■Broken fantasy 〜巣窟〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング

 この事件の発端は、一体どれ程まで時を遡るのだろうか?

 一月前のスミルナル基地襲撃・捕虜暗殺事件。
 二月前の実験素体抹殺事件。
 半年前の遺跡発掘・サーヴァント寄生事件。

 おおやけに公表されにくい事件ばかりが巻き起こった御陰で後手後手に回ってしまったが、それでも、ようやく解決の兆しが見えてきた。

「ここか‥‥‥」

 傭兵が一人、偵察がてらに山頂の木々を飛び回り、前もって渡された資料と地形を見比べる。手渡された資料に載っているのは二つ。戦争後に作られた地図と、戦争前までの地形の地図だ。
 戦争によって使われた特殊な兵器や、神魔互いの総力戦によって、この国の一部は地形すら変わっている。
 現れた湖。消えた山。
 廃墟と化した街の復興に手を取られ、それらの調査はなかなか進んでいない。元々消えたり現れたりしている場所は、人気のない場所がほとんどだ。ならば後回しにされても止む無しとは思うのだが‥‥‥‥

「消えるならともかく、山が現れたりはしないだろ。地下に埋没した‥‥‥いや、大戦時から隠されていた、極秘扱いの隠しテンプルム。まだ機能の生きている生態兵器研究所。なんつー所を見逃してんだか」

 傭兵の言葉には呆れが混じっている。
 何しろ、戦争後のテンプルムの調査は厳重に行われていたはずである。何しろたった一つでも戦闘の意志を見せているテンプルムがあれば、それは“戦争”を巻き起こせる戦力だ。
 故に、テンプルムの処分や拠点としての利用には、中央の管理が徹底されている。
 地下に隠されていたとは言え、戦争が終わってからの数年間、まったく気が付くことも出来なかったとは、呆れても仕方ないだろう。

「あれが入り口か‥‥‥‥さ〜て、敵さんが逃げてなければ、大激戦だな。‥‥戦争の再来か。何人生きて帰れるかねぇ」

 ぼやきながらも入り口を確認し、後方で連絡を待っている仲間の隊に通信を入れる。
 作戦予定時間まで、あと一時間。終了予定は、約五時間後だ。
 それまでの地獄を想像し、戦場慣れした傭兵は、一人、溜息と同時に身震いした‥‥‥

シナリオ傾向 戦闘 制圧
参加PC 錦織・長郎
月村・心
Broken fantasy 〜巣窟〜
Broken fantasy 〜巣窟〜


〜地下五階・1238時〜

「ふん。こんな研究レポートが残っていると言うことは、なかなか焦っていたと言うことか」

 錦織 長郎(w3a288)は、手にしていた紙面資料をパラパラと捲って内容を確認すると、背後で家捜ししていた幾行に声をかけた。

「そっちはどうだ? なにか面白い物は見つかったか?」
「ないよ。やっぱり重要そうな物は、もう持ち出しちゃったんじゃないかなぁ」

 幾行は手にしていた本を棚に戻すと、溜息混じりに長郎に視線を向けた。

「下りる度に資料とか探し回ってるけど、どれもこれも手記とか日記とか、そう言うのばかりだね」
「正式な研究レポートはパソコンの中にでも入っているのだろうな。または、もっと地下にまとめて保管してあるのか‥‥‥何にせよ、こんな浅い階層に重要な物は置きはしないだろう」
「なんでさ?」
「どんな人間でも、本当に見られたくない物は見にくい場所にまとめて置きたがるものなんですよ」

 長郎はそう言いながら探索していた部屋から出て、外で待機していた部下に資料を手渡した。

「これを地上に届けてくれ。ついでに、この階層までに発見した物もです」
「はっ!」

 長郎の部下は敬礼し、資料を受け取って階段にまで走っていく。長郎はそれを見届けることもせず、他の部屋の探索を終えた部下達を見回した。

「それにしても、良かったの?」
「なにが?」
「諜報部員のみんなを集めちゃって。傭兵とかじゃないんでしょ?」
「全員場数は踏んでいますよ。そこらの魔皇などとは比べようもない程に。上に話もつけているので、問題はありません」

 長郎と共に調査を続けている部下達は、長郎自身が軍に申告し、集めた魔軍諜報部員達だ。それも長郎と面識のある、腕利きの精鋭部隊である。
 本来彼らの出番は制圧が終わった後なのだが、長郎に集められたことで、こうして大規模な作戦にまで参加してくれている。
 ちなみに、軍が集めていた傭兵や正規兵の主力の半数は地上に待機させている。

「そろそろ外の人たちにも、声をかけた方が良いと思うんだけどなぁ‥‥」
「まだ敵の一人も出てきていない。奴らには、僕たちがもっと深い階層まで行ったときに調査の終わった階を確保して貰えばいいでしょう‥‥?」

 長郎は言い終わろうとするが、集中するように一拍だけ呼吸を止め‥‥

「前言は撤回です。今すぐ、上に連絡をつけてください。すぐに予備戦力に一小隊だけ残し、残りの全てをこちらに回るように」
「? どうしたの、急に」
「どうやら、お客が‥‥‥いえ、住人がいたらしいので」

 「客は自分たちの方だったな」と、長郎は耳を澄まし、遠くからの銃声を聞き取りながら呟いていた。





〜地下五階・1240時〜

 月村 心(w3d123)は、ノルンと数人の部下達を引き連れてテンプルム内を回っていた。
 各室内の探索は長郎の諜報部員達に全て任せ、心はフロア内の探索をしていたのだ。
 ‥‥と言っても心は部下達に指示を出したりはせず、仲間内の連絡はノルンに任せて研究員達が残っていないかをブラブラと見回っていた。

「それにしても、本当に広いな、ここは」

 心は廊下の端から端へと視線を流す。
 この地下テンプルムは、全部で三つのブロックに分かれている。見取り図によれば、地下十五階‥‥ちょうどテンプルムの真ん中から全てのブロックが一つになっている。そこから先は大規模な実験施設やらなにやら、とにかく怪しい施設で締められているのだが、その大規模な実験施設に辿り着くまでの施設でもやたらと広く見える。
 原因は、異様なまでに色の統一された壁だろう。
 敵の侵入に備えているからか、このテンプルムはこまめに道が曲がっていて入り組んでいる。しかも壁は白く、遠目からでは曲がり角が判別出来ない。
 その所為で広く見えるのだ。歩く際には、注意していないと壁に正面から激突しかねない。

「きゃん!」

 ‥‥‥実際、ノルンは既に三回目の激突を果たしている。

「大丈夫か?」
「は、はいぃ。これぐらい大丈夫です」

 曲がり角に差し掛かっているというのに、ノルンは曲がらずに壁に激突していた。
 心は笑いを噛み殺しながら、渡されていた見取り図を確認する。

「遊園地の迷路級に入り組んでるなぁ。面倒だし、エレベーターで最下層まで行けないか?」
「エレベーターは壊されてますよ。それに、上層からのエレベーターだと、行けるのは地下十五階の合流階までですよぉ」
「それでも十分だろ。一階一階探索してたら、丸一日かかりそうだし‥‥」

 言いながら、心はすぐ近くにあったエレベーターの入り口を開いた。地下一階の時点でエレベーターが故障していることは分かっていたのだが、魔皇としての身体能力を使えば、壁に取り付いて階下に降りることも出来るだろう。

「錦織には悪いが、やっぱり敵の一人でもいないと張り合いがない──」

 乗り出して下を見る。
 エレベーターシャフトは大きく、四方に幅四メートルほどの空間があり‥‥‥‥

「‥‥‥」
「‥‥‥」

 心は、壁に張り付いているサーバントと目が合った。
 ‥‥‥‥心はサーバントからは目を離さず、慎重に耳を澄ます。そうすると向かいの壁、上下左右さらに見えないほどに深い場所からも死人達の蠢く音が聞こえてくる。

「っ!」

 考えている時間などない。心はフェニックスブレードで目の合ったまま硬直しているサーバントを斬りつけて叩き落とすと、こちらに向かって飛びかかってきたサーバントをベネリM4の散弾銃で迎撃した。

「心様!?」
「ノルン! 敵はエレベーターシャフトを上ってきているって、他の奴らに伝えろ!」

 心は叫びながら、エレベーターの入り口の扉を閉ざした。だが登ってきているモノ達の力がどれほどの物なのか、入り口はガンガンと凄まじい騒音を発し、次第にヒビが入り始める。

「どんな馬鹿力をしてるんだよ!」

 装備を調え、ノルンも魔獣殻を変形させて武器にする。心は先ほど見たばかりの見取り図を思い出した。

(大型のエレベーターの数は‥‥‥このフロアだけでも三つもあるのか!)

 最悪だ。不用意にエレベーターの扉を開けて気が付いてしまったが、敵が標的にしているのはこの場所だけではない。あと二つ、このフロアには入り口がある!

「くそっ! まさかこのままここにいるわけにもいかねぇよな」

 このままここにいる訳にもいかない。この場で敵全てを迎撃するのは不可能だ。ならば逃げるかどうかして、早めに体勢を立て直した方が‥‥‥

「心様、あれ!?」
「もう来たのか!」

 少し離れた廊下の角から、別のエレベーターを登ってきたであろうサーバント達が姿を現す。それも大勢。十や二十は確実に超えているであろう死人が、狭い廊下を駆け抜けてくる。

「他の奴らは‥‥都合良くはいないか!」

 部下達の統制をノルンに任せていたのがまずかったか、フォロー出来る範囲に仲間はおらず、心はノルンと共に召還した魔皇殻で迎撃を‥‥

ゴッ!

「がはっ!」

 廊下を駆けてくるサーバント達を迎撃していた心は、真横からの衝撃で息を詰まらせた。

(しまった!)

 心の真横‥‥‥エレベーターの入り口を一気に突破したサーバントの腕は、真の体をまるまる包み込み、エレベーターの中に引き込んでいた。

『心様! って、なんか来てるぅ!!』

 暗闇の外からノルンの声が聞こえてくる。だが、心にはその声を上げているノルンの状況を知る術はない。
 ‥‥が

「邪魔‥‥してんじゃねぇ!!」

 心はインフェルノウィングに魔力を全開で送り込むと、そのままの状態で解放した。

『WOOOOOOOOO!!!!!』

 心の視界が晴れ、心を掴んで握り潰そうとしていたサーバント‥‥‥ヒラニヤカシプが吹き飛んでいく。その手は完全に爆散し、掴んでいた手だけでなく肘まで炭となり、周りの壁を黒い鮮血で汚していた。
 だがそんなこと、心にとってはどうでも良いことだ。

「ノルン!」

 集ってくるサーバント達をとことん無視し、心は外にいたノルンの腕を引いていた。駆けてきたサーバント達に押し切られそうになっていたノルンはそれによって何とか心の元へと引き出され‥‥

 ドゴォ!!

「グッ!」
「キャ!」

 凄まじい衝撃が二人を襲った。
 その衝撃そのものは心のみを狙ったものだったのだろうが、直前に心に引き寄せられたノルン諸共、ヒラニヤカシプの片腕は心とノルンの体を叩きつけていた。




〜地下五階・1250時〜

「月村!」

 その光景を、長郎と幾行は見ていた。
 部下を引き連れ、二人の救出に来たのだが一歩だけ遅かった。元々銃声だけを頼りに来ていたのだから、遅れるのは仕方もない。それでも目の前で消えるのは予想外だった。
 長郎はノルンが引っ張り込まれたエレベーターまでは辿り着けないと判断し、背後を走っていた部下達を停止させる。

「‥‥‥全員一斉射撃! 敵を迎撃しながら後退! 後続の主力と合流します!!」
「ちょっ、月村さんとノルンさんは!?」

 幾行が非難の声を上げるが、長郎はその意見をあっさり殺した。

「この状況下で追うのは全滅必至です。ここは、あの二人の生存能力に祈りましょう」

 長郎はそうとだけ言うと、敵を迎撃しながら上階で待機している筈の部下達と連絡を取る。上階にいた者達は驚いたように、慌ててこちらに向かうと言ってきた。
 どうやら、サーバント達はこの階に集中していて上の方には行ってないらしい。
 長郎は知らないことではあったが、心が奇襲を掛けるはずだったサーバント達を見つけたことで、状況は劇的に変わっていた。
 これより上階に行くはずだったサーバント達は引き返し、地下五階に集中している。このサーバント達は統制が取られているのか、それとも前もって行動を指令されていたのか‥‥‥恐らく、“発見されたら最優先”で消去するようにとでも指示されていたのだろう。
 結果として、このフロアは他の部隊が相手にしている何倍ものサーバントで溢れている。これより上階に行くはずだったサーバント達が群がってきているのなら、それこそ十数分と掛からずに長郎のいる今の階はサーバント達の巣窟と化すだろう。
 ならば長郎の判断は正しい。
 正しいが、人としては容認しがたい判断に、幾行ではなく長郎が歯噛みしていた。

「生き残って下さいよ。助けには行けませんが‥‥‥」

 弾幕を潜り抜けてきたサーバントに真テンタクラードリルを叩きつけて抉り斬り、今にも弾幕を抜けようとしているモノの足下をリッピングウィップで掬ってやる。
 だが時間稼ぎにしかならない。否、時間稼ぎになっているとも思えない。目の前から来るサーバント達の波はを弾幕で押し止めようとするが、前面に出ていたサーバント達の死体が盾となり、確実に長郎達に迫ってきている。
 故に長郎達は後退する。追いつかれたら最期だ。あの波に飲まれて生きていられる程、自分は都合良く強くはない。

(せめて他の突入班に応援を呼べれば‥‥‥)

 心の中でだけ淡い希望を抱くが、すぐに不可能だと首を振る。自分のこの場だけでもこの状況だ。他の突入班とて、援護しているような余裕はないだろう。
 心を助けようと言うのなら、手持ちの駒を上手く使わなければ全滅にもなりかねない。

「幾行、地上で待機していた小隊は!?」
「え〜と、地上にいた小隊は現在三階! 他の階で待機していた人達なら、もうこの階に来ているよ!」

 ならば、応援として辿り着くにもそう時間は掛からないだろう。いくら迷路のような構造とはいえ、幾行のナビと銃声をあわせれば余裕で場所を割り出せるはずだ。

(今、僕に打てる手は‥‥)

 被害状況を最小限に、出来れば、心をしっかりと救出出来る方法を考えようと、長郎は次の指示を考えながら迎撃していた‥‥





〜地下十五階エレベーターシャフト・1253時〜

 狭いエレベーターシャフトの中は、地獄を超えようと言う状況になっていた。
 インフェルノウィングによって焼き尽くされて炭となったヒラニヤカシプ。フェザースピアによって串刺しにされた何体ものサーバント。そしてフェニックスブレードで五体をバラバラに解体された大中小のサーバント達の群‥‥‥
 心が叩きつけられ、下に落とされてから三分しか経過していない。
 だと言うのに、既に倒したモノ達の数はいったい何体に及んでいるのか。心とノルンが踏みつけているのは、もはや床ではなく倒したモノ達の死体であり、その量は一階分に達しようとしている。

「っの野郎!」

 数十体目のサーバントを斬り捨てた心は、壁に突き立っていたフェザースピアを抜き取って頭上に投擲する。それはこちらに向かって飛び出してきたヒラニヤカシプ(何体もいるらしい)の頭部を貫いた。

「ノルン避けろ!」
「え、あ、は、はい!?」

 足下から這い出てくるグレイブディッガーに散弾銃を向けていたノルンは、心に言われて顔を上げた。
 ‥‥ヒラニヤカシプに飛行能力はない。ならば、空中で撃退したモノが心達に向かって落ちてくるのは当然だった。

「ふにゃあ!!」

 気の抜ける奇声を上げながらノルンは体をずらし、ヒラニヤカシプに潰されないよう、擦れ違うようにして跳ぶ。それと同様に跳んだ心は、擦れ違い様に再生しようとしているヒラニヤカシプの五体を一瞬で分割し、さらにインフェルノウィングで焼き尽くした。

「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 焼き尽くした死体の上に着地した心の呼吸は乱れている。
 一対一でも手こずる相手を秒殺しているのだ。もちろんそこに手加減などあるはずもない。所持している武器全てを駆使し、持ち得る魔力を酷使する。
 言い換えれば‥‥
 心の戦闘力は、それこそ秒単位で削れていっていた。

「ええい!」

 ノルンは魔獣殻を変形させて、頭上から来る敵を撃ち落とす。

「‥‥‥」

 心は「手を抜くわけにも行かない」と、萎えようとする精神を奮い起こす。手加減などしていたら確実に死んでいたし、それはノルンも同様だ。ノルンにはこの死人達を相手にするほどの戦闘力がないのだから、心が倒れるのはノルンを殺すも同義である。
 そんなこと、とても許容出来ることではない。

「ノルン! それで脱出路を作れ!」
「え!?」
「上を登るのは諦める! ここから出ることを優先だ!」

 叫びながら敵に斬りかかっていく心の状態を察し、ノルンは頷いた。

「じゃあ行きますぅ。でも本当に逃げ場がなくなっちゃいますから、お覚悟を!!」

 ノルンは言い返すと、閉ざされた十四階の入り口に、金剛夜叉のキャノン砲を突き付けた‥‥





To be continued