■The eternal dark〜崩壊〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 メビオス零
オープニング
〜地下十八階・1420時〜

 地下十八階の光景は、あまりにも目を疑いたくなる有様だった。
 出来損ない達の死体で埋め尽くされた廊下は、それらの死体から漏れ出た血液やら何やらで池が作られ、脱出を計ろうとする虫達が徘徊している。
 それは、まさに死体に集る害虫その物だった。グレイブディッガー達は使える体を探し回り、新たな寄生者を拒むように、研究室から出てきたサーバント達の出来損ないは、魔皇達を追いながら虫達をはね除ける。
 ‥‥と、その出来損ない達もまた、流れ弾に当たってはね除けた虫達と同様に吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
 またあるモノは切り刻まれ、訳も分からないままに倒れ伏し、その切り裂いたモノから逃れた魔皇達によって踏みつけられる。
 切る物と魔皇の攻防は一進一退。退きながら戦う魔皇達は、神速の斬撃を最短最速の動きで躱し、撃ち、受けながら確実に退いている。
 それは押されているのか、追いつめられているのか‥‥
 当人達にしか、分からないことであった。
シナリオ傾向 戦闘 脱出
参加PC 風祭・烈
黒江・開裡
The eternal dark〜崩壊〜
The eternal dark〜崩壊〜

〜地下十八階・1415時〜

 崩れた天井の瓦礫は廊下を塞ぎ、塵となった破片が視界を塞ぐ。
 その塵の向こう側で悠然とこちらを見据えているアルゴスの片腕が刃状に変形しているのを見咎めると、次の瞬間にはクレイメーアを突き飛ばし、黒江 開裡(w3c896)は手にしていたフェザースピアで斬撃を僅かに逸らし、半身を断とうとした一撃を回避する。
 斬撃によってフェザースピアは矛先を切り取られていたが、開裡は意に介さずに素早くロケットガントレットを召還すると、装着した腕を躊躇無くアルゴスに向ける。

「なにっ?」

 その淀みのない動作に眉を顰め、アルゴスは声を漏らした。
 開裡とアルゴスは初見である。だと言うのに、奇襲じみた攻撃を受け流し、かつ刃を戻す間もなく既に反撃の体勢に入っている。
 アルゴスは、眼下にいる魔皇が今まで相手にしていた者と異なるタイプであると言うことを悟り、意識を虐殺用から戦闘用に切り替える。それは開裡を強敵と瞬時に認めてしまった、彼が怪物となる前に培った感覚だった……
 しかし、あまりに遅い。
 度重なる連続戦闘でギアが上がりきっていた開裡は、迷うことなくガントレットを射出すると同時に跳躍し、空けられた穴の中に飛び込んでいた。フェザースピアの機動強化能力に真狼風旋の三倍速化を重ね掛けし、穴の縁を蹴り付けて一秒掛けずに肉薄する。
それは、まるで弾丸だった。アルゴスの触手が引き戻されるよりも早く開裡のジャベリン(と言うより棒)は真っ直ぐにアルゴスの喉元を狙い、突き出された。
 ……血飛沫が上がる。

「まさか……たった一撃で……!?」

 ジャベリンの先端を左腕で強引に受け止めたアルゴスは、後少しで貫通するという所まで突き刺さったジャベリンを引き抜くと同時にはね除けた。しかし、開裡はジャベリンがはね除けられそうになった時点で手を放し、素早く十六階に足をかけて回り込むようにアルゴスの左側に回っている。

「お前達が出てきてから、何度も速くて丈夫なのと戦わせられたからな。そんな腕を見せられれば嫌でも手口は分かるさ」

 そう言いながら、開裡は猛烈な右フックをアルゴスの脇腹に叩き込んだ。並のサーバントならば皮どころか肉をも貫く一撃だが、強靱な魔力で体を包んでいるアルゴスの体を貫くには至らない。
 代わりに骨を砕く感触が開裡の拳に伝わった。

「どいつもこいつも、調子に乗るなぁ!」

 アルゴスが吼え、引き戻された右腕の刃が唸りを上げる。左側に回っているとは言え、多少の速度を犠牲にすれば制御も利く。DFで強化されていようと、開裡を仕留めるには十分なはずだった。
 ガッ!
 動き出そうとした右腕が締め付けられ、続いてアルゴスの体が突き飛ばされる。
 何事かと目を剥いたアルゴスは、開裡が真っ先に放ち、しかしようやく到達したガントレットが触手を肩に押しつけるように握りしめているのを直視した。

「言ったろ? 手口なんて分かってるんだよ」

 開裡は、アルゴスがガントレットに気を取られている一瞬のうちにコルトバイパーを引き抜いた。それを躊躇無くアルゴスの両足に向けて引き金を引き、装填されていた対神魔特殊弾全てを叩き込む。

「ァッ!」

44口径の特殊弾を六発も叩き込まれて、人間サイズの生き物が無事でいられるわけもない。アルゴスは両足を砕かれて床に倒れ伏しそうになる。
だが倒れるよりも速く、アルゴスは弾の再装填に取りかかろうとしている開裡に向かって左腕を上げ、そこから……

「てえぇぇぇぇい!!」

 開裡に突き飛ばされてから姿の見えなかったクレイメーアは、十六階にまで飛び上がった勢いをそのまま巨大ハンマーに上乗せした。今までは天井と壁の制約があったためにフルスイングは出来なかったが、アルゴスが空けた穴の空間を利用し、倒れ掛けたアルゴスにトドメの一撃を打ち降ろす!
 ドガガァァ!
 まるで砲弾でも撃ち込んだかのような打撃音が響き、穴の縁にいたアルゴスは自らが空けた穴の中に叩き落とされた末に、崩れた瓦礫の中へと消えていった。
 ……動く気配は、ない。
 しかし、開裡はアルゴスが瓦礫に突っ込んだことで再び舞い上がった塵埃を鬱陶しく感じながらもショルダーキャノンを召還し、照準を眼下の瓦礫に合わせる。砲撃に合わせてDFも放ってやろうと手にも魔力を集中させ、真旋風弾を解放する。
 ───着弾の瞬間、鼓膜を揺るがす、凄まじい爆発音が響き渡った。
 キャノンの魔力砲弾は瓦礫の山をたった一発で爆散させ、真旋風弾でその周辺を切り刻み、爆発の衝撃で吹き飛んだ瓦礫と肉片を一掃する。

「よ、容赦ないですね……」
「前に、肉片から再生したサーバントがいただろう? あれから学んだ教訓。こういうボスキャラは、徹底的に消しておかないとな」

 開裡は次弾が装填されると砲撃を再開し、言葉通りに徹底的な攻撃を開始する。
 情けも容赦も慈悲の一片もない。クレイメーアでさえ「うわぁ〜……」などと呟きながら爆発の中心を眺め、冷や汗を流していた。



 ……そんな一方的な攻撃がどれだけ続いただろうか。
 肩を僅かに上下させながら、開裡はようやく砲撃を止めて呼吸を整え、クレイメーアを伴って階下へと降りていった。
 度重なる砲撃によって、狙われていた周辺は盛大に薙ぎ払われ、元々狙っていたはずの十八階の床は、見事なまでの大穴を空けて二十階まで見えている。
 開裡はその二十階にまで降りてから頭上を見上げ、ポリポリと頬を掻く。
 キャノンの爆発と塵埃で対象が見えにくかったのだが、それでも少々やりすぎだ。これでは、相手の死体を確認することも出来そうにない。
 立ちこめている埃を払いながら、開裡は背後で訝しむような表情をしているクレイメーアに振り返った。

「どうした?」
「えっと……なんだか、変な感覚が……気のせいだと思うんですけど」
「気のせいじゃない。もう少しで死ぬ所だったぞ」

 背後から掛けられる声に、二人の体は硬直した。心臓が跳ね上がり、続いて開裡の全身に針で刺されたような激痛が走り回る。
 開裡は引き抜かれていく無数の刃の感触を体内に感じながら、倒れ込みそうになる体を踏み止ませた。

「っ!」
「開裡様!?」
「大丈夫だ! それより──」

 開裡は背後から襲いかかってきた針のように細い触手を睨み付け、その先……二人から十メートルほど離れた場所で笑みを浮かべているアルゴスを視認した。

「そんな……」
「おかしいことじゃないだろ? お前達が思い出させてくれたんじゃないか。魔皇としての戦い方ってのを、な」

 言いながら、アルゴスは自分の周囲に散っていた埃を一瞥してから笑みを浮かべた。開裡はその視線を追って埃を観察し……

「そうか……そう言うこと……か」

 埃に混じり、微かに漂う白い霧。
 テンプルムの壁や床自体が真白く、かつ度重なる戦闘で埃が濃霧となって舞い上がり、そして開裡とクレイメーアの注意が周囲よりもアルゴスに向きすぎていたことが、この不意打ちと治癒を可能とした。
 “真幻魔影”
 恐らく、開裡がアルゴスの両足を撃ち抜いた直後……クレイメーアの渾身の一撃が炸裂する一瞬前……
 そのコンマ数秒の間のうちに展開した霧が、二人を見事に欺いたのだ。

「お前が俺にではなく、自分の周りに注意を向けていれば気付いたかも知れないがな……気付かぬ御陰で、俺の傷もしっかりと癒えてくれたよ」

 アルゴスはそう言いながら、まだ血に塗れている両足を指し示した。開裡の銃によって撃ち抜かれ、原形を留めないまでに破壊された両足は現在でも血管のような物があちこちに露出しているが、それも瞬く間に皮に覆われていく。
 ……真幻魔影の持続時間は、優に十二分もある。
 傷が完全に再生するには、十分な時間だった。

「……クレイメーア。少し離れてろ」
「開裡様……」

 アルゴスも、埃でこちらが視認出来なかったのだろう。手足は動く。心臓や急所も深刻なダメージは負っていない。

「お互い、仕留め損なったのは痛かったな」
「こっちは見逃しただけだ。そっちこそ、幻影に攻撃する様を見学させて貰ったが、対して面白くもなかったぞ?」
「まぁ、自分が死ぬ様を見せられたんだから当然だろうな」

 開裡とアルゴスの殺気が周囲を包む。二人の体には魔力が迸り、いつでもDFを展開出来るように、着々と準備が整っていった──




〜地下十八階・1450時〜

「これはまた……派手にやってるみたいだな」

 風祭 烈(w3c831)はコア・ヴィーグルを停止させ、床に空けられた大穴を覗き込む。穴は地下二十階にまで達しており、その廊下も、それまでの廊下も大小様々な瓦礫が散乱していて、まるで廃ビルのような有様だ。
 この場に来るまで散々サーバント達の相手をしていて遅れてしまったが、その間に何が起こっていたのか……烈は最悪の状況になっていないことを祈り、天井を仰いだ。

「エメラルダ。上と下、どっちに二人は行ったと思う?」
「下ですわ。爆発音が聞こえますから」

 セイレーンであるエメラルダの聴覚が、階下から響いてくる戦闘音を聞きつける。
 烈はすぐさま穴の中にヴィーグルを突っ込ませ、二十階にまで滑り込んだ。二十階の廊下はあちこちが凍り付き、爆発で抉られ、切り裂かれ、裸足で歩けば足の裏を大怪我しそうな有様だ。
十分ほど疾空し、廊下の惨状から戦闘の激しさを悟った烈は、背後のエメラルダに声を掛けた。

「エメラルダ、開裡達の居場所はどこら辺だ!?」
「このまま、たぶん、次の角を右に……止まって下さい!」

 エメラルダが叫びを上げる。烈は反射的に急ブレーキを掛け、それでも足りないとアクセラレイトドリルを床に突き刺し、強引にヴィーグルを停止させた。
 ──瞬間、曲がろうとしていた角から強烈な閃光が襲いかかってきた。

「うおっ!?」

 烈は声を上げてその閃光を見送り、続いて響いてきた爆発音に体を震わせた。
 その破壊力、そして爆発力……量るまでもない。数々の戦場で嫌という程聞かされてきた、真撃破弾のDF!

「開裡はあのDFを使えるような魔皇殻を持ってきていない……なら」

 放ったのは、また別の魔皇だ。

「エメラルダ」
「援護します。それと、これを」

 烈がヴィーグルから降りると、エメラルダは霧のヴェールを発動させ、烈の体を包み込ませた。それから蟹型魔獣殻を盾に変えて烈の傍により、いつでもDFを発動させられるようにと魔力を臨戦態勢に引き上げる。

「じゃ、俺が先行する。流れ弾にだけは気を付けてな!」

 烈が角から飛び出し、廊下の中心を疾走した。エメラルダもすぐに後に続くが、メタルアクセラレーターを装備して全力疾走している烈に追いつけるわけもなく、あっさりと置いて怒れていく。……流れ弾に気を付けろと言うのは、烈を狙って放たれた弾丸に当たらないようにと言う意味だった。

(あれは……!?)

 烈は廊下を一直線に疾走しながら、廊下の先にいる三人の人影に目を向けた。
 こちらに背中を向けているのが開裡、その先の十字路に、右腕を奇形に変異させているアルゴス、そしてアルゴスの向こう側に陣取って魔獣殻の剣を構えているクレイメーアが見えた。
 烈の姿をいち早く視認したアルゴスが声を上げる。

「新手か!?」

 アルゴスの反応は素早かった。
 手にしていたライフル(恐らく魔皇殻だろう)を烈に向け、乱射してきた。

「こんなものに!」

 烈は疾走を止めることもなくそれを躱し切った。相手の手元を見ていれば事足りる。むしろ、間に挟まれた開裡の方が驚愕していた。突然現れた烈と、それを迎撃するアルゴスに挟まれたのだ。驚くのも当然だろう。

「れ、烈!?」
「開裡、合わせろ!」

 烈はアルゴスの初撃の掃射を躱し切ると、走りながらヴィーグルを再召還し、乗りもせずに発進させて最大速度でアルゴスに突っ込ませた。
その時点で狙いを察してくれたのか、開裡もアルゴスにまで全速力で走り出した。アルゴスもヴィーグルが召還された時点で狙いを看破したようだったが、狙われている張本人では都合が違う。
アルゴスは真っ正面からのヴィーグルの突進を躱し、左側に飛び込んできた烈のドリルをライフルで受け止めた。ライフルは切断されて四散する。

「いきなり出てきて、派手なことを!」
「なにを! 開裡達がいなければ、バスターライフルで廊下ごと撃ってた所だ! それよりマシだろう!!」

 ドリルを防がれた烈が声を上げ、片手でバスターライフルを召還する。そうしている間に間合いを詰めてきた開裡が、烈とは逆の右側に現れる。開裡はスライディング気味にアルゴスの両足を払い、そして反転、体を回転させながら正拳突きをアルゴスに打ち込んだ。

「ぬぐっ!」

 正拳突きによって弾かれるアルゴス。その体は十字路の一つに弾き飛ばされ、ワンバウンドしてから体勢を立て直す。
 そして……

「貰った!」
「なっ!?」

 烈の召還したバスターライフルが、逃げ場のない廊下を薙ぎ払った。
 ……眩い閃光。純粋な破壊のエネルギーの奔流が廊下を埋め尽くし、壁と床を削りながら、その廊下にいる者を吹き飛ばす。アルゴスには躱しようもなかった。極太のエネルギーはアルゴスを吹き飛ばし、焼き払いながら壁を壊し、ついには一つの室内に叩き込んだ。
 烈はその様子を遠目に確認し、開裡に一瞥を向けた。

「すまん。来るのが遅れた……んだが、アレは何だ?」
「何も知らずに攻撃したのか……まぁ、俺も人のことは言えないんだが」

 開裡はそこで言葉を切り、眉を顰めて吹き飛ばされたアルゴスへと目を向けた。
 室内に入り込んだアルゴス自身は確認出来ない。
 しかし、その室内から漏れ出てくる緑色のガスが、開裡の足を止めていた。

「お二人とも、大丈夫ですか?」
「ああ。こっちはな。……エメラルダ、悪いけど、クレイメーアを回収してきてくれないか? あっちで倒れてるから」

 烈は、元居た廊下のずっと先……ヴィーグルが飛んでいった先を指さした。
 本来アルゴスに激突するはずだったヴィーグルに吹っ飛ばされたクレイメーアは、何故か廊下に倒れていて起きあがる気配がない。それは躱し損ねた自分の不甲斐なさというか、無理矢理ボケキャラを押しつけられたような悲哀さを帯びていた。

「さて、こうして合流出来たことだし……アイツにトドメを刺しに行くか? まだ生きてるだろ」
「まぁな。そうは思うが……」

 開裡は、アルゴスが吹き飛ばされていった先を見据えていた。烈もそれに倣い……自然、そこから漏れてくる異質な空気に、一歩だけ後退する。
 室内は崩壊し、ボロボロだ。何かのガスでも漏れているのか、緑色のガスが室内から漏れだし、だんだん廊下にも広がってきている。
 ……そのガスの向こう側で……

「■■■■■■■■■■■■!!!」

 獣へと立ち戻った咆哮が、どこまでも響き渡った……