■Game master〜潜入〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング
〜◎月×日〜
 どうやら、私も運を使い果たしたようだ。
 先月の基地襲撃事件以降、基地からの脱走者が相次いでいる。私もその捜索隊に臨時配属されたのだが、いまだに一人も発見出来ない。誰か、逃げるんなら私も誘ってくれ。私は生きてここから出たい。

〜○月×日〜
 脱走者はどんどん増えている。相変わらず指令は脱走だと断定しているが、本当にそうだろうか?
 調べてみたが、監視カメラにも写っていない。全員自室に入ったっきり、それきり出てきていないのだ。
 なぜだ?

〜○月△日〜
 各部屋に仕掛けがないかどうかを見回った。
 やはり何も見付からない。しかし納得は出来なかったので、テンプルムの見取り図を見せて貰った。
 あった。通風口だ。

〜○月■日〜
 通風口の大きさは、十分通れる大きさだった。もちろんはいつくばった状態でのことだったが、魔皇殻などを使えば地上にだって行けるはずだ。
 ‥‥調査途中、下層の方から実験体達の呻き声が聞こえてきた。最下層まで繋がってるらしい。
 落ちたら死ぬ。

〜△月△日〜
 調査が中断された。どうやら、実験体達の数が足りないらしい。ついでに凍り付けにして保管していた【アルゴス】もいないらしい。
 SFとDFの二重で凍らせてあったのに‥‥どうやって抜けたんだ?
 消えた実験体を処分するため、警備兵研究員問わずに武装をすることになった。そう言えば、最近実験は何をやっているんだろう。

〜△月×日〜
 また消えた。実験体達に返り討ちにされたのかと思ったが、そうでもないらしい。どうやら捜索の混乱に乗じて逃げたようだ。
 だが、やはりカメラには写っていないし、全員空き部屋に入ったところで消えている。通風口かと思ったが、先日から出口に見張りが立っているはずだ。
 どこに消えた?

〜△月○日〜
 最近は警備部の詰め所でばかり寝ていたが、ようやく自分の部屋に入ることが出来た。私物をまとめて、すぐに俺も出て行ってやる。こんなホラーハウスにいたら、命がいくつあっても足りない。
 研究成果だけは持っていこう。高く売れそうだし。



●兵が見つけた研究員の日誌より抜粋●
●所々青い液体で湿っており、読むことが出来ない●
シナリオ傾向 戦闘 脱出 情報回収
参加PC 風羽・シン
Game master〜潜入〜
Game master〜潜入〜


〜地下六階・1250時〜

 ドゴァン!
 扉が拉げて悲鳴を上げ、爆弾でも仕掛けられていたかのような轟音を立てて部屋の中へと吹き飛んだ。吹き飛んだ扉は室内の棚に激突して跳ね返り、清潔な部屋をあっと言う間に荒らし回る。

『GROOOOOOO!!』

 その扉に続いて雪崩のように踏み込んでくるサーバントの群。廊下よりも一層狭苦しい室内に入ったことで目も当てられない暑苦しい惨状に一変するが、そこにはサーバント達を待ちかまえていたはずの、侵入者の姿はない。
 次々に入り込んでくる後続に苦しみながらも、先行したサーバントは目と鼻を使って獲物を追跡する。しかしそれも、室内に寿司詰めのように押し込められた現状では意味をなさないと悟り、ギャアギャアと吼えながら脱出を試みる。

『GRARARAAAAAAA……RU?』

 と、騒々しく荒れていたサーバントが、一斉に黙りこくって静止する。グルルと低く唸りながら、ゾロゾロと廊下に出てあちこちに散っていく。まるで解散を告げられた生徒のようだ。それぞれの持ち場に静かに戻り、その様子はどう見ても野生のモノではない。しかしその異様な光景を、見とがめる者は誰一人としていなかった……



〜地下十二階・1320時〜

 狭苦しい通風口の中は、生暖かい風で満たされていた。
 まだ空調施設が生きているのだろう。様々な場所の空気を混ぜ合わせている通風口の風には、微かに上階から送られてきた血臭が混じっている。

(長く居ると、気が狂いそうだな)

 鼻を衝く温風に、風羽 シン(w3c350)は眉を顰めながら、足下にある換気扇を蹴り壊した。ゆっくりと回転を続ける換気扇はあっさりと壊れ、『カタンガタン』と音を立てながら、闇の中へと落下していく。
 現在、シンは階下へと続く通風口の縦穴に真シューティングクローを突き立て、降りている最中だった。廊下や室内とは違い、この通風口には光源が無く、ほとんど手探りの作業だ。換気扇は音で探して位置を掴み、時折現れるグレイブディッガーは体にくっついてきた所を手早く殴りつけ、蚊を潰すような感覚で処理していった。

(これで七階分は降りたな。現在地は十三階……あと四階分か)

 シンの目的は、十七階にある端末である。詳しい位置までは分からないためにその階だけは入念に調べ回らなかったが、敵の戦力が上階の大部隊の方に割かれているならば、シンを追っていたサーバントほどの数はいないだろう。少数の敵ならば戦闘を回避する自信はある。問題なのは、雑魚が群れている場合のみだ。
 シンはこのまま問題なく目的の階層にまで辿り着ける事を願いながら、十四階を通り過ぎる。

『……grarararr』
「……ぬ?」

 その時、風を伝って聞こえてきた物音に体を硬直させる。
 サーバントの雄叫びや銃声が聞こえても歩を止めなかったシンだったが、問題なのはその音を聞いた途端に体に走った危機感だった。

「……」

 シンは五感を総動員して周囲の空気を感じ取る。生暖かい空気に乱されないよう気を張りながら、ゆっくりと、縦穴から再びフロアの上に張り巡らされている横穴に潜り込む。

『……GAARARARARARRARRARARA』
「……」

 もはや疑うこともなく、この通風口がデッドゾーンに変貌しているということを確信していた。
 まだ姿も確認していないが、しかし確認していないにもかかわらず、心の体はピリピリと怖気を纏い、この場からの撤退を訴えかけている。それだけで、シンがこの通風口からの脱出を決断するには十分すぎる判断材料だった。
 しかし、フロアにはフロアの怪物達が蠢いている。おいそれと安易に姿を晒すわけにもいかないだろう。
 シンは廊下の様子を音で探りながら、慎重に歩を進めた。

(廊下に出た途端に襲われるのは避けたいんだが、あまり時間を掛けるのも……)

 こうしている間にも、だんだんとシンの緊張は大きくなってきていた。汗が滲み、頻繁に後ろを振り返る。
 と、集中していたシンの耳に、聞き慣れない音が聞こえてきた。
 ズ……ズ……
 まるで、肉の詰まった袋を引きずり回すような音。恐らく蛇が歩く(?)音を大きくしたら、こんな感じになるのだろう。さほど大きな音ではないが、確かに、シンはその音が自分に近付いてきているのを確信した。

「……っち!」

 躊躇しているような余裕もない。シンは真旋風弾を足下に叩き込んで通風口の口を開けると、その先の廊下へと身を滑らせた。シンが入り込んだ廊下には幸いサーバントの姿が無く、目の前の頑丈そうなメインエレベーターの扉が、不必要なまでに存在感を際立たせていた。

「……」

 シンは周囲に敵がいないことを確認すると、自分が飛び出した通風口を見上げた。DFで強引に開けた穴は、ズタズタに引き裂かれて刺々しく、貫通したDFは廊下のあちこちに傷を刻み込んでいた。
 数秒ほどその場で息を殺し、敵が来ないことを確認する。
 通風口に入っていたときほどのプレッシャーは感じない。むしろ逆に、穴の中で感じていた不安感が、急に薄っぺらいものに感じられてきたのだった。

「……勘が外れた……か?」

 シンは、もしや聞こえてきたサーバントの声は、風によって流されてきただけのものだったのかと思い始めた。しかしそれを確かめることはせず、注意深く天井の穴から距離を取る。

(気のせいなら良いんだが……)

 通風口で一気に十七階まで行くのも魅力的だったが、シンはあえてここまでとすることにした。
 現在地が十四階。たったのあと三階で目的地である。
 シンは身を翻し、早々にその場を去ることにした。あの通風口に戻らないと決めたのなら、その場に留まる理由はない。
 シンは階下へと続く階段を探すために身を翻し……

『GYARARARARARARARARA!!!!!!』
「そっちか!」

 真上の通風口をぶち破って現れた巨大な牙を、ドラゴンスタッフで受け止めた。ミミズのような気色の悪いサーバントは、大口を開けてシンを一飲みにしようと体をくねらせて、グイグイと押してくる。
 ミミズの口とシンの間にドラゴンスタッフを置くことで何とか丸飲みは避けていたが、サーバントの力はシンを遙かに超えるものだった。通風口から顔だけを出している(首なのか体全体なのかは判別出来なかったのだが)不安定な体勢にもかかわらず、だんだんとシンを壁際にまで押していく。

「くっ……!」

 シンは内心焦っていた。
 咄嗟に丸飲みをガード出来たのは良かったのだが、こうして壁にまで追い詰められてスタッフを両手で握り、両腕を塞がれている。もう一方の手でシューティングクローを召還したかったが、片手を放した瞬間に押し切られそうだった。
 しかし時間を掛けているわけにもいかない。あまりこの場に留まっていると、このサーバントの声を聞きつけて他のモノ達までもが集まってきてしまう。そうなっては手詰まりだ。

(……仕方ない)

 熟考しているような時間もないと、シンはスタッフを押さえながら魔力を手の平に収束させ、そのままの体勢で真旋風弾を放った。零距離からのDFに、サーバントは吹き飛ばされ、魔力の真空刃に切り刻まれながら悲鳴を上げて穴の中へと引っ込んでいく。
 それを見送りながら、シンは力比べで痛みを訴える腕からの信号をカットすると、持ちっぱなしだった……今ではサーバント同様、零距離からのDF使用で吹き飛び、ボロボロになっているスタッフを拾い上げた。
しばらくは修復に回すため、送還して、スタッフの代わりにブレードローラーとクローを召還する。

(あんな化け物が上にいるのか……あまりグズグズ止まっていると狙い打ちされるな)

 元より止まるようなつもりはないが、あんなモノが潜んでいるのならば油断も隙も作るわけにはいかない。それこそこのテンプルム内にいる間は、常に付け狙われていると思った方が良いだろう。

「厄介な……」

 姿を現そうとしない難敵に、シンは舌打ちしながら廊下を走り出した。





〜地下十五階・1340時〜

 向かってくるサーバント達を出来るだけ回避しながら、シンは何とか十五階へと下りていた。
 他のフロアに掛かりきりなのか、十四階には大したサーバントは居なかった。十五階もと、僅かに期待をしていたのだが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
 響く銃声と、悲鳴に近い女性の声。手近な壁に隠れて様子を見ていると、見覚えのある二人の人影が慌ただしく戦闘を繰り広げていた。魔皇の方が炎系の魔皇殻で固めているのか、廊下は炎で覆われていて、陰程度しか見えてこない。

『しつこい奴らだなぁ! 何処まで付いてくる気だ!』
『やっぱりこれ以上は無理ですよぉ! 隠れましょう!!』
『いや、こうなったら意地だ! 数の差がなんだ! 俺のインフェルノウイングでまとめて焼き尽くして……』
『きゃあ! ──様の背中に虫が!』
『ぬわぁああ!!』

 爆音やら銃声やらで肝心な所だけを聞き逃した気がしたが、結局二人組は手近な部屋の中へと逃れたようだ。二人を追跡してきたのであろうサーバント達は、魔皇の発した業火によって視界を完全に塞がれ、二人を見失ったのか、あちこちに散っていく。

(っと、見入っている場合じゃないな)

 この場にいたら、こちらまで巻き込まれる。誰にも見つからないうちにと、シンは敵を引きつけないよう、ひとまずは手近な部屋の中へと身を滑り込ませた。
何処の誰だかは分からなかったが、どうやら別のフロアにいた魔皇達が上階からサーバントを引っ張ってきてしまったようだ。しかもゾロゾロゾロゾロと、外でも滅多に見れないほどの大量さである。
 もしかしたら、他にも先にこのフロアに来た者達が居るのかもしれない。あの二人がどれほどこのフロアで大暴れをしていたのかは知らないが、既に廊下のあちこちには弾痕や焦げ跡が残っている。数フロア分の追っ手が合流してしまったというのなら、あの敵の数にも合点がいくのだが……
 それを調べているような場合ではない。

「何処の誰だか知らないが、こっちまで巻き込まないで欲しい物だな」

 文句を言っていても状況が変わるわけではないだろうが、思わず口を衝いて出てしまった。
 実際に困っているのだ。ジッとしているわけにも行かないが、サーバントの目から逃れようと言うのならば部屋にでも篭もっているしかない。しかしそれでは、任務を果たすことは出来ない。進もうとすればサーバントとの戦闘は避けられないが、それでは今の二人組までもが自分のところに来かねない。
 シンはサーバント達から姿を隠しながら熟考した。

(……待てよ。要するに俺がサーバントの相手をせずに下に降りれれば良いんだから、先にサーバントと誰かが戦えば良いんじゃないか?)

 サーバントの注意を惹き付けてくれる者達が居るのならば、その隙に階下に抜けることも出来るだろう。
 シンは、現在の状況ではそれがベストだと判断し、手早く事を進めることにした。通信機を取り出し、最も近い範囲にいる味方に向かって呼びかける。
 部屋の中へと閉じこもって外の敵から身を隠しているが、通風口からの襲撃を忘れたわけではない。あの厄介な化物の相手を繰り返しするなど、悪夢としか思えなかった。
 シンの通信機(地下に対応して、少々大きめだった)が低い電子音を奏で、待つこと数秒……若い女の声が、通信機から聞こえてきた。

『…はい、こちら……です! 今忙しいんですけど……なんでしょうかぁ!!?』
「…………」

 通信機から聞こえてくる声。どこかで聞き覚えのある声だったが、どうやら戦闘中に通信機に出てくれたらしい。通信機越しに銃声と叫び声、なにやら得体の知れない咆哮まで聞こえてくる。
 その切迫した声にも負けないよう、シンは精一杯の声を張り上げた。

「こちら第三突入部隊Aチーム! 現在十五階にて敵に包囲されている! 救援を──」

 そこまで行った所で、シンの台詞が途切れる。いや、通信機が宙に舞って、シンの声が届かない場所にまで飛んでいく。
 通信機は壁にガシャンと当たり、床に落ちていく。その様を、シンはスローモーションで見据えていた。

「──────」

 シンの思考は、一瞬だが、その瞬間だけは停止していた。
 痛みや驚愕で停止したのではない。ただ単に、思考が追いつかなかっただけだ。
あまりに唐突すぎる場面転換。宙を舞った通信機も、その後を追うようにして飛んでいる自分の右腕も、まるで他人事のようにしか感じられない。
 ……だから恐らく、続いて放たれた斬撃を伏せて躱せたのは奇跡に近かっただろう。幼少の頃より鍛えられた“斬撃”に対する防御本能が反応したといった方が近いかもしれない。
まるで部屋ごと輪切りにしょうとばかりに放たれた斬撃は、本当に部屋を輪切りにした。備え付けのベッドの上を通過し、棚を切断し、侵入してきたときと同様に壁を貫き、風が通りすぎるように静かに消えていく。
これが高層マンションあたりだったら、恐らく“ガシャン!”と、建物の途中から切られてズレているような現象が見れただろう。

「……凄いじゃないか。今ので生きてるとは思わなかったぞ」

 シンは目の前に現れた足を凝視し、声を掛けられることによってようやく思考を取り戻した。素早く部屋の隅にまで距離を取り、敵の姿を視界に捕らえる。
 ……それは、何とも言えない男だった。
 見たところは魔皇。しかし右腕から生えている鋭利な、透き通るような刃を見る限り、サーバントとも見えた。あんな魔皇殻は存在しない。だいたい、あの刃は男の体から直接生えている。
 その刃で、部屋の外から直接シンを狙ったのだろう。視界に納めていたわけではないために生き残れたようだが、出入り口を塞がれている。最悪の状況だ。
 体の状態を確認する。右腕からの痛覚を微弱に残し、おおよそ九割をカットする。完全にカットすると、回復具合がわかりにくいのだ。と言っても、手首から先を切断されているため、この作戦中には回復は望めないだろう。

「悪いが、これ以上厄介事を増やさないでくれ。タイミングを見計らったように一斉にこの階層にまで来て、相手するのも大変なんだぞ」

 男はそう言うと、床に落ちた通信機を切り刻んだ。刃は伸縮自在らしく、離れていても問題はないらしい。
 自身がどれほど絶望的な状況にいるのかを確認し、シンは男から視線を離さずに、左手首を静かに捻った。

「……何処の誰かなのかは知らないが、見逃してくれるとありがたいんだが?」
「いや、俺はきれい好きでね。ネズミやゴキブリの類は大嫌いなんだ」
「なるほど。じゃ、ネズミらしく逃げさせて貰うぞ」

 『ネズミ』の辺りまで言った所で、ゴトリ……と、シンの左袖から、対神魔戦対応暴徒鎮圧用閃光弾が落下した。