速く。もっと速く。
常に抱き続けていた人類の夢。
大々的に行われた演習の影で、着々と開発が進められていたもう一つのプラン。
高推力の水素ブースターを搭載したZDA計画のプランA−1型。その限界を計るべく開発されたA1.2【クレップフェル=エクステンド】が、輸送船【曙光】を伴って太平洋上を移動していた。
搭載されていた音速実験機は2機。護衛のゼカリアも3機、そして十分な量のバッテリーを積み込み、万全の用意と思われた。
小笠原、父島にベースを置いた軍は偵察を置きながら、直ぐにでも音速実験を行える体制でいた。
天気も良く、レーダーに映る影も無い。
人の目も及ばないような場所で行われる実験に、研究員はおろか護衛機のパイロットも、静かな波間のような平静を期待していた。
夜半。
機体表面温度の測定を行うため、太陽光の影響を受けない時間に実験は開始された。
吸気量も安定し、いよいよ上空にイオンの尾を曳こうという時。
静かな海間から伸びた光芒が、併走する偵察機の胸部を撃った。
SFで操った大海亀型サーバントに対殲騎用のトランペット砲を搭載した、サーバント兵器。海底近くから急浮上されるという奇襲に、高深度に対抗し得ないゼカリアは為す術もなく撃ち落とされていく。
神輝光のビームは上空を飛ぶ実験機に狙いを定め、実験機のパイロットも、その危機を認識していた。
A1.2型は活動限界まで飛び続けた。輸送船にある兄弟機を守る為、トランペット砲のエネルギーが切れるまで、攻撃を寸前で振り切り続けた。
今、兄弟を失った実験機が己の有用性を示そうとしている。
元々技術開発という世界での示威行為に過ぎないこの機体に、スケジュールの都合を強調する上層部の為ではなく。
実験の完遂まで、この機体と輸送船を護り抜いて欲しい。
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