■黄塵に機龍は啼く 【ZDA】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 UNKNOWN
オープニング
Zechariah・Dress・Armament・Program

既に素体として改良の余地が僅かなゼカリア本体ではなく、外部装甲を含めた神輝装置によって稼働する一連の兵装システムを開発・運用を行う兵器計画。
かつて禁衛機師団と呼ばれた兵器開発部門とはまた別の、主に作業機械を製造していた私企業を徴用しての独立部門で行われている。

大まかな分類に落ち着いた既存のゼカリア用装備からは離れ、兵器としては異端の部類に入る不安定なフォルム。一部の神魔族勢力からは人類の軍備過剰を、人類勢力からは失われた人類兵器のプライドを取り戻す象徴として注目が集まっていた。
また、惜しげもなく投入される実験段階の最新技術に、不安の目を向ける者も少なくはない。
そうして生み出されたゼカリア用外部装甲群。
初の一般公開となる、ゼカリア対殲騎形式での機動演習。場所はかつての静岡県と山梨県を跨ぐ、富士演習場。
広報の努力により、都市部に近いとは言えないこの場所にも多くの人々、神魔が訪れている。単に新型兵器を好む者から、人類兵器の行く末を見守る者、好奇心、猜疑心、不信。

それらの見守る中で、鈍い地肌が神輝光を帯び、大地を蹴る。
この土地で、生まれのしがらみを断つべく。
シナリオ傾向 殲騎系 ゼカリア運用試験
参加PC カークウッド・五月雨
月島・日和
天剣・神紅鵺
真田・浩之
ミティ・グリン
ロジャー・藤原
黄塵に機龍は啼く 【ZDA】
プランA−1型、クレップフェルの搭載しているブースターは、水とマグネシウムを反応させた水素を燃料に推力を発生させている。
マグネシウムは水中で酸化、酸化マグネシウムとなるが、これを廃棄せず、帰還後に熱処理する事で再びマグネシウムと酸素として利用する事ができる。
尤も、熱処理の為のフレネルレンズ集光レーザーシステムがそれなりの規模と環境を必要としている為、専用の高速輸送艦との同時開発が進められていた。
もし今回の演習で欠陥機の烙印を押されでもすれば、その開発もどうなるかは分からない。
そういう経緯を知らされてはいないが、A−1に騎乗する事になったカークウッドは、この機体の有用性を考えているようだった。
対戦相手はモーント・ヘレティカー……なんとかという偽名で参加した天剣騎。仮面を被り偽名を名乗ろうが殲騎は殲騎。監視は付けられているが、特にこの隙に逮捕してしまおうという気配は無い。
モノクローム塗装のゼカリアと対峙する殲騎は大凡規格外の代物だったが、既に観客の目も注がれ始めているこの演習場からは降りられない。
双方に指示用の無線、そしてゼカリア側には機体状況を表示する画面と同時に本部側からの通信も表示されていた。
開始の合図まで、僅か。


外部を写すモニターに観客席の様子が映る。
「……クリスタルが見ている手前、無様な戦いは出来んか」
視界の端に捉えた逢魔の姿。フェイストラッキングがその顔をはっきりと映し出す前に、ゼカリアの全機能が戦闘の開始を訴える。
ぼんやりと聞こえる外からのアナウンスと、無線のカウント。
演習ではあっても、魔皇殻は魔皇殻。即座に距離を取り、目的の戦法に持ち込もうとした天剣騎に対し、クレップフェルの持ち得る優位性は神輝光銃の射程と、未公開の水素ブースターのみ。水素ブースターは通常の方式に加え、一定の速度を超えるとラムジェット機構へと移行するターボ・ラムジェットを搭載していた。しかし軍備的な事情、そして並のパイロットではエステル装備でも戦闘に耐える速度では無い事から、一般向けには公表されていない。
互いに距離を測り合う戦闘が始まる。天剣騎の狙撃銃はブレが強く、飛び回っていては有効打が望めない。FCSを搭載しているクレップフェルも、3000mギリギリの射撃は歪な形の殲騎に掠めるのがやっとの所だった。
見計らったように、双方が距離を詰め合う。マグネシウムカートリッジの装填される音がコクピットの背後で響き、魔皇の身体にも感じられる重圧が加速を感じさせる。
画面上の水素残量と相対距離表示が見る間に回転していき、一方からは膨大な量の実弾が、一方からは弾雨を焼き貫く光芒が奔る。
ガトリングを保持した触手が神輝光に焼かれて曲がり、流れ弾が観客席を保護する神輝障壁にぶつかって火花を散らす。
撓んだ触手がガトリング砲を取り落とすのを見るや、七式神輝光銃のグリップを握り直させるカークウッド。
しかし正確な射撃も、魔皇殻の翼が持つ防御性能に遮られる。元々出力を落としている神輝光銃では、余程の隙が無ければ打ち込めない。
SF退魔壁を発動させたままの突撃も考えたが、翼を拡げた殲騎の姿を見るに、射程内に身を晒す事はSFがあっても無謀であった。
「ハッ、傀儡ではなっ」
直上。高速で旋回した天剣騎が120mm砲を撃ち降ろす。運良くエネルギーチューブへの直撃は逃れたが、飛行ユニットの一部、カートリッジケースを穿った銃弾がマグネシウム片と水を撒き散らす。
高速で接近した天剣騎を前に、ライフルのエネルギーパックを交換する隙もないクレップフェル。振り返った時には、攻撃動作を行うまでもなく天剣騎は後退していた。頼みの綱のSFも、発動ボタンを押すまでに射程内に捉えていなければ意味がない。
機体状態を表すパネルが補給と修復を訴え、自己診断の度にネガティブなプランを引き出してくる。演習に宛がわれた時間も、最低持続時間を過ぎた。
水素残量を補填するべく残りのカートリッジがリロードされ、短距離ランナーが息を吸い込むように吸気口が開く。破損したカートリッジ分を考えれば、再装填の余裕は無い。空になったケースを廃棄し、身軽になった機体を走らせる。
自身の推進力によって空気を取り入れ、燃焼機関に圧縮して注入するラムジェット機構はある速度を超えなければ本来の性能が発揮されない。ゼカリア単体で出せる速度は100km/h。流体力学上の計算を帯びたシルエットが対流を孕み、空圧を調整して一気に想定出力を取り戻す。
「っ……」
若干指先の鈍りを感じるカークウッド。損傷の影響で超音速には至らないが、それまでの速度に比べれば異様。
距離を保とうとしていた天剣騎が火器の選択をする迄もなく、瞬く間にSF発動間合いに入る……も、其所までだった。
惰性で擦れ違う二機。終了を告げる無線が無言の中に流れる。
パネル上の機体表示はほぼ注意か警告。加速度と摩擦熱で剥がれた塗装が、満身創痍の姿を克明に浮かび上がらせていた。



甲高い音を立てて落下してきたカートリッジケースに、観客達が大きな歓声とどよめきを上げる。
背部から見れば、窮余の策も攻勢への変形に見えたのかも知れない。しかしそれも退屈そうに眺める逢魔が居た。
「傀儡等に興味はない。…忌々しい」
「焼きソバ買ってきたから、機嫌直せ。可愛い顔が台無しだぞ」
逢魔……イルイを気遣って出店を回っていた真田が、横に座る。
その手には焼きそば(富士宮)もあったが、調査の為の資料も荷物に含まれていた。
「今までが今までだったからな」
此までの調査資料。ZDA計画の出資元や、開発プランの一部、集められた企業群、その時系列から背景まで。
そして、その計画が向けられる先も。
「兵器は自ら判断しない」
高空で交差した二つの機影を眺める観客の中にあって、辛うじて聞き取れる程の小声で呟くイルイ。
「ああ。金の出所と買う人間が一番問題なんだろうがね。…企業そのものは白だな」
かつてのISCA動乱の前。大規模な吸収合併が立て続けに起こり、武力的な制圧すらも行われた時期……其所で拾われなかった企業である。
最早斜陽、として最底辺を行った企業だが、その多くはISCAのような管理形態を持つ企業体にとって不都合な町工場であった為、逆に地域との繋がりが強く、
ISCAの崩壊後は堅実な技術力により、着々と勢力を強めていた。
ZDA計画はミチザネ派の軍事関係者が立ち上げたプロジェクトであったが、その“関係”も最早この国での体制が整いつつあった頃の物であり、直接的な、例えばゼカリア本体の生産プランや、人員的な事柄に関しては発言力の弱い“関係者”であった。
「それが同じミチザネ派での発言力を高める為に、軍備の中で生き残る道を探した……と。道真白耶は新技術やら製品開発に御執心だからな」
一般には公表されていないラム圧重視構造なども、仕様書の中には記されている。
プランA−1【クレップフェル】。そして同時に開発が行われている、A−1.1【クレップフェル:ドロップシューター】。
高速母艦による急襲、水素ブースターによる亜音速飛行、対地攻撃用大型ミサイルの装備。
その要求性能全てが、対北海道を想定して記されていた。



開発に参加した企業が鉄鋼や重機に携わる類であった為か、パステルナークはその発想、性能、フォルム何れも比較的真面目な、ある意味で開発費の損にも得にもならない機体であった。
よく被弾する箇所に装甲を。弱い所に装甲を。装備はエネルギーを消費しない盾と剣。神輝エネルギー兵器は調整も改良も難しく搭載しない。
装甲材はDF防御の為のSF付与積層素材を盾に、通常の装甲を必要量各部に足し、過度のウエイトは掛けない計算になっている。
そして今回の使い手もまた、非常に基本通りを積み重ねたスタイルを持っていた。
「………」
盾の端から殲騎を伺いつつ、やや屈み気味の安定した体勢で機体を待たせるマイ。
六方閃を牽制に距離を詰めつつある月島騎だが、時折注がれる機銃の三点射を意識して、積極的に格闘間合いにまで押し込めない。足下を狙う銃弾はDFや魔皇殻とは違う為、反応した頃には膝元に衝撃を感じている。
地味であった。悠宇が考えていたようなハプニングも起こりようがない。
月島は観客を意識して動いているものの、対するマイ側はむしろ魔皇であるミティに見せたいと思っている。
堅実な戦い方。当のミティはC−1型のパイロットとして参加する為、B−1型の戦闘が始まった頃には調整と打合せを行っていて見ていなかったが。
パステルナークの持つ機銃が限りある弾丸を吐き出していく中、少しずつ、詰められていた歩数が互いの攻撃範囲を押し当てる。
先に間合いを、瞬間を掴んだのはマイ。しかし即座に構えられる月島騎の刀に比べ、シールドから引き抜くという動作を要したパステルナークのブレードが遅れを取る。
抜き斬りにかかった月島騎の剣撃。シールドを掲げる腕に刃筋を立てた一撃に、根本から切り離された盾が宙を舞う。
衝撃で剥がされた装甲材の下、ネフィリム素体の地肌が露わになった。
「………。」
予見撃の効果を得て、カーボンブレードが踏み込んだ月島騎の膝を狙う。
艶のない刃が翻り、被弾の集中した右足を正確に薙ぐ。食い込む刃、ダメージにより衝撃を堪え切れなかった足が接地圧を失い、転倒。
追撃を感じた月島が即座に騎体を転がし、悠宇も身構える……が。
「………此方B−1。戦闘続行不可能です」
剥ぎ散らされた装甲の破片と一緒に、空になったマガジンが点々と転がっている。
高強度のカーボンプレートは同じく高強度の殲騎を抉った所で限界を迎え、半ばほどから撓んで用を為さなくなっていた。
「…想定演習項目クリア。終了を要請します」



「見せてもらおうか、新型のゼカリアの性能とやらを」
ロジャーが息巻いて、C−1型を挑発する。
眼前のゼカリアは、踵の高いブーツを履いたように上から見下ろしている。
ラプトル=ディノニクス。恐竜の名を冠した脚部モジュールは、元々巨像のような印象を与えるゼカリアに、更に大きな姿を与えていた。
「さて、と。行くよっ!」
一歩、機体を大きく踏み込ませるミティ。
「ょっ!?」
が、サポーターによって増幅された脚力が、予想を遙かに超える出力を叩き出し、ミティの小さい身体が一瞬無重力を感じた頃には、高々と跳躍した機体がロジャー騎の上を飛び越えていた。
慌てて機体状況を確認するミティ。自己診断にエラーは無いが、どう考えても機体バランスがおかしい。
「重量計算が合ってないんだ…」
脚部出力の補強倍率が、何か途轍もなく重い物を積載したような数値に合わせられている。
整備不良か、何らかのミスか。しかし使えないという事もない。
模擬専用のセイバーロッドを借りていたロジャー騎も、何かあったと気付いたのだろう。隙を突くまでもなく、距離を置いて仕切り直している。
ラプトルの足が地に触れ、サスペンションがゆっくりと伸縮を行う。
過敏な機体は僅かな操作だけでも大きく地を蹴り、照準を合わせるような隙を与えない。ロジャーも元から細々と射撃戦をするつもりはないようだ。
真っ向勝負。ゼカリアの地力を調べるべく正面から突撃し、ロッドを振り下ろす。
ゼカリアもそれに応えるようにロッドを抜き、互いの高周波が共鳴する。
しかし、ミティはロッドを抜いただけ。ロジャー騎の目前で、ゼカリアは一気に体勢を低く、強力な脚力を活かして滑り込んでくる。
「足蹴にするっ!?」
セイバーロッドを空振りした勢いのままつんのめり、足下の強襲を逃れようとする。
しかしその騎体の脛を、狙い澄ましたかのように展開されたエネルギーサーベルが深く、深く焼き切る。
受け身を取る事もできず、演習場の地面に騎体を強打するロジャー。結果的に、今回の演習で尤も笑いの取れた場面であった。




物販ブースは、一部に熱心なファンのあるいわゆる“ミリ飯”や、記念アイテムの販売で賑わっていた。
ロジャーが何故か自身の逢魔コハクをキャンペーンガールとして提供していったが、客層の違いを目の当たりにする事になる。
戦乱から暫く、安定した生活世界を確実に拡げていった社会は、既に娯楽を求めるだけの余力を蓄えていた。
度重なる軍備拡張・権力統合政策により職を失っていた傭兵は技術を魅せるだけのショーファイターとなり、管理を嫌う者は多くが北海道へと逃れていった。
国外の不安の代わりに、国内は平穏を取り戻している。家族連れで賑わう物販ブースを眺めると、不安定な現状を見る事ができる。
「あんまり詳しくはなりたくない業界の事なんだけどさ」
演習を終え、展示で賑わうテントを巡りながら、ミティがマイに呟く。
「これだけの兵器を開発するお金があるなら、未だに復興途上な所の援助とか、治安維持とか、もっと色々出来る事あるよね」
「…片棒担ぎながら言う台詞ではありませんけど…、そうやって資金と物資を食い潰すのが戦争です」
二人がとつとつと歩いていると、歩く紙袋と遭遇した。
違う、大人買いを敢行した天剣だった。
よくよく見れば、プラモデル販売の列のすぐ脇、やや死角になるような所にカークウッドも立っていた。
人に見られたくないのか、しきりに周囲を見回している。
しかし人混みの下に紛れたミティ達や、反対側のブース奥、開発部が控えている所で持参のケーキを振る舞っていたクリスタルと、居合わせた月島、悠宇。イベントのためにと働かされていたコハクとそれを影から見守る怪しい影、ロジャー。
結論として、見られている。
「ふむ……。置物としてはいいかもな」
順番を待つ間の独り言も虚しく。
「……ゼカリアのプラモデルを…特務軍仕様でな」
「特務軍ですね。……………あー、申し訳ありません。特務軍仕様は人気があってもう…」
「……何?」
「先程大量に買い込んだ方がいらっしゃったもので…」
「っ……」
本日二度目の苦汁であった。










この日、もう一つの兵器が産まれようとしていた。
日も傾き、落ち着きが戻った演習場の片隅で。
「で…。で、だな…」
逢う機会の少ないからこそ。イルイはそれを差し出した。
不器用な包装は、心の込められた………封印に見えなくもない。
「ち、ちょこれーとというものだ。……くれてやるから、喰え!」
静寂の斜陽。向けられた瞳。忌まわしき暗黒。犠牲者を誘う微かな甘香。
逃れて死ぬか、征って死ぬか。
真田は征くことを選んだ。いや逃れる道など最初から無い。崖だ。
口に含むまでは。仄かな香りがそれを食用であると偽り。
口を閉じた途端。迸る衝撃が口から、喉から、体中から意識を根刮ぎ奪っていく。
ダメージで表せば、17398点(固定)
搬送先の病院では暫くこの『バレンタインの恐怖』が研究されていたが、それはまた、余計な話。