■BRIGHTNESS.【神輝装置停止】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 UNKNOWN
オープニング
こんな時期ですが、緊急にお呼びしてしまい申し訳有りません、魔皇様。サーチャーのシグルーンです。

24日未明、クリスマスに沸く都市部からでも視認可能な光が旧ISCA管理区から発生、旧管理区に満たされたそれはSFによる光と確認され、即急に調査部隊が派遣されました。
しかし、殲騎と2機のゼカリアで構成された小隊は管理区内で何者かの迎撃を受け、全滅。
辛うじて隊員が持ち帰ったデータによって、内部の状態が確認されました。
外壁に阻まれた内部は異常な濃度のSFに満たされており、人体への影響は確認されていないものの、DF、特に魔皇殻は大きな影響を受けるらしいことが判明しています。
この神輝装置ですが、どうやらISCA解体時に回収されたはずのSFの増幅装置を応用した物らしく、これが新規に作られた物か既存品の改造かは分かりませんが、何がしかの技術提供があったものと見られます。
発光領域に魔皇殻を使用した場合の資料は別途添付しますが、中でもDFのエネルギーを射出するタイプは減衰が激しく、バスターライフルも殆ど役に立たなかったとの事です。

調査隊の損傷具合から見て、おそらく内部に潜んでいる機体はゼカリアです。実弾によって減衰を抑え、この発光領域の影響で弾丸付与のSFが活性し、攻撃力が軒並み上昇しています。
敵機体数不明、それどころか、この発光現象を起こしている神輝装置の所在も不明であり、作戦の立案も困難です。
この現象が故意に起こされた物なのか、あるいは事故に便乗した何者かがそこに居たのか。
とにかく、何時旧管理区からこのSFが漏れ出すか分かりません。早急に装置を停止してください。
シナリオ傾向 殲騎戦 【DF・魔皇殻制限】
参加PC 風見・真也
月島・日和
真田・浩之
ミティ・グリン
桜庭・勇奈
シャルト・バルディウス
BRIGHTNESS.【神輝装置停止】
───黒

「……“こくしんまる”……?」
「あぁ」
富士駐屯地。
禁衛機師団キャンプ。
異動に伴う移動か、移動に伴う異動かは分からないが、機師団の施設は殆どが引き払われ、青森へと移動していた。
曰く、軍の中でも試験機・研究機を遊ばせておく余裕が無くなったらしい。それが方便でも、実際に運び出された殆どの機体は何処かに新造部品を組み込んだ、不安定な物だった。
それでも最後の一機にまで眼を通そうと、鬼瓦は居残っていた。
オルタ・ブラックの換装は完全ではなかった。元より電子戦や眼としての働きを優先されていたのはホワイトの方であり、完璧に特性を見間違えている。
「ブラックはIもOも出荷してない筈だけど……如何かなぁ」
「……まぁ、調査しておいてくれ」
予定時間と目的地までの距離を考えると、そう長い時間話している訳にもいかなかった。
シャルトは必要な書類を記入し、機体を借り受けていく。
最後にブラックを送り出してから、機師団のキャンプはすぐに空になった。
固定フレームも撤去され、機体が帰る場所も無くなっていた。




───現世利益

無理な改造を施されたオルタ・ブラックが、月島騎の影に収まるようにして外壁を下っていく。
元々歪である機体は、背に負った機械的な電子部品に彩られ、歪さを増していた。
「旧ISCA管理区か…動乱にあまり関与しなかったし、報告書しか読んでないからよく分かんないが…所謂、何とかの夢の跡って奴か。…尤も、読んだ限り夢は夢でも悪夢の類いみたいだが」
充満するSF光によって見通しが悪く、ゼカリアのセンサーであってもSF、赤外線、熱量関連は軒並み動作が遅いか、誤作動を起こしている。
頼りになるのは音響と光学、通信探知程度だった。背の高い建造物もある事から、細かい位置の割り出しが難しい。
「やれやれ、こちら側に有利な材料が見当たらんな」
「魔に属する物は不利を背負う宿命なんですかね」
風見の呟きがシャルトの耳に痛い。
漂うSF光は一種の霧のような、粒子的な働きを持っているか、持たされているようだった。
降下騎体は4騎。
「……特に問題は無い、みたいだね」
雨の様子でも探るように掌を上に向けるミティ騎。
殲騎の装甲表面からは、SF光に反応したように陽炎が立ち昇っている。
「発電施設は地下の中央部…」
「無理矢理潜り込む?」
「いえ……変電所を狙いましょう。発電施設より復旧は早いかもしれませんが」
先に関連施設の所在を確認していた月島が前に立ち、小隊を牽引していく。
遠方で警報音が響いた。他のメンバーが発見されたのか、車両に火の入る音が連続してセンサーにかかる。
「見つかった?真田の方か?」
「分かりませんが…展開が始まる前に、急ぎましょう」
妨害電波か、古くなった都市機能の余波か、徐々に通信も安定しなくなってきている。
滑るようにして障害物を影に歩くミティ騎が、背の高動体を発見して身を屈めた。一般配備されている無加工のゼカリアが、機銃を抱えて立っている。
歩哨に立っているのか、それでも立っているだけのゼカリア。
やや仲間とは離れた位置になる。確認できたのは1機だけ。
「……やり過ごす事は可能ですが…手を出しますか?」
「今週のビックリドッキリアタック、トリニティースパーク!」
「………」
低い姿勢のままゼカリアの目の前に転がり出るミティ騎。
ゼカリアは突然現れた殲騎に銃身の長い機銃の先を定めようとするが、懐に入り込んだ騎体に照準が合わない。機体の脇を抜けるようにして、ミティ騎が敵の後ろに滑り込む。
真雷獣のタテガミ、真衝雷符、真デアボリングコレダーの一斉放電。直接通電する攻撃がほぼ減衰されずに届き、エネルギーチューブが弾け跳んだ。
「ミティさん、下がって!」
コアヴィーグルでの偵察から合流し、殲騎を召喚した桜庭が割り込み、ミティ騎を対機ミサイルの進路上から突き飛ばす。
「コイツ等、ゼカリアだけじゃない!」
「対殲騎砲とでも言いましょうか……どうやら歩兵単位で火力を持たせているようです」
獣の鎧を付与し終えたハリエットが、今度は野生の咆哮で眼下の敵を牽制する。
接近していた装甲車が急停車し、その肩に筒のような物を担いだ銃座の兵士が蹲った。
「…仲間との距離が離れています…ミティ、此処は先に進むべきかと」
「分かった。……借りようと思ったけど指が合わないか」
ゼカリアの銃を拾い上げようとしてみるが、仕様が違うのか上手く持てない。
使えない物は物陰に放り込んで、仲間に合流する2騎。風見、月島、シャルトの騎体はまだ交戦していなかったが、大きく広がる公園の手前で進退窮まっていた。
都市全体の面積に比べて、明らかに周辺の敵密度は増えていっている。
敵の警戒が早かったのもあるが、耐久性の低いシャルト機を抱えての潜入が移動を鈍らせていた。
「……仕方ありませんね」
変電所だけでなく、発電施設への道も公園を突っ切った方が早い。
見通しは悪いが被弾率の高い道になる。月島は悠宇に能力の使用を任せ、騎体を走らせる。風見騎がその後に続いた。
一瞬の空白を置いて、大量の銃弾が真ガーディエルジャケット、真プロテクトコートを削っていく。
真狼風旋で瞬間的に弾雨から身を外した風見騎が、単銃身機関砲を担いだゼカリアを蹴撃する。無理な挙動にも関わらず、シャドウセンは間髪置かずに重力の檻を放って一時的に敵の抵抗を押さえた。
2重3重に敵機は奥行きを持って構え、一転攻勢に移った殲騎を数で押そうと只管にトリガーを引いてくる。防御力を高めて何とか接近戦に持ち込む2騎だが、劣勢に変わりは無い。魔皇殻の装甲は破け、装甲に罅は入り、弾丸に抜かれた穴が幾つも掘られる。
一機一両を的確に潰して行く風見騎も、その数に重ねて銃痕が足されていく。
そうして月島と風見が押し分けた道を、シャルト、ミティ、桜庭が突き通って行く。
誘導しきれなかった弾丸を幾らか機体に受けながらも、何とか公園を抜け、変電所のある区画に辿り着いた。
電源施設はまだ稼動しているらしく、変電所のシステムも稼動している。上手く暴発させれば電源施設にも損傷を与えられるかもしれない。
(……何処だ、何処を狙う)
オルタ・ブラックには特別な演算機能も無く、誰かがこういった建造物に関して詳しい訳でもない。
(……一般家庭に送る電力でないとすれば……一番稼動負荷の高い機器)
最も大型で、稼動熱量を発生させている最奥の機器。
シャルトが指摘したそれをミティが真魔力弾で打ち抜いた。内部から融解するようなスパーク音が一瞬だけ響いて消える。
「……変わらない、か?」
「外れ……って訳でも無さそうだよ。見て」
今まで光の向こうだった公園の戦況が、薄ぼんやりとだが目視できるようになった。
完全に消えてはいないが、光量は下がっている。眼に痛かった明るさが抑えられていた。
しかし、眼に見えて状況は悪い。
「持たない、か……っ?」
弾丸を受けすぎた風見騎が、疲弊したように膝を突く。
同じように弾雨に晒されていた月島騎も、敵機を押さえ切れず建造物に身を隠していた。
月島の疲弊は心身ともに高く積み上がっていた。問題はゼカリアの数ではなく、無謀にも対殲騎ロケットを抱えて戦いを挑んでくる歩兵だった。
真リッピングウィップも、真・水炎も、歩兵ほど小さい物を殺さずに倒すようには出来ていない。振り下ろせば手応えも無く終る。
ハガイやエステルのような歩兵装備も持たず、装甲と言えるような外套も無く、眼を剥いて殲騎に群がる人間。
迷いを圧し硬めたままの戦いは動きも鈍らせていた。
「拠点攻めっていう戦力でもないか……マイ、行くよ!」
「…毎週毎週、敵は変わるのに私は付き合わされ続けているというのが凄く納得いかないのですけど」
行動不能に陥った風見騎を庇うように降り立ったミティ騎が、マイの能力で持ち運んでいた分厚い鉄板を打ち立てる。
一時的な障壁に隠れて風見騎を背負い上げると、ミティは真魔力弾をばら撒きながら囲みの中を突破していく。
桜庭騎、シャルト機は月島の撤退を援護していた。月島騎には、オルタ・ブラックのSF付活掌によってある程度の回復を施す。
「…ッ!」
SF発動が隙になった。
オルタ・ブラックの剥き身の右腕が対殲騎ロケットの直撃を受け、脚咬みごと地面に転がる。倒れ伏したゼカリアの影に潜んでいた兵士の砲撃だった。
「…往生際が悪い」
左手に取った小型のブレードで、歩兵を払う。
火線から逃れるようにシャルト、桜庭、月島は騎体をビル街に潜め、身を隠した。
敵戦力は大きく削られていたが、味方はより傷ついていた。風見に至っては殲騎が限界を超え、既に殲騎を送還している。
「……ほぼ全周囲に回られてるな。ミティ達が囲いの外に出た以外は………最悪の状況だ」
被弾によって再度性能の劣化したセンサーでも、取り零しのしようがなかった。
「どうする?これ以上は進めそうにない」
「…退路もありませんしね。……悠宇、無線が」
何処からの回線か、相互連絡用に持っていた無線に音が入る。
『此方シグルーンです。皆様、大丈…ですか?!』
「シグルーン?一体…」
『状況は聞…ました、真…さんの回収した資料……て、ミチザネ特務軍が動くと…』
強いノイズが走り、一瞬シグルーンの声が聞き取り辛くなる。
『これ以…、皆さんを……しておくわけにはいきません、撤退…ください』
「…待った、それは誰の判断だ?」
じっと何かを考えていたシャルトが割り込む。
シグルーンの返答は遅く、矢張りじっと何か考えている息がした。
『……独断です。が、現状では仕方ないと判断しました』
「しかし……」
『では、これから別の仕事がありますので』
打ち切り気味に無線が閉じ、再度静かな中に足音が響き渡る。
とにかく、奥へ進むのも、逃げに回るにも囲いを脱しなければならない。
敵は様子を見ているのか、一定の距離を保ったままでいる。
最も大きな火力はゼカリアのロングライフル程度。しかし、この市街地で歩兵が抱え走り回っている対殲騎ロケットも十分な脅威にある。
SF光は薄まり、魔皇殻の減衰もやや軽微になった。オルタ・ブラックの背負ったセンサー類は未だに正確さを取り戻していないが。
「……これ以上は、無理、のようですね」
外壁まではそれなりの距離がある。
光点として現れた敵の数は未だ二桁に渡り、その幾らかはゼカリア以外の改造車両のようだったが、何処を突破するにも手に余った。
まだ重大な損傷は無い桜庭騎を前に置き、装甲に幾らも亀裂の走る月島騎と右腕を失ったシャルト機が後に続く。
ビルを飛び越えて現れた騎体に、眼に見えて兵士達の隊列が乱れた。指揮系が止まっているのか、攻めにも守りにも入らない攻撃が下される。
ミサイルの発射管を備えた装甲車を真テラーウイングの突風で薙ぎ、バラ撒かれる大小の銃弾を浴びながらゼカリアを殴り倒す。
ハリエットの水晶の召喚によって召び出された黒水晶が伸び、一時的に攻撃を相殺した。
「今だ!!」
大通りだが、ゼカリアのような巨体が通れる横道の無い一本道。
外部搬送用に大型車両が通るための道を、2騎が全力で走る。
カッターシールドの鋸刃でゼカリアの胸から上を切り落とした桜庭騎が、殿を務める。真テラーウイングを広げ、盾を構え、被弾面積を拡げて傘になりながらその場を守る。
機銃の雨が翼を破り、歩兵の構えるロケットは厚い外殻を抉り、ゼカリアの180mm砲弾が殲騎の膝を穿ち、騎体が膝を屈した。
全てを受けきる事が出来ない。幾らかのミサイルが拡げた手の間を抜け、後方で着弾する。
「くっ!!……機体が重い」
背負った電子機器にミサイルを受けたオルタ・ブラックが転倒し、矮躯を軋ませる。
最早重りでしかない背部ユニットを強制的に切り離そうとするが、着弾によって本体にもダメージが走ったらしく、既に機体のコントロールは主要操作系以外の殆どが失われていた。何とか立ち上がり、外を目指す。
「……ッ、…ぅッ!」
衝撃に揺すられながら騎体を制御する桜庭。
内殻にまで至った破片を受け負傷しながらも、後方を走る2騎の無事を確認するまでは、退けなかった。
しかし、もう保たない。
横を通り抜けようとしたゼカリアに、カッターシールドの鋸刃が食い込んで、止まる。
真テラーウイングも羽撃たきを失い、銃弾で砕け散った。
努めは果たされた。
主が意識を失う前に野生の目覚めで主を鼠に変えたハリエットが、自らも獣化し彼を咥えて殲騎を送還する。
弾丸やロケット砲で捲れたコンクリートの影を縫って、その姿を消して行った。
外壁を昇り、漸く光の中を抜けた2騎が落下して行く。
既に限界を迎えていた機体が制動を行うことも無く落ち、黒い機体の脚が折れた。
敵は外まで追ってくる事も無く、薄らいだ光の中に篭っている。


都市全域に対地貫徹ミサイルが撃ち込まれ、管理区内の誰一人逃さずに特務軍が蹂躙を終えたのは、翌朝の事だった。
妨害と見做される撤退を指示したシグルーンは暫くの間勤めを外され、魔皇達は事前に必要な捜査任務を終えた、とだけの評価を下される。
事件の内容物は、再び与り知らぬ大きな物に持ち去られる事になった。