■Game master〜潜入〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング
 この事件の発端は、一体どれ程まで時を遡るのだろうか?

 一月前のスミルナル基地襲撃・捕虜暗殺事件。
 二月前の実験素体抹殺事件。
 半年前の遺跡発掘・サーヴァント寄生事件。

 おおやけに公表されにくい事件ばかりが巻き起こった御陰で後手後手に回ってしまったが、それでも、ようやく解決の兆しが見えてきた。

(‥‥‥まさかここまで集められているとは‥‥)

 何十人‥‥‥自分の周囲だけで、それだけの兵士達が待機している。その中に混り、周囲を監察している傭兵もまた、この作戦に参加している傭兵の一人である。
 ある筋から回ってきた依頼によって、その傭兵はこう命じられていた。

“地下17階にある○○号端末から、以下の資料を持ってこい”

 それだけである。
 だと言うのに、その報酬は非常識だった。前金だけで、数年は遊んで暮らせるだろう。

(さて、一体何が出てくるのか‥‥)

 軍から与えられた資料から見た限りでは、どうも実感が湧かなかった。だがそれでも構わない。何しろ、自分の目的は化け物達相手のドンパチではなく、そのドンパチを隠れ蓑にしてデータを回収するだけだ。
 ようは、危険からは全力で離脱するだけである。
 数年前の戦争を生き残った者ならば、それぐらいの技量は会得しているのだった。

「総員戦闘準備は出来てるか!作戦まで後五分!覚悟を決めろ!!」

 部隊指揮官が声を張り上げる。敵さんに見つかっていることなど、百も承知なのだろう。

(さて、と。それじゃあ、地獄への観光ツアー。案内よろしく)

 戦闘準備を確認しながら、数多い兵士に紛れ込んだ潜入者は、一人だけ笑っていた‥‥


シナリオ傾向 戦闘 脱出 情報回収
参加PC 風羽・シン
Game master〜潜入〜
Game master〜潜入〜

〜地下五階・1230時〜

 パラ‥‥パラ‥‥
 小さな部屋に、本を捲る小さな音が立っていた。
 部屋の外ではドタバタと、他の隊員達がフロアを探索している音がする。先行する部隊以外は脱出ルートの確保のために各フロア一階一階に残り、今では六階までに一小隊ずつ配備されている。
 もっとも、これも三十階まで辿り着くまでにいつまで続けるかは分からない。迷路のようなテンプルムではあったが、さすがに一つのフロアに何十人も割くわけにはいかなったからだ。

(やれやれ。先行部隊に配備されれば良かったんだが‥‥)

 探索過程で見つかった日記を読みながら、風羽 シン(w3c350)は考えていた。
 シンがこの作戦に参加したのは、この施設内にある研究データなどを回収するためだ。依頼をしてきたのが誰なのはシン自身も知らないが、それは裏の仕事をする上で当然のことであり、シンも気にしてはいなかった。
 シンが気にし、考えているのはどうやってこの部隊から“行方不明”になるかだった。
 一時的にでも良いのだ。シンは誰にも怪しまれないように地下十七階まで潜り、データを吸い上げなければならない。
 別にデータを消してこいとは言われてないため、十七階まで行ければ余裕でデータは持ってこられる。だが、問題は“このペースではそこまで辿り着けない”と言うことだ。
 このまま敵の襲撃にも遭わずに地下三十階にまで到達してしまったら、シンが深く潜る理由はない。合流ポイントの十五階までに何もなければ、それこそこの階で待機するように命令をされても仕方のないことであった。

(何とかして出し抜きたいんだがなぁ)

 チラリと、部屋の扉へと目を向ける。
 外でドタドタと探索を行っている兵士達には傭兵が混ざっているが、その傭兵は指揮官がわざわざ自分のコネを使って雇い入れた強者達だ。少しでも裏切り者のでないように、最大限に手を回している。
 シンもそうして雇われた口だ。だがシンは、そうして雇われるのを見越して先に裏取引を済ませていただけのこと‥‥‥‥
 しかしこうして互いが互いを監視しあうような状況下では、簡単には動けない。最悪、シンは捕縛されてしまうだろう。
 そうなれば、当然任務失敗だ。

「どうだ? 何か見つかったか?」
「ここの研究員の絶望日誌だ。読めば、何でここまで研究員達に出会わなかったかが良く分かるぞ」
「なに?」

 扉を開けて入ってきた兵士に、シンは手にしていた読みかけの日誌を手渡した。
 日誌を渡された兵士は、興味深そうにそのページを捲り‥‥

 ‥‥チカチカと、壁の光が明滅した。

「ひっ!?」

 その瞬間だった。壁が明滅し、自身以外の生物の気配など無かったテンプルムに、突然のように“何か”の気配が現れる!

「うわぁああ!!」

 兵士の足下に日誌が落ちた。兵士は自分の顔面を掻きむしり、自分の顔に手足を引っ掻けてきたグレイブディッガーを剥がそうとしている。
 シンは頭上から降ってきたグレイブディッガーを後方に跳んで回避し、着地する前に真シューティングクローで虫を瞬殺する。
 そうして頭上からの奇襲を回避したシンは、目の前で今にも寄生されようとしている兵士を見つめ‥‥

「待ってろ。すぐに」

 クローを構え──

「楽にしてやる」

 その顔面に、無造作に、一片足りとも躊躇も哀れみも込めず、刃を突き刺した。

「がっ!」

 苦悶の表情はどちらへ向けたものなのか。
 兵士は自分の顔に虫を張り付かせたまま、その虫と共に絶命した。

「即死だろ? 苦しまなくて良かったな」

 シンはクローを兵士から抜き取ると、扉を僅かに開け、外の状況を確認した。

「な、なんだこいつら!」
「引き剥がせ!」
「サーバントだ! 早く迎撃しろ!?」

 口々に騒ぎ喚き回る阿鼻叫喚が展開されていた。
 虫の奇襲に反応出来た者と出来なかった者で命運は別れ、さらにどこからか現れたサーバント達に強襲され、残った者達の命運も尽きようとしていた。

「良いタイミングだ」

 だが、それはシンにとっては好都合な襲撃だった。
 味方は混乱。それにこちらの兵士達は、サーバント達に押され気味だ。もう少し混乱が広がれば、それだけこちらの行動範囲も広げられる。
 シンは部屋の前から悲鳴が聞こえなくなると、部屋から出てサーバント達の通った跡に目をやった。

「よくもまぁ‥‥もう少し粘れよ」

 廊下は、ここでどれだけの惨状が行われたのかを物語っていた。
 シンが隠れていた部屋の前を雪崩のように通り過ぎていったサーバント達の群れは、虫に取り付かれて混乱状態に陥った部隊を軒並み飲み込み、自分たちの糧にしていた。
 シンは兵士の死体に潜り込もうとしているグレイブディッガーを踏み潰すと、新たに廊下の角から現れるサーバント達を睨み付けた。

「どうやら、しばらくは休憩も取れそうにないな」

 シンはブレードローラーを召還すると、頭に叩き込んだ内部構造を頼りに、サーバント達の群れに突っ込んだ。階下へ通じる階段まで辿り着くには、その階段を上ってきたであろうサーバント達の群れを突っ切らなければならない。

『GYAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 サーバント達が吠え猛る。廊下を走ってくるサーバント達は、どれもこれも肉が腐敗し、中には共食いでもしたのか、体を啄まれた跡のあるモノも混じっている。

(ここの研究者達は‥‥B級ホラーの演出でも担当してれば、大成したんじゃないのか?)

 シンはそのサーバント達に危機感らしい危機感も抱かず、真っ向から切り込んだ。
 それはあまりにも考えられない行動だ。常人は言うに及ばず、魔皇でさえ巻き込まれれば細切れにされて餌にされる雪崩の中に、自ら乗り込んで行くとは何事か。ましてやシンは、数分前まで生きていた兵士達の末路を確認している。ここで逃げずに立ち向かうのは、自殺以外の何物でもないはずなのだが──

「少し荒れてるが、波乗りにはちょうど良い」

 その雪崩の上を、シンは余裕で抜けていく。真狼風旋で速度を引き上げ、サーバント達を踏み台にして駆け上がり、壁を蹴り付けサーバントを斬りつけドラゴンスタッフの炎で目を眩まし、一瞬たりとも止まらずに駆け抜ける。
その勢いは暴風のようだった。
攻撃はあくまで敵を殺すための物ではなく、その動きを一瞬だけ止めるものばかりだ。サーバント達が怯むとしても一秒あるかないかだが、シンにはそれで十分だった。その一秒の間に、怯んだモノの手に届かない場所にまで到達する。
 真っ向から戦えば押し切られる‥‥そんなことは、当然シンも分かっていた。
 だが、それは戦ったらの話。そもそもシンの目的は地下に降り、データを回収することだ。無駄な戦いをするほど戦闘狂ではないし、悪を根絶やしにするとかいう正義感も持ち合わせてはいない。

「悪いが、お前達は後続の奴らの相手をしてやってくれ」

 シンはそう言いながら、シンに向かって再度攻撃をしようと振り返ってくるサーバント達に、ドラゴンスタッフの炎を全開で放った。ついでに真凍浸弾を、先頭で炎に巻かれるサーバントに撃ち込んでやる。

『WHOOOOOOOOO!!』

 先頭で凍り付いているサーバントに追撃を阻害され、サーバント達の波が止まる。もっとも、それも数秒しか保たないだろう。シンはすぐにそう判断し、長居は無用と、廊下を疾走する。

(見えた!)

 サーバント達が現れた角を曲がると、その先に階段が見えた。だが先ほど駆け抜けたサーバント達の群れからあぶれた奴らだろう、数匹のサーバント達が、シンに向かってここぞとばかりに向かってくる。

「どけ!」

 そのサーバント達の相手をしている暇もない。シンは擦れ違い様にサーバント達の首をシューティングクローで切り裂き、ブレードローラーで踏み台にしてやりながら、階段へと駆け抜ける。

「さて、先行隊はどうなっているか‥‥」

 シンは三十段あまりもある長い階段を一足で飛び降りながら、そう呟いた。
 だが結果など誰でも予想が出来る。何しろシンのいた部隊は早々に撤退である。唯一の脱出路であるこの階段に辿り着くまで、兵士の一人とも会わなかったのだから、答えも出ていた。

「‥‥‥‥酷いな」

 あまりの血臭に、シンは眉を寄せた。
 階段に辿り着く寸前にサーバント達に押し切られたのか、惨状は階段の足下にまで及んでいた。前方と左右に伸びる廊下は鮮血で彩られ、長い廊下はサーバントと兵士達の墓場に成り果てている。
 もっとも、その墓場で実際に死んでいるのは兵士達のみだろう。サーバントの体からは、その体を乗っ取っていたであろうグレイブディッガーが這い出し、新たな体を求めて墓場を飛び回っている。
まるで腐肉に集る蝿のようだ。魔皇やグレゴール達の中に潜り込み、新たな体を取り込もうとしている。中には上階へ行かず、サーバントと兵士の死肉を喰らっているモノ達もいる。

「‥‥‥‥‥‥」

 シンはその光景を前に数秒ほど立ち止まると、虫の群と死肉をあさる亡者に、ドラゴンスタッフの炎を浴びせかけた。
炎を当てられてようやくシンの存在に気付いたのか、サーバント達は炎で燃え尽きるグレイブディッガーと、死体を蹴散らしながらシンに向かって疾走してくる。
数は四体。犬型が二匹と、サクリファイスと呼ばれるモノが一体、そして寄生された兵士、リアルアンデッドが一人‥‥
 シンは目前に迫ったリアルアンデッドの腕を掻い潜ると、背後に回り、その首に八咫を変形させた刀を突き立てた。

『GUHE!?』

 呻き声を上げるリアルアンデッド。シンは刀を引き抜く間も惜しむようにその体を振り回すと、シンに向かって触手を刃にして襲いかかってきたサクリファイスに投げつけた。
 ドスッ!
 触手がリアルアンデッドを串刺しにする。サクリファイスはその死体を煩わしそうに壁に叩きつけて触手から引き抜くが、その動作はあまりに余分だった。
 触手が壁に向いた瞬間に間合いを詰めたシンは、サクリファイスの首を刀で斬り飛ばす。だが、この程度で死なないのは資料を読み込んで知っている。
 シンはドラゴンスタッフを斬り飛ばした傷口に叩き込むと、サクリファイスを体の中から燃やし尽くした。

『GYAAAAAAAAAAA!!!!』

 シンが二体の敵を屠っている僅かな間に駆け寄ってきた二匹の犬型サーバントは、サクリファイスを燃やしているシンに、背後から襲いかかる!

「しっ!」

 それを、シンはブレードローラーの蹴り一発だけで切り払った。
 体を分断され、壁に叩きつけられるサーバント達。それと同時に、絶命したサクリファイスとリアルアンデッドも崩れ落ちた。
 合計してたったの十秒あるかどうかの攻防。
 シンは一息つく間もなく走り出し、階段を駆け下りてくるサーバントの追っ手から身を隠した。

(ああ。ったく、無駄な時間使ったな)

 廊下を走りながら、つい敵の相手をしてしまった事を悔いていた。
 いや、目前の敵を払うことは当然のことと言えば当然のことなのだが、時と場合による。味方を躊躇無く殺したシンに言えることではないかもしれないが、それでも、仮にも人の形をした者が虫にあさられている姿は見るに堪えなかった。
 とは言え、これから先はそうも言っていられない。
 シンがこの階まで降りてきたことを知っているのか、フロア内に感じる気配があからさまに増えていっている。廊下を響いてくるサーバント達の吠え声もハッキリと聞こえるほどになり、その規模はかつての戦争を思い起こさせた。

(‥‥動きが良いな)

 ここに来て、シンは敵の行動に大きな疑問を抱き始めた。
 資料によれば、グレイブディッガーが寄生したモノ達はグレゴール達の支配を受け付けないはずだ。もちろん魔皇にも従わない。量産型のサクリファイス達は、体と頭脳にリミッターを付けることによって操作を可能としていたが、今まで出会ってきたサーバント達に、機械的な改造を施された形跡はなかった。
 その割には、サーバント達の動きには特徴がある。
 まるで班分けでもされているかのように数匹〜数十匹の団体で動き回り、グレイブディッガーの奇襲に併せて襲撃を行ったりしている。
 グレイブディッガー自体が電波のようなもので繋がっているとしても、あまりに連繋が上手すぎる。

(今は考えてる時間もないな)

 シンは曲がろうとした廊下の先から、大勢の何かが走ってきているのを音で察し、足を止めた。このまま先ほどのように突っ切って行くのも案の一つだが、そういつまでも真っ正面から行っていては身も魔力も保たないだろう。
 背後からも迫ってくるサーバント達の雄叫びを聞き、シンはこのままジッとしていれば殺されるだけだと悟り、シンはすぐ近くにあった部屋に飛び込んだ。
サーバント達に室内を調べる程の知能がないのは、最初の襲撃の時に分かっている。そうでなければ、廊下にいる者達のみを襲い、室内で様子を窺っていたシンを見逃すようなことはしなかっただろう。
だが、だからと言ってここから動かないわけにはいかない。あくまで戦闘にならないための緊急避難だ。廊下がサーバントだらけになって身動きが取れなくなるまえに、これからの行動を決めなければならない。

(さて‥‥階段は遠い上に、サーバントを突っ切る必要がある。エレベーターの入り口は、近いが故障していて動かない。いや、エレベーターが壊れていても、シャフトを飛び降りればだいぶショートカットが出来るはずだが‥‥)

 やはりエレベーターか。少なくとも、この状況下では、もっとも生存率が高いと思われるのだが‥‥

「‥‥ん?」

 と、やはりエレベーターしかないかと思った矢先、シンは一つのことを思い出した。
 この襲撃が始まった最初の奇襲、グレイブディッガー達は、閉め切った部屋に突然現れた。
それも頭上、奇襲を掛けるとすれば、もっとも適したポイントから‥‥

「‥‥まさか、通風口があるのか?」

 受け取っていた資料には書いていない。しかし、その資料は大戦時の物だ。
 当時はグレゴールのみで構成されていたのだろうから、空調設備などいらなかっただろう。しかしこんな地下の研究所に人間の研究者を迎えるとすれば、新たに増設する必要があったはずである。
 もしかしたら‥‥いや、もしかしなくても、その通風口は最深部にまで通じているだろう。

「一か八かだな」

 人が入れるほどの大きさなのか、入れたとしても、グレイブディッガー達からの襲撃を受けないか‥‥
 せめて入れるかどうかだけでも確かめようと、シンは刀を柄って天井を突っつき始め‥‥
 ドォン!!
 部屋の扉が、大きく轟音を発して拉げ始めた。






To be continued