■気になるあのことそんなこと【SIDE T−2】■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 高原恵
オープニング
 パトモス・新東京――この地では日々様々な出来事が起こっている。楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、表沙汰になったこと、伏せられてしまったこと、そして未だ誰も気付いていないこと……。
 警察学校や軍学校といった特殊な学校でも、多かれ少なかれそういうのはあるだろう。4月になれば警察学校ではまた新しい訓練生、警察官の卵たちを迎えることになる。軍学校も似たようなものだ。その前に、気になったりすることを少しでも解消出来るのならば、誰にとっても幸せなことではないだろうか?
 そう思うなら、自ら動いてみればいい。自分自身がそのようにしたいと思うままに。
 だがしかし、望む結果が必ず得られるとは限らない。得られた結果が、真っ赤な嘘である場合もあるやもしれない。また、掘り起こしてはならなかった真実を知ってしまうかもしれない。
 それでも構わないと覚悟が出来ているのであれば……見えぬ真実をつかむこともあるだろう。あるいは、新たな試みが始まるやもしれない。実際、前年にはそれを為した者も居るのだから。
 今回使えるのは3月下旬のある1日のみ。1日で何が出来るのか、よく考えて行動してみてはどうだろうか。
シナリオ傾向 フリーアタック:6(5段階評価)
参加PC キョー・クール
倉重・夕
気になるあのことそんなこと【SIDE T−2】
●それが僕の使命だから
(僕には……やらねばならないことがある!)
 きりっと表情を引き締め、キョー・クールは久々に警察学校へ足を踏み入れていた。
 4月になれば新しい警察官の卵たちが入ってくる。そのことを踏まえて、キョーは今日警察学校へやってきたのだろうか。
「昔の人も言っていた……」
 玄関先でぼそっと口を開くキョー。
「セクハラの種は早いうちに撒いておけ……と!」
 やらねばならないことって、そっちなんですかぁぁぁぁぁぁっ!?

●物思う、2人
 同じ頃、警察学校へ向けて歩いていた2人の女性の姿があった。そう、女性2人だ。例えその2人のうちの背丈低い方が男子小学生にしか見えなくとも、GDHPの男性用制服に身を包んでいようとも、れっきとした成人女性である! だから、歩いているのは誰が何と言おうと女性2人だ!!
 それはともかくとして――背丈高い方(といっても160センチちょいだが)の女性は、有名なお菓子屋の紙袋を手に提げていた。中にはもちろん菓子折りが入っている。
「足りるかな?」
 ちらっと紙袋の中に目をやり、背丈高い方の女性――氷室るうことるるは言った。
「うーん、あんまりたくさん持っていってもあれだと思うしね」
 と答えるのは、男子小学生に見える女性――倉重夕。ちなみに夕とるるは魔皇と逢魔という関係だ、一応。
 さて、2人が何故警察学校へ向かっているのか。それは去年のこと、女優業を営むるるがドラマの役作りのために警察学校に協力をしてもらったからである。実際にるるは講義や訓練に参加したのだ。
 そしてそのドラマもクランクアップし、報告とお礼を兼ねて警察学校を訪れようというのである。夕はそんなるるの付き添いであった。
 が、クランクアップはしたものの、無事にかと問われるとそういう訳でもなくて……。
「……やっているうちに、結構、シナリオ変わっちゃったな」
 撮影中のことを思い出し、ぽつりつぶやくるる。表情が、曇る。
 仕上がったフィルムは、当初のシナリオからだいぶ離れていた。いやいや、検閲なんてものはない。ただ……どこからか『お願い』が何度か会社の上の方などにあったようだ。
 それをメディア規制だとか、情報操作などと呼ぶのは各人に任せよう。ただ確実に言えることは、現実としてパトモスは戦争中であり、いつの時代であっても多かれ少なかれ似たようなことはあるということだ。
 そんなるるの横顔を見つめ、夕の表情もやや険しくなる。
 るるは役者として、この国の事情を感じ取っていた。その世界に生きるがゆえ、否応なしに。一方の夕も、警察という立場に居るからこそ感じ取ることがあった――この国のきな臭さを。
 けれども、夕はこう思っていた。それでも『正義の戦争よりずっといい』と。
 やがて警察学校が、近くに見えてきていた。2人は玄関へ向かって歩いていった。

●皆が楽しい、僕も楽しい
「新年度の訓練に向けて、提案事項があると伺いましたが。キョー・クール教官?」
 応対した警察学校の職員が、キョーへそう尋ねた。
「その通り。予定が固まる前に、ぜひとも伝えたい授業があって。これはぜひ、入れておきたい」
 ふっ、と笑みを浮かべるキョー。
「はあ……何かお考えがあるようですね。どうぞ、お話しください。予算も増えてますし、少々のことなら可能だと思いますよ」
 職員は興味津々といった様子でキョーの言葉を待った。
「それは夏……」
「ははあ、夏?」
 職員はそれだけを聞いて、炎天下での訓練をさせるつもりなのだろうかと考えた。ところが、キョーの口から出た言葉はその想像からだいぶ離れていた。
「夏の臨海学校!」
「は?」
 きょとんとなる職員。そりゃそうだろう、突然臨海学校と言われてもあれだ、困ってしまう訳で。
「あ、あの……どういう意図がおありなんでしょうか……?」
 ほら、職員が戸惑っている。だがキョーは当たり前のように話してゆく。
「普通の授業ばかりもよいけれど、太陽の下でのんびり息抜きをしつつ生徒同志の結束を高める、そんな要素も必要さ」
「……分からないではないですが、その」
「それに」
 職員が何か言おうとするのをキョーは遮って話し続ける。
「普段とは異なる場所での団体行動の基礎訓練にもなる。砂浜、岩場、そして水場。普段の訓練では、そうそう行かない場所さ。また海難救助の必要性も増している現在、臨海学校は有効な手段では?」
「は、はあ……なるほど……。そう言われてみれば確かに……」
 唸る職員。キョーの言うことももっともだ。警察官となった以上、どこで働くことになるか分からない。都市部でなく山の方になるかもしれないし、海辺で勤務する必要だってあるやもしれない。
 しかし、キョーには口にしていないもう1つの理由があった。
(……何よりも、引率の名の下に、浜辺で女生徒たちの水着姿を鑑賞出来る好機が作れるからね。僕の理論は完璧さ)
 やっぱりそれですかい、キョーさん。で、なるべくなら水着は露出が激しい物の方がいいんですよね?
「分かりました。ご提案、きっちり上の者に伝えさせていただきます。では、新年度からもどうぞよろしくお願いいたします」
 キョーの相変わらずな邪な考えなど知らない職員は、そのようにキョーへ伝えた。
「ええ、こちらこそ」
 そう答え、キョーはふふっと笑みを浮かべた。
 警察学校での用事はこれで終わり。この後は、卒業生たち(もちろん女子だけだ)の陣中見舞いに向かうつもりであった。無論、アドバイスしながらあれこれと堪能出来ることはやろうかと思っていた。例えば、どさくさ紛れの抱擁とか――。

●夕を倒すにゃ刃物は要らぬ、言葉1つあればよい
 夕とるるは重い空気をまとったまま、警察学校の中へ足を踏み入れていた。ひんやりとした廊下を並んで歩いていると、遠くに居た訓練生の男が1人駆け寄ってきた。時期的に考えて、恐らくは再訓練を命じられた警察官ではないだろうか。
「あ、あのっ!」
 訓練生の男が声をかけたのはるるの方であった。
「ひ……氷室るうさんですよね?」
「はい、そうですけど」
 問いかけに静かに答えるるる。
「ああやっぱりそうだ! お、俺ファンなんです!! 握手してください!! よ、よかったらサインもお願いします!!」
 深々と頭を下げ、訓練生の男がるるにお願いする。こういうことは、るるにしてみればよくあることだ。
 と、ここに至ってようやく訓練生の男は夕の存在に気付いたらしく、ちらりと視線を向けてるるにこう尋ねた。
「お隣は弟さんですか? 可愛いですね。あ、この制服ってことはGDHPの?」
 次の瞬間、夕は壁と親友になっていた。壁にぴったりと張り付き、ドンドンとこぶしを打ち付ける夕の姿があったのだ。るるはといえば、苦笑するしかない訳で。
 いやまあ、繰り返しになるけれども、着ている制服は男性の物だし、男に間違われるのも百歩譲って仕方ないとしよう。しかし、何よりも夕に堪えたのは……『弟さんですか?』という一言であった。
「ち……ちくしょぉぉぉーーーーーー!!!」
 そして夕は、泣きながら走り去ってしまった。さすが、未だにお酒買う時に身分証の提示を求められてしまう哀れな22歳。見事な走り去り振りである。
「くす。……相変わらず、ね。夕」
 夕の走り去った方向を見つめるるる。その表情からは、先程までの曇りは消え去っていた。
「……いやさ、人間は外見じゃないんだ、中身だよ、ハートだよ!!」
 一方の夕は、走り去る途中で見付けたブロンズ像が物言わぬのをいいことに、肩をがたがた揺さぶって激情のままに愚痴を漏らしていた。
「それを分からない者が多いでありますっ、サー! 胸の大きさが、戦力の決定的違いではないんだよぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」
 ああ……夕、涙の叫び。

●キョーさんチェーック!!
 さて。しばらくして、報告とお礼を済ませたるるが部屋から出てくると、そこには女装した……もとい、女性としてしっかりめかしこんだ夕の姿があった。警察学校の更衣室を借りて、化粧したり着替えたりしたのだ。
「夕。何してるの」
 とりあえず、るるの口から出た言葉はそれであった。多少呆れが混じっているというか、またなのかという感情が入っているというか、何というか。
「……何でもない……」
 そう夕は言うが、明らかに『何でもある』状態だ。よっぽど自尊心が傷付けられたのであろう。
 そんな時だった、階段を降りてきたキョーが姿を現したのは。夕の目が、キラーンと光ったような気がした。
(チャーンス! キョー・クールが居る! 女性的なら何か仕掛けてくるに違いない……!)
 キョーは夕がセクハラ容疑をかけている相手である。隙あらば現行犯逮捕してやろうと考えているのだが……もし今、これで夕がセクハラされたなら、女性度が高いという証明になるではないか。まさに一石二鳥である。
 そうこうしているうちに、キョーが夕たちの方へと歩いてくる。夕はどきどきしながら、その瞬間を待った。
「あ……」
 キョーの口が開かれる。
(来たーーーーーーーっ!!!)
 まさに今がその瞬間だと夕は思った。思ったのだけれど――。
「あ……君! 君確か、ドラマに出ている氷室るうさんじゃ――」
「そっちなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
 残念! キョーは先にるるへ声をかけてしまった!!
「ち……ちくしょぉぉぉーーーーーー!!!」
 かくして夕は、再び泣きながら走り去るはめになったのであった。どっとはらい。

【了】