■大晦日、見えぬ敵■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 高原恵
オープニング
「お手隙の魔皇様方は居られませんか?」
 大晦日夜11時過ぎ――デビルズネットワークタワー・アスカロト。サーチャーの逢魔・魅阿は少し慌てた様子で魔皇たちに呼びかけていた。その声に、たまたまアスカロトに居た数少ない魔皇たちが集まってくる。
「大至急、お願いしたいことがあります。新東京より南方の海上にて、ネフィリムを目撃したという匿名の情報が飛び込んで参りました。ですが軍に問い合わせた所、レーダーでは確認されていないというのです。かといって放置する訳には参りません。魔皇様方、まもなく新年を迎えようという頃ですが、どうかご確認に向かってはいただけないでしょうか?」
 匿名の情報というのがどうも気になるが……だからといって、それが事実なら放ってはおけないことである。新東京の南方海上で目撃されたということは、新東京が標的である可能性は十分考えられる訳なのだし。
 ともあれ敵の有無がよく分からぬまま出撃しなければならないが、確かに敵が存在しているのであれば速やかに撃退しなければなるまい。新年早々に暗い顔など見たくはないのだから……。
「それでは魔皇様方、くれぐれもお気を付けて……行ってらっしゃいませ。無事新たなる年を迎えましょう」
 魅阿が深々と頭を下げた。
 何が待っているか分かったものじゃない。慎重にゆこうじゃないか。
シナリオ傾向 殲騎戦闘:5/陰謀:3(5段階評価)
参加PC 彩門・和意
風祭・烈
月村・心
星崎・研
佐嶋・真樹
大晦日、見えぬ敵
●一路南下
 除夜の鐘を聞きながらの出撃というのは、何とも言えない気持ちになってくる。今年もいよいよ締めくくられようとする時にまだ戦闘が行われるかと思うとちょっとあれだし、はたまた新たなる年を生きて迎えることがで切るのだろうかと不安にならない気持ちが0であるとも言えず。
 いや……生きて新たな年を迎えるのだ。そのつもりで出撃してゆくのだから。だけれども、この時点で得られている情報はあまりに少なかった。それはやはり、慌ただしく出撃しなければならなかったことも影響している。
「ネフィリムの未確認情報か……」
 殲騎・ガルーダに逢魔・ノルンとともに搭乗していた月村心は思案げにつぶやいた。そのつぶやきは風祭烈が借り受けてきた通信機を通じ、味方の殲騎5騎全てに聞こえている。
「レーダーに引っかからなかったという所だから……でまかせか、またはステルス機能でもついてるんだろうか?」
 そのように連想するのは何も心だけではなかった。
「……匿名での情報、レーダーで確認出来ないネフィリム。あるいは……『目撃させる』のが、目的かもしれない」
 こう言ってきたのは先行して殲騎・暁を駆る佐嶋真樹。その口調はとうてい3歳の女の子のものとは思えない。何しろ出撃時、イレーザーナイツ仕様殲騎という特殊性ゆえに手間取っていた星崎研に対して『……初詣にでも行くつもりか?』と冷ややかな目で言い放っていたことからも窺える。待機中のアスカロトにて眠りから目が覚めた際の可愛らしい口調とはまるで異なっていたのだから、それもまた驚きとなっていた。
 まあ年齢などは関係ない。現在求められるのは能力であるのだから。
「『目撃させる』のが目的だって? 何のために」
 聞き返す心。
「さあな。『何を』『誰が』我々に目撃させたいのかは、行ってみなければ分からないが」
 しれっと答える真樹。が、すぐに私見を口にする。
「……単純にステルス性の高いネフィリムとも考えられる。どちらにせよ、情報に不明瞭な点が多い」
 眠気の名残りがあるのか目をこすりつつ、やれやれといった様子で真樹は言った。情報不足というのは本当に厄介である。
(情報通りにネフィリムが居る可能性は低いかもな……)
 心に対してああ言いつつも、心の中では情報の信頼性を鑑みて『居ない』可能性も真樹は視野に入れていた。
「全くだ。その上、本当に相手の意図が読めん……おかげでやりにくいな、全く……」
 愚痴る心。心や真樹が考えるように、ステルス性の高いネフィリムならば神帝軍が何らかの行動を起こそうとしていると推測するのが間違いないだろう。しかしガセネタだったら、何のためにそうしているのかが分からない。
 仮に、裏をかいて直接新東京で何か事を起こそうとしていたとしても、それならそれで対処されることには間違いない。それこそ警察、パトモス軍、ミチザネ特務軍、その他魔皇たちなどが居る訳なのだから。
(しかし、もし居るとしていったい何が目的なんだ? 単なる脅し? 実戦テスト? ……それとも何か別の目的があってだ?)
 心は黙り込み考える。もしや自分たちは、何らかの罠にかけられようとしているのではないのか……?
 そんな時だった。通信機から逢魔・エメラルダとともに殲騎・ドリルカイザーを駆る烈の声が聞こえてきたのは。
「心当たり、なくもない……な」
 思考を中断し、心は烈の言葉に耳を傾けた。
「以前の神帝軍の通商破壊や、麻薬密売のために何者かが動いているとも考えられるが……」
「ああ、あれか」
 烈とともに自分も出撃していたから、心もそれは覚えていた。あれは効果があったらしく、それ以降の同海域での交易船の被害の話は聞き及んでいなかった。
「あくまで可能性の1つだ。確かなことはさっぱり分からないしな」
 言葉とともに烈の溜息が伝わってきそうだった。結局そこへ戻ってしまうのである。
「まぁ、見付けたら倒すまで、か」
「だな」
 心の言葉に烈が同意した。

●追う者、迂回する者
 さて、先行する真樹に心や烈が続く状況で、一番最後遅れて追いかけている騎体があった。研が逢魔・貴沙羅とともに搭乗する殲騎・モーントリヒトテンツァーである。
「遅れてしまいました……早く追い付かないと」
 焦りの言葉を口にする研。しかし見た感じでは焦っているように見受けられない。こういう時こそ焦りは禁物だと分かっているからだろうか。
 まあ遅れてしまったのには当然理由がある。先述の通り、研の殲騎はイレーザーナイツ仕様殲騎だ。別の言い方をすれば研がイレーザーナイツ隊員であるということに他ならないのだが……それゆえの困った点というものがある。その特殊性ゆえ、殲騎が出しっ放しになるということだ。つまり、殲騎のある場所へまずは向かわないといけない訳で……。
「そりゃあ遅れるよね〜」
 貴沙羅が研に向かって言う。気のせいか、言葉にとげがあるようなないような。
「せっかく年越しそば用意したのに、大晦日まで戦闘だなんて〜」
 ……なるほど、それでちとご機嫌斜めですか、貴沙羅さん。
「帰ってから美味しく食べましょう」
 と、とりあえず今の研はそう言うのが精一杯だった。
 しかし出撃こそ最後になってしまったが、背中の鴉型魔獣殻・ナハトクレーエのおかげで飛行速度が向上しており先行する3騎との距離は次第に縮まってきていた。
 ……おや、3騎? 確か全部で5騎出撃しているはずではなかったか? 先行する3騎、そして研の1騎、合わせて4騎。もう1騎はどこへ行ったのか?
 残る1騎は、少々異なるコースを取っていた。
「和意様。この辺りには居ないようですわね」
「じゃあ、もう少し先でしょうかね……」
 そんな会話を交わしているのは逢魔・鈴と彩門和意である。残る1騎の殲騎・二重の虹の中でのことだ。
 和意たちの駆る二重の虹は、他の4騎みたく東京湾を経由してそのまま南下……はせず、相模灘方面へ向かったのだった。
(……新東京が標的ならば、ネフィリム1体だけとは考えづらいですからね)
 その考えが和意を相模灘方面に向かわせたのだ。けれども今の所はネフィリムらしき物は見当たらない。もうしばらくはこの辺りを調べるつもりなので、他の4騎との合流は後になることだろう。
 この1騎だけ外れていた行動が、後々に効を奏することとなるとは、この時点では誰も思っていなかった――。

●待ち受けていた敵は
 報告のあった海域付近まで南下急行していた暁、ドリルカイザー、ガルーダの殲騎3騎。そこに敵が居たか否かと問われると……答えは『居た』である。しかしそこに居た敵はネフィリムではなく……神帝軍にあらず。
 3騎を待ち受けていたのは、黒の騎体と白の騎体。3騎と同じく――殲騎であった。
 味方でないのは一目瞭然だった。3騎を視野に入れると、相手から襲いかかってきたのだから……。
「罠だったか!!」
 思わず叫ぶ心。罠の可能性は考えていたものの……まさかこういう形の罠であったとは。だが神帝軍が仕掛けた罠ではない。考えられるはパトモスに敵対するもう1つの勢力――北海道『日本国』の魔属たちによる罠。
「こちら『魔姫』。アスカロト、聞こえるか? ……罠だ。ネフィリムじゃない、殲騎が2騎、黒と白。急いで情報提供者を洗え。きっと仲間だ。でなければ、こうもタイミングよく現れるはずがない」
 すぐさまアスカロトへ報告を送る真樹。匿名の情報提供者が敵の仲間であれば辻褄が合う。偽の情報でパトモスの魔属なり何なりを誘き寄せて、個別撃破しようとでも考えていたのだろう。わざわざ大晦日を狙ったのも、きっと作戦の一部なのだろう。
 そのうちに敵のペインブラッドが、ドリルカイザー目がけてヘルタースケイルを振り降ろそうとした。その直前、ドリルカイザーが半透明の霧のような衣をまとった。エメラルダが霧のヴェールを発動させたのだ。
「おおっと!」
 敵の攻撃をかわすべく動く烈。大鎌はほんの僅かにドリルカイザーの左腕をかすったが、ダメージなどないに等しかった。
「助かるぜ、エメラルダ」
「いえ……騎体のチェックは引き受けますから、戦闘に専念してください!」
 エメラルダは烈へそう告げた。
「足止め〜しますね〜」
 ガルーダの方ではノルンが黒き旋風にて、敵のピュアホワイトの動きを鈍らせようと試みた。ガルーダの方より吹き放たれた黒い靄が敵の白い騎体に絡み付いてゆく。
「行くぞ!」
 心はダークフォース・真音速剣を真フェニックスブレードに付与すると、敵のピュアホワイトに向かって攻撃を仕掛けた。短時間に20回ほどの剣を繰り出すガルーダ。全ての攻撃が確実に着実に敵の騎体へ叩き込まれてゆく。
「こっちも負けてられないな!」
 心の戦い振りを見て、烈も目の前の敵ペインブラッドへ攻撃を仕掛けてゆく。真ショルダーキャノンを放って一旦接敵状態を解き、十分な距離を取ってから真狼風旋を自らの騎体に付与し、真ドリルランスでランスチャージを行った。
「行くぞ、エメラルダ、迦楼羅、ドリルクラッシャァァァー!!」
 鳥型魔獣殻・迦楼羅を騎体へつけていたこともあって、速度は向上している。ドリルカイザーの繰り出した真ドリルランスは見事に敵騎体の胴体を貫いていた。
「お待たせしました!」
 ようやく合流を果たした研のモーントリヒトテンツァーが、両手に持った狙撃スコープ付6式神機小銃を敵ピュアホワイトへと3点バースト射撃を行った。狙い違わず頭部や左右の腕に徹甲弾を喰らわせる。
 真樹の暁も敵ペインブラッドへ扇状の紅い魔弾を放つ。真旋風弾だ。これもまた敵騎体の耐久力をしっかり削ってゆく。
 この時点で4対2、戦力差2倍。敵にとっては相手が悪かったとしか言い様がない。せっかく仕掛けた罠であったというのに、逆に自分たちが葬られる結果となってしまった――。

●予期せぬ、あるいは予期された登場
 敵殲騎を倒した4騎はほぼ無傷といってよかった。けれども、未だ警戒は解かない。まだ他に敵殲騎が残っているかもしれなかったからだ。
 その海域へ留まり、慎重に周囲の様子を窺う4騎。上空から近付いてくるのは状況を知って、相模灘方面から方向転換して急行していた和意たちの駆る二重の虹のみであった。
「戦闘は終わったようですわね、和意様」
 鈴が言うように、二重の虹がやってきたのは敵殲騎との戦闘終了直後のことであった。
「でも鈴さん。油断は出来ませんよ。ひょっとしたら海中に潜んでいるなんてことも……」
 と和意は言って、二重の虹を海中へ潜行させた。
 そうしてその、和意の『ひょっとして』が事実となった。
「敵発見!」
 和意からの連絡が他の4騎へ飛び込んできた。
「海中……皆さんの真下に2騎! 殲騎じゃありません、ネフィリムです!! 海の底の方から急上昇してきてます!!」
 ネフィリム!?
 ちょっと待て、それは先程の敵のガセネタ……罠ではなかったのか!? ネフィリムなんて今回本当は居ないんじゃなかったのか!?
 そんな疑問に答えを出すがごとく、海中より巨大なハンマーを手にしたネフィリム2騎が大きな水しぶきとともに飛び出してきた。ガルーダとモーントリヒトテンツァーの真下から――。
 完全に不意を突かれた形となり、2騎ともネフィリムの真下からの直撃を受け、さらに巨大ハンマーの一撃をも喰らってしまった。2度の強い衝撃が各々の騎体を襲った。
「きゃあ〜!!」
「わぁっ!?」
 思わず悲鳴を上げてしまうノルンと貴沙羅といった逢魔たち。さすがに心や研といった魔皇たちは声こそ出さなかったが、異なる方向からの2度の衝撃はさすがに……きた。騎体へのダメージも軽くはない。
 このような奇襲攻撃を行ってきたネフィリムたちは、余計な行動はせずに再び海中へと潜行してゆく。どうやらまた海中から味方殲騎を狙ってくるつもりのようだ。
「アスカロト、聞こえるか追加報告だ。……ネフィリムが居た。たった今、海中から2騎奇襲を仕掛けてきた。待て、こっちも状況が混乱している……詳しい話はまた後だ」
 『居ない』はずの敵が『居る』――アスカロトに連絡しながらも、真樹自身きちんと把握出来ていなかった。落ち着いて考えられる状況なら答えはやがて出てくるのだろうが、今すぐにはやはり出てこない。
「まさか……ネフィリムマリーネか?」
 眉をひそめる烈。あっという間のことだったのできちんと敵騎体を見た訳ではない。流線形ボディラインのように見えたが……それとは少し異なるようにも思える。第一、あの巨大なハンマーは何なのだ?
 だがしかし、ネフィリムマリーネであると仮定するならば迂闊に海中へ潜るのは少し躊躇われる。相手の得意なフィールドに、自分からのこのこと出向いてどうするのかという話である。
「また上がって来ます!」
 和意からの報告がまた届いた。一斉に警戒態勢を取る海上の4騎。次の瞬間、再び海中よりネフィリム2騎が現れた。
 1騎はまたしてもモーントリヒトテンツァーの真下から登場。そして暁の真下から現れたもう1騎には、何と和意の駆る二重の虹が背後から捕らえているではないか。
「同じ手は使わせませんよ!!」
 和意はそう叫ぶと、敵ネフィリムを捕まえたまま上昇してゆく。そのおかげで暁は直撃を避けることが出来た。
 一方、モーントリヒトテンツァーは再度の体当たりをネフィリムより受ける。衝撃が三度走ったその瞬間、敵騎体にも衝撃が走っていた。
「ただの殲騎とは思わないでください!」
 研がそう言うようにモーントリヒトテンツァーはただの殲騎ではない。何度も繰り返すようだがイレーザーナイツ仕様だ。つまり――シャイニングフォースも使用可能な殲騎。
 研は予見撃を使うことによって、後ろ腰につけた真テンタクラードリルによるカウンターの一撃を敵騎体にお見舞いしていたのである。
「離れろ!!」
 心が研に伝えると、モーントリヒトテンツァーは敵騎体から即座に離れた。次の瞬間、心の放った真ホルスジャベリンが敵騎体の頭部を貫いていた。
 残るはもう1騎の敵ネフィリム。二重の虹によって捕らえられていた敵騎体だが、何とか振り解いて脱出した瞬間、真燕貫閃を付与した暁の真グレートザンバーによって左腕を貫かれていた。
 そして間を置かず、前からは真ドリルランスによるドリルカイザーの攻撃、背後からは燕貫閃を付与したドリルランスによる二重の虹の攻撃を喰らうことになる。前後からのダブルランスチャージだ。
「貫け、そして……砕け散れ」
 烈はそうつぶやき、真ドリルランスの最後の一押しをした。これにて勝負あり――。

●疑問
 最初はガセネタと思われた今回の事件。しかし実際にネフィリムが現れたことから、敵魔属はその情報を事前に得ていたのかもしれない。その可能性は否定出来ないだろう。
 詳細は年明けの調査を待たれる……。

【了】