■The eternal dark〜死界〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング

 ‥‥最深部で息づくソレは、体内に入り込んだ異物を排除し、小さく笑みを浮かべた。
 地上から入り込んできた蟻を、待ちかまえさせていた兵隊蟻で迎え撃った成果は上々だった。僅かに生き残っている者達も地上へと逃げ帰り始め、地下に残った者達も、間もなく蟻たちの餌食となって終わるだろう。
 ‥‥最初はそう思っていたのだ。だが、既にその認識は間違いであると言うことを、既に自身の本能で分かっている。

「さ〜て‥‥お客様が到着しているわけだし、誰から頂こうかね‥‥」

 出来れば、分断した奴らが良い。ならば単独でこちらに向かっている者か。
 まだまだ、この廃棄場には千に届く有象無象が蠢いている。まだどれ程の戦力を敵が残しているのかは分からないが、十分に打って出るだけの力だと言って良いだろう。

「‥‥っ」

 目を閉じて策敵に勤しんでいたソレは、今後の方針を決めると、ゆっくりと右腕を“開いた”‥‥

シナリオ傾向 戦闘 制圧
参加PC 風祭・烈
黒江・開裡
佐嶋・真樹
The eternal dark〜死界〜
The eternal dark〜死界〜


〜地下三階・1300時〜

 絶え間なく廊下を包んでいた騒音は、一瞬だけ、確かに無音となった。

「うおっ!」

 黒江 開裡(w3c896)は、間近で巻き起こった魔力の奔流に身を引きながらも目を薄く開け、現状を正確に把握する。部下に使わせたバスターライフルの魔力は廊下にひしめいていたサーバント達を一掃し、その先にあるエレベーターシャフトを撃ち抜いた。分厚い土の壁に阻まれ、魔力が拡散する。
 バスターライフルから放出されていた魔力が切れると同時に、開裡は部下に怒鳴りながら、エレベーターシャフトまでの道を駆け抜けた。

「お前達は同じ要領で地上にまで戻って、増援を要請して出入り口を確保しろ! その後は本部の指揮下に入れ!」
「た、隊長はどうなされるんです!?」
「あとで回収しに来い!!」

 開裡の後ろで、再びバスターライフルの衝撃が巻き起こる。恐らく他にライフルを装備していた部下が、階段までの道を空けたのだろう。いかにここのサーバント達が強力だと言っても、魔皇殻最高レベル級のエネルギーを真っ向から受けきれるわけもない。
 狭い廊下では逃げ場もなく、サーバントは残骸にすらなれずに灰となって消滅した。

「凄い威力なんだが……」

 最初からこうしておけば良かったとも思えるが、ここは地下要塞である。広範囲を殲滅し、かつ手加減も思うように出来ない魔皇殻など、本来は使用厳禁であろう。
 開裡は天井が崩れないうちにとエレベーターシャフトの中に飛び込み、ちょうど顔を出そうとしていた猿のようなサーバントを切り捨てた。

「おお、ウジャウジャいるな」

 シャフト内を落下していくサーバントを目で追いながら、開裡はフェザースピアをシャフト内の壁に突き立てて取り付き、壁に張り付いている数々のサーバント達と目を合わせる。それぞれがまだバスターライフルの魔力に怯んでいるのか、現れた開裡に対しての反応が僅かに薄い。

(好都合だな)

 好機と見た開裡は、真狼風旋を使って素早く壁を蹴り、シャフトの中を跳び降りた。擦れ違い様にサーバントが我に返り、開裡を追ってくるが、それでは遅い。DFによって加速している開裡の体はあっと言う間にサーバント達を無視して降りていく。

(烈がどの階にいるかが分かれば合流することも出来るんだが……さすがに外からだと分からんな。最後に連絡を受けていた階では、確か一階下の四階だったか……?)

 開裡は襲いかかってきたサーバントを殴りつけ、シャフトの先を睨み付ける。サーバントの数は、下に行くほど多くなっている。元々このシャフトを登って上階に来ていたのだ。まだこれから向かおうとしていたモノ達が、下に行くほどひしめいており、迂闊に踏み込めばどうなるかは明白だった。

「ここらで出た方が……! 吉みたいだな!」

 烈に合流出来るかどうかは運次第だ。
 開裡は即断すると、空中で量産型サクリファイスの頭部を掴んで重りにし、開裡はクルリと体を回転させる。さらに蹴り付けて壁……エレベーターの扉に取り付き、真獣刃斬を叩き込んだ。
 ダァン!
 魔力を走らせる斬撃は、衝撃波を伴って分厚い扉を吹き飛ばした。扉は瞬時に瓦礫と化し、その先にいた数匹のサーバントまでも巻き込み、余波によって切り刻む。
 開裡はすぐにその中に飛び込むと、周囲にいるサーバントの位置を確かめる。
 真横に一、前に二匹。後ろは勘定に入れていないが、開裡が居た上階に比べると十分の一にも達していない。

「はぁ!」

 ならば、この場は一人で事足りる。開裡は真横にいたリアルアンデッドの心臓部にスピアを突き刺し、力任せに背後に向かって振り払った。リアルアンデッドは自重によって吹き飛ばされ、開裡を追ってきたサーバントを数匹道連れにしてシャフトを落下していく。
 開裡はそれを確認することもなく振り払った時の勢いをそのままに一転すると、飛ばされた瓦礫を払い除けながら向かってくる二匹のサーバントに向き直り、ロケットガントレットを撃ちだした。先頭を疾走していたサーバントの目を塞ぎ、叩き付けた衝撃で仰け反らせる。
 すぐ前のサーバントが突然仰け反ってきたため、その後続に付いていたサーバントは見事なまでに激突した。

「じゃあな。精々派手に散ってくれや」

 開裡は勢いよく転倒しているサーバントを跳び箱のようにして飛び越えると、擦れ違い様にスピアで二匹を串刺しにし、エレベーターの入り口に向かって全力で蹴り飛ばした。ヨロヨロと仲良く飛んだ二匹のサーバントに、トドメとばかりにショルダーキャノンを照準する。
 ドッ!
 爆音が響き、二匹のサーバントはちょうど開裡が入ってきた入り口の場所で爆発する。回りのサーバントを巻き込み、天井を崩す爆発の余波で、離れていた開裡までもがバランスを崩した。

「おっ……と!」

 崩れたバランスを、再召還したスピアによって支え、同時に背後に向かって一閃する。開裡が着地した場所のすぐ傍には廊下の分岐路があり、そこからなにモノかが現れる気配がしたのだ。
 ガィン!

「待て待て! よく見ろ開裡!」

 響く金属音と、張り上げられる声。
 反射的に攻撃してしまった開裡が見たのは、スピアをグレートザンバーによって受け止める、風祭 烈(w3c831)の姿だった……




〜地下四階・1310時〜

 壁を背にしていた烈達の部隊は、背にしていた壁から身を離し、ようやくと言った風に身を起こした。

「ようやく、波を乗り切ったか」

 慣れない団体戦で緊張しきった神経を僅かに緩め、消費した魔力の回復に努める。烈の周りで同じように戦い抜いた兵士達も、ひと息つきながら死体から抜け出てくるグレイブディッガー達を処分していた。こいつ等は寄生されたサーバント達と違って大した不死性も持ち合わせていないため、燃やしたりしなくとも、刺すなり撃つなり潰すなりして簡単に処理出来た。
 足の踏み場もない程のサーバントの死体を踏みつけて、部下が一人、やってくる。

「風祭隊長。負傷者ですが、人数が多く、全員の完治までにはまだ時間が掛かります」
「死者は?」
「二名です。グレイブディッガーに体を取られる可能性があるため、規約に則り焼却します。よろしいですか?」
「……ああ」

 烈は自分の足に手をかけてきたグレイブディッガーを踏み潰し、感情を込めずにそう言った。
 今回の作戦は死体にすら寄生するサーバントが相手だ。外に出せる状況下ならいいのだが、そうでない現在、たとえ仲間であったとしてもすぐに処分しなければならない。

「通信機は?」
「交戦時に故障しました。手持ちの小型通信機では、地上まで電波が届きませんので使用出来ません」
「よし。全員の治療が終わり次第、一時地上に戻る。サーバントの死体は、一匹残らずに処分しておいてくれ。俺は見回りをしてくる」

 烈は部下に背を向け、魔皇殻を持ったままで歩き出した。かつての戦争、今までの任務で仲間が死んでいくことは珍しくなかったが、だからと言って慣れるようなものでもない。
 せめて、これ以上の部下が死なないように少しでもサーバントを早く駆逐する……
 今の烈に出来ることは、決して多くはなかった。

(地上に戻って応援を呼び、再突入か……だが他のフロアに行っている部隊もある。そっちにも連絡を入れないと、サーバントが集中的に集まってきついことになりそうだな)

 烈は、本来誰の指示も受け付けない寄生サーバントまでもが統率された動きを見せていることに気付いていた。ずいぶんと簡単な攻撃パターンしか持っていなかったが(精々が攻める・退く程度)、烈達がサーバント達を迎撃出来たのは、ひとえに敵の戦力が分散していたからだ。
 このテンプルムの上層部は三つのフロアに分かれている。その三つ全てに同時に突入を掛けたのだから、単純に計算しても、相手は一つのフロアに全体の三分の一強の戦力しか出せないのだ。
 退くのならば全ての部隊が連繋を取らないと、一つのフロアに敵の戦力が集中し、被害が増えることになりかねない。

(上にもサーバント達が来てるようだしな。手持ちの戦力で突破出来るかどうか……)

 ズズン!
 思考を巡らし、今後の対応を考えていた烈を、猛烈な爆発音が襲いかかった。

「なんだ!?」

 突如として起こった爆発音に、烈はバランスを崩しながらも走り出した。同じように爆発音を聞いて現れるリアルアンデッドを袈裟懸けに切り裂き、白い廊下を疾走する。

(新手のサーバントか? いや、味方だよな)

 少なくとも、烈の知るかぎり寄生されているサーバント達の中には炎を吹いたりするようなモノはいても、爆発を引き起こすような能力を持っているモノはいなかった。ならば、今のはサーバントのものではない。
 断続的に続く爆発音に向かって疾走する烈は油断無く廊下を曲がり、躊躇無く薙ぎ払われる槍の矛先をグレートザンバーで迎え撃った。
 ガィン!
 鳴り響く金属音は、よく響き、重かった。
 フェザースピアの軽そうな姿とは裏腹に、その一撃はグレートザンバーでガードした烈のバランスを崩し、次の一撃でトドメを刺すという所にまで持っていく!

「待て待て! よく見ろ開裡!」
「は?」

 と、声を張り上げた烈に答えたのは、スピアを首元に突き付けている開裡だった。

「烈か! ああ、生きてたんだな」
「生きてたよ! はぁ。折角生き残ったってのに、味方の殺されてたら笑えないだろ!」
「いや、悪い。だけどまぁ、急いでたんだ。許せ」
「急いで……!?」

 それだけで事情を察した烈は、すぐさま開裡が入ってきたであろう廊下の先に顔を向け、瓦礫を押しのけて入り込もうとしてくるサーバントを確認してショルダーキャノンを召還した。

「この先に行けば俺の部隊がいる! 合流して地上に戻ろう!」

 烈がショルダーキャノンを撃ち放ちながら、声を張り上げた。

「だな。ああ、集団でエレベーターシャフトを登るよりかは階段を使った方がいいぞ。バスターライフルでかなり減ってるはずだからな……」
「……大の男が、ずいぶんと弱気なものだな」

 「なに?」と、開裡と烈は、突然背後から掛けられた言葉に振り返った。
 そこにはつい先ほどまでいなかったはずの、幼い少女の姿がある。

「佐嶋? どうやってここまで来たんだ!?」
「ああ、それは──」
「荷物搬送用のエレベーターがあったんです。小さかったですけど、何とか乗れたんですよ」

 真樹の言葉を、真樹を追ってきたらしいクレイメーアが続けた。その後に続いて、エメラルダも姿を現す。三人が現れた方向は烈の後ろ……どうやら、烈が部隊を離れた入れ違いにこの階にまで来たらしい。
クレイメーアは台詞を取られた真樹に睨まれて小さくなりながらも、開裡に駆け寄り、ようやく一息付けたとばかりに寄り添った。

「うう、やっと会えました。通信にも出てくれないし、もう駄目かと……」
「不吉な。そう簡単に殺られるか!」
「良かった。エメラルダも無事だったんだな」
「私の自慢の魔皇様のおかげです。この程度の危機には慣れていますよ」
「……と、他の仲間は?」
「今は烈様の部隊の方々と合流して、階下への突入に備えて治療を受けてます」

 「なに?」と、烈と開裡は再び異口同音に呟いていた。開裡はクレイメーアに視線を送る。するとクレイメーアはブンブンと首を振り、互いの無事を喜び合う四人を呆れた表情で見ている真樹に、掌を向けた。

「えっと、真樹さんが烈さんの部隊の方々に、下へ行く準備をするように、と」
「本気か?」
「当然だろう。なにを言っている」

 静かに答えて来る真樹には、一片の迷いもない。

「既に応援は要請したのだろう? 地上と連絡を取ったが、他のフロアからも応援要請は出ていたそうだ。あと数十分で、ここには大部隊が来る」
「ふむ」
「だが団体でこのテンプルムに入れば、小回りが利かずに混乱し、敵の戦力補充になりかねない。ならばせめて、敵の奇襲を無くしてしまおうと言うことだ」
「……?」
「分からないか? つまり、“これからこのメンバーで、敵の頭を潰しに行く”と言っているのだ。エレベーターシャフトを使って一気に十五階にまで下りれば、敵も戦力を集中せざるを得ないだろう? 何しろボスに敵が迫っているのだからな。その間に上階を制圧して貰う」

 烈とクレイメーアは、真樹の発言にクラクラと頭を揺らせていた。開裡は何か言いたそうにしていたが、自分も部下に「あとで回収しに来い!!」と言ってここまで来たことを思い出し、なにも言わずに頷いた。
 エメラルダが、言葉を失っている烈とクレイメーアに代わって、真樹に静かに話しかける。

「つまり、囮になって敵を引きつけようと言うのですね?」
「その通りだ。風祭の部隊にも指示は出しておいたし、問題はないだろう」
「問題あるだろ!」
「落ち着け烈。冷静に考えろ。まぁ、次から次へと問題ばかり起こって混乱するのは分かるが、ほら、あっち見ろ」

 開裡が烈の前に指を持っていき、ヒョイッとつい先ほどまで注視していた廊下の先を指し示した。

「あ」

 別に忘れていたわけではない。失念していただけだ。
 真樹達があまりにも唐突に現れて意識の外に出してしまったが、サーバント達は開裡と烈の砲撃によって崩された瓦礫の山を掻き分け、ようやく姿を現した所だった。
 今の今まで忘れられた恨みでもあるのか、一体、また一体と姿を現して殺気を滾らせ、咆哮を上げ始める。

「悩んでる暇もなさそうだ。それとも、もう一回部隊と合流して振り出しに戻るか?」
「──ッッ!! ああもう! わかったよ。こうなったらとことんまでやってやる!!」

 烈はヤケ気味のそう叫び、召還していたショルダーキャノンを再び撃つ。それからグレートザンバーを再召還し直すと、揃ったメンバーと共に瓦礫から這い出てきたモノ達を一斉に駆逐する。続いて大型の、ゴリラのようなサーバントを切り崩すと、烈のショルダーキャノンによって吹き飛ばされた瓦礫の中を突っ切り、再びエレベーターシャフトの中へと飛び込んだ。

「一気にボスを叩いて、こんな巣からおさらばすれば良いんだろ!!」

 もはや誰も異論は挟まない。開裡と真樹は元よりそのつもりだったし、クレイメーアも開裡と一緒ならと、開裡が召還したコアヴィーグルに跨ってDFを準備する。エメラルダも烈のヴィーグルに乗り、真樹を最後尾に、壁という壁にサーバントが張り付いているシャフトに突入した……


To be continued