その巨体は、あまりにも異常だった。
先に見たときには、確か全長十五メートルあったかどうかだ。それでもかなりの巨体だったが、精々殲騎と並ぶかどうかというレベルである。神との戦争を戦い抜いた者達から見れば、感心はしても大騒ぎをするほどのことではない。
が、目の前のそれは、そんな魔皇を持ってしても異常という他がなかった。
『GYAAAAAAAAAAAA!!!』
コア・ヴィーグルの行く手を阻んで現れたそれは、体を貫き続ける激痛によってのたうち回っていた。それもそうだろう。体のあちこちでは小さな破裂が絶え間なくそれを瞬時に肉の風船が覆い隠し、体を少しずつ膨らませていく。それによってアークエンジェル・マザーの体は既に倍近い大きさにまで増大し、ここが殲騎の格納庫でなければ顔を覗かせることすら出来なかっただろう。
その巨体はまるで鯨か……いや、巨大な蛸だ。散布されたガスによって全容は把握出来ず、繰り返し反響して響き渡る雄叫びはこちらの体を竦ませ、足下が血の池になっているのを考えると、この場所にのみ地獄が具現化しているような錯覚を覚えさせる。
振り上げられる巨大な触手。
「嘘だろ!」
ヴィーグルに跨った魔皇が叫び、マザーから伸ばされてきた触手を回避する。
厚さ一メートル近い土の壁を破壊したマザーは、破片すら落ちきらないうちに攻撃を仕掛けてきたのだ。叩き付けられればヴィーグルなど粉々に破壊され、当然搭乗していた魔皇も逢魔も即死だろう。
マザーの巨躯から繰り出される一撃は、どんな些細な攻撃でも単純な大きさだけで魔皇の一人や二人を殺してあまりある‥‥!
「ァ‥‥アアアアァ!!」
繰り出される連撃を躱し続ける。一撃、二撃。三、四、五、六、七‥‥‥‥
空間が広いとは言え、魔皇のヴィーグルそうだ能力は見事だった。
縦横無尽に駆けるヴィーグルだが、マザーの触手にも死角はない。どこまででも執拗に追いかけ回してくる攻撃を回避し続けられるのは、神業としか言いようがなかった。
「せめて‥‥あの穴までいければ‥‥」
頭上に開いているネフィリム脱出口にまで達することが出来れば、まだ望みもあるというのに‥‥‥‥
「GyAoooooo!!!!!」
苦しみに悶える悲鳴は咆吼へ。かつては魔力を欲しているが為に振るわれていた触手は、今ではただ破壊するためにのみその手足を振るっている。そんなマザーの体のあちこちでは崩壊が巻き起こり、戦おうと戦うまいと、既に終わりが見えている。
‥‥終局は近い。
魔皇に襲いかかるマザーの触手が、天井から放たれた光弾によって弾かれた‥‥
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