■神魔人学園・〜学生寮の一日編A〜■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 メビオス零
オープニング
 トリニティ・カレッジは広く、その生徒数は非常に多い。
 そしてその生徒達の中には、先の神魔大戦の影響で、家を焼かれ、住む場所を追われた者達が沢山居た………
 そんな生徒達を迎え入れるための学生寮。学生寮と言いつつ、生徒達の家族も住むことが出来る辺り、非常に評判が高かった。
 『男子寮』『女子寮』『家族寮』と別れ、それぞれにそれなりの決まりなどはあったのだが……
 抜け道など、案外見つかる物なのである。
 どこの生徒も次から次へと決まりを破り、自分の部屋でえいやらこいやらと怪しげな実験を繰り広げ、怪しげなペットを飼育し、どこからか調達してきたマジックアイテムを駆使して騒ぎを起こす。
 もはや銃刀法違反ぐらいで驚くような人は誰もいない。そんな、数年前までの常識が完全に覆ってしまった魔境。それが、神魔神学園の寮なのである!!

「いや、全員が全員そうじゃないよ!!」

 インタビューに対して一人の生徒がそう発言したらしいが、誰一人として取り合わなかったという‥‥

シナリオ傾向 ほのぼの? フリー
参加PC 星崎・研
神魔人学園・〜学生寮の一日編A〜
神魔人学園・〜学生寮の一日編A〜


 天気は快晴。
 季節は秋へと移り変わり、並木道の樹木ももうそろそろと葉を落とし、ぼちぼち年賀状の発売などもされている。

「もう、こんな季節かぁ‥‥」

 トリニティカレッジ特殊機甲科の校舎の窓から街を見下ろし、星崎 研(w3l090)は感慨深げに息をついた。そして、手にした手提げ鞄(学園支給)を握りしめ、その中に入った書類の束に思いを馳せる。
 スミルナルで特殊任務を終えた研は、その戦績によってかねてから申請していたイレーザーナイツへの入隊が許可された。今日はその正式な書類の引き渡しと、在学中に世話になった教官への報告に足を運んだのである。
 教官は研がイレーザーナイツに入ったことを褒めると同時に、「お前の彼女を、悲しませるようなことはするんじゃないぞ?」と、真剣な目で言ってきた。それは要するに「死ぬな」と言っているのである。研はその意志を即座に汲み取り、コクリと、ハッキリと頷き返したのだった。

(貴沙羅と一緒に任務に就くのも減るのかな‥‥‥まぁ、魔皇が逢魔とタッグを組むのはおかしい事じゃないし、いざとなったら許可を取ればいいですよね)

 戦場に恋人を連れて行くのは少々‥‥‥いや、かなり気は引けるが、貴沙羅は研にべったりと付いて離れない。下手に引き剥がすよりは、目の届く場所に置いておく方がいい気もする。今までもそうやってきたのだから、これからも大丈夫だと、そう思いたい‥‥

「ン?誰だと思ったら研じゃないか!?」
「あ、ホントだ。お久しぶりですね」
「‥‥‥‥え?」

 窓から街を見下ろして思考に没頭していた研は、不意に掛けられた声に反応し、ハッとそちらの方を向いていた。
 そこには、二人の男子学生が立っていた。見覚えのある顔だと思ったら、それは貴沙羅の元で暮らす前に、寮で同室だった友人達であった。
 元気そうな声を出している男子は特徴的なボサボサ頭。教官から目を付けられるだろうに髪をオレンジ色に染め、背が高く、研よりも拳一つ分は目線が高かった。
 もう一人はメガネを掛けていた。丁寧な物腰で優しそうな顔立ちである。こちらは研よりも拳一つ分は背が低く、知らない者ではとても兵士には見えないだろう。
 二人とも機甲学科の戦闘服である。訓練でもしていたのか、服の所々が汚れていた。

「ああ。二人とも、久しぶり」
「おう。お前はもう卒業したんじゃなかったっけか?確かどっかの隊に入ったって‥‥まさか、お礼参りにでも来たのか?やめとけやめとけ。他にも何人かやろうと思ったらしいが、大抵直前で消えることになるらしい。どこでどうなってるのか知らないが‥‥‥うん。やっぱり仕返しはいけないな」
「心配しなくても、そんな事しませんよ。‥‥それより二人はどうしたんです?二人ももう在籍する部隊は決まったんでしょう?」
「ええ。別々の部隊ですが、わたし達はもうしばらくの間ここで戦闘訓練を受けてます。その後で部隊に合流、また訓練の始まりですね」
「イレーザーナイツは、まだ始まってないのか?」
「入ったばかりですから」

 苦笑しながら研が言うと、ボサボサ頭の方は「それじゃあ、まだしばらくの間は秋休みか?!」等と羨ましそうに叫んできた。実際はしばらくビルシャス付近での細かい任務をこなしていくことになるのだが、とりあえず手続きが終わるまではフリーの身である。
 つい最近までのように傭兵として過ごしていた日々との境目として、研はノンビリ過ごすつもりでいた。

「やれやれ‥‥あ、そう言えば研。相方は元気ですか?」
「貴沙羅のこと?元気ですよ。むしろ元気じゃないのを見たことがないぐらいに」
「ああ。あいつか。奴か。まだ続いてるのか」

 ボサボサが苦虫を噛み潰したような表情を作る。以前、研が寮の部屋を引き払う時に貴沙羅と一戦やらかしてからと言うもの、どうしても好きになれないらしい。
 ‥‥‥まぁ、思い出してみても、あそこまで惨敗してれば当然か?

「よし。あいつの所に行ってからお前がどんな暮らしをしてきたのか、きっちりと聞かせて貰おうじゃないか。お互い訓練だの任務だので時間とれなかったしな。折角会ったんだ。たまには男同士で付き合ってくれ。な?」
「そうですね。これから何回、こうやって会えるのかは分かりませんから‥‥」

 研もこの友人達も、正式な軍属になれば休暇さえ満足に取ることは出来ないだろう。現在の日本はそれほどに忙しい。
 ならば確かに、会えるうちに会って話しておく方が良いのかも知れない。
 研は腕時計を確認する。まだ昼過ぎだ。貴沙羅が夕食を作り終えるまでに帰れれば、怒りを買うようなこともないだろう。

「そうですね。今日ぐらいなら――――」
「よっしゃ!なら話は早い!俺達も上がりだからな。ちょっと待ってろ。すぐに着替えていくからよ」
「校門で待ってて下さいね」

 二人は手を振りながら、足早に更衣室へと入っていく。研はそれを見届けてから、もう一度時計を見やった。

(今頃、貴沙羅は午前の終了ですか、ね)

 離れた校舎から聞こえてくるチャイムの音を聞きながら、研は早々に校門へと足を運んでいた‥‥







 時同じ頃、高等部で授業を受けていた貴沙羅は、終了のチャイムと同時に友人達に囲まれていた。
 一人は人間。一人は導天使である。
 三人は別々の種族でありながらも、これと言って衝突することもなく仲良くなった友人達であった。

「ねぇ貴沙羅。今日の放課後、空いてる?」
「空いてるけど、どうして?」

 導天使の友人に聞き返すと、人間の方の友人が説明した。

「来月はクリスマス」

 ‥‥‥‥これだけ。説明になってない。
 貴沙羅もこの女子とはそれなりに長い付き合いだと思っているが、いまいち意志が汲み取れない。
 導天使の方は懸命に“クリスマス”の単語から連想出来る理由を考えている貴沙羅に詰め寄ると、貴沙羅が答えを出すよりも早く回答を言い始める。

「だから、今のうちに色々覚えておきたいのよ!料理とか編み物とか!特に編み物!プレゼントにマフラーを上げようって思ってるからさ!ね?今からならまだ間に合うでしょ?間に合うって言えーーー!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!落ち着いて!」

 説明を補足してきた導天使を“どうどう”と宥める貴沙羅。もう一人の方は傍観モードである。

「あたしゃ馬か!まったく‥‥‥良し、落ち着いた。と言う訳で、よろしくお願いします。師匠」
「師匠って‥‥‥え?もしかして両方私が教えるの?」
「そりゃそうでしょ。このメンバーの中で編み物と料理の両方出来るの貴沙羅だけだもん。大丈夫。得意な料理と編み物のコツを教えてくれるだけで良いからさ。それを私なりにクリスマスっぽくアレンジするから安心して」

 何故か自信満々に胸を張る導天使。どう見ても料理と編み物を舐めきっているとしか思えなかった。

(私の得意料理をクリスマスっぽく、か‥‥‥‥‥クリスマスっぽい‥‥‥‥おにぎり?)

 食べたくない。そんな物。
 別の人を推薦しようかと思ったが、残念ながらこの導天使は一回決めたことを覆すような性格ではない。
 もう一人に目を向けたが、フルフルと首を振り、“諦めて”と、目で言ってきた。

「はぁ‥‥わかった。良いよ。あたしも編むんだし‥‥‥でも甘く見ないでね?アレって本当に難しい‥‥」
「やったーーー!貴沙羅に教われば凄いの出来そう!ありがとうね貴沙羅!このお礼は必ずするから!あ、私は次移動教室だ。それじゃねーー!」

 貴沙羅の忠告を遮って歓声を上げた導天使は、嬉しそうにスキップを刻みながら自分の教室へと戻っていく。

「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥ファイト」

 ポツンと残された貴沙羅の肩を、人間女子はポンッと叩いて励ました。








 それからちょっと経った頃、研は懐かしい場所にいた。
 一年半程前、貴沙羅が訪れるまで住み着いていた寮である。
 元々は三人部屋だったのだが、研が貴沙羅に引っ張られてからと言うもの、新しい入居者はなかったらしい。研を連れてきたメガネとボサボサは、コタツの中でミカンを食べながら雑談していた。

「つまりだ、お前、まだあの女に告白してないんだな?」
「ええと‥‥まぁ、そうなんですけど」
「それじゃ、まだなにもしてないの?一年半も同棲していて?」
「同棲!?」
「いや、そこで驚くなよ。否定のしようもないだろが」
「う‥‥‥」

 雑談‥‥と言うよりは尋問だ。イレーザーナイツ所属を目指して頑張っていた研と通常の軍への所属を目指していた二人ではなかなか会うことが出来なかったからか、溜まっていた質問を次々に投げかけられるのである。
 やれ料理はうまいのか?掃除洗濯は大丈夫か?裁縫とかは?趣味は?戦績は?調教とかはされてないか?とか‥‥‥‥

「待って。調教って‥‥」
「されてるのか!?」
「されてません!」
「嘘だな」
「なぜ?!」
「お前の顔を見れば分かる。ふふふ、そうか。研もついにその境地に‥‥」
「辿り着いてませんよ!」
「何だよ。ホントにそうなのか?つまらないなぁ。どうせならもっとショッキングな話題をもってこいよ」
「理不尽な‥‥」
「堪えて下さいね。この人、好きな人に気が付いて貰えなくて、ちょっと気が立ってるんですよ」
「おい!」

 メガネの言葉を、ボサボサが慌てて止める。弄られ続けてグッタリしていた研だったが、慌てるボサボサを見て一瞬で復活した。

「なに?好きな人って」
「向かい側の女子寮に住んでいる子なんですよ。高等部の子なんだそうです。ここの窓から見れるんで、いつも覗いてますよ」
「‥‥‥‥‥え?」
「止まれ!ストップ!」

 なおも止めようとするボサボサ。だが研とメガネが結託して拘束に掛かると、あっという間にコタツの中に突っ込まれてしまった。
 窓から向かい側の寮を見る。マンション風のその寮は、こちらからは廊下の方しか見えなかった。

「ほら、向こう側に寮が見えるでしょ?その五階の、左から四番目の部屋‥‥‥あそこの女子が好きなんだって」
「へぇ‥‥‥」
「でも告白するにも校舎違うし、きっかけがないんだとか。それで、こうして窓から覗き見て‥‥」
「‥‥‥‥‥犯罪ですよね?」
「どうだろ。向こうの部屋の中まで見える訳じゃないし、合法じゃない?」

 まぁ確かに。向こう側に迷惑を掛けている訳じゃないし‥‥‥ギリギリ犯罪じゃ無さそうだ。
 研はコタツの中から聞こえてくるくらい泣き声の主を引っ張り出し、とりあえず慰めた。

「うう、なんだよ。別に良いじゃねぇか。くそっ、何で研に彼女がいるんだよ〜」
「妙に引っかかる言い方を‥‥」
「あ、彼女が帰ってきましたよ」
「なにぃ!」

 メガネが女子寮を指差すと共に、一瞬で立ち直ったボサボサがガバッと跳ね起き、窓へと張り付いた。
 研も窓から女子寮を見て、教えられた部屋の前を見る。なるほど、確かに女子が三人‥‥‥アレ?貴沙羅?

「‥‥なぜ奴が」

 いつの間にか双眼鏡を持って観察していたボサボサは、貴沙羅の姿を確認した途端に目つきを変えた。

「友達なんでしょう。貴沙羅は高等部ですから」
「‥‥そうか、そう言うことか!!」

 突然、嫌そうな顔をしていたボサボサは笑い出した。研とメガネが気味悪がっていると、ボサボサは研の手を掴んで部屋の玄関へと向かい、靴を履き替える。

「いきなりどこに行くんですか?!」
「向こうの部屋だ!お前の彼女がいれば、言い訳ぐらいは立つだろ!」

 強引にでもきっかけを作るつもりらしい。しかも研を貴沙羅対策につれていくつもりらしい。

「言っておくが、逃がさんからな?抵抗するなよ」
「くっ‥‥‥‥聖鍵騎士め」

 ルチル圏内では、魔皇は聖鍵騎士には勝てない。
 研は悔しがりながらも、ボサボサの力に抗えずに引っ張られていった‥‥‥








 ‥‥‥そしてその頃、向かい側では貴沙羅は友人達に料理を教えていた。
 もしくは開発とも言える。新たな料理の開発‥‥‥ずばり、クリスマスっぽいおにぎりを!!

「やっぱり何かが間違ってる気がするけど‥‥!」
「うん。実はあたしもそう思う」
「‥‥‥」

 三人はギュッギュッとおにぎりを握りながら、頭の上に?マークを浮かべていた。
 何かが間違ってる気がするのだが、人間である友人は楽しそうに握っているため、“やめよう”と言い出せない。そして今、その友人がおにぎりの中にイチゴとかクリームとかを入れたのは見なかったことにする。もはやおにぎりではない。

(おかしいなぁ。もっとこう、別の趣向の方が良かったのかな?中に鶏肉とか詰めるとか、その方が美味しそうな気がするんだけど)
(誰よ。最初に『クリスマスと言えばケーキ』って言い出したのは)
(いや、キミだよキミ)
(私か。くっ、この子が楽しそうにしてると、どうしてもストップを掛けられない!)

 己達の軽はずみな行動を深く反省しながら、三人は作り続ける。怪しげなおにぎりを‥‥
 作り終わった後にどうするかを貴沙羅が考え始めた時、ドンドンと、部屋の扉が叩かれた。

「は〜い!」
「誰だろ?ちょっと行ってくるね」

 導天使が急いで玄関へと走っていく。貴沙羅はその背中を見送り、開かれた扉の向こう側から現れた人影に全力疾走した。

「研く〜〜〜ん♪」
「初めまして!俺の名前は――――うわああああああああああああ!!!!」

 扉の向こう‥‥‥研を押しのけて現れたボサボサは貴沙羅の蹴りを食らって寮の通路(五階)から真っ逆さまに転落した。最初は研に飛び付くつもりだった貴沙羅は、ボサボサが割り込んできた瞬間に空中で体勢を整え、ボサボサを蹴り飛ばしたのである。見惚れる程の体捌きであった。

「どうしたの研君♪こんな所まで」
「いや、まぁ、うん。用があったみたいだけど、もう無いから。大丈夫」

 ポリポリと頬を掻いた研は、とりあえずボサボサのことを忘れて抱きついてくる貴沙羅に対応することにした。
 彼も聖鍵騎士だし、死ぬことはあるまい。

「誰?貴沙羅の友達?」
「‥‥‥‥恋人」

 突然の出来事に硬直していた貴沙羅の友人達は、目を丸くしながらそれだけ言った。
 貴沙羅は“恋人”の辺りで体をくねらせながら、研に甘え続けている。
 下手に言い訳をすることも出来なかった。

「‥‥まぁ、そんなものです。所で、そちらは?」
「あ、友人のAとBです。ちょっと貴沙羅と一緒におにぎりの練習を」
「へぇ、おにぎりですか。美味しそうですね」

 忘れられていたメガネが研の背後から現れる。
 このままでは出番が無くなると判断し、追いかけてきたらしい。
 導天使は研とメガネの顔を交互に見ると、ポンッと手を打ち、二人に提案した。

「そうだ!どうですか二人とも。今日はこの部屋で夕食をとりません?おにぎりでよろしかったら、いっぱいありますから」

 そう‥‥‥‥提案した。










 翌日、研は「おにぎり怖いおにぎり怖い」と呟きながら、一日をベッドの上で過ごしたという‥‥‥