■The eternal dark〜開戦〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング
 この事件の発端は、一体どれ程まで時を遡るのだろうか?

 一月前のスミルナル基地襲撃・捕虜暗殺事件。
 二月前の実験素体抹殺事件。
 半年前の遺跡発掘・サーヴァント寄生事件。

 おおやけに公表されにくい事件ばかりが巻き起こった御陰で後手後手に回ってしまったが、それでも、ようやく解決の兆しが見えてきた。

「‥‥向こうも配置に付いたか。いよいよだな」

 ポツリと、一人の傭兵が呟いた。
 その目は一キロ程離れた場所で突入の合図を待っている部隊が見える。敵陣のテンプルムに攻め込める入り口は三つだけ。たったそれだけの数しかないのだから、既に敵はこちらのことを察しているだろう。
 その証拠に、今まで観測されることの無かった絶対不可侵領域が展開されている。それを展開すれば、どうしても中央軍の目から逃れることが出来ないが為に今まで展開しなかったのだろう。
 それを使っているのならば、既にここは臨戦態勢に入っている。既に中にいた研究者達が逃亡した可能性は高いが、しかしだからといって中に入らないわけにも行かない。

「作戦開始まで後三十分か‥‥やれやれ。まだ戦争をしたがる奴らがいるんだな」

 ぼやきながらも、体から滲み出る殺気は本物だった。
 この数年間の平和がウソのようだ。いや、厳密に言えばどこも平和になどなっていない。何しろこの国でさえ、まだまだ数多くの火種で燻っている。
 ‥‥その中でも一際目立たず、そして大規模に進んできたのが、これから相手をする者達だ。ここに至るまでにどれだけの命を弄んできたのかを思うだけで、殺意が体を這い回ってゾクゾクする。

「これは、お前達が望んだ戦争だぞ」

 吐き捨てるように言い、手にしていた敵の資料を握りつぶす。

 さぁ、相手の望みを叶えよう。
 戦争がしたいのなら相手になる。
 ただし、
 そちら側を、一人たりとも、残すつもりはないんだがな‥‥
シナリオ傾向 戦闘 制圧
参加PC 風祭・烈
黒江・開裡
佐嶋・真樹
The eternal dark〜開戦〜
The eternal dark〜開戦〜

〜地上・1235時〜

 既にこちらの動きは読まれていると踏んでいるからか、夜を待たず、その戦いは始められた。
 突入の合図とともに何人もの兵士達がテンプルムの中へと入っていく。テンプルム内は予想外にも明るく灯っており、視界を遮るような物など何もない。
 警戒しながらテンプルムに入っていく兵士達‥‥その兵士達を眺めながら、黒江 開裡(w3c896)はテンプルムの外で通信機を手にしていた。

「誰もいない?それは本当か?」
『ああ。今は地下三階にいるんだが、ここまではノンストップ。寄生サーバントどころか野良サーバント一匹見つからないぜ』

 開裡は通信機から聞こえてくる風祭 烈(w3c831)の言葉を聞き、舌打ちを漏らした。

(逃げられたか?)

 この研究所の情報を掴むまでに掛かった時間は優に一月、一組織が拠点を引き払うには十分な時間である。
 もしこのまま烈が調査を続行し、最深部まで敵の一人もいなかったら非常に悲しい。しかし予想の範囲内ではあるし、周りの兵達も労せずに報酬を得られて喜びもするだろう。
 ‥‥‥しかし、今まで何度もこの敵と戦ってきた開裡と烈が、そんな楽観をするはずもなかった。

「‥‥‥罠の可能性が高くなったな。わざわざ研究していたサーバント達を綺麗に始末して出て行ってくれているとは思えんし‥‥‥応援をつれて、俺も地下に潜ろう。それまでに五階ぐらいまでは調べておいてくれ」
『了解。ま、この先の予想はできるんだが、急いでくれよ』

 そう言うと、烈からの通信が切れた。開裡はすぐに待機していたクレイメーアを呼び、指示を出す。開裡が地上に身を置いているのは別に保身のためではなく、今までの戦闘経験と実績から、数小隊分の指揮を任されているからである。

「クレイメーア!エメラルダを連れて第四小隊の奴らと合流し、地下三階で一旦待機。地上までの通信電波を中継してくれ。場合によっては負傷者を回すから、そのつもりでな‥‥って、何やってんだ?」
「あ、開裡様。すいません。なんか子供が紛れてまして‥‥‥ねぇ、良い子だから、お家に帰ろ?」
「‥‥‥‥‥‥‥断る」

 クレイメーアに抱きかかえられた佐嶋 真樹(w3l289)は、不機嫌そうにそう答えた。
 その光景を見て、開裡の思考が混乱する。

(‥‥‥‥幼児?)

 しかもゴスロリ。
 これまで数多の変態魔皇達を見てきた開裡だったが、さすがにこんな、ゴスロリ少女が兵士達の中に平然と紛れ込んでいるのには驚いた。手早く手元の資料を荒らして傭兵リストに目を通す。

(佐嶋 真樹・戦闘経験不明? 年齢‥‥‥三歳!?)

 あまりの人選に、この傭兵達を雇っている軍上層部の思考が読めず、クラクラしてくる。
 しかも当然のごとく、彼女は開裡の部下だった。
 開裡はしげしげと真樹を観察し、真樹はクレイメーアに抱えられながらも開裡を観察し帰した。
 互いに観察しだしてから数秒、開裡が口を開く。

「‥‥‥‥来るか?」
「行かせてもらう」
「OK。わかった」
「ちょっ!なぜに!?」

 あっさりと許可を出す開裡に驚愕したクレイメーアは、真樹から手を離して開裡に詰め寄った。だが開裡は、そんなクレイメーアに手を振り、追い払う。

「今はコントをしてる時間はない。悪いが、急いでさっきの指示を実行してくれ。佐嶋はエメラルダとクレイメーアから離れるなよ」

 そう言い、自分はテンプルムに入り込もうとしていた第三小隊に声をかけて混じり、テンプルムの中へと消えていった。
 取り残されたクレイメーアは、自分をジッと、真樹が見つめているのに気が付き───

「呆けているな、命令を実行しろ。第四小隊の奴らと合流し、地下三階で待機だ。通信電波の中継装置も忘れるな」
「子供に命令されてる!?」

 非常識なまでの理不尽さに涙しながら、急いでエメラルダを呼びに行った‥‥




〜地下四階・1245時〜

 開裡との通信を切った烈は、その足で地下四階にまで下りていた。
 ここに来るまでにあった部屋は全てチェックし、人っ子一人いないことを確認している。その為に背後から奇襲を受けることはないのだが、烈は不思議と、時折後ろに振り返り、警戒していた。

(どうも変な感じだ‥‥今までいろんな場所に侵入しているけど、こんな感じは覚えがない)

 まるで体中にスライムでも張り付いているのではないかと思える不快感が付き纏う。後ろから付いてきている部下達も同様なのか、戦闘をせずにここまで来ているというのに、誰一人として警戒を解いていない。
 ‥‥否。警戒を解いたが最後、それが自分たちの最期になるのだと、肌で感じているのだろう。
 それは、烈も例外ではない。

「全員、互いにフォロー出来る間合いを保ったまま、各室内を探索してくれ。単独行動は厳禁」

 部下は頷き、グループに分かれて散っていく。

(開裡はまだか? この感覚‥‥‥絶対に何かがいるぞ)

 烈は部下に背後を任せ、慎重に歩を進める。
 と、その時‥‥

 カン‥‥‥‥カカン

 小さな点滅が起こった。まるで力尽きようとしている蛍光灯のように、一瞬だけ周りの壁からの光が明滅する。

 ‥‥‥ヒュ!

「ヌッ!」

 それを防ぎきったことは、烈にとっても奇跡だと言える。
 一瞬の隙。壁の明滅によって注意が逸れたその間に頭上から降ってきた“何か”を、烈はグレートザンバーで切り払っていた。

「こいつは‥‥‥」

 グレイブディッガー、太古の監獄にいた、事の発端のサーバント!

「ぎゃあああああああああああ!!!」
「な、なんだこいつ!」
「誰か! 誰かこいつを外してくれ!!」

 烈が振り返ると、背後から付いて来ていた部下の数人にグレイブディッガーが取り付いていた。烈同様に難を逃れた仲間達が、急いで取り付いているグレイブディッガーを払う。

「通風口か! 全員階段まで後退!」

 烈が声を上げるが、相手の方が早かった。奇襲によって兵士達がパニックになったのを知っているのか、廊下の先から次々にサーバント‥‥‥‥それも寄生されて強化された奴らばかりが、ゾロゾロと現れる。
 現れたサーバント達は、まるで訓練された猟犬の如く、烈達に向かって突進してきた。

「そう簡単に!」

 烈はショルダーキャノンを召還して数発群に向かって撃ち込むと、弾幕から抜けてきた犬型の頭を蹴り砕き、続いてタックルを仕掛けてきたゴリラ型の首を擦れ違い様に綺麗に切り捨てた。

「弾幕準備!」

 烈が起こした爆発と、続いて叫ぶようにして放たれた命令にようやく部下達は反応した。

(ふぅ、こいつらは割と良いレベルじゃないか)

 烈は向かってきた、やたらと図体のでかいサーバントの頭を切り裂いて絶命させると、その体を全力で蹴り付けた。体重は烈の数倍はあろうサーバントは五メートルほど吹き飛び、それまでにいたサーバント達を巻き添えにして飛んでいく。
 その間に、烈は蹴り付けた勢いに負けないぐらい全力で床を蹴り、仲間の元まで後退する。

「撃てぇっ!」

 烈の号令とともに、盛大な銃撃音が鼓膜を突き抜けていった‥‥‥‥





〜地下二階・1245時〜

 時は同じく、二つ上階にいるクレイメーア達も、同様の現象に襲われていた。
 光を放っていた壁の明滅。グレイブディッガー達の襲来‥‥‥‥そこまでは問題ない。
 だから問題なのはその後、サーバント達の攻撃だった。

「このぉ!」

 クレイメーアは自慢のハンマーを振るい、目前の敵を壁に叩きつける。だがその振り終わった僅かな硬直時間に、後続から助走をつけていた犬型が飛びかかる!

 ドゥン!

「あっ!」
「叫んでいる暇があったら避けるぐらいしろ」

 飛びかかってきた猛犬が四散する。クレイメーアの後ろでサーバントを捌いていた真樹が助けてくれたのだと気が付き、礼を言う。

「礼を言っている余裕があったら、足下のソレを片づけた方が良いと思うぞ?」
「えっ、きょわ〜〜〜!!」

 いつの間にか足下にこっそりと近づいていたグレイブディッガーに気付き、慌てて踏み潰すクレイメーア。その光景を横目に見ながら、真樹は目前に迫った敵にグレートザンバーを叩きつけた。

(それにしても、まさかエレベーターシャフトとは‥‥‥壊されていたから気付かなかったな)

 真樹は舌打ちする。地下三十階まである大規模な施設だ、当然エレベーターの類はいくつも存在する。だが先行していた烈の報告では破壊され、とても使用出来る状態ではなかったのだ。
 だが‥‥‥まさか、そのエレベーターの空洞を“這い上ってくる”とは!

「この数‥‥一回地上に出た方が良いのでは?!」

 真樹のすぐ近くで流水の太刀を振るっていたエメラルダも、珍しく声を上げている。周りの兵士達もすでに何人かが重傷を負い、回復しながらも迎撃していて余裕がないのだろう。

「出来るならそうしたいですけど! どうやって出るんですかぁ!」

 クレイメーアが叫ぶ。その叫びはもっともだ。何しろ‥‥‥真樹、クレイメーア、エメラルダの三人と数人の兵士達は、廊下の前後をサーバント達に挟まれているのだ。
 逃げ場などない。しかし突破するだけの火力もなかった。もとより回復、情報中継のための部隊である。後方支援は出来たとしても、こんな最前線を切り抜けるだけの力はない。
 ついでに言うと、エレベーターの入り口から出てくるサーバント達の数には上限らしい上限が見えない。野外ではあるまいし、千には届かないと思うのだが‥‥‥‥

「行けず退けず‥‥‥‥このままでは餌確定だな」
「怖いことをサラッと言ってるし!」

 真樹の発言に、クレイメーアが律儀に反応する。

「でも‥‥‥‥このままだと、魔力も持ちませんわ。早く何とかしないと‥‥」
「エメラルダ!?」

 エメラルダが膝をつく。その顔はすでに青みが差してきている。敵を迎撃しながらのDFの連続使用が堪えてきているのだろう。戦い慣れているクレイメーアなら集中力と気力で補えるが、回復専門に近いエメラルダでは、この状況下は精神的に追い詰められていくばかりだ。
 どうやってこの状況を打破するか‥‥‥‥
 真樹は冷静に周囲を見渡し、考えていた。

(味方は六人、敵は少なく見積もっても二十強。廊下の幅の御陰で、同時に掛かってこれる数は前後合わせて四体が限度。上階までの階段まではおよそ三十メートル、下りまでは十メートル弱に‥‥エレベーターは?)

 真樹はキョロキョロと周りを見渡す。敵に追い詰められて移動したため、敵が這い上がってきているエレベーターからはだいぶ離れてしまったが‥‥

「‥‥あった」
「なにが!?」
「荷物搬送用の奴だがな」

 真樹がチョイチョイと、少しだけ離れた場所にある壁を指さした。そこには、小さな端末とエレベーターの入り口が見えている。

「どうする? あの場所までなら、突っ切ろうと思えば突っ切れそうだが」

 真樹は「これで敵を吹っ飛ばせるぞ」とばかりにショルダーキャノンを召還し、クレイメーアに訊いてくる。

(何でそんな重大なことを私に訊いてくるんですかぁ!?)

 心の中でだけ叫ぶが、ここでグズグズしていると取り返しの付かないことになりそうだ。地下一階で待機していたグループが階段にまで降りてきてくれていたが、もはや二階のあちこちに這い回っているサーバント達を相手に、この場所まで助けには来られないだろう。

「ああもう! それなら──」

 クレイメーアは、決断を下した‥‥





〜地下三階・1247時〜

 ヒュッザバァッ!
 行く手を阻むサーバントの顔面をロケットガントレットで掴むと、開裡は素早く間合いを詰め、手際よくその頭部をフェザースピアで切り払った。

「第三射、撃て!」

 ドン! ドドン!
 開裡が叫んで身を低くし、後退すると同時にその頭上を何発もの銃弾砲弾が飛んでいく。それらは開裡を追撃しようとしたサーバント達を次々に吹き飛ばし、運良くその弾幕から逃れた小さなサーバント達も、開裡が振るったフェザースピアによって一薙ぎで壁に叩きつけられ、絶命した。
 ‥‥‥だがそれでも止まらない。
 爆炎が晴れもしないうちにサーバントが現れる。前後左右、最悪なことに十字路のど真ん中で襲われた開裡は、それこそ考え得る中で最悪に近い状況下に立たされていた。
 今でこそ強引に敵を押しのけて一本道に入り、四方から二方向へと攻撃される方向を限定していたが、

(予想よりもだいぶ早く敵が来たな‥‥‥)

 開裡の予想では、罠だとしても地下十階ぐらいまでは調べられると思っていた。何しろまだ地下三階、階段を全力で駆け上がればすぐに地上に出られる階数だ。(それもサーバントがいなければ、だが)
 もし開裡がこのサーバント達を使って罠を張るとしたら、もっと容易に逃げられない階まで引っ張るだろう。それをこんなに早く罠を発動させるとしたら‥‥‥

「この先に見られたくないモノがあるのか、それとももっと別の‥‥」
「は?」
「いや、なんでもない。全員上階に一時退避! 応援部隊が来ているはずだ! まずはそっちと合流するぞ!」

 開裡は指示を出しながらも敵を攻撃し続ける。命令を出している開裡は、先行している烈を思い、武器を握る手に力を込めた。
 烈は、現在この敵真っ直中にいる。開裡達がこの有様なら、烈の部隊はそれこそどうなっていることか‥‥

(俺だけでも援護に行けたら良いんだが‥‥)

 この死人相手に戦い慣れていない部下達と一緒だから手こずっているのだ。単独行動が許されるのなら、この場を突破することは、開裡にとっては難しくない。
 ‥‥というより、いい加減こういう状況に慣れてきていたのだ。
 その御陰か、サーバント達の群のさらに向こうに、サーバント達が這い上ってきているエレベーターシャフトの入り口を見つけると、チョイチョイと、背後で奮戦している魔皇の肩を叩いた。

「なぁ。お前、バスターライフル持ってきてるか?」
「え‥‥!?」

 怪訝そうな顔をする部下。狭い廊下、しかも地下。一歩間違えば生き埋めになりかねない状況なのだから、こんな加減の効かない武装など以ての外なのだ‥‥
 が‥‥

 ゴッ!

 そんな常識、戦場では容易に覆るのだった‥‥‥










〜???????〜

(───ん)

 テンプルム中に張り巡らせた触手からの情報が、一部だけ断線する。
 すぐに復元し、その原因となった者を策敵する。

(黒江 開裡、か。やはり招き入れただけのことはあったようだな)

 誰もいない最深部にて、意志を持った“何か”は、ほくそ笑みながら、地上からの来客の様子を見続けていた。
 まるで蟻の巣に入り込んでくる餌を、品定めするかのように‥‥‥‥






To be continued