■警察学校の1日 ―贈る言葉―■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 高原恵
オープニング
 新東京、神魔人学園――トリニティカレッジとも言われるそこは、様々な学校が集約した巨大学園である。初等部・中等部・高等部・大学部など普通の学校があるのは当然のこと、他にも神魔技術工科大学やパトモス軍学校などといった少し特殊な学校もある。
 その特殊な学校の1つに、警察学校も含まれている。
 警察学校では法学や逮捕術、実際の勤務についてなど、警察官として必要な学習が行われており、入学には高卒以上に相当する学力が必要である。そして卒業後は、GDHPや通常の警察に勤務することになるのだ。
 もっともこれは警察官の卵たちについての話。中には警察官であっても、何らかの理由で再訓練を命じられてやってくる者も居るとか居ないとか。
 今年ももう終わろうとする大晦日。この日は警察学校の卒業式が行われていた。今期の訓練生たちも、新年となる明日よりいよいよ各警察署へ配属されるのだ。これからは訓練などではなく、現場へと飛び出すことになる訳だ。訓練生たちは不安と期待の入り混じった想いに包まれていた。
 そんな卒業式も無事に終わり、訓練生たちは教室へ戻ってきた。これより教官たちより、今期訓練生へ向けて最後の言葉が贈られることになっていた。訓練生たちは静かにその時を待っている。
 さて、どのような言葉が訓練生たちへ贈られるのであろうか――。
シナリオ傾向 助言:5(5段階評価)
参加PC ヤスノリ・ミドリカワ
警察学校の1日 ―贈る言葉―
●贈る言葉
 訓練生たちが静かに待つ教室。静かにといっても全く物音がしていないという訳ではない。多少の会話はある、といった感じだ。安堵感と不安感の入り混じった空気が教室には漂っていた。
 そんな教室も、扉が開かれた瞬間に会話も止んでしんと静まり返る。教官がやってきたからだ。訓練生たちの視線が一点に集中する。
 現れたのはヤスノリ・ミドリカワ――今日は訓練生たちの卒業式、式典ゆえか第一種礼装に身を包み、そして腰には儀礼刀といういわゆる自衛官の完璧な式典用装備であった。その胸にあるのは一等絢舞名誉勲章、『絢爛舞踏ヤスノリ』という異名はやはり実力に裏付けされたものであるということか。
 教壇に立ったヤスノリは、ゆっくりと確かめるように訓練生たちの顔を見回した。誰も彼もが晴れ晴れとした顔をしていた。中には一部疲労感の漂う訓練生たちも居たが、さて何をしてきたのやら。ちなみに疲労感漂う者はいずれも成績優秀な者であった。
(いい表情をしている……)
 この訓練生たちの入学が4月だから、今日まで9ヶ月間。数々の授業や訓練を経てこのような表情になった訳だ。そして1人の脱落者も出すことなく今日の日を迎えることが出来たのは、警察学校としてはとても喜ばしいことであった。
「さて」
 ようやく訓練生たちに向けて口を開くヤスノリ。訓練生たちは黙って視線をヤスノリに向け、続く言葉のために耳を傾けた。
「君たちは栄光あるパトモスの警察官となった。今日あいにくこの場に居ない教官たちの分も合わせて述べさせてもらおう……おめでとう」
 大晦日という1年でも非常に忙しい日、やはり時間の都合がつけられず出席出来なかったり、式に顔だけ出してすぐに帰らなければならない者が居るのも仕方のないことだろう。
 それはそれとして、『おめでとう』と言っている割にはヤスノリの表情は固い。笑顔の1つでも出て不思議ではない日だが……と思っていたら、ヤスノリはこう言葉を続けた。
「だがそれは、喜ばしいことではない」
 訓練生たちは一瞬耳を疑った。声こそ出さないが、ちらほら顔を見合わせている者たちも見られた。何故喜ばしいことではないのだろうか。その疑問は、さらに続いた言葉によって解消された。
「何故なら君たちの活躍は犯罪が起きた証拠。必ず誰かの悲しみ、苦しみがあって初めて警察として行動するのだから」
 ――それは昔から言われてきたことである。一部の部署を除いて、警察という所は何か事が起こってからしか動くことが出来ない。ゆえにヤスノリが言ったように、警察が動いた時にはもう何らかの負の要素・感情が生まれてしまっているということだ。ある種のジレンマである。
「かつて――吉田茂首相は言った」
 不意に、ヤスノリは思い返すように言葉を発した。思い返すといっても年齢を考えればリアルタイムで聞いたはずがないのだから、ヤスノリ自身が以前に何かの際に伝えられた言葉であるのだろう。
「君たちは自衛隊在職中国民から感謝されたり歓迎されることなく、自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生で終わるかもしれない。ご苦労だと思う。言葉を言い換えれば君たちが日陰者である時の方が国民や日本は幸せなのだ。どうか耐えてほしいと」
 ヤスノリが何を言わんとしているか、分かったような気がする。自衛隊と警察という違いはあるが、根っことしては同じだろう。どちらも日陰者、すなわち目立つ活動のない時は世は平穏であるということなのだから。
「極端に言えば警察が税金泥棒として批判されてもいい、平和な世界を作ることが君らの職務だが、職務に耐えれぬ時は守りたい物、今日まで耐えてきた訓練のことを思え!」
 改めて訓練生たちを見回してヤスノリは言った。
「お前たちはやり遂げた! 実戦経験は乏しいが、今現在やれる所はやった! 今、この時をもって君たちは警察官だ! 自らに誇りを持て!」
 右手のこぶしをぎゅっと握り、熱弁を振るうヤスノリ。そんなヤスノリに訓練生たちは熱い視線を向けていた。
「後は怯えず職務に励み、好奇心を持って現場で技術を学べ! 君たちの一歩は必ず犯罪を減らすのだと信じ、君たちに私の知識、技量を与えてきたのだ!」
 そうでなければヤスノリが何度も警察学校へ足を運ぶはずがない。信じられぬと悟ったなら、早々に見切りをつけていてもおかしくはなかっただろう。
「最後になるが……見ての通り、私は旧自衛隊の流れを組んでいる」
 それゆえに当初訓練生のみならず警察学校側としても、戸惑いがあったことは否定しない。
「軍人だから警察にいい顔されないのは分かっている。だが――あえて言いたい」
 そこで一旦言葉を止め、すぅ……と息を吸い込んでから、最後に言うべき言葉を放った。
「国民を守るためには組織の垣根なんぞ打破すべきであると! 諸君らはそれが出来ると信ずる! ……以上」
 そこでヤスノリが言葉を終えると、突然訓練生の1人が言った。
「全員起立!」
 ざっと立ち上がる訓練生たち。
「教官、ありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!!!!!」」」」」
 訓練生たちはそう言うと、一斉にヤスノリに敬礼をした。
「うむ」
 ヤスノリは姿勢を正すと、こちらもきちっとした敬礼を返した。そして一瞬、ヤスノリの表情がほころんだ。

●配置
 かくして訓練生たちは晴れて警察官となり、各所へ配置されてゆく。多くはビルシャス署やセメベルン署などといった所轄への配置だが、中にはGDHPへすぐさま配置される者たちも居る。そういった者は訓練生として優秀だった者が多い。
 また聞く所によると、GDHP警備部警備第1課へ配置された者たちも居るらしい。詳細についてはまだ不明であるけれども。
 訓練生、いや新たなる警察官たちの未来に幸多からんことを――。

【了】