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もはや思考することも満足に出来なくなったアークエンジェル‥‥マザーは、自らの体内に侵入してきたモノと戦いながら、しかし確実にその体を侵されていた。
既に自らの意思では動かない体。ただの手足だった物は個々が進化し、変異し、原型を留めない程に変わり果てた怪物へと成り下がり、数分前まではテンプルムの下半分を覆い尽くし、今ではたった一人の餌を追い求め、そして自らの生存のためにソレを食らいつくそうとしている。
‥‥だが、マザーにとっては彼女を殺しに現れたソレは、軌跡の類の物だった。
虫に食われ、極度の飢餓に襲われて意識を保つのも限界である。それでも、もう誰も自分を救いには来ないと‥‥このまま低俗なサーバントに食い荒らされて惨めに終わると確信していた彼女にとって、この場に現れた魔皇は、敵でありながらも味方だった。
彼女は、ただ、もう終わりにして欲しかった。
(ァ‥‥‥アアアア‥‥‥‥・)
しかし彼女の体が跳ね上がる。意識は再び襲いかかった魔力枯の渇による飢餓によって吹き飛ばされ、触手の群をのたうち回らせる。
彼女の意思など関係ない。既に意思は肉体から切り離され、別の物として稼働している。
あるのはただ、増幅された飢餓の捕食欲求だけなのだ。
(アア‥‥‥アアアア‥‥‥た、タリナイタリナイタリナイ!!!!)
塗り潰された理性は、本能を持って行動する。
こうして‥‥マザーは、完全な、一介のサーバントへと落ちていった‥‥‥
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