この事件の発端は、一体どれ程まで時を遡るのだろうか?
一月前のスミルナル基地襲撃・捕虜暗殺事件。
二月前の実験素体抹殺事件。
半年前の遺跡発掘・サーヴァント寄生事件。
おおやけに公表されにくい事件ばかりが巻き起こった御陰で後手後手に回ってしまったが、それでも、ようやく解決の兆しが見えてきた。
「ここか‥‥‥」
傭兵が一人、偵察がてらに山頂の木々を飛び回り、前もって渡された資料と地形を見比べる。手渡された資料に載っているのは二つ。戦争後に作られた地図と、戦争前までの地形の地図だ。
戦争によって使われた特殊な兵器や、神魔互いの総力戦によって、この国の一部は地形すら変わっている。
現れた湖。消えた山。
廃墟と化した街の復興に手を取られ、それらの調査はなかなか進んでいない。元々消えたり現れたりしている場所は、人気のない場所がほとんどだ。ならば後回しにされても止む無しとは思うのだが‥‥‥‥
「消えるならともかく、山が現れたりはしないだろ。地下に埋没した‥‥‥いや、大戦時から隠されていた、極秘扱いの隠しテンプルム。まだ機能の生きている生態兵器研究所。なんつー所を見逃してんだか」
傭兵の言葉には呆れが混じっている。
何しろ、戦争後のテンプルムの調査は厳重に行われていたはずである。何しろたった一つでも戦闘の意志を見せているテンプルムがあれば、それは“戦争”を巻き起こせる戦力だ。
故に、テンプルムの処分や拠点としての利用には、中央の管理が徹底されている。
地下に隠されていたとは言え、戦争が終わってからの数年間、まったく気が付くことも出来なかったとは、呆れても仕方ないだろう。
「あれが入り口か‥‥‥‥さ〜て、敵さんが逃げてなければ、大激戦だな。‥‥戦争の再来か。何人生きて帰れるかねぇ」
ぼやきながらも入り口を確認し、後方で連絡を待っている仲間の隊に通信を入れる。
作戦予定時間まで、あと一時間。終了予定は、約五時間後だ。
それまでの地獄を想像し、戦場慣れした傭兵は、一人、溜息と同時に身震いした‥‥‥
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