■EXIST.【イレギュラー撃破】■ |
商品名 |
アクスディアEX・デビルズネットワーク |
クリエーター名 |
UNKNOWN |
オープニング |
軍備個核化政策により、消滅か、パトモスからの脱走を余儀なくされた旧傭兵組織。
その残党でありまた異端である、反平和・反共存主義組織【D−Ark】の活動再開が小規模ではあるが確認された。
個々の危険性が高いだけに、北海道勢力との合流があれば今後の大きな懸念となる。軍部は派遣に痛手の伴わない実験部隊、イミテーションズの残存兵やZDA計画機の幾つかを宛がったものの、大きな成果は得られず、逆に有力と目されていた幾つかのプランを廃棄寸前に追い込むなど、徒に状況を混乱させてばかりいた。
また、軍のお偉方の頭痛を追加する種に、核があった。
それもご丁寧に、レプリカントがその能力で取り込める200kgを下回る、約100kgを目処に計算された高純度の小型核爆弾。
いわゆるアタッシュケース爆弾に近いそれが、D−Arkの声明でASEAN+の保管庫から強奪され、消息を絶っていた。
言うまでもなく、魔皇やそれに属する者に核や放射能の危険は無い。しかし、反平和・反共存を謳って憚らない彼等にとって、それは純粋に“人類を選って殺す”為の便利な道具であった。
不正規集団による急襲のみならず、核をちらつかせるその姿は、大きな不安感となって青森方面軍の士気を著しく低下させている。
網として広範囲に展開していた部隊からの報告が有り次第、即座に出撃して欲しい。
―――不確実ながら、彼等は後方の支援基地を強襲後、ある事を言い残して去ったとされている。
一つに「魔族だけでなく、神属も人類と戦う理由がある」
そして「これ以上人類の茶番に付き合う事は無い」
以上の二つは生還した兵士達の証言によって確定しているものの、最後の一つだけは証言がまばらであり、証明は取れていない。
ある兵士は、こう聞き取っていた。
「人類の火が、神の星を墜とす」と。
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シナリオ傾向 |
対殲騎戦 |
参加PC |
月島・日和
瀬戸口・春香
永刻・廻徒
真田・浩之
ミティ・グリン
桜庭・勇奈
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EXIST.【イレギュラー撃破】 |
空は燃えていた。
大きく焼き払われた森の煌々とした赤味の上に、重量すら感じる黒煙が立ち上る。
木偶のように火を噴くゼカリア。上半身が溶け落ち、切り離されたエネルギーチューブが血管のようにだらしなく垂れ下がる。
「…来る、か」
目の前で繰り広げられている、一方的な攻撃には目もくれず、彼は何もない空中を見ていた。
『全騎………神輝光軌道高射砲の準備完了まで、示威活動を行う』
分裂弾を駆使する殲騎が振り返って言う。足止めを行っていたゼカリアは、その殆どが動作を停止していた。
無理を悟って逃げ出した機体も、途端、何かに突き飛ばされたようにして転倒し、虚ろになったコクピットを仰向けに晒した。
黒い空に、敵の姿が見えている。
「どうせ時代の徒花だ。実は付けられん……精々毒を撒いて、散るかぁ!」
真メギドランチャーが、薄汚れた光芒を吐き散らす。
真横に落雷でもあったかのような轟音に、高速飛行するゼカリアが揺さ振られる。
質量が空気を裂いたから、だけではない。
「誰の機体だ、今の……!?」
近距離までゼカリアで接近する事を決めていた桜庭の位置からでは、爆散の音は聞こえてもその姿は確認できない。
機体を止める事も出来ず、無防備に身を晒していた瀬戸口が出会い頭に撃ち落とされたのも、後ろに放置しておくしかなかった。
先行して降下、殲騎を召喚したミティ達が、やや遅れて魔獣殻の速度で追従している。
敵の姿は明らかだった。巨大な砲身を持つ騎体、白鞘紛いの魔皇殻を下げた騎体、紫の典型例のような騎体、光学迷彩でその四肢の一部を隠した騎体。
最初の砲撃以降、巨砲の紫は沈黙している。あえて懐に飛び込ませる積もりなのか、他の騎体も、互いに戦闘領域を確認するかのように広く散った。
「なんだ、闘りたがりか。彼方さんも」
「反共存、か。ヒトに毛が生えた程度の存在がよく言うわ」
都合が良いとばかりに、永刻は機体の方向を黄金のテリトリーに向ける。
ゼカリアには乗らず、自身の騎体にオプションを重ねていた真田も、自身の獲物を見つけたようだ。
直進し続ける月島騎の前には、必勝を冠する紫が立つ。
戦闘は拡がり、同時に開始された。
―――栄光の“7”
ミサイルの壁が、飛び散る魔皇殻の弾丸を相殺する。
鳥型の魔獣殻によって速度を上乗せしている月島騎だったが、其れに関して言えば、セブンズも同じように魔獣殻の恩恵を受けていた。
DEXの射程圏外を保ったまま器用に後退射撃を繰り返し、黙々と、チップのように装甲を磨り減らしていく。
月島は互いの手札を考えながら、焦りを誘われているように感じた。
ペアで行動する桜庭騎も、ミサイルに紛れて接近戦を試みるが上手く距離を詰められない。軽量、高機動を売りにする紫の構造を先鋭化させたらしい敵騎は一蹴りで倍の距離を開けてくる。
スプリットランチャー自体は、分散直後の弾殻を貰わなければ減衰も早く、ハリエットが付与した獣の鎧も相俟って、明確な決定打にはならない。
しかし常に何処かにダメージを負う感触は、押すか引くかの選択を迫られる。停滞を許さず、黙々と、機械的に続けられる弾丸の応酬。
待たれている。余分な一歩、余計な意識、失策、誤り、或いは運のような、何か。
神経を磨り減らす……それと同時に、何かの高揚感が月島の身を包む。
「…っ」
感触が這う。それを振り払うように、一旦月島騎は地面を踏み締めた。その様子を訝しんだ桜庭が、騎体をその横に着ける。
『良い的だぞ、君…』
思いの外、軟らかく響く男の声。
片眼のJ。落ち着いた言葉とは裏腹に、騎体は相変わらず高速を保っている。
滑る様に走るその姿と、今し方聞こえたその声を確かに理解した時、月島は頭の奥がずん、と重くなった気がした。
「中尉……?」
『最終階級は少佐らしい。殉職特進、という事だろう』
「!……何故、何故!!」
『反ミチザネ派の老人達が派遣した間者……としたら、どうだろうか』
真クロムライフル……の亜種、真カースクロムライフルが汚れた魔弾を放つ。
月島騎の被弾。速度と射角を補正される前に、真幻魔影を煙幕代わりに使用して身を隠した。
『元々、北海道戦線など新興勢力であるミチザネ派によって排斥された旧社会の残滓に過ぎない』
散弾を幻影の中に叩き込み、弾丸が物体を掠める音を確認しながら、魔皇……楡・安里は続ける。
『しかし元より勝てる見込みも無い戦争だった。ミチザネ以外の資本力であるISCAを確立させる目論みも、英雄気取りの暴走で失敗に終わった』
霧の晴れ間から飛来するミサイル。不意打ちにもならない正面からの砲撃ではあったが、分裂を繰り返す真マルチプルミサイルを盾に、幻影を抜けて桜庭騎が走る。
『結局は、共存……その姿勢を崩す事で、土台を瓦解させようという事になった。青森事変でゼカリアの脅威を目の当たりにしているから、尚更だろう』
接近する桜庭騎に併せて後退する楡騎だが、不意に、その騎体が地を踏んだ。
辛うじて、ではあるが、悠宇の放った重力の檻が騎体の半身を捕らえている。しかし、決して強靱とは思えない紫の殲騎が、既にその片脚を引き摺って範囲を逃れようとしていた。
「今だ!」
悠宇の合図で真リッピングウィップを翻し、逃げ足を絡め取る月島騎。軽量な騎体に鞭が絡み付き、関節の軋む異音が感触となって響く。
「貴方はぁっ!!」
華奢な足を絡め取られ、動きを止めた楡騎に、桜庭が怒号を上げて突撃する。
『それが正しいとも思えないが……三位一体は、新しい秩序には脆過ぎる。……キセノ』
『はい』
逃がさない為に。安全策を取りに奮った魔皇殻が、その手から零れ落ちる。真ドリルランスを構えて跳躍した桜庭騎も、その場で地面に叩き付けられた。
後発の重力の檻。辛うじて触れるだけの発動距離から、更に踏み込んだ事で、今度は自身がその檻に封じられる。
『殺しはしない……ただ暫くは、静かにしてもらう』
真カースクロムライフルの力を借りて、上級DF超凍侵弾が発動。氷塵に包まれた範囲内の騎体のコントロールが失われ、全ての機能が麻痺したかのように地面に横たわる。
「待ちなさい…!」
苦し紛れに放たれたハリエットの獣の咆吼も、若干制動を揺るがせた――逢魔の気が逸れたのだろうが――だけで、その足を止められない。
『成就と為ろうと、為るまいと……』
他の面々は、健闘しているらしい。そう判断した楡は、特に援護に向かうでもなく騎体を反転させた。
地面を踏む感触が鈍い。上手く膝が曲がらない。
紙一重。手札一枚の差ではあった。相性の差ではある。
『何れまた、戦う事になる。君達が、君達の善い道を進むのなら……』
楡騎は高度を上げ、そして南西へ。
―――刀
「下らんご託に興味は無い。戦場なのだ、威力を以って意志を通すとしよう。さて、派手に行こうか」
眼前に永刻騎を確認して漸く、黄金の騎体はその敵意を認め、半身の姿勢で応じた。
左腰に魔皇殻の刀。邪魔になると判断したのか、弓はその辺りに放ってある。
弓手は鯉口、妻手を柄に添え、直ぐにでも抜き払える体勢にある。
『………。』
距離が詰まる。最早投射型DEXなら急所への直撃が狙える距離だが、最早そこに意識は無い。
長い間が、じっとりと空間を湿らせる。
咽せる様な空気を裂いて、細い、鞘走りの音が滑る。出足は下段。永刻は受けを選択せず、跳んだ。
人の身ならば跳躍はギブアップにも等しい行為だが、空中での機動に苦のない殲騎ならば、無理に下位の魔皇殻で受けるよりは良い。更に攻撃に反応して久遠の黒い旋風が発動し、切り払った体勢の胴体ががら空きのまま晒された。
そして、踏み込んだ脚の速度は衰えないままに、胸部への膝蹴りに転換する。
粘る様な摺り足が地面を噛んでいるのか、体勢を崩すこともない。岩を蹴るような手応えに、永刻騎は一旦空へと退いた。
必要以上に逃げなければ弓を持ち出す事もしない。飽くまで居合いの間合いだけが戦いの領分だった。
互いの距離が元に戻る。
同じサムライブレード。腕の長さに若干の差はあれど、射程はほぼ同一。純然たる威力の差はあるが、斬り結ばなければ目立たない。
地を足で噛む居合いの騎体、空を踏む自由格闘の騎体。
戦闘の自由度は永刻の方が高い。久遠の逢魔能力が利き続けていれば、暫くは後の先で致命打を貰う事もない。
騎体の姿勢が呼吸を模したように深く、沈み込む。息を吸い込むように再浮上するタイミングで、永刻騎が走った。
柄に掛けられた右手はまだ動いていない。居合いの先を取った永刻騎の奮う白刃が、袈裟懸けに奔る。
胴体は、浅い亀裂こそ入ったが、揺るがない。しかし抜刀の姿勢で居たために前に出されていた右腕に、深い裂傷が入る。
「…逆手、か」
左腕の一振りで抜き放たれた反撃の刃が、永刻騎の右腕を肩口から切り落とす。永刻騎はそれでも速度を落とさず、体当たりをするような勢いで距離を詰めた。
鋒を下に、振り下ろされかけた刃を潜り、騎体同士が接触する。
魔獣殻の加速度も加えて騎体を押し、強引に引き摺り倒した。衝撃で真サムライブレードが主の手中から弾き落とされる。
仰向けに倒された騎体の、薄らと開いた亀裂に、殲騎の拳を叩き付ける。引き剥がそうとする手を退けて2、3発ほど撲った所で、亀裂は拡がり、中から澄ましたような顔が覗いた。
『………。』
十分に、止めの刺せる位置だった。
―――灰、塵、屑
「おらおらおらおらおらおらおらー!」
ショルダーキャノンの範囲爆撃が、周囲の木々を薙ぎ倒していく。
光学迷彩を持つ殲騎を炙り出す為の滅多打ち。舞い散る土砂は確かに空中で何かに跳ね返り、砂埃の中にうっすらとした何かの輪郭を浮かび上がらせている。
既にそのシルエットが掴まれているにも関わらず、黒の騎体はその色を表さない。それどころか、反撃の一発も無かった。足跡も残さず、ふらふらと空を漂う様に逃げまどっている。
距離が狭まり、砲撃も正確さを増していく。敵の姿は後退の一方だが、木々が邪魔をしてそれほどの速度は無い。
「……ミティ、様子が」
「ん?」
踏み込みに足りた距離。右手に太刀を掲げ、左手に衝雷符を隠し持つ。
足跡が動く様子もない。舞い散る木の葉が時折何かにぶつかってその方向を変える程度で、姿の見えない敵機は戦意を失っているように見える。
「…“出来過ぎ”です」
マイの警告に、殲騎の足が止まる。
「……」
急制動に引き摺った地面が捲れ、土埃を立てる。
ずん、と何かを構え、体勢を取り直した足音。
「そーこーかあっ!!」
足跡を残さない敵機。光学迷彩で“隠れている”事は分かっても、隠れている“物”が違えば、その意義は著しく変化する。
光学迷彩でその姿を誤魔化した真カースフォビドゥンガンナーに真衝雷撃の一蹴を喰らわせつつ、ミティは殲騎の手にした太刀を自らの後方、木々を薙ぎ倒してできた一本道に投じた。
重量級の魔皇殻、棘鉄球の真ルシファーズフィストが放られた殲騎刀を弾き、進路を変えずにミティ騎へと猛進する。
『私達はずっと待っていたのに……』
超質量の鉄球は前傾姿勢を取ったミティ騎の肩、ショルダーキャノンを一門もぎ取っていく。
『やっと魔皇様にも会えたのに……』
鎖が引き戻される。それよりも早く、ミティ騎は駆けた。
『平和なんかで……』
衝雷符が励起し、突き出された掌の中で強く発光する。
『終わらせてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!』
進行方向を真っ直ぐ逆に戻ってきた鉄球が、ミティ騎の背部に迫る。
棘の先端が僅かに接触した。その瞬間、真狼風旋による加速が再び鉄球を突き放す。
「理由を付けては、力を振るいたがるのは子供か酔っぱらいか変人か…。何にしても迷惑なんだから、ここできっちり片付けさせてもらうよ!」
ばちん、とミティ騎の平手が半ばほど透け始めた殲騎の胴体を叩く。
透明な空中に、衝雷符が暫く浮かび、弾けた。
「……こちらマイ。黒の騎体、及びレプリカントを確保しました」
―――簒奪の業火
『豪勢な騎体だなぁ!』
勘繰りとは外れた男の声に、真田は騎体の加速を強めた。
騎体その物に真燕貫閃を付与し、最大加速で火砲の射程を遡る。
バスター系の大雑把な外見、だが照準精度は高い。掠める事2発。既に魔獣殻の疲弊はピークに達していた。
その胴体に掲げた巨砲に比べれば矮躯とも言える紫の殲騎は跳び退る事もなく、その砲身で機首突撃を受け止めた。
と言うより、殴り倒したというべき乱雑さだった。
「リンドブルム、限界だ……送還する」
力を失った翼竜の内から現れた騎体は既に刃を構え、追撃の姿勢に入っている。
「その魔皇殻、誰の物だ」
『あぁっ?』
長く伸びた砲身を武器のように、全身を駆使して器用に操る紫の騎体。
逆関節の脚も魔皇殻で構成されるのか、器用にステップを踏み、身を躱している。
『イイだろ?持ち主共々“具合が良い”』
「何……?」
『“仲間の為”ってのは、良い言葉だなぁっ!』
近距離で放たれた真メギドランチャーが大地を深く抉り、発生した衝撃波で真田騎が煽られる。
反動制御を行う騎体に向け、間髪入れずに魔皇殻のミサイルが襲いかかる。マルチプルとは異なり、真ブリュンヒルデで切り払える単発・高機動型ではあったが、高誘導で間髪入れずに叩き込まれる弾丸に対応が遅れていた。
「脆いっ!」
次々に撃ち出される真カースアクトミサイルに、真田騎の音速剣弾幕が壁を張る。
爆炎が拡がり、互いの視界が一旦遮られる。炸裂音も収まり、愉しそうな男の哄笑だけが聞こえる。
「…くだらんな」
酷い笑い声が癪に障ったのか、イルイが側らの魔獣殻に呟く様に言う。
「反平和、反共存など、低俗で脆弱な『ヒト』の性に過ぎぬ。 神も魔も、人の世に介入するべきではない。私の先人がそうしてきたように…」
主人二人の意思を察知したように、魔獣殻は騎体に溶けた。
「…ああ。せめて、俺達の手で終わらせる」
黒煙が晴れる。
再開一番。正確な照準の真メギドランチャーが火を噴き、頭部を溶かしていく。
リロードの間に決着は付く。二射目は無いと判断したのか、紫の騎体は真メギドランチャーを送還し、本来の姿を晒した。
細い、脆弱な騎体。放たれる真魔力弾は真田騎の各部に穴を開けるが、その速度を留めるには至らない。
『ハハッハ……ハハッハッハッハハァァハハハ!!』
逆関節の脚が走り出す。
空から真っ直ぐに振り下ろされる真ブリュンヒルデが、真燕貫閃の切っ先を伸ばす。
『吹ッ飛、ブ……ェッ!!』
中で潰れた男の声。
最後の抵抗とばかりに、胸を貫かれた紫の騎体が矮躯の拳を振り上げる。
『ッ…ク……ブ………ィック………アー、ティ………!!』
超撃破弾が極至近距離で放たれる。
しかし、突き出された拳はだらしなく垂れ下がり、放たれた黒紫の光弾は、真田騎ではなく足下に着弾した。
爆風は真田騎を押し退け、術者自身を焼き崩す。
光の半径は暫く収まらず、空を照らしていた。
全ての火が消えた頃、遠く離れた東京では、最後の事件が始まろうとしていた… |