■The dead's wars 〜暴王〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング

‥‥‥CORD03842:ヒラニヤカシプ
‥‥‥起動信号確認・データ受信状況チェック‥‥‥‥
 ‥‥‥受信エラー確認・サブデータ受信‥‥‥イエロー・衛生切り替え‥‥‥データ受信オールグリーン・記録開始‥‥

「これが起動したか‥‥‥と言うことは‥‥」
「切り捨てるのか?」
「まぁ、あんなに大きなモノを起こした以上、ばれるのも時間の問題。戻ってこられても迷惑だからな。お前さんの上官には悪いんだが、切り捨てざるを得ない。証拠共々吹っ飛んで貰おう」

 基地を監視していた二人組のうち、白衣を着ている男はカタカタと端末を弄りながら、顔を上げもせずに受け答えしていた。
 もう一人の男はそれを気にする風でもなく、今までと変わらずに基地の方を監視し続けている。

「あの化け物を破壊しきれるんだろうな?」
「仕込んで置いた爆薬は、あの基地を丸ごと吹っ飛ばせる規模だ。まぁ、それぐらいじゃなけりゃ“アレ”は死なないだろうしな。万が一にでも再生されて復活されたんじゃ堪らん」
「基地の奴らには生きて連れ帰ってこいと言われていたんじゃないのか?」
「サンプルならまだ二体残っているさ。だいたい実験中の兵器を実践に投入したんだ。それが戦場で失われても全くおかしいことはない。そうだろう?それぐらいのリスク、あいつ等でも頭では理解してるさ」

 白衣の男はあくまで端末のデータから目を離さない。興味深そうに送られてくる文字の羅列を見つめ、ほくそ笑んでいる。

(‥‥‥そろそろこっちの方も片づけを始めておくか。巻き込まれて死ぬのはごめんなんだ!)

 ‥‥‥送られてくるデータが何なのかも皆目付かない護衛の男は、面白くもなく、一人で撤退の準備を始めていた‥‥‥
シナリオ傾向 銭湯
参加PC カークウッド・五月雨
風祭・烈
黒江・開裡
月村・心
如月・伊織
星崎・研
The dead's wars 〜暴王〜
The dead's wars 〜暴王〜


 轟音を建てて、基地の一角が揺れ動く。
 轟音の主は怪物。今までこの基地の中を蠢いていた死者よりも二回り以上も大きな巨体で、腕一本をとっても丸太のようだ。体中から生え、揺れ動いている触手は嫌悪感を起こさせ、まるで沸騰するかのようにボコボコと体から泡のように肉を湧き上がらせ、基地に入り込むために小さく凝縮させていた体を解放させている。
 ‥‥‥殴りつけられた壁はまるで爆弾でも仕掛けられたかのようにバラバラになり、その欠片は散弾のように対面の壁に突き刺さっている。それほどまでの衝撃を与えた怪物、ヒラニヤカシプは不満そうに、ただの一発でひび割れてしまっている廊下を見渡していた。

「どうだ!殺ったか!?」

 その怪物の背後から一人の男が現れる。怪物が巨体であったために、自身が襲わせた敵の姿が視認出来なかったのだ。
 男は破壊されている廊下を見渡し、血相を変えて怪物を見上げた。

「探し出せ!今の奴は確実にだ!お前ならば追えるだろう!!」

 容易い。とばかりに咆哮を上げ、暴王が動き出す。
 廊下を破壊し、追跡を開始する暴王を見送った男は「くそぉ‥‥まだだ。くそっ。今のうちに外へ出ないと‥‥」と、すぐに頭を抱え、それとは反対方向へと走り出した。





「お〜い!ノルン!?生きてるか?おい!」
「‥‥‥うぅ。生きて、る?」

 呼びかけられる声に答えるように、ノルンは目を覚ました。ほとんど寝ぼけ気味に体を起こそうとして、体中から電流のように痛みが走り、悶絶する。

「まだ起きないで下さい。酷い怪我なんですから」
「ぁ、エメラルダさ‥‥ん?」

 痛みによって覚醒した意識によって、ようやく今まで掛けられていた声が風祭 烈(w3c831)と逢魔のエメラルダであることを認識した。周りを横目で見渡すと、心配そうにこちらを窺っている星崎 研(w3l090)と貴沙羅が見えた。

「ここは?」
「司令室だ。気絶してるあんたを、魔獣殻達が運んできてくれたんだ」

 ふと、すぐ側に自分が引き連れていた魔獣殻達が居るのに気が付いた。
 どうやら、突然攻撃されて体に大きな傷を負ったノルンをここまで引っ張ってきてくれたらしい。心の命令に忠実に従ったのだろうが、ノルンは助けてくれた魔獣殻に、心からお礼を言った。

『――――WOOOooooo!!!』

 と、そんなノルンの心を歓喜から絶望へと変えるような声が、階下から響いてくる。

「あ〜‥‥‥ノルン。目を覚ましたところ悪いんですけど、もうひと荒れありそうなんですよ」
「え?」
「まぁ‥‥当然と言えば当然だよね。追っ手がかかるのも」

 研と貴沙羅が、それぞれ武装を構える。烈はエメラルダにノルンを託すと、やれやれとばかりに肩を回した。

「今日は大忙しだな。やっと団体客を捌ききったばかりなのに‥‥‥」

 烈がどことなく楽しそうにぼやく。
 そしてその声に答えるかのようにして、新手の暴君が姿を現した‥‥‥






 ‥‥屋内の敵を倒しながら駆け抜けていた黒江 開裡(w3c896)は、跨っている馬型魔獣殻の足を止めてから後ろを振り返り、追っ手の姿を確認した。

「良い感じで付いて来てるな。このまま外までおびき出せれば良いんだが‥‥」

 背後から追ってきているサクリファイスの群が十分に近付いたと判断した開裡は、再びプケファラスを走らせた。振り切らず、見失わせず、それでいて追いつかれずの追い駆けっこを繰り返している。

(一体一体相手にしてると、時間がかかってしょうがないからな)

 本部内に残っていたモノ達のほとんどを集めていた。大半が司令室に向かったために数は少ないが、それでも一人で全てを片付けるとなると危険な上に時間もかかる。その為、出来るだけ多くの敵を集め、屋外に連れ出して殲騎で一掃しようと考えたのだ。一緒にいたクレイメーアは殲騎を召還出来る場所を探すため、途中で窓から飛び立っていた。
 殲騎で戦うのは基地の破壊にも繋がるために最終手段とされているが、踏み潰すぐらいならば問題もないだろう。

『ザ、ザザザ‥‥‥開裡さん、聞こえますか?』
「クレイメーアか。準備は出来たか?」
『はい。殲騎を召還しても被害を最小に押さえられそうな場所を幾つか発見しておきました。そのまま出口に向かって下さい。合流します』

(よし。これでようやく、この基地ともおさらばか‥‥な!?)

 と、廊下を走っている開裡の目の前に、突然何者かの影が飛び出してきた。それはノルンを襲わせた男だったが、まさかまだ本部内に人が‥‥‥しかも魔獣殻に乗って猛スピードで駆け回っているとは思っていなかったらしく、現れた開裡に驚き、わざわざ体を硬直させて迎え入れようとしている。
 慌てて急停止をかけようとするが、スピードが速すぎて間に合わない。

「!? ちっ、掴まれ!!」
「え?うわっ!」

 轢き殺すわけにもいかず、開裡は男を擦れ違い様に掴んで強引に馬の上に乗せていた。男が悲鳴を上げているのが聞こえてきたが、開裡も余裕がないために男の後頭部を小突いて気絶させ、静かにさせる。

「ったく。何でこんなのを拾ってるんだか‥‥‥お、外か!」

 既に誰かに破られていたらしい大穴を見付け、開裡はそこから外に出た。

「‥‥派手にやってるな」

 外の光景を間近に見て、出た感想はこれだった。
 一番大事な格納庫には既に大穴が空き、火薬にでも引火したのか、燃えないはずのコンクリートの地面が燃え、度重なる衝撃や流れ弾でひび割れて所々穴が空いている。
 見たところ、動いている影はない。これをやったのはサクリファイスではないだろう。打撃攻撃をメインにしているあの死者に、これだけの炎を起こすような力も知能もないはずだ。

「どこの馬鹿だ。これじゃぁ、今まで殲騎を使わなかった意味もないだろうに」
「馬鹿で悪かったな」
「うおっ!?」

 感想を言いながらも走らせ続けていた開裡の馬に、何者かが掴みかかってきた。突然のことに咄嗟に迎撃しそうになった開裡は、相手の顔を見て“飛ばしそうになった”腕を止める。

「心か。驚かせないでくれ」
「悪かった。だから、この顔を掴んでいるロケットガントレットを外してくれ」

 月村 心(w3d123)は馬の上に跨りながらそう言った。
 倉庫内での激戦を終えた心は、ほとんど底を突き欠けた魔力と体に負った傷を回復させるために隠れていたらしい。そこに通り掛かった開裡を見付け、馬に飛び乗ってきたのだ。
 ‥‥‥‥‥彼は、推測するまでもなく、倉庫の業火の犯人である。

「で、コイツは誰だ?」

 心は馬の上に同情している、見知らぬ男を指して言う。

「知らん。それよりも助かった。そいつを連れて、離れてくれないか?後ろの奴らを殲騎で踏み潰すからな。どうやって避難させようかを考えてたところだ」
「‥‥‥‥分かった。だがどこでだ?こんなに場が混乱していたら、何を踏み潰すか分からないぞ」
「それはクレイメーアが確保してくれている。ああ、滑走路でクレイメーアが手を振ってるだろ?」
「‥‥‥まぁ、基地内だけどな‥‥下手に外に出て、救助ヘリとかに出くわすよりかはマシってもんだな。解った。じゃあ、コイツは預かっておくぞ」

 心はヒョイッと、気絶している男の襟首を掴んで背後から追いかけてくるサクリファイス達に見付からないよう、建物の死角に入ったときに馬の上から跳躍した。
 心がサクリファイスをやり過ごしたのを確認してから、開裡はクレイメーアに目を向ける。クレイメーアは殲騎を召還する準備を既に済ませており、開裡が到着するのを今か今かと待っていた。

「お待ちしてましたよ開裡様!」
「待たせたなクレイメーア。‥‥‥さぁ、立場逆転だな。…ようこそ死地へ、化物御一行様」

 開裡が口を歪め、今や足下でバラバラと退却を開始する敵を視認する。
 それを追いかけ、仕留めるために開裡の纏う鎧が活動を開始し‥‥‥‥


 その戦いは、決着した。






 ゴッ!
 繰り出される豪腕は、間違いなく死に神の鎌その物だった。
 当たれば即死は免れないであろう、巨木のように膨れた腕は烈の目の前を通り過ぎ、烈が背にしていた端末を弾けさせた。

「うおっ!?」

 さらに振り下ろされる腕を、烈は転がって回避する。その間にも真ワイズマンロックを召還して怪物との間に弾幕を張るが‥‥‥

『GHOoooooOOOOO!!!!』

 止まるような気配はない。むしろ障害があればある程勢いを増して突進してくる!

「ああもう!いい加減に止まってよ!!」

 ドドドドド!
 盛大な銃声を上げ、貴沙羅は89式小銃をのありったけの残弾を怪物の背中に撃ち込んだ。通常のサクリファイスにならば十分に効果は見込めだのだろうが、撃ち込まれた瞬間に治癒しているのか、再生能力を阻害してくれるはずの対神魔弾でさえ、足止めにさえならなかった。

「よそ見してるな!」
「もう一発!」

 研と烈の声が重なった。烈は貴沙羅に振り向こうとした怪物の腕を真グレートザンバーで斬りつけ、研はDFが回復したと同時に真凍浸弾を足に撃ち込む。踏み出そうとした足を凍らされたことで体勢を崩した怪物は腕を両腕を無理矢理振り回して烈を弾き飛ばそうとするが、烈は深追いをせずに斬りつけたと同時に待避していたため、既に腕の射程内から離脱していた。

「これで止まって下さいぃ〜!」

 部屋の隅でエメラルダに介抱されながらもDFを収束させていたノルンが、黒き旋風を発動させて怪物を拘束しにかかる。だがノルンが魔力を振り絞って放った黒き旋風は、怪物が方向と共に解放した魔力で弾き飛ばされた。

「嘘‥‥」

 思わず研が呟くが、誰も答える余裕はない。魔力放出によって真凍浸弾の効果までもが弾き飛ばされていた。足に張っていた氷は強引にバラバラにされ、氷と共に弾けた肉は、既に再生を始めている。

「ったく。最近はこんなラスボスばっかりだな‥‥」

 烈が軽口を言うが、既にその体に力が入っていないのは誰の目から見ても解っていた。
 いくら魔皇殻のスーツで身体能力を強化していると言っても、この司令室を死守するために何十体ものサクリファイスを相手にしたのだ。
 そしてここに来てこの怪物である。DFも銃弾も打撃もろくに効果を現さない。そんな相手に、こんなに疲れ果てた状態でどうしろと言うのか‥‥‥!

「ねぇ、逃げた方が良いんじゃないかな?!」
「こういうのからは逃げられないと思いますよ?経験的に」

 貴沙羅と研が、怪物を牽制しながら言う。
 研の意見に烈は賛成した。こういう類の敵は、出会ったときに確実に倒しておいた方が良い。

(‥‥‥いや、やっぱりエメラルダは逃げておいた方が良いかもな)

 ノルンの介抱のためにいまだにこの場に残っているエメラルダに目をやり、すぐに崩れ落ちそうになる両足に喝を入れた。ここで倒れるような素振りを見せれば、それこそエメラルダは怪物の目の前を通ってでも烈に駆け寄ってくるだろう。
 周囲を囲まれて標的を決めかねていた怪物は、あくまで徹底抗戦の構えを見せる烈を目にし、ゴキゴキと腕に力を入れた。

「上等!」

 烈は真グレートザンバーを召還し直し、迎え撃とうと魔力を迸らせる。もはやこれで最後‥‥‥‥余力も考えずに迎え撃とうと、一歩を踏み出し―――

『根性見せてるところに悪いんだが、もう少しだけ退いてくれ』
「え?」

 全員がその声に反応し、窓の外を一瞥し、そして同時に行動を開始した。
 なぜなら‥‥‥

『そら、これで終わりだ。精々派手に砕け散れ』

 ロケットガントレッドを構えている、一体の殲騎がいたのだから‥‥‥‥







「皆さんこちらです!急いで!」

 怪我人を収容している居住区では、クリスタルによる脱出が行われていた。治療を受けた兵士達は復帰すると魔皇は時間稼ぎの戦線に、グレゴールは人間の兵士達を連れて基地の外へと走っていく。脱出のためのヘリを待機させてあるのだ。
 カークウッド・五月雨(w3b235)は何十人もの怪我人を治療したことで憔悴しているクリスタルを護衛するため、脱出する者達の殿として戦っていた。

(ふぅ‥‥‥‥もうダメかとも思ったが、何とかなったな)

 テラーウイングで飛翔し、周囲に撃ち漏らしがないかどうかを確認する。
 既に居住区にいる者は一人もいない。居住区の全戦で戦っている者達も中に入り込んだモノ達を外に誘導し、出来るだけ脱出組から引き離して戦っている。
 治療を終えて戦闘に戻った魔皇達が戦闘に復帰したお陰で、戦況は完全に逆転している。元々軍属の兵士達だ。混乱が治まり、統制さえ取れてしまえば、数の少なくなったサクリファイス達の群でも簡単に落とせるようなものではない。
 カークウッドは周囲に残党が居ないことを確認してから、同じく護りに付いている如月 伊織(w3k672)の傍に降り立った。伊織は隠れて狙っていたサクリファイスを切って捨てていたばかりで、両手の短刀に魔力を通し、付着した血を蒸発させている。

「ようやくこの任務も完了だな‥‥」
「そうだな。‥‥‥結局殲騎を使っての戦闘になってるみたいだが」

 伊織が短刀からパルスマシンガンに武器を持ち替えながら、派手に司令室を吹っ飛ばした殲騎を見つめている。
サクリファイス達にとっては最悪の展開だろう。どんなに強力な再生力を持っていようと、殲騎程の重量物に踏み潰されれば、まず間違いなく五体が粉々にされてしまうだろう。今までは救助活動と基地を破壊しないために使用をずっと控えていたが‥‥‥

「後始末が大変だな。この基地の機能は早々に復旧しないとまずいだろうし、化け物達の黒幕も探し出さないと」
「だよなぁ。毎回こんな事をさせられてたら身が保たない。何かの実験だとは思うんだが‥‥」

 二人は今回の事件の黒幕が誰なのか、見当も付かない。
 手掛かりもない今の状況で考えても答えは出ない。しかし出来るだけ早いうちに答えを出さなければ、それこそ再びこんな事件が巻き起こってくるだろう。

「‥‥出来れば、もう二度とこんな戦いはしたくないしな」
「ん?」
「敵も味方も死にすぎだ」

 カークウッドは、襲ってきたサクリファイスの死体を、どこかやりきれないような目で見つめていた。“それ”が本来ならばどういった存在だったのかを知っているわけではないが、それでも敵を大量に倒したあとに居心地の良い気分になれる程、カークウッドは物好きではない。

「まぁな。だが、根本的な解決まで付き合うとなると‥‥‥‥厄介な相手だぞ?これは」
「‥‥‥‥だろうな。だが、何が目的でこんな事をしているのか‥‥それも知らずに有耶無耶にされるのは我慢がならない」

 そしてそれを知るには、この戦場に残るしかない‥‥
 決意を現すためか、倒れ伏した死者の海に黙祷するように、燃える基地に兵士達は静かに一礼していた‥‥