■気になるあのことそんなこと【SIDE D−2】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 高原恵
オープニング
 パトモス・新東京――この地では日々様々な出来事が起こっている。楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、表沙汰になったこと、伏せられてしまったこと、そして未だ誰も気付いていないこと……。
 さて、あなたはデビルズネットワークタワー・アスカロトにて依頼を受けていて、気になった出来事はないだろうか?
 例の事件の続きはどうなったかと、ふと思い出すことはないだろうか?
 すっきりしない終わり方も……あったのでは?
 気になるなら、自ら動いて調べてみるのもいいだろう。誰かに言われる訳ではない、決断するのは自分自身であるのだから。
 だがしかし、望む結果が必ず得られるとは限らない。得られた結果が、真っ赤な嘘である場合もあるやもしれない。また、掘り起こしてはならなかった真実を知ってしまうかもしれない。
 それでも構わないと覚悟が出来ているのであれば……見えぬ真実をつかむこともあるだろう。
 今回使えるのは2月中旬のある1日のみ。1日で何が出来るのか、よく考えて行動してみてはどうだろうか。
シナリオ傾向 フリーアタック:6(5段階評価)
参加PC 彩門・和意
マニワ・リュウノスケ
瀬戸口・春香
神崎・雛
気になるあのことそんなこと【SIDE D−2】
●再訪問
 ビルシャス某所・榊進一郎事務所――。
「やあ、先日は結構な物を。皆で美味しくいただきましたよ」
 榊は先日来再び事務所を訪れた2人、マニワ・リュウノスケと逢魔のソフィアをそう言って出迎えてくれた。
「それは何よりでござる。そして、此度もお時間をいただきありがたく存ずる」
 うやうやしく榊へ頭を下げるリュウノスケ。先日は黒山三郎からの紹介状を手に訪れていたが、今回は事前にアポイントを取って面会に訪れていた。30分ほどの空き時間が、そのままリュウノスケとの面会時間となったようである。
「いえいえ。あなたのような方からお話を伺うのは、私にとっても有意義なことですから。で、今回のご用件は」
 リュウノスケと向かい合ってソファに座り、榊は今回の用件を尋ねた。
「は、さっそくで申し訳ないのでござるが……。黒山殿にも以前申し上げたのでござるが、何故北海道『日本』と休戦・和睦をせぬのでござる?」
「さっそくですね」
 リュウノスケの言葉を聞いて、榊は苦笑した。
「では逆に問いましょう。あなたは、今まさに武器を振り上げて襲いかからんとしている相手に対し、休戦・和睦を申し出ることは出来ますか。いや、あなたなら出来そうですか……しかし、普通は出来ません」
「真の敵はマティア神帝軍ではござらぬか? ……体制の違いなどで争うは愚の骨頂かと存ずる」
「無論その通り。対北海道の戦力がそのまま対神帝軍に回るだけで、大きな意味合いがあります。休戦・和睦の必要性は重々承知。しかし、現状では無理と言うより他ありません。どちらも各々の正義を唱えていますからね」
 腕を組み、思案する榊。困ったものだ、と言っているようにも見えた。
「しかし……いかに大儀を唱えようと、無辜の者に被害は出申す」
「ええ。被害のない戦争など、この世界に存在しませんからね」
「……それを承知しておられながら、手をこまねいているおつもりでござるか?」
「私に出来るレベルのことはしているつもりですよ。ですが……決壊した堤防を1人で防ぐことが出来るかと言えば、自ずと分かっていただけるのではありませんか?」
「確かに1人であるならば難しいでござろう。ならば、複数で事に当たろうとは思わぬのでござるか?」
「複数で、とは?」
 榊はそう言って、リュウノスケの答えを待った。それは明らかに意味を分かっていて、相手の考えを引き出そうとしていた。
「ならば申し上げるでござる。貴殿と黒山殿であれば、議会・政府を動かし和睦へ踏み出すことが可能と存ずる」
「なるほど、黒山先生と……」
 うんうんと頷きながらリュウノスケの意見を聞く榊。
「そうでござる。規制等、政策の違いは別にし協力出来ることはすべきかと」
「……考えておきましょう」
「貴殿のお覚悟、規制緩和だけではござらぬでござろう」
 リュウノスケはじっと榊の顔を見つめた。まるで探りを入れるかのごとく。
「そう仰るあなたはいかがです」
「拙者、相手が誰であれ、無辜の者の盾とし闘う所存」
 迷うことなくリュウノスケは即答した。
「なるほど、いい覚悟ですね。ならば、1つ申し上げましょう」
「何でござるか」
「歪みを突かれたものは、自壊しかねない。そうなる前に、自ら気付き正す必要がある……と」
「……何を指しているかは、問わぬ方が賢明でござろうか」
「そうしていただけるとありがたいですね」
 リュウノスケの言葉に榊は苦笑した。と、その時リュウノスケは思い出したように言った。
「そうでござった。実は今日も貴殿にお土産を持参したのでござる」
 リュウノスケがそう言うと、後ろで待機していたソフィアが榊の方へ進み出て、枯れた2輪の花を手渡した。
「これは……?」
 怪訝そうに尋ねる榊。ソフィアが口を開いた。
「それは――」

●彼女の流儀とは
 デビルズネットワークタワー・アスカロト。彩門和意と逢魔の鈴は、いつもと同じようにここへ出向いていた。依頼の有無を確認している、そのように見えることだろう。
「ふうむ……今の所、人手が足りている依頼が多いようですね……」
 状況を確認しながら、和意はそのようにつぶやいていた。
「こんにちは、彩門様、鈴様」
 そんな和意たちの姿を見付け、サーチャーの魅阿が声をかけてきた。
「依頼をお探しでしょうか」
「ええ。でも、今日は人手が足りているか、専門知識が求められるかのどちらかみたいで」
 苦笑して答える和意。
「ほんと様々な依頼があるものです、日々。でもその中にあって、何故明菜さんの依頼だけ系統が独特なのでしょうね」
 和意が不思議そうに魅阿へ尋ねる。
「そうですね、彼女の場合は自分で持ってくることも少なからずありますから」
 同意とばかりに答える魅阿。最近でこそ少ないが、以前はさりげなく公私混同な依頼も明菜の場合はそれなりにあった。
「問題になっていたりしないんですか?」
「いえ、特に。それに彼女の場合、ある種のバロメータとして上の方は捉えているようですし」
「バロメータ?」
「ええ。魔属に対する、人類や神属の感情……を見ているのかもしれませんわね。これは私の私見ですけれど」
「……はあ……」
 思案する和意。言われてみれば、そんな気もしなくはない。ひょっとして、わざとそういう系統をアスカロトの上の方は作ったのだろうか?
「いっそ、彼女本人に伺われてはいかがでしょう?」
「いやいやっ、それには及びませんからっ。あ、今のことはここだけの話で……」
 そう言って魅阿に口止めする和意。それはそうだ、明菜がアスカロトを出ていったのを見届けてからここへ入ってきたのだから。
 実は今日の和意の本当の目的は、明菜の仕事の流儀へ迫ることであった。
「……和意様、ひょっとして暇なんですの?」
 鈴からそんな突っ込みもあったが、それはさておき。
(そういえば先程、誰かに引っ張られていましたわね……)
 鈴はふと見かけた明菜の様子を思い出していた。

●簡単な解説
「はあなるほど、デビルズネットワークってそういうシステムなんですかぁ」
 調べた情報をまとめ、しみじみと神崎雛はつぶやいた。よくシステムを知らなかったので、ちょっと調べてみたのだ。
 各地の離村には魔に属する者たちによるネットワークが敷かれている。言うなれば、デビルズネットワークとはその集合体だ。そういう素地が作られたのは、ミチザネ機関が関東を中心に復興活動を行ったからであろう。
 で、各地の逢魔が調査した情報を、アスカロトが何やら魔装置を用いてまとめあげている……といった感じだ。具体的な説明はここでは省くが、その情報収集の作業に当たっているのがサーチャーと呼ばれる逢魔たちである訳だ。
「……私の『情報収集』の仕方では難しいみたいですねえ」
 雛の言う『情報収集』とは『情報収集という名のハッキング』を意味する。確かに、そりゃ難しいというか無理だろう。
「じゃあ、私の『情報収集』で調べられることから……」
 雛はそう言うと、使い慣れたノートパソコンへと再び向かうのであった。

●それを忘れぬよう
 榊の事務所を辞したリュウノスケたちは、その足で神魔人親睦推進団体・トリニティフレンズの事務所を訪れていた。目的はもちろん、会長を務める広重郁美との面会だ。そのために、榊にお願いして紹介状も書いてもらったのだから。
「あら……あなたは」
 リュウノスケの顔を見て、郁美の第一声がそれであった。
「お久し振りでござる……と言ってよろしいかどうか、少々難しいでござるな。以前、『魔属の主張』の会場にて拙者はお見受けしたでござる」
 これは半分本当で半分嘘。リュウノスケ自身はその時直接見てはいない。郁美の姿を確認したのはソフィアである。
「ええ、あの時の方ですよね? あなたの主張、覚えております」
 にこっと微笑む郁美。これは話が早い。何しろ、リュウノスケの考えを知っているということであるのだから。
「でもまさか、榊先生とお知り合いだとは」
「知らぬのも道理、拙者つい先日面識を持ち合わせたばかりでござる」
 そんな会話を交わしながら、テーブルを挟んでソファに座る。郁美の向いにリュウノスケ、その隣にソフィアという図だ。
「それで、どのようなご用件でしょう?」
「最近……妙な者どもが増えているようでござるな」
 リュウノスケは郁美の問いかけに答えず、そのような言葉を発した。
「え、ええ。色々と大変です。私たちの主張に同意していただける方も少しずつ増えてきてはいるのですが……。榊先生のような方も居られますから、決して未来は暗くないのでしょうけれど。まだまだ頑張らなければなりませんね」
「……いかに大儀を唱えようと乱を起こすは認められぬでござる。それが北海道『日本』であれ、同志であろうとも」
「あの。何を仰りたいのでしょう……?」
 リュウノスケの真意がいまいち分からず、郁美が怪訝な表情を浮かべた。
「貴女はパトモスの現状はご存知でござるか」
「ええ。内も外も問題が山積みですね」
「ゆえに申し上げる。貴女であれば、北海道『日本』とも同志がござろう?」
「……ああ、そういうことですか」
 納得した表情で頷く郁美。以前のリュウノスケの主張と、今の話がようやく繋がったのであろう。
「ですけれど、それは私どもを買い被り過ぎというものです。トリニティフレンズはまだまだ小さい組織。北海道に繋がりがあるなんて、そんな……」
「本当でござるか?」
 リュウノスケは郁美の目を見つめて尋ねた。見た所、嘘を吐いているようには感じなかった。
「しかし……志を同じくされる方が北海道に居られないとは言いません。そういった方と繋がりが持てたなら、また違った方向性が生まれるのかもしれません」
「では、その日を期待して申し上げる。無闇に戦乱を広げずパトモスとの和睦、北海道『日本』も考えていただきたく存ずる……と」
「はい。その日が来た暁には、必ずお伝えいたしましょう」
 郁美はリュウノスケに固く約束をした。
 そして、郁美にもお土産として枯れた2輪の花がソフィアから手渡された。榊に贈られたのと同じものである。
「これは?」
「それは……1輪は旭川第2師団蜂起時、戦闘で吹き飛んだ花。もう1輪が大阪で悪魔化魔皇により、精気を吸い取られ枯死した花です。この花は、私たち2人の戒めです」
「戒め……?」
「正義を唱えても、必ず無辜の者が犠牲になります」
 ソフィアは郁美をまっすぐ見据え言った。だからこそ、この枯れた2輪の花は戒め――決して忘れぬようにとの。
「……このお花、大切にさせていただきますね。ありがとうございました」
 郁美は枯れた2輪の花を両手で持ち直すと、両腕で抱え込むように胸元へ当てた……。

●透明なのかもしれない
「はあはあ、トイレの砂は清潔に……と」
 熱心にメモを取る和意、相槌を打つ鈴。2人は榊陽子・榊美弥子の二卵生の双子姉妹が住む高級マンションを訪れていた。
 『近々、猫を飼うことになったので注意点などを教えてほしい』などと言って訪問した和意であったが、そもそもそんな予定は今の所ない。明菜の仕事の流儀を調べるための建前に過ぎなかった。
「……そういえば、明菜さんとはどうやって知り合われたんです?」
 その証拠に、メモの合間に和意はそんな質問を挟んでくるのだから。
「近所のお家で子猫が生まれたんです。それで美弥子と一緒に出かけていくと……」
「明菜さんが先に居られたんです」
 陽子の説明の後を受け、美弥子がそう続けた。
「なるほど、子猫が取り持つ縁だったんですか。そこから始まって、家を丸1日任せるくらいですから、よほど仲が良いのですね」
「和意様!」
 鈴が肘で軽く和意を突いた。そこまで聞くのはどうなのかと、注意を促したのだろう。
「いいんですよ。仲は良いのは本当ですから」
 陽子が笑って鈴に言った。
「何て言うんですか……壁がないんですよね、明菜さん。だからこう、すっと仲良くなれたのかもしれませんね」
 美弥子のこの言葉に和意は大きく頷いた。そういった部分が、明菜の特徴であるのだろうから。

●狼と野犬、そして羊
 場面は再びアスカロト。
「……今日は色んな方が来られますわね……」
「ん?」
 魅阿のつぶやきを、尋ねたいことがあって訪れていた瀬戸口春香は聞き逃さなかった。
「いえ、こちらの話ですわ。それで、お尋ねになりたいこととはどのようなことでしょう」
「トリニティフレンズという団体と、その会長……広重郁美個人の政治や経済、ミチザネ機関への影響力の有無を知りたいんだ」
「ああ、あそこですね」
 頷く魅阿。知っているなら話が早い。春香は魅阿の答えを待った。
「影響力はいかなる方面へも皆無……でした」
 何故過去形?
「ですが、今は榊議員とのパイプが出来ています。そういう意味では、政治方面への影響力はゼロとは言えないでしょう。プラスかマイナスか……未知数ですが」
「なるほど」
 納得する春香。つまりはそういった存在の団体及び個人ということだ。もっとも、何をきっかけにして大化けするかは分からないが……。
 魅阿に礼を言い、その場を去る春香。歩きながら、色々なことを考えていた。
(羊を救うと称して狼と野犬が戦い、その果てに……狼と野犬、そして両者に喰い散らかされた多くの羊たちの犠牲の果てに、狼と少数の野犬が混在するパトモスという歪な群れを神帝マティアという残りの野犬が狙う今の構図が出来上がった。草食の羊とは異なり、狼も野犬も元は肉食の別の生物。再び狼と野犬が戦うのが避けられないとしたら、例えどちらが滅んでも羊には勝者の空腹を満たすという至極当然だが実にくだらない欲望の犠牲になる道が待つのみだ。……恐怖に目を閉じ、耳を塞ぐ羊を襲うしか注意を喚起させる術も機会もない現状、いずれ種の危険と個の危険をすり替えられ、草ではなく肉が喰いたいと暴れた狼と決め付けられて駆逐されるだろう……)
 それは春香なりの、現状分析だったろうか。……現状が、分析する価値のあるものかどうかはさておき。
「本来あるべき場所に収まっていた異なるものをぶちまけて、ごちゃ混ぜにして、それが美しいというのなら……俺の美的感覚は相当狂っていることになるな……」
 少なくとも、それを美しいと思っている者たちがこの世界には存在するんだろう。そうでなきゃ、そんなものを作り上げる奴は居ない。居やしない。
「何を望み、何をもって何を成すか。その全てが違うんだ。今更、引き返す気はないさ。……そうだろう、春香?」
 春香は自嘲気味に、自分自身へ問いかけた。その問いかけに対する答えは……自らの中に存在する。

●結果
「あっさり分かりましたね」
 雛は『情報収集』の結果を見て、拍子抜けしていた。トリニティフレンズについて調べていたが、そのあらゆる規模の小ささが……もう何かささやかで。
 特筆すべきは、大きなスポンサーの1つが榊の姪たちであることくらいか――。

【了】