■The eternal dark〜深部〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング

 エレベーターシャフトに群がっていたサーバント達は、その尽くを殲滅されていた。
 通り過ぎていった魔皇達の集団は、まるで嵐のように弾幕を荒れ狂わせ、一切の例外なく近づくモノ、逃げ出すモノを駆逐する。

(本当に‥‥あまり放置も出来ないな)

 快進撃を続ける魔皇達を“監視”しながら、目の主は唸っていた。
 これからネズミ退治に向かわなければならないというのに、そろそろ“お楽しみ”にとっておいたエース集団がと擦れ違おうとしている。あまり奥深くにまで行くようならば、すぐにでも相手をしておいた方が良いのだろうが‥‥‥‥‥‥

「まぁ、良い。最下層に辿り着くまでに始末すれば良いんだからな」

 低く笑いながら、テンプルムの支配者は、静かに階段を上がっていった‥‥‥‥
シナリオ傾向 戦闘 制圧
参加PC 風祭・烈
黒江・開裡
The eternal dark〜深部〜
The eternal dark〜深部〜

〜地下十五階・1320時〜

 ドドドドォン!!
 盛大な爆発音が響き渡り、地上へと続いているエレベーターの扉が吹き飛んだ。盛大に残骸とホコリをまき散らし、ついでに入り口前にいたサーバントの一体を吹き飛ばした。そのサーバントは爆発と同時に飛び出してきたコア・ヴィーグルによってはねとばされ、五体を飛散させる。

「ここは突っ切れ! とりあえず、このまま追っ手を振り切るまで行くぞ!」
「了解!」

 先頭に立って爆走する黒江 開裡(w3c896)の叫びに、後続に続いていた仲間達が呼応する。
その弾幕から逃れたサーバント達も、狭い廊下を通り過ぎていくヴィーグルに弾かれて倒れていった。

(思ったよりもサーバントの数が少ないな。三つのフロアの合流階だし、もっといると思ったんだが)

 開裡は十五階のサーバント達を品定めしながら、階下への階段を目指してヴィーグルを飛ばしていった。開裡のヴィーグルにはクレイメーアも同乗しており、開裡が撃ち漏らしたサーバントを、擦れ違い様に巨大なハンマーで殴打し、吹っ飛ばしていっていた。
 その後続からついて行く風祭 烈(w3c831)も、逢魔のエメラルダを乗せてマルチプルミサイルを放ち続けていた。エメラルダの霧のヴェールで敵の攻撃を躱し易くし、開裡と烈を援護する。
 二つのヴィーグルは廊下のカーブに差し掛かるたびに減速していたが、ヴィーグルの速度に歩行型のサーバント達が追いすがれるわけもなく、一つ、二つの階を降りる時には、既に振り返っても何者の陰も見えていなかった。
 十八階にまで達し、廊下を少しだけ直進してから開裡は合図を送り、ヴィーグルを停止させる。後方を振り返って追っ手の有無を確認し、ヴィーグルから降車した。
 サーバント達を突っ切るためにヴィーグルを使っていたが、少なくとも現在の階では敵の姿は確認出来ない。
 烈はメタルアクセラレーターにこびりついた返り血を拭いながら、開裡に問いかけた。

「ふぅ、ようやく一息付けたな。……どうする? ここからは一々調べていくのか?」
「……そうだな。ここの奴らの作ってるもんには結構驚かされてるし、前もって対策を練れれば越したことはなさそうだな」

 開裡と烈は相談し、一旦二手に分かれるかどうかを話し合い始める。
 その話し合いを聞きながら、クレイメーアはキョロキョロと周りを見回し、エメラルダと顔を見合わせた。

「あの〜……一人、人数足りなくありません?」
「……やっぱり気が付きました?」
「うん」
「十五階までエレベーターシャフトを降りた時までは後ろにいたのですけど……廊下を突破するときに、開裡さんと烈さんの射撃の爆風に巻かれたみたいでして……」
「……はぐれた?」
「はぐれましたわ。たぶん、大丈夫だと思いますけど……」

 エメラルダは頬に汗を感じながら、出来ればそうであって欲しいという希望を述べていた。クレイメーアも冷や汗を流していたのだが、はぐれた魔皇とて素人ではない……筈。そう簡単に倒されることはないだろう。
 二人が無理矢理納得した時、今後の方針を決めた烈と開裡が、二人に向き直った。

「んじゃ、これからは各階、手早く調べていこう。資料だと、ここからは本格的な研究室みたいだからな」

 開裡は、作戦前に配られた資料を仕舞いながらそう言った。地下十五階までにあるのは、小規模な研究室や倉庫、研究員達の居住区である。
 ここからあるのは、本格的なサーバント研究に使われていた場所であった。

「出来れば詳しい情報が欲しい所だが、こういう場合、長居してるとろくな事がないからな。手早く行くぞ」

 開裡の言葉に烈は頷くと、エメラルダを連れて行動を開始する。開裡もクレイメーアと共に駆けだした。

(敵の姿がないと、むしろ危ない気がするんだよな……)

 開裡はどこからか感じる異様な……粘り着くような視線を感じ、背後を繰り返し振り返っていた……




〜地下十八階・1350時〜

「……どうしてこんな事が出来るんだろうな?」
「私にも分かりませんわ。理解したくありませんし」

 奇形化したサーバントが入った水槽を見上げ、烈は目を細め、エメラルダは顔を背けた。
 調査を開始した烈達が入った研究室には、何本もの円形の水槽が立っていた。全てが人間大で、中にはサーバントが入れられている。一匹残らず同じ形をしたモノが存在せず──

「おい……これって魔皇だろ?」
「こっちはグレゴールですよね?」
「ファンタズマも……おいおい。これ、正気か?」

 そこには、烈達と同じ形をした魔皇達が居た。元は敵だった者達も。
 体はまだまだ原形を留めている。体から発せられる魔力も感じることが出来る。しかしその姿は、もはや正視に耐えられるモノではない。本人達の意識も完全に消えており、ただ、実験のためだけに生かされているとしか思えなかった。
 烈達は、このテンプルムに入り込んでから、まともなサーバントには出会ってはいない。どれもこれも寄生され、兵器へと作り替えられた変わり種ばかりだった。それを見続けていた烈もエメラルダも、これ以上の変わり種が出てきた所で、もはや驚くまいと思っていたのだが……

「まったく、サーバント達を弄ってるってだけでも気に入らないのに……味方まで!」
「烈様……」
「エメラルダ。悪いけど、手早く調べてからこいつ等を片付けるぞ」

 歯切れ悪く言いながら、烈は研究室備え付けのパソコンへと向かって歩き、操作を始めた。
 出来ることならば助けたいのだろう。
 だが、それは烈の専門外だ。改造された者達を助けたいのならば、後続の部隊に任せる以外に方法はない。しかし、軍の上層部は、この実験で使われた者達を助けるだろうか? と言う疑問が残る。
 回答は出ている。
否、だ。
 むしろ、軍の上層部は極秘の研究として、このテンプルムの研究を引き継ぎかねない。
 烈は、見つけた研究資料を物理的に消し去る決心を固めていた。

(緊急時における保安措置マニュアル……グレイブディッガーの生態記録……グレイブディッガー対策・AGDGガスの散布について……)

 エメラルダは、机に向かった烈とは違い、壁に並べられている書棚を調べていた。棚には色違いのファイルが乱立しており、研究資料から報告書のコピー、研究員向けの警備マニュアルなどが置いてあった。
 適当なファイルを開き、敵に関しての弱点などが載っていないかどうかを手早く調べる。
 そうして、ほんの数分が経った頃……
 ガシャン!
 二人の死角で、何か、ガラスの割られるような音が鳴り響いた。

「なんだ!?」

 烈はすぐさま振り返り、音の出所へと視線を向けた。魔皇殻を召還し、体は既に臨戦態勢に入っている。
 エメラルダもまた、いつでも走れるように体勢を整え、音の出所へと目を向けて……

「な……!」

 その先にいた、一抱えもありそうな触手が通風口から顔を出しているのを見て戦慄した。

「危ないエメラルダ!」
「えっ?」

 烈の叫びに反応したエメラルダは、思わず烈の方を振り返ってしまった。それと同時に、エメラルダは疾走してきた烈によって押し倒され、二人して床にゴロゴロと転がった。
 ザン!
 エメラルダが何事かと烈に尋ねるより早く、つい数瞬前までエメラルダが立っていた場所を何かが通り過ぎ、書棚を袈裟懸けに両断した。切り裂かれたファイルと棚がバサドサと床に落ち、騒々しい音を立てる。
 ……そんな破片になど興味はないのか、棚を切り裂いたモノ……人間の形をし、体を毒々しく赤と紫で彩色し、両腕を刃へと変えている男が立っていた。

「アレは……?」
「データ上だと、失敗作らしいぞ。あの中から出てきたらしい」

 烈はクイクイと部屋の中に並んでいた水槽を指差し、その背後からゾロゾロと現れたモノ達を見て眉を顰めた。
 つい先程まで……烈達が不快に思っていた原因の実験素体。魔皇、逢魔、グレゴール、ファンタズマ……
 部屋の中に整列していた水槽は、全てが割れていた。中に入ってきていたモノ達は烈を標的と定めているらしく真っ直ぐに烈達だけを見つめ、ゆっくりとした足取りで近付いてくる。
 触手は水槽を壊したことで役目を終えたのか、既に通風口へと姿を消していた。

「しまったな……ここじゃ狭すぎる」

 烈は苦虫を噛み潰したような表情で呟き、出入り口までの距離を測った。
 烈達の居る研究室の広さは、学校の教室二つ分ぐらいの大きさである。並んでいた水槽と卓上のパソコン、書類棚などでかなり狭苦しくなっており、交戦するとしたら、メタルアクセラレーターとマルチプルミサイル、バスターライフル等と言った射撃武器を主武装に持ってきていた烈では不利であった。
 エメラルダも烈の意志を組んだらしく、ジリジリと出入り口までの距離を縮めている。

「エメラルダ。奴らの目を塞ぐから、とにかく走ってくれ」
「烈様も来ますよね?」
「当然だろ。エメラルダこそ、離れないようにな」
「……はい!」

 エメラルダが力強く頷く。烈はその返事に満足したらしく、呻き声を上げて近付いてくるサーバント(もう魔皇達とは見なさないことにした)に向け、即座に召還したマルチプルミサイルを一斉に解き放った。
 狭い部屋に、無数の小型ミサイルが飛び回る。相手との距離が近すぎるために旋回しての軌道修正はほぼ皆無だったが、相手の足を止めるには十分だった。部屋中に散らばって爆発し、水槽に残っていた異臭を放つ液体が熱風によって気化し、薬品やらガラス片が部屋中に撒き散らされる。

「烈様! お早く!」
「おう!」

 烈は、先に出口にまで駆けていたエメラルダの元に走る。途中で最初に襲いかかってきたサーバントを殴りつけ、足を払って転倒させた。
 廊下に飛び出し、他の部屋からゾロゾロと出てくるサーバント達(あの触手が扉を破壊したのだろう)を見据え、舌打ちしながらエメラルダを連れて廊下を駆け出した。

「開裡はどこにいる!?」
「確か、私たちとは反対方向へ調べに行った筈です!」
「合流する! この分だと、向こうもろくな目に遭ってないと思うが!」

 行く手を阻む出来損ない達を殴り、蹴り、ミサイルで吹き飛ばしながら走り続ける。出来ればバスターライフルで一掃したかったが、開裡と合流するまでは、テンプルムの壁を貫通してしまうような攻撃は避けたかった。

(それにしても……よくこれだけの実験が出来たな)

 二人の前に立ちはだかるサーバント達には、一体も同じ容姿をしたモノ達が居なかった。
 サーバントの体を移植されたモノ。機械を埋め込まれているモノ。不死性があるにもかかわらず、腐敗しているモノまで居る。
 能力もバラバラだった。俊敏なモノもいれば夢遊病者のようにフラフラなモノもいる。
力も強かったり弱かったり……上階に居た奴らの相手も大分苦労したが、この出来損ない達の相手はクセが強く、思うように進めなかった。全てが違う能力を持っているため、相手の強さに目測が付けられないのだ。

「烈様、こちらです!」
「開裡、無事でいてくれよ!」

 烈は歪なサーバント達の上を飛び越え、長い廊下を疾駆する。
 その先からは、壮絶な爆発音が響いていた……



〜地下十八階・1400時〜

 烈とエメラルダよりも少し遅くクレイメーアは戦闘を行っていた。
 開裡達二人が入り込んだ部屋には水槽の代わりに無数の檻が並んでいた。檻の中には当然のようにサーバントが入っていたが、通風口から現れた触手によって檻は壊され、自由になったサーバント達は思うがままに開裡達に襲いかかってきている。

「はい、こちらクレイメーアです! 今忙しいんですけど……なんでしょうかぁ!!?」
「クレイメーア! こんな時にまで通信機を取らなくてもいいだろう!」
「でも無視するわけにも……!」

 サーバント達をフェザースピアで払っていた開裡は、戦闘中にもかかわらず通信機に答えているクレイメーアに叫んでいた。クレイメーアは片手に通信機を持ったままで黒き旋風を放ち、拘束した敵を銃で撃ち抜いていた。室内には障害物が多く、巨大なハンマーを振り回せなかったのだ。
 クレイメーアは通信機にしばらく呼びかけていたが、ほんの十秒ほどの応答のあと、通信機を手放して耳を押さえた。

「どうした?!」
「いえ、ノイズが凄くて……通信が切れました」

 クレイメーアは頭を揺らした雑音に眉を顰めながら、サーバントに鳥型魔獣殻をけしかける。

「どうします!? 一回烈様達と合流した方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。まだ調査を始めてもいないのに気に入らないが、こうなったら仕方ない。一度外に出て、烈達と合流。それからもう一度ヴィーグルで階下を目指そう。烈達に通信は?」
「出来ません。今ので通信機が壊れちゃいました」
「……まぁ、とにかく行こう。このテンプルム、足を止めてると全く良いことないからな」

 開裡はサーバント達にショルダーキャノンを放ち、扉までの道を空けた。クレイメーアがその道を駆け、扉を開ける。
開裡は廊下に飛び出しながら凍浸弾を通風口に向けて放ち、今にも顔を出そうとしていた触手を凍結させた。
それを見届け、開裡は苦々しく呟く。
「まだまだ見えない奴らがいるのか……中の奴らが全滅してても、もう同情する気にもなれんな」

開裡はヴィーグルを召還し、背中にクレイメーアが座ると同時にアクセルを踏み込んだ。
 急発進したヴィーグルは追い縋ってきたサーバント達を弾き飛ばした。

「こんな雑魚を相手にしてたら日が暮れる。クレイメーア、烈と合流したら、速攻で次の階へ行くぞ。また振り切ったら、調査を再開し──」

 開裡の言葉が切れる。薄氷のように透明な刃が竜巻のような円を描いて開裡の目の前を通り過ぎる。頭上から無数の瓦礫が落下を始め、開裡のヴィーグルを押し潰してきた。

「なっ!?」

 突然の出来事に驚愕した開裡は、頭上から降ってきた瓦礫を回避するため、ヴィーグルを横倒しにし、床と瓦礫の真下を潜り抜けた。だがヴィーグルは、その直後に刃で切り裂かれて能力を失い、床に激突した。
 二人は放り出され、開裡はクレイメーアを庇いながら床を転がる。

「ぐっ……! 何だ!?」

 瓦礫の山を見上げる。二部屋ほどもある大きな穴の先は二階ほど続いており、その先に、鋭利な刃とかしている触手を腕から生やし、遊ばせている男がいた。

「やはり自分の目で見ていないと誤差が出るな……まぁ、ついでにもう二人の獲物も出てきたことだし、良しとするか」

 その男は、冷笑を浮かべながら、刃と化している右腕を振り上げた。