■あぶれる刑事 ―急転―■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
「ここ……だよな、タク?」
「ああ、ユーリ。タレコミの住所はここで間違いないな」
 8月某日のことだ。GDHP刑事・ユーリこと木下有理と、同じくGDHPの刑事・タクこと拓山良樹の姿は、ビルシャス某所のとある6階建てのマンションの前にあった。人呼んで『あぶれる刑事』のこの2人、どうしてこんな所に居るのかといえば……。
「にしても、女からのタレコミかあ」
 ユーリがニヤリと笑いながらつぶやいた。
「どうせ男に愛想をつかせたんだろ」
 クールに切り返すタク。それに対し、ユーリが右手の人差し指を顔の前で揺らしながら言い返す。
「チッチッチ、そいつは違うぜタク。きっとな、男に真っ当な道に戻ってほしい女が泣く泣くタレコミの電話かけてきたんだって」
「どっちでもいいさ」
 タクは素っ気なく答えると、マンションを見上げた。
「で……306か。真ん中だな」
「中途半端な位置だよなあ」
 やれやれといった様子でユーリが言った。
「オレら2人でも十分だけどさ、タク」
「ああ、俺たちだけでも十分だけどな、ユーリ」
 タクが頷き、ユーリと顔を見合わせた。
「「万一ってこともあるからな〜」」
 そして2人の声がはもった。
「今、減俸喰らうと辛いんだ」
「俺も、スーツの支払いが……」
 ……なかなかに、切実な理由があるようで。
 かくして2人は、人手を集めてからタレコミのあった部屋へ向かうのであった。
 ちなみにそのタレコミ内容とは、306号室に住んでいる男が銃を複数持っている、というものである――。
シナリオ傾向 捜査:5/陰謀:1(5段階評価)
参加PC タスク・ディル
あぶれる刑事 ―急転―
●少数精鋭と言えば聞こえはいいが
「お、来たぜタク」
「やれやれ……ようやくか」
 近付く人影に気付いた木下有理――ユーリが声をかけると相棒の拓山良樹、タクが大きく背伸びをした。
「え、これだけ?」
 現れた人影――タスク・ディルが2人の姿を見て、おやといった様子でつぶやいた。確か連絡を受けた時に、あちこちに連絡取ってると聞いていたのだが……?
「皆、デートだ何だで忙しいらしくてな」
 タクがタスクに答えた。
「あーあ、オレもデートしてくりゃよかったぜ」
「相手居るの?」
 やれやれといった様子で言ったユーリにしれっと突っ込みを入れるタスク。するとユーリは無言で明後日の方を向いてしまった。
「昨日もすっぽかされたんだろ、ユーリ?」
 そこへタクがさらに追い打ちをかける。
「……人はオレを振られのユーリと呼ぶ」
 ユーリが自嘲気味につぶやいた。どうやらここ最近、恋愛方面の成績は芳しくないようで。
「ま、そんなことより。僕を呼んだのはあれでしょ、情報源が不明確な以上、下手に動きたくないって所かな」
 ユーリをいじめるのに飽きたか、タクへ向き直りタスクが尋ねた。
「当たり。タレコミのあった部屋に、男が1人住んでるのは本当らしいけどな。な、ユーリ?」
 ユーリを指差し答えるタク。タスクが来るまでに、少しは2人で調べてみたようである。
「聞かせてよ、これまでに分かったこと」
 タスクが突っ込んで話を聞こうとした。それに答えたのはユーリである。
「管理人に聞いてみたんだけどな。306号室に住んでるのはタクが言ったように、男が1人。名前は前田正一、半年ほど前に越してきて、見た感じ20代半ばとのこと。中肉中背で黒髪長髪と。仕事は……フリーライターとか言ってるらしいが、本当かどうかは分からないな」
「ふうん。一応、平日の昼間に自宅に居たり、妙な時間に出かけたりしても、名目が立つ職業だね」
 ユーリの話を聞いてタスクが言った。確かにフリーライターの生活は不規則な者が多いし、それを聞けば近所の者も一応納得はするだろう。
「で、今は留守だ。朝に出かけたきりらしい。まあ帰ってきたら、管理人から連絡はもらえる手筈にしてあるけどな」
 そうタクが言うように、残念ながら前田は今留守である。
「オレたちが来てることの口止めもばっちりだぜ」
 ユーリが右手の親指をぐっと立てて言った。
「……近所で何か事件とかは起こってないの?」
 ゆっくりと周囲を見回し尋ねるタスク。誰かがやってくる気配はなかった。
「ビルシャス署に問い合わせたら、この半年以内に周辺半径1キロ内に痴漢が2件。どっちも逮捕済みで、どうやら前田に関係なし……だそうだ」
 タクはそう答えると、マンションの方に目をやった。今3人が居る場所からは306号室は見ることは出来ない。側面にある別のマンションからなら、ベランダに面した窓は見ることは出来るようだが。
「そうなると、聞き込みの継続と、張り込みかなあ……。下手したら長期戦だね」
 思案顔でタスクが言った。

●犯罪の影に女あり
 まだ前田に関する情報が少ないこともあり、聞き込みを並行させながら張り込みを行うことにした3人。ユーリが前田と同じ階の住人に聞き込みを、タクは正面入口付近が見える場所で張り込みを、そしてタスクは側面にある別のマンションの屋上から306号室の様子を窺うこととなった。
 別のマンションの屋上へ向かったタスクは、タクから借り受けたオペラグラスで306号室の窓を見てみた。もちろん、こちらの姿があることがばれないように身を低く伏せてだ。
(……カーテンが閉じてて見えないなあ……)
 残念ながら306号室の窓は厚いカーテンに覆われていて、中の様子を窺うことは出来なかった。
 タスクがそんなことをしている間に、ユーリは隣近所への聞き込みを進めていた。その結果、新たに1つの事実が判明する。どうも、306号室に女が1人出入りしていたそうなのだ。
「どんな女か……顔とか覚えてます?」
 ユーリが近所の住人に尋ねると、
「ごめんなさい、後ろ姿しか見てなかったから。でもあれよ、金髪で……長い髪だったわ。そうそう、小柄な人だったわ。ええと160……はなかったかも」
 という答えが返ってきた。
「小柄で金髪の女……ですか」
 そうつぶやきながら、ユーリはふむふむと頷いた。
 そして聞き込みを終えたユーリがタクと合流した。
「タク、女だ」
 第一声、タクに向かってユーリが言った。
「俺は男だぜ?」
「違う。奴に女の影があった」
「……タレコミの女か?」
「かもな」
 タクの言葉に頷くユーリ。前田の部屋に出入りする女が居たらしいのはどうやら確か。となれば、タレコミの主がその女だと考えるのが自然であろう。
 その時、マンションに男が1人入っていった。それから間もなく、タクの所へ連絡が来る。マンションの管理人からだ。
「奴が帰ってきたそうだ」
「さっきの男か!」
 ユーリがはっとした様子で言った。タイミング的には間違いないはずだ。
 このことはすぐにタスクへも連絡された。ユーリからの電話を受けながら、身を潜めてじっと306号室の窓を見ているタスク。直後、カーテンが開けられて1人の男の姿が目に飛び込んできた。
「男が1人居る。特徴は……」
 タスクが男の特徴を伝えると、ユーリからそれが前田だと答えが返ってきた。これで306号室に前田が在室していることは確定だ。
「ん? ちょっと待って。何か……出してるみたいだね」
 タスクの目には机の前に立つ前田の姿が見えていた。前田は机の引き出しを開けると、ある物を取り出した――黒光りする拳銃らしき物だ。種類まではさすがに分からないけれども。
「……拳銃だよ。机の中に確実に1つは入ってる」
 何たる幸運、タスクは前田の拳銃所持の現場を目にしたのだった。
「よし上出来。そっちはそのまま監視を続けてくれよ。オレたちはさっそく乗り込んでくるから」
「分かったよ。応援呼んでおくから、逃げられないようにね」
 ユーリの言葉にタスクはそう返した。まあ逃げるとしたら入口の他はベランダしかないのだから、タスクにこの場で監視を続けさせるのは当然のことであろう。
 そして5分後――タスクが目にした光景は、タクとユーリに逮捕される前田の姿であった。

●拳銃以上の爆弾
「拳銃はあった?」
 前田逮捕後、タスクはすぐに306号室へ向かった。応援が到着するまでには早くてまだ数分はかかるだろう。それまでに、見ておける物は見ておこうと思ったのである。
「あった、あった。机に1丁、本棚に2丁、クローゼットにも1丁と合わせて4丁。豊作だど」
 おどけた調子で答えるユーリ。ともあれ動かぬ証拠が出てきたのだから、これにて一件落着……するはずであった。
 だがしかし、ただ1人封筒を手にしたタクだけが強張った表情を浮かべていた。正確には、封筒の中身を見て、だ。
「どったのよ、タク?」
 奇妙に思ったユーリが声をかけると、タクは封筒を掲げてこう言った。
「……とんでもない物が出てきたぜ」
 それを聞いて、タスクとユーリはタクのそばへ行き、封筒の中身を見てみることにした。
「えっと何々、新東京におけるクー……。え?」
 一番上にあった書類に記された文字を何気なく読んでいたタスクは、思わず我が目を疑った。
「クーデター計画ぅ!?」
 素頓狂なユーリの声が室内に響き渡った。
「これを見ろよ」
 タクは書類の中から1枚を引き抜き、改めてタスクとユーリに見せた。そこにはあれこれ文章が書かれていて、一番下にサインが1つ入っていた。
 そこに記された名前は黒山三郎。パトモス国議会の人類派議員にして、魔属に対する規制強化の強硬派代表格である――。

【了】