいなかった。



「……」
 その頃、離れたところで見ていた真樹たちは一匹の猫と対峙していた。
 その猫はマタタビに酔っていないため、真樹の駆る暁へと威嚇行動を繰り返していた。
 手には刃。これを振れば、幾らサーヴァントといえど一瞬で粉微塵へと帰すことが出来る。
 だがしかし、何を思ったのかその刃を投げ捨てる。そして、
『フシャー!!』
 鳴き声が合図となったかのように、暁の巨体が一陣の風となって猫を包み込んだ。
『ウニャ…』
 触るその手は、喉や耳の後ろを優しく撫でる。
 それは猫にとってのいわば急所。どうしても弱くなる場所。

 そうして無力化された猫は、おとなしく檻の中へと収監されていくのだった。撫でる手は、最後まで優しいままで。そんな真樹を、思兼は優しい瞳で見守っていた。



 さて、最後の一匹。
 それは少し離れたところにいた。
「ん、うまくいったみたいね」
 呟くレイルは、巻き込まれたくない一心で殲騎を召喚した後さっさと後方へ退避していた。
 しかし、そんな彼女は夢にも思うまい。自分がよかれと思って逃げたことが、逆に自分をピンチへ陥れることになろうとは。

 彼女が気づいたのは、あの鳴き声。それが、己の背後から聞こえてきたのだ。
「…………え゛っ?」
 気付いた時にはもう遅い。恐ろしいほどの質量が彼女へと覆いかぶさる。
「アッー!?」

 彼女が助け出されたのは、その悲鳴に気づいた我斬たちが最後の猫を捕まえた後。勿論ズタボロである。
「…ひっ、酷い目にあったわ…」
「お前のその耳ヒレが魚にでも見えたんじゃねーのか?」
「私はそんなに生臭くなーい!!」
「じゃあ加齢臭?」
 自分を置いてさっさと逃げた逢魔に、魔皇様は全く容赦がなかった。





○猫たちはどうするの?



 紆余曲折はあったものの、なんとか全ての猫たちを捕まえることに成功した魔皇たち。一部ボロボロだが、それはまぁ仕方がないと諦めてもらうしかないだろう。
 さて、この猫たちの処遇だが、ここからは明日夢たちの働きが実を結ぶことになる。
「いろいろとおはなしをきいてもらいました」
「エリたちがんばったのー」
「二人とも偉い偉い」
 少し胸を張る明日夢と緑の頭を、保護者の千速が軽く撫でる。くすぐったそうに、二人が笑った。

 具体的なものを言うと、まずは神属の治めるセメベルンにある研究施設。元々神属が治めているそこであれば、ワード・オブ・コマンドでの使役が容易である。
 次にビルシャスにある動物園。丁度客足が遠のきかけていたその動物園にとって、その申し出はとても魅力的なものであったようだ。
 そして神魔人学園。猫好きの集まる同好会があるらしく、彼らの責任の下数匹が引き取られていくことが決まった。

 これで9匹。最後の1匹は、
「それは私が責任を持って預け場所を探そう。それまでは私が保護しておくよ」
 エデたっての希望で彼女に預けることが決まった。



 これで仕事は終了。各人の働きにより、猫たちは無事に各施設へと送られていった。
「またもふもふしたいのー」
「これからはどうぶつえんとかにいけばまたあえるよ」
「それじゃ今度皆で行こうか?」
「それ、いいね」
 明日夢たちは早速そんな話を纏めている。よほど猫たちのことが気に入っているようだ。
「…また、逢いにいこう」
「そうですね」
 そんな彼らを遠目に見ながら、真樹と思兼の姿は何時の間にか消えていた。

「うぅ、しばらく猫は見たくない…」
「……」
「ミカ姉、大丈夫ー?」
 年長組のレイルは嘆き、ミカは放心状態。余程今回のことは堪えたようで。
「まっ、レイルは自業自得だわな」
 我斬は最後まで容赦がなかった。

 とはいえ、彼らのおかげで猫サーヴァントは命を落とさずに済み、明日からはまた生を謳歌していくのだろう。
 無用な血は一切流れず、最後に残ったのは笑顔。それが今回の全てだった。





 余談。
「あぁ、もふもふもふm…アッー!!」
 あるサーチャーのよく足を運ぶ小屋から、そんな叫び声がよく聞こえるようになったらしい。
 そして、決まってその後は中からボロボロになったあるサーチャーが出てくるという話だ。
「アッー!!」
 ちなみに、放心状態だったお局様もそこに足繁く通ってはそんな悲鳴を上げているらしい。

 世の中、なんだかんだあってもまだまだ平和なものである。





<了>